交通事故でお子さまがけがをし、治療を続けても症状が残ってしまったとき、保護者の方からは次のようなご相談をいただきます。「まだ働いていない子どもに、将来の収入の損害は認められるのでしょうか」「進路も職業も決まっていないのに、いま示談してよいのでしょうか」「これまでどおり親が世話をするつもりですが、それでも介護の費用を請求できるのでしょうか」。
この記事は、自動車やバイクなどの運行に関係する交通事故を中心に、事故のときまたは症状固定のときにおおむね18歳未満で、まだ働いていないお子さまに後遺障害が残った場合を取り上げます。けがの部位を問わず、将来の収入にかかわる損害(後遺障害逸失利益)と、将来の介護・付添いにかかわる損害を、どのような考え方で組み立て、どのような資料で裏づけるのかを整理します。学校での事故や医療事故にも共通する損害項目はありますが、責任の要件、相手方、利用できる補償制度、後遺障害の評価の仕組み、期間制限が異なりますので、この記事の説明をそのまま当てはめることはできません。
結論から申し上げると、いま収入がないことだけを理由に、後遺障害逸失利益がゼロになるわけではありません。もっとも、基礎収入にどの平均賃金を用いるか、大学進学などを前提にできるか、働き始める時期や労働能力の喪失の程度・期間をどう評価するかは、機械的には決まりません。年齢、在学状況、事故前の学習や生活の状況、進路の具体性、障害の内容、そして手元にどのような資料があるかによって結論は変わります。
提示された金額や損害項目の内訳に迷いがあるときは、示談書に署名する前に、資料をもとに損害項目の漏れと算定の根拠を確認しておくことをおすすめします。
子どもの後遺障害でまず確認したい結論
この記事の結論
- 現在収入がないことは、後遺障害逸失利益を否定する理由になりません。自動車損害賠償責任保険(自賠責保険)の支払基準にも、幼児・児童・生徒・学生について将来の収入を前提に算定する定めがあり、裁判実務でも同様に検討されます。
- ただし、金額は、基礎収入、働き始める時期、労働能力喪失率、期間という四つの要素の評価で大きく動きます。
- 将来介護費は、年齢相応の通常の養育・見守りと、事故によって追加で必要になった介護・監視・支援とを分けて示す必要があります。
- 将来の損害を確認しないまま清算条項のある示談書に署名すると、後から追加で請求することが難しくなる場合があります。
あわせてご注意いただきたいのは、損害項目が並んでいるからといって、その全額が当然に受け取れるわけではないという点です。事故と後遺障害との因果関係、相手方の責任の有無、過失割合、すでに支払われた治療費等(既払金)、労災保険や人身傷害保険などの各種給付との調整によって、最終的な請求額・受取額は変わります。個別事情により結論は異なります。
| 確認事項 | 具体的に見るところ |
|---|---|
| 損害項目の内訳が示されているか | 治療費、通院交通費、付添費、慰謝料、逸失利益、将来介護費、将来治療費、補助具費などが、項目ごとに金額と根拠とともに記載されているか |
| 逸失利益の計算過程が分かるか | 基礎収入の金額とその出典(どの統計のどの区分か)、労働能力喪失率、働き始める年齢と終える年齢、用いた中間利息控除の係数が示されているか |
| 将来の費用が検討されているか | 将来介護費、将来治療費、リハビリテーション費、補助具・装具の交換費、住宅改修費などが検討されているか。検討していない場合はその理由 |
| 本人の損害と保護者の損害が分かれているか | お子さま本人の慰謝料・逸失利益・将来介護費と、保護者の付添費・休業損害・近親者固有の慰謝料が混ざっていないか |
| 控除の根拠が示されているか | 既払金、自賠責保険からの支払額、労災保険給付、過失相殺の割合とその理由 |
| 清算条項の文言 | 「本件に関し他に何らの債権債務がないことを相互に確認する」といった条項の有無と、将来の増悪や未確定の事項に関する留保の有無 |
大人の事案と何が違うのか
「後遺症」と「後遺障害」、そして症状固定
日常会話でいう「後遺症」は、治療後も残った症状全般を指します。これに対して、損害賠償や自賠責保険の実務でいう「後遺障害」は、一定の基準にあてはめて等級として評価されたものを指します。症状が残っていても等級が認定されないことはありますし、等級が認定されたからといって、請求できる金額が自動的に決まるわけでもありません。
「症状固定」は、治療を続けても症状の改善が見込めなくなった状態を指す考え方で、後遺障害の評価はこの時点を基準に行われます。もっとも、その時期は、保険会社から治療費の打切りを打診されたことで当然に決まるものではありません。医学的な経過の評価と、損害賠償上どの時点を基準とするかという評価は分けて考える必要がありますので、判断に迷うときは主治医の意見を確認してください。
自賠責保険の枠組みと、民事上の損害算定は別のものです
自賠責保険には、金融庁・国土交通省の告示(平成13年金融庁・国土交通省告示第1号)による「支払基準」があり、逸失利益や慰謝料の算定方法が定型的に定められています。これは自賠責保険から支払う金額を決めるための基準であって、裁判所が民事上の損害額を判断する際の基準とは異なります。
自賠責保険には限度額もあります。国土交通省の案内によれば、被害者1名につき、傷害による損害は120万円、後遺障害による損害は、介護を要する後遺障害(自動車損害賠償保障法施行令別表第一)の第1級が4,000万円・第2級が3,000万円、それ以外の後遺障害(同別表第二)が第1級3,000万円から第14級75万円まで、死亡による損害は3,000万円です。この限度額は民事上の損害額の上限ではなく、これを超える部分は任意保険会社や加害者本人への請求で回収を検討することになります。
成長の途中であることが、評価を難しくします
