同じ方向に進む自転車が左折する車に巻き込まれた事故について、実務で参照される基準は、基本の過失割合を2つに分けています(この記事の割合は、すべて「自転車:自動車」の順です)。交差点の手前30mの地点で車が先行しており、合図を出して左折した場合は10:90、車が交差点の手前30m以内で自転車の追越し又は追抜きを終えて左折した場合は0:100です。衝突の瞬間に車が前にいたというだけでは、どちらに当たるかは決まりません。保険会社から割合を示されたら、回答や示談の前に、交差点の手前からの位置関係と、前提とされている事故類型を確かめてください。
左折巻き込み事故の基本の過失割合
被害者にも過失があったとき、裁判所はこれを考慮して損害賠償の額を定めることができます(民法第722条第2項)。もっとも、民法が左折巻き込み事故の割合を数字で定めているわけではありません。事故類型ごとの基本割合と修正要素を示す実務上の参考基準として、『民事交通訴訟における過失相殺率の認定基準〔全訂6版〕』(別冊判例タイムズ39号)があります(以下「認定基準」といいます。リンク先は出版社の書誌案内です)。認定基準は、特定の判決でも機械的な計算表でもなく、事故類型と個別の事情を検討するための目安です。
同じ方向に進む直進自転車と、左折する四輪車等(この記事では「車」又は「自動車」と書きます)との事故について、認定基準は次の2つの類型を示しています(430~431頁)。
| 事故状況 | 基本割合 (自転車:自動車) |
適用上の注意 |
|---|---|---|
| 車が先行して左折 (Ⅴ-55) |
10:90 | 交差点の手前30mの地点で車が自転車より先行しており、左折の合図を出して左折を始めた場合が前提です。 |
| 車が追い越して左折 (Ⅴ-56) |
0:100 | 車が交差点の手前30m以内の地点で自転車の追越し又は追抜きを終えて左折した場合に適用されます。 |
いずれも出発点となる割合であり、個別の事情に応じて修正されます。
車が先行して左折した場合
先行左折の基本割合は、自転車10:自動車90です。交差点の手前30mの地点で車がすでに先行しており、左折の合図を出して左折を始めた場合を想定しています(認定基準430~431頁)。この割合には、車側の左寄せが十分でないといった事情と、自転車側が軽い前方不注視によって合図を見落とすといった事情が、あらかじめ含まれています。
車が自転車の前に出たのが、交差点の手前30mの地点より交差点に近い場所であったときは、次の追越左折を検討します。
車が自転車を追い越して左折した場合
追越左折の基本割合は、自転車0:自動車100です。車が交差点の手前30m以内の地点で自転車の追越し又は追抜きを終えて左折した場合に、この類型が適用されます(認定基準431頁)。
確かめるのは、衝突の瞬間の前後関係だけではありません。交差点の手前30mの地点でどちらが先行していたか、車がどの地点で自転車を抜き終えたかが分かれ目です。
追越しや追抜きを終えた車は、自転車の前に出たうえで左折します。「衝突時に車が前にいたから先行左折である」という説明は、それだけでは根拠になりません。反対に、交差点から離れた場所で一度抜かれたというだけで、追越左折と決まるわけでもありません。
法律上の「追越し」は、車両が他の車両等に追い付いた場合に、進路を変えてその側方を通過し、前方に出ることをいいます(道路交通法第2条第1項第21号)。一方、認定基準は、追越しだけでなく「追抜き」も明示しています。「車線変更をしていないから追越左折に当たらない」という説明は正確ではありません。
なお、この30mは認定基準を当てはめるための条件です。追越しを禁止する場所を定める道路交通法第30条とは対象も例外も異なり、交差点の手前30m以内で自転車を追い越すこと自体が一律に禁止されている、という意味ではありません。
横断歩道や歩道からの横断は同じ割合とは限らない
ここまでの2つの割合は、同じ方向に進む直進自転車と左折する車の事故についてのものです。認定基準は、歩行者用信号又は「歩行者・自転車専用」と表示された信号と、車両用の信号がある交差点等について、別の類型(Ⅴ-71・72)を設けています(430頁)。対象は、次のいずれかの自転車(認定基準の表記は「普通自転車」)と、同じ方向又は対向方向から左折してきた車との事故です。
- 歩行者用信号のある横断歩道で横断を始めた自転車
- 「歩行者・自転車専用」の信号のある横断歩道、又はこれに隣接する自転車横断帯で横断を始めた自転車
自転車が歩道から交差点に入ったときや、横断歩道の上やその付近で衝突したときは、この記事の割合を当てはめる前に、自転車がどこを通行していたか、どの信号に従う場面で、その信号が何を表示していたかを確認してください。右折する車との事故、対向方向から進んできた自転車、左折しない車との側方接触、バイクが巻き込まれた事故、道路外の施設へ入るための左折、環状交差点での事故なども、この記事の割合をそのまま当てはめる対象ではありません。
左への寄せ方と合図で何が変わるか
基本割合からの修正は、自転車側の割合を何ポイント加えるか、又は減らすかという形で示されます。大切なのは、基本割合にすでに含まれている事情と、追加で考慮される事情を区別することです。
