顔面神経麻痺の後遺障害|醜状障害と神経障害の切り分け方 |神戸市(須磨・垂水・西神・北神)の弁護士|初回相談無料|

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顔面神経麻痺の後遺障害|醜状障害と神経障害の切り分け方

交通事故で頭部や顔面を強く打ち、その後、口角が下がったまま戻らない、笑うと顔の左右がそろわない、目を閉じようとしても閉じきれない――こうした症状が残ったとき、多くの方が最初に迷うのは「これは顔の傷あとの問題なのか、神経の問題なのか」という点です。保険会社から後遺障害の申請を案内されても、顔面神経麻痺という診断名だけでは、どの障害として申請すべきかが分かりにくいという声を多くいただきます。

結論から申し上げると、顔面神経麻痺は、診断名そのものによって後遺障害等級が決まるわけではありません。口のゆがみ、まぶたが閉じられない状態、顔の傷あと、痛みやしびれといった残存症状ごとに、検討する障害の枠が分かれます。同じ症状を呼び方だけ変えて重ねて評価することはできず、他方で、医学的にも機能的にも別個の障害まで一律に排除されるわけでもありません。

この記事では、症状ごとの評価の枠、重複評価と併合の考え方、事故との因果関係の確認方法、後遺障害診断書の作成前や示談前に確認しておきたい資料を整理します。実際の結論は、症状固定時の状態、医療記録の内容、事故態様その他の個別事情により異なります。

この記事で分かること

  • 顔面神経麻痺で問題となる後遺障害を、残存症状ごとに切り分ける考え方
  • 口のゆがみが「外貌の醜状」として検討される理由と、その法令上の位置付け
  • まぶたが閉じられない場合に検討される「まぶたの運動障害」の内容
  • 痛み・しびれ等を別個の神経症状として検討できる場合の条件
  • 複数の症状が残ったときの併合・上位等級・相当・加重の区別
  • 事故との因果関係を裏付けるために残しておきたい診療記録と検査
  • 後遺障害診断書の作成前、申請前、示談前に確認すべき事項

顔面神経麻痺の症状が残っており、どの障害として申請すべきか整理できていない場合は、後遺障害診断書を作成してもらう前に、医療記録と残存症状を一度整理しておくことをおすすめします。

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顔面神経麻痺の後遺障害でまず押さえたい結論

自賠責保険の後遺障害等級は、自動車損害賠償保障法施行令別表第二に定められています。そして、自賠責保険の支払基準(平成13年金融庁・国土交通省告示第1号)は、後遺障害による損害について「等級の認定は、原則として労働者災害補償保険における障害の等級認定の基準に準じて行う。」と定めています。

つまり、等級そのものは施行令別表第二が定めており、その認定の考え方は労災保険の障害等級認定基準に準じて運用されるという二段構えになっています。労災保険の認定基準がそのまま自賠責保険の法令になっているわけではありません。同じ内容の障害でも、自賠責と労災とで号数が一致しない場合があるため、資料を読む際は、どちらの制度の号数かを必ず確認してください。

