返済が苦しくなっても、「自己破産をすると教員免許を失うのではないか」「学校や教育委員会に知られてしまうのではないか」という不安から、相談を先送りにしている方は少なくありません。結論から申し上げると、自己破産という手続それ自体を理由に教員免許が当然に失効することはなく、公立学校の教員が当然に職を失うこともありません。もっとも、共済組合や学校厚生会の貸付と積立、給与からの引去り、退職手当の扱いは、勤務先と加入している制度によって確認すべき点が変わります。この記事では、確認の順序と、相談前にそろえておきたい資料を整理します。
給与明細の控除欄と貸付の償還表を確認することで、どの借入れが給与事務と結びついているか、仕事を続けることを前提にどの手続を検討できるかを整理できます。
結論|自己破産を理由に教員免許が当然に失われることはありません
教員免許(免許状)について、授与されない場合(欠格)、効力を失う場合(失効)、取り上げられる場合(取上げ)は、いずれも教育職員免許法が定めていますが、そのどの規定にも破産手続開始の決定を受けたことは挙げられていません。学校教育法第9条が定める「校長又は教員となることができない者」にも、破産は含まれていません。公立学校の教員についても、地方公務員法第16条の欠格条項に破産は含まれておらず、同法第28条第4項による失職の対象にもなりません。私立学校の教員は、公務員の身分保障がそのまま当てはまらない代わりに、雇用契約と就業規則、労働契約法の解雇・懲戒に関する規定の枠組みで判断されます。
最初に押さえておきたい五つのこと
- 免許は破産を理由に当然には失効しません。免責の確定を待たなければ授業ができない、破産後に免許を取り直す必要がある、といったこともありません。
- 手続そのものとして学校に通知される仕組みはありませんが、給与事務が関与する場面では結果として知られる可能性があります。
- 「共済」「厚生会」「天引き」という言葉は、制度も債権者も異なるものをまとめて指してしまいます。契約書と会員証で借入先を特定してください。
- 貸付の残高は債務、積立や預金は資産です。同じ団体に両方があっても、差引額だけを申告することはできません。
- 退職手当は、受け取っていなくても財産の評価に影響します。自己破産のために退職する必要はありません。
教員免許と教員の身分に対する影響
免許状の欠格・失効・取上げに破産は含まれていません
普通免許状が授与されない場合は、教育職員免許法第5条第1項ただし書に限定して定められています。18歳未満の者、高等学校を卒業しない者、拘禁刑以上の刑に処せられた者、同法第10条第1項第2号・第3号により免許状が失効して3年を経過しない者、同法第11条第1項から第3項までの取上げの処分を受けて3年を経過しない者、憲法又は憲法の下に成立した政府を暴力で破壊することを主張する団体を結成・加入した者の六つです。
免許状が効力を失うのは、同法第10条第1項が定める場合、すなわち拘禁刑以上の刑に処せられたとき、憲法破壊団体に関する事由に当たるとき、公立学校の教員が懲戒免職の処分を受けたとき、公立学校の教員が地方公務員法第28条第1項第1号又は第3号に該当するとして分限免職の処分を受けたときです。取上げは、同法第11条により、国立・公立・私立学校の教員が懲戒免職や分限免職に相当する事由により解雇されたと認められるときなどに行われます。いずれにも、破産は挙げられていません。
免許状が失効し、又は取上げの処分がされたときは、免許管理者がその種類・事由・氏名・本籍地を官報に公告します(教育職員免許法第13条第1項)。自己破産で官報に掲載されるのは破産手続開始の決定や免責許可の決定に関する事項であり、免許状の失効の公告とは根拠も内容も別のものです。
なお、いわゆる教員免許更新制は令和4年(2022年)7月1日に発展的に解消されています(文部科学省)。「破産すると更新できない」「免許を再申請しなければならない」という説明は、現行の制度に基づくものではありません。
公立学校の教員|欠格条項と分限・懲戒は別の問題です
地方公務員法第16条の欠格条項は、拘禁刑以上の刑に処せられた者、懲戒免職の処分を受けて2年を経過しない者、人事委員会等の委員として一定の罪を犯し刑に処せられた者、憲法破壊団体を結成・加入した者の四つです。同法第28条第4項は、この各号(第2号を除く。)に該当するに至ったときに職を失うと定めていますので、破産では失職しません。
