自転車で事故に遭い、相手方や保険会社から示された過失割合に納得できないと感じている方は少なくありません。「自分にも過失があると言われたが、本当にそうなのか」「相手の説明が事実と食い違っている」「示談書に署名してよいのか分からない」といった迷いは、事故状況を客観的に裏づける資料がそろっていない段階では当然のものです。
過失割合は、事故直後のやり取りや保険会社が最初に示した数字だけで確定するわけではありません。事故態様を裏づける証拠を整理し、争点を明確にすることで、提示された割合を見直す余地があるかどうかを検討できます。
この記事では、自転車事故で過失割合を争うときに、どの証拠を、どの順番で、どのように整理すればよいかを、事故直後・保険会社への回答前・示談書への署名前という時間軸に沿って整理します。なお、結論は事故状況や証拠によって変わるため、最終的な見通しは資料を確認したうえで判断する必要があります。
提示された過失割合に納得できない場合でも、まずは証拠を整理することで、争点や今後の対応方針を整理できます。示談前・回答前に一度確認しておきたい方は、当事務所の相談窓口もご利用いただけます。
Contents
まず確認したい結論
過失割合を争うかどうかを判断する前に、感覚的な「納得できない」という思いを、客観的な資料で説明できる状態に整理することが出発点になります。具体的には、次の五点を先に整理することをおすすめします。
- 証拠:手元にある、またはこれから取得できる映像・写真・警察資料・医療資料など
- 事故の類型:自転車対自動車か、自転車同士か、自転車対歩行者か
- 相手方・保険会社の主張:どの事実を前提に過失割合を算定しているか
- 争点:信号、一時停止、通行位置、速度、視認性、回避可能性など、どこで説明が食い違っているか
- 不足資料:これから集める必要があるもの
そのうえで、保険会社へ回答する前、そして示談書に署名する前に、提示された過失割合と損害項目の内容を確認することが重要です。いったん示談(和解)が成立すると、原則として後から内容を覆すことは容易ではありません。回答や署名を求められている段階であれば、その前に一度立ち止まることをおすすめします。
自転車事故の過失割合とは
過失割合と過失相殺の意味
過失割合とは、発生した事故について、当事者それぞれにどの程度の不注意(過失)があったかを割合で示したものです。交通事故の損害賠償では、被害を受けた側にも過失がある場合に、その割合に応じて賠償額を調整する仕組みがあります。これを過失相殺といいます。法律上、被害者に過失があったときは、これを考慮して損害賠償の額を定めることができるとされています(過失相殺。民法722条2項。条文の適用や評価は事案により異なります)。
過失相殺は、算定された損害額を割合に応じて調整するものです。損害額そのもの(治療費、休業損害、慰謝料など)をどのように算定するかは別の問題であり、たとえば傷害慰謝料の考え方については、交通事故の傷害慰謝料の記事を見るもあわせてご参照ください。
事故類型と修正要素で検討される
実務上、過失割合は、まず事故の基本的な類型ごとの目安を出発点とし、そこに個別の事情(修正要素)を加味して検討されることが一般的です。修正要素には、たとえば信号の有無や表示、一時停止規制の有無、通行していた位置(車道・歩道・路側帯)、昼夜の別、ライトの点灯や反射材の有無、著しい前方不注視などが挙げられます。
もっとも、どの要素がどの程度影響するかは事故態様と証拠によって異なり、一律ではありません。具体的な数値の基準を用いて検討する場合は根拠資料の確認が必要となるため、本記事では個別の数値には踏み込みません。
自転車対自動車・自転車同士・自転車対歩行者で異なる点
ひとくちに自転車事故といっても、相手が自動車(原動機付自転車を含みます)か、自転車か、歩行者かによって、責任追及の根拠や利用できる保険、請求の相手方が異なります。
- 自転車対自動車(原付を含む):自動車側には、民法上の不法行為責任に加えて、自動車損害賠償保障法に基づく責任が問題になる場合があります。人身損害については自賠責保険が関係することがあります。
- 自転車同士:当事者の双方が自転車であり、自賠責保険は当然には関係しません。責任は主に民法上の不法行為に基づいて検討されます。
- 自転車対歩行者:こちらも自賠責保険は当然には関係しません。自転車側が加害者となる場合、個人賠償責任保険などの任意の保険が問題になることがあります。
自賠責保険は、自動車や原動機付自転車が関係する人身事故で問題になる制度であり、自転車同士・自転車対歩行者の事故で当然に使えるわけではありません。この点は混同されやすいため、相手方と自分のどちらが、どの立場(加害者・被害者)かをあわせて整理しておくと、その後の手続の見通しが立てやすくなります。
