ある日、税務署から「税務調査に伺いたい」という電話が入ると、多くの経営者や経理担当者は戸惑います。何を準備すればよいのか、顧問税理士に任せておけば足りるのか、もし修正申告を求められたらどう対応すべきか——不安が先に立つのは自然なことです。
この記事では、税務署や国税局から税務調査の事前通知を受けた中小企業を想定し、事前通知の内容、準備しておきたい資料、調査当日の受け答え、修正申告や不服申立ての流れを、国税庁などの公式情報をもとに整理します。結論から言えば、大切なのは「慌てて資料を作り替えないこと」と「対象となる税目・期間・日時などを正確に把握し、顧問税理士や必要に応じて弁護士・公認会計士と連携して準備を進めること」です。
なお、税務や法律上の取扱いは個別の事情によって結論が変わります。具体的な判断は、資料を確認したうえで、顧問税理士や弁護士にご相談ください。
税務調査の事前通知を受けて、何から手をつければよいか整理したい方へ。資料を確認したうえで、当面の準備と対応方針を一緒に整理します。回答や修正申告の前に、一度ご相談ください。
Contents
事前通知で確認したいこと(全体像)
税務調査の事前通知は、通常は電話で行われます。まずは、次の項目を落ち着いて確認し、メモに残してください。担当調査官の氏名や連絡先も控えておくと、その後のやり取りがスムーズです。
| 確認したい項目 | ポイント |
|---|---|
| 調査を開始する日時 | 都合が悪い場合は、合理的な理由を伝えて相談できます(後述)。 |
| 調査を行う場所 | 通常は事業所などです。場所についても相談の余地があります。 |
| 調査の目的 | 実地の調査を行う旨とあわせて示されます。 |
| 対象となる税目 | 法人税、消費税、源泉所得税など、どの税目かを確認します。 |
| 対象となる期間 | 何事業年度分かを確認します。 |
| 対象となる帳簿書類その他の物件 | 用意しておく資料の見当をつけます。 |
| 顧問税理士への通知の有無 | 顧問税理士がいる場合、税務代理権限証書の同意欄の記載により、税理士に通知されることがあります。 |
これらは、国税通則法第74条の9(事前通知)で通知することとされている事項に沿ったものです。通知を受けた段階では、あくまで「これから調査を行う」という連絡であり、内容の当否が決まったわけではありません。
事前通知を受けた後に、売上や経費の記録をさかのぼって作り替えたり、資料を廃棄・改ざんしたりすることは避けてください。事実と異なる説明や資料の隠匿は、かえって重い加算税や長い遡及期間につながるおそれがあります。準備の基本は「作り替え」ではなく、「既にある資料を整理し、事実を正確に説明できるようにすること」です。
税務調査と事前通知の基礎知識
税務調査(任意調査)と質問検査権
一般的な税務調査は、調査官が質問検査権(国税通則法第74条の2ほか)に基づいて、帳簿書類などを確認し、質問を行うものです。納税者には調査に協力することが求められますが、質問に対しては、分かる範囲で正確に答え、分からないことは資料を確認してから回答すれば足ります。
事前通知で通知される事項
実地の調査を行う場合、税務署等は、原則として、あらかじめ「実地の調査を行う旨」と、次の事項を通知することとされています(国税通則法第74条の9第1項)。
①調査を開始する日時 ②調査を行う場所 ③調査の目的 ④対象となる税目 ⑤対象となる期間 ⑥対象となる帳簿書類その他の物件 ⑦その他政令で定める事項
調査を開始する日時や場所について、都合が悪いときは、合理的な理由を付して変更を求めることができ、税務署等はその協議に努めることとされています(同条第2項)。国税庁の法令解釈通達では、病気やけがによる入院、親族の葬儀などの事情、業務上やむを得ない事情などが、合理的な理由の例として挙げられています。具体的にどの程度認められるかは事案により異なります。
事前通知がされない場合があること
事前通知は原則ですが、申告や過去の調査結果の内容、事業内容などに関する情報から、正確な課税標準等の把握が困難になるおそれなどがあると認められる一定の場合には、事前通知をせずに調査が行われることがあります(国税通則法第74条の10)。どのような場合に当たるかは個別の判断によります。
顧問税理士がいる場合の通知
顧問税理士などの税務代理人がいる場合、事前通知は税務代理人にも行われます。税務代理権限証書に「調査の通知に関する同意」が記載されているときは、税理士に対して通知すれば足りることとされています。顧問税理士との間で、事前通知の受け方や同意の有無を確認しておくとよいでしょう。
税務調査のおおまかな流れ
| 段階 | 主な内容 |