この枠組みを前提にすると、顔面神経麻痺の残存症状は、おおむね次のように整理できます。

残存症状 主に検討する障害の枠 確認すべき診療科・所見・検査又は資料 二重評価・因果関係上の注意
口のゆがみ、口角の下がり、表情運動時の左右非対称 外貌の醜状(自動車損害賠償保障法施行令別表第二 第7級第12号、第9級第16号、第12級第14号の系列) 形成外科・耳鼻咽喉科・脳神経外科等の診療録、症状固定時の外貌所見、安静時と表情運動時の状態 労災保険の認定基準では、顔面神経麻痺の結果として現れる口のゆがみを「単なる醜状」として取り扱う旨が示されています。同じ口のゆがみを、別に神経症状として重ねて評価できるとは限りません。
閉瞼不能、まぶたが閉じきれない、まぶたの動きが悪い まぶたの運動障害(同別表第二 第11級第2号、第12級第2号) 眼科の診療録、開瞼時に瞳孔領を覆っていないか、閉瞼時に角膜を覆えているかという所見 外貌の醜状ではなく、まぶたの障害として取り扱う旨が示されています。眉毛の下垂やまぶたの皮膚のたるみと同一視できるものではありません。
顔面の傷あと(瘢痕、線状痕、組織陥没) 外貌の醜状(部位・種類・大きさによる評価) 形成外科の診療録、瘢痕・線状痕の部位、長さ、面積、人目につく程度 麻痺による動的な左右差とは、評価の対象も残すべき資料も異なります。詳細は後記の別記事をご確認ください。
顔面の痛み、しびれ、知覚低下、異常感覚 局部の神経症状(同別表第二 第12級第13号、第14級第9号) 脳神経外科・脳神経内科・耳鼻咽喉科等の所見、画像検査、電気生理学的検査、症状の経過 顔面の一般的な感覚は顔面神経ではなく主に三叉神経が担うとされています。どの神経・器質的損傷で説明できるかの確認が必要です。
病的共同運動、顔面拘縮、こわばり 症状の内容に応じて個別に検討 発症時期と経過の記録、表情運動時の状態、リハビリテーションの経過 医学上の後遺症の呼称と、法令上の等級とは別の概念です。
視力低下、視野障害、複視、角膜障害 眼球の障害(まぶたの障害とは別の枠) 眼科の視力検査、視野検査、複視の検査、角膜の状態 まぶたの障害と別個に評価できるか、通常派生する関係にあるかを確認する必要があります。
味覚の低下、味が分からない 別表第二に明文の号はなく、相当等級として評価できるかが問題となります 耳鼻咽喉科の味覚検査、発症時期、経過 労災保険で用いられる「準用」と、自賠責保険で問題となる「相当」は、根拠も要件も異なります。
難聴、耳鳴り、めまい、音が響く 耳の障害、平衡機能障害等(それぞれ別の枠) 純音聴力検査、語音聴力検査、平衡機能検査、側頭骨の画像 顔面神経麻痺に伴うものか、側頭骨骨折等による別個の障害かを分けて検討します。
飲食物が口から漏れる、発音しにくい 咀嚼機能障害、言語機能障害(それぞれ別の枠) 摂取できる食物の形態に関する医学的な確認、発音できない語音の確認 自覚症状だけで、直ちに等級の要件を満たすものではありません。

顔面に瘢痕、線状痕、組織陥没などの傷あと自体が残った場合は、部位・種類・大きさによる別の評価が必要です。詳しくは顔の傷あと(醜状障害)の後遺障害等級とサイズの考え方をご確認ください。この記事では、傷あと自体ではなく、表情筋の麻痺によって生じる動的な左右差と機能障害を中心に扱います。

この記事の出発点 顔面神経麻痺という診断名は、どの障害の枠で検討するかを決める入口にすぎません。症状固定の時点で何がどの程度残っているかを、症状ごとに分解して確認する必要があります。

顔面神経の働きと、麻痺で現れる症状

顔面神経は、表情筋の運動を支配するほか、耳の中にあるアブミ骨筋の運動、涙腺・唾液腺の分泌に関与する副交感神経、舌の前方3分の2の味覚に関与する神経から構成されると説明されています(東京歯科大学市川総合病院、東京大学大学院医学系研究科形成外科学分野ほかの解説)。そのため、額のしわ寄せができない、まぶたが閉じられない、口角が上がらない、飲食物が口から漏れる、味覚が低下する、音が響いて聞こえるといった、性質の異なる症状が同時に現れることがあります。症状が多岐にわたること自体が、後遺障害の評価を複雑にする原因です。

他方で、日本顔面神経学会の一般向け解説では、顔面神経麻痺について「顔面の知覚麻痺は認めません」と説明されています。顔の触覚や痛覚といった一般的な感覚は、顔面神経ではなく主に三叉神経が担うとされているためです。したがって、顔面のしびれや知覚の低下がある場合、それが顔面神経麻痺から当然に生じる症状であるとは限らず、三叉神経の損傷、顔面骨や頭蓋底の外傷、その他の原因を含めて確認する必要があります。

なお、顔面神経麻痺は、脳に原因がある中枢性のものと、脳から出た後の経路に原因がある末梢性のものに分けられ、中枢性の場合は額のしわ寄せなど前額部の動きが保たれることが多いと説明されています(杏林大学医学部附属病院形成外科・美容外科の解説)。どちらに当たるかは医師が診察と検査に基づいて判断する事項であり、この記事は診断や治療方針に代わるものではありません。