大人であれば、事故前の収入や職業から将来の収入をある程度推定できます。お子さまの場合、収入も職業も学歴もまだ決まっていません。さらに、進級・進学、身体の成長、義肢や装具の交換の必要、脚長差、神経や認知機能への影響などが、症状固定の後になって具体化することがあります。すべてのけがでそうなるわけではありませんが、成長に伴う変化が想定される事案では、その点をどう織り込むかを主治医の意見も踏まえて検討することになります。
子どもの交通事故で確認する損害項目
損害項目は、「いつの損害か」と「誰の損害か」の二つの軸で整理すると、混乱しにくくなります。
| 区分 | 主な項目 | 留意点 |
|---|---|---|
| 治療中(症状固定まで)に生じる本人の損害 | 治療費、入院雑費、通院交通費、装具・器具費、入通院慰謝料、付添看護費 | 付添看護費は、症状固定より後の将来介護費とは別の項目として整理します |
| 症状固定後の本人の損害 | 後遺障害慰謝料、後遺障害逸失利益、将来介護費、将来治療費・リハビリテーション費、補助具・装具の交換費、消耗品費、住宅改修費、車両改造費 | 将来の費用は、必要性、内容、単価、数量、交換の周期、期間を費目ごとに裏づけます |
| 保護者に関係する損害 | 付添いのための休業損害、通院付添費、近親者固有の慰謝料、保護者が立て替えた費用 | 同じ時間・同じ負担を、付添費と休業損害と将来介護費とで重ねて計上しないよう整理します |
近親者固有の慰謝料について、民法第711条は「他人の生命を侵害した者は、被害者の父母、配偶者及び子に対しては、その財産権が侵害されなかつた場合においても、損害の賠償をしなければならない」と定めており、条文上は生命が侵害された場合を対象としています。後遺障害が残った場合に保護者固有の慰謝料が認められるかどうかは、これとは別に裁判実務上の判断枠組みに従って検討されます。等級が重ければ当然に認められるものでも、両親に同額が認められるものでも、定額が決まっているものでもありません。
働いていない子どもの後遺障害逸失利益
四つの要素と、子どもの事案で判断が分かれる点
後遺障害逸失利益の基本的な考え方
基礎収入 × 労働能力喪失率 × 労働能力喪失期間に対応する中間利息控除の係数
お子さまの事案では、この式の一つひとつが「まだ決まっていないもの」を評価する作業になります。
この式そのものや中間利息控除の仕組みについては、別のコラムで扱っています。全体像は逸失利益とは何か、中間利息控除の考え方を確認するを、計算手順の詳細は後遺障害逸失利益の計算方法と喪失率・喪失期間を確認するをご覧ください。ここでは、子どもの事案に固有の分岐点に絞ります。
基礎収入は、どの表・どの統計のどの区分を使うのか
まず自賠責保険の枠組みでは、支払基準が「幼児・児童・生徒・学生・家事従事者」について、原則として「全年齢平均給与額の年相当額」を用いると定めています。この全年齢平均給与額は支払基準の別表Ⅲに掲げられており、2026年9月時点で国土交通省が公表している表では、男女を通じて平均月額298,400円とされています。年額に換算すると3,580,800円です。
ここで見落とされやすい点があります。同じ支払基準でも、すでに働いている方などに用いる別表Ⅳ「年齢別平均給与額」は男・女の区分で作られており、男女共通の欄がありません(たとえば18歳の欄は男が193,200円、女が171,100円です)。どの表を使うかによって男女の扱いが変わる、ということです。
なお、この記事は、事故のときまたは症状固定のときにおおむね18歳未満で、まだ働いていないお子さまを主に想定しています。すでにアルバイトなどで働いている未成年の方、18歳以上の高校生・大学生、家事に従事している方は、用いる表も、基礎収入の考え方や働き始める時期の見方も変わり得ます。もっとも、まだ本格的に働いていないという点では共通する論点も多く、この記事の考え方が当然に及ばないというわけでもありません。在学の状況と就労の状況に応じて、個別に検討する必要があります。
これに対して、裁判で争う場合の基礎収入は、支払基準ではなく、厚生労働省の賃金構造基本統計調査(賃金センサス)の数値を用いて検討するのが一般的です。このとき、男女計か男女別か、学歴計か学歴別か、全年齢か年齢別かの選択が争点になり、結論を大きく左右します。令和7年賃金構造基本統計調査(令和8年3月24日公表)による一般労働者の所定内給与額(令和7年6月分)は、男女計が340.6千円、男が373.4千円、女が285.9千円で、男を100としたときの男女間賃金格差は76.6とされています。年少の女児について女性の平均賃金をそのまま用いれば、将来にわたってこの差を固定することになります。そのため、年少者については男女計の全労働者平均賃金を用いる判断が示されることがあります。
参考になる裁判例として、大阪高等裁判所令和7年1月20日判決(令和5年(ネ)第619号)があります。先天性の両側感音難聴があった小学校5年生が死亡した事案について、同判決は、平成30年賃金センサス第1巻第1表の企業規模計・男女計・学歴計・全年齢の全労働者平均賃金を基礎収入とし、聴覚障害を理由に基礎収入を減額することを否定しました。ただし、これは死亡逸失利益に関する個別の事案の判断であり、後遺障害逸失利益の一般的なルールとしてそのままあてはまるものではありません。死亡事故の逸失利益については死亡事故の逸失利益と生活費控除の考え方を確認するで扱っています。
「男の子だから男性平均、女の子だから女性平均」「女の子は必ず男女計」「大学進学を希望しているから必ず大卒平均」といった機械的なあてはめはできません。どの統計のどの区分を用いるかは、性別、年齢、在学状況、進学の可能性、事案の内容、参照する裁判例によって変わります。用いる統計の調査年、表番号、企業規模、学歴、男女、年齢の各区分と、月額から年額への換算方法まで含めて、資料を確認したうえで判断する必要があります。
大学進学や希望職種を前提にできるか
