親族、元役員、従業員などの名義になっている株式について、「出資したのは自分(又は先代)で、名義を借りただけだ」と考える側と、「贈与を受けた」「自分で引き受けた」と考える名義人の側とで、主張が対立することがあります。この記事では、誰が株主かの判断枠組みと証拠、株主権確認訴訟、株主総会が迫っている場合に検討する手段、和解と税務の注意点を整理します。結論は、取得の経緯と資料、会社の定款や機関設計によって異なります。
この記事の要点
- 株主名簿の名義や出資の記録だけで、株式の帰属が決まるとは限りません。取得の原因と、その後の移転を現在まで確認します。
- 誰が株主かという問題と、会社に対する権利行使・名簿の是正、税務の処理は、別々に整理します。
- 総会が迫っている場合は、判決を待たずに、仮処分、招集請求、株主提案、総会検査役などを期限とともに検討します。
- 和解では、帰属を確認して名義を整えるのか、株式を買い取るのかを区別し、会社の手続、履行の順序、税負担まで定めます。
- 裁判上の和解で合意した価格でも、税務上の時価とされるとは限りません。
名義株の争いでは何を解決する必要があるか
名義株は会社法で定義された用語ではありませんが、一般に、株主名簿などの名義人と実際に株式を取得した者(実質株主)とが異なると主張される株式を指します。「名義を本来の株主に戻せば解決する」という説明は正確ではなく、少なくとも次の三つの問題が重なっています。
- 株式の帰属:その株式が実体として誰のものか
- 会社に対する権利行使:議決権などを会社に対して行使できるか、株主名簿をどう是正するか
- 税務の処理:名義の是正や買取りによって、誰にどの税が問題となるか
これらは根拠となる法律も判断の資料も異なり、一つの手続で同時に片付くとは限りません。帰属の決着前に総会で役員の選任などが決まることもあるため、総会の予定を最初に確認します。
株主名簿の名義と真の株主が異なる場合
株主名簿には、株主の氏名・住所、株式の数、取得日などを記載します(会社法第121条)。名簿は会社との関係で権利行使の基礎となる重要な資料ですが、同条は記載事項を定める規定であり、記載された者を真の株主と確定するものではありません。
株式の譲渡は、名簿に記載しなければ会社その他の第三者に対抗できません(同法第130条第1項)。株券発行会社では、名簿の記載が対抗要件となるのは会社との関係に限られます(同条第2項)。これらは移転を主張するための要件であり、誰が真の株主かとは別の問題です。名簿の記載だけで帰属が決まるという説明も、出資した者が当然に株主になるという説明も、正確ではありません。
総会が迫っているときに先に確認すること
株主総会で役員の選任・解任などが予定されている場合、判決を待っていては間に合わないことがあり、訴訟を提起しただけでは相手方の議決権行使は止まりません。まず、次の事項を確認します。
- 総会の日時、招集通知の有無と発送日、議題・議案
- 基準日の有無と、基準日の株主が行使できる権利の内容(会社法第124条)
- 争いのある株式の数と、その議決権が決議の結果に与える影響
- 取締役会設置会社か、公開会社か(株式の譲渡制限の定め)、定款で要件を緩和した定めがあるか
- 総会後に決議を争う場合の期限(決議取消しの訴えは決議の日から3か月以内)
検討する手段の要件と限界は、「総会前に検討する経営権の保全と回復の手段」で説明します。
総会の日程が決まっている場合のご相談
総会の日時や基準日が決まっている場合は、資料がそろうのを待たずに、日程と争いの概要を先に整理することをおすすめします。初回のご連絡は、会社名、ご相談者のお名前と立場、相手方の名称、相談の概要、期限(総会日・基準日など)にとどめ、資料は利益相反の確認が済んでからお送りください。
実質株主はどのように判断されるか
出発点は「誰がお金を出したか」だけではなく、「誰が、どの原因で株式を取得し、その後どのように移転したか」です。
引受け・譲渡・贈与・相続を区別する
株式の取得には、設立や増資の際に株式を引き受ける原始取得、売買や贈与による承継取得、相続による承継があります。当初の取得の時点で誰が株主となったかを確認し、その後に譲渡・贈与・相続で権利が移っていないかを現在まで順に追います。先代が出資した事実が認められても、その後に名義人へ贈与されていれば、現在の株主は名義人となる可能性があります。過去の取得や相続の効力・課税は、その当時の法令によって判断される点にも注意が必要です。
