肘の動揺関節・不安定性の後遺障害|等級の考え方と硬性補装具 |神戸市(須磨・垂水・西神・北神)の弁護士|初回相談無料|

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肘の動揺関節・不安定性の後遺障害|等級の考え方と硬性補装具

交通事故で肘を脱臼した、肘の周辺を骨折した、肘の靱帯を損傷した——治療やリハビリを終えた後も、「肘が抜けそうになる」「荷物を持つとぐらつく」「腕をひねると力が抜ける感じがする」という状態が続いている方がいらっしゃいます。曲げ伸ばしはできるので大きな問題はないと受け止められてしまった、保険会社から症状固定や示談の話が出ているが、このまま進めてよいのか迷っている、という方も少なくありません。

関節が本来の範囲を超えて動いてしまう状態は、後遺障害の実務で「動揺関節」(関節の不安定性)と呼ばれています。動揺関節は後遺障害等級表に項目として書かれていませんが、一定の場合には、関節の機能障害の等級に準ずるものとして評価が検討されます。そして上肢(腕)と下肢(脚)とでは、評価の区分そのものが異なります。膝について書かれた解説をそのまま肘に当てはめると、結論を取り違えるおそれがあります。

この記事で分かること

  • 肘の「ぐらつき」「抜けそう」が、可動域制限や痛み・しびれとどう違うか
  • 上肢の動揺関節が第10級・第12級に準ずる関節の機能障害として検討される仕組み
  • 膝など下肢とは評価の区分が異なること
  • 硬性補装具(肘装具)と市販のサポーターの違い、装具に関する資料の役割
  • 「時々硬性補装具を必要とするもの」という同じ文言が、別の障害では全く違う等級に結びつくこと
  • 可動域制限や前腕の回旋制限が併存する場合、人工肘関節を入れた場合、金属が残っている場合の考え方
  • 後遺障害の申請前・異議申立て前・示談前に確認しておきたい資料

後遺障害の等級や損害額は、診断書、画像、装具に関する資料、仕事の内容などを確認したうえで判断すべきものであり、個別事情により結論は異なります。以下は一般的な考え方の整理であり、見込みを断定するものではありません。

肘の不安定感が残っている場合、後遺障害の見通しは、画像・診察所見・装具に関する資料の内容によって変わります。後遺障害診断書の作成前や示談への署名前に、資料と論点を一度整理しておくことをおすすめします。

交通事故の取扱業務を見る

最初に押さえたい結論

肘の動揺関節をめぐる六つの要点
よくある理解 実際の考え方
ぐらつく自覚があれば等級が付く 自覚だけでは決まりません。靱帯等の器質的な損傷、診察や検査で確認される動揺性、硬性補装具の必要性を、資料で確認したうえで検討されます。
動揺関節という等級がある 等級表に独立した項目はありません。関節の機能障害の等級に「準ずるもの」「相当するもの」として評価が検討されます。特定の号数が付く障害ではありません。
膝と同じ基準で判断される 異なります。上肢は第10級・第12級に準ずる二つの区分、下肢は第8級・第10級・第12級に準ずる三つの区分です。
装具を長時間つけていれば上の等級になる 装着時間の長短だけで決まるものではありません。装具の構造、医学的な必要性、処方の経緯、使用の実態が確認されます。
曲げ伸ばしができるなら関係がない 可動域が保たれていても、不安定性として別に評価が検討されることがあります。可動域制限とは方向が逆の障害です。
症状が複数あれば等級は足し算される 単純な加算にはなりません。評価が重複していないか、一方が他方から派生していないかを整理したうえで検討されます。

肘の「ぐらつき」「抜けそう」とは何か

肘の関節は、骨の形と、関節を取り巻く靱帯によって、曲げ伸ばしの方向以外へ大きく動かないように支えられています。交通事故で脱臼や骨折、靱帯の損傷が生じ、治療を続けても支えが十分に回復しない場合、関節が本来の範囲を超えて動いてしまう状態が残ることがあります。これが後遺障害の実務でいう「動揺関節」(関節の不安定性)です。

注意していただきたいのは、「不安定な感じがする」という自覚症状と、診察や検査で医学的に確認される動揺性とは同じではないという点です。後遺障害の評価では、自覚症状に加えて、どこにどの程度の損傷があるのか、関節がどの方向にどの程度動いてしまうのかを、画像や診察の所見で確認できるかが問われます。肘の状態の診断は医師が行う事項ですので、どのような場面でぐらつくのか(荷物を持ったとき、腕を伸ばしたとき、ひねったときなど)を、診察時に具体的に伝えることが出発点になります。