口のゆがみは「外貌の醜状」として検討される

労災の認定基準に明文がある

厚生労働省の「外貌の醜状障害に関する障害等級認定基準について」(平成23年2月1日付け基発0201第2号)には、「顔面神経麻痺は、神経系統の機能の障害ではあるが、その結果として現われる『口のゆがみ』は単なる醜状として、また閉瞼不能は眼瞼の障害として取り扱うこと。」と示されています。

これは労災保険の認定基準ですが、前記のとおり自賠責保険の支払基準が労災保険の認定基準に準じることとしているため、自賠責保険の実務でも、この振り分けの考え方が前提となります。

注意 自動車損害賠償保障法施行令が、顔面神経麻痺による口のゆがみを直接どの号に当たると定めているわけではありません。等級と号数は施行令別表第二で、認定の考え方は労災保険の認定基準で、それぞれ確認する必要があります。

外貌の醜状として問題となる等級

自動車損害賠償保障法施行令別表第二では、外貌の醜状について、第7級第12号「外貌に著しい醜状を残すもの」、第9級第16号「外貌に相当程度の醜状を残すもの」、第12級第14号「外貌に醜状を残すもの」が定められています。労災保険の障害等級表では「外貌に相当程度の醜状を残すもの」が第9級の11の2とされており、自賠責とは号数が一致しません。

また、労災保険の認定基準では、障害の対象となる外貌の醜状は「人目につく程度以上のもの」でなければならないとされています。口のゆがみについても、症状固定時の外観、麻痺の程度、表情運動時の状態などを医療記録に照らして確認する必要があり、口のゆがみがあれば必ず第12級第14号になる、という性質のものではありません。

傷あとによる醜状との違い

顔の傷あとは、症状固定時に瘢痕や線状痕として固定的に存在するものであり、部位、種類、大きさによって評価されます。これに対し、顔面神経麻痺による左右差は、表情を動かしたときに顕著になることがあり、評価の対象も、医療記録として残すべき内容も異なります。なお、「醜状」は制度上の分類を示す用語であり、本人の外見や人格を否定的に評価する趣旨のものではありません。

まぶたが閉じられない場合は「まぶたの障害」として検討される

「まぶたに著しい運動障害を残すもの」の意味

前記の認定基準では、閉瞼不能は外貌の醜状ではなく、まぶたの障害として取り扱うとされています。自動車損害賠償保障法施行令別表第二では、第11級第2号「両眼のまぶたに著しい運動障害を残すもの」、第12級第2号「一眼のまぶたに著しい運動障害を残すもの」が定められています。

労災保険の認定基準では、「まぶたに著しい運動障害を残すもの」とは、開瞼時(普通に開瞼した場合)に瞳孔領を完全に覆うもの、又は閉瞼時に角膜を完全に覆い得ないものをいうとされています。つまり、目が閉じにくいという自覚症状だけで足りるものではなく、眼科的な所見として確認できることが前提になります。なお、まぶたの障害には運動障害のほかに欠損障害がありますが、これはまぶたの組織が失われた場合の問題であり、麻痺による閉瞼不能とは区別されます。

眼の他の障害との切り分け

閉瞼不能が続くと、角膜が露出して乾燥し、角膜炎や角膜潰瘍を生じることがあると説明されています。角膜障害、視力低下、視野障害、複視などがある場合は、まぶたの運動障害とは別の枠で評価できるか、一つの障害から通常派生する関係にあるかを、眼科の検査結果に基づいて確認します。他方で、眉毛の下垂やまぶたの皮膚のたるみを、医学的な裏付けなく閉瞼不能と同一視することはできません。

独立した神経症状・機能障害を検討する場合

「神経」という名称だけでは等級は決まらない

顔面神経麻痺は名称に「神経」を含みますが、そのことから直ちに第12級第13号「局部に頑固な神経症状を残すもの」又は第14級第9号「局部に神経症状を残すもの」に当たるわけではありません。労災保険の認定基準では、末梢神経麻痺に係る等級の認定は、原則として、損傷を受けた神経が支配する身体各部の器官における機能障害に係る等級により認定することとされています。口のゆがみを醜状として、閉瞼不能をまぶたの障害として取り扱うのは、この考え方の延長にあります。

