排尿障害・排便障害の後遺障害|脊髄損傷・骨盤骨折後の等級と資料 |神戸市(須磨・垂水・西神・北神)の弁護士|初回相談無料|

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排尿障害・排便障害の後遺障害|脊髄損傷・骨盤骨折後の等級と資料

交通事故のあと、尿が出にくい、残尿感が続く、尿が漏れる、トイレが近い、便が出ない、便が漏れる、自分で管を入れて尿を出している、指で便をかき出している——。こうした症状は、家族にも医師にも打ち明けにくく、診療記録にも十分に書かれていないことがあります。

排尿・排便の障害は、外から見えにくい一方で、睡眠、外出、通勤、勤務、家事に広く影響します。後遺障害の等級評価でも、損害賠償の金額でも、見過ごすことのできない要素です。

このページでは、脊髄損傷、馬尾神経損傷、骨盤骨折などのあとに排尿・排便の障害が残った方とご家族に向けて、症状の整理のしかた、原因ごとに評価が変わる理由、後遺障害等級を検討する際の考え方、そろえておきたい医学資料と生活記録、損害賠償で問題になる項目、申請前・示談前に確認したいことを整理します。

なお、症状の原因や検査の要否、治療方針は医師が判断する事項です。発熱を伴う尿路感染が疑われる場合、急に尿が出なくなった場合、急激な頭痛・発汗・血圧上昇などが生じた場合は、法律相談より先に医療機関を受診してください。

後遺障害の申請や示談を控えている方は、泌尿器科等の診療記録、検査結果、排泄管理の記録、後遺障害診断書、保険会社から届いた書面をご用意いただければ、確認すべき論点を整理しやすくなります。

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排尿・排便障害の後遺障害で最初に確認したい結論

先に要点をまとめます。

  • 「神経因性膀胱」「膀胱直腸障害」といった診断名がついたことだけで、後遺障害の等級が決まるわけではありません。
  • 評価は、原因(どこが、どのように損傷されたか)、症状の内容(尿を出せないのか、ためられないのか、排便か)、管理方法(自己導尿、カテーテル、パッド、おむつ、用手摘便など)、検査結果、生活・就労上の支障を組み合わせて検討されます。
  • 脊髄損傷に伴って生じた排尿・排便障害は、脊髄の障害の等級に含めて評価されるのが原則です。もっとも、胸腹部臓器の障害としての等級のほうが重い場合には、総合評価によることとされています。
  • 残尿量、パッドの交換頻度、排便回数といった数値は認定基準上の重要な要素ですが、一回の測定値や自己申告だけで等級が決まるものではありません。
  • 示談の前に、後遺障害の申請を行うか、将来の治療費・排泄用品費・介護費を損害として整理できているかを確認してください。示談が成立すると、後から請求することが難しくなります。

個別の事案では、事故態様、損傷部位、治療経過、既往症、職業などにより結論が異なりますので、資料を確認したうえで判断する必要があります。

事故後の排尿・排便障害とは

排尿障害と蓄尿障害を分けて考えます

膀胱と尿道には、尿をためる働き(蓄尿)と、尿を出す働き(排尿・排出)の二つがあります。神経の損傷によってこれらの働きが損なわれた状態は、医学上「神経因性膀胱」「神経因性下部尿路機能障害」などと呼ばれます。この二つは、症状も、管理の方法も、後遺障害の評価の枠組みも異なります。

排尿障害と蓄尿障害の主な違い
区分 主な症状 主な管理方法
排尿(排出)障害 尿が出にくい、時間がかかる、残尿がある、尿が出ない(尿閉) 間欠的な自己導尿、尿道カテーテルや膀胱瘻カテーテルの留置、薬物療法など
蓄尿障害 尿が漏れる(尿失禁)、我慢できない、回数が多い(頻尿・夜間頻尿) パッド・おむつの使用、薬物療法など