混同されやすい四つの症状
症状 内容 評価の枠組み
動揺関節(不安定性) 支えが利かず、関節が正常な範囲を超えて動いてしまう 関節の機能障害の等級に準ずるものとして検討
可動域制限 曲がらない、伸びない。動く範囲が狭くなる 健側と比べた可動域の割合で評価。動揺関節とは方向が逆の障害
前腕の回旋制限 手のひらを上下に返しにくい(回内・回外の制限) 肘の曲げ伸ばしとは別に評価
痛み・しびれ 神経症状として残るもの 可動域や不安定性とは別の枠組みで検討

脱臼は関節の位置関係が完全に外れた状態、亜脱臼は部分的にずれた状態を指す言葉として用いられます。治療後も繰り返し外れるようになった状態は「習慣性脱臼」と呼ばれ、後遺障害の評価では動揺関節とは別の定めが置かれています。ご自身の症状がどれに当たるかは、診断名と画像・診察所見を確認して整理することになります。

肘の状態が急に変わった、強い痛みや腫れが出た、手のしびれや冷たさを感じるといった場合は、法的な検討よりも先に医療機関へご相談ください。また、不安定性を確認する検査は医師が診察上必要と判断して行うものです。ご自身やご家族が関節を動かして確かめようとすることは、症状を悪化させるおそれがありますのでお控えください。

原因となりやすい傷病と治療の経過

交通事故で肘の不安定性が問題になる場合、次のような受傷が背景にあることがあります。いずれも一般的な整理であり、実際の診断名や治療方針は、医師の診断書、画像所見、診療録によって判断されます。

  • 肘関節の脱臼:転倒や衝突で肘が外れたもの。整復(元に戻す処置)の後も支えが十分に戻らないことがあります。
  • 骨折を伴う脱臼:脱臼と同時に肘の周辺の骨が折れたもの。骨の形が変わることで支えに影響することがあります。
  • 肘の靱帯の損傷:関節を支える靱帯が伸びたり切れたりしたもの。単独で生じることも、骨折や脱臼に伴うこともあります。
  • 肘の周辺の骨折:骨折そのものの治療が終わった後に、支えの不足が残ることがあります。
  • 手術後に残る不安定性:靱帯の修復や骨接合の手術を受けた後も、不安定感が残る場合があります。

診断名がついたことだけで後遺障害の等級が決まるわけではありません。手術を受けたかどうかで結論が決まるものでもなく、症状固定の時点でどの程度の不安定性が残っているかが検討の対象になります。治療、検査、手術、装具の要否は主治医が医学的に判断する事項であり、この記事は損害賠償の面からの整理です。

上肢の動揺関節が後遺障害として評価される仕組み

等級表に項目がないのに評価されるのはなぜか

自賠責保険の後遺障害等級は、自動車損害賠償保障法施行令の別表第一・別表第二に定められていますが、そのどこにも「動揺関節」という項目はありません。それでも評価が検討されるのは、次の三つの定めが段階的につながっているためです。

動揺関節が評価される三つの段階
段階 定め 内容
第一 施行令別表第二 備考第六号 「各等級の後遺障害に該当しない後遺障害であつて、各等級の後遺障害に相当するものは、当該等級の後遺障害とする」。表に直接掲げられていない障害でも、掲げられた障害に相当する程度であれば、その等級として扱う仕組みです。
第二 自賠責保険の支払基準(国土交通省・金融庁告示) 後遺障害による損害の項で、「等級の認定は、原則として労働者災害補償保険における障害の等級認定の基準に準じて行う」と定めています。何が「相当」かを判断する際に、労災保険の認定基準が参照されます。
第三 労災保険の障害等級認定基準(厚生労働省) 上肢の障害の章に「準用」の定めを置き、上肢の動揺関節について、硬性補装具の必要性の程度に応じて、関節の機能障害の等級に「準ずる」扱いを示しています。