左寄せと大回り左折を区別する
左折する車は、あらかじめできる限り道路の左側端に寄り、できる限り左側端に沿って徐行しなければなりません(通行する部分が指定されているときは、その部分を通行します。道路交通法第34条第1項)。徐行とは、直ちに停止することができるような速度で進むことです(同法第2条第1項第20号)。
もっとも、通常の左寄せ不足は、基本割合に織り込まれています。左に寄り切れていなかったというだけで、直ちに自転車側がさらに10ポイント減るわけではありません。
これに対し、認定基準は「大回り左折・進入路鋭角」を、自転車側を10ポイント減らす方向の修正要素に挙げています。大回りに当たるかは、車が走行した軌跡や、後ろの自転車から左折を予測できたかなどから検討します。徐行しなかった場合や、すぐ後ろに迫る自転車を見落とし、又は認識しながら左折を強行した場合などは、車側の著しい過失・重過失として検討されます(認定基準430~432頁)。
ウインカーの有無だけでなく開始位置を確かめる
左折の合図は、交差点の手前の側端から30m手前の地点に達したときに始め、左折が終わるまで続けなければなりません(道路交通法第53条第1項・第3項、道路交通法施行令第21条第1項の表)。同じ方向に進みながら進路を左に変えるときの合図(進路を変える3秒前)とは別の定めです。
認定基準は、合図が遅れた場合は自転車側を5ポイント、合図がなかった場合は10ポイント減らすことを修正の目安としています(24頁・431頁)。両者はどちらか一方であり、合算はしません。合図が著しく遅れ、ほとんど意味をなさなかった場合は、合図がなかった場合に準じます。たとえば、先行左折で合図の遅れだけが認められると、自転車側は10から5ポイント減り、自転車5:自動車95になります。10の5%を差し引くという意味ではありません。割合が0を下回ることや、100を超えることもありません。
確かめるのは、合図の有無だけではありません。どの地点で合図が始まったか、その合図が自転車から見える位置関係であったか、気づいた時点で避けることができたかを確認します。左折のために左側端へ寄ろうとして合図をした車があるとき、その後方の車両は、速度や方向を急に変えなければならなくなる場合を除き、その進路の変更を妨げてはなりません(道路交通法第34条第6項)。後ろを走る自転車にも関わる定めですが、合図を出していれば左折車が常に優先される、という内容ではありません。
自転車側の著しい不注意も確認する
自転車であれば当然に過失がない、ということにはなりません。先行左折でも追越左折でも、自転車側に著しい過失や重過失があれば、自転車側に5~10ポイントを加える方向の修正があり得ます(認定基準57~59頁・431頁)。著しい前方不注視や、スマートフォンの画面を注視しながらの走行などが問題になります。基本割合が想定している軽い不注意とは区別し、事故との関係と不注意の程度を検討します。
修正要素は、並べて機械的に足し引きするものではありません。同じ事情を重ねて評価することはできず、ここに挙げたもの以外にも、自転車に乗っていた人が児童等や高齢者であることなどが検討の対象になります。夜間であること自体は、この2つの類型では独立した修正要素とされていませんが、無灯火などは別に評価されることがあります。
側方通過の規定との違い
令和8年(2026年)4月1日に施行された道路交通法第18条第3項・第4項は、自動車などが同じ方向に進む自転車等の右側を通過する際に十分な間隔がないときは、間隔に応じた安全な速度で進むこと、その場合に自転車等はできる限り道路の左側端に寄って通行することを定めています(警察庁「よくある質問|自転車ポータルサイト」)。法令上の追越しに当たる場合と、歩道や自転車道を通行する自転車等は、この規定の対象外です。追越しには、同法第28条第4項などによる安全に関する義務が別にあります。この規定は、左折巻き込み事故の基本割合を一律に変えるものではなく、施行前の事故にさかのぼって適用されるものでもありません。
追越しの順序を映像と接触部位から確かめる
先行左折か追越左折かを検討するには、衝突の瞬間だけでなく、交差点の手前30mの地点に差しかかる前から接触までの経過を確かめる必要があります。以下は、そのための実務上の整理です。
事故前から接触までを一つの時系列にする
次の事項を確かめ、起きた順に並べます。
- 交差点の手前30mの地点に差しかかる前から同地点まで、車と自転車のどちらが先行していたか
- 車が自転車を抜き始めた地点と、抜き終えた地点
- 左折の合図が始まった地点
- 車が左に寄った地点と、その寄り方
- 車が左折を始めた地点
- 接触した地点と、双方の接触部位
各項目は、映像などで確認できる事実、ご自身の記憶、推測に分けて書きます。相手方や保険会社の説明も同じように分けると、どこが食い違っているかが分かります。記憶を映像に合わせて書き換えることはしないでください。
| 確認したい事実 | 役立つ資料 | 資料の限界 |
|---|---|---|
| 30m手前の先後関係 抜き終えた地点 |
事故の前から記録されたドライブレコーダーや防犯カメラの映像、道路の実測情報、現場の図面 | 映像の時刻のずれ、遠近感、撮影範囲に注意します。衝突直前だけを切り取った映像で判断しないようにします。 |