最高裁判所第二小法廷昭和42年11月17日判決(昭和42年(オ)第231号・民集21巻9号2448頁)は、他人の承諾を得てその名義で株式を引き受けた場合には、名義を貸した者ではなく、実質上の引受人が株主となると判断しました。真に契約の当事者として申込みをした者が引受人としての権利を取得する、という考え方です。もっとも、会社法の制定前の新株の引受けに関する事案であり、「資金を出した者が常に株主になる」と述べたものではありません。会社設立時の引受け、旧有限会社に由来する株式、名義人に無断で名義を使った場合などにそのまま当てはまるとは限らず、当時の制度と取得の経緯を確認する必要があります。
出資・合意・配当・議決権行使を総合する
東京地方裁判所民事第8部が公表している「(記載例)株主権確認訴訟」では、検討する事情として次のようなものが挙げられています。
- 株式の取得資金を誰が拠出したか
- 名義を貸した者と借りた者との関係、両者の間の合意の内容
- 株式を取得した目的
- 取得後の配当金や新株などが誰に帰属したか
- 名義を貸した者・借りた者と会社との関係
- 名義を借りた理由に合理性があるか
- 株主総会で誰が議決権を行使してきたか
これらは満たせば株主と認められる固定的な要件ではなく、事案に即して総合的に評価される事情です。相手方からは、資金は貸付けや立替えであった、資金そのものを贈与した、名義人の代理として手続をしただけである、といった反論が考えられ、これらに資料で答えられるかを検討します。
名義株訴訟で重要となる証拠
証拠は、資料の名前を並べるだけでは足りず、何を示すための資料か、相手方がどう反論し得るかを対応させて整理します。贈与や自らの引受けを主張する名義人の側も、同じ観点で資料を整理します。
資料ごとに分かることと限界
| 確認したい事実 | 主な資料 | 相手方の反論・資料の限界 |
|---|---|---|
| 取得資金の流れ | 送金元・払込先の預金の明細、設立・増資の際の払込みに関する書類 | 資金は貸付けや立替え、又は資金の贈与であったとの反論 |
| 引受人・名義貸借の合意 | 当時の合意書、手紙やメールなどのやり取り、原始定款、株式の申込みに関する書類、関係者の説明 | 名義人本人を株主とする合意であった、又は後に贈与したとの反論 |
| 利益の享受と権利の行使 | 配当の振込記録、招集通知、議決権行使書・委任状、株主総会議事録 | 名義人の代理として受領・行使しただけとの反論。無配や総会の不開催で記録がない場合もある |
| 現在までの承継 | 譲渡・贈与の契約書、譲渡承認の議事録、株券の授受の記録、遺産分割協議書などの相続資料 | 当初は名義借りでも、その後に真正な譲渡・贈与があったとの反論 |
| 名義・申告の推移 | 株主名簿、法人税申告書の別表二、相続税・贈与税の申告資料 | 誰が、いつ、何を根拠に作成したかの検討が必要。税務資料は民事上の帰属を確定する証明書ではない |
整理の際は、取得の時点、途中の移転、現在の順に、事実、それを示す資料、その評価を分けて書き出すと、主張の弱い部分が見えやすくなります。
古い資料がない場合と会社が開示しない場合
当時の通帳や払込みの資料が残っていないこともありますが、古い通帳がない、配当をしていない、名義借りの確認書がない、という一つの事情だけで直ちに結論が決まるわけではありません。東京地方裁判所の記載例も、挙げられた書証のすべての提出を必須とはしていません。当時の客観的な資料を優先し、後日作成された確認書や陳述書は、作成の経緯や他の資料との整合性に照らして評価します。
後から書面を作成する場合は実際の作成日を記載し、過去の合意を確認する書面として作成してください。日付をさかのぼらせた書面の作成や、株主名簿などの記録の改変はしないでください。
