交通事故で頭を打ったあと、けいれん、意識が途切れる、呼びかけに反応しない、その場にそぐわない動作を繰り返すといった症状が現れることがあります。ご本人には記憶が残らないことも多く、ご家族が先に異変に気づかれる場合も少なくありません。
このときに多くの方が悩まれるのは、「後遺障害として評価されるのか」「仕事を続けられるのか」「運転免許はどうなるのか」という三点です。先に結論を申し上げると、発作が起きたという事実だけで後遺障害等級が決まるわけではありません。また、てんかんと診断されたことだけで運転免許が一律に取り消される制度にもなっていません。いずれも、診断内容、発作の型と頻度、治療の経過、事故との関係、医師の診断を踏まえて、個別に判断されます。
この記事では、外傷性てんかんが後遺障害としてどのように検討されるのか、事故との因果関係を裏付ける資料は何か、運転免許の取得・更新・継続がどのような仕組みで判断されるのか、示談や後遺障害の申請の前に何を整えておくべきかを、法令と公的資料に沿って整理します。
この記事で分かること
- 頭部外傷後の発作と、外傷性てんかんという診断との違い
- 発作の型・頻度から検討される後遺障害等級と、その根拠の階層
- 事故との因果関係を裏付ける医療資料と、それぞれの限界
- 高次脳機能障害を併発している場合の評価の考え方
- 運転免許が個別に判断される仕組みと、現行の運用基準
- 運転を要する仕事の減収を逸失利益として主張する際の立証
- 示談前・後遺障害申請前・運転再開前に確認しておきたいこと
事故後に発作が起きた方、ご家族の方へ
診断が確定している段階でも、まだ検査中の段階でも、医療記録、発作の経過、保険会社から届いた書類を整理しておくことで、今後の見通しを検討しやすくなります。神戸みらい法律会計事務所では、交通事故について初回相談を無料で承っています。
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外傷性てんかんの後遺障害と運転免許|最初に確認したい結論
外傷性てんかんが問題となる場面では、確認すべき事項が「等級」「因果関係」「運転免許」「示談の時期」の四つに分かれます。それぞれ判断する主体も、必要な資料も異なります。
| 確認する軸 | 結論の方向性 | 主に確認する資料・窓口 |
|---|---|---|
| 後遺障害等級 | 発作の型と頻度が出発点になりますが、回数だけで自動的に決まるものではありません。治療経過、症状固定時の状態、就労への支障もあわせて検討されます。 | 後遺障害診断書、診療録、脳波・画像、発作の記録 |
| 事故との因果関係 | 頭部外傷の程度、事故直後の意識障害、発作が生じるまでの経過、事故前の既往が問題になります。 | 救急搬送記録、初診時の診療録、CT・MRI、事故前の診療録 |
| 運転免許 | 診断名だけで一律に取り消される制度ではありません。公安委員会が、医師の診断等を参考に個別に判断します。 | 主治医の診断、都道府県警察の安全運転相談窓口 |
| 示談の時期 | 示談が成立すると、原則として後から追加請求することが難しくなります。等級、将来の治療、仕事への影響を確認してから判断する必要があります。 | 保険会社からの提示書、就労・収入資料 |
この記事で断定できないこと
てんかんかどうかの診断、治療方針、運転を再開してよいかどうかは、いずれも医師及び公安委員会が判断する事項です。この記事は制度の仕組みを整理するものであり、個別の診断、治療、運転の可否、等級の見通しを保証するものではありません。
外傷性てんかんとは|頭部外傷後の発作との違い
頭部外傷のあとに発作が一度起きたとしても、それだけで外傷性てんかんと確定するわけではありません。医学上、発作が起きた時期と原因によって扱いが分かれます。
頭部外傷から7日以内の発作は、てんかんとは区別されています
日本神経学会「てんかん診療ガイドライン2018」では、急性症候性発作を「代謝性、中毒性、器質性、感染性、炎症性などの急性中枢神経系障害と時間的に密接に関連して起こる発作」と定義し、頭部外傷については「頭部外傷から7日以内に起こる発作」がこれに当たると整理されています。同ガイドラインは、急性症候性発作を「てんかんの非誘発性発作とは明確に区別する」としています。
つまり、事故直後にけいれんが起きたことと、その後にてんかんと診断されることは、医学的には別の事柄です。事故直後の発作があったからといって当然にてんかんになるわけではなく、逆に、事故直後には発作がなくても、時間が経ってから発作が反復することがあります。