自己破産をした場合に一定の資格や職業が制限され、免責許可の決定の確定などにより復権することについては、破産による資格制限と復権の仕組みを確認するで整理しています。これとは別に、分限(同法第28条第1項)と懲戒(同法第29条第1項)があります。借入れがあること、債務整理をしたこと自体は、いずれの事由にも当たりません。問題になるのは、学校徴収金の流用、公金や預り金の取扱いに関する行為など、借入れとは別個の行為です。信用失墜行為の禁止(同法第33条)が問題となるのも、この別個の行為についてです。そうした事情がある場合は、方針を検討する前に弁護士にお伝えください。
返済のために収入を増やそうとして、許可を得ずに報酬を伴う仕事をすることは、営利企業への従事等の制限(地方公務員法第38条第1項)に触れるおそれがあります。私立学校の教員についても、就業規則で兼業が制限されている例があります。返済原資の確保は、まず家計の見直しと手続の選択で検討してください。
私立学校の教員|雇用契約と就業規則で判断します
私立学校の教員は地方公務員ではありませんので、欠格条項や失職の規定は適用されません。判断の枠組みは、雇用契約、就業規則、懲戒規程と労働契約法です。懲戒は、客観的に合理的な理由を欠き社会通念上相当と認められない場合には権利の濫用として無効となり(同法第15条)、解雇についても同様です(同法第16条)。期間の定めのある契約では、やむを得ない事由がなければ契約期間の途中で解雇することができません(同法第17条第1項)。
したがって、「就業規則に破産と書かれていれば当然に解雇できる」とも、「私立でも解雇されることはない」とも言えません。就業規則の該当条項の文言、実際に問題とされている行為、これまでの取扱いを確認したうえで判断します。有期雇用や非常勤の場合は、契約期間・更新の問題と破産それ自体の問題を分けて検討してください。
| 確認する項目 | 公立学校の教員 | 私立学校の教員 |
|---|---|---|
| 教員免許への影響 | 教育職員免許法第5条第1項ただし書・第10条・第11条、学校教育法第9条のいずれにも破産は含まれていない(公立・私立で違いはない) | |
| 身分・雇用の根拠 | 地方公務員法(欠格条項=第16条、失職=第28条第4項、分限=第28条第1項、懲戒=第29条第1項) | 雇用契約・就業規則・懲戒規程、労働契約法第15条・第16条・第17条第1項 |
| 破産による失職 | 失職事由に当たらない | 当然に解雇の理由となるものではないが、就業規則の内容と個別事情の確認が必要 |
| 共済等の加入先 | 公立学校共済組合(地方公務員等共済組合法第3条第1項第2号) | 私学共済(日本私立学校振興・共済事業団) |
| 給与控除の根拠 | 地方公務員法第25条第2項(法律又は条例による)。同法第58条第3項により労働基準法第24条第1項は適用されない | 労働基準法第24条第1項(法令又は労働協約の定め、過半数代表との書面協定) |
| 退職金の根拠 | 勤務先の退職手当に関する条例 | 学校法人の退職金規程。退職金財団等の制度や企業年金を併用する例がある |
学校に知られる可能性がある経路
「勤務先だから通知される」のではありません。知られ得るのは、勤務先が債権者や保証の関係者である場合と、個別の制度・契約の事務に給与担当者が関与する場合です。この二つを分けて考えると、避けられる場面と避けられない場面が見えてきます。
| 経路 | 性質 | 確認しておきたいこと |
|---|---|---|
| 共済組合・厚生会の貸付 | 申込みや償還の事務に所属所(勤務先)が関与する仕組みがある。公立学校共済組合兵庫支部では、申込みは所属所長を経由するとされている | 借入先、償還方法、申込みの経路。手続の段階で引去りをどう扱うか |
| 給与からの引去りの停止・変更 | 給与支給機関が処理するため、給与事務には分かる | どの控除がどの根拠によるものか。停止・変更の要否と順序 |
| 給与の差押命令 | 第三債務者である勤務先に裁判所から送達されるため、避けられない | 差押えに至る前の段階で手続を選べるか |
| 退職手当見込額の証明 | 勤務先に証明を求めることになるため、担当者には分かる | 証明書が必要か、他の資料で足りるかは裁判所の運用による |
| 勤務先や同僚からの借入れ・保証 | 債権者又は保証人として手続の当事者になる | 債権者一覧に記載する必要があり、除外できない |
| 官報の公告 | 破産手続開始の決定などが掲載される。日常的に閲覧されるものではないが、公開されている | 掲載される内容と、免許状の失効の公告との違い |
校長や管理職が知るのか、給与担当者にとどまるのか、同僚や保護者にまで広がるのかは、経路ごとに異なります。発覚する確率を数字で示す説明を見かけますが、根拠のあるものではありません。給与の差押えの流れと範囲については、給料差押えの通知が届いたら確認することを読むもあわせてご覧ください。
