歩行中や自転車に乗っていて交通事故に遭った高齢の方については、過失割合の認定基準に、けがをした高齢者側の割合を小さくする修正があります。その目安は、令和8年(2026年)3月に発売された別冊判例タイムズ39号(全訂6版)で、「おおむね65歳以上」から「おおむね70歳以上」に改められました。ただし、年齢だけで一律に決まるものではなく、65~69歳でも個別の事情による修正の余地があります。また、高齢の自動車運転者は同じ扱いにならず、歩行者と自転車の事故では、自転車の運転者が高齢であっても、そのことは歩行者に不利な事情として扱われません。何歳から、どの立場で、どれだけ変わるのかと、保険会社の提示で確認したい点を整理します。
高齢者の目安は何歳からか
全訂6版の目安はおおむね70歳以上ですが、法律で定められた年齢ではありません。被害者にも落ち度があると、賠償額が減らされることがあります(過失相殺)。民法第722条第2項は「被害者に過失があったときは、裁判所は、これを考慮して、損害賠償の額を定めることができる」と定めていますが、年齢による修正の幅までは定めていません。実務では、事故類型ごとの目安を示す『民事交通訴訟における過失相殺率の認定基準』(別冊判例タイムズ。以下「認定基準」)が参照されますが、法令や判決そのものではありません。この記事の「過失割合」は、主に、けがをした側の賠償額を減らす割合(過失相殺率)を指し、双方の不注意の比率と常に一致するものではありません(全訂6版22~23頁)。
おおむね70歳以上とする全訂6版の考え方
「65歳以上」と「70歳以上」の説明が混在するのは、法律の改正ではなく、認定基準の版の違いによるものです。歩行者・自転車運転者の年齢による修正の目安は、初版から全訂5版まではおおむね65歳以上、全訂6版ではおおむね70歳以上です(全訂6版28頁・35頁)。
「おおむね」とあるとおり、70歳の誕生日で結論が機械的に切り替わる基準ではありません。法令のような施行日や経過措置もなく、事故日だけで旧版と新版のどちらを使うかが決まるわけでもありません。保険会社がどの版を前提にしているかは、提示の内訳で確認します。
65~69歳でも修正を検討できる場合
全訂6版は、65歳以上70歳未満でも、社会的にみて特段の保護を要求される度合いが強い場合には、その能力に応じて、高齢者に準じた修正をする余地があるとしています(全訂6版28頁・35頁)。「70歳未満なら修正は一切ない」という説明も、「65歳以上なら全員に修正がある」という説明も正確ではありません。
「高齢」「通院中」「要介護認定あり」といった名称だけでは結論は出ず、事故の前の歩行や移動の支障、日常生活の状況といった具体的な事情を、事故前の診療記録や介護の記録などで示すことが必要になると考えられます。
歩行者・自転車・自動車運転者で扱いが違う
年齢より先に、けがをした本人の立場と相手を確認します。立場と相手によって、修正の有無や、どちらの割合を調整するのかが変わるためです。
歩行者と、自動車等に衝突された自転車
高齢の歩行者や、高齢の方が乗った自転車が、自動車やバイクと衝突した事故では、けがをした高齢者側の過失割合を減らす方向で修正が検討されます。修正の幅は、認定基準の事故類型ごとの表と注記で確認します。
道路交通法第71条第2号の2は、車両等の運転者に対し、高齢の歩行者などで通行に支障のある人が通行しているときは、一時停止又は徐行して、その通行を妨げないようにすることを求めています。ただし、一定の年齢以上の人すべてに無条件で停止を義務付けるものではなく、この条文から修正幅が直接導かれるわけでもありません。横断歩道上の事故については、横断歩道の事故で確認したい過失割合と資料で説明しています。
歩行者と高齢の自転車運転者の事故
全訂6版は、自転車の運転者が高齢であることを、歩行者側の過失割合を増やす事情としては扱わないとしています(全訂6版35頁)。他人に危険を及ぼし得る自転車を運転する側が、自分の危険を管理する能力の不足を理由に責任の軽減を求めることは正当化しにくい、という考え方です。
けがをした歩行者も高齢であれば、歩行者側の年齢による修正は、事故類型に応じて別に検討します。双方が高齢だからといって年齢の事情が自動的に打ち消し合うわけではなく、歩行者であれば常に過失がないとされるわけでもありません。
高齢の自動車運転者と、自転車同士の事故
歩行者・自転車運転者についての年齢による軽減は、高齢の自動車運転者には転用できません。自動車運転者の過失は、具体的な運転行為と事故の態様で評価され、道路交通法第70条の安全運転の義務も、高齢を理由に免除されるものではありません。一方で、高齢であることだけを理由に過失が重く評価されるわけでもありません。
自転車同士の事故にも、年齢による修正を扱う類型があります。例えば、全訂6版の図番号【Ⅵ-1】【Ⅵ-4】の注記は、児童等や高齢者がけがをした側である場合の修正を示しています(全訂6版24頁・468頁・474頁)。どちらがけがをしたのか、信号の表示、基本となる割合、認定基準の表がどちらの側の割合を示しているのかを確認して当てはめます。自動車との事故の数値はそのまま使えず、双方が高齢の場合に一律に決まる結論もありません。
