交通事故でかかとの骨(踵骨)を折り、骨はついたと言われた後も、かかとに体重をかけると痛む、坂道や階段、砂利道など凹凸のある路面が歩きにくい、長く立っていられない、以前の靴や作業靴が履けない、足を引きずってしまう。踵骨骨折の後には、このような症状が残ることがあります。
このコラムでは、踵骨骨折の後に問題となりやすい後遺障害を、かかとに残る痛み、足関節(距腿関節)の動きの制限、そして足部全体の動きの制限に分けて整理します。あわせて、X線やCT、診療記録、後遺障害診断書で何を確認するのか、歩行や立ち仕事への支障をどのような資料で示すのかを解説します。
結論を先に申し上げると、踵骨骨折の後遺障害を検討するうえで最も重要なのは、踵骨は足関節(距腿関節)を構成する骨ではないという点です。厚生労働省の障害等級認定基準も、足関節と踵骨とは別の部位であると明記しています。この区別を踏まえずに「足首の可動域が何度だから何級」と当てはめても、実際の症状とかみ合いません。診断名や手術を受けたという事実だけで等級が決まるものでもありません。
なお、治療の方針、検査の要否及び症状固定の時期は、いずれも主治医の医学的判断が前提です。法律上の見通しについても、資料を確認したうえで判断する必要があります。
かかとの痛みや歩きにくさが残っている場合、後遺障害としてどのような枠組みで検討されるのかは、画像、診療記録及び後遺障害診断書の記載を照らし合わせて確認する必要があります。申請前又は示談前に一度確認することをおすすめします。
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結論|踵骨骨折の後遺障害で最初に分けて考えること
踵骨骨折の後遺障害は、次の四つを分けて確認するところから始まります。いずれか一つだけを見て等級の見通しを立てることはできません。
| 確認する対象 | 何を確認するか | 主に確認する資料 |
|---|---|---|
| かかとに残る痛み | 痛みの部位、性質、程度、誘発される場面(荷重時、坂道、長時間の立位)、受傷時からの症状の連続性 | 診療録、リハビリテーションの記録、後遺障害診断書 |
| 足関節(距腿関節)の動き | 背屈・底屈の測定値、患側と健側の比較、他動値か自動値か、測定した肢位 | 後遺障害診断書、診療録、可動域の測定記録 |
| 足部全体の動きと骨・関節面の状態 | 内がえし・外がえしなどの制限、骨癒合、関節面の不整、変形癒合、外傷後の関節の変化 | 受傷時及び症状固定前後のX線・CT、画像診断報告書、手術記録、診察所見 |
| 仕事・生活への支障 | 連続して立てる時間、歩ける距離、坂道・階段・脚立の可否、重量物の運搬、靴の適合 | 職務内容が分かる資料、勤怠記録、収入資料 |
同じ「踵骨骨折」でも、残っている症状と資料で確認できる所見は人によって異なります。等級の見通しは、診断名ではなく、画像所見、診察所見、症状の経過及び後遺障害診断書の記載を照らし合わせて検討します。個別事情により結論は異なります。
踵骨と距骨下関節(距踵関節)の基礎知識
踵骨はどこにあり、どの関節をつくるのか
踵骨は、足の後方にある、かかとを構成する骨です。日本整形外傷学会の解説によれば、踵骨は人体の最も下方に位置して接地の際に地面から衝撃を受ける骨であり、頭側にある距骨との間で距踵関節をつくります。同学会は、この関節が歩行時に左右のバランスをとるために重要であり、骨折によって変形を生じると、歩行時の痛みや高所作業時の就業困難をきたす可能性が高いことが報告されている、と説明しています。
距踵関節は、距骨の下方にあることから距骨下関節とも呼ばれます。以下、本コラムでは「距骨下関節(距踵関節)」と表記します。
足関節(距腿関節)とは別の関節であること
後遺障害の場面で最も誤解が生じやすいのが、この区別です。