てんかんの診断は、発作の反復や再発の見込みを踏まえて行われます
同ガイドラインは、てんかんの定義として、24時間以上の間隔で2回以上の非誘発性(または反射性)発作が生じること、1回の非誘発性発作の後に今後10年間の再発率が60パーセント以上と見込まれること、てんかん症候群と診断されること、のいずれかを挙げています。
また、診断に当たっては「十分な情報(病歴)を収集することおよび発作の現場を目撃することがてんかんの診断に最も有用である」とされています。ご家族や職場の方が見た発作の様子は、診断の場面でも、後の後遺障害の検討の場面でも重要な情報になります。
発作に見える症状には、別の原因もあります
同ガイドラインでは、成人の鑑別として神経調節性失神や心原性失神、心因性非てんかん発作が挙げられています。初診の段階で「けいれんがあった=てんかん」と決めつけることはできず、心電図や脳波、画像などを含めた検討が必要になります。低血糖や薬剤の影響が問題になることもあります。
この記事の説明を根拠に、ご自身やご家族の症状をてんかんと判断したり、逆に否定したりしないでください。発作が疑われる症状があった場合は、まず医療機関を受診し、いつ、どのような状況で、どの程度の時間続いたかを正確に伝えてください。
制度上の用語と、現在の医学用語には違いがあります
後遺障害の認定基準や警察庁の運用基準には、「強直間代発作」「転倒する発作」「単純部分発作」といった、制定・発出当時の用語が使われています。他方、現在の医学では国際抗てんかん連盟(ILAE)の2017年分類が広く用いられ、日本てんかん学会分類・用語委員会による日本語訳では、単純部分発作は「焦点意識保持発作」、複雑部分発作は「焦点意識減損発作」、二次性全般化発作は「焦点起始両側強直間代発作」に対応するとされています。
法令や通達を説明する場面ではその文書の用語をそのまま用いる必要がありますが、診断書に記載された発作型が古い用語と一致しないことがあります。ご自身の発作がどの型に当たるかは、記事の分類表ではなく、主治医の記載と説明で確認してください。
発作の型と頻度で検討される後遺障害等級
外傷性てんかんの等級は、発作の型と頻度を出発点として検討されます。ただし、その根拠は一つの表にまとまっているわけではなく、次の三層の関係になっています。
等級の根拠は三層構造になっています
| 階層 | 資料 | 内容 |
|---|---|---|
| 法令 | 自動車損害賠償保障法施行令 別表第一・別表第二 | 「神経系統の機能又は精神」の障害として等級が定められています。「外傷性てんかん」という独立した項目は置かれていません。 |
| 支払基準 | 自動車損害賠償責任保険の保険金等及び自動車損害賠償責任共済の共済金等の支払基準(国土交通省・金融庁告示) | 第3において「等級の認定は、原則として労働者災害補償保険における障害の等級認定の基準に準じて行う」と定められています。 |
| 詳細な認定基準 | 厚生労働省「神経系統の機能又は精神の障害に関する障害等級認定基準について」(平成15年8月8日付基発第0808002号) | 労災保険の認定基準として、外傷性てんかんの発作の型・頻度ごとの基準が示されています。 |
つまり、発作の型と頻度による細かい基準は労災保険の認定基準に置かれており、自賠責保険はこれに準じて等級を認定する、という関係です。同じ「第5級」でも、労災の障害等級表と自賠責の別表第二とでは号数が異なりますので、資料を読むときは制度名と号数をあわせて確認してください。
発作の型・頻度ごとに検討される等級
次の表は、労災保険の認定基準に示された外傷性てんかんの基準と、これに対応する自賠責の別表第二の等級・号数を並べたものです。表に当てはめれば等級が決まるという性質のものではなく、あくまで検討の出発点としてご覧ください。
| 自賠責(別表第二) | 労災の認定基準 | 発作の型 | 発作の頻度・抑制状況 | 労務への影響として想定されている水準 | 注意点 |
|---|---|---|---|---|---|
| 第5級2号 | 第5級の1の2 | 意識障害の有無を問わず転倒する発作、又は意識障害を呈し状況にそぐわない行為を示す発作 | 1か月に1回以上 | 特に軽易な労務以外の労務に服することができない状態 | 発作の型と頻度の両方を満たすことが前提です。 |
| 第7級4号 | 第7級の3 | 転倒する発作等/それ以外の発作 | 転倒する発作等が数か月に1回以上、又はそれ以外の発作が1か月に1回以上 | 軽易な労務以外の労務に服することができない状態 | 発作の型によって、求められる頻度が変わります。 |