会社の資料が手元にない場合は、適法な取得の方法を検討します。株主は請求の理由を明らかにして株主名簿の閲覧・謄写を請求できますが(会社法第125条第2項)、同条第3項の拒絶事由があり、株主の資格そのものが争われている場合はその点も問題となります。訴訟の中では、文書提出命令の申立て(民事訴訟法第220条等)や、あらかじめ証拠調べをしておかなければ使用が困難となる事情がある場合の証拠保全(同法第234条)も考えられます。ただし、いずれも対象や除外事由などが定められており、会社や金融機関の資料をすべて入手できる制度ではありません。
手元の資料は原本や元データ(電子メールや会計データなど)を加工せずに保存し、いつ、どこから入手したかを記録します。他人のアカウントへの無断のログインや、権限のない資料の持出しは行わないでください。先代経営者の相続が関係する場合は、企業オーナーの相続で確認する資料もご確認ください。
株主権確認訴訟と名義是正の進め方
訴訟では、誰と誰がどの株式について争っているか、判決の後に何を実現する必要があるかから、相手方と請求の内容を組み立てます。
名義人・会社のどちらを相手にするか
株主権確認訴訟では、発行会社、株式の種類と数、必要に応じて株券を特定し、自らが株主であることの確認を求めます。被告は、名義人が権利を主張しているのか、会社が名義人を株主として扱っているのかなど、争いの構図に応じて検討します。会社だけ、名義人だけ、あるいは常に双方、という一律の決まりはありません。
確定判決の効力は、原則として訴訟の当事者等に及びます(民事訴訟法第115条)。会社を当事者としない判決で会社や第三者との関係まで当然に解決するとは考えず、確認の利益や、名簿の記載・書換え、株券の交付を求める請求を併せて立てるべきかも検討します。
名簿の是正では、会社以外の者から株式を取得した者が記載を請求する場合、原則として名簿上の株主又はその相続人等と共同して請求します(会社法第133条)。単独で請求できる例外として、会社法施行規則第22条は、名簿上の株主等にその請求をすべきことを命じる確定判決又はこれと同一の効力を有するものの内容を証する資料を提供した場合などを定めていますが、株主であることを確認するだけの判決が常にこれに当たるとは限りません。株券発行会社では、株券を提示して請求する場合などの別の例外があります(会社法施行規則第22条第2項)。また、設立や増資の際の名義借りでは、真の株主は会社から取得したと主張することになるため、第133条の手続が一律に当てはまるわけではなく、会社が株式を発行した際の名簿の記載(会社法第132条)との関係も問題となります。
株券・譲渡承認・名義書換を確認する
名義の是正に必要な手続は、取得の原因と会社の種類によって異なり、設立・増資の際の名義借り(原始取得)と、売買・贈与・相続による承継取得とでは同じとは限りません。
株券発行会社では、株式の譲渡は株券を交付しなければ効力を生じないのが原則で(会社法第128条第1項)、株券の発行前にした譲渡は会社に対して効力を生じません(同条第2項)。もっとも、最高裁判所第二小法廷令和6年4月19日判決(令和4年(受)第1266号)は、株券の発行前にされた譲渡について、当事者の間では、株券の交付がないことだけで効力が否定されるものではないと判断しました。当事者間の効力と会社に対する効力は区別して検討します。
譲渡制限株式を売買や贈与で取得した場合は、会社の譲渡承認を受けているかも確認します。承認がなければ、原則として名簿の書換えを請求できません(会社法第134条)。相続などの一般承継による取得は、承認がなくても書換えを請求できる場合に当たります(同条第4号)。
総会前に検討する経営権の保全と回復の手段
総会が迫っている場合は、目的に応じて次の手段を組み合わせて検討します。ただし、いずれも誰が株主かという争いを自動的に解決する制度ではありません。なお、会社法上の「公開会社」は上場会社という意味ではなく、発行する株式の全部又は一部について、譲渡による取得に会社の承認を要する旨の定款の定めを設けていない株式会社をいいます(会社法第2条第5号)。すべての株式に譲渡制限がある会社が「公開会社でない会社」であり、上場しているかどうかとは別の区別です。
| 手段 | 目的 | 主な要件・期限 | 限界 |
|---|---|---|---|
| 議決権行使 禁止の仮処分 |
争いのある株式について、相手方の議決権行使を止める | 自らが株主であることなどの権利関係と、著しい損害又は急迫の危険を避ける必要性の疎明 | 自らの票が加算されるわけではない。最終的な帰属は確定しない |