また、自転車は道路交通法上「軽車両」として扱われ、車両としての交通ルールを守ることが求められます。信号の遵守、一時停止、車道の左側通行、夜間のライト点灯などのルールに違反していたかどうかは、過失割合の検討に影響し得ます。
なお、ペダル付きの原動機付自転車(いわゆるモペット)や、スロットルを備えるもの、電動アシスト自転車の基準に適合しない製品は、道路交通法上「自転車」ではなく「一般原動機付自転車」や「自動車」に該当する場合があります。該当する場合は、適用される交通ルールや保険、責任の枠組みが自転車とは異なります。お乗りの車両がどれに当たるかは仕様によって判断が分かれるため、確認が必要です。
自転車事故で争いになりやすい事故態様
過失割合の検討では、どのような場所で、どのような状況で接触したかが重要になります。次のような事故態様は、当事者の説明が食い違いやすく、争点になりやすい場面です。自分の事故がどれに近いかを確認しておくと、整理すべき証拠が見えてきます。
| 事故態様の例 | 争点になりやすいポイント |
|---|---|
| 交差点での出会い頭の接触 | 信号の有無・表示、一時停止規制の有無、優先関係、進入の先後 |
| 信号のある交差点 | 互いの信号表示の食い違い、進入時の表示 |
| 一時停止規制のある交差点 | 標識・標示の有無、実際に停止したか、見通しの状況 |
| 右側通行・逆走中の事故 | 通行していた側、車道の左側通行義務との関係 |
| 歩道走行中の歩行者との接触 | 歩道走行の可否、徐行・一時停止の有無、歩行者の優先 |
| 自転車横断帯・横断歩道付近の事故 | 横断の方法、横断帯の有無、信号表示 |
| 夜間・無灯火の事故 | ライトの点灯、反射材の有無、相手からの視認性 |
| ながらスマホ・イヤホン・傘差し運転中の事故 | 前方不注視や安全運転義務違反の有無、回避可能性 |
| 駐車車両・ドア開放・路側帯・車道端の事故 | 駐車の位置、ドア開放の態様、通行位置 |
| 子ども・高齢者・通勤通学中の事故 | 当事者の属性に応じた注意の程度、行動の予測可能性 |
| 電動アシスト自転車・モペットが関係する事故 | 車両区分(自転車か原付等か)、適用ルール・保険の違い |
同じ「出会い頭」でも、信号や一時停止規制の有無、見通しの良し悪しによって検討は変わります。どの点が争点になるかを把握したうえで、その争点を裏づける証拠を集めることが、過失割合を争ううえでの土台になります。
過失割合を争うときに整理すべき証拠
過失割合を争うときに役立つ資料は、おおむね次のとおりです。すべてがそろわなくても検討は可能ですが、特に映像系の資料は保存期間が短いことがあるため、早めの確認が重要です。
| 証拠の種類 | 確認・整理のポイント |
|---|---|
| 交通事故証明書 | 事故の発生日時・場所・当事者などの基本情報。自動車安全運転センターに申請して取得します。 |
| 警察への届出状況 | 人身事故か物損事故か、届出の有無。後日の人身への切替えの可否にも関わります。 |
| 実況見分調書・供述調書・物件事故報告書など | 警察が作成する記録。取得できるか、いつ取得できるかは、事件の処理状況や立場により異なります。 |
| ドライブレコーダー映像 | 自分・相手・周囲の車両の映像。上書きや削除の前に保存します。 |
| 防犯カメラ・店舗等の映像 | コンビニ、マンション、バス、タクシーなどの映像。保存期間が短いことがあるため、早めの確認と保存の依頼が重要です。 |
| 現場写真・事故直後の写真 | 接触位置、停止位置、損傷、路面、信号・標識の状況など。 |
| 道路の状況 | 標識・標示、信号機、カーブミラー、見通し、道路幅員、歩道・路側帯・自転車通行空間の有無。 |
| 損傷状況 | 自転車・車両・衣服・ヘルメット・荷物などの損傷の部位や程度。接触の態様を推認する手がかりになります。 |
| 目撃者情報 | 第三者の証言。連絡先が分かる場合は早めに確認します。 |
| 医療資料 | 救急搬送記録、診断書、診療録、画像検査など。ケガの内容と事故との関係の整理に役立ちます。 |
| 相手方・保険会社とのやり取り | 過失割合の提示書面、メール、LINE、通話の記録やメモなど。 |
| 物損資料 | 修理見積書、損傷写真、領収書など。 |
| 自分で作成した記録 | 事故状況メモ、時系列表、現場図など。記憶が新しいうちに作成します。 |
これらをすべて自分で集めなければならないわけではありません。何が取得できるか、いつ取得できるかは立場や状況によって異なるため、優先順位をつけて整理することが現実的です。
証拠を整理する手順
証拠は、やみくもに集めるよりも、順番を意識して整理するほうが効率的です。次の流れを参考にしてください。