報告義務の有無は、全国一律には決まりません。法令、条例、服務に関する規程、就業規則、任用や雇用の条件、個別の届出事項を確認して判断する問題です。他方で、虚偽の説明をする、証明書の取得理由を偽る、記録を作り替えるといった対応は、借入れとは別の懲戒事由や紛争を生みます。伝える必要があるかどうかを含めて、弁護士と相談のうえで整理してください。
給与の振込口座を見直す場面では、取引の記録と資金の所在を申告することが前提になります。口座の変更や現金化を、財産を隠す方法や相殺を避ける方法として用いることはできません。
公立学校共済組合と兵庫県学校厚生会は別の団体です
まず借入先と預け先を資料で確かめます
教職員の借入れは、名称が似ているために取り違えが起こりやすい分野です。公立学校共済組合とその兵庫支部、一般財団法人兵庫県学校厚生会、私学共済を運営する日本私立学校振興・共済事業団、勤務先の学校法人、提携する金融機関は、いずれも別の主体です。窓口はどこか、給与を支給するのは誰か、債権者は誰か、預けた資金はどこにあるのか、保証人・保証保険会社・債権を譲り受けた者がいるのかを、契約書と会員証、償還表で確かめてください。
公立学校の教職員は、地方公務員等共済組合法第3条第1項第2号により公立学校共済組合の組合員となります。市立学校に勤務していても、市の職員が加入する共済組合ではありません。他方、兵庫県学校厚生会は、兵庫県の「教職員の共済制度に関する条例」により設立され、地方公務員法第42条の厚生制度の一部を実施する一般財団法人です。県内の教職員が全員、同じ団体の同じ制度を利用しているとは限りませんので、会員資格の有無と利用している商品を確認してください。なお、政令指定都市が設置する学校については、平成29年4月1日から給与負担等が指定都市に移譲されています(文部科学省)。任命権者、給与を支給する機関、適用される条例は、学校の設置者によって異なります。
| 制度・団体 | 対象者の確認 | 貸付と資産の区別 | 給与控除・退職時の確認 | 用意する資料 |
|---|---|---|---|---|
| 公立学校共済組合 | 公立学校の職員等(地方公務員等共済組合法第3条第1項第2号)。支部の所属も確認する | 貸付は同法第112条第1項第4号の事業。掛金等とは別のもの | 給与支給機関が控除して払い込む(同法第115条第2項)。資格喪失時・退職手当の支給を受けられるときは即時償還 | 借用証書、償還表、貸付決定の通知 |
| 兵庫県学校厚生会 | 県の条例により設立された一般財団法人の会員。現職会員・現職準会員などの区分がある | 貸付(普通貸付・短期貸付・住宅関連ほか)と、積立預金・定期預金等は別のもの | 定時償還は毎月の給与から引去り。退職時は貸付金残高の全額を即時償還するとされている | 借用証書と約定、会員証、預金の残高が分かる資料 |
| 私学共済(日本私立学校振興・共済事業団) | 私立学校教職員共済法の加入者。種別によって取扱いが異なる | 貸付は同法第26条第1項第5号、積立貯金は同項第4号の事業 | 学校法人等が、事業団から求められたときに報酬・賞与・退職手当から控除して払い込む(同法第29条第4項) | 貸付の決定通知と償還予定表、積立貯金残高明細書 |
| 勤務先の学校法人・提携金融機関 | 雇用契約・就業規則、金銭消費貸借契約の当事者 | 勤務先からの貸付と、金融機関からの借入れは債権者が異なる | 控除には法令又は労働協約の定め、若しくは過半数代表との書面協定が必要(労働基準法第24条第1項) | 契約書、残高証明、返済予定表、給与明細 |
公立学校共済組合の貸付
公立学校共済組合の貸付は、貸付月の翌月から毎月の給料の控除により元利均等額で償還する方式が基本で、毎月の償還額は給料月額の10分の3以内とされています。貸付金が100万円以上の場合はボーナス併用償還を利用でき、6月と12月の期末勤勉手当から控除されます。組合員の資格を喪失したとき、退職手当の支給を受けることができるときなどは、未償還元利金を即時に償還することとされています。災害、育児休業、1か月以上の介護休業、給料が全額支給されない傷病休職、配偶者同行休業については、申出により償還の猶予が認められる制度があります。
注意していただきたいのは、共済組合に対して支払う金銭がすべて同じ扱いになるわけではないことです。掛金や保険料は組合員としての負担であり、貸付金の返還の債務とは性質が異なります。免責の対象になるかどうかも、同じ「共済」という名称でくくって判断することはできません。