大学卒業を前提とした平均賃金や、特定の職種の賃金を基礎収入とするには、その進路に進んだ蓋然性を示す必要があります。本人や保護者の希望だけでは足りませんし、保護者の学歴や職業だけを理由に当然に認められるものでもありません。他方で、まだ幼く進路が具体化していないことだけを理由に、低い水準に固定されるべきものでもありません。事故前の成績や模擬試験の推移、進路希望調査と面談の記録、推薦・受験に関する資料、在籍校の進学実績、資格取得に向けた学習の記録、継続して取り組んでいた活動の記録などを組み合わせて、事故前の状況を具体的に描くことになります(後掲の表をご覧ください)。
統計についても補足します。文部科学省の令和7年度学校基本調査(確定値、令和7年12月26日公表)によれば、大学・短期大学等への進学率は61.4%、大学(学部)への進学率は58.6%です(いずれも過年度卒業者を含みます)。もっとも、これは全国の平均であって、お子さま個人が進学したであろうことを直接証明する資料ではなく、補助的な材料として扱われます。
働き始める時期、終える時期と、中間利息控除の基準時
子どもの逸失利益は、症状固定の時点ではまだ収入が発生していません。そのため、「働き始めるまでの期間」と「働き始めてから働き終えるまでの期間」を分けて考える必要があります。ここを整理せずに計算すると、就労を始める前の期間を二重に含めてしまう誤りが起こります。
自賠責保険の支払基準は、この点を係数の作り方で明示しています。別表Ⅱ-1の注記は、18歳未満の方(すでに働いている方および家事従事者を除きます)について、就労可能年数を「67歳(就労終期)とその者の年齢との差から、18歳(就労始期)とその者の年齢との差を控除したもの」とし、ライプニッツ係数を「67歳との差に対応する係数から18歳との差に対応する係数を控除したもの」としています。裁判実務でも、就労の始期と終期をどこに置くかを明示したうえで、同じ考え方で開始前の期間を控除します。
中間利息控除に用いる利率は、民法第417条の2第1項により「その損害賠償の請求権が生じた時点における法定利率」によります。民法第722条第1項は、この規定を不法行為による損害賠償に準用しています。そして、同一の事故により生じた同一の身体傷害を理由とする損害は不法行為の時に発生すると解されており、この点は最高裁判所第一小法廷令和2年7月9日判決も、最高裁判所昭和48年4月5日第一小法廷判決(民集27巻3号419頁)を引用して確認しています。つまり、用いる利率は事故の時期によって決まります。
法務省の案内によれば、法定利率は、令和2年3月31日までが年5%、令和2年4月1日以降は各期とも年3%です。令和8年4月1日から令和11年3月31日までの第3期についても、基準割合が年0.4%で変動幅が1%に満たないため、年3%が維持されています。
2026年9月時点で国土交通省が公表している別表Ⅱ-1の係数は、年3%で計算した数値と一致します(本記事の作成にあたり、0歳・5歳・10歳・12歳・15歳・17歳の各係数を再計算して照合しました)。事故日が令和2年3月31日以前の事案では年5%が適用されるため、用いる係数が異なります。「現在は一律に年3%」と考えて計算すると誤りになる場合がありますので、事故日に対応する法定利率を必ず確認してください。
労働能力喪失率と期間は、等級だけでは決まりません
自賠責保険の支払基準の別表Ⅰでは、労働能力喪失率が、第1級から第3級まで100%、第4級92%、第5級79%、第6級67%、第7級56%、第8級45%、第9級35%、第10級27%、第11級20%、第12級14%、第13級9%、第14級5%と定められています。裁判実務でもこの表は検討の出発点として参照されますが、そのとおりの割合が当然に採用されるわけではありません。
お子さまの事案では、障害の部位と程度、成長に伴う変化、受けられる教育の範囲、選択できる職業の幅、補助具の利用状況、就労の場面で受けられる配慮や支援の状況などを踏まえて個別に検討されます。障害者雇用の制度や合理的配慮の仕組みがあることだけを理由に、逸失利益がない、あるいは当然に低くなると考えることはできません。他方で、抽象的に不利益がありうるというだけで、働き終えるまでの全期間について収入が減少すると断定することもできません。いずれの方向でも、障害が具体的にどのような制限をもたらすのかを資料で示す必要があります。
仕組みを理解するための仮定計算
以下は、計算の仕組みを理解していただくための仮定の計算であり、実際の解決事例ではありません。この条件であればこの金額を受け取れるという意味でもありません。仮定を一つ変えれば結果は変わります。
事故日を令和8年5月1日(適用される法定利率は年3%)、症状固定時の年齢を10歳、認定された等級を自動車損害賠償保障法施行令別表第一の第1級(介護を要する後遺障害)と仮定し、労働能力喪失率を100%として、自賠責保険の支払基準にあてはめると次のようになります。
| 項目 | 用いる数値 | 根拠 |
|---|---|---|
| 年間収入額 | 3,580,800円(298,400円×12か月) | 支払基準別表Ⅲ「全年齢平均給与額(平均月額)」。同表は平成30年賃金構造基本統計調査第1表(産業計、企業規模10~999人、学歴計、臨時給与を含む)を基礎に補正したもの |
| 労働能力喪失率 | 100% | 支払基準別表Ⅰ(第1級) |
| ライプニッツ係数 | 20.131 | 支払基準別表Ⅱ-1のうち18歳未満の方に適用する表(すでに働いている方・家事従事者を除く)の10歳の欄。67歳に対応する係数から18歳に対応する係数を控除したもの |
| 逸失利益 | 72,085,084円(円未満切捨て) | 3,580,800円×1.00×20.131 |
| 後遺障害慰謝料 | 16,500,000円 | 支払基準の別表第1第1級の慰謝料額1,650万円(被扶養者がいるときは200万円を加算) |
| 合計 | 88,585,084円 | 逸失利益と慰謝料の合計 |
| 自賠責保険の限度額 | 40,000,000円 | 施行令別表第一第1級の保険金額4,000万円 |