| 合図の開始位置 認識できたか |
方向指示器が映っている映像、目撃者の説明など | 映像に灯火が映っていないことは、合図がなかったことと同じではありません。 |
| 左寄せ・大回り 速度 |
走行の軌跡、道路の端との位置関係、車体の向き、事故前後の連続した映像、現場写真、計測資料 | 裏付けのないまま、速度や距離を数値で言い切ることはできません。 |
証拠の集め方と整理の全体像は、自転車事故で過失割合を争うための証拠整理で説明しています。
接触部位だけでは追越し順序を断定できない
車の側面や後部などの損傷は、接触したときの相対的な位置や角度を検討する資料になります。しかし、損傷の部位だけでは、交差点の手前30mの地点での位置関係や、車が追越しを終えた地点は分かりません。
損傷は、最初の接触によるもの、巻き込まれている間に生じたもの、転倒した後に生じたものを区別します。そのうえで、車と自転車の双方の写真、現場の痕跡、映像、当事者の説明を突き合わせます。映像がなくても他の資料から検討することはできますが、主張が認められるとは限りません。
保険会社には類型と修正の根拠を確認する
保険会社には、次の点を個別に確認します。
- 採用している資料の版と、図の番号(事故類型)
- 交差点の手前30mの地点での先後関係と、車が自転車を抜き終えた地点についての認定
- 合図、左寄せ、徐行などについて前提としている事実
- 基本割合と、修正要素ごとの内訳
- それぞれの前提を裏付ける資料
提示された割合に納得できないというだけで、別の割合が認められるわけではありません。回答するときは、事実の認定についての意見と、修正要素の評価についての意見を分けます。保険会社の提示と裁判所の判断が同じになるとは限らず、民事上の過失割合は、刑事処分や行政処分とも別に判断されます。
警察の捜査で作成される実況見分調書などは、事故状況を確かめる資料になり得ます。ただし、作成されていない場合があるほか、入手できる時期や範囲にも制限があり、入手できるとは限りません。詳しくは実況見分調書などの刑事記録の取得方法と注意点をご覧ください。
相談前に準備したい資料と確認事項
資料がすべてそろうまで相談を待つ必要はありません。優先するのは、時間がたつと消えてしまう映像です。この記事は事故後の民事上の対応を対象としており、事故の直後は負傷者の救護と安全の確保が優先します。
- ドライブレコーダーの映像(上書きされる前に元のデータを保存し、確認には複製を使う)
- 周辺の防犯カメラの映像(日時と場所を特定して、管理者に保存を依頼する)
- 車と自転車の損傷や、現場の状況を写した写真
- 事故の日時と場所、相手方の説明、保険会社から示された過失割合とその理由
- ご自身の記憶を書き留めたメモ
第三者の映像は、保存を依頼できても、開示を受けられるとは限りません。保存される期間も一律ではありません。他人の機器への無断でのアクセス、敷地への無断での立入り、交通のある現場での危険な再現は避けてください。請求の期限が気になるときや、映像の保存期間が迫っているときは、資料の完備を待たずに個別に確認することをおすすめします。
交通事故のご相談について
事故の日時と場所、相手方の説明、提示された過失割合、映像の有無を、分かる範囲で整理のうえ、ご予約ください。資料を確認し、どの事故類型が問題になるか、どの資料で確かめるかを整理します。相談のご予約は、ご依頼をお受けすること(受任)とは別です。相談の方法や費用の条件は、案内ページでご確認ください。
事務所のご案内
このコラムは、弁護士法人ひょうご支所神戸みらい法律会計事務所(所属弁護士会:兵庫県弁護士会)が掲載しています。事務所は神戸市須磨区中落合にあり、名谷駅の近くです。
参考資料と情報基準日
情報基準日は、令和8年(2026年)10月10日(日本時間)です。法令は、同日時点でe-Gov法令検索に掲載されている条文を確認しています。事故には事故が起きた時点の法令が適用され、その後の法令改正や資料の改訂によって、記載の内容が変わることがあります。
- 菊池憲久・堂薗幹一郎・伊東智和編『民事交通訴訟における過失相殺率の認定基準〔全訂6版〕』別冊判例タイムズ39号(判例タイムズ社、2026年3月30日刊)22頁、24頁、45頁、57~59頁、430~432頁(Ⅴ-55、Ⅴ-56ほか)。リンク先は出版社による書誌・目次の案内で、本文の全文は掲載されていません。
- 道路交通法(昭和35年法律第105号)第2条第1項第20号・第21号、第18条第3項・第4項、第28条第4項、第30条、第34条第1項・第6項、第53条第1項・第3項(e-Gov法令検索)
- 道路交通法施行令(昭和35年政令第270号)第21条第1項の表(e-Gov法令検索)
- 民法(明治29年法律第89号)第722条第2項(e-Gov法令検索)
- 警察庁「よくある質問|自転車ポータルサイト」(「側方通過」の規定に関する項目)
この記事は一般的な情報の提供を目的としています。個別の事故についての結論は、事実関係と資料によって異なります。

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