「長年会社を見てきた顧問弁護士に、監査役も引き受けてほしい」「顧問契約を続けたまま社外監査役になってもらえるか」「訴訟も同じ弁護士に任せて構わないか」。監査役の欠員補充やガバナンス体制の見直しを検討する場面で、こうしたご相談を受けることがあります。
この問いに、「顧問弁護士は監査役になれます」と一言で答えることはできません。会社法上の就任資格、社外監査役への該当性、上場会社の独立役員としての指定、監査の実効性から見た相当性、弁護士倫理上の利益相反は、いずれも別の判断だからです。会社の機関設計と顧問契約の実態によって、結論は変わります。
この記事で分かること
- 顧問弁護士の監査役就任を、五つの判断層に分けて検討する方法
- 会社法第335条第2項の兼任禁止と「支配人その他の使用人」該当性の判断要素
- 旧商法下の議論と裁判例を、現行法の検討にどこまで使えるか
- 会社法上の社外監査役と、東京証券取引所の独立役員の違い
- 常勤・非常勤と、社外・社内が別の区分であること
- 監査役である弁護士が会社の訴訟代理人となれるかを、訴訟類型ごとに整理する方法
- 顧問契約と監査役を組み合わせる四つの体制案と、就任前に確認する資料
監査役の候補者選定や就任の打診をこれから進める段階であれば、定款、履歴事項全部証明書、顧問契約書を一度確認しておくことをおすすめします。契約の名称ではなく、業務の実態で判断すべき事項が含まれるためです。
顧問弁護士を監査役に選任できるか|五つの判断層に分けて考えます
まず結論を示します。
- 会社法は、顧問弁護士であることを監査役の欠格事由として定めていません。
- 問題となるのは、会社法第335条第2項の兼任禁止に触れるかどうかです。契約の名称ではなく、専属性、指揮命令、常駐、報酬、業務内容などの実態から判断する必要があります。
- 「会社法上就任できる」ことと「社外監査役に当たる」ことは別です。さらに、上場会社の独立役員に指定できるかは、東京証券取引所の基準による別の判断です。
- 形式的な要件を満たしても、自己監査となる場面や利益相反が生じる場面は残ります。就任前に、顧問業務の範囲と有事の役割分担を定めておく必要があります。
- 監査役である弁護士が個別の訴訟で会社の代理人となれるかは、訴訟の類型ごとに検討します。会社を代表する者は誰かという会社法の問題と、弁護士として受任できるかという問題は別です。
| 判断層 | 判断の対象 | 主な根拠 | 顧問弁護士の場合に問題となる点 |
|---|---|---|---|
| 1 就任資格 | 監査役に就任できるか | 会社法第330条、第335条第1項(第331条第1項の準用)、第335条第2項 | 顧問弁護士が「支配人その他の使用人」に当たるかどうか |
| 2 社外性 | 会社法上の社外監査役に当たるか | 会社法第2条第16号イからホまで | 就任前10年間の取締役・使用人等の経歴、親会社等との関係、近親者関係 |
| 3 独立役員 | 上場会社で独立役員に指定できるか | 東京証券取引所の有価証券上場規程、上場管理等に関するガイドライン、「独立役員の確保に係る実務上の留意事項」 | 役員報酬以外に多額の金銭その他の財産を得ている法律専門家に当たらないか。所属事務所への支払も検討対象 |
| 4 実質的な相当性 | 監査の実効性・独立性の観点から相当か | 会社法第381条ほか(監査役の職務) | 自ら助言した事項を自ら監査することにならないか。顧問報酬への依存の程度 |
| 5 弁護士倫理 | 個別の案件を受任できるか | 弁護士法第25条、弁護士職務基本規程第27条・第28条・第42条・第57条ほか | 依頼者間の利益相反、自己の経済的利益との相反、同一事務所内への波及 |
「就任できる」ことと「就任してもらうことが相当である」ことは別です
第一層から第三層までは要件への当てはめ、第四層は監査の実効性から見た相当性の判断、第五層は就任後に個別の案件を受任できるかという判断であり、時点も基準も異なります。第一層の結論だけをもって「問題ない」と整理し、就任後に株主代表訴訟の提訴請求や取締役の責任の問題が生じてはじめて役割分担を検討することになると、選択できる対応が限られます。
最初に確認する会社の機関設計と監査役の権限
そもそも監査役を置く会社か
会社法は、すべての株式会社に監査役の設置を求めているわけではありません。取締役会設置会社は原則として監査役を置かなければなりませんが、公開会社でない会計参与設置会社は例外とされています(会社法第327条第2項)。会計監査人設置会社も、原則として監査役を置く必要があります(同条第3項)。他方、監査等委員会設置会社及び指名委員会等設置会社は、監査役を置くことができません(同条第4項)。まず、その会社が会社法上の「監査役」を置く会社であるかを確認してください。