なお、「神経因性膀胱」は排尿・蓄尿の機能に関する用語であり、排便の障害まで神経因性膀胱と呼ぶことはありません。排尿と排便の双方に障害がある状態を「膀胱直腸障害」と表現することがありますが、後遺障害の評価では、排尿・蓄尿・排便それぞれの症状を分けて整理する必要があります。

排便障害は、便秘と便失禁の双方が問題になります

脊髄や骨盤内の神経が損傷されると、腸の動きや肛門括約筋の働きが障害され、便が出ない状態(便秘)と、便が漏れる状態(便失禁)の双方が生じ得ます。国立障害者リハビリテーションセンターの資料では、直腸まで便が下りているのに排便反射が起こらない「直腸性便秘」と、腸の動きが全体に悪くなる「結腸性便秘」とが区別されています。

排便には、坐薬、浣腸、下剤、用手摘便(指で便をかき出すこと)、洗腸といった処置が必要になることがあり、同資料は「たとえ数日置きであっても、多くの症例で一回の排便に数時間を要する」場合があることを指摘しています。排便に要する時間そのものが、生活と就労に対する支障の実態を示す事情になります。

「後遺症」と自賠責上の「後遺障害」は同じではありません

症状が残っていること(後遺症)と、自動車損害賠償保障法施行令の別表に定める等級に該当すること(後遺障害)とは、別の問題です。後遺障害慰謝料や逸失利益の算定は、等級の有無によって大きく変わります。

原因によって後遺障害の評価が変わります

排尿・排便障害を一括りにせず、原因を分けて検討することが出発点になります。原因が異なれば、必要な検査も、参照される認定基準の項目も、相手方から想定される反論も変わります。

排尿・排便障害の主な原因と、評価上の着眼点
原因の類型 主な事故態様・傷病 評価上の主な着眼点
脊髄損傷・馬尾神経損傷に伴うもの 頸髄・胸髄・腰髄の損傷、第2腰椎以下の脊柱管内の馬尾神経の損傷 麻痺の範囲と程度、画像所見、介護の要否。排尿・排便障害は脊髄の障害の等級に含めて評価されるのが原則
骨盤骨折、仙骨・骨盤内の神経損傷に伴うもの 骨盤輪骨折、仙骨骨折、骨盤内の神経・神経叢の損傷 骨折の部位・型と神経損傷の対応、会陰部・肛門周囲の神経学的所見、発症時期
膀胱・尿道・直腸等の直接損傷や手術に伴うもの 膀胱損傷、尿道損傷、直腸・肛門括約筋の損傷、尿路変向術、人工肛門造設、尿道狭窄 手術記録、術式の内容、ストマやカテーテルの管理状況、術後の合併症
事故以外の原因が問題になるもの 前立腺疾患、糖尿病、加齢、服薬、既往の手術、慢性的な便秘など 事故前の状態、症状の出現時期と連続性、他の原因の有無に関する医師の判断

骨盤を骨折したから当然に神経因性膀胱になる、排尿障害があるから当然に事故が原因である、という関係にはありません。事故態様、損傷部位、症状が現れた時期、症状の連続性、診療録、画像、検査結果、既往歴、医師の診断を前提に、因果関係を個別に検討する必要があります。

骨盤骨折そのものによる変形障害、股関節の可動域制限、下肢短縮、将来の人工関節や、歩行に関わる症状全般については、別の記事で整理しています。

後遺障害等級を検討する際の注意点

自賠責の等級表と、労災の認定基準の関係

自賠責保険の後遺障害等級は、自動車損害賠償保障法施行令の別表第一(介護を要する後遺障害)と別表第二に定められています。他方、国土交通省・金融庁の「支払基準」は、後遺障害による損害について「等級の認定は、原則として労働者災害補償保険における障害の等級認定の基準に準じて行う」としています。そのため具体的な評価は、厚生労働省が労災について定める障害等級認定基準(「胸腹部臓器の障害に関する障害等級認定基準について」、「神経系統の機能又は精神の障害に関する障害等級認定基準について」)の内容を参照して検討されます。