| 第9級10号 | 第9級の7の2 | 転倒する発作等以外の発作/服薬により抑制されている状態 | 数か月に1回以上、又は服薬継続によりほぼ完全に抑制されているもの | 服することができる労務が相当な程度に制限される状態 | 服薬で発作が止まっている場合も、基準の文言上は検討の対象に含まれています。 |
| 第12級13号 | 第12級の12 | 発作の発現なし | 脳波上に明らかにてんかん性棘波を認めるもの | 局部に頑固な神経症状を残す状態 | 脳波所見があれば当然に認定されるものではなく、事故との関係も検討されます。 |
| 第3級3号以上の検討 | 第3級以上の高次脳機能障害の基準による | ― | 1か月に2回以上の発作 | 終身労務に服することができない状態、又は介護を要する状態 | 認定基準は、この場合は通常高度の高次脳機能障害を伴うとして、高次脳機能障害の基準で等級を認定するものとしています。 |
発作が1か月に2回以上ある場合は、高次脳機能障害の基準で検討されます
労災の認定基準は、「1か月に2回以上の発作がある場合には、通常高度の高次脳機能障害を伴っているので、脳の高次脳機能障害に係る第3級以上の認定基準により障害等級を認定すること」としています。この場合は、てんかんの発作回数だけを見るのではなく、記憶、注意、遂行機能、社会的行動などの状態を含めた全体像で検討されることになります。
高次脳機能障害の認定に必要な検査や記録については、別の記事で詳しく整理しています。
発作の回数だけで等級が決まるわけではありません
実際の認定では、次のような点があわせて確認されます。
- てんかんという診断がどの資料でどのように示されているか
- 頭部外傷の内容と、事故直後の意識障害の程度・持続時間
- CT・MRIで脳の器質的損傷が認められるか
- 発作の型と頻度が、診療録や発作の記録で裏付けられているか
- 症状固定と判断された時点での状態と、その後の見通し
- 服薬の内容、副作用、治療を継続する必要性
- 就労、通学、家事、外出などにどのような支障が生じているか
認定基準は、脳の器質的損傷について「MRI、CT等によりその存在が認められることが必要であること」とし、外傷性てんかんについては「脳波検査が重要であり、MRI、CT等の画像診断は、発作の原因等を判断するのに有用」としています。検査結果が単独で結論を決めるのではなく、症状の経過と組み合わせて評価されるという点が重要です。
事故との因果関係を検討する資料
外傷性てんかんでは、「発作があること」と「その発作が事故による頭部外傷に由来すること」を分けて検討する必要があります。発作が事故から時間をおいて生じることがあるため、事故直後の記録が後になって重要な意味を持ちます。
| 資料 | 主に確認できること | 限界・注意点 |
|---|---|---|
| 救急搬送記録・初診時の診療録 | 受傷機転、来院時の意識レベル、意識障害の持続時間、初期の神経学的所見 | 記載が簡潔なことがあります。搬送先と転院先の両方の確認が必要です。 |
| 頭部CT・MRIと読影所見 | 脳挫傷、出血、瘢痕などの器質的損傷の有無と部位 | 所見がないことが直ちに否定材料になるとは限らず、所見があれば当然に因果関係が認められるわけでもありません。 |
| 脳波検査(必要に応じ長時間脳波・ビデオ脳波) | てんかん性放電の有無、発作時の脳波所見 | ガイドラインでは、てんかん患者の約50パーセントは正常脳波であるとの報告が紹介されています。 |
| 発作の目撃記録・発作日誌 | 発作時の動作、意識の状態、持続時間、頻度と型の推移 | 後からまとめて作成したものは信用性が問題になり得ます。日付を伴う継続的な記録が有効です。 |
| 処方歴・服薬状況・血中濃度検査 | 治療の内容と経過、服薬により抑制されているかどうか | 服薬状況が不安定な場合、発作の頻度の評価に影響することがあります。 |
| 事故前の診療録・健康診断結果 | 事故前の発作歴、頭部外傷歴、既往症、服薬歴の有無 | 相手方から既往の主張が出ることがあります。早めの確認が必要です。 |
| 就労記録・勤怠記録 | 欠勤、業務制限、配置転換、運転業務の有無 | 勤務先の協力が必要で、時間が経つと入手しにくくなります。 |
| 後遺障害診断書・医師の意見書 | 症状固定時の状態、発作の型と頻度、治療の見通し | 記載内容は医師が判断する事項です。事実を正確に伝えることが前提になります。 |