| 議決権行使 許容の仮処分 |
自らの議決権行使を会社に認めさせる | 同様に、権利関係と保全の必要性の疎明 | 基準日や権利の内容の確認が別に必要。最終的な帰属は確定しない |
| 招集請求・ 招集許可 |
役員の選任などを審議する総会を開かせる | 議決権の3%以上(公開会社は6か月の継続保有も必要)。議題と招集の理由を示して請求し、招集されない場合は裁判所の許可を得て招集 | 許可を得ずに株主が総会を開くことはできない |
| 株主総会 検査役 |
招集の手続と決議の方法を調査させる | 会社又は議決権の1%以上を有する株主が、総会に先立って申立て(公開会社である取締役会設置会社は6か月の継続保有も必要) | 株式の帰属を判断したり、役員を解任したりする制度ではない |
| 決議取消し の訴え |
招集手続・決議方法の違反などがある決議を取り消す | 決議の日から3か月以内に提訴 | 訴訟・仮処分・交渉を続けていても期間は進む。裁量棄却の余地がある |
株主提案の三つの権利は、「株主提案権の行使」で別の表に整理します。
議決権行使禁止・許容の仮処分
禁止の仮処分は相手方(例えば名義人)の議決権行使を止めるもの、許容の仮処分は自らの議決権行使を会社に認めさせるためのもので、禁止だけでは自らの票は加算されません。目的に応じて使い分け、又は併せて検討し、申立ての相手方、対象の株式、総会、議案を争いの内容に即して特定します。
これらは民事保全法上の仮の地位を定める仮処分に当たり、争いのある権利関係と、著しい損害又は急迫の危険を避けるための必要性を疎明します(同法第13条・第23条第2項)。総会の日時、議案、争いのある議決権の数とその影響、役員の変更などによる具体的な危険を示します。原則として口頭弁論又は相手方が立ち会うことのできる審尋の期日を経ますが、その期日を経ることで申立ての目的を達することができない事情がある場合の例外があり(同法第23条第4項)、担保を求められる場合もあります(同法第14条)。
基準日がある場合は、基準日の株主が行使できる権利の内容も確認します(会社法第124条)。名義を是正した後でも、直近の総会で当然に議決権を行使できるとは限りません。仮処分の決定は最終的な帰属を確定するものではなく、認められるかどうかや決定までの日数も事案によって異なります。
臨時株主総会の招集請求
株主は、総会の目的である事項(自らが議決権を行使できる事項に限ります)と招集の理由を示して、取締役に総会の招集を請求できます(会社法第297条第1項)。原則として総株主の議決権の3%以上が必要で、公開会社では6か月前から引き続き保有していることも必要です。公開会社でない会社では保有期間の要件はありませんが、3%の要件は残ります(同条第2項)。割合と期間は定款で引き下げ・短縮でき、その事項について議決権を行使できない株主の議決権は分母に算入しません(同条第3項)。
請求の後、遅滞なく招集の手続が行われない場合、又は請求の日から8週間(定款で短縮可)以内の日を総会の日とする招集の通知が発せられない場合に、請求をした株主は裁判所の許可を得て総会を招集できます(同条第4項)。許可なく株主が総会を開けるわけではなく、「8週間は待たなければならない」「8週間以内に通知さえ出せばよい」という理解も正確ではありません。許可の申立ては、招集請求で示した議題・理由と内容を一致させます。
なお、株主の地位を確保しても、それだけで役員や代表者は交代しません。取締役の選任・解任は株主総会の決議(同法第329条・第339条)、代表取締役の選定・解職は機関設計に応じた手続(同法第349条・第362条)により、役員変更の登記や資料の引継ぎも別に必要です。正当な理由のない解任では、会社が損害賠償責任を負うことがあります(同法第339条第2項)。
株主提案権の行使
株主提案には、議題を追加する権利、総会で議案を出す権利、議案の要領を他の株主に通知させる権利があり、取締役会設置会社かどうか、公開会社かどうかで要件が異なります。
| 手段 | 目的 | 主な要件・期限 | 限界 |
|---|---|---|---|
| 議題提案権 (第303条) |