ただし、労災の通達に記載された号数と、自賠責の別表の号数は一致しません。たとえば胸腹部臓器の障害は、自賠責の別表第二では第11級10号ですが、労災の障害等級表では第11級の別の号に置かれています。通達の号数をそのまま自賠責の号数として読み替えることはできませんので、ご注意ください。

排尿障害・蓄尿障害・排便障害の評価候補

労災の認定基準の内容を自賠責の別表第二に置き換えた場合の評価候補は、次のとおりです。いずれも「この症状があれば必ずこの等級になる」というものではなく、基準上の評価候補です。

排尿・蓄尿・排便障害に関する自賠責別表第二の評価候補
区分 認定基準上の主な要件 別表第二の評価候補
排尿障害 残尿が100ミリリットル以上であるもの 第9級11号
残尿が50ミリリットル以上100ミリリットル未満であるもの 第11級10号
尿道カテーテルを留置したもの 第11級10号
蓄尿障害 持続性尿失禁を残すもの 第7級5号
切迫性尿失禁・腹圧性尿失禁で、終日パッド等を装着し、かつ、パッドをしばしば交換しなければならないもの 第7級5号
同じく、常時パッド等を装着しなければならないが、パッドの交換までは要しないもの 第9級11号
同じく、常時パッド等の装着は要しないが、下着が少しぬれるもの 第11級10号
頻尿(膀胱容量の器質的な減少又は膀胱・尿道の支配神経の損傷が認められること、日中8回以上の排尿が認められること、多飲等の他の原因が認められないことのいずれにも該当するもの) 第11級10号
排便障害 完全便失禁を残すもの 第7級5号
常時おむつの装着が必要な便失禁 第9級11号
常時おむつの装着は必要ないが、明らかに便失禁があると認められるもの 第11級10号
便秘(排便反射を支配する神経の損傷がMRI、CT等により確認でき、かつ、排便回数が週2回以下の頻度で恒常的に硬便であるもの)のうち、用手摘便を要すると認められるもの 第9級11号
同じ便秘の要件を満たすが、用手摘便までは要しないもの 第11級10号

尿路変向術、人工肛門の造設、尿道狭窄についても認定基準に区分が置かれています。術式や管理状況によって評価が分かれるため、手術記録と術後の管理内容の確認が欠かせません。

尿路変向術・人工肛門・尿道狭窄に関する評価候補
状態 別表第二の評価候補
非尿禁制型の尿路変向術又は人工肛門を造設し、内容物の漏出によりストマ周辺に著しい皮膚のびらんを生じ、パッド等・パウチ等の装着ができないもの 第5級3号
上記に該当しない非尿禁制型の尿路変向術・人工肛門/禁制型尿リザボアの術式を行ったもの 第7級5号
禁制型尿リザボア及び外尿道口形成術を除く尿禁制型の尿路変向術を行ったもの 第9級11号
外尿道口形成術を行ったもの/尿道狭窄のうち糸状ブジーを必要とするもの 第11級10号
尿道狭窄のうち、一定の太さの尿道ブジーが辛うじて通り、時々拡張術を行う必要があるもの 別表第二には胸腹部臓器に関する第14級の号が置かれていないため、第14級に相当するものとしての評価が問題になります

一定時間ごとに管を抜き差しする「間欠的な自己導尿」と、管を入れたままにする「尿道カテーテルの留置」は別のものです。自己導尿を行っていることだけを理由に、当然に第11級10号に該当すると考えることはできません。自己導尿が必要とされる理由、残尿量、導尿の回数、検査結果、生活上の支障を個別に確認する必要があります。

脊髄損傷に伴う場合の「包含」と「総合評価」

厚生労働省の神経系統に関する認定基準は、脊髄の損傷(第2腰椎以下の脊柱管内の馬尾神経が損傷された場合を含みます)による障害について、身体的所見とMRI、CT等によって裏付けることのできる麻痺の範囲と程度により等級を認定するとしたうえで、各等級は「通常伴うそれらの障害も含めて格付したものである」としています。ここでいう「それらの障害」には、尿路障害(神経因性膀胱障害)が含まれます。