発作日誌には、事実をそのまま残してください
発作の記録は、診断の場面でも後遺障害の検討の場面でも役に立ちます。次の項目を、気づいた範囲で残しておくと有効です。
- 発作が起きた日時と場所
- 直前の状況(睡眠不足、飲酒、服薬を忘れていたかなど)
- 呼びかけへの反応の有無
- 体の動き(転倒、けいれん、動作の停止、同じ動作の反復など)
- 持続時間と、元の状態に戻るまでの経過
- 受診の有無と、受診先で伝えた内容
発作の様子を動画で残すことが医師の判断の助けになる場合もありますが、撮影を優先して救護や安全確保が遅れることがあってはなりません。まず安全を確保し、必要な場合は救急要請を行ってください。
診断書の内容を誘導することは避けてください
後遺障害診断書に何が書かれるかは重要ですが、ご本人やご家族が結論を誘導するような伝え方をすることは適切ではありません。伝えるべきなのは、いつ、どのような発作が、どの程度の頻度で起きているか、日常生活と仕事にどのような支障が出ているかという事実です。医学的な評価は医師の判断に委ねられます。
後遺障害診断書の作成前に確認したい資料を見る/後遺障害の証拠の集め方と手順を確認する
高次脳機能障害や既往のてんかんがある場合
中枢神経系の障害は、全体病像として評価される取扱いがあります
労災の認定基準は、脳の器質的損傷による障害について、たとえば「高次脳機能障害が第5級に相当し、軽度の片麻痺が第7級に相当するから、併合の方法を用いて準用等級第3級と定めるのではなく、その場合の全体病像として、第1級の3、第2級の2の2又は第3級の3のいずれかに認定すること」としています。
したがって、高次脳機能障害と外傷性てんかんの両方が残った場合に、それぞれの等級を機械的に併合して等級が繰り上がるとは限りません。同じ中枢神経系の障害として、全体としてどの水準に当たるかが検討されます。逆に、二重に評価されることを避けるという趣旨でもありますので、いずれかが評価されないという意味ではありません。
高次脳機能障害で家族が整える日常生活状況報告書の記録方法を見る
事故前から発作や既往がある場合
事故前にてんかんの診断や発作歴、頭部外傷歴がある場合には、事故との因果関係、加重障害の取扱い、素因減額の主張といった論点が生じ得ます。もっとも、事故前に既往があることが直ちに請求を妨げるわけではありません。事故前後で発作の型や頻度がどのように変化したか、治療内容がどう変わったかを、診療録で確認することが出発点になります。
また、自賠責保険の保険金額の枠内での調整と、加害者に対する損害賠償請求全体の評価は別の問題です。保険金額の単純な差引きだけで賠償の全体像が決まるわけではありません。
外傷性てんかんで検討する損害
後遺障害等級が認定された場合に問題となり得る損害は、次のように分かれます。等級が決まれば賠償額が自動的に定まるわけではありません。
| 損害項目 | 内容 | 検討のポイント |
|---|---|---|
| 後遺障害慰謝料 | 後遺障害が残ったことによる精神的苦痛に対する賠償 | 自賠責の支払基準による額と、裁判実務で参照される水準は一致しないことがあります。 |
| 後遺障害逸失利益 | 後遺障害により将来の収入が減少することによる損害 | 基礎収入、労働能力喪失率、喪失期間、中間利息控除をそれぞれ検討します。 |
| 将来の治療関係費 | 抗てんかん発作薬の継続投薬、定期的な脳波・血液検査、通院費用など | 必要性、相当性、期間、医師の見解、実際の支出又はその蓋然性を示す必要があります。 |
| 見守り・付添いに要する費用 | 転倒を伴う発作がある場合の入浴、外出、就寝時の見守りなど | 発作の型と頻度、実際に生じている負担、代替手段の有無を具体的に示す必要があります。 |
| 通院交通費その他 | 通院交通費、文書料など | 公共交通機関を利用できない事情がある場合は、その理由を記録しておくことが有効です。 |
自賠責の基準と、裁判実務の評価は別のものです
自賠責の支払基準では、別表第二の後遺障害慰謝料として、第3級861万円、第5級618万円、第7級419万円、第9級249万円、第12級94万円と定められています。また、自賠責保険金額(傷害分とは別の後遺障害分の限度額)は、第3級2,219万円、第5級1,574万円、第7級1,051万円、第9級616万円、第12級224万円です。労働能力喪失率は、支払基準の別表において、第3級100パーセント、第5級79パーセント、第7級56パーセント、第9級35パーセント、第12級14パーセントとされています。