労災保険の認定基準は、それ自体が自賠責保険を直接規律する法令ではありません。施行令の「相当」の枠組みと、支払基準による労災基準への準拠を通じて参照される関係にあります。また、この「準用」は、複数の障害を組み合わせて等級を繰り上げる「併合」や、事故前から障害があった場合の「加重」とは別の考え方です。四つの用語の根拠の違いと使い分けは、後遺障害の併合・加重・準用・相当の違いと確認手順を見るで整理しています。

上肢は第10級・第12級に準ずる二つの区分

労災保険の障害等級認定基準は、上肢の動揺関節について、それが他動的なものであるか自動的なものであるかにかかわらず、次の基準によって等級を認定するとしています。準ずる先は、別表第二に定める上肢の三大関節(肩・肘・手首)の機能障害の等級です。

上肢の動揺関節と習慣性脱臼について基準上準用が検討される等級
認定基準の区分 準ずるとされる関節の機能障害 読み方の目安
常に硬性補装具を必要とするもの 第10級に準ずる関節の機能障害(別表第二 第10級10号「一上肢の三大関節中の一関節の機能に著しい障害を残すもの」) 日常の動作全般で、硬性補装具による支えが必要とされる状態
時々硬性補装具を必要とするもの 第12級に準ずる関節の機能障害(別表第二 第12級6号「一上肢の三大関節中の一関節の機能に障害を残すもの」) 場面によっては硬性補装具による支えが必要とされる状態
習慣性脱臼(動揺関節とは別の定め) 第12級に準ずる関節の機能障害 治療後も繰り返し関節が外れる状態。動揺関節の区分の一つではなく、独立した定めです

括弧内の第10級10号・第12級6号は、準ずる先となる可動域による機能障害の号です。動揺関節そのものに、この号数が付くわけではありません。動揺関節は等級表の明文項目ではなく「準ずるもの」「相当するもの」として扱われるため、認定書面上の表記は事案ごとの認定票でご確認ください。なお、この定めは「上肢の動揺関節」についてのものですので、肘だけでなく肩や手首にも及びます。本記事は肘を中心に説明しています。

「他動的なものであるか自動的なものであるかにかかわらず」という部分は、実務上見落とされやすい点です。後述するとおり、可動域の測定は原則として他人が動かしたときの値によりますが、動揺性については、検査者が動かしたときに現れるものか、ご本人が動かしたときに現れるものかを問わないという趣旨の定めになっています。

膝など下肢とは区分が異なります

同じ動揺関節でも、上肢と下肢では区分の数も等級も異なります。体重を支えるかどうかという役割の違いが背景にあります。

上肢と下肢の動揺関節の区分の違い
硬性補装具の必要性 上肢(肩・肘・手首) 下肢(股・膝・足首)
常に必要とするもの 第10級に準ずる 第8級に準ずる
時々必要とするもの 第12級に準ずる 第10級に準ずる
重激な労働等の際以外には必要としないもの この区分は設けられていません 第12級に準ずる

ご覧のとおり、上肢には「重激な労働等の際以外には硬性補装具を必要としないもの」という区分がありません。また、上肢の動揺関節について第8級に準ずるという区分も設けられていません。膝の動揺関節を扱った解説記事や資料をそのまま肘に当てはめると、実際とは異なる等級を前提に検討してしまうおそれがありますので、部位を確認したうえでお読みください。

硬性補装具(肘装具)と市販のサポーターの違い

肘装具の構造による区分

「硬性補装具」という言葉について、労災の認定基準自体は詳細な定義を置いていません。構造を整理する公的な手掛かりとしては、補装具の種目等に関する厚生労働省の基準があり、肘装具を「上腕部から前腕部に及び、肘関節の運動を制御する」ものとしたうえで、構造により次のように区分しています。

肘装具の構造による区分(補装具の基準による)
区分 定義
硬性 陽性モデルを用いて成形されたもの。補強用の支柱等が使用されているものも含まれること。
両側支柱付 上肢の長軸に沿って内外の両側に支柱をもち、上腕部と前腕部においてそれぞれ両支柱を結ぶ一つ以上の半月をもつもの
軟性 軟性材料を主材料としたもの

支柱や継手で肘の動きを支え、制御する構造の装具と、布やゴムなどの伸縮素材だけでできた市販のサポーターとでは、関節を支える力が大きく異なります。

この補装具の基準は障害者福祉の制度に基づくもので、後遺障害の認定制度とは別の制度です。ここでは硬性・軟性という構造の違いを理解するための手掛かりとして紹介しています。実際に装具がどの区分に当たるかは、呼び方や商品名ではなく、構造、処方や製作の経緯、医師の指示内容を資料で確認する必要があります。