監査の範囲を会計に限定していないか
公開会社でない株式会社(監査役会設置会社及び会計監査人設置会社を除きます)は、定款で監査役の監査の範囲を会計に関するものに限定できます(会社法第389条第1項)。この定めがある会社には、会社法第381条から第386条までが適用されません(同条第7項)。つまり、会計限定監査役には業務監査の権限がなく、取締役との訴えにおいて会社を代表する権限もありません。中小企業では、この定款の定めが残っている例が少なくありません。会計に限定する旨は登記事項ですので(同法第911条第3項第17号イ)、定款と履歴事項全部証明書で確認してください。
会計に限定する旨の定款の定めがある会社は、会社法上の「監査役設置会社」に当たりません(会社法第2条第9号)。「監査役設置会社」を前提とする条文が適用されないため、就任前の検討では、この区別を最初に確認しておく必要があります。
監査役会設置会社かどうか
監査役会設置会社では、監査役は3人以上で、そのうち半数以上が社外監査役でなければなりません(会社法第335条第3項)。また、大会社のうち公開会社であるもの(監査等委員会設置会社及び指名委員会等設置会社を除きます)は、監査役会及び会計監査人を置かなければなりません(同法第328条第1項)。現在の監査役の人数、社外監査役の人数及び欠員の有無を確認したうえで、候補者に求める属性を決めます。社外監査役の一般的な選任基準や候補者の選び方は、社外監査役の一般的な選任基準と選び方を確認するで整理しています。
監査役就任は顧問契約の延長ではありません|役割と責任の違い
顧問弁護士は、会社の依頼を受けて助言、交渉、訴訟等を行う立場です。これに対して監査役は、株主総会で選任され(会社法第329条第1項)、会社との関係は委任に関する規定に従い(同法第330条)、取締役の職務の執行を独立して監査する権限と義務を負う役員です(同法第381条第1項)。
| 比較項目 | 顧問弁護士 | 監査役 |
|---|---|---|
| 地位の発生 | 会社との委任契約(顧問契約) | 株主総会の選任決議と就任承諾(第329条第1項、第330条) |
| 職務の内容 | 依頼を受けた事項についての助言、交渉、書面作成、訴訟等 | 取締役の職務の執行の監査と監査報告の作成(第381条第1項) |
| 情報へのアクセス | 依頼を受けた範囲で会社から提供を受ける | いつでも事業の報告を求め、業務及び財産の状況を調査できる。子会社に対する調査権もある(第381条第2項・第3項) |
| 報酬の決定 | 契約による | 定款にその額を定めていないときは株主総会の決議による(第387条第1項) |
| 任期 | 契約による | 選任後4年以内に終了する事業年度のうち最終のものに関する定時株主総会の終結の時まで。公開会社でない会社は定款で10年まで伸長可(第336条第1項・第2項) |
| 会社に対する責任 | 契約上の債務不履行等 | 任務を怠ったときの損害賠償責任(第423条第1項) |
| 第三者に対する責任 | 原則として一般の不法行為の問題 | 職務を行うについて悪意又は重大な過失があったときの損害賠償責任(第429条第1項) |
| 終了 | 契約の解除 | 辞任、解任、任期満了。登記事項の変更を伴い、員数を欠く場合は手当てが必要 |
責任限定契約、補償契約又はD&O保険(会社役員賠償責任保険)を検討する場合は、定款の定め、契約書及び保険約款を個別に確認する必要があります。
会社法第335条第2項の兼任禁止と「支配人その他の使用人」該当性
会社法第335条第2項は、監査役が「株式会社若しくはその子会社の取締役若しくは支配人その他の使用人又は当該子会社の会計参与…若しくは執行役」を兼ねることができないと定めています。取締役の職務の執行を監査する立場の者が、監査される側の地位を兼ねることを避ける趣旨です。顧問弁護士について検討すべきなのは、「支配人その他の使用人」に当たるかどうかです。
契約の名称ではなく、業務の実態で判断します
契約書の表題が「顧問契約書」であることだけを理由に結論を出すことはできません。次の事項を確認したうえで判断する必要があります。
- 会社との契約が雇用契約か、委任又は準委任契約か
- 当該会社に専属し、他の依頼者から事件を受任していないか
- 会社に常駐しているか。執務場所と費用の負担はどうなっているか
- 勤務時間、業務内容、報告先について、会社から実質的な指揮命令を受けていないか
- 顧問料が、候補者個人又は所属事務所の収入に占める割合
- 顧問業務として、業務執行上の意思決定や社内の決裁に関与していないか
- 社内の役職名、名刺の表記、組織図への記載、社内システムのアカウントの有無