これらは自賠責保険の支払における基準です。加害者や任意保険会社に対する損害賠償請求では、裁判実務上参照される基準を前提に検討することになり、金額や喪失率の考え方が異なる場合があります。自賠責で認定された等級と、裁判所の判断が常に一致するとも限りません。
運転免許への影響|診断だけで一律に取り消されるわけではありません
「てんかんと診断されたら免許は取り消される」という理解は、現行の制度とは異なります。道路交通法は、病名そのものではなく、安全な運転に支障を及ぼすおそれがあるかどうかを、公安委員会が個別に判断する仕組みを採っています。
制度の仕組み
道路交通法第90条第1項ただし書は、一定の病気にかかっている者について、「政令で定める基準に従い、免許を与えず、又は六月を超えない範囲内において免許を保留することができる」と定めています。既に免許を受けている場合は、同法第103条第1項が、「政令で定める基準に従い、その者の免許を取り消し、又は六月を超えない範囲内で期間を定めて免許の効力を停止することができる」と定めています。
そして、道路交通法施行令第33条の2の3第2項第1号は、対象となる病気として「てんかん(発作が再発するおそれがないもの、発作が再発しても意識障害及び運動障害がもたらされないもの並びに発作が睡眠中に限り再発するものを除く。)」と定めています。括弧書きにより、一定の場合が対象から除かれている点が重要です。
判断するのは公安委員会です。主治医の診断は重要な判断資料になりますが、主治医が行政処分の内容を決めるわけではありません。また、拒否・保留・取消し・停止はそれぞれ別の処分であり、いずれに当たるかも個別に判断されます。
現行の運用基準
警察庁は、令和7年2月28日付警察庁丁運発第73号「一定の病気等に係る運転免許関係事務に関する運用上の留意事項について」(令和7年3月24日施行)により、運用上の留意事項を示しています。この通達により、令和4年3月14日付警察庁丁運発第68号は廃止されています。てんかんに関する判断の枠組みは、次のとおりです。
| 区分 | 医師の診断の内容 | 経過観察 | 備考 |
|---|---|---|---|
| 拒否等を行わない(ア) | 発作が過去5年以内に起こったことがなく、医師が「今後、発作が起こるおそれがない」旨の診断を行った場合 | ― | ― |
| 拒否等を行わない(イ) | 発作が過去2年以内に起こったことがなく、医師が「今後、x年程度であれば、発作が起こるおそれがない」旨の診断を行った場合 | ― | 通達では年数を医師の診断に委ねる表記になっています。この場合、一定期間の経過後に臨時適性検査等が行われるものとされています。 |
| 拒否等を行わない(ウ) | 医師が「発作が意識障害及び運動障害を伴わない単純部分発作に限られ、今後、症状の悪化のおそれがない」旨の診断を行った場合 | 1年間 | 通達の用語は「単純部分発作」です。現在の医学用語では焦点意識保持発作が対応するとされています。 |
| 拒否等を行わない(エ) | 医師が「発作が睡眠中に限って起こり、今後、症状の悪化のおそれがない」旨の診断を行った場合 | 2年間 | ― |
| 6月の保留又は停止 | 医師が「6月以内に上記に該当すると診断できることが見込まれる」旨の診断を行った場合 | ― | その後、診断書や適性検査の結果により判断されます。 |
| 拒否又は取消し | 上記のいずれにも当たらない場合 | ― | ― |
この枠組みは、「何年発作がなければ運転できる」という単純な期間の問題ではありません。いずれの区分でも、医師が発作の状況と今後の見込みについて診断を行うことが前提であり、その診断を踏まえて公安委員会が判断します。2年間発作がなければ自動的に運転を再開できる、という制度ではない点にご注意ください。
準中型・中型・大型免許及び第二種免許は、普通免許と同じ扱いではありません
上記の通達は、日本てんかん学会の見解として、投薬なしで過去5年間発作がなく今後も再発のおそれがない場合を除き、準中型免許(準中型免許(5トン限定)を除く。)、中型免許(中型免許(8トン限定)を除く。)、大型免許及び第二種免許の適性はないとする内容を示しています。該当する方に対しては、この見解を説明したうえで申請の再考を勧めることとされています。
これは法律上の一律・絶対的な欠格事由という意味ではありませんが、運転を職業とされている方にとっては影響が大きい部分です。運転区分ごとの取扱いは、必ず主治医と都道府県警察の窓口で確認してください。
質問票、診断書の提出、臨時適性検査、安全運転相談