痛み、しびれ、知覚低下、異常感覚などを別個の神経症状として検討する場合には、少なくとも次の点を確認する必要があります。

  • その症状を、どの神経の障害又はどの器質的損傷で説明できるか
  • 事故態様、受傷部位、初診時の所見と症状が整合しているか
  • 症状に一貫性・継続性があり、治療経過の記録に表れているか
  • 画像、神経学的所見、電気生理学的検査などの他覚的な所見があるか
  • 口のゆがみや閉瞼不能と同一の障害を、名称を変えて重ねていないか

第12級第13号と第14級第9号の区別を、画像所見の有無だけで機械的に決めることはできません。症状の内容、経過、他覚的所見、医学的な説明可能性などを総合して検討する必要があり、個別事情により結論は異なります。

味覚、聴力、耳鳴り、めまい、咀嚼・言語

味覚障害については、自動車損害賠償保障法施行令別表第二に明文の号がありません。労災保険では、濾紙ディスク法による検査結果を前提に準用等級として扱われますが、自賠責保険では別表第二の備考に定める相当等級として評価できるかが問題となります。労災保険の「準用」と自賠責保険の「相当」は、根拠も要件も同一ではありません。

難聴、耳鳴り、めまいについても、それぞれ別の系列の障害として検査と認定要件が定められており、側頭骨骨折を伴う場合には、顔面神経麻痺とは別に問題となることがあります。咀嚼機能と言語機能にも固有の等級があり、労災保険の認定基準では、咀嚼機能は摂取できる食物の形態によって、言語機能は口唇音・歯舌音・口蓋音・喉頭音という4種の語音のうち発音できないものの数によって区分されています。飲食物が漏れる、発音しにくいという事実だけで、直ちに要件を満たすわけではありません。

複数の症状が残っている場合、どこまでを一つの障害として評価し、どこからを別個の障害として検討するかによって、申請時に準備すべき資料が変わります。診療録、検査結果、後遺障害診断書の記載を確認したうえで、検討すべき障害の枠と不足資料を整理することができます。

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複数の症状が残った場合の考え方

「症状が多いのだから併合されるはずだ」と考えられがちですが、そのように単純に決まるものではありません。次の四つを区別して検討する必要があります。

用語 問題となる場面 顔面神経麻痺での検討例
併合 系列を異にする複数の障害が、それぞれ認定要件を満たして存在する場合 医学的にも機能的にも独立した別個の障害が残っており、いずれについても因果関係と要件を満たすと確認できる場合に問題となります。
上位等級による評価 一つの障害が観察の方法によって複数の等級に該当するように見える場合、又は一つの障害に他の障害が通常派生する関係にある場合 同じ口のゆがみを醜状と神経症状の両方で評価しようとする場合など。労災保険の認定基準では、いずれか上位の等級によることとされています。
準用・相当 障害等級表に明文のない障害を、その程度に応じて評価する場合 味覚障害など。労災保険の「準用」と自賠責保険の「相当」は制度上の位置付けが異なります。
加重 既に同一部位に後遺障害があった方が、今回の事故によりその程度を重くした場合 事故前から顔面神経麻痺や眼の障害があった場合など。既存障害の内容と時期の確認が必要です。

実務上は、次の順序で確認していくことになります。個別の症状の組合せについて一律の結論を示すことはできず、医療記録を確認したうえで症状ごとに判断する必要があります。

  • それぞれの症状が、同一の障害を別の呼び方で表現したものではないか
  • 一方が他方から通常派生する関係にないか
  • それぞれについて、独立した認定要件と事故との因果関係を満たすか
  • その結果として、併合の対象となるか、上位等級で評価されるか

事故との因果関係をどう確認するか

時系列で整理しておきたい事項

「事故の後に発症したから外傷性の顔面神経麻痺である」という説明では足りません。次の事項を時系列で整理し、医療記録と照合しておくことが重要です。

  • 事故態様と受傷機転(どこにどのような力が加わったか)
  • 頭部、側頭部、顔面部、耳の周辺など、受傷した部位
  • 事故直後の意識状態と神経症状
  • 顔面の麻痺が受傷直後に生じたか、数日から1週間程度たってから生じたか
  • 救急搬送時の記録、初診時の記録、その後の診療録
  • 側頭骨、頭蓋底、顔面骨の骨折の有無と、顔面神経の走行部位との関係
  • 手術を受けた場合の手術記録と術中所見
  • 麻痺が生じた側と、受傷部位・画像所見が整合しているか
  • 事故前の既往歴、同じような症状を起こしたことがあるか