外部の法律事務所に所属し、複数の依頼者を持ち、個別の依頼に応じて助言する通常の顧問弁護士と、会社に雇用され、会社の指揮命令の下で法務業務に従事する企業内弁護士とでは、結論が異なり得ます。両者の中間に位置する形態もあるため、事実関係を具体的に確認することが必要です。
弁護士職務基本規程は、官公署又は公私の団体において職員若しくは使用人となり、又は取締役、理事その他の役員となっている弁護士を「組織内弁護士」として、独立した規律を置いています(同規程第50条)。組織との関係の在り方は、会社法上の「使用人」該当性とは別に、弁護士側でも整理しておく必要があります。
旧商法下の議論と裁判例をどう読むか
旧商法第276条と現行会社法第335条第2項
顧問弁護士の監査役就任については、旧商法第276条を前提とする見解が多く紹介されています。同条は、監査役が「会社又は子会社の取締役又は支配人その他の使用人」を兼ねることを禁止する規定であり、現行会社法第335条第2項に引き継がれています。もっとも、旧法下の見解をそのまま現行法の結論として用いることはできません。①当時の条文と現行条文の異同、②その見解の原典を確認できるか、③現在も維持されているか、を分けて確認する必要があります。
最高裁判所平成元年9月19日判決が判断したこと、判断していないこと
最高裁判所第三小法廷平成元年9月19日判決は、会社の顧問弁護士を監査役に選任した株主総会決議の効力が争われた事案について、次のとおり判示しています。
「株式会社の監査役は会社又は子会社の取締役又は支配人その他の使用人を兼ねることができないものとされているが(商法二七六条)、監査役に選任される者が兼任の禁止される従前の地位を辞任することは、株主総会の監査役選任決議の効力発生要件ではないと解するのが相当である。けだし、商法二七六条は監査役の欠格事由を定めたものではないと解すべきであるのみならず、監査役選任の効力は、株主総会における選任決議のみで生ずるものではなく、被選任者が就任を承諾することによって発生するものというべき」であるからです。そして、就任を承諾したときは兼任が禁止される従前の地位を辞任したものと解すべきであり、仮に事実上これを辞さなかったとしても、「監査役の任務懈怠による責任…の原因となりうるのは格別、総会の選任決議の効力に影響を及ぼすものではない」としています。
この判決は、結論部分で「会社の顧問弁護士が商法二七六条によって兼任の禁止される地位に当たると否とにかかわりなく、有効である」と述べており、顧問弁護士が「使用人」に当たるかどうかを判断していません。この判決を「顧問弁護士は使用人に当たらないと最高裁が判断した」根拠として引用することはできません。読み取れるのは、①兼任禁止規定は監査役の欠格事由を定めたものではないこと、②兼任禁止に触れる地位の辞任は選任決議の効力発生要件ではないこと、③兼任状態が残る場合には任務懈怠責任の問題が生じ得ること、の三点です。
最高裁判所昭和61年2月18日判決の射程
最高裁判所第三小法廷昭和61年2月18日判決は、株主が会社を相手に株券に関する請求をした訴訟において、会社の訴訟代理人である弁護士が訴訟の係属中に当該会社の監査役に就任していた事案について、商法第276条は「弁護士の資格を有する監査役が特定の訴訟事件につき会社から委任を受けてその訴訟代理人となることまでを禁止するものではない」と判示し、双方代理にも当たらないとしました。
この判決の射程を広げないでください。①旧商法第276条についての判断であり、現行会社法第335条第2項を直接判断したものではありません。②「特定の訴訟事件につき会社から委任を受けて」訴訟代理人となる場合についての判断であり、顧問契約を恒常的に継続することを許容したものではありません。③あらゆる類型の訴訟について受任を許容したものでもありません。特に、監査役が会社を代表すべき訴訟は、この判決の事案と異なります。
出典が示されていない見解の扱い
旧商法下の行政解釈や弁護士会側の見解として、相反する内容の記述が流通していますが、掲載誌の巻号頁、日付、照会番号、原文が示されていないものが少なくありません。要約だけを孫引きすると、対象となる条文、事案及び前提が入れ替わっていることに気付けません。会社の意思決定の根拠として用いる場合は、原典まで確認する必要があります。本記事は、原典を確認できた資料のみを根拠として記載しています。
社外監査役の要件|独立役員とは別に判断します
会社法第2条第16号は、社外監査役を、イからホまでの要件のいずれにも該当する監査役と定義しています。
- イ その就任の前10年間、当該株式会社又はその子会社の取締役、会計参与若しくは執行役又は支配人その他の使用人であったことがないこと