兵庫県学校厚生会の貸付と預金
兵庫県学校厚生会の貸付は、会員期間が引き続き6か月以上ある現職会員を対象とし、貸付償還額の合計が給料月額の10分の4以内であることなどが条件とされています。定時償還は毎月の給与からの引去りで、賞与償還は一部の商品に限られます。退職する際には貸付金残高の全額を即時償還することとされ、公表されている質問への回答では、再任用で勤務を続ける場合も例外はないと説明されています。
公表されている一般貸付の約定には、借受人が債務の履行を2回以上怠ったとき、第三者から差押え又は仮差押えを受けたとき、破産又は民事再生の申立てをしたときは当然に期限の利益を失い、残債務の全額を直ちに支払うという定めがあります。あわせて、厚生会が借受人の厚生会に対する預金債権その他の債権と残債務の全額とを相殺できるという定め、保証保険と、債務不履行に基づく保険会社への債権譲渡に異議を述べないという定め、退職の際には給付金及び退職手当金等で償還し、不足があれば直ちに残額を償還するという定めが置かれています。この約定が住宅関連の貸付や預金を担保とする貸付にそのまま当てはまるとは限りませんので、利用している商品の書面を確認してください。
約定にこうした条項があることと、その条項を倒産手続のなかで有効に行使できることとは、別に検討する必要があります。破産手続では、破産債権者は開始時に破産者に対して債務を負担するときに相殺をすることができますが(破産法第67条第1項)、支払不能や支払の停止、破産手続開始の申立てを知った後に債務を負担した場合など、相殺が禁止される場合があります(同法第71条第1項)。相殺の可否は、預金がいつ、どのような原因で預けられたかによって変わります。
また、保証保険により貸主に保険金が支払われても、それだけで本人の返済義務が消えるわけではありません。代位、求償、債権譲渡のどの仕組みによって請求する主体が変わるのかは、届いた通知書の記載を確認する必要があります。通知書は捨てずに保管してください。
私立学校の教員|私学共済の貸付と積立貯金
私学共済にも、給与や賞与、退職手当からの償還の仕組みがあります。私立学校教職員共済法第29条第4項は、加入者が事業団に返還すべき貸付金の債務がある場合において、事業団から求められたときは、学校法人等が報酬・賞与又は退職手当からその金額を控除し、加入者に代わって事業団に支払わなければならないと定めています。公立学校の場合と異なり、事業団からの求めがあることが要件とされている点に注意してください。借受人はあくまで加入者本人であり、学校法人等は控除と払込みを行う立場です。
積立貯金は、貸付とは別の資産です。毎月の給与から積み立てる定時積立金と、賞与から積み立てる臨時積立金があり、退職して加入者の資格を失うと継続できないため、解約の手続が必要とされています。残高と払戻しの条件は手続を検討するうえで重要ですので、残高明細書を用意してください。
給与から引かれているお金を区別する
給与明細の控除欄には、根拠も対応方法も異なるものが並んでいます。名称が似ていても、止められるもの、止められないもの、止めるべきでないものがあります。
| 控除の内容 | 主な根拠 | 債務整理での扱い |
|---|---|---|
| 所得税・住民税、共済の掛金・保険料 | 各税法、地方公務員等共済組合法第115条第1項ほか | 生活と身分に関わるもので、一括して止めるものではない |
| 共済組合貸付の償還金 | 公立は地方公務員等共済組合法第115条第2項、私学は私立学校教職員共済法第29条第4項 | 本人の意思だけで止まるものではない。手続の段階に応じて扱いを検討する |
| 学校厚生会など互助団体の貸付の償還金・掛金 | 団体の規程と貸付の約定、給与控除に関する条例等の定め | 貸付の残高は債務。掛金や会費は返還されない場合がある |
| 積立預金・積立貯金・財形貯蓄 | 各制度の規程 | 債務ではなく資産。残高と払戻しの条件を申告する |
| 金融機関への口座振替 | 本人と金融機関の契約 | 債権者への返済。受任通知の対象になり得る |
| 給与の差押えによる控除 | 民事執行法(給料等は支払期に受けるべき給付の4分の3、政令で定める額を超えるときはその額。退職手当は4分の3) | 裁判手続に基づくもので、勤務先の判断では止まらない |
引去りは「弁護士に依頼すれば必ず止まる」ものではありません