日本整形外科学会は、足関節が脛骨、腓骨、距骨の三つの骨で構成されると説明しています。この関節は、医学的には距腿関節と呼ばれます。これに対し、距骨下関節(距踵関節)は距骨と踵骨との間の関節です。
そして、厚生労働省が定める労災保険の障害等級認定基準(平成16年6月4日基発第0604003号別紙)は、踵骨骨折の事例を挙げたうえで、注として、足関節は脛骨・腓骨と距骨とにより構成され、他方、踵骨は距骨との間で距骨下関節を構成し、舟状骨、距骨及び立方骨との間でショパール関節を構成しているとしたうえで、このように足関節と踵骨とは別の部位であると明記しています。
| 項目 | 足関節(距腿関節) | 距骨下関節(距踵関節) |
|---|---|---|
| 構成する骨 | 脛骨、腓骨、距骨 | 距骨、踵骨 |
| 主に説明される動き | 背屈(足の甲側へ動かす)と底屈(足の裏側へ動かす) | 足部の内がえし・外がえしに大きく関与する |
| 等級表にいう「下肢の三大関節」 | 含まれる(股関節、ひざ関節、足関節) | 含まれない |
| 認定基準の測定要領での扱い | 主要運動として屈曲・伸展(底屈・背屈)が掲げられている | 掲げられていない |
足部の動きは、距腿関節、距骨下関節、ショパール関節・リスフラン関節など複数の関節の運動が組み合わさって生じます(日本足の外科学会「足関節・足部・趾の運動に関する用語」)。したがって、足首まわりの動きが悪いという所見があっても、その医学的な原因がどの関節にあるのかは、画像所見、診察所見及び治療経過とあわせて検討する必要があります。
関節内骨折と関節外骨折の違い
踵骨骨折は、骨折線が距骨下関節の関節面に及ぶもの(関節内骨折)と、関節面に及ばないもの(関節外骨折)とに分けて説明されます。日本整形外傷学会は、踵骨骨折では骨折線が関節面に及ぶことがほとんどであり、転位(骨のずれ)を残したままでは重度の機能障害を生じるとしています。また、踵骨全体が押しつぶされて扁平化し、痛みや扁平足などによって重篤な歩行障害を残すことが多く、治療に難渋する骨折の一つであるとも説明しています。
関節面の不整が残れば、荷重時の痛みやその後の関節の変化につながり得るため、骨折線が関節面に及んでいるかどうかは後遺障害の検討でも重要です。もっとも、関節面に骨折が及んでいれば当然に一定の等級になる、というものではありません。
踵骨骨折の後に残りやすい症状
かかとの荷重時痛と、坂道・階段・凹凸路・長時間立位での支障
日本整形外傷学会は、踵骨骨折は後遺障害を残すことが非常に多いとしたうえで、その症状として、歩行時の痛み、坂道や凸凹道の歩行が困難であること、長時間の立位が困難であること、高所での作業が不可能であることを挙げています。ご相談の場でも、次のような訴えが多く見られます。
- 朝の歩き始めや、しばらく歩いた後にかかとが痛む
- 平地は歩けるが、坂道、階段、砂利道など凹凸のある路面で強く痛む
- コンクリートなど硬い路面や、長距離の歩行で痛みが増す
- 同じ場所に立ち続けることができず、こまめに座る必要がある
- かかとの幅が広がった、扁平になったなどの変形が残り、以前の靴や勤務先の指定する作業靴が履けない
- 歩き方が変わり、足を引きずる。中敷き、装具、杖を使用している
これらは、それ自体が直ちに等級に結びつくものではありませんが、日常生活や就労への支障を具体的に示す事情として、診療記録や職務に関する資料の中で確認する意味があります。
足部の動きの制限と、足関節の背屈・底屈の制限
踵骨骨折の後には、足関節(距腿関節)そのものの動きが保たれていても、足部全体の動きが制限されることがあります。反対に、長期の固定や活動量の低下などにより、足関節にも拘縮が生じることがあります。
後遺障害の検討では、この二つを分けて確認します。後遺障害診断書に「足関節 背屈10度/底屈30度」といった記載があれば、それは距腿関節の測定値です。足部の内がえし・外がえしの制限は、これとは別の所見として整理する必要があります。