日本顔面神経学会の一般向け解説では、交通事故の耳の外傷後に生じた顔面神経麻痺について、受傷直後の麻痺は顔面神経に強いダメージが加わったことが考えられ緊急手術が行われることもある一方、数日から1週間後に生じた麻痺は外傷に伴う出血や炎症が原因と考えられ薬による治療が行われると説明されています。発症時期が診療録にどう記録されているかは、因果関係を検討するうえで重要な情報です。

他の原因との区別と、医学的評価の位置付け

顔面神経麻痺の原因には、外傷のほかに、ベル麻痺(特発性の顔面神経麻痺)、ラムゼイ・ハント症候群、中耳炎に伴うもの、腫瘍によるもの、脳血管障害によるものなどがあるとされ、相手方から「事故とは無関係の疾病ではないか」と主張されることもあります。これは、耳鼻咽喉科、形成外科、眼科、脳神経内科・脳神経外科といった各診療科の所見と検査結果によって検討される事柄です。

顔面神経麻痺の評価には、柳原法(かつて40点法と呼ばれていたもの)、HOUSE-BRACKMANN法といった評価尺度や、ENOG(誘発筋電図)、NET(神経興奮性検査)、筋電図検査、CT、MRI、聴力検査、味覚検査、シルマーテストなどが用いられます。もっとも、これらは麻痺の重症度や予後、障害部位を医学的に評価するためのものです。日本顔面神経学会の資料でも、柳原法について検者間の誤差と再現性に課題があり、後遺症については詳細な評価ができないことが指摘されています。特定の検査値や点数によって法令上の後遺障害等級が決まるわけではありません。

後遺障害診断書と証拠の残し方

後遺障害診断書で確認しておきたい記載

後遺障害診断書は、医師に法的な結論や希望する等級を書いてもらうための書面ではありません。実際の診察所見と検査結果を正確に記載していただくことが基本です。そのうえで、次の事項が診療録や検査結果と整合しているかを確認しておくとよいでしょう。

  • 傷病名、受傷日、初診日
  • 顔面麻痺が生じた時期
  • 症状固定日と、その判断の根拠となる経過
  • 自覚症状と他覚所見
  • 麻痺の部位、左右、程度
  • 評価尺度による点数と、その測定日
  • 画像検査・電気生理学的検査の結果
  • 閉瞼の状態、角膜の状態、視機能、味覚、聴覚に関する個別の所見
  • 治療内容と治療経過、今後の改善可能性や手術の見込み
  • 診療録、紹介状、手術記録、検査結果との整合性

なお、後遺障害診断書に記載があれば当然に等級が認定されるわけではありません。記載内容を裏付ける診療録や検査結果があるかどうかが確認されます。

写真・動画による経時的な記録

顔面神経麻痺による左右差は、安静時よりも表情を動かしたときに現れることがあります。医師の診察と医療記録を中心としつつ、経過を示す補助資料として、安静時の正面、額にしわを寄せる動作、軽く目を閉じる動作と強く目を閉じる動作、歯を見せる動作、口をすぼめる動作、頬を膨らませる動作、会話時や飲食時の支障などを記録しておくことが考えられます。撮影日、距離、角度、照明、動作の条件をそろえておくと、変化が分かりやすくなります。

もっとも、写真や動画だけで等級が決まるものではありません。また、顔の画像は機微性の高い個人情報ですので、保存場所と共有する相手をあらかじめ決めておき、SNSなど不特定多数が閲覧できる場所への投稿は避けてください。

症状固定、後遺障害申請、示談前の確認

症状固定の考え方

症状固定は、通院を終えた日や、保険会社が治療費の支払を打ち切った日と同じではありません。治療経過と医師の判断によるものであり、「事故から6か月経過したから症状固定」といった一律の基準はありません。

参考として、日本顔面神経学会は、柳原法による治癒判定の時期を、従来の発症後6か月以降から発症後1年以降へと改めた旨を公表しています。また、病的共同運動などの後遺症は発症後3か月ごろから現れて次第に進行するとも説明されています。これらは医学上の予後判定に関する知見であり、法律上の症状固定時期を直接定めるものではありませんが、担当医と相談する際の参考になります。神経の再建、形成外科的な手術、眼科的な処置、リハビリテーション、ボツリヌス治療などの適否や時期も担当医の判断によります。資料を残すために医学的に必要な治療を先延ばしにすることは避けてください。