他方、同基準は、脊髄損傷に伴う胸腹部臓器の障害や脊柱の障害による等級が、麻痺により判断される等級よりも重い場合には、それらの障害の総合評価により等級を認定するとしています。

したがって、排尿・排便障害と脊髄の障害が常に別個に認定されて単純に併合されるとも、常に脊髄の障害に吸収されるとも言えません。どちらの枠組みで評価されるかで結論が変わり得るため、麻痺の範囲・程度に関する資料と、排尿・排便障害に関する資料の双方が必要です。

なお、神経系統の機能又は精神の障害として自賠責の別表に掲げられているのは、別表第一の第1級1号・第2級1号と、別表第二の第3級3号・第5級2号・第7級4号・第9級10号・第12級13号です。介護を要する後遺障害(別表第一)とそれ以外(別表第二)は別の表であり、混同しないよう注意してください。

診断名や単一の数値だけでは決まりません

残尿量は測定の時刻や条件により変動し得ますし、排尿・排便の回数は日によって差が出ます。認定基準が数値を挙げているのは評価の目安を示すためであり、一回の測定値、自己申告、診断名だけで等級が決まるわけではありません。継続的な記録と医師による評価の裏付けが必要です。

申請前に確認したい医学資料と検査

排尿・排便障害は外から見えにくいため、医学資料の内容が評価を大きく左右します。次の資料は事案によって意味を持ちますが、すべてが必要になるわけではなく、検査の要否と方法は医師が判断する事項です。

排尿・排便障害で意味を持ちやすい医学資料
資料 確認したい内容
救急・入院・手術の記録、退院時サマリー 受傷時の損傷部位と重症度、初期に尿道カテーテルが挿入された経緯、膀胱瘻や人工肛門の造設の有無
診療録・診断書・診療情報提供書 排尿・排便に関する訴えが、いつ、どのように記録されているか。泌尿器科等への紹介の経過
画像資料(MRI、CT、単純エックス線、超音波など) 脊髄・馬尾・仙骨・骨盤・膀胱・尿道・直腸の状態、水腎症など上部尿路への影響の有無
泌尿器科・大腸肛門領域の診療記録 残尿測定の結果、尿検査、腎機能の評価、尿路感染の経過、肛門括約筋に関する所見
医師が必要と判断した検査の結果 残尿測定、尿流測定、尿流動態検査など。脊髄損傷に関する診療ガイドラインは、尿流動態検査を脊髄ショックからの回復後に実施するとしています
神経学的所見・処方や指導の記録 麻痺の範囲と程度、感覚障害、会陰部・肛門周囲の所見。自己導尿やストマ用品の指導、下剤・坐薬・浣腸の処方
後遺障害診断書 排尿・排便に関する症状、検査結果、管理方法が具体的に記載されているか

後遺障害診断書の作成前に確認したい事項は、別の記事で整理しています。

症状固定は、診療や排泄の管理が不要になったことを意味しません。脊髄損傷における下部尿路機能障害の診療ガイドラインは、経過観察として少なくとも3か月から6か月ごとの問診・尿検査、12か月ごとの腹部超音波検査を挙げています。症状固定後も腎機能や尿路感染への対応が続く事案があり、この点は将来治療費の検討にも関係します。

日常生活・仕事上の支障をどう記録するか

診療記録は、受診した日の情報が中心です。日々の排泄管理にどれだけの時間と手間がかかっているか、仕事や外出にどのような制約が生じているかは、本人とご家族が記録しなければ資料に残りません。自己診断のためではなく、医療記録を補う生活資料として記録してください。

脊髄損傷における下部尿路機能障害の診療ガイドラインは、排尿日誌について、排尿回数、機能的膀胱容量、一日尿量、夜間尿量のほか、自己導尿を行っている場合は導尿の時刻と間隔も把握できるとして、可能な限り最低3日分程度の記録を挙げています。医師から記録方法の指示がある場合は、その指示に従ってください。