- ロ その就任の前10年内のいずれかの時において当該株式会社又はその子会社の監査役であったことがある者にあっては、当該監査役への就任の前10年間、上記の地位にあったことがないこと
- ハ 当該株式会社の親会社等(自然人であるものに限ります)又は親会社等の取締役、監査役若しくは執行役若しくは支配人その他の使用人でないこと
- ニ 当該株式会社の親会社等の子会社等(当該株式会社及びその子会社を除きます)の業務執行取締役等でないこと
- ホ 当該株式会社の取締役若しくは支配人その他の重要な使用人又は親会社等(自然人であるものに限ります)の配偶者又は二親等内の親族でないこと
顧問弁護士であることは、社外監査役の要件に直接は現れません
イの要件は「支配人その他の使用人」という文言を用いています。会社法第335条第2項と同じ文言です。したがって、兼任禁止の判断と社外性の判断は、この点で連動します。顧問弁護士が「使用人」に当たらないと整理できるのであれば、顧問契約の存在それ自体は、イからホまでの要件に直接は現れません。もっとも、会社法第2条第16号は取引関係を要件としていないため、要件を満たすことと実質的な独立性が確保されることは別の評価になります。
上場会社の独立役員は別の基準で判断します
東京証券取引所は、上場会社に対し、一般株主と利益相反が生じるおそれのない社外取締役又は社外監査役である独立役員を確保することを求めています。独立性の判断では、「上場会社から役員報酬以外に多額の金銭その他の財産を得ているコンサルタント、会計専門家又は法律専門家(当該財産を得ている者が法人、組合等の団体である場合は、当該団体に所属する者をいう。)」に該当しないかが検討対象になります。同取引所の「独立役員の確保に係る実務上の留意事項」は、「多額」について、会社法施行規則第74条第4項第7号ニ又は同第76条第4項第6号ニの「多額の金銭その他の財産」に準じて上場会社が判断するものとしており、一律の金額基準は定められていません。
括弧書きに注意してください。財産を得ているのが法人や組合等の団体である場合は、当該団体に所属する者が対象となります。候補者個人が顧問料を直接受領していなくても、所属する法律事務所又は弁護士法人が受領していれば、検討の対象になります。
なお、東京証券取引所は、2026年7月3日付けで、少数株主保護に関する上場制度の見直しとして、独立性基準の拡充を含む有価証券上場規程等の改正を公表しています。適用時期には経過措置が置かれているため、自社に適用される基準と適用開始の時期を、公表資料及び最新版の留意事項で確認してください。
| 比較項目 | 会社法上の社外監査役 | 東京証券取引所の独立役員 |
|---|---|---|
| 根拠 | 会社法第2条第16号 | 有価証券上場規程、上場管理等に関するガイドライン |
| 対象となる会社 | 株式会社一般(監査役会設置会社では半数以上の確保が必要) | 上場会社 |
| 判断の中心 | 就任前10年間の経歴、親会社等との関係、近親者関係 | 一般株主と利益相反が生じるおそれの有無 |
| 顧問関係の現れ方 | 「支配人その他の使用人」に当たるかという問題として現れる | 役員報酬以外に多額の金銭その他の財産を得ている法律専門家に当たるかという問題として現れる |
| 所属事務所への支払 | 直接の要件ではない | 団体に所属する者として検討対象になる |
| 満たさない場合 | 社外監査役として員数に算入できない | 独立役員として届け出ることができない |
常勤監査役と非常勤監査役|社外・社内とは別の区分です
監査役会設置会社では、監査役会は監査役の中から常勤の監査役を選定しなければなりません(会社法第390条第3項)。常勤監査役の選定及び解職は、監査役会の職務とされています(同条第2項第2号)。これは監査役会設置会社についての規律であり、監査役会を置かない会社に選定義務を一般化することはできません。また、条文は「監査役の中から」と定めており、社外監査役を常勤の監査役として選定することを排除していません。「社外監査役は非常勤」「常勤監査役は社内出身者」という理解は、法令上の区分ではありません。
| 区分 | 社外監査役に当たらない監査役 | 社外監査役(会社法第2条第16号) |
|---|---|---|
| 常勤の監査役 | 社内事情に通じ、日常的な情報の入手が容易。過去に担当した業務との関係で、自己監査となる範囲の確認が必要 | 法令上排除されていない。執務時間の確保と、会議体以外の情報経路の設計が課題 |
| 非常勤の監査役 | 就任前10年間の経歴により社外性を欠く場合がある | 実務上多い形態。情報の入手方法と、有事の対応体制の設計が課題 |