「常に」「時々」は装着時間で決まるものではありません

「常に」「時々」を装着時間や回数で区切る公的な数値基準は示されていません。一日に何時間つけていれば「常に」に当たる、といった基準はありませんので、装着時間の長短だけで等級が決まるものではありません。症状固定時の肘の状態を前提に、硬性補装具の医学的な必要性、処方や指示の経緯、実際の使用状況を、資料で総合的に確認することになります。

また、装具の医学的な必要性を判断するのは主治医であり、後遺障害の等級を判断するのは認定を行う側です。処方箋や領収書、使用状況の記録は、必要性を裏づける資料の一部ではありますが、それだけで必要性や等級が確定するというものではありません。「認定を受けるために装具をつくる」という発想ではなく、実際の症状と診療経過、装具の必要性が正確に記録されているかを確認するという視点が大切です。

軟性のサポーターだけを使っている場合

市販の軟性サポーターしか使っていないという方も少なくありません。この場合でも、次の点を確認する余地があります。

  • 使用している装具の構造や処方の経緯を確認すること。外観や呼び方だけでは区分できません。
  • 硬性補装具の必要性について、主治医の医学的な判断を確認すること。
  • 動揺関節としての評価が難しい場合でも、習慣性脱臼、肘の可動域制限、前腕の回旋制限、痛みやしびれといった神経症状など、別の観点からの評価が残ることがあること。

「時々硬性補装具を必要とするもの」には二つの意味があります

インターネット上の解説を読んでいると、「時々硬性補装具を必要とするもの」という同じ文言が、記事によって第12級と説明されていたり、第8級と説明されていたりすることがあります。どちらかが誤りというわけではなく、労災保険の認定基準は、まったく別の二つの障害について、同じ文言を用いているためです。

「時々硬性補装具を必要とするもの」が出てくる二つの場面
どの障害についてか 対象となる部位 結びつく等級
動揺関節(関節のぐらつき) 上肢の三大関節(肩・肘・手首) 第12級に準ずる関節の機能障害
偽関節(骨のゆ合不全) 橈骨又は尺骨のいずれか一方の骨幹部等 別表第二 第8級8号「一上肢に偽関節を残すもの」の要件の一つ

偽関節とは、骨折した骨がつかないまま、骨片の間で異常な動きが残っている状態をいいます。前腕の骨(橈骨・尺骨)にこれが残り、時々硬性補装具を必要とする場合には、第8級8号の検討対象になり得るとされています。

肘の周辺を骨折した方は、この二つが紛らわしく感じられることがあります。関節そのものの支えが利かずにぐらつくのが動揺関節、骨折した骨がつかずに骨の途中で動いてしまうのが偽関節で、別の障害です。どちらに当たるか(あるいは両方か)は、画像所見と診断内容を確認して整理する必要があり、ご自身で腕を動かして確かめようとすることは避けてください。

動揺性を裏づける医学資料と証拠

資料ごとの役割と限界

後遺障害の申請では、損害保険料率算出機構の自賠責損害調査事務所が提出書類に基づいて調査を行い、判断が困難な事案は地区本部や本部で審査され、特定の事案は外部の弁護士や専門医が参加する審査会で審査されるとされています。書面による判断が中心になるため、資料に何が記録されているかが重要になります。

資料の役割と限界
資料 主に示すこと 限界
事故直後の診断書・救急記録・初診時所見 受傷の内容と事故との結びつき その後の経過は別途確認が必要です
X線・CT・MRI等の画像 骨や靱帯などの器質的な損傷の存在 損傷があることと、動揺性がどの程度残っているかは別の問題です
診察で確認された不安定性の所見・左右差 症状固定時にどの方向へどの程度動いてしまうか 記録が残っていなければ、後から再現することは困難です
ストレスをかけた状態での撮影等の検査 動揺性を画像で示すこと すべての事案で行われるものではなく、実施の要否は主治医の判断です
手術記録・術中所見・退院時記録 損傷の程度と修復の内容 手術を受けたこと自体で等級が決まるものではありません
リハビリテーション記録 可動域や不安定性の経時的な変化 記載項目は施設により異なります
装具の処方箋・製作指示書・適合の記録・領収書 装具の種類と処方の経緯 処方や購入の事実だけで医学的必要性が確定するものではありません
装具の使用状況が分かる記録 どの場面で、どの程度の頻度・時間、装着しているか 装着時間の長短だけで区分が決まるものではありません