  • 排尿・排便の時刻と回数、尿意・便意の有無
  • 残尿感、尿閉、失禁の有無と程度、下着や衣類を替えた回数
  • パッド・おむつの種類、使用枚数、交換の回数と時間帯
  • 自己導尿・カテーテル交換の回数、1回に要する時間、必要な物品
  • 便秘・便失禁の状況、下剤・坐薬・浣腸の使用、用手摘便の有無と頻度
  • 一回の排便に要する時間、排泄管理に一日あたり要する時間の合計
  • 介助者は誰か、どの動作をどれだけ介助しているか
  • 夜間の覚醒回数と、睡眠が中断されることによる翌日への影響
  • 外出・通勤・通学の際のトイレの制約、会議・接客・運転・出張・立ち作業の中断や回避
  • 職場・学校でのトイレ配慮、配置転換、休憩の追加、欠勤・遅刻・早退
  • 発熱・尿路感染などによる受診、入院、服薬の記録
  • 排泄用品、通院、介助にかかった費用の領収書・明細
  • 事故前の排泄の状態、症状が現れた時期、医師に初めて伝えた時期

どの項目をどの程度まで記録すればよいかは、傷病名や職業によって異なります。診療記録と現在の管理内容を確認したうえで、記録の方針を整理することができます。

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損害賠償で問題になる項目

後遺障害の等級が認定されても、それだけで各損害項目の金額が決まるわけではありません。項目ごとに、必要性・相当性、事故との因果関係、金額の裏付けが問題になります。

排尿・排便障害で問題になりやすい損害項目と、検討の視点
損害項目 主な検討の視点
後遺障害慰謝料 認定された等級。裁判実務上参照される算定基準を用いる場合は、資料名・版・適用場面の確認が必要です
逸失利益・休業損害 基礎収入、労働能力喪失率、喪失期間。等級表上の喪失率だけでは説明しきれない支障を、どこまで個別に立証できるか。勤怠記録と給与の実績
将来治療費・検査費・通院費 症状固定後も定期的な受診・検査が必要であることの医学的裏付け、頻度、単価
将来雑費(排泄用品費) カテーテル、導尿用品、パッド、おむつ、ストマ用品などの種類・使用量・単価。購入実績の記録
付添費・将来介護費 介助の内容(導尿、摘便、清拭、更衣など)、所要時間、介助者、必要性の医学的裏付け
住宅改修費・福祉用具費・通院交通費 トイレ・浴室の改修、手すりや昇降設備の必要性と相当性。移動手段の制約、通院先までの距離と回数

自賠責保険・共済の後遺障害別の限度額や支払基準の金額と、民事上の最終的な損害賠償額とは別のものです。自賠責の支払は、法令に定められた限度額の範囲で行われるものであり、それを超える損害は加害者側への請求により回収を検討することになります。

排尿・排便障害は、等級表上の労働能力喪失率だけでは、休憩や離席の必要、夜間の睡眠の中断、接客・会議・運転・出張への影響を十分に示せないことがあります。職種、勤務形態、職場での配慮、事故前後の収入と勤怠、将来の就労見込みを個別に立証していく必要があります。

症状固定・後遺障害診断書・示談前の流れ

おおまかな流れは、治療・リハビリテーション、症状固定、後遺障害診断書の作成、後遺障害の申請(事前認定または被害者請求)、認定結果の受領、必要に応じた異議申立て・紛争処理・訴訟、示談という順序です。症状固定の時期と検査の要否は、医師の判断が前提となります。

期間制限にも注意が必要です。加害者に対する損害賠償請求権は、民法第724条第1号と第724条の2により、人の生命又は身体を害する不法行為の場合、損害及び加害者を知った時から5年、同条第2号により不法行為の時から20年とされています。他方、自賠責保険会社に対する被害者請求権は、自動車損害賠償保障法第19条により、損害及び保有者を知った時から3年とされています。これらは別個の制度であり、後遺障害部分の起算点や、時効の完成猶予・更新の有無は事案により異なります。期限が近いと感じた場合は、早めに確認してください。