関節可動域の測定について、日本リハビリテーション医学会、日本整形外科学会及び日本足の外科学会が定める「関節可動域表示ならびに測定法」は2022年4月に改訂され、足の動きについて「屈曲と伸展は使用しないこととする」として、背屈・底屈の語を用いることとされました。他方、後遺障害の等級認定に用いられる認定基準では、なお「屈曲・伸展」という語が使われています。診断書の記載と等級の基準とで語が異なることがありますので、どの動きを指しているのかを確認してください。
後遺障害等級を検討するときの枠組み
かかとの痛み(局部の神経症状)として検討する場合
自動車損害賠償保障法施行令の別表第二は、第12級13号として「局部に頑固な神経症状を残すもの」、第14級9号として「局部に神経症状を残すもの」を定めています。かかとに残る痛みは、この枠組みで検討されることがあります。
よくある誤解が、「画像があれば第12級、なければ第14級」という単純化です。実際には、症状の原因、他覚的な所見の有無と内容、医学的に説明できるかどうか、受傷から症状固定までの症状の連続性・一貫性、既往症の有無、反対側の所見、各医証相互の整合性などを総合して検討されます。
また、「局部の神経症状」といっても、末梢神経の断裂や神経伝導検査の異常が必ず必要になるというものではありません。受傷した部位に残る痛みが評価の対象となる場合があります。
足関節の機能障害として検討する場合
同じ別表第二は、下肢の関節について、第8級7号「一下肢の三大関節中の一関節の用を廃したもの」、第10級11号「一下肢の三大関節中の一関節の機能に著しい障害を残すもの」、第12級7号「一下肢の三大関節中の一関節の機能に障害を残すもの」を定めています。
労災保険の障害等級認定基準では、下肢の三大関節は股関節、ひざ関節及び足関節とされ、代表的な基準は次のとおりです。
- 関節の用を廃したもの 関節が強直したもの、関節の完全弛緩性麻痺又はこれに近い状態にあるもの、人工関節・人工骨頭を挿入置換した関節でその可動域が健側の2分の1以下に制限されているもの
- 関節の機能に著しい障害を残すもの 関節の可動域が健側の2分の1以下に制限されているもの
- 関節の機能に障害を残すもの 関節の可動域が健側の4分の3以下に制限されているもの
同基準の別添「関節の機能障害の評価方法及び関節可動域の測定要領」では、足関節の主要運動は屈曲・伸展(底屈・背屈)とされ、可動域の測定は原則として他動運動による測定値によること、通常は5度刻みで測定することなどが定められています。他動運動による測定値を採用することが適切でない場合には自動運動による測定値を参考とするとされ、その例として、関節を可動させるとがまんできない程度の痛みが生じるために自動では可動できないと医学的に判断される場合が挙げられています。
距骨下関節の動きの制限は、足関節の機能障害の枠組みでは評価されない
ここが、踵骨骨折の後遺障害を考えるうえで最も重要な点です。
認定基準の別添は、各関節の運動のうち測定要領に示したものが主要運動又は参考運動として可動域制限の評価の対象となると定めたうえで、部位ごとに主要運動と参考運動を掲げています。そこで足関節について掲げられているのは屈曲・伸展だけであり、参考運動の定めはありません。足部の内がえし・外がえしは、主要運動としても参考運動としても掲げられていません。
さらに、医学上の「関節可動域表示ならびに測定法」にも、距骨下関節(距踵関節)単独の可動域の表示は設けられていません。内がえし0度から30度、外がえし0度から20度という参考可動域角度は、距骨下関節単独の値ではなく、「足関節・足部」全体の値として示されているものです。
したがって、距骨下関節の動きが悪いというだけで、足関節の機能障害の等級(第8級7号、第10級11号又は第12級7号)に当てはめることはできません。距骨下関節の動きが健側の2分の1以下である、4分の3以下であるから所定の等級になる、という機械的な当てはめもできません。距骨下関節を固定する手術を受けた場合も同様で、人工関節・人工骨頭についての取扱いがそのまま当てはまるわけではありません。