立場ごとの考え方は、次のとおりです。
| 本人の立場・相手 | 年齢修正の考え方 | 注意点 |
|---|---|---|
| 高齢の歩行者と 自動車・バイク |
けがをした歩行者側の割合を減らす修正要素があります。 | 修正の幅は類型ごとに異なり、適用しない類型もあります。 |
| 高齢の自転車運転者と 自動車・バイク |
けがをした自転車側の割合を減らす修正要素があります。 | 修正の幅は5ポイントとは限らず、信号無視などの評価は残ります。 |
| 歩行者と 高齢の自転車運転者 |
運転者が高齢であることは、歩行者側の割合を増やす事情として扱わないとされています。 | 歩行者も高齢なら、歩行者側の修正を別に検討します。歩行者に過失がないとは限りません。 |
| 自転車同士 | けがをした児童等・高齢者についての修正を、注記で示す類型があります。 | けがをした側、信号、基本となる割合、表がどちらの側の割合を示しているかを確認します。 |
| 高齢の自動車運転者 | 歩行者・自転車運転者についての年齢による軽減は当てはめません。 | 運転行為と事故の態様で評価します。高齢であることだけで過失が重くなるわけでもありません。 |
過失割合は何ポイント変わるのか
基本割合から修正する仕組みと具体例
どれだけ変わるかは、事故類型ごとに異なります。認定基準は、類型ごとの表と注記で、基本となる過失割合(基本割合)と修正要素を示しており、事故の事情に応じて修正要素を加算・減算します。その表にある「-5」は、割合から5ポイントを差し引く意味で、20%なら15%です。20%に95%を掛けた19%ではありません。
仮定の設例で確認します。75歳の歩行者が、近くに横断歩道や交差点のない場所で、横断歩道によらずに道路を横断していて四輪車と衝突し、全訂6版の図番号【Ⅰ-37】に当てはまり、ほかに修正すべき事情はないとします。歩行者側の基本割合20%に高齢者の修正(-5)を適用すると、15%です(全訂6版128~129頁)。ただし、近くの横断歩道や交差点との位置関係によっては別の類型や中間的な評価になることがあり、「横断歩道の外を渡れば20%」とは一般化できません。
過失相殺をする前の損害額を仮に300万円とすると、過失相殺後の額は、20%なら300万円×0.80=240万円、15%なら300万円×0.85=255万円で、差は15万円です。既払金、損益相殺、遅延損害金などを除いた比較であり、最終的な示談金や実際の受取額とは異なります。この割合を、双方の物損の請求や自賠責保険の支払額の計算にそのまま用いることもできません。
修正の幅も、一律に5ポイントではありません。信号機で交通整理が行われている交差点で、直進する自転車(赤信号)と直進する四輪車(青信号)が出合い頭に衝突した類型(【Ⅴ-2】)では、けがをした自転車側の人身損害について、基本割合80%、高齢者の修正-10が示されています(全訂6版392頁)。ほかに修正がなければ70%ですが、赤信号で進入したことの評価がなくなるわけではありません。なお、歩行者用信号機などの規制を受けて横断歩道等を渡り始めた普通自転車には別の類型(【Ⅴ-70】)があり、この80%をそのまま当てはめることはできません。
年齢だけで決まらない場合と二重計算への注意
70歳以上であっても、当然に割合が下がるわけではありません。全訂6版は、泥酔して路上に横たわっていた場合の類型(【Ⅰ-47】【Ⅰ-48】)について、高齢者等を保護する趣旨が当てはまらないとして、高齢者等についての修正を適用しないとしています(全訂6版24頁)。特定の事故態様についての扱いであり、高齢者一般や、飲酒していた人一般に広がるものではありません。
複数の修正要素も、単純に足し合わせるとは限りません。【Ⅰ-37】の高齢者の修正(-5)と身体障害者等の修正(-10)は選択的に扱われており、「高齢で身体の障害もあるから合計-15」とはなりません(全訂6版24頁・129頁)。また、保険会社が示す最終的な割合に年齢による修正が既に含まれていることもあり、そこからさらに5ポイントを差し引けるとは限りません。
保険会社の提示で確認したい根拠と資料
基準の版・類型・修正の内訳を確認する
過失割合の提示を受けたときは、年齢だけを取り上げて反論するのではなく、提示の根拠を事故の態様と突き合わせます。確認したいのは次の点です。
- 基準の版と該当箇所:どの書籍の何版の、何頁・どの図番号を前提にしているか
- 基本割合:その類型の基本割合は何%か
- 修正の内訳:年齢その他の修正要素として、何を何ポイント加算・減算しているか
- 年齢による修正の反映:既に含まれているか
- 事故態様との対応:前提とした類型が、実際の信号、横断した位置、進路などと合っているか
提示書面から分からない点は、示談の前に保険会社に説明を求めることが考えられます。示談が成立する前の提示は保険会社の見解であり、法的に確定した割合ではありません。食い違いが残る場合は、資料に基づいて交渉し、又は弁護士に相談して、争点を整理することが考えられます。
65~69歳の個別事情を資料で説明する