後遺障害診断書で確認したいこと

後遺障害診断書は、症状固定時の状態を伝える中心的な資料です。肘の不安定性が問題になる事案では、可動域の数値だけでなく、診察で確認された不安定性の内容と、硬性補装具の医学的な必要性・使用状況が正確に記録されているかを確認しておくことが大切です。記載が不足している場合には、主治医への医療照会という方法で補うことも検討されます。

ここでいう確認は、認定を得るために特定の文言を医師に記載してもらうという意味ではありません。実際に診察・検査で確認された事実と、医師が判断した装具の必要性、そして実際の使用状況が、資料に正確に反映されているかを見るという趣旨です。後遺障害診断書の作成前に整えておきたい資料や画像検査については、後遺障害診断書の作成前に確認したい資料と画像検査の注意点を見るで解説しています。事前認定と被害者請求という申請方法の違いも、同じ記事で整理しています。

どの所見や装具の資料がそろっているか、何が不足しているかは、事案ごとに異なります。当事務所では、診断書、画像、装具に関する資料を確認したうえで、後遺障害の申請前に確認しておきたい事項を整理するお手伝いをしています。

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可動域制限・前腕の回旋制限が併存する場合

肘の可動域は屈曲と伸展を合計して健側と比べます

関節の機能障害は、原則として他人が動かしたときの可動域(他動運動による測定値)で評価されます。自分で動かしたときの値(自動運動による測定値)が参考とされるのは、末梢神経の損傷により関節を動かす筋が弛緩性の麻痺となり、他動では動くが自動では動かせない場合や、動かすと我慢できない程度の痛みが生じるために自動では動かせないと医学的に判断される場合などとされています。

また、肘の屈曲と伸展のように同じ面にある運動については、両者の可動域角度を合計した値で制限の程度を評価するとされています。屈曲だけ、伸展だけを取り出して健側と比べるのではない点にご注意ください。測定は通常5度刻みで行うとされています。

可動域による機能障害の区分は、「関節の用を廃したもの」が関節の強直、完全弛緩性麻痺又はこれに近い状態(他動では動くものの、自動運動による可動域が健側の10%程度以下となったものを含みます)、「関節の機能に著しい障害を残すもの」が原則として可動域が健側の2分の1以下、「関節の機能に障害を残すもの」が原則として4分の3以下とされています。「用を廃したもの」は、単に可動域が2分の1以下になった状態を指すものではありません。

前腕の回内・回外は別に評価されます

前腕の回内・回外の制限は、肘の屈曲・伸展とは別に評価されます。認定基準では、可動域が健側の4分の1以下に制限されているものを第10級に準ずる関節の機能障害、2分の1以下に制限されているものを第12級に準ずる関節の機能障害として取り扱うとされています。動揺関節の準用とは別の枠組みですので、混同しないようご注意ください。

後遺障害の解説では、「主要運動の可動域制限が基準にわずかに達しない場合には、参考運動の制限を考慮する」という取扱いが紹介されることがあります。もっとも、肘関節の主要運動は屈曲・伸展、前腕の主要運動は回内・回外であり、いずれにも参考運動は定められていません。手関節(手首)には参考運動として橈屈・尺屈が定められていますが、肘と前腕については、この救済の枠組みがそのままは当てはまりません。他の部位の解説を肘に流用しないようご注意ください。

併存するときの原則と、肘関節部の骨折等の例外

認定基準は、回内・回外の可動域制限と同一の上肢の関節の機能障害が残る場合について、原則として併合の方法を用いて準用等級を定めるとしています。そのうえで、手関節部又は肘関節部の骨折等により、手関節又は肘関節の機能障害と回内・回外の可動域制限を残す場合には、いずれか上位の等級で認定するという取扱いを示しています。

この例外は、手関節部・肘関節部の骨折等により機能障害と回旋制限の双方が残った場合についての定めです。動揺性や痛み・しびれとの組合せに、そのまま広げられるものではありません。また、同一の関節・同一の損傷を異なる観点から評価している場合や、一方が他方から通常派生する障害である場合には、別の整理が必要になります。複数の症状があれば当然に併合され、等級が繰り上がり、慰謝料が単純に加算される、というものではありません。