受任通知の送付、支払の停止、破産手続開始の申立て、開始決定、免責許可の決定の確定は、それぞれ効果の異なる別の段階です。受任通知で取立てがどう変わるかを読むのとおり、貸金業者に対する受任通知には取立てを制限する効果がありますが、法律又は条例を根拠として給与支給機関が行う控除は、これと同じ仕組みではありません。逆に、「共済の控除は破産後も常に優先する」「控除が続けば当然に免責が認められない」という説明も正確ではありません。
この点について、最高裁判所は、破産者が破産手続中に自由財産のなかから破産債権に対して任意に弁済をすることはできるとしたうえで、地方公務員共済組合の組合員の破産手続中に、自由財産である退職手当のなかから地方公務員等共済組合法第115条第2項所定の方法により弁済がされた場合に、それが組合員による任意の弁済であるというためには、組合員が、破産宣告後に自由財産から破産債権に対する弁済を強制されるものではないことを認識しながら、自由な判断によりその方法で弁済したものといえることが必要である、との判断を示しています(最高裁判所第二小法廷平成18年1月23日判決・民集第60巻1号228頁)。
もっとも、この判決は旧破産法の下での事案であり、対象とされたのは自由財産である退職手当です。毎月の給与からの控除や、私学共済を含む他の制度にそのまま同じ結論が当てはまるわけではありません。どの控除を、どの段階で、どの順序で調整するかは、給与明細と契約資料を確認したうえで個別に判断します。生活の維持に必要な支出や法令に基づく控除まで一律に止めることはお勧めしません。
貸付は債務、積立・預金は資産として分けて申告します
同じ団体に借入れと積立の両方があっても、差引きした金額だけを申告すればよいというものではありません。貸付の残高、積立や預金の残高、返還の条件、担保の有無、相殺に関する条項、相殺が問題になる時点は、それぞれ別に確認する必要があり、双方の資料を開示していただくことが前提になります。返還されない掛金や会費を預金として扱うことはできませんし、制度の名称だけで全額が保護されるとも、全額が処分の対象になるとも決まりません。
退会や解約、積立の払戻し、親族名義への移し替え、一部の債権者だけへの返済を、相談の前にご自身の判断で進めないでください。財産の隠匿や一部の債権者に対する偏った返済と評価されると、免責の判断や手続の選択に影響します。
退職手当の扱い
「破産するには退職が必要」ではありません
在職を続けたまま手続を進めることは、制度上可能です。他方で、退職手当を受け取っていないからといって、財産と無関係になるわけでもありません。破産手続開始前に生じた原因に基づく将来の請求権は破産財団に属するとされ(破産法第34条第2項)、そのうち差押えが禁止される部分は破産財団に属しないこととされています(同条第3項第2号)。退職手当については、その給付の4分の3に相当する部分の差押えが禁止されていますので(民事執行法第152条第2項)、理論上は4分の1が評価の対象になります。もっとも、これは差押えが禁止される範囲の話であり、破産手続における評価や、同時廃止と管財事件の振分けの運用はまた別の問題です。毎月の給与の差押えについて定められた金額の基準を、退職手当にそのまま当てはめることもできません。
| 状態 | 主に問題となること | 用意したい資料 |
|---|---|---|
| 在職中で、退職の予定がない | 将来の請求権としての評価。証明書が必要かどうか | 退職手当に関する条例又は退職金規程、給料月額と勤続年数が分かる資料 |
| 定年・早期退職などが近い、退職日が決まっている | 評価の基準時、退職に伴う貸付の即時償還、申立ての時期 | 退職日の分かる資料、貸付の残高、退職手当の見込額 |
| 退職したが、退職手当をまだ受け取っていない | 支給総額、法令に基づく控除や約定による償還、その控除の有効性 | 退職手当の決定通知、共済・厚生会の残高と償還の記録 |
| 既に受け取り、現金や預金になっている | 受領後の資金の使途と残高。受領に近接する時期の支出の説明 | 入金と出金が分かる通帳、使途の記録 |
神戸地方裁判所の破産事件の振分基準(平成29年6月1日策定)では、退職の時期が未定又は1年以上先の場合は自己都合退職を前提とする支給見込額の8分の1、既に退職した場合や退職まで1年未満の場合は支給額の4分の1で評価し、これが20万円以上のときは、特段の事情がない限り管財事件として取り扱うこととされています。使用者からの借入金による相殺の見込額は原則として控除する扱いとされていますが、共済組合や厚生会の貸付が退職手当から償還される場合に同じように扱えるかは、事案ごとに確認が必要です。この基準は神戸地方裁判所の運用であり、他の裁判所や個人再生の清算価値の計算に当てはまるとは限りません。
退職手当見込額の資料