1 消えやすい証拠から保全する
ドライブレコーダーや防犯カメラの映像は、時間の経過とともに上書きや削除がされることがあります。自分の機器の映像は別の媒体に保存し、店舗やマンションなどの映像は、できるだけ早く保存を依頼することを検討します。具体的な保存期間は設備により異なるため、確認できない場合でも、早めに動くことが大切です。
2 事故状況を時系列で整理する
事故の日時、場所、天候、明るさ、自分と相手の進行方向、速度の感覚、信号や一時停止の状況、接触した位置などを、時系列に沿って書き出します。記憶が新しいうちに作成するほど、後の説明が正確になります。
3 現場図を作る
道路の形状、信号や標識の位置、互いの進行方向、接触地点を簡単な図にします。文章だけでは伝わりにくい位置関係を、客観的に示すのに役立ちます。
4 相手方の説明との違いを表にする
自分の説明と、相手方や保険会社の説明を並べ、どの点が一致し、どの点が食い違っているかを表に整理します。食い違っている部分が、まさに争点となります。
5 争点を分解する
争点を「信号」「一時停止」「速度」「通行位置」「視認性」「回避可能性」などの要素に分けて整理します。要素ごとに、どの証拠で裏づけられるかを確認すると、必要な資料が明確になります。
6 不足している資料を洗い出す
争点を裏づけるために足りない資料を書き出します。これが、これから取得を検討すべき証拠のリストになります。
7 保険会社へ回答する前に資料を確認する
保険会社からの問い合わせに回答する前に、手元の資料で事故状況を説明できるかを確認します。あいまいなまま回答すると、後の主張と食い違うことがあります。
8 示談書に署名する前に内容を確認する
示談書に署名する前に、提示された過失割合と損害項目の内容を確認します。署名後は原則として内容の変更が容易ではないため、回答や署名の前の段階での確認が特に重要です。
保険会社・相手方とのやり取りで注意したいこと
事故直後は気が動転していることが多く、その場のやり取りが後の過失割合の検討に影響することがあります。次の点に注意してください。
- 口頭だけで合意せず、重要な内容は記録に残す。
- 事実が確認できていない段階で「自分が悪かった」と断定的に言い切らない。まずは事実を確認する。
- 事故状況の説明は、できるだけ記録に残る形で行う。
- 相手方の説明が途中で変わった場合は、その日時と内容を記録しておく。
- 事故に関するSNS投稿や不用意なメッセージは控える。後に証拠として扱われることがある。
- 感情的な反論ではなく、整理した証拠に基づいて説明する。
これらは、相手方を一方的に疑うためのものではなく、事実関係を正確に残し、後から客観的に検討できるようにするための準備です。
事故状況の説明や保険会社への回答に迷ったときは、資料を確認したうえで、争点や今後の対応方針を整理できます。交通事故の取扱業務の内容もあわせてご確認ください。
自転車事故で保険の確認が必要な理由
自転車事故では、自分や家族が加入している保険が、賠償や弁護士費用に使える場合があります。事故の相手方や態様にかかわらず、次のような保険を確認しておくことをおすすめします。
- 自動車保険の弁護士費用特約:自動車保険に付帯している場合、自転車事故でも利用できることがあります。
- 個人賠償責任保険:自転車側が加害者となった場合などに、相手方への賠償に関係することがあります。
- 自転車損害賠償保険:自転車事故に備える保険として加入している場合があります。
- その他の保険:火災保険、傷害保険、クレジットカードの付帯保険、家族が加入している保険などに、関連する補償が含まれていることがあります。
兵庫県では、自転車の利用者等に対して自転車損害賠償保険等への加入が案内されています。もっとも、保険が実際に使えるかどうか、対象となる人や上限額、示談の代行があるかどうかは、契約の内容によって異なります。保険証券や約款を確認し、不明な点は加入先の保険会社に確認することが必要です。
なお、弁護士費用特約を利用できる場合の費用負担や、当事務所の弁護士費用については、弁護士費用を確認するページもご参照ください(適用の可否は契約内容や事案により異なります)。
弁護士に相談を検討したいタイミング
次のような場面では、早めに弁護士へ相談することで、判断材料や対応方針を整理しやすくなります。相談したからといって必ず過失割合が変わるわけではありませんが、争う余地があるかどうかの見通しを立てるうえで役立ちます。
- 保険会社から示された過失割合に納得できない。
- 相手方と事故状況の説明が食い違っている。
- ドライブレコーダーや防犯カメラの映像を早く確認・保存したい。
- 物損事故から人身事故への切替えを検討している。
- ケガが残っている、または治療が続いている。