会社法第390条には、常勤の意義を定める規定は置かれていません。勤務日数や勤務時間についての一律の基準もありません。弁護士が候補者となる場合は、次の点を具体的に確認することになります。
- 取締役会及び監査役会への出席の可能性
- 会議体以外の日常的な情報の入手経路(稟議、内部通報、監査部門との連携)
- 往査、実地調査、子会社調査の実施方法
- 会計監査人との連携の方法と頻度
- 他の弁護士業務との時間配分、繁忙期の重なり
- 有事における対応の可能性と連絡体制
ここまでの判断は、いずれも会社ごとの資料を確認しなければ結論が出ません。定款、履歴事項全部証明書、顧問契約書、候補者の経歴及び係属中の案件を確認したうえで、就任の可否を検討する材料と、有事の役割分担を整理することができます。上場会社又は上場準備中の会社では、独立役員の届出と開示への影響も併せて検討します。
監査役である弁護士は会社の訴訟代理人になれるか
この論点では、二つの問題を分ける必要があります。第一に、会社法上、その訴訟について会社を代表するのは誰かという問題です。第二に、その弁護士が訴訟代理人として受任できるかという問題です。
原則として、会社を代表するのは代表取締役です(会社法第349条第4項)。もっとも、監査役設置会社が取締役(取締役であった者を含みます)に対し、又は取締役が会社に対して訴えを提起する場合には、監査役が会社を代表します(同法第386条第1項第1号)。株主から取締役の責任を追及する訴えの提起の請求を受ける場合も同様です(同条第2項第1号)。前述のとおり、監査の範囲を会計に関するものに限定する定款の定めがある会社には第381条から第386条までが適用されないため(同法第389条第7項)、この場合、取締役との訴えにおける会社代表権は監査役にありません。
| 訴訟の類型 | 会社を代表する者 | 監査役である弁護士が訴訟代理人となることの検討 | 主に問題となる点 |
|---|---|---|---|
| 1 会社と社外の第三者との通常の訴訟 | 代表取締役(第349条第4項) | 検討の余地がある | 過去に顧問として関与した取引が争点となる場合の自己監査。証人となる可能性 |
| 2 株主が会社を相手に提起した訴訟 | 代表取締役(第349条第4項) | 最高裁判所昭和61年2月18日判決の事案に近い類型 | 特定の訴訟事件についての委任であること。株主対応と監査役の職務との関係 |
| 3 会社と現任又は元取締役との訴訟 | 監査役(第386条第1項第1号) | 会社を代表する監査役自身が訴訟代理人を兼ねる形になる | 代表機関としての判断と訴訟代理人としての職務が同一人に集中する。第三者から見た公正 |
| 4 株主代表訴訟の提訴請求と不提訴の判断 | 監査役が請求を受ける(第386条第2項第1号)。不提訴理由の通知は第847条第4項 | 判断の主体が自ら助言者を兼ねる形になる | 提訴・不提訴の判断の独立性。別の弁護士による検討の要否 |
| 5 会社と監査役本人との訴訟、監査役本人の責任を追及する株主代表訴訟 | 代表取締役(第349条第4項)。第386条は取締役に関する規定 | 本人が受任することは想定できない | 依頼者の利益と自己の経済的利益が相反する事件(弁護士職務基本規程第28条第4号) |
| 6 過去の助言、調査、契約書作成の当否が争点となる訴訟 | 事案による | 慎重な検討が必要 | 自らの職務の当否が争点となる。証人となる可能性。同一事務所内への波及(同規程第57条) |
| 7 会社と取締役個人を共同で代理することが検討される訴訟 | 事案による | 依頼者が複数となる | 依頼者の利益が相反する事件(同規程第28条第3号)。受任後の利害対立(同第42条) |
| 8 会計限定監査役が置かれている会社の訴訟 | 代表取締役(第349条第4項) | 監査役が会社を代表する場面が生じない | 会計限定監査役には業務監査の権限がないこと自体の確認 |
弁護士法及び弁護士職務基本規程で確認する事項
弁護士法第25条は、職務を行い得ない事件として、「相手方の協議を受けて賛助し、又はその依頼を承諾した事件」(第1号)、「受任している事件の相手方からの依頼による他の事件」(第3号)などを定めています。弁護士職務基本規程(平成16年11月10日会規第70号、最終改正令和3年6月11日)第28条は、これに加えて次の事件について職務を行ってはならないと定めています。
- 相手方が配偶者、直系血族、兄弟姉妹又は同居の親族である事件(第1号)
- 受任している他の事件の依頼者又は継続的な法律事務の提供を約している者を相手方とする事件(第2号)
- 依頼者の利益と他の依頼者の利益が相反する事件(第3号)
- 依頼者の利益と自己の経済的利益が相反する事件(第4号)