この仮定では、支払基準にあてはめた合計額が約8,858万円であるのに対し、自賠責保険から支払われるのは限度額の4,000万円までです。差額の約4,858万円は、任意保険会社や加害者本人への請求で検討することになります。しかも、これは自賠責保険の枠組みにあてはめた数字にすぎず、将来介護費や将来治療費は含まれていません。裁判で争う場合には基礎収入の区分や喪失率・期間の評価が改めて問題になりますので、この金額がそのまま民事上の損害額になるわけでもありません。
逸失利益は、基礎収入、喪失率、期間、係数のどれか一つの評価が変わるだけで金額が大きく動きます。保険会社から示された計算過程の各要素に根拠があるかどうかは、資料を確認することで検討できます。当事務所では、交通事故について初回のご相談を無料でお受けしています(事前のご予約が必要です。なお、弁護士費用特約や法テラスの扶助制度が利用でき、ご本人の負担が生じない場合には、相談料をお願いすることがあります)。
進学・就労への影響を何で裏づけるか
学校の資料をたくさん集めれば認められる、というものではありません。大切なのは、次の流れが資料でつながっているかどうかです。
立証で描くべき流れ
事故・受傷 → 身体または認知機能の制限 → 学習、出席、移動、実習、部活動、生活上の支障 → 進路選択・資格取得・職種選択への具体的な影響 → 就労可能性または収入への影響
この流れのどこかが切れていると、「成績が下がったのは事故のせいとはいえない」「進学をやめたのは本人の選択である」といった主張を受けやすくなります。資料は「何を証明するために集めるのか」を意識して整理してください。次の表は、その対応関係を整理したものです。
| 資料 | 主に何を示すために用いるか |
|---|---|
| 診断書、診療録、画像、検査結果、リハビリテーションの評価、予後に関する主治医の意見 | 障害の内容と程度、今後の見通し。事故と症状の結びつきを示す中核の資料です |
| 作業療法・理学療法・言語聴覚療法の評価、職業能力の評価 | 日常生活動作や作業能力の水準を、客観的な指標で示すこと |
| 事故前後の通知表、成績表、定期試験・模擬試験の結果、出欠記録 | 事故の前後で学習・出席の状況がどう変化したかという事実(単独では因果関係の証明になりません) |
| 担任、養護教諭、特別支援教育の担当者などの観察記録、連絡帳 | 学校生活で現れている具体的な支障(移動、板書、集中、疲労、実習の可否など) |
| 進路希望調査、三者面談記録、推薦・受験・合否に関する資料 | 事故前に具体化していた進路と、事故後にそれがどう変わったか |
| 部活動・競技成績・資格・習い事・受賞歴の記録 | 継続して取り組んでいた活動の水準と、事故後の継続の可否 |
| 家庭での事故前後の比較記録、介護日誌、写真、動画、出来事の記録 | 医療機関では現れにくい生活場面での支障と、家族が負っている負担の実際 |
なお、成績が下がった、留年した、部活動や進学をあきらめた、という事実そのものが、直ちに独立した損害になるわけではありません。それらは、進路の蓋然性や労働能力への影響を判断するための材料です。現実に追加で支出した教育費などがある場合には、その費用が別の損害項目として検討されます。逸失利益と重ねて評価していないかという点も、あわせて整理する必要があります。
頭部を打った後に高次脳機能障害が疑われる場合は、症状の現れ方、学校での気づき方、学校との連携の仕方に固有の注意点があります。詳しくは子どもの高次脳機能障害と、学校での変化・記録の残し方を確認するをご覧ください。
子どもの将来介護費・付添費
通常の養育と、事故による追加の介護を分ける
子どもは、事故がなくても年齢に応じた養育と見守りを必要とします。そのため将来介護費では、「その年齢の子どもであれば通常必要な養育・見守り」と、「事故によって追加で必要になった介護・監視・声かけ・移動の支援・医療的なケア」とを区別して主張する必要があります。相手方からは、まさにこの点を突いて「通常の子育ての範囲である」という主張がされます。
区別を示すために有効なのは、時間と場面を具体的に記録することです。何時から何時まで、どのような場面で、誰が、どのような介助をしたのか。同じ年齢の子どもであれば一人でできることのうち、何ができないのか。付き添わなかった場合にどのような危険や支障があるのか。こうした記録が医師の意見や機能評価と結びついて、必要性と内容の裏づけになります。
なお、症状固定より前の付添看護費と、症状固定より後の将来介護費は、別の損害項目です。自賠責保険の支払基準は、傷害による損害の看護料について、入院中は12歳以下の子どもに近親者等が付き添った場合に1日4,200円、自宅看護料または通院看護料は同じ場合に1日2,100円と定めています。これは自賠責保険の定型的な基準であり、裁判実務で認められる金額とは異なります。
近親者による介護、職業介護、施設の利用をどう組み合わせるか
現在は保護者が無償で介護しているという事実は、将来の介護費用をゼロにする理由になりません。近親者による介護を続ける前提なのか、訪問介護やデイサービスを組み合わせるのか、職業介護人に委ねるのか、施設の利用を予定するのか。そのそれぞれについて、必要な時間、頻度、単価、開始時期、終期を、医師の意見、機能評価、介護日誌、生活状況、事業者の見積書などで裏づけます。近親者による介護についても経済的な評価が認められうるという考え方は裁判実務で定着していますが、日額や単価が全国一律に決まっているわけではなく、地域の実情、介護の内容と時間、介護者の負担の程度によって判断されます。
親が高齢になった後をどう見込むか