- 示談書への署名を求められている。
- 自転車同士、または歩行者との事故で、保険会社が間に入っていない。
- 子どもや高齢者が当事者で、家族が対応している。
- 弁護士費用特約や個人賠償責任保険を使えるかどうか分からない。
特に、示談書への署名を求められている場合や、映像の保存が間に合わなくなりそうな場合は、回答や署名の前に確認しておくことをおすすめします。
相談前に準備しておきたい資料
弁護士に相談する際、次の資料がそろっていると、事故状況の確認や見通しの検討がスムーズになります。すべてそろわなくても相談は可能ですので、手元にあるものから整理してください。
- 事故の日時・場所・相手方の情報が分かるもの
- 交通事故証明書
- 保険会社から届いた書類
- 過失割合の提示書面
- 事故現場の写真、車両・自転車の損傷写真
- ドライブレコーダー・防犯カメラに関する情報(有無、保存状況)
- 診断書、診療明細、通院日が分かる資料
- 修理見積書、領収書
- 相手方とのやり取り(書面、メール、LINEなど)
- 保険証券、弁護士費用特約・個人賠償責任保険が分かる資料
よくある質問
自転車事故の過失割合は誰が決めるのですか。
当事者間の示談で合意できれば、その内容で決まります。合意できない場合は、最終的に裁判所が判断します。保険会社が示す過失割合は、あくまで一方の見解であり、それ自体が確定したものではありません。事故状況や証拠により結論は変わります。
保険会社が示した過失割合に納得できない場合、争えますか。
争える場合があります。提示された過失割合は確定ではないため、事故態様を裏づける証拠を整理し、争点を示すことで、見直す余地があるかどうかを検討できます。ただし、結果は資料の内容によって異なります。
ドライブレコーダーがないと過失割合を争えませんか。
そうとは限りません。現場写真、防犯カメラ映像、警察が作成する記録、目撃者の証言、損傷状況など、ほかの資料から事故態様を検討できる場合があります。映像がない場合でも、まずは手元の資料を整理することをおすすめします。
防犯カメラの映像はどうやって確保すればよいですか。
映像が記録されていそうな店舗や施設に、できるだけ早く保存を依頼することが考えられます。保存期間は設備により異なり、短い場合があるため、早めの行動が重要です。任意の開示が難しい場合の対応については、個別に確認が必要です。
物損事故の扱いのままでも相談できますか。
相談できます。物損として処理されている場合でも、過失割合や損害の内容について検討の余地があることがあります。ケガがある場合は、人身事故への切替えを検討すべきかどうかもあわせて整理できます。
自転車同士の事故でも弁護士に相談できますか。
相談できます。自転車同士の事故では自賠責保険は当然には関係せず、責任は主に民法上の不法行為に基づいて検討されます。請求の相手方や利用できる保険が自動車との事故とは異なるため、事故の類型に応じた整理が必要です。
ヘルメット未着用や無灯火は過失割合に影響しますか。
影響する場合もありますが、一律ではありません。これらの事情が過失割合にどう反映されるかは、事故態様や、その事情と事故・損害との関係を示す証拠によって異なります。個別の事情により結論は変わります。
示談書に署名した後でも過失割合を争えますか。
いったん成立した示談を後から覆すことは、原則として容易ではありません。もっとも、署名当時に予見できなかった事情があった場合など、例外的に争いとなる余地が問題になることもあります。署名後に疑問が生じた場合は、早めに個別の確認をおすすめします。
まとめ
自転車事故で過失割合を争うときの要点を整理します。
- 過失割合は、事故直後の説明や保険会社の最初の提示だけで確定するものではない。
- 過失割合は、事故の類型と、それを裏づける証拠によって検討される。
- 映像、現場写真、警察資料、医療資料、保険資料を、できるだけ早く整理する。特に映像系は保存期間に注意する。
- 自転車対自動車、自転車同士、自転車対歩行者では、責任の根拠や利用できる保険が異なる。
- 保険会社への回答前、示談書への署名前に、過失割合と損害項目を確認する。
- 結論は事故状況や証拠により変わるため、最終的な判断には資料の確認が必要である。
提示された過失割合に納得できないときは、まず証拠を整理することで、争点や今後の対応方針を整理できます。示談前・回答前に一度確認しておきたい方は、当事務所の相談窓口をご利用ください。事故の状況や資料を確認したうえで、見通しを検討します。
監修者・執筆者
藤井貴之(神戸みらい法律会計事務所)
所属弁護士会:兵庫県弁護士会/資格:弁護士・公認会計士/取扱分野:交通事故ほか
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