一定の事項を総会の議題とするよう取締役に請求する | 取締役会設置会社:議決権の1%以上又は300個以上、総会の日の8週間前までに請求(公開会社は6か月の継続保有も必要)。取締役会を置かない会社:これらの保有要件と法定の期限はない | その事項について議決権を行使できる株主に限られる |
| 議案提出権 (第304条) |
総会の場で、議題について自らの議案を提出する | その議題について議決権を行使できること。1%・300個・6か月・8週間の要件はない | 議題と無関係な事項は追加できない。違法な議案や一定の再提案は認められない |
| 議案要領 通知請求権 (第305条) |
自らの議案の要領を他の株主に通知させる | 総会の日の8週間前までに請求(取締役会を置かない会社も同じ)。取締役会設置会社は議決権の1%以上又は300個以上(公開会社は6か月の継続保有も必要) | 取締役会設置会社では10を超える議案に上限(数え方に特則あり)。違法な議案や一定の再提案は対象外 |
表中の割合・個数・期間は、条文で定める範囲で定款により引き下げ・短縮でき、割合の分母からはその事項について議決権を行使できない株主の議決権を除きます。再提案の制限は、実質的に同一の議案が総株主(その議案について議決権を行使できない株主を除きます)の議決権の10分の1(定款で引下げ可)以上の賛成を得られなかった日から3年を経過していない場合です(会社法第304条ただし書・第305条第6項)。10議案の上限は議案要領通知請求についての定めで、役員の選任・解任に関する議案などは数え方に特則があり(同条第4項)、株主提案の全般に及ぶ制限ではありません。
株主総会検査役と総会後の対応
総会の招集手続や決議の方法を記録に残すため、会社又は総株主の議決権の1%以上(定款で引下げ可)を有する株主は、総会に先立って株主総会検査役の選任を申し立てることができます(会社法第306条)。300個以上の議決権という代替の要件はありません。公開会社である取締役会設置会社では6か月前から引き続き保有していること(定款で短縮可)が必要で、公開会社でない会社では保有期間の要件はありません。割合の分母からは、総会で決議できる事項の全部について議決権を行使できない株主を除き、取締役会設置会社では、その総会の目的である事項の全部について議決権を行使できない株主を除きます。不適法として却下される場合を除き、裁判所は検査役を選任します。
総会検査役は招集の手続と決議の方法を調査する制度で、会社の業務や財産を調べる検査役とは異なり、株式の帰属を判断したり役員を解任したりするものでもありません。総会の経過を記録し、後日の訴訟で手続の問題を立証する資料とする役割があります。
決議に招集の手続や決議の方法の法令・定款違反、著しい不公正などがあるときは、株主等は決議の日から3か月以内に決議取消しの訴えを提起できます(会社法第831条第1項)。起算点は決議を知った日ではなく決議の日で、名義株の訴訟や仮処分、和解交渉を続けていても期間は進みます。違反の事実が重大でなく、かつ決議に影響を及ぼさないときは請求が棄却されることがあり(同条第2項)、決議の不存在・無効の確認の訴え(同法第830条)は別の要件で判断されるため、取消しの期間を過ぎた場合の代わりと考えることはできません。名義株の争いだから期限を気にしなくてよい、ということもありません。
和解で決着させる場合の設計
和解では、本来の帰属を確認して名義を整えるものか、争いを終えるために一方が株式を実際に買い取るものか、会社の運営に関する合意を含むものかを区別して設計します。
名義の是正と株式の買取りは異なる
帰属を確認して名義を整える和解は、すでにある権利関係を確認し、名簿などを是正するものです。これに対し、買取りによる和解は新たな株式の譲渡であり、売主と買主、対価、移転の時期、譲渡承認、株券の交付、名簿の書換えを定める必要があります。譲渡制限株式の譲渡承認は、原則として株主総会(取締役会設置会社では取締役会)の決議によりますが、定款に別段の定めがあればそれによります(会社法第139条第1項)。どちらの形をとるかで代金の性質や税負担が変わるため、法律上の性質、代金、税負担、会社の手続を合わせて決めます。