重い後遺障害が残った事案で、保護者が最も心配されるのが「親が介護できなくなった後」です。損害算定の場面でも、保護者の年齢、健康状態、就労の状況、きょうだいの有無、介護を続けられる見込みは重要な要素になります。もっとも、「家族が将来も無期限に介護を続ける」という前提も、「直ちに全面的に職業介護へ移行する」という前提も、当然に採用されるものではありません。何歳ころまで近親者による介護を想定し、その後どのような体制へ移行するのか、その体制にいくらかかるのかを、根拠のある資料で組み立てる必要があります。
期間の算定では平均余命の考え方が問題になります。注意が必要なのは、「平均寿命」と「その年齢の人の平均余命」は別のものだという点と、どの生命表を用いるのかという点です。厚生労働省の完全生命表は第23回(令和2年)が最新で、簡易生命表は令和7年のものまで公表されています。これに対し、自賠責保険の支払基準の別表Ⅱ-1・別表Ⅱ-2は第22回生命表(完全生命表)を基礎としており、国土交通省の表をそのまま「最新の統計による」と説明することはできません。また、重い障害があることを理由に余命が短いと安易に決めつけることもできず、個別の医学的な予後の評価とは分けて検討する必要があります。
将来治療費・補助具・住宅改修などの扱い
将来治療費、リハビリテーション費、義肢・装具・車椅子・補聴器・意思伝達装置などの補助具とその交換費、おむつなどの消耗品費、住宅改修費、車両改造費、通学や移動の支援に要する費用、障害のために追加で必要となる教育・訓練費、成年後見等の利用に関する費用は、いずれも「将来介護費」に一括りにせず、費目ごとに検討します。費目の全体像と裏づけ資料については重度の後遺障害における将来介護費と成年後見の考え方を確認するで扱っています。
子どもの事案に固有の注意点は三つあります。第一に、成長に伴って義肢・装具・車椅子の寸法が合わなくなるため、交換の周期と回数を年齢に応じて見込む必要があります。第二に、通常の教育費・住居費・車両費との差額を意識する必要があります。障害があるために追加で必要になった部分が損害であり、家族の希望による部分まで当然に請求できるわけではありません。第三に、成年に達した後の生活の場や支援体制まで見通す必要があります。いずれについても、複数の見積書、設計図面、主治医や理学療法士等の意見、使用実績、交換の計画を添えて、必要性と金額の相当性を示すことになります。
一時金で受け取るか、定期金で受け取るか
将来の損害を、示談または判決の時点で一括して受け取る方法(一時金賠償)のほかに、定期的に支払いを受ける方法(定期金賠償)があります。
最高裁判所第一小法廷令和2年7月9日判決(平成30年(受)第1856号、民集74巻4号1204頁)は、事故当時4歳で脳挫傷・びまん性軸索損傷等の傷害を負い、高次脳機能障害の後遺障害により労働能力を全部喪失した被害者の事案について、被害者が後遺障害による逸失利益について定期金による賠償を求めている場合において、損害賠償制度の目的および理念に照らして相当と認められるときは、その逸失利益は定期金による賠償の対象となる旨を判示しました。また、特段の事情がない限り、就労可能期間の終期より前の被害者の死亡時を定期金による賠償の終期とすることを要しないとしています。
この判決は、後遺障害による逸失利益についての判断です。すべての将来損害が定期金の対象になるという判断ではありませんし、将来介護費について同じ結論を示したものでもありません。将来介護費の終期の考え方は別に検討する必要がありますので、混同しないようご注意ください。
民事訴訟法第117条第1項は、定期金による賠償を命じた確定判決について、口頭弁論終結後に後遺障害の程度、賃金水準その他の損害額の算定の基礎となった事情に著しい変更が生じた場合に、判決の変更を求める訴えを提起できると定めています。もっとも、これは判決についての制度であり、示談で定期金の支払いを合意する場合に当然に適用されるわけではありません。示談で定期金を選ぶ場合は、支払いの確実性、物価や賃金の変動、管理の方法、終期、事情が変わったときの見直し、担保、支払う側の信用の状況を、契約の条項としてどう定めるかを個別に検討することになります。
相手方から想定される主張と、確認しておく資料
示談交渉や訴訟では、次のような主張がされることがあります。あらかじめ争点と必要な資料を把握しておくと、落ち着いて対応しやすくなります。
| 想定される主張 | 争点 | 確認・準備する資料 |
|---|---|---|
| 収入がないので逸失利益は不明または低額である | 未就労者の基礎収入の決め方 | 用いる賃金統計の調査年・表番号・区分、支払基準の該当箇所 |
| 大学進学や希望職種の蓋然性が乏しい | 進路の蓋然性 | 成績、模擬試験、進路希望調査、面談記録、在籍校の進学実績 |
| 等級どおりの労働能力喪失が就労終期まで続くとは限らない | 喪失率と喪失期間 | 主治医の予後の意見、機能評価、想定される職種への影響 |
| 成績や行動の変化は事故と関係がない | 因果関係 | 事故前後の比較資料、受傷内容と症状の結びつきに関する医学的意見 |
| 支援制度や配慮があるので就労上の不利益は小さい | 障害が労働能力に与える影響 | どの作業ができないかの評価、必要な配慮の内容と限界 |
| 親の見守りは通常の子育ての範囲である | 追加介護の有無と範囲 | 時間・場面ごとの介護日誌、同年齢の子どもとの対比、医師の意見 |
| 将来も家族が介護できるので職業介護費は不要である | 将来の介護体制 | 保護者の年齢・健康・就労の状況、移行の時期と体制、事業者の見積書 |
| 住宅改修・車両・補助具の仕様や金額が過大である | 必要性と相当性 | 複数見積り、設計図面、使用実績、交換の周期、通常費用との差額 |
| 平均余命が短い、介護の内容は将来変わる | 期間と内容の見込み | 用いる生命表の特定、個別の医学的予後、段階ごとの介護計画 |
| 公的給付や保険給付と重複している | 損益相殺の範囲 | 給付決定通知、支払明細、制度の根拠、対象期間、支給済みか否か |
| 保護者の休業損害・付添費・介護費が二重計上である | 請求する人と時期の区分 | 時期ごと・請求する人ごとに整理した損害計算書 |