第2号の「継続的な法律事務の提供を約している者」には、顧問先が含まれ得ます。監査役に就任した後も顧問契約を継続する場合には、この点の検討が必要です。また、共同事務所については、「所属弁護士は、他の所属弁護士(所属弁護士であった場合を含む)が、第二十七条又は第二十八条の規定により職務を行い得ない事件については、職務を行ってはならない。ただし、職務の公正を保ち得る事由があるときは、この限りでない。」と定められています(同規程第57条)。同じ法律事務所の別の弁護士に交代すれば当然に問題が解消するわけではありません。受任後に依頼者相互間に現実に利害の対立が生じたときは、速やかにその事情を告げて、辞任その他の適切な措置をとらなければならないとされています(同規程第42条)。
同意によって解消できる場合とできない場合があります。弁護士法第25条は第3号及び第9号について依頼者の同意による例外を認めています。弁護士職務基本規程第28条は各号ごとに同意すべき主体を書き分けており、第2号については依頼者及び相手方の双方の同意を要するとしています。「関係者全員が同意すれば問題ない」という整理はできません。
兼任の利点と、自己監査・利益相反・独立性のリスク
顧問弁護士に監査役を依頼したいという要望には、合理的な理由があります。事業内容や過去の紛争の経緯を把握しているため前提知識の習得に時間を要しないこと、法令違反のおそれがある事項を早い段階で把握しやすいことです。他方で、次のリスクを併せて検討する必要があります。
- 自己監査。顧問として助言した事項の適法性を、自ら監査することになる場面がある
- 経済的な依存。顧問料の比重が大きいほど、会社又は代表取締役に対して異論を述べにくくなる
- 有事の役割の重複。取締役の責任が問題となる場面で、監査役としての判断と、それまでの助言者としての立場が衝突する
- 上場会社では、独立役員として届け出られない場合がある
- 外形的な公正。第三者から見て監査の独立性に疑いを持たれると、監査意見の説得力が低下する
顧問弁護士の依頼者は、原則として会社(法人)であり、代表取締役個人ではありません。会社の利益と代表取締役個人の利益が一致しない場面では、この区別が特に重要になります。
顧問契約と監査役をどう組み合わせるか|体制案の比較
| 体制案 | 法的な整理のしやすさ | 監査の独立性 | 会社理解 | 費用・運用の負担 | 有事の対応 |
|---|---|---|---|---|---|
| A 顧問契約を終了し、同じ弁護士が監査役に就任する | 兼任禁止の論点が生じない | 顧問報酬への依存がなくなる | 高い。ただし過去の関与が自己監査となる範囲は残る | 顧問業務の受け皿を別途手当てする必要がある | 監査役として会社を代表すべき訴訟に対応しやすい |
| B 現在の顧問弁護士は維持し、別の候補者を監査役に選任する | 論点が生じない | 監査と助言の分離が明確 | 監査役側は会社理解の習得に時間を要する | 顧問料と監査役報酬が併存する | 役割分担が明確で、相互に牽制が働く |
| C 同じ法律事務所の別の弁護士を監査役候補とする | 候補者個人については兼任の論点が生じにくい | 事務所単位での経済的関係が残る | 事務所内の情報共有により一定の理解がある | 追加の負担は小さい | 弁護士職務基本規程第57条により事務所内に波及する場面がある |
| D 顧問契約を継続しつつ、業務範囲と利益相反時の手順を明文化する | 「使用人」該当性の検討が必要 | 明文化の内容と運用次第 | 高い | 規程の整備と運用の負担が生じる | 職務除外の事由と別弁護士の選任手順を事前に定めておく必要がある |
どの案が適切かは、機関設計、上場の有無、係属中の紛争の有無、顧問業務の内容と報酬の水準によって異なります。特にC案について、同じ事務所の別の弁護士であれば当然に利益相反や独立性の問題が解消するわけではありません。
D案を採用する場合に、あらかじめ定めておくことが考えられる事項は、次のとおりです。
- 顧問業務として行う事項と行わない事項の範囲
- 業務執行上の意思決定及び社内の決裁に関与しないこと
- 顧問報酬と監査役報酬の区分及びそれぞれの決定手続
- 監査役自身が助言した事項について、どのように監査手続を行うか
- 利益相反が生じる場面の類型と、その場合の職務除外の手順
- 別の弁護士を選任する場合の選任権者、選任の手順及び費用の負担
- 情報管理(事務所内の情報遮断措置を含みます)
就任前に確認する資料と社内手続
確認する資料と事実
- 定款、履歴事項全部証明書、機関設計を示す資料、株主名簿、親子会社の関係図
- 現任監査役の構成、監査役会の有無、監査の範囲を会計に限定する定款の定めの有無
- 候補者の過去の役職歴、雇用歴、親族関係、他社での兼職状況