人工肘関節を入れた場合・金属が残っている場合

不安定性や骨の損傷が重く、人工関節や人工骨頭を挿入置換した場合には、動揺関節としての準用ではなく、可動域による機能障害の枠組みで評価が検討されます。認定基準は、人工関節・人工骨頭を挿入置換した関節について、可動域が健側の2分の1以下に制限されているものを「関節の用を廃したもの」、それ以外のものを「関節の機能に著しい障害を残すもの」として取り扱うとしています。人工関節を入れたという事実だけで一つの等級に決まるわけではなく、置換後の可動域が確認されます。

また、骨折の治療で用いた金属が肘に残っている場合には、注意が必要です。認定基準は、骨折部にキュンチャーを装着し、あるいは金属釘を用いたため、それが機能障害の原因となる場合には、当該キュンチャー等の除去を待って等級の認定を行うとしています。もっとも、これは金属が機能障害の原因となっている場合についての定めであり、金属が入っていれば常に認定ができないという意味ではありません。抜去の要否と時期は主治医が判断する事項ですので、申請の時期を検討する際は、主治医の見通しを確認したうえで整理することになります。

仕事・生活への影響と損害の証拠化

肘の安定性は、支える・押す・引く・持ち上げるといった動作に関係します。次のような作業では、不安定性や装具による制限が影響することがあります。

  • 重量物の持上げ・運搬、台車を押す・引く作業
  • 工具や機械の操作、締付け・組立などの反復作業
  • 介護、調理、清掃など、腕で支える動作を伴う作業
  • 長時間の運転、両手を使う作業
  • 荷物を持って階段を上り下りする、子どもを抱くなどの日常動作

大切なのは、「どの作業が、どの方向の不安定性によって、あるいは装具による制限によって、事故前と比べてどの程度行いにくくなったか」を具体的に整理することです。抽象的に「力が入りにくい」と述べるより、作業の内容と支障の内容を結びつけて説明できるほうが、影響を検討しやすくなります。

整理にあたっては、職務記述書や作業工程表、勤務先からの説明、配置転換や職務軽減の記録、欠勤・早退の記録、給与明細、源泉徴収票、確定申告書などの収入資料が手掛かりになります。後遺障害慰謝料、逸失利益、将来の装具費といった損害項目は、等級だけで機械的に決まるものではなく、必要性、相当性、職種、現実の減収、将来の見込み、証拠の内容によって結論が変わります。

硬性補装具を今後も継続して使用する見込みがある場合には、将来の装具費が損害項目として問題になることがあります。この場合、装具の医学的必要性が将来にわたって続く見込みか、どの程度の期間ごとに作り替えが必要とされているかが検討の対象になりますので、処方や作り替えの経緯が分かる資料を残しておくことが有用です。当然に全額が認められるというものではありません。

よく問題になるケース

相談で迷いやすい場面と確認の視点
場面 確認したい視点
曲げ伸ばしは正常だが、ぐらつく 可動域だけを見た記録になっていないか。不安定性の所見が診療録や後遺障害診断書に残っているか
市販のサポーターしか使っていない 装具の構造と処方の経緯。硬性補装具の医学的必要性についての主治医の判断。習慣性脱臼や可動域制限など別の評価の可能性
装具の処方が症状固定の直前だった 処方に至った経緯と、それ以前の診療録に不安定性の訴え・所見が記録されているか
画像所見と自覚症状が一致しない 画像は損傷の存在を示す資料であり、動揺性の程度は診察所見等で確認されること。一貫した訴えが記録されているか
肘に金属が入ったままである 金属が機能障害の原因になっているか。抜去の要否と時期についての主治医の見通し。申請の時期をどう置くか
事故前にも肘を痛めたことがある 事故態様、受傷機転、事故直後からの症状、受診時期、診断の一貫性。既往があることだけで因果関係が否定されたり、一律に減額されたりするわけではありません
非該当・想定より低い等級だった 認定理由の確認。不安定性の所見、装具の必要性と使用状況、事故との因果関係について、提出資料に不足がなかったか

申請前・示談前に確認したいこと

症状固定の前

  • ぐらつく場面(動作・頻度・程度)を、診察時に具体的に伝えているか
  • 不安定性についての診察所見が、通院のたびに記録されているか
  • 装具を使っている場合、処方の経緯と使用状況が記録されているか