| 既往症・素因・過失割合・既払金による調整が必要である | 減額事由 | 診療録、事故態様に関する資料(実況見分調書等)、既払金の明細 |
これらの主張に対する結論を、一般論として一律に決めることはできません。争点ごとに、どの資料で何を示すかを組み立てていくことになります。
公的給付・保険給付・既払金との関係
自賠責保険、任意保険、人身傷害保険、労災保険、障害年金、独立行政法人自動車事故対策機構(ナスバ)の介護料、各種の福祉給付は、制度の目的、埋め合わせる損害の種類、対象期間、支給済みか将来分か、代位や求償の仕組みが異なります。まとめて損害額から差し引くことも、逆に同じ損害を重ねて足すこともできません。
たとえばナスバの介護料は、自動車事故が原因で脳、脊髄または胸腹部臓器を損傷し、重度の後遺障害のため常時または随時の介護が必要な方を対象とする制度です。2026年9月時点の同機構の案内では、月額の支給範囲は、特Ⅰ種で99,810円から226,330円、Ⅰ種で85,390円から177,950円、Ⅱ種で42,700円から88,980円とされています。対象となるのは訪問介護や訪問看護などのサービス利用費や介護用品の費用で、親族によるサービスの提供は対象外とされ、生計を維持している方の前年の所得による制限もあります。制度ごとに要件と範囲が異なりますので、給付決定通知、支払明細、約款、制度の根拠を確認したうえで、どの損害項目にどう反映するかを検討します。既払金が元本と遅延損害金のどちらにどの順序で充当されるかも、争いになることがあります。
症状固定から示談までの流れと、段階ごとの確認事項
進み方は事案によって異なり、すべての事案で同じ手続が必要になるわけではありません。おおむね次のような段階に分かれます。
| 段階 | 確認しておきたいこと |
|---|---|
| 事故直後 | 診断名と受傷部位の記録、事故態様に関する資料、保険契約の確認(弁護士費用特約の有無を含む) |
| 治療・リハビリテーション・学校復帰 | 症状の推移と検査の記録、学校での支障の具体化、担任・養護教諭等との情報共有、付添いの記録 |
| 症状固定の検討 | 主治医の意見、成長に伴う変化の見込み、固定の時期を早めることの影響 |
| 後遺障害診断書の作成 | 残存する症状と検査結果が漏れなく記載されているか、日常生活・学校生活への影響が記載されているか |
| 申請と結果の確認 | 被害者請求と事前認定のどちらで進めるか、添付資料の内容、認定理由、追加できる資料の有無、異議申立てや紛争処理機構への申請の要否 |
| 損害計算・交渉 | 損害項目の網羅性、算定の根拠、控除項目、遅延損害金の取扱い、解決までに要する期間の見込み |
| 示談 | 清算条項の文言、留保条項の要否、支払方法、受領する口座と管理の方法 |
保護者に保管しておいていただきたい書類
前掲の表は「何を証明するために使う資料か」を整理したものです。これに対して次の書類は、時間が経つほど手に入れにくくなるものや、後から金額の裏づけとして必要になるものです。時系列で保管しておいてください。
- 通院・入院の日程が分かる資料、通院交通費の記録と領収書
- 装具、車椅子、住宅改修、車両改造などの見積書・領収書と、耐用年数が分かる資料
- 家庭での介護日誌(日付、時間帯、介助の内容、要した時間、困った場面を具体的に)
- 保険会社からの通知、支払明細、損害額の提示書とその内訳
- 労災保険、障害年金、福祉サービス、ナスバの介護料などの申請書類と決定通知
- ご自身とご家族の自動車保険の証券(弁護士費用特約、人身傷害保険の有無と範囲)
- 学校から配付された資料のうち、返却や廃棄の予定があるもの(答案、進路資料、連絡帳など)
国土交通省は、事故の記録を残し、支援制度を知るための資料として「交通事故被害者ノート」を公表しています。何から書き留めればよいか迷われる場合の出発点になります。
示談前に確認したい法定代理・時効・清算条項
本人の権利と、親権者による代理
損害賠償請求権のうち、治療費、慰謝料、逸失利益、将来介護費などはお子さま本人に帰属します。これに対して、保護者が付添いのために仕事を休んだことによる損害や、保護者固有の慰謝料は、保護者自身の請求です。両者は分けて整理する必要があります。
未成年のお子さまについては、民法第5条第1項が「未成年者が法律行為をするには、その法定代理人の同意を得なければならない」と定め、民法第824条本文が「親権を行う者は、子の財産を管理し、かつ、その財産に関する法律行為についてその子を代表する」と定めています。訴訟については、民事訴訟法第31条本文が「未成年者及び成年被後見人は、法定代理人によらなければ、訴訟行為をすることができない」と定めています。
親子の利益が対立する場面
民法第826条第1項は、親権を行う父または母とその子との利益が相反する行為について、親権を行う者は、子のために特別代理人を選任することを家庭裁判所に請求しなければならないと定めています。交通事故では、保護者自身が運転していた場合、保護者にも固有の請求がある場合、限られた賠償金を親子でどう配分するかが問題になる場合などに、利益が対立しうる場面が生じます。
もっとも、交通事故の示談で常に特別代理人が必要になるわけではありませんし、常に不要というわけでもありません。誰が誰に対して何を請求するのか、示談の内容が親子のどちらの利益にどう影響するのかによって判断が変わります。判断に迷う場合は、示談書に署名する前に確認してください。
また、お子さまが手続の途中で成年に達した場合には、本人が自ら手続に関与することになりますので、委任や示談の権限をどう整理するかを確認する必要があります。民法第4条は「年齢十八歳をもって、成年とする」と定めています。なお、成年に達した後、重い障害があることだけを理由に成年後見が自動的に始まるわけではありません。本人の判断能力と必要な支援の内容に応じて、後見・保佐・補助のいずれが適切か、そもそも利用するかどうかを個別に検討することになります。高額の賠償金はお子さま本人の財産ですので、その管理をどうするかも、示談の前後を通じた検討事項です。