それでは、距骨下関節の障害はどのように扱われるのでしょうか。別表第二の備考は、各等級の後遺障害に該当しない後遺障害であって各等級の後遺障害に相当するものは当該等級の後遺障害とする、と定めており、等級表に直接の受け皿がない障害についても、相当する等級として評価する制度が置かれています。もっとも、どのような場合にどの等級に相当すると判断されるかは、公開されている法令及び支払基準からは一義的に確認できません。実際には、残っている痛みを含む症状全体と、画像所見及び診察所見を踏まえて、個別に検討されることになります。資料を確認したうえで判断する必要があります。
かかとの痛みと足関節の機能障害が併存する場合
かかとの痛みと、別に生じた足関節(距腿関節)の可動域制限とが同時に残っている場合、これらを別々に評価できるのかという問題があります。
この点について、労災保険の障害等級認定基準は、踵骨骨折が治ったあとに疼痛を残し、かつ同一の下肢の足関節の機能に障害を残す場合について、両者を併合する例を挙げています。その理由として示されているのが、前記の注、すなわち足関節と踵骨とは別の部位であるという説明です。
ただし、これは労災保険の基準における取扱いであり、自賠責保険の認定運用をそのまま示すものではありません。また、同基準は、併合した結果として等級の序列を乱すこととなる場合には直近上位又は直近下位の等級で認定することや、二つの障害が通常派生する関係にある場合には併合せず上位の等級によることも定めています。単純に足し合わせられるわけではなく、「痛みと可動域制限があれば必ず併せて評価される」という理解は正確ではありません。
複数の後遺障害が残った場合の一般的なルールは、別のコラムで整理しています。あわせて後遺障害の併合・加重・準用の違いと確認手順を見るとご理解いただきやすくなります。
労災保険と自賠責保険では、同じ内容でも号数が異なる
ここで注意が必要なのが、号数の違いです。労災保険の障害等級表(労働者災害補償保険法施行規則別表第一)と、自賠責保険の後遺障害等級表(自動車損害賠償保障法施行令別表第二)は、内容が同じでも号数が一致しない項目があります。
| 障害の内容 | 労災保険(労災則別表第一) | 自賠責保険(自賠法施行令別表第二) |
|---|---|---|
| 一下肢の三大関節中の一関節の用を廃したもの | 第8級7号 | 第8級7号 |
| 一下肢の三大関節中の一関節の機能に著しい障害を残すもの | 第10級10号 | 第10級11号 |
| 一下肢の三大関節中の一関節の機能に障害を残すもの | 第12級7号 | 第12級7号 |
| 長管骨に変形を残すもの | 第12級8号 | 第12級8号 |
| 局部にがん固な(頑固な)神経症状を残すもの | 第12級12号 | 第12級13号 |
| 局部に神経症状を残すもの | 第14級9号 | 第14級9号 |
したがって、労災保険の資料やインターネット上の記事に出てくる「第12級12号」をそのまま自賠責保険の号数として用いると、誤りになります。労災保険の認定結果と自賠責保険の認定結果を見比べるときは、号数ではなく障害の内容で対応関係を確認してください。労災保険と自賠責保険では制度の目的も給付の内容も異なり、一方の結論が他方を当然に拘束するものでもありません。
踵骨の変形を「長管骨の変形」や「下肢の短縮」として扱わない理由
別表第二には、第12級8号として「長管骨に変形を残すもの」という定めがあります。かかとの骨が変形して幅が広がった、扁平になったという場合に、この号に当たるのではないかとお考えになる方がおられます。しかし、労災保険の障害等級認定基準では、下肢の長管骨として大腿骨、脛骨及び腓骨が挙げられています。踵骨は足根骨であり、これらの長管骨とは異なります。