免許の申請時や更新時には、一定の症状の有無を尋ねる質問票が用いられます。質問票には正確に回答する必要があります。道路交通法第117条の4は、同法第89条第1項、第101条第1項又は第101条の2第1項の質問票に虚偽の記載をして提出した者を、1年以下の拘禁刑又は30万円以下の罰金に処する旨を定めています。
もっとも、質問票で該当する旨を回答したことにより、直ちに免許が停止・取消しになるわけではありません。道路交通法第102条第4項は、一定の病気に該当する疑いがある場合に、公安委員会が臨時に適性検査を行い、又は医師の診断書の提出を命ずることができると定めています。まず事実関係と医学的な状態が確認され、そのうえで判断される仕組みです。
また、道路交通法第101条の6は、医師が診察の結果を公安委員会に「届け出ることができる」と定めています。これは医師の任意の届出制度であり、診断を受けた医師に一律の届出義務が課されているものではありません。
これらとは別に、道路交通法第66条は、「何人も、前条第一項に規定する場合のほか、過労、病気、薬物の影響その他の理由により、正常な運転ができないおそれがある状態で車両等を運転してはならない」と定めています。免許の有無や行政処分の状況とは別に、その時点で安全な運転ができないおそれがある状態での運転は禁じられています。
兵庫県内で相談できる窓口
兵庫県警察は、病気等に係る運転免許の取得・継続等について、安全運転相談を受け付けています。掲載時点で公表されている内容は次のとおりです。
- 窓口:兵庫県警察運転免許課 高齢運転者等支援室 相談係(明石市荷山町1649-2 明石運転免許試験場3階)、及び各警察署の免許窓口
- 安全運転相談ダイヤル:♯8080
- 受付時間:平日のみ 午前9時から午後0時まで、午後1時から午後4時まで
窓口の名称、所在地、電話、受付時間は変更されることがあります。ご利用の前に兵庫県警察の公式ページで最新の案内をご確認ください。
運転再開を自己判断しないでください
発作が落ち着いてきたと感じても、運転を再開してよいかどうかは、主治医の診断と公安委員会の判断によります。また、免許の要件を満たすことを目的として、服薬を自己判断で中止したり量を減らしたりすることは絶対に避けてください。治療内容の変更は必ず主治医の判断に従ってください。
運転を要する仕事と逸失利益の立証
運転が業務の中心である方や、通勤・営業活動に自動車が不可欠な方にとって、運転の制限は収入に直結します。他方で、運転ができなくなったことだけをもって、直ちに労働能力の全部を失ったと評価されるわけではありません。
逸失利益を主張する場合には、等級ごとの標準的な労働能力喪失率を当てはめるだけでなく、実際にどのような支障が生じているかを具体的に示すことが必要になります。
| 確認する事項 | 示すべき内容 | 主な資料 |
|---|---|---|
| 従前の職務内容 | 運転業務の割合、走行距離、担当区域、勤務形態 | 雇用契約書、業務日報、運行記録、就業規則 |
| 必要な免許区分 | 業務に必要な免許の種類と、その取得・維持の状況 | 免許証の写し、社内規程、募集要項 |
| 事故後の職務の変化 | 配置転換、業務制限、担当外し、雇用形態の変更 | 辞令、業務指示書、勤務表 |
| 収入の変化 | 基本給、手当(乗務手当・残業代等)、賞与の増減 | 給与明細、源泉徴収票、確定申告書 |
| 代替業務と危険作業 | 社内で従事し得る他の業務の有無と処遇、高所作業・危険機械の操作・夜勤等の可否 | 勤務先の回答、作業手順書、安全衛生規程、産業医の意見 |
自営業や会社役員の方は、収入の把握の仕方自体が争点になりやすい類型です。基礎収入の立証については、別の記事で整理しています。
示談・後遺障害申請・運転再開前のチェックリスト
示談が成立すると、原則として後から追加の請求をすることは難しくなります。特に外傷性てんかんでは、将来の投薬や検査が続く可能性があるため、見通しを確認してから判断する必要があります。
医療に関する資料
- 救急搬送記録、初診時の診療録、意識障害に関する記載
- 頭部CT・MRIの画像と読影所見(画像データそのものも保管)
- 脳波検査の結果(実施日と検査条件を含む)
- 処方内容の一覧と、服薬の継続状況
- 後遺障害診断書の記載内容(発作の型、頻度、治療の見通し)
発作に関する記録
- 発作日誌(日時、直前の状況、意識、動作、持続時間、回復までの経過)
- 家族・同僚等による目撃状況のメモ
- 受診の有無と、医師に伝えた内容
事故に関する資料