ここでいう見込額は、定年まで勤務した場合の予想額ではなく、申立てに用いる基準の時点で自己都合により退職したと仮定した場合の見込額です。証明書には、算定の基礎、勤続年数、退職の事由、既に支払われた額が反映されますので、共済組合や厚生会の残高と突き合わせて確認します。証明書以外の資料で足りるかどうかは裁判所の取扱いによりますので、ご自身の計算だけで必ず足りるとは限りません。
退職して退職手当で返済するという判断は、慎重に検討してください。自己都合退職では支給率が下がることが一般的であり、収入がなくなること、退職に伴って貸付の即時償還が生じること、受領した退職手当の使途を説明する必要が生じることを、あわせて考える必要があります。「退職前に急いで申し立てれば退職金を守れる」という発想で時期を決めるものではありません。
私立学校の教員の退職金
私立学校の教員の退職金は、学校法人の退職金規程によります。都道府県ごとに私立学校教職員の退職金に関する財団等の制度が設けられ、学校法人が退職手当を支給するための資金の交付を受ける仕組みが用いられていることがありますが、この場合でも退職金を支給するのは学校法人ですので、支給の関係を規程で確認してください。確定給付企業年金や確定拠出年金を併用している場合は、それぞれ制度が異なります。私学共済の年金と勤務先から支給される退職一時金も別のもので、将来受け取る年金の受給権と、受け取った後の預金とで保護の範囲が同じとは限りません。
自己判断で進める前に確認したいこと
- 共済組合や厚生会の借入れだけを手続の対象から外し、そこだけ返済を続けてよいか(個人再生・自己破産では、すべての債権者を記載する必要があります)。
- 積立や預金を解約し、貸付と相殺してよいか(相殺できる時期と、手続における評価は別の問題です)。
- 退職や休職、異動の予定があるとき、申立てをどの時期に行うか。
- 親族や同僚、職員団体からの借入れ、保証人がいる借入れをどう扱うか(本人の免責によって保証人の責任が当然に消えるわけではありません)。
- 給与の振込口座を変更する必要があるか、変更するとして何を申告するか。
- 住宅ローン、自動車ローンなど担保のある借入れをどう処理するか(担保権の処理と本人の免責は別に検討します)。
任意整理・個人再生との比較
安定した収入があることは、自己破産ができない理由にはなりません。支払不能の状態にあるかどうかは、収入の有無だけでなく、債務の総額、返済の期限、資産、家計の状況から判断されます。他方で、共済組合や厚生会の貸付を手続の対象に含めたくないという理由だけで手続を選ぶことは適切ではありません。
任意整理は対象とする債権者を原則として選べますが、返済を続ける家計の余力が必要です。個人再生は、住宅ローンがある場合などに検討されますが、教員であれば必ず給与所得者等再生を選ぶというものではなく、小規模個人再生との違い、清算価値、債権者の構成を踏まえて検討します。減額の割合や手続にかかる期間は事案によって異なりますので、一般的な数字だけで判断しないでください。手続ごとの詳細は、次の記事も参考にしてください。
公務員・教員の債務整理と職場への影響を読む/自己破産と任意整理の違いを読む/自己破産で手元に残せる財産の記事を読む
相談前に確認したい資料
すべてがそろうまで相談を待つ必要はありません。手元にあるものから着手できます。児童生徒や保護者の個人情報を含む校務の資料は必要ありませんので、ご本人に関する資料に限ってご用意ください。
| 資料 | その資料で確認すること |
|---|---|
| 直近の給与明細・賞与明細と、控除項目の内容が分かる資料 | どの控除が法令・条例によるものか、どれが貸付の償還か、手取り額と生活費の過不足 |
| すべての借入先の契約書、残高証明、返済予定表、督促状、裁判所からの書類 | 債権者の範囲、残高と利率、期限の利益を失っていないか、裁判手続が始まっていないか |
| 共済の組合員としての区分、厚生会の会員としての区分と利用制度が分かる資料 | どの制度に加入し、どの商品を利用しているか。会員資格の有無 |
| 共済・厚生会の貸付の約定、保証に関する書面、債権譲渡や代位に関する通知 | 期限の利益の喪失事由、相殺の条項、請求する主体が変わっていないか |
| 積立・預金の残高、解約返戻金、返還の条件が分かる資料と取引履歴 | 資産として申告すべき額、払戻しの条件、直近の入出金 |
| 退職手当の見込額に関する資料、退職手当条例又は退職金規程、退職予定日 | 評価の基礎、勤続年数、既に受け取っている場合は入金と使途 |
| 任用・雇用の条件、服務に関する規程又は就業規則のうち関連する部分 | 報告を要する事項の有無、兼業の制限、懲戒に関する定め |