同じように誤解されやすいのが、下肢の短縮障害です。別表第二は、一下肢を五センチメートル以上短縮したものを第8級5号、三センチメートル以上短縮したものを第10級8号などと定めています。しかし、認定基準は、下肢の短縮について上前腸骨棘と下腿内果下端との間の長さを健側の下肢と比較して等級を認定するとしています。この測定区間は骨盤から内くるぶしまでであり、踵骨はここに含まれません。踵骨がつぶれて高さが減ったとしても、この測定値には反映されないということです。
画像、診療記録及び後遺障害診断書で確認する事項
| 資料 | 主に確認する事項 | 留意点 |
|---|---|---|
| 受傷時のX線・CT | 骨折の部位と形態、骨折線が関節面に及んでいるか、転位の程度 | 撮影日、撮影の方向、荷重の有無を確認します |
| 治療後・症状固定前後のX線・CT | 骨癒合の状況、関節面の不整、変形癒合、外傷後の関節の変化 | 受傷時の画像とは確認できる範囲が異なります。それぞれが何を裏付ける資料かを区別します |
| 画像診断報告書 | 読影を担当した医師の所見、撮影目的と所見の対応 | 画像そのものと報告書は別の資料です。可能な限り双方を確認します |
| 手術記録・退院時要約・紹介状 | 術式、固定材料、関節面の整復の程度、術中所見 | 画像では分かりにくい関節面の状態が記載されていることがあります |
| 診療録・リハビリテーションの記録 | 症状の推移、可動域の推移、荷重訓練の経過 | 受傷から症状固定までの症状の連続性を確認する資料になります |
| 診療報酬明細書 | いつどのような治療・検査が行われたかという治療経過 | 治療経過を確認する補助資料です。それだけで関節面の状態、可動域、症状の医学的原因を証明するものではありません |
どのような検査が必要かは、主治医の医学的判断によります。本コラムは、特定の検査を受けるよう勧めるものではありません。後遺障害の申請前には、既に実施された検査と記録に何が残っているかを確認してください。
後遺障害診断書で確認したい記載
- 残っている症状の部位、性質、頻度及び誘発される場面(荷重時、坂道、長時間の立位など)
- 他覚的な所見及び画像所見
- 足関節(距腿関節)と距骨下関節(距踵関節)が混同されずに記載されているか
- 足関節の可動域の測定値がある場合、患側と健側の双方が記載されているか、他動値か自動値か
- 痛みのために自動運動ができない場合、その旨が医学的な判断として記載されているか
- 跛行、荷重の制限、装具の使用など、医学的に確認できる日常生活動作上の支障
- 症状固定日と今後の見通し
後遺障害診断書は、医師の医学的判断に基づいて作成される書面です。事実と異なる記載や、ご本人に有利な結論を医師に求めることはできません。ご本人及び弁護士の役割は、実際にある症状と手元の資料を正確に整理し、記載漏れや資料相互の不整合がないかを確認することにあります。職務の内容、配置転換の有無、作業能率の低下、減収といった事実の評価は医師の医学的判断の範囲外ですので、勤務先の資料や収入資料で別に整理します。
診断書の作成前に整理しておきたい資料については、後遺障害診断書の作成前に確認する資料と画像検査の注意点を見るもご参照ください。
歩行や立ち仕事への支障をどう整理するか
職業名ではなく、具体的な作業に分けて整理する
「立ち仕事だから働けない」という説明だけでは、どの程度の支障が生じているのかが伝わりません。次のように、作業の単位に分けて整理します。
| 確認する作業 | 整理の視点 | 資料の例 |
|---|---|---|
| 立位 | 1回当たり及び1日当たり連続して立っていられる時間、休憩の頻度 | 職務内容説明書、シフト表、業務日報 |
| 歩行 | 歩ける距離と時間、痛みが出るまでの目安 | 業務日報、具体的な症状の記録 |
| 路面・段差・高所 | 平地、坂道、凹凸路、階段、脚立、高所での作業の可否 | 職務内容説明書、勤務先の説明書 |