発行会社が買い取る場合は、自己株式の取得として、株主総会の決議、特定の株主から取得する場合の手続、分配可能額による財源の制限などを別に検討します(会社法第155条・第156条・第160条・第461条)。会社の資金を個人間の紛争の解決金に安易に充てることは避けるべきです。少数株式の買取りの手続は、少数株式の買取りと会社法上の手続で整理しています。
和解書に定める事項と履行の順序
合意した内容が実行されなければ紛争は残ります。和解の条項では、次の事項を必要な範囲で具体的に定めます(法令で定められたひな型ではなく、実務上の確認項目です)。
- 対象の株式(発行会社、種類、株数)、帰属の確認か新たな移転かの区別、効力が生じる時期
- 名義人、権利を主張する者、会社の参加又は協力の内容、会社を代表する者と利益相反の有無
- 名簿の記載、株券の交付、譲渡承認などの手続、必要書類、各期限と担当者
- 代金の支払者・受領者・金額、支払と株券等の交付の同時履行、分割払いとする場合の担保など
- 役員・代表者の交代、会社の印鑑や資料の適法な引継ぎ
- 過去の配当、貸付金、役員報酬、損害賠償、訴訟費用を区別した清算の範囲
- 税負担、申告への協力と資料の提供、追加の課税があった場合の当事者間の負担の調整
- 履行を確認する方法と、訴えの取下げや仮処分の解除などを行う順序(履行の前に保全を解く定めは慎重に検討)
裁判上の和解には確定判決と同一の効力が認められますが(民事訴訟法第267条)、当事者や条項が名簿の是正に必要な手続(会社法施行規則第22条など)に合っていなければ、会社での手続が進まないことがあります。価格の合意だけで、会社の手続や税務を含むすべての問題が終わるわけではありません。
名義株の解消と税務上の注意点
「名義を戻すだけなので税金はかからない」とも、「名義が変われば贈与税がかかる」とも一律にはいえません。実体として権利の移転があったかどうかと、税目ごとの扱いを区別して確認します。当事務所は税務申告・税務代理を行っておりませんので、税務上の判断や申告は税理士又は税務署にご確認ください。
贈与税・相続税・譲渡所得の分岐
国税庁の相続税法基本通達9-9は、対価の授受がない株式等の名義変更や、他人名義での株式等の取得を、原則として贈与として取り扱うとしています。他方、大阪地方裁判所平成27年3月13日判決(税務訴訟資料第265号-43・順号12626)は、同通達等を課税庁内部の認定の指針と位置付け、贈与の実体がないのに名義だけで贈与として扱うことはできない旨を示しました。ただし同判決の事案では、名義人名義の株式等が被相続人に帰属すると認められています。贈与に当たらないことと相続税がかからないことは別の問題であり、また、課税をめぐる下級審の一例として、会社法上の帰属の一般的な基準となるものではありません。
国税庁の通達「名義変更等が行われた後にその取消し等があった場合の贈与税の取扱いについて」は、一定の場合に贈与がなかったものとして取り扱うとしていますが、名義人がその事実を知らなかったこと、名義人が財産を管理運用したり収益を受けたりしていないこと、原則として最初の贈与税の申告や決定・更正の前に名義を戻したことなど、項目ごとに条件があり、課税を免れる目的の場合などには適用されません。確認書を作れば、あるいは税務調査の前に名義を戻せば当然に課税されない、というものではありません。
解消の方法ごとに、主に問題となる税務は次のとおりです。
| 処理の実質 | 主に問題となる税務 | 事前確認 |
|---|---|---|
| 名義の是正(帰属の確認) | 名義変更を原則として贈与とする通達との関係で、贈与税が問題とされ得る | 取得時の資金・合意・配当などの資料で、実体上の移転がないことを説明できるか。名義変更の取消しに関する通達の条件 |
| 相続の開始 | 相続開始の時に被相続人に帰属していた株式は、他人名義でも相続財産となり得る | 相続開始時点の帰属、生前の贈与・譲渡の有無、申告の期限 |
| 個人間の売買 | 売主は株式等の譲渡所得(申告分離課税)。買主は、著しく低い価額で取得した場合の贈与税(相続税法第7条) | 税務上の時価、取得費、価格の根拠資料 |
| 法人への譲渡 | 時価の2分の1に満たない対価による譲渡は、時価で譲渡したものとして課税(所得税法第59条)。2分の1以上でも同族会社等の行為計算の否認の可能性 | 所得税基本通達59-6による評価、和解価格との差 |