期間制限
生命または身体を害する不法行為による損害賠償請求権については、民法第724条が「被害者又はその法定代理人が損害及び加害者を知った時から三年間行使しないとき」および「不法行為の時から二十年間行使しないとき」に時効によって消滅すると定め、民法第724条の2が、人の生命または身体を害する不法行為の場合について、右の「三年間」を「五年間」とする旨を定めています。
これとは別に、自賠責保険の被害者請求等については、自動車損害賠償保障法第19条が「被害者又はその法定代理人が損害及び保有者を知つた時から三年を経過したとき」に時効によって消滅すると定めています。民法上の五年と自賠法上の三年は別のものですので、混同しないよう注意が必要です。国土交通省の案内では、被害者請求の期限について、傷害は事故の発生から3年、後遺障害は症状固定から3年、死亡は死亡から3年と整理されており、請求が遅れる場合の時効更新の制度についても案内されています。
「未成年だから時効は進まない」と考えるのは正確ではありません。民法第158条第1項は、時効の期間の満了前六箇月以内の間に未成年者に法定代理人がないときについて完成猶予を定めていますが、法定代理人がいる場合を含めて一律に時効の進行が止まるという規定ではありません。誰の認識を基準にするかという点も含め、起算点は事案ごとに検討が必要です。
なお、一般財団法人自賠責保険・共済紛争処理機構の案内では、同機構への紛争処理の申請を行っても時効は中断されない旨が明示されています。同機構への申請自体も、一括払の交渉が続いている間はいつでも可能ですが、それ以外の場合は支払通知を受け取った日から3年以内とされています。申請中であることを理由に安心せず、期間の管理は別に行ってください。期限が近いと感じられる場合は、早めにご確認ください。
清算条項と、示談後の追加請求
示談書や免責証書に「本件に関し他に何らの債権債務が存在しないことを相互に確認する」といった清算条項が入っていると、後から損害項目の漏れに気づいても、追加の請求が難しくなる場合があります。将来の増悪や、症状固定の時点では確定していない事項について留保を付ける方法もありますが、簡易な定型文を一行加えれば安全になるというものではありません。どの範囲を留保するのか、どのような条件で追加請求できるのかを、文言のレベルで確認する必要があります。
示談案全体の点検の仕方については、交通事故の示談案で確認すべき項目を見るもあわせてご覧ください。
弁護士に相談するタイミング
ご相談によって結果が保証されるわけではありません。もっとも、資料を確認することで、損害項目の網羅性、算定の根拠、必要な証拠、申請の方針、示談条項の内容を整理し、次に何をすべきかを検討することはできます。次のような場面が、ご相談を検討していただきやすい時期です。
- 事故直後(記録の残し方と保険契約の確認を整理したいとき)
- 保険会社から症状固定や治療費支払いの打切りを打診されたとき
- 後遺障害診断書の作成を医師に依頼する前
- 後遺障害の認定結果を受け取り、内容に疑問があるとき
- 将来の介護体制や住宅改修などの計画を立てる段階
- 保険会社から損害額の提示を受けたとき
- 示談書に署名する前
よくあるご質問
子どもに収入がなくても、後遺障害逸失利益を請求できますか。
収入がないことだけを理由に否定されるものではありません。自賠責保険の支払基準にも、幼児・児童・生徒・学生について全年齢平均給与額の年相当額を用いる定めがあり、裁判実務でも将来の収入を前提に算定されます。もっとも、金額は基礎収入、労働能力喪失率、期間の評価によって変わりますので、資料を確認したうえで判断する必要があります。
幼児や小学生の基礎収入は、何をもとに決まりますか。
自賠責保険では支払基準の別表Ⅲ「全年齢平均給与額」が用いられます。裁判で争う場合は、厚生労働省の賃金構造基本統計調査の数値を用いて検討するのが一般的で、男女計か男女別か、学歴計か学歴別か、全年齢か年齢別かの選択が争点になります。用いる統計の調査年と各区分、年額への換算方法まで確認が必要です。
将来の大学進学を前提に、大卒の平均賃金を使えますか。
希望だけでは足りず、その進路に進んだ蓋然性を示す資料が必要になります。事故前の成績や模擬試験の結果、進路希望調査、面談記録、在籍校の進学実績、資格取得に向けた学習の記録などが材料になります。全国の進学率の統計は補助的な資料にとどまり、保護者の学歴や職業だけを理由に認められるものでもありません。
男の子と女の子で、逸失利益の計算は違うのですか。
機械的に決まるものではありません。自賠責保険の支払基準では、幼児・児童・生徒・学生に用いる別表Ⅲは男女を通じて一つの金額ですが、すでに働いている方などに用いる別表Ⅳは男・女の区分です。裁判で争う場合、年少者について男女別の平均賃金を用いると将来の賃金格差を固定してしまうという問題があり、男女計の全労働者平均賃金を用いる判断が示されることがあります。
親が行う見守りや介護も、将来介護費になりますか。通常の子育てとの違いは何ですか。
保護者が無償で行っていることは、将来介護費を否定する理由になりません。ただし、その年齢の子どもであれば通常必要な養育・見守りと、事故によって追加で必要になった介護・監視・支援とを分けて示す必要があります。時間帯と場面ごとの介護日誌、同じ年齢の子どもとの対比、医師の意見などが裏づけになります。
保護者の減収と、付添費・介護費を両方請求できますか。
お子さま本人の損害と保護者固有の損害は別のものですので、それぞれ請求の対象になり得ます。もっとも、同じ時間・同じ負担について、付添費と休業損害と将来介護費を重ねて計上することはできません。時期ごと・請求する人ごとに整理した損害計算書を作って確認することをおすすめします。
進学や就職の前で、影響がまだ分からない段階でも示談してよいですか。