よく問題になるケース

以下は争点になりやすい類型であり、特定の事案の結果を示すものではありません。

争点になりやすい類型と、確認したい資料
問題となる場面 想定される相手方の指摘 確認したい資料
事故直後の診療録に排尿・排便の症状が書かれていない/泌尿器科等の評価が後になった 症状の発生時期が事故と結び付かない 救急・入院記録、カテーテル挿入の記録、看護記録、リハビリテーション記録、紹介状
画像所見と症状の対応が争われる 神経損傷が画像上確認できない MRI・CTの読影、神経学的所見、会陰部・肛門周囲の所見、尿流動態検査等の結果
既往症・加齢・薬剤の影響を指摘される 事故前から症状があったのではないか 事故前の受診歴、処方歴、健診結果、事故前後の変化に関する記録
症状の訴えが自己申告にとどまっている 客観的な裏付けがない 残尿測定の結果、排尿日誌、パッド使用量、導尿・摘便の記録、購入履歴
脊髄障害と胸腹部臓器の障害の関係が争われる 脊髄の等級に含まれている 麻痺の範囲・程度に関する資料と、排尿・排便障害に関する資料の双方
等級は認定されたが将来費用が争われる 将来の治療・用品・介護の必要性が不明である 継続受診の記録、医師の意見、用品の購入実績、介助の実態が分かる記録

申請前・示談前チェックリスト

  • 救急・入院・手術の記録を取り寄せているか
  • 排尿・排便の症状が診療録のどこに記載されているかを確認したか
  • 泌尿器科等の受診状況と検査結果を整理したか
  • 画像資料の貸出しや複製の手配をしたか
  • 後遺障害診断書に、症状・検査結果・管理方法が具体的に記載されているかを確認したか
  • 排泄管理の記録を継続して残しているか
  • 排泄用品の購入実績と単価が分かる資料をそろえているか
  • 勤怠記録、給与明細、源泉徴収票など収入に関する資料を用意したか
  • 職場での配慮や業務制限の内容を書面で確認できるか
  • 保険会社から届いた書面(治療費対応の通知、示談案、免責証書など)を保管しているか
  • 示談案に、後遺障害や将来費用に関する清算条項が含まれていないかを確認したか
  • 期間制限との関係で、いつまでに対応が必要かを確認したか
  • 自動車保険の弁護士費用特約が利用できるかを確認したか

弁護士に相談するタイミング

ご相談のタイミングとして多いのは、症状固定を打診されたとき、後遺障害診断書の作成を控えているとき、認定結果が届いたとき、示談案が提示されたときです。もっとも、排尿・排便障害では、泌尿器科等での評価が始まった時点で記録の方針を整理しておくことに意味があります。

弁護士に相談することで結果が保証されるわけではありません。もっとも、診療記録、検査結果、排泄管理の記録、後遺障害診断書、保険会社の書面を確認することで、因果関係について何を補う必要があるか、等級評価の枠組みとしてどこが争点になるか、申請を事前認定と被害者請求のいずれで行うか、損害項目として何を積み上げるか、示談に応じてよい段階かを整理することができます。

よくある質問

交通事故のあとの頻尿や尿失禁は、後遺障害として評価されますか。

評価される可能性があります。認定基準では、尿失禁について、持続性か、切迫性・腹圧性か、パッド等の装着と交換がどの程度必要かによって区分が設けられています。頻尿にも、支配神経の損傷等、日中8回以上の排尿、他の原因がないことという要件が置かれています。症状名だけでは判断できませんので、診療記録と検査結果を確認する必要があります。

神経因性膀胱と診断されました。何級になりますか。

診断名だけでは決まりません。尿を出す機能の障害か、ためる機能の障害か、残尿量や失禁の程度、どのような管理を行っているか、脊髄損傷に伴うものかによって、参照される枠組みが変わります。