- 顧問契約書、業務の範囲、専属性、常駐の有無、指揮命令の実態、顧問料、収入に占める割合
- 候補弁護士又は所属事務所が過去に助言し、又は受任した案件の一覧
- 係属中の訴訟、合理的に予想される紛争、内部通報、不祥事調査、取締役の責任が問題となる事項
- 上場会社又は上場準備中の場合は、上場規程、自社の独立性基準、直近の独立役員届出書、開示資料
- 監査役報酬の水準と決定手続、責任限定契約、補償契約、D&O保険の有無
- 利益相反が生じた場合の職務除外、情報管理、別弁護士の選任、費用負担のルール
選任手続と登記
監査役は、株主総会の決議によって選任します(会社法第329条第1項)。取締役が監査役の選任に関する議案を株主総会に提出するには、監査役(監査役が2人以上ある場合はその過半数)の同意を得なければなりません(同法第343条第1項)。監査役会設置会社では、監査役会の同意となります(同条第3項)。選任の効力は選任決議のみで生じるものではなく、被選任者が就任を承諾することによって発生します(前掲最高裁判所平成元年9月19日判決)。就任承諾の時点は、兼任禁止との関係でも意味を持ちます。
任期は、選任後4年以内に終了する事業年度のうち最終のものに関する定時株主総会の終結の時までです(同法第336条第1項)。報酬等は、定款にその額を定めていないときは株主総会の決議によって定めます(同法第387条第1項)。監査役の氏名は登記事項であり(同法第911条第3項第17号ロ)、監査役会設置会社では社外監査役である旨も登記します(同項第18号)。登記事項に変更が生じたときは、2週間以内に、その本店の所在地において変更の登記をしなければなりません(同法第915条第1項)。添付書類は会社の形態や選任の経緯によって異なるため、法務局が公開する申請書の様式で確認してください。株主総会の招集手続と議事録については、株主総会の準備と運営の進め方を確認するで整理しています。
弁護士に相談を検討したいタイミング
次の場面では、資料を確認したうえで検討しておくと、後の選択肢が広がります。
- 監査役の欠員が生じ、又は任期満了が近づき、候補者の選定を始める段階
- 顧問弁護士に監査役就任を打診する前
- 就任の打診を受けた弁護士が、受諾の可否を検討する段階
- 上場又は上場準備に伴い、独立役員の確保と開示を検討する段階
- 既に兼任しており、係属中の訴訟、内部通報、取締役の責任の問題が生じた段階
相談により、定款、履歴事項全部証明書、顧問契約書、候補者の経歴及び係属中の案件を確認したうえで、就任可否を検討する材料、社外性・独立性の判断に必要な事実、有事の役割分担を整理することができます。結論は、機関設計、契約の内容及び実際の業務によって異なります。取締役の責任が問題となる場面の全体像は、取締役の責任と株主代表訴訟のリスクを確認する及び株主代表訴訟の提訴請求と手続の流れを確認するで整理しています。
法律事務所への相談では、利益相反の確認が済むまで機密資料の送付を控える運用が一般的です。まず会社名と関係する当事者をお伝えいただくと、確認を進めやすくなります。
よくある質問
顧問契約を解除しなければ、監査役に就任できませんか。
会社法は、顧問契約の解除を監査役就任の要件とはしていません。問題となるのは、会社法第335条第2項の「支配人その他の使用人」に当たるかどうかであり、専属性、常駐、指揮命令、報酬、業務内容などの実態から判断します。ただし、法的に就任できることと、監査の独立性から見て相当であることは別です。契約と業務の実態を確認する必要があります。
顧問弁護士は社外監査役になれますか。
会社法第2条第16号は、就任前10年間の経歴、親会社等との関係、近親者関係を要件としており、顧問契約の有無を直接の要件としていません。「使用人」に当たらないと整理できる場合、顧問契約の存在それ自体は要件に現れません。もっとも、要件を満たすことと実質的な独立性が確保されることは別の評価です。
社外監査役と独立役員は同じですか。
同じではありません。社外監査役は会社法第2条第16号による区分、独立役員は上場会社について東京証券取引所の基準により判断されるものです。独立性の判断では、役員報酬以外に多額の金銭その他の財産を得ている法律の専門職に当たらないかが検討され、所属する法人・組合等が受領している場合も対象となります。
社外監査役は非常勤でなければならないのですか。
そのような定めはありません。監査役会設置会社では、監査役会が監査役の中から常勤の監査役を選定しなければならないとされており(会社法第390条第3項)、社外監査役が常勤の監査役として選定されることは排除されていません。会社法第390条には常勤の意義を定める規定がないため、実際の執務体制と情報の入手方法を具体的に設計する必要があります。