- 交通事故証明書、事故状況が分かる資料
- 事故前の診療録、健康診断結果、既往歴・服薬歴が分かる資料
仕事・収入に関する資料
- 給与明細、源泉徴収票、確定申告書
- 欠勤、配置転換、業務制限が分かる資料
- 運転業務の有無と、必要な免許区分が分かる資料
保険・手続に関する資料
- 保険会社から届いた書類(示談案、損害額の内訳、同意書等)
- 事前認定と被害者請求のどちらで進めるかの方針
- ご自身やご家族の自動車保険等に弁護士費用特約が付いているかどうか
運転再開に関する確認
- 主治医への確認(現在の状態で運転してよいか、いつ再度相談すべきか)
- 都道府県警察の安全運転相談窓口への確認
- 必要とされる診断書の様式と提出先
- 業務で必要な免許区分についての取扱い
後遺障害診断書の作成前、示談の前に
発作の型と頻度、検査結果、治療の経過、事故との関係、仕事への影響は、それぞれ別の資料で確認していく必要があります。書類がそろっていない段階でも、いま何を集めておくべきかを整理することができます。
弁護士に相談するタイミング
弁護士は、診断や運転の可否を決める立場にはありません。損害賠償に関する法律上の見通し、必要な資料の整理、後遺障害の申請方法の選択、保険会社との交渉方針を検討することが役割です。次の場面では、早めに整理しておくことで選択肢が広がります。
| 場面 | 主に検討すること |
|---|---|
| 後遺障害診断書を作成してもらう前 | 発作の型・頻度・治療経過について、どの事実を医師に正確に伝えるべきか。追加の検査資料が必要か。 |
| 症状固定を打診されたとき | 治療の継続の要否、症状固定時期の考え方、その後の手続の流れ。 |
| 事前認定か被害者請求かを選ぶとき | それぞれの手続の特徴、提出資料の範囲、時間的な見通し。 |
| 非該当・想定より低い等級だったとき | 不足していた資料や争点の分析。同じ資料を再提出するだけでは結論が変わりにくい点。 |
| 示談案の提示を受けたとき | 損害項目の漏れ、将来治療費や見守り費用の要否、過失割合、署名前の確認事項。 |
| 運転業務を外れた、収入が減ったとき | 逸失利益・休業損害の主張の組立てと、必要な立証資料。 |
よくある質問
交通事故のあとに一度発作があれば、外傷性てんかんになりますか。
一度の発作だけで確定するわけではありません。日本神経学会のガイドラインでは、頭部外傷から7日以内に起こる発作は急性症候性発作として、てんかんの非誘発性発作とは区別されています。てんかんかどうかは、病歴、目撃情報、脳波、画像等を踏まえて医師が判断します。まずは受診し、発作の状況を正確に伝えてください。
脳波が正常でも、てんかんと診断されることはありますか。
あり得ます。ガイドラインでは、てんかん患者の約50パーセントは正常脳波であるとの報告が紹介されており、検査の回数を重ねることや睡眠時の記録により検出率が上がるとされています。一方で、脳波にてんかん性の所見があることだけで事故との因果関係や等級が決まるわけでもありません。経過と併せた検討が必要です。
薬で発作が止まっていても、後遺障害として評価される可能性はありますか。
可能性はあります。労災保険の認定基準では、第9級の7の2の基準として「服薬継続によりてんかん発作がほぼ完全に抑制されているもの」が挙げられており、自賠責では別表第二第9級10号が対応します。ただし、服薬していれば必ずこの等級になるという意味ではありません。診断の内容、治療の継続の必要性、事故との関係を含めて判断されます。
発作の頻度が同じなら、後遺障害等級も同じになりますか。
同じとは限りません。認定基準は、頻度だけでなく発作の型を組み合わせて基準を定めています。たとえば同じ「1か月に1回」でも、転倒を伴う発作か、そうでないかで検討される等級が変わります。加えて、事故との因果関係、症状固定時の状態、就労への支障もあわせて確認されます。
高次脳機能障害と外傷性てんかんは、それぞれ別に等級が付いて合算されますか。
単純に合算されるとは限りません。労災の認定基準は、脳の器質的損傷による障害について、併合の方法によるのではなく全体病像として等級を認定するという考え方を示しています。また、1か月に2回以上の発作がある場合は、通常高度の高次脳機能障害を伴うとして、高次脳機能障害の第3級以上の基準により認定するものとされています。
てんかんと診断されると、運転免許は必ず取り消されますか。