| 預貯金、保険、不動産、自動車、住宅ローン、家計、扶養や保証の関係が分かる資料 | 手続の選択に影響する財産と負債の全体像 |
給与明細と償還表、退職手当に関する資料をご用意いただければ、どの借入れが給与事務と結びついているか、引去りをどの順序で調整するか、退職や積立の解約の前に確認すべき点は何かを整理できます。
相談の時期
返済のために新たな借入れを考えている、裁判所からの書類が届いた、給与の差押えが問題になっている、控除後の手取りでは生活費が足りない、退職や積立の解約、貸付の一括返済を予定している、といった場面では、早めにご相談いただくことで選択肢を整理しやすくなります。届いた通知に記載された期限は必ず確認していただく必要がありますが、根拠なく「何日以内に」と急かす説明には注意してください。
弁護士には守秘義務があり、ご相談の内容を勤務先に連絡することはありません。相談の段階で当事務所から学校や教育委員会に連絡をすることもありません。もっとも、給与の差押えなど、手続が進めば給与事務に分かる場面があることは、この記事で説明したとおりです。
よくある質問
- 自己破産で教員免許は失効しますか。
- 失効しません。教育職員免許法が定める免許状の欠格(第5条第1項ただし書)、失効(第10条第1項)、取上げ(第11条)のいずれにも破産は含まれておらず、学校教育法第9条にも含まれていません。免責の確定を待たなければ授業ができない、破産後に免許を取り直す必要がある、ということもありません。
- 公立と私立で、仕事への影響は違いますか。
- 根拠が異なります。公立学校の教員には地方公務員法が適用されますが、同法第16条の欠格条項に破産は含まれず、同法第28条第4項による失職の対象にもなりません。私立学校の教員は、雇用契約と就業規則、労働契約法第15条・第16条の枠組みで判断されます。就業規則に定めがあれば当然に解雇できるというものでも、絶対に解雇されないというものでもありません。
- 校長や学校に知られますか。報告は必要ですか。
- 手続そのものとして学校に通知される仕組みはありません。もっとも、共済組合や厚生会の貸付の事務、引去りの停止や変更、退職手当見込額の証明、給与の差押命令の送達など、給与事務が関与する場面では知られる可能性があります。報告が必要かどうかは、法令、条例、服務に関する規程、就業規則、任用や雇用の条件を確認して判断する問題で、全国一律には決まりません。
- 共済組合の貸付だけを自己破産の対象から外せますか。
- 外せません。個人再生と自己破産では、すべての債権者を記載する必要があります。知りながら記載しなかった債権は免責の対象から外れ、虚偽の債権者名簿の提出は免責が認められない事由にも当たり得ます。任意整理では対象とする債権者を原則として選べますが、返済を続ける家計の余力があるか、後に他の手続へ移行した場合にどう評価されるかを検討しておく必要があります。
- 給与からの引去りは、弁護士に依頼すると止まりますか。
- 一律には止まりません。共済組合の貸付の償還金は、公立では地方公務員等共済組合法第115条第2項、私学では私立学校教職員共済法第29条第4項に基づいて控除される仕組みで、貸金業者に対する受任通知と同じ効果が及ぶものではありません。他方で、破産後も常に優先するわけでもありません。手続の段階と資料に応じて、どの控除をどの順序で調整するかを検討します。
- 学校厚生会の積立は、貸付と差し引いて申告できますか。
- 差し引いた金額だけを申告することはできません。貸付の残高は債務、積立や預金は資産として、それぞれ申告します。約定に相殺の条項があっても、破産手続では相殺が禁止される場合があり(破産法第71条第1項)、いつ、どのような原因で預けたかによって結論が変わります。双方の資料をご用意ください。ご自身の判断で解約や払戻しを進めないでください。
- 自己破産のために退職する必要がありますか。退職手当はどうなりますか。
- 退職する必要はありません。在職のまま手続を進めることは制度上可能です。退職手当は、受け取っていなくても財産の評価に影響します。差押えが禁止されるのは給付の4分の3に相当する部分ですが(民事執行法第152条第2項)、破産手続における評価や振分けの運用は別の問題で、裁判所によって異なります。退職して退職手当で返済するという判断は、支給率、収入の途絶、貸付の即時償還を含めて検討する必要があります。
- 退職手当の証明書や借入れの資料がそろっていなくても相談できますか。