資料は、何を確かめるためのものかと結び付けて準備します。65~69歳の方は、事故の前からの能力や生活の状況を示す資料と、事故当時の状況を示す資料を分けておくことが大切です。
| 確認事項 | 役立つ資料 | 資料だけでは決まらない点 |
|---|---|---|
| 事故時の年齢 | 事故日時と生年月日が分かる資料 | 年齢が分かっても、事故の態様は分かりません。 |
| 提示の版・類型・ 修正の有無 |
保険会社の提示書面、計算の内訳 | 前提の類型が実際の事故に合っているかは、事故の資料と突き合わせて確認します。 |
| 信号、横断した位置、 進路、速度、見通し |
映像、現場写真、事故状況図 | どの類型に当たり、どの修正要素があるかは、資料を踏まえて別に評価します。 |
| 65~69歳の 個別の保護の必要性 |
事故前の診療記録、移動の能力や杖・歩行器などの補助具の使用が分かる資料、介護の記録、家族による具体的な説明 | 事故後のけがだけでは事故前の能力は示せず、要介護認定や杖の有無だけで修正の有無や幅が決まるわけでもありません。 |
資料は、本人の同意や正当な権限に基づいて適法に取得し、医療に関する情報は必要な範囲にとどめます。ドライブレコーダーや防犯カメラの映像は上書きされて残らないことがあるため、早めに保存を依頼し、加工していない元のデータを残します。他人の映像を無断で取得したり、現場で危険な再現をしたりすることは避けてください。記録が乏しくても、その限界を踏まえて、今ある資料から検討できます。
相手方からは、「70歳未満である」「保護の必要性が分からない」「類型が違う」「修正は反映済みである」「ほかに不利な事情がある」といった反論が考えられます。順に、65~69歳についての全訂6版の考え方、事故前の状態を示す資料、事故態様の資料、提示の内訳、双方の修正要素を踏まえて対応します。ただし、資料を出せば修正が認められるというものではありません。自転車事故の資料の整理は、自転車事故の過失割合を争うための証拠整理も参考にしてください。
なお、過失割合は損害額をどれだけ減らすかの問題であり、けがの重さや介護の必要性に応じた損害額の算定とは別に検討します。付添費や介護費は、高齢者の事故で問題になる付添費・介護費で説明しています。
よくある質問
70歳未満では修正されませんか?
65~69歳の方は、70歳未満というだけで修正の余地がなくなるわけではありません。全訂6版は、社会的にみて特段の保護を要求される度合いが強い場合に、その能力に応じて高齢者に準じた修正をする余地を認めています。ただし、65歳以上であれば当然に修正されるものではなく、事故前の具体的な事情を資料で示すことが必要になると考えられます。
歩行者の自分も相手の自転車運転者も高齢ならどうなりますか?
全訂6版では、自転車の運転者が高齢であることは、歩行者側の過失割合を増やす事情として扱わないとされています。歩行者側の年齢による修正は事故類型に応じて別に検討しますが、双方が高齢だからといって年齢の事情が自動的に打ち消し合うわけでも、歩行者に過失がないと決まるわけでもありません。
保険会社の割合からさらに5ポイント引いてよいですか?
そうとは限りません。年齢による修正が既に含まれていることがあり、修正の幅も類型によって異なります。前提とした基準の版・頁・図番号、基本割合、修正の内訳を確認してください。
神戸で高齢者の交通事故について相談を検討している方へ
保険会社の提示に納得できないとき、示談の前に根拠を確かめたいとき、65~69歳で年齢による修正を検討できるか確かめたいときは、弁護士に相談して、基準の当てはめや必要な資料を整理することができます。次の資料のうち、お手元にあるものをご用意ください。資料がそろうのを待つ必要はありません。
- 保険会社からの提示書面や計算の内訳
- 事故の資料(事故状況図、現場写真、映像など)
- 生年月日と事故前の状態が分かる資料(事故前の診療記録、介護の記録など)
弁護士法人ひょうご支所神戸みらい法律会計事務所は、神戸市須磨区にある法律事務所です。所属する弁護士は、事務所の弁護士紹介でご覧いただけます。
ご相談の予約は、相談予約フォームからお申し込みいただけます。相談方法・費用は、事前にご確認ください。フォームの送信は予約のお申込みであり、法律相談の実施や事件の受任をお約束するものではありません。
参考資料と情報基準日
- 菊池憲久・堂薗幹一郎・伊東智和編『民事交通訴訟における過失相殺率の認定基準〔全訂6版〕』(別冊判例タイムズ39号、判例タイムズ社、令和8年(2026年)3月30日発売)22~24頁、28頁、35頁、128~129頁、392頁、468頁、474頁。別冊判例タイムズ39号〔全訂6版〕の書誌情報
- 民法(e-Gov法令検索) 第722条第2項
- 道路交通法(e-Gov法令検索) 第70条、第71条第2号の2
この記事の情報基準日は令和8年(2026年)10月10日です。同日時点の法令とこれらの資料に基づく一般的な説明であり、個別の事故の過失割合は、事故の態様と資料によって異なります。

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