| 発行会社による取得 | 対価のうち、その株式に対応する資本金等の額を超える部分は原則としてみなし配当。相続で取得した株式には条件付きの特例 | 会社法上の手続・財源規制、特例の要件と手続 |
| 解決金名目の支払 | 名称だけで課税関係は決まらず、株式の対価か、配当・貸付金などの清算かといった実質で検討 | 和解条項で支払の内訳と性質を区別する |
民事の争いが続いていても、そのことだけで相続税の申告を先送りできるわけではありません。個人間の売買には「時価の半額以上であれば贈与税は問題にならない」という基準はなく、著しく低い価額に当たるかは個別に判断されます(国税庁タックスアンサー「個人から著しく低い価額で財産を譲り受けたとき」、売主側は同「株式等を譲渡したときの課税(申告分離課税)」)。
非上場株式の税務上の評価は、目的と当事者によって異なります。相続税・贈与税では取得者の株主としての区分、会社の規模、特定の評価会社に当たるかどうかなどで評価方法が変わり(国税庁タックスアンサー「取引相場のない株式の評価」)、所得税法第59条の場面では所得税基本通達59-6による読み替え・修正があるため、相続税の評価額をそのまま使えるとは限りません。和解の価格、税務上の評価額、会社の帳簿上の純資産額は同じものではなく、評価の基準時点、当事者、議決権の構成を確認します。
発行会社への売却によるみなし配当と、相続で取得した非上場株式の特例は、国税庁タックスアンサー「相続により取得した非上場株式をその発行会社に譲渡した場合の課税の特例」で案内されています。特例は要件と手続を満たす必要があり、当然に適用されるものではありません。会社側の課税や会計処理は、取引の内容が決まった段階で、会社法上の財源規制とあわせて確認します。
和解価格と税務上の時価は一致するとは限らない
国税不服審判所令和7年9月10日裁決は、経営をめぐる紛争の訴訟上の和解により、個人が同族関係にある法人へ非上場株式を譲渡した事案で、譲渡価額が税務上の時価の2分の1未満に当たるとして、更正処分を適法と判断しました。裁判官の勧めを経て合意した価格であることなどは、この事案の結論を左右しませんでした。
裁判所の判決ではなく個別の事案についての裁決例であり、すべての和解や独立した第三者の間の売買に同じ結論が及ぶわけではありません。それでも、当事者の間で「課税は生じないものとする」と合意しても課税の要件や課税庁の判断は拘束されず、税負担の条項は当事者間の負担の調整にとどまります。合意の前に、税務上の評価と課税関係を税理士に確認しておくことをおすすめします。
よくある質問
昔の通帳がないと、名義株であることを証明できませんか。
通帳がないことだけで結論は決まりません。払込みや設立・増資の書類、配当の記録、議事録、当時のやり取りなどを組み合わせて、取得時から現在までの流れを確認します。日付をさかのぼらせた書面の作成や名簿の書換えはしないでください。
名義人が亡くなった場合、名義株はどうなりますか。
名義人の死亡だけで、誰が株主かの答えは変わりません。名義人の相続人が権利を主張する場合はその相続人との間で帰属を整理し、名簿の是正でも相続人が関係します。真の株主とされる先代などが亡くなっている場合は、相続による承継と、相続税の申告での扱いもあわせて確認します。
株主権確認訴訟で勝訴すれば、次の株主総会で当然に議決権を行使できますか。
当然にはいえません。判決の効力は原則として当事者等に及ぶため、会社が当事者でない場合の扱い、名簿の是正、基準日との関係を別に確認します。総会が迫っている場合は、判決を待たずに仮処分などを検討します。
和解金として支払えば、税金はかかりませんか。
名称だけで課税関係は決まりません。名義の是正か株式の売買かで問題となる税が異なり、裁判上の和解の価格でも税務上の時価とされなかった裁決例があります。合意の前に税理士へ確認することをおすすめします。
相談前に整理する事項と神戸での相談案内
次の事項を整理しておくと、検討すべき手段と期限を早く確認できます。資料がすべてそろっていなくても構いません。
- 株主総会の予定(日時、基準日、議題・議案)、招集通知の有無、すでに決議があった場合はその日