後遺障害診断書の作成前

  • 不安定性の内容(方向・程度・左右差)の記載があるか
  • 硬性補装具の必要性と使用状況についての記載があるか
  • 可動域の測定値(屈曲・伸展、前腕の回内・回外)が健側とあわせて記載されているか
  • 痛み・しびれなどの神経症状が別項目として記載されているか

申請の前

  • 画像資料(X線・CT・MRI等)がそろっているか
  • 手術記録・リハビリテーション記録を取り寄せたか
  • 装具の処方箋・製作指示書・適合の記録・領収書がそろっているか
  • 肘に金属が残っている場合、抜去の見通しを主治医に確認したか
  • 仕事の内容と支障が分かる資料を用意したか

認定結果を受け取った後

  • 認定理由を読み、何がどう判断されたかを確認したか
  • 不足していた資料が何かを特定したか(同じ資料の再提出では判断が変わるとは限りません)
  • 異議申立てのほかの手続の選択肢も含めて検討したか

示談の前

  • 損害項目(後遺障害慰謝料、逸失利益、将来の装具費など)に漏れがないか
  • 提示額の前提となっている等級・労働能力喪失率・期間を確認したか
  • 清算条項の内容を確認したか(示談が成立すると原則としてやり直しは困難です)

非該当や想定より低い等級となった場合には、異議申立てのほか、一般財団法人自賠責保険・共済紛争処理機構への紛争処理申請や訴訟といった選択肢もあります。手続の選び方と、期間制限(自賠責保険への被害者請求権と、加害者側に対する損害賠償請求権とでは、期間も起算点も異なります)については、後遺障害が非該当となった場合の異議申立ての判断材料を確認するで整理しています。症状固定を打診されたときの考え方と示談前の確認事項は、症状固定と言われたときに示談前に確認したいことを見るをご覧ください。

弁護士に相談するタイミング

弁護士に相談しても、後遺障害の認定結果や賠償額を保証できるものではありません。もっとも、資料を早めに整理することで、申請の要否、争点、損害項目、示談方針を検討する材料を整えることができます。次のような場面が、相談を検討するひとつの目安になります。

  • 肘の不安定感が残り、症状固定や後遺障害申請の要否を検討したいとき
  • 後遺障害診断書の作成前に、記載内容を確認しておきたいとき
  • 装具の資料や診察所見がそろっているか整理したいとき
  • 肘に金属が残っており、申請の時期を検討したいとき
  • 非該当・低位認定となり、認定理由と追加資料を検討したいとき
  • 保険会社から示談案が届き、前提を確認したいとき

よくあるご質問

肘がぐらつく感じがありますが、曲げ伸ばしは普通にできます。後遺障害の対象になりますか。

可動域が保たれていても、関節の不安定性(動揺関節)として別に評価が検討されることがあります。もっとも、ぐらつくという自覚だけで等級が決まるものではなく、靱帯損傷等の器質的な損傷、診察や検査で確認される動揺性、装具の必要性を資料で確認したうえでの判断になります。個別事情により結論は異なります。

肘の動揺関節では、何級が問題になりますか。

労災保険の障害等級認定基準は、上肢の動揺関節について、常に硬性補装具を必要とするものを第10級に準ずる関節の機能障害、時々硬性補装具を必要とするものを第12級に準ずる関節の機能障害として取り扱うとしています。習慣性脱臼についても、別の定めで第12級に準ずる関節の機能障害とされています。動揺関節は等級表に項目がないため、「準ずるもの」「相当するもの」として評価されます。

膝の動揺関節と同じ基準で判断されるのですか。

異なります。下肢(膝など)の動揺関節では、常に硬性補装具を必要とするものが第8級に準ずる、時々必要とするものが第10級に準ずる、重激な労働等の際以外には必要としないものが第12級に準ずるとされており、区分も等級も上肢とは違います。膝について解説した記事や資料をそのまま肘に当てはめないようご注意ください。

硬性補装具とは何ですか。市販のサポーターとは違うのですか。

公的な補装具の基準では、肘装具は「上腕部から前腕部に及び、肘関節の運動を制御する」ものとされ、構造により、硬性(陽性モデルを用いて成形されたもの。補強用の支柱等を含む)、両側支柱付、軟性(軟性材料を主材料としたもの)などに区分されています。支柱等で関節の動きを制御する構造の装具と、伸縮素材だけの市販サポーターとでは関節を支える力が異なります。ただし呼び方や商品名だけでは判断できないため、構造、処方の経緯、医師の指示内容を資料で確認する必要があります。