必ず取り消される制度ではありません。道路交通法施行令は、発作が再発するおそれがないもの、発作が再発しても意識障害及び運動障害がもたらされないもの、発作が睡眠中に限り再発するものを対象から除いています。公安委員会が、医師の診断等を参考に、拒否・保留・取消し・停止のいずれに当たるかを個別に判断します。
2年間発作がなければ、すぐに運転を再開できますか。
期間だけで決まるものではありません。警察庁の現行の運用基準では、発作が過去2年以内に起こったことがなく、医師が今後一定の期間は発作が起こるおそれがない旨の診断を行った場合が区分の一つとして挙げられていますが、いずれの区分でも医師の診断と公安委員会の判断が前提です。再開の前に、主治医と安全運転相談窓口にご確認ください。
免許更新の質問票で該当する旨を回答すると、直ちに免許停止になりますか。
直ちに停止になるわけではありません。道路交通法第102条第4項により、公安委員会は臨時に適性検査を行い、又は医師の診断書の提出を命ずることができるとされており、まず状態が確認されます。他方、質問票に虚偽の記載をして提出した場合は、同法第117条の4により1年以下の拘禁刑又は30万円以下の罰金の対象となります。正確に回答してください。
運転できなくなったことによる減収は、逸失利益として請求できますか。
請求を検討できる場合があります。ただし、運転の制限があることだけで労働能力の全部を失ったと評価されるわけではありません。従前の職務内容、必要な免許区分、配置転換や業務制限の有無、実際の収入の変化、代替業務の有無を、雇用契約書、業務日報、辞令、給与明細等で具体的に示す必要があります。
まとめ
- 頭部外傷後に一度発作があったことと、外傷性てんかんと診断されることは、医学的に別の事柄です。頭部外傷から7日以内の発作は急性症候性発作として区別されています。
- 後遺障害等級は、労災保険の認定基準に示された発作の型と頻度を出発点に、自賠責の別表第二の各号に当てはめて検討されます。回数だけで自動的に決まるものではありません。
- 1か月に2回以上の発作がある場合は、高次脳機能障害の第3級以上の基準により検討されます。高次脳機能障害を併発している場合は、全体病像としての評価が問題になります。
- 運転免許は、病名だけで一律に処分される制度ではなく、公安委員会が医師の診断等を参考に個別に判断します。準中型・中型・大型免許及び第二種免許は、普通免許と同じ扱いではありません。
- 今日から残せる資料として、発作日誌、目撃状況のメモ、処方内容の記録があります。事故直後の記録と事故前の診療録も早めに確認してください。
- 示談の前に、等級、将来の治療、仕事への影響を確認してください。運転再開の前には、主治医と安全運転相談窓口に確認してください。
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監修者・執筆者
弁護士・公認会計士 藤井貴之
兵庫県弁護士会所属、日本公認会計士協会兵庫会所属。弁護士法人ひょうご支所神戸みらい法律会計事務所の代表弁護士・公認会計士として、交通事故、相続、企業法務、労働問題、損害賠償など、個人・法人双方の法律相談に対応しています。
参考資料
- e-Gov法令検索「自動車損害賠償保障法施行令」
- 国土交通省「自動車損害賠償責任保険の保険金等及び自動車損害賠償責任共済の共済金等の支払基準」
- 国土交通省「自賠責保険・共済の限度額と補償内容」
- 厚生労働省「神経系統の機能又は精神の障害に関する障害等級認定基準について」(平成15年8月8日付基発第0808002号)
- e-Gov法令検索「道路交通法」
- e-Gov法令検索「道路交通法施行令」
- 警察庁「運転免許の拒否等を受けることとなる一定の病気等について」
- 警察庁「一定の病気等に係る運転免許関係事務に関する運用上の留意事項について」(令和7年2月28日付警察庁丁運発第73号)
- 兵庫県警察「病気等に係る運転免許の取得・継続等の安全運転相談について」
- 厚生労働省「てんかんについて」
- 日本神経学会「てんかん診療ガイドライン2018」
本記事は、交通事故等による頭部外傷後の外傷性てんかんと後遺障害、運転免許に関する一般的な解説です。てんかんの診断、治療の方針、運転の可否は医師及び公安委員会が判断する事項であり、本記事がこれらを代替するものではありません。後遺障害等級、損害の範囲、賠償額は、受傷内容、治療経過、検査結果、事故との因果関係、就労状況、証拠関係等により異なります。具体的な事案については、資料を確認したうえで弁護士にご相談ください。

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