申請前・示談前のチェックリスト

  • 残存症状を、口のゆがみ、閉瞼不能、傷あと、痛み・しびれ、味覚、聴覚、視機能、咀嚼・言語に分けて整理したか
  • それぞれについて、どの診療科でどのような所見・検査結果が残っているかを確認したか
  • 救急記録、初診時記録、画像、手術記録、紹介状を取り寄せたか
  • 顔面麻痺の発症時期が、診療録にどう記載されているかを確認したか
  • 後遺障害診断書の記載が、診療録・検査結果と整合しているかを確認したか
  • 複数の症状について、同一の障害を重ねて主張していないかを確認したか
  • 事故前の既往歴や既存障害の有無を確認したか
  • 就労や日常生活への影響を裏付ける資料を用意したか
  • 認定結果が出ている場合、認定理由と不足資料を確認したか
  • 示談案の損害項目と金額の内訳を確認したか

後遺障害の申請方法には、任意保険会社を通じて手続を進める方法(実務上「事前認定」と呼ばれます)と、被害者側から自賠責保険会社へ直接請求する方法(被害者請求)があります。国土交通省の資料では、後遺障害の請求について、後遺障害診断書とレントゲン・CT・MRI等の画像が必ず提出する書類とされています。どちらを選ぶべきかは事案によります。

認定結果に不服がある場合には、損害保険会社に対して異議申立てを行うことができるほか、一般財団法人自賠責保険・共済紛争処理機構への申請を検討することもできます。まずは認定理由を確認し、どの点が不足していると判断されたのかを把握することが出発点になります。なお、自賠責保険の被害者請求権には時効があり、民法上の損害賠償請求権の消滅時効とは別に定められています。症状固定と言われたときの確認事項を見る後遺障害が非該当となった場合の異議申立てを確認するもあわせてご確認ください。

後遺障害慰謝料と逸失利益の考え方

自賠責保険の後遺障害等級が認定されると、支払基準に従って後遺障害慰謝料と逸失利益が算定されます。もっとも、これは自賠責保険の支払の枠組みであり、民事上の損害賠償額と同一ではありません。任意保険会社の提示額、裁判実務上参照される基準、個別事案における実際の影響は、それぞれ別に検討する必要があります。

外貌の醜状に関する逸失利益については、等級が認定されれば当然に労働能力喪失率のすべてが認められるというものでも、外見上の問題だから逸失利益は一切認められないというものでもありません。次のような具体的な影響を、資料に基づいて検討することになります。

  • 接客、営業、受付、医療・介護、販売など、対面での業務に従事しているか
  • 表情や発話を用いる業務に従事しているか
  • 飲食物の漏れ、発語のしにくさ、長時間の会話への影響があるか
  • 閉瞼不能に伴う角膜の保護、点眼、就寝時の対応などの負担があるか
  • 視機能、聴力、味覚など、独立した機能障害があるか
  • 配置転換、業務制限、休職、欠勤、減収、昇進への影響があるか
  • 事業主・会社役員の場合、業務内容と収入の構造がどうなっているか

資料としては、事故前後の収入資料、職務内容が分かる資料、勤務先の客観的な記録、配置転換に関する資料、勤怠記録などが考えられます。職業や性別だけで結論が決まるものではなく、個別事情により結論は異なります。

弁護士に相談を検討したいタイミング

  • 後遺障害診断書を作成してもらう前。どの所見・検査結果が診断書と診療録に残っているかを確認できます。
  • 保険会社から症状固定を提案されたとき。治療経過と医師の判断を踏まえた確認ができます。
  • 後遺障害の認定結果が出たとき。認定理由と不足資料を確認し、異議申立ての要否を検討できます。
  • 示談案の提示を受けたとき。損害項目と内訳、後遺障害の評価が反映されているかを確認できます。
  • 医学的な資料と法律上の評価を整理する必要があるとき。診療科をまたぐ資料を、障害の枠ごとに整理できます。

相談によって等級や賠償額が保証されるわけではありません。もっとも、資料を確認したうえで、検討すべき障害の枠、不足している資料、今後の手続の見通しを整理することはできます。