軟性のサポーターしか使っていません。もう後遺障害は認められないのでしょうか。

そのように決まるわけではありません。まず、装具の該当性は外観だけでなく構造や処方内容で確認します。また、動揺関節としての評価が難しい場合でも、習慣性脱臼、肘の可動域制限、前腕の回旋制限、痛みやしびれといった神経症状など、別の観点からの評価が残る場合があります。使用している装具の種類だけで結論を出さず、症状全体と資料を確認したうえで判断する必要があります。

どのような資料が確認されますか。

事故直後の診断書や初診時の所見、X線・CT・MRI等の画像、診察で確認された動揺性の所見や左右差、必要に応じて実施された検査、手術記録、リハビリテーション記録、装具の処方箋・製作指示書・適合の記録・使用状況、後遺障害診断書などです。すべての事案でこれらが必要になるわけではなく、検査や装具の医学的な必要性は主治医が判断する事項です。

肘の曲げ伸ばしの制限や、前腕を返しにくい症状もあります。別々に評価されますか。

一律には決まりません。認定基準は、前腕の回内・回外の可動域制限と同一の上肢の関節の機能障害が残る場合には、原則として併合の方法を用いて準用等級を定めるとしています。ただし、肘関節部の骨折等により、肘関節の機能障害と回内・回外の可動域制限の双方が残る場合には、いずれか上位の等級で認定するという例外が示されています。同一の関節を別の観点から評価している場合の整理も必要になるため、資料を確認したうえでの検討が必要です。

非該当だった場合や、想定より低い等級だった場合はどうすればよいですか。

異議申立てのほか、紛争処理申請や訴訟といった選択肢があります。進める前に、まず認定理由を確認し、動揺性に関する所見、装具の必要性や使用状況、事故との因果関係について、提出資料に不足がなかったかを検討することが重要です。同じ資料をそのまま再提出しても判断が変わるとは限りません。手続の選択や期限は事案により異なるため、資料を確認したうえで方針を検討することをおすすめします。

まとめ|次に確認したいこと

  • 肘の「ぐらつき」「抜けそう」は、可動域制限や痛み・しびれとは別の枠組みで検討されます。
  • 上肢の動揺関節は、常に硬性補装具を必要とするものが第10級に準ずる、時々必要とするものが第12級に準ずる関節の機能障害とされ、習慣性脱臼も別の定めで第12級に準ずるとされています。
  • 上肢には、下肢にある「重激な労働等の際以外には必要としないもの」の区分がありません。膝の基準を肘に当てはめないでください。
  • 「時々硬性補装具を必要とするもの」は、動揺関節では第12級に準ずるものとされる一方、前腕の骨のゆ合不全(偽関節)では第8級8号の要件の一つとされています。別の障害についての同じ文言です。
  • 装具は名称や外観ではなく、構造・処方の経緯・使用状況で確認されます。装着時間だけで等級が決まるものではありません。
  • 人工肘関節を入れた場合は可動域による枠組みで、金属が機能障害の原因となっている場合は除去を待って認定するという取扱いが示されています。
  • 不安定性の所見と装具の必要性が資料に記録されているかを、後遺障害診断書の作成前に確認しておくことが大切です。

肘の動揺関節が問題になる事案では、上肢と下肢で異なる評価の区分、硬性補装具の必要性、動揺性を示す所見の記録など、確認すべき点が多岐にわたります。当事務所では、交通事故の初回のご相談を無料でお受けしています(事前予約制)。後遺障害診断書の作成前、申請方法の選択、認定結果を受け取った後、示談書への署名前のいずれの段階でも、資料と争点、手続の選択肢を整理したうえで見通しを検討できます。

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監修者・執筆者

弁護士・公認会計士 藤井 貴之(ふじい たかゆき) 弁護士法人ひょうご支所 神戸みらい法律会計事務所 代表弁護士

兵庫県弁護士会所属。日本公認会計士協会兵庫会所属。取扱分野は、遺産相続、交通事故、労働、債務整理、企業法務、M&A、事業承継、契約書作成・レビュー、商事法務。

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