- 関係者(名義人、権利を主張する者、会社、他の株主・役員)と、会社としてのご相談か株主個人としてのご相談か
- 会社の種類(取締役会の有無、株式の譲渡制限や株券発行の定め)と、定款の所在
- 株式を取得した経緯(設立・増資・売買・贈与・相続の別と時期)
- 手元の資料の一覧(原本・元データの所在、入手日と入手経路)
初動で確認する株式・役員構成・議事録の見方は、株主・役員間の対立で最初に確認する資料でも整理しています。
ご相談の前に利益相反の確認を行います。確認が済むまでは、株主名簿、契約書、決算書、会計帳簿、メールのデータなどの資料をお送りいただかないようお願いします。同じ紛争で利害が対立する当事者の双方から、同時にご相談をお受けすることはできません。お問い合わせやご相談によって、決議取消しの訴えの期間などの期限が止まったり延びたりすることはありません。
申立先の裁判所は手続ごとに異なります。株主総会の招集許可や総会検査役の選任などの会社の非訟事件は、本店の所在地を管轄する地方裁判所が扱います(会社法第868条第1項)。株主権確認訴訟は、決議取消しの訴えのような本店所在地の専属管轄(同法第835条)とは限らず、被告や請求の内容などから管轄を確認します(民事訴訟法第4条等)。仮処分は本案の管轄裁判所などが扱います(民事保全法第12条)。神戸地方裁判所の窓口案内では、本庁について、訴訟の申立ては民事訟廷事務室、商事非訟は第3民事部、保全事件の問い合わせは第3民事部(分室)とされていますが、支部の管轄を含め、提出先は事件ごとに確認が必要です。
ご相談の予約について
当事務所では、株主・役員間の対立や経営権をめぐる問題について、企業法務のスポット相談をお受けしています。相談の受入れや受任の可否は、利益相反の確認と事案の内容を踏まえて個別に判断し、費用は案件ごとにご案内します。相談予約フォームの送信や予約の受付は、受任(委任契約の成立)を意味するものではありません。
事務所紹介
弁護士法人ひょうご支所神戸みらい法律会計事務所
所属弁護士会:兵庫県弁護士会
〒654-0154 兵庫県神戸市須磨区中落合2丁目2-5 名谷センタービル7階(神戸市営地下鉄西神・山手線 名谷駅から徒歩1分)
株主・役員間の対立や経営権をめぐる問題を含め、企業法務のご相談をお受けしています。所属弁護士の資格や所属弁護士会は、所属弁護士の紹介でご確認いただけます。
参考資料
- 会社法(e-Gov法令検索)
- 会社法施行規則(e-Gov法令検索)
- 民事保全法(e-Gov法令検索)
- 民事訴訟法(e-Gov法令検索)
- 最高裁判所第二小法廷昭和42年11月17日判決(昭和42年(オ)第231号)全文(PDF)
- 最高裁判所第二小法廷令和6年4月19日判決(令和4年(受)第1266号)全文(PDF)
- 東京地方裁判所民事第8部「(記載例)株主権確認訴訟」(PDF)
- 神戸地方裁判所「窓口案内」
- 国税庁「相続税法基本通達 第9条《その他の利益の享受》関係」
- 国税庁「名義変更等が行われた後にその取消し等があった場合の贈与税の取扱いについて」
- 大阪地方裁判所平成27年3月13日判決(税務訴訟資料第265号-43)(PDF)
- 国税庁タックスアンサー「個人から著しく低い価額で財産を譲り受けたとき」
- 国税庁タックスアンサー「株式等を譲渡したときの課税(申告分離課税)」
- 国税庁タックスアンサー「取引相場のない株式の評価」
- 国税庁「所得税基本通達 法第59条《贈与等の場合の譲渡所得等の特例》関係」
- 国税不服審判所「令和7年9月10日裁決」(公表裁決事例)
- 国税庁タックスアンサー「相続により取得した非上場株式をその発行会社に譲渡した場合の課税の特例」
本記事は、名義株をめぐる紛争について一般的な情報を提供するもので、個別の事案についての法的助言や税務上の助言ではありません。誰が株主に当たるか、どの手続を利用できるか、どの税務が問題となるかは、取得の経緯、資料、会社の定款や機関設計などによって異なります。
情報基準日:2026年10月14日(同日時点の法令及び公表資料に基づいています)

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