よくある質問

顔に傷あとがなくても、口のゆがみは後遺障害の対象になりますか。

対象となる可能性があります。労災保険の認定基準では、顔面神経麻痺の結果として現れる口のゆがみを「単なる醜状」として取り扱うとされており、自賠責保険の支払基準もこの認定基準に準じることとしています。ただし、症状固定時の外観、麻痺の程度、事故との因果関係などにより結論は異なりますので、医療記録を確認したうえでの判断が必要です。

顔面神経麻痺は、第12級第13号や第14級第9号の神経症状として申請するのではないのですか。

「神経」という名称が付くことから直ちにそうなるわけではありません。労災保険の認定基準では、末梢神経麻痺の等級は、原則としてその神経が支配する器官の機能障害に係る等級により認定するとされています。口のゆがみを醜状として、閉瞼不能をまぶたの障害として扱うのは、この考え方によるものです。

口のゆがみと神経症状の両方を申請できますか。

同じ障害を観察の方法や呼び方だけ変えて重ねて評価することはできません。労災保険の認定基準では、一つの障害が複数の等級に該当するように見える場合や、一つの障害に他の障害が通常派生する関係にある場合には、いずれか上位の等級によるとされています。独立した別個の障害といえるかを資料に基づいて確認する必要があります。

まぶたが閉じられない場合は、外貌の醜状障害になりますか。

閉瞼不能は、外貌の醜状ではなく、まぶたの障害として取り扱うとされています。労災保険の認定基準では、「まぶたに著しい運動障害を残すもの」は、開瞼時に瞳孔領を完全に覆うもの、又は閉瞼時に角膜を完全に覆い得ないものとされており、眼科的な所見の確認が前提となります。

症状が複数あれば、必ず併合されますか。

必ず併合されるわけではありません。同一の障害を重ねて評価しているだけの場合や、一方が他方から通常派生する関係にある場合には、上位の等級による評価が問題となります。系列を異にする独立した障害であり、それぞれの認定要件と事故との因果関係を満たす場合に、はじめて併合が問題となります。

柳原法やENOGの結果だけで後遺障害等級は決まりますか。

これらは麻痺の重症度や予後、障害部位を医学的に評価するためのものであり、それ自体が法令上の後遺障害等級を決めるものではありません。日本顔面神経学会の資料でも、柳原法には検者間の誤差と再現性の課題があり、後遺症については詳細な評価ができないことが指摘されています。

事故による顔面神経麻痺であることは、どの資料で確認しますか。

救急搬送時の記録、初診時の記録、その後の診療録、頭部・側頭骨のCTやMRI等の画像、手術記録、各診療科の所見などを時系列で確認します。特に、麻痺が受傷直後に生じたのか数日後に生じたのかという発症時期の記載が重要になります。

示談案が届いた後でも、後遺障害について確認できますか。

示談書に署名する前であれば、損害項目の内訳と後遺障害の評価を確認する余地があります。示談が成立すると、原則としてその内容に拘束されますので、署名の前に一度確認することをおすすめします。

まとめ

  • 顔面神経麻痺は、診断名ではなく、症状固定時に残っている症状ごとに検討する障害の枠が分かれます。
  • 口のゆがみは外貌の醜状として、閉瞼不能はまぶたの障害として取り扱うとされています。両者を同一視しないでください。
  • 「神経」という名称だけで、第12級第13号や第14級第9号になると考えないでください。
  • 同じ障害を呼び方を変えて重ねて評価することはできず、症状が複数あれば自動的に併合されるわけでもありません。
  • 事故との因果関係は、受傷部位、発症時期、画像所見、手術記録などを時系列で確認して判断されます。
  • 柳原法やENOGなどの検査結果は医学的な評価のためのものであり、それ自体が等級を決めるものではありません。
  • 後遺障害診断書の作成前、後遺障害の申請前、示談書への署名前に、医療記録と残存症状を整理しておくことをおすすめします。

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監修者・執筆者

弁護士・公認会計士 藤井貴之

兵庫県弁護士会所属。神戸みらい法律会計事務所の代表弁護士・公認会計士として、交通事故、相続、企業法務、労働問題、損害賠償など、個人・法人双方の法律相談に対応しています。

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本記事は、法令、告示、行政通達及び学会等の公表資料に基づいて作成していますが、医学的事項について医師の監修を受けたものではありません。診断、検査及び治療については担当医にご確認ください。実際の結論は個別事情により異なります。

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