- 相談できます。まずは直近の給与明細と、手元にある借入れの資料をご用意ください。不足している資料は、取得先と取得の順序を含めて整理します。資料がそろうのを待つ間に督促や差押えが進んでしまうことがありますので、そろってから相談するという順序にこだわる必要はありません。
まとめ
- 自己破産を理由に教員免許が当然に失効することはなく、公立学校の教員が当然に職を失うこともありません。私立学校の教員は、雇用契約と就業規則、労働契約法の枠組みで検討します。
- 学校に知られ得るのは、勤務先が債権者や保証の関係者である場合と、給与事務が関与する場合です。避けられる場面と避けられない場面を分けて考えます。
- 公立学校共済組合、兵庫県学校厚生会、私学共済は別の主体です。借入先、預け先、給与控除の根拠、退職時の取扱いを、契約書と会員証で確かめてください。
- 貸付の残高は債務、積立や預金は資産です。相殺の条項があっても、差引額だけを申告することはできません。
- 退職手当は、受け取っていなくても評価に影響します。自己破産のために退職する必要はありません。
- まずは給与明細と手元の資料から着手できます。退職、積立の解約、一括返済を予定している場合は、実行の前にご相談ください。
教員の方の自己破産では、教員免許と身分への影響、共済組合と学校厚生会の区別、給与からの引去り、退職手当の評価など、確認しておきたい点が重なります。当事務所では、給与明細、貸付の償還表と約定、積立や預金の残高、退職手当に関する資料を確認したうえで、仕事を続けることを前提に、どの手続を検討できるか、共済組合や厚生会の貸付をどう扱うかについて方針を整理します。
神戸みらい法律会計事務所では、初回の法律相談を無料としています(事前予約が必要です)。借金問題(債務整理)については、可能な範囲でお電話での無料相談にも対応しています。無料相談の対象と条件は、初めての方へのご案内を確認するでご確認ください。
お電話 078-797-5227(受付9:00〜20:00。事案によって平日夜間・土日祝にも対応しています。)
監修者・執筆者
弁護士法人ひょうご支所 神戸みらい法律会計事務所
代表弁護士・公認会計士 藤井貴之
兵庫県弁護士会所属・日本公認会計士協会兵庫会所属
債務整理(任意整理・個人再生・自己破産)、相続、交通事故、企業法務などを取り扱い、弁護士と公認会計士の資格を活かして、家計や税務の視点も含めた生活再建の方針を検討しています。
参考資料
- e-Gov法令検索|教育職員免許法(第5条・第10条・第11条・第13条)
- e-Gov法令検索|学校教育法(第9条)
- e-Gov法令検索|地方公務員法(第16条・第25条・第28条・第29条・第33条・第38条・第42条・第58条)
- e-Gov法令検索|地方公務員等共済組合法(第3条・第112条・第115条)
- e-Gov法令検索|私立学校教職員共済法(第26条・第29条)
- e-Gov法令検索|労働契約法(第15条・第16条・第17条)
- e-Gov法令検索|破産法(第34条・第67条・第71条)
- e-Gov法令検索|民事執行法(第152条)
- e-Gov法令検索|労働基準法(第24条)
- 文部科学省|教員免許更新制の発展的解消についての案内を確認する
- 文部科学省|県費負担教職員制度(任命権者と給与負担者の関係)を確認する
- 公立学校共済組合|貸付金の定期償還(給料・期末勤勉手当からの控除)を確認する
- 公立学校共済組合|即時償還の事由を確認する
- 公立学校共済組合|償還猶予の事由を確認する
- 公立学校共済組合兵庫支部|貸付の申込手続(所属所長の経由・異動時の取扱い)を確認する
- 兵庫県学校厚生会|設立の根拠と会員資格の区分を確認する
- 兵庫県学校厚生会|貸付の利用条件と退職時の即時償還を確認する
- 兵庫県学校厚生会|一般貸付の約定(期限の利益の喪失・相殺・保証保険)を確認する
- 兵庫県学校厚生会|預金事業(積立預金・定期預金)を確認する
- 私学共済|貸付金の償還方法(学校法人等による控除)を確認する
- 私学共済|積立貯金の制度内容を確認する
- 私学共済|積立貯金の払戻し・解約・資格喪失時の手続を確認する
- 裁判所|破産手続の案内を確認する
本記事は、2026年9月10日時点の法令及び公式資料に基づく一般的な解説であり、個別の事案についての法的助言ではありません。制度の内容、各共済組合・互助団体の取扱い、裁判所の運用は変更されることがあります。個別の事情により結論は異なりますので、退職、解約、返済などを実行する前に、資料を確認したうえでご判断ください。

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