| 荷物 | 重量物の運搬の有無、重量、頻度 | 職務内容説明書、雇用契約書、就業規則 |
| 靴 | 安全靴、作業靴、指定靴の着用の可否、中敷き・装具の使用 | 勤務先の説明書、装具に関する資料 |
| 運転・通勤 | 自動車の運転、ペダル操作、通勤の可否と所要時間 | 勤怠記録、通勤経路が分かる資料 |
| 勤務条件 | 休憩の増加、時短、配置転換、業務の軽減、欠勤、早退 | 勤怠記録、配置転換に関する資料 |
| 収入 | 事故の前後での勤務時間、収入、賞与の変動 | 給与明細、源泉徴収票、確定申告書、決算書、休業損害証明書 |
これらの資料がすべて必要になるわけではなく、ご本人の立場(給与所得者、事業主、会社役員など)と争点に応じて選びます。ご自身で記録された症状の日誌は補助資料として有用ですが、それだけで医学的な所見や、症状と減収との因果関係を証明できるものではありません。
休業損害と後遺障害逸失利益は別の損害である
- 休業損害 治療期間中に、就労できなかったことによって生じた減収
- 後遺障害逸失利益 症状固定後に、後遺障害が残ったことによって将来の労働能力が失われたことに対応する損害
後遺障害逸失利益は、基礎収入、労働能力の喪失率、労働能力の喪失期間などを検討して算定されます。後遺障害等級が認定されたからといって、当然に一定の喪失率や喪失期間が認められるわけではなく、実際の減収の有無、就労の状況、ご本人の努力、職務上の具体的な支障などが個別に検討されます。後遺障害慰謝料は、これとは別の損害項目です。
算定の考え方は後遺障害逸失利益の計算方法を確認するで、退職や減収があった場合の整理は交通事故後の退職・減収と逸失利益の立証資料を見るで解説しています。
歩行や立ち仕事への支障は、職業名ではなく具体的な作業と資料で示す必要があります。どの資料をそろえ、どのように整理するかは、事案によって異なります。ご相談により、手元の資料と対応方針を整理できます。
申請前・示談前に確認したいこと
症状固定の前
- 骨癒合の日と症状固定の日は、当然に同じではありません。国土交通省の資料では、症状固定とは、症状が安定し、医学上一般に認められた医療を行ってもその医学効果が期待できなくなった時をいい、医師により判断されるとされています
- 保険会社が治療費の対応を終了した日、骨癒合が確認された日、受傷から一定の月数が経過したことと、症状固定日が当然に一致するものではありません
- 抜釘、追加の手術、距骨下関節の固定術などが予定又は検討されている場合は、今後の治療の見通しを主治医に確認します。予定があるという事情だけで、症状固定の前後が決まるわけではありません
後遺障害診断書の作成前
- 残っている症状を、部位、性質、頻度、誘発される場面に分けて整理しておく
- 足関節(距腿関節)の測定値と、足部の動きに関する所見とが区別して記載されるか確認する
- 画像診断報告書、手術記録など、診断書の記載を裏付ける資料がそろっているか確認する
後遺障害の申請前
- 受傷時から症状固定までの画像と診療記録に、症状の経過が連続して記録されているか
- 各資料の間に、日付や所見の食い違いがないか
- 申請の方法として、事前認定と被害者請求のいずれによるかを検討したか。両者の違いは事前認定と被害者請求の違いと申請方法の選び方を見るで解説しています
認定結果を受け取った後、示談書に署名する前
- 認定された等級と、その理由として示された所見を確認する
- 診断書や画像の記載と、認定理由の前提とされた事実との間に食い違いがないか
- 異議申立てその他の手続を検討する余地があるか
- 示談案が、後遺障害の内容と等級を前提とした計算になっているか
- 休業損害と後遺障害逸失利益が区別して計上されているか
- 今後予定されている治療、抜釘、再手術の見通しが反映されているか。清算条項の範囲を確認したか
弁護士に相談するタイミング