残尿量だけで後遺障害の等級が決まりますか。

決まりません。認定基準は残尿量による区分を設けていますが、残尿量は測定の条件により変動し得ます。継続的な記録と、医師による評価の裏付けが必要です。蓄尿障害や排便障害が併存している場合は、それぞれについて資料を整える必要があります。

自己導尿やカテーテル管理が必要な場合、どのような資料を残すべきですか。

導尿・カテーテル管理を指示した医師の記録、指導の内容、残尿量や検査結果、実施の回数と所要時間、使用している物品の種類と数量、購入時の領収書が資料になります。なお、一定時間ごとに管を抜き差しする自己導尿と、管を留置し続けるカテーテル管理は、認定基準上の取扱いが異なります。

便失禁や、用手摘便を要する便秘も後遺障害になりますか。

評価の対象となり得ます。便失禁は、完全便失禁か、常時おむつを要するか、それ以外かで区分があります。便秘は、排便反射を支配する神経の損傷がMRI、CT等により確認でき、排便回数が週2回以下で恒常的に硬便であるという要件のもと、用手摘便を要するかどうかで区分されています。

脊髄損傷と排尿・排便障害は、別々に等級認定されますか。

常に別々に認定されるわけではありません。厚生労働省の認定基準は、脊髄損傷の各等級について、通常伴う障害も含めて格付けしたものであるとしています。ただし、胸腹部臓器の障害や脊柱の障害による等級のほうが重い場合には、総合評価によることとされています。双方の資料をそろえて検討する必要があります。

骨盤骨折から時間がたって排尿障害が分かった場合、事故との関係はどう確認しますか。

受傷時の記録、骨折の部位と型、神経損傷を疑わせる所見、症状が現れた時期と経過、他の原因の有無に関する医師の判断を組み合わせて検討します。事故直後にカテーテルが挿入された経緯や、看護記録・リハビリテーション記録に残る排泄に関する記載が、症状の連続性を示す資料になることがあります。

保険会社から示談案が届いた後でも、後遺障害の申請を検討できますか。

示談が成立する前であれば、検討の余地があります。示談が成立すると、原則としてその内容に拘束され、後から請求することが難しくなります。示談書や免責証書に署名・押印する前に、後遺障害の申請の要否と、将来の治療費・排泄用品費・介護費が損害として整理されているかを確認することをおすすめします。

まとめ

  • 排尿・排便障害は、原因、症状の内容、管理方法、検査結果、生活・就労上の支障を分けて整理することから始まります。
  • 診断名だけでは等級は決まりません。認定基準上の数値も、継続的な記録が前提になります。
  • 脊髄損傷に伴う場合は、脊髄の障害への包含と、胸腹部臓器の障害としての総合評価のいずれで検討されるかが問題になります。
  • 排泄管理の記録は、等級だけでなく将来の雑費・介護費の検討にも使われます。今日から始めることができます。
  • 示談書に署名する前に、後遺障害の申請の要否と損害項目の整理を確認してください。

排尿・排便の障害は、外から見えにくく、ご本人からも切り出しにくい症状です。当事務所では、泌尿器科等の診療記録、検査結果、排泄管理の記録、後遺障害診断書、保険会社から届いた書面を確認したうえで、事故との因果関係、等級評価の枠組み、申請方法の選択、損害項目の整理、示談に応じてよい段階かどうかについて、対応方針を検討します。

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監修者・執筆者

弁護士法人ひょうご支所 神戸みらい法律会計事務所
代表弁護士・公認会計士 藤井貴之
兵庫県弁護士会所属/日本公認会計士協会兵庫会所属

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参考資料

本記事は、交通事故による排尿・排便障害と後遺障害に関する一般的な解説であり、医学的な診断や治療の助言に代わるものではありません。症状の原因、検査の要否、治療方針は、主治医その他の医師にご確認ください。また、後遺障害の等級評価や損害賠償の結論は、事故態様、損傷部位、治療経過、既往症、職業などの個別事情により異なります。具体的なご相談は、資料をご用意のうえお問い合わせください。

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