監査役である弁護士が、会社の訴訟代理人になれますか。
最高裁判所昭和61年2月18日判決は、旧商法第276条について、弁護士の資格を有する監査役が特定の訴訟事件につき会社から委任を受けて訴訟代理人となることまでは禁止されないと判示しました。ただし、あらゆる訴訟の受任を許容したものではありません。会社を代表する者は誰か、過去の関与が争点となるかを、類型ごとに検討する必要があります。
取締役との訴訟では、誰が会社を代表しますか。
監査役設置会社が取締役(取締役であった者を含みます)に対し、又は取締役が会社に対して訴えを提起する場合には、監査役が会社を代表します(会社法第386条第1項第1号)。もっとも、監査の範囲を会計に関するものに限定する定款の定めがある会社には第381条から第386条までが適用されないため(同法第389条第7項)、この場合は代表取締役が会社を代表します。
同じ法律事務所の別の弁護士が監査役になれば、問題はありませんか。
候補者個人についての兼任の論点は生じにくくなりますが、それだけで解消するわけではありません。弁護士職務基本規程第57条は、他の所属弁護士が職務を行い得ない事件について、所属弁護士も職務を行ってはならないと定めています(職務の公正を保ち得る事由がある場合を除きます)。事務所単位の経済的関係も残ります。
兼任禁止に触れる状態で選任決議をした場合、その決議は無効になりますか。
最高裁判所平成元年9月19日判決は、兼任が禁止される従前の地位の辞任は選任決議の効力発生要件ではないとしました。もっとも同判決は、事実上従前の地位を辞さなかった場合には任務懈怠による責任の原因となり得るとしています。決議の効力と、兼任状態が残ることの問題は分けて検討してください。
まとめ
- 顧問弁護士の監査役就任は、就任資格、社外性、独立役員、実質的な相当性、弁護士倫理の五つの層に分けて検討します。
- 会社法第335条第2項の「支配人その他の使用人」該当性は、契約の名称ではなく、専属性、常駐、指揮命令、報酬、業務内容の実態で判断します。
- 最高裁判所平成元年9月19日判決は、顧問弁護士が「使用人」に当たるかを判断していません。最高裁判所昭和61年2月18日判決は、特定の訴訟事件についての訴訟代理を対象とする判断です。いずれも射程を広げないでください。
- 会社法上の社外監査役と、東京証券取引所の独立役員は別の基準です。所属する法律事務所への支払も検討の対象になります。
- 常勤・非常勤は、社外・社内とは別の区分です。監査役会設置会社では常勤監査役の選定が必要ですが、社外監査役が常勤となることは排除されていません。
- 訴訟代理の可否は、会社を代表する者は誰かという問題と弁護士として受任できるかという問題を分け、顧問契約の終了、別候補者の選任、同一事務所の別弁護士、兼任ルールの明文化という体制案と併せて検討します。
顧問弁護士への監査役就任の打診、就任の打診を受けた弁護士側の検討、既に兼任している場合の体制の見直しのいずれについても、定款、履歴事項全部証明書、顧問契約書、候補者の経歴及び係属中の案件を確認したうえで、就任の可否を判断するための材料と、有事の役割分担を整理することができます。初回の法律相談は無料です。
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監修者・執筆者
弁護士・公認会計士 藤井貴之(兵庫県弁護士会所属)
神戸みらい法律会計事務所 代表弁護士・公認会計士。会社法、企業法務、労働問題、相続、交通事故等を取り扱っています。会社の機関設計、役員の選任及び責任に関するご相談に対応しています。
参考資料
- e-Gov法令検索「会社法」(デジタル庁)
- e-Gov法令検索「弁護士法」(デジタル庁)
- 裁判所「最高裁判所第三小法廷昭和61年2月18日判決(判決全文)」
- 裁判所「最高裁判所第三小法廷平成元年9月19日判決(判決全文)」
- 日本弁護士連合会「会規」(弁護士職務基本規程を掲載)
- 日本取引所グループ「独立役員の確保」
- 東京証券取引所「少数株主保護に関する上場制度の見直し等に係る有価証券上場規程等の一部改正について」
- 法務局「商業・法人登記の申請書様式」
- 神戸みらい法律会計事務所「法律顧問」
本記事は、2026年(令和8年)8月27日時点で確認できた法令、判例及び公表資料に基づいて作成しています。法令、上場規則及び会規は改正されることがあります。また、記載した内容は一般的な整理であり、会社の機関設計、契約の内容、実際の業務の状況及び訴訟の内容により結論は異なります。具体的な事案については、資料を確認したうえで個別に検討する必要があります。

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