弁護士にご相談いただいても、認定される等級や賠償額をお約束できるものではありません。ご相談でできるのは、手元の資料を確認し、確認すべき点と対応の方針を整理することです。
- 治療が長引き、症状固定の時期が話題になったとき
- 後遺障害診断書の作成を医師に依頼する前に、記載の観点を整理したいとき
- 後遺障害の申請方法を選ぶとき
- 認定結果を受け取り、その理由を確認したいとき
- 労災保険と自賠責保険の双方が関係し、等級や号数の対応関係を確認したいとき
- 保険会社から示談案の提示を受け、内容を確認したいとき
- 立ち仕事や歩行を伴う仕事への支障を、どのような資料で示すか整理したいとき
よくある質問(FAQ)
足首は普通に動くのに、かかとだけが痛みます。それでも後遺障害の検討対象になりますか。
検討の対象にはなり得ます。足関節(距腿関節)の可動域が保たれていても、かかとに残る痛みが局部の神経症状として検討されることがあり、第12級13号又は第14級9号の枠組みで問題となる場合が代表的です。ただし、「画像があれば第12級、なければ第14級」という単純な区別ではありません。症状の原因、他覚的な所見、症状の経過の一貫性、各資料の整合性などを総合して判断されますので、個別事情により結論は異なります。
距骨下関節(距踵関節)と足関節(距腿関節)は同じものですか。
異なる関節です。足関節(距腿関節)は脛骨、腓骨及び距骨で構成され、距骨下関節(距踵関節)は距骨と踵骨との間の関節です。厚生労働省の障害等級認定基準も、足関節と踵骨とは別の部位であると明記しています。後遺障害等級表にいう下肢の三大関節(股関節、ひざ関節、足関節)の「足関節」は、距腿関節を指します。
距骨下関節の動きが悪いと、足関節の機能障害の等級になりますか。
距骨下関節の動きが悪いというだけで、足関節の機能障害の等級(第8級7号、第10級11号又は第12級7号)に当てはめることはできません。認定基準の測定要領が足関節について掲げているのは屈曲・伸展(底屈・背屈)のみで、足部の内がえし・外がえしは主要運動としても参考運動としても掲げられていないためです。実際には、痛みを含む症状全体と画像所見・診察所見を踏まえ、資料を確認したうえで判断する必要があります。
かかとの痛みと足関節の可動域制限は、別々に評価されることがありますか。
労災保険の障害等級認定基準は、踵骨骨折が治った後の疼痛と、同一の下肢の足関節の機能障害とを併合する例を挙げており、その理由として足関節と踵骨とが別の部位であることを説明しています。ただし、これは労災保険の基準であり、自賠責保険の運用をそのまま示すものではありません。同基準も、序列を乱す場合や通常派生する関係にある場合の例外を定めていますので、必ず併せて評価されるとは限りません。
労災でかかとの痛みが第12級12号とされました。自賠責でも同じ号数になりますか。
号数は異なります。「局部にがん固な神経症状を残すもの」は、労災保険では第12級12号ですが、自賠責保険では第12級13号として定められています。同様に、一下肢の三大関節中の一関節の機能に著しい障害を残すものは、労災保険では第10級10号、自賠責保険では第10級11号です。号数ではなく障害の内容で対応関係を確認してください。また、労災保険の認定結果が自賠責保険の認定を当然に拘束するものでもありません。
かかとの骨がつぶれて、脚が短くなった気がします。「下肢の短縮」として評価されますか。
下肢の短縮障害は、認定基準では上前腸骨棘と下腿内果下端との間の長さを健側と比較して認定するとされています。この測定区間に踵骨は含まれませんので、踵骨の高さが減っても、この測定値には反映されません。また、踵骨は足根骨であり、第12級8号の「長管骨」にも当たりません。歩きにくさや脚長差の感覚がある場合は、短縮障害としてではなく、痛み、足部の動き、跛行といった観点から資料を整理することになります。
X線やCTでは、何を確認するのですか。