清算条項のある示談に応じると、後から損害項目の漏れに気づいても追加請求が難しくなる場合があります。まだ確定していない事項がある場合は、留保の要否と文言、あるいは示談の時期そのものを検討する必要があります。署名の前に一度ご確認いただくことをおすすめします。
子どもが未成年であれば、時効は進まないと考えてよいですか。
そうとは限りません。民法第158条第1項は、時効の期間の満了前六箇月以内の間に未成年者に法定代理人がないときの完成猶予を定めるものであり、未成年であること自体で一律に時効の進行が止まるわけではありません。自賠責保険の請求権については自動車損害賠償保障法第19条の三年の時効もありますので、期間の管理は個別に確認してください。
まとめ
- 収入がないことは、子どもの後遺障害逸失利益を否定する理由になりません。金額は、基礎収入、就労の始期と終期、労働能力喪失率、中間利息控除の係数の評価で大きく動きます。
- 中間利息控除に用いる利率は事故の時期によって決まります。事故日に対応する法定利率と、それに対応する係数を確認してください。
- 自賠責保険の支払基準による算定と、民事上の損害算定は別のものです。自賠責保険の限度額は、損害額の上限ではありません。
- 進学や職種の見通しは、事故から機能の制限、学校・生活上の支障、進路への影響、収入への影響という流れが資料でつながっているかどうかで評価されます。将来介護費では、通常の養育と事故による追加の介護を分けて示すことが出発点になります。
- 本人の損害と保護者固有の損害、症状固定前の付添費と症状固定後の将来介護費を区別し、二重計上を避けたうえで、示談書に署名する前に損害項目の漏れ、控除の根拠、清算条項の文言を確認してください。
お子さまの後遺障害について、保険会社から示された金額や損害項目に迷いがある場合、資料を確認することで、損害項目の網羅性、算定の根拠、必要な証拠、示談条項の内容を整理し、対応方針を検討することができます。示談書に署名する前、後遺障害診断書の作成前、認定結果を受け取った直後など、判断が必要となる段階でご相談いただけます。当事務所では、交通事故について初回のご相談を無料でお受けしています(事前のご予約が必要です。なお、弁護士費用特約や法テラスの扶助制度が利用でき、ご本人の負担が生じない場合には、相談料をお願いすることがあります)。
監修者・執筆者
弁護士・公認会計士 藤井貴之
弁護士法人ひょうご支所神戸みらい法律会計事務所(通称 神戸みらい法律会計事務所)代表弁護士・公認会計士。兵庫県弁護士会所属、日本公認会計士協会兵庫会所属。交通事故、遺産相続、労働法務、債務整理、企業法務など、個人・法人双方の法律相談に対応しています。
交通事故の事案では、後遺障害の申請方針、損害項目の整理、逸失利益や将来介護費の算定根拠の検討、示談条項の確認まで、資料に基づいて対応方針を整理するお手伝いをしています。
参考資料
- e-Gov法令検索「民法」(第4条・第5条・第158条・第417条の2・第711条・第722条・第724条・第724条の2・第824条・第826条)法令本文を確認する
- e-Gov法令検索「自動車損害賠償保障法」(第3条・第16条・第19条)法令本文を確認する
- e-Gov法令検索「自動車損害賠償保障法施行令」(別表第一・別表第二)法令本文を確認する
- e-Gov法令検索「民事訴訟法」(第31条・第117条)法令本文を確認する
- 法務省「法定利率について」各期間の法定利率を確認する
- 国土交通省「自賠責保険・共済の限度額と補償内容」限度額と各表を確認する
- 金融庁・国土交通省告示「自動車損害賠償責任保険の保険金等及び自動車損害賠償責任共済の共済金等の支払基準」支払基準(PDF)を確認する
- 国土交通省「労働能力喪失率表」等級別の喪失率(PDF)を確認する
- 国土交通省「就労可能年数とライプニッツ係数表」18歳未満の表(PDF)を確認する
- 国土交通省「全年齢平均給与額・年齢別平均給与額」別表Ⅲ・別表Ⅳ(PDF)を確認する
- 国土交通省「支払までの流れと請求方法」被害者請求の期限を確認する
- 国土交通省「交通事故にあったときには・交通事故被害者ノート」資料をダウンロードする
- 裁判所「最高裁判所第一小法廷令和2年7月9日判決」(平成30年(受)第1856号)判決全文(PDF)を確認する
- 裁判所「大阪高等裁判所令和7年1月20日判決」(令和5年(ネ)第619号)判決全文(PDF)を確認する
- 一般財団法人自賠責保険・共済紛争処理機構「よくあるご質問」申請期限と時効の扱いを確認する
- 独立行政法人自動車事故対策機構(ナスバ)「介護料のご案内」対象となる方を確認する
- 独立行政法人自動車事故対策機構(ナスバ)「受取り金額」区分ごとの月額を確認する
- 厚生労働省「賃金構造基本統計調査 結果の概要」各年の調査結果を確認する
- 厚生労働省「第23回生命表(完全生命表)の概況」最新の完全生命表を確認する
- 厚生労働省「令和7年簡易生命表の概況」最新の簡易生命表を確認する
- 厚生労働省「成年後見はやわかり」制度の概要を確認する
- 文部科学省「学校基本調査 令和7年度 結果の概要」進学率の統計を確認する
本記事は、交通事故により18歳未満のお子さまに後遺障害が残った場合の損害算定と立証に関する一般的な解説であり、個別の事案に対する法的助言を行うものではありません。損害の範囲、算定の方法、期間制限の起算点は、事故の内容、けがの内容、資料の有無その他の個別事情により異なり、結論は事案ごとに変わります。実際のご対応にあたっては、最新の法令・公式情報をご確認のうえ、弁護士にご相談ください。記載の内容は、公的資料を確認した2026年9月10日時点の情報に基づくものであり、その後の法令改正、基準の改定、統計の更新等により変更される場合があります。

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