受傷時の画像では骨折の部位・形態、関節面への波及、転位の程度を、治療後や症状固定前後の画像では骨癒合、関節面の不整、変形癒合、外傷後の関節の変化を確認するのが一般的です。撮影日、撮影の方向、荷重の有無によって確認できる範囲が異なります。どの検査が必要かは主治医の医学的判断によりますので、申請前には既に実施された検査と記録の内容を確認してください。
抜釘や距骨下関節の固定術を検討している段階で、示談してよいのでしょうか。
今後の治療の見通しは主治医にご確認ください。そのうえで、示談の時期については、症状固定の判断、将来の治療費の扱い、示談書の清算条項の範囲を確認する必要があります。手術の予定があるという事情だけで症状固定の前後が決まるものではありませんので、署名の前に一度確認することをおすすめします。
まとめ
- 踵骨は距骨との間で距骨下関節(距踵関節)をつくる骨であり、足関節(距腿関節)の構成骨ではありません。厚生労働省の障害等級認定基準も、足関節と踵骨とは別の部位であると明記しています
- 認定基準の測定要領が足関節について掲げているのは屈曲・伸展のみで、足部の内がえし・外がえしは掲げられていません。距骨下関節の動きの制限を足関節の機能障害の等級に機械的に当てはめることはできません
- かかとに残る痛みは、局部の神経症状(第12級13号・第14級9号)の枠組みで検討されることがありますが、診断名や画像の有無だけで決まるものではありません
- 踵骨は足根骨であり、第12級8号の「長管骨」にも、下肢の短縮障害の測定区間にも含まれません
- 労災保険と自賠責保険とでは、内容が同じでも号数が異なる項目があります。号数をそのまま置き換えないでください
- 次の行動として、受傷時と症状固定前後の画像、診療記録、手術記録、後遺障害診断書を集め、足関節と足部の記載が区別されているかを確認したうえで、症状固定の時期、申請方法及び示談の内容を署名・提出の前に確認してください
踵骨骨折の後に残った症状は、診断名だけでは評価できません。画像、診療記録、後遺障害診断書及び勤務先の資料を確認することで、何が不足しているのか、どのような点を整理すべきかを検討できます。ご相談により、資料と対応方針を整理できます。当事務所では初回のご相談を無料としており、交通事故については、可能な範囲でお電話での無料相談にも対応しています。
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監修者・執筆者
弁護士・公認会計士 藤井貴之
兵庫県弁護士会所属、日本公認会計士協会兵庫会所属。神戸みらい法律会計事務所の代表弁護士・公認会計士として、交通事故、相続、企業法務、労働問題、損害賠償など、個人・法人双方の法律相談に対応しています。公益財団法人日弁連交通事故相談センター理事(平成30年6月から令和3年3月まで)を務めました。
参考資料
- e-Gov法令検索「自動車損害賠償保障法施行令」(デジタル庁)
- e-Gov法令検索「労働者災害補償保険法施行規則」(デジタル庁)
- 厚生労働省「せき柱及びその他の体幹骨、上肢並びに下肢の障害に関する障害等級認定基準」(別紙)
- 厚生労働省「関節の機能障害の評価方法及び関節可動域の測定要領」(別添)
- 厚生労働省「障害等級の認定基準」(一部改正通達の一覧を含みます)
- 損害保険料率算出機構「自動車損害賠償責任保険の保険金等及び自動車損害賠償責任共済の共済金等の支払基準」(金融庁・国土交通省告示を掲載)
- 国土交通省「交通事故にあったときには」
- 日本整形外傷学会「踵骨骨折」
- 日本整形外科学会「足関節果部骨折(脱臼骨折)」
- 日本足の外科学会「足関節・足部・趾の運動に関する用語」
- 日本リハビリテーション医学会「関節可動域表示ならびに測定法」

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