|---|---|
| ①事前通知 | 対象税目・期間・日時・場所などの連絡を受ける。 |
| ②打合せ・準備 | 顧問税理士や、必要に応じて弁護士・公認会計士と、資料整理や論点の見当をつける。 |
| ③調査当日 | 調査官の質問に応じ、帳簿書類を提示・提出する。 |
| ④追加のやり取り | 追加資料の提出や、宿題事項の確認を行う。 |
| ⑤調査結果の説明 | 更正決定等をすべきと認められない場合は書面で通知され、指摘がある場合は調査結果の内容が説明されます。 |
| ⑥修正申告の勧奨等 | 指摘に応じる場合は修正申告を検討。応じない場合は更正処分を受けて争う道もあります。 |
| ⑦不服申立て等の検討 | 処分に納得できないときは、再調査の請求・審査請求・更正の請求などを検討します。 |
調査終了の際の手続は、国税通則法第74条の11に定められています。全体の期間や進み方は、事業規模や論点によって異なります。
事前通知後に準備しておきたい主な資料
対象となる税目・期間・事業内容によって必要な資料は変わりますが、法人の調査で確認対象になりやすい資料には、次のようなものがあります。
| 区分 | 主な資料の例 |
|---|---|
| 申告・決算関係 | 申告書、決算書、勘定科目内訳明細書、総勘定元帳、仕訳帳 |
| 売上・仕入関係 | 請求書、見積書、発注書、納品書、契約書、レジ記録 |
| 入出金関係 | 通帳、ネットバンキング明細、現金出納帳 |
| 人件費関係 | 給与台帳、源泉徴収関係資料、役員報酬に関する議事録等 |
| 資産関係 | 棚卸表、固定資産台帳 |
| 消費税関係 | 課税区分の資料、インボイス(適格請求書)関連資料 |
| その他 | 稟議書、重要な取引に関するメール・チャット等 |
上記はあくまで一般的な例で、すべての会社に必ず必要なわけではありません。実際に用意すべき資料は、対象税目・対象期間や、調査官から求められた範囲によって異なります。まずは対象期間の記帳と証憑がそろっているかを確認するところから始めると整理しやすくなります。
中小企業で確認対象になりやすい主な論点
次のような項目は、税務調査で確認対象になりやすい論点です。いずれも「必ず問題になる」というものではなく、事実関係と資料により結論が変わります。
| 論点 | 確認されやすい観点の例 |
|---|---|
| 売上計上時期 | 期末付近の売上が正しい事業年度に計上されているか。現金売上の管理。 |
| 役員給与・役員貸付金 | 役員報酬の決定手続、役員への貸付けや立替えの処理。 |
| 外注費と給与の区分 | 実態が雇用か請負か。区分により源泉徴収や消費税の扱いが変わります。 |
| 交際費・旅費交通費 | 事業関連性、内容や相手方の記録。 |
| 棚卸資産 | 期末在庫の計上漏れや評価。 |
| 減価償却・修繕費 | 修繕費と資本的支出の区分。 |
| 消費税・インボイス | 課税・非課税・不課税の区分、仕入税額控除の要件。 |
| 源泉所得税 | 報酬・給与等の源泉徴収と納付。 |
| 同族会社間取引 | 取引価格や資金移動の合理性。 |
隠蔽や仮装があったと判断されると、通常の加算税に代えて重加算税が課されることがあります。もっとも、重加算税は「隠蔽・仮装」という要件を満たす場合に限られ、単なる見解の相違や計算誤りとは区別されます。指摘を受けた場合でも、「重加算税になる」「重加算税を避けられる」と早合点せず、指摘の内容と根拠資料を確認することが大切です。
弁護士・公認会計士が関与できること
法律面から確認できること
税務調査は税務の手続ですが、役員・従業員・取引先との関係、事実認定、社内での説明の整理、調査後に紛争へ発展し得る場面など、法律的な観点からの整理が有効なことがあります。横領・背任、取引先とのトラブル、粉飾の疑いの指摘など、税務にとどまらない論点が絡む場合は、弁護士による検討が役立つ場面があります。
会計・財務面から確認できること
公認会計士の視点からは、帳簿・仕訳・勘定科目、資金移動、役員関連取引、内部統制などの観点から、資料の整理や事実関係の確認を支援できる場合があります。会計と税務、会社法上の論点を混同せずに整理することが、その後の対応方針の検討に役立ちます。
税務代理・税理士業務との関係(資格の確認が必要)
一方で、税務代理(税務署等に対する申告・申請や、調査・処分に関する主張・陳述の代理・代行)、税務書類の作成、申告の代理は、税理士法上の税理士業務であり、税理士登録をしているか、弁護士が所属弁護士会を経て国税局長に通知(通知弁護士)をしているかなど、資格・権限・委任の範囲を確認する必要があります。したがって、どこまでの対応が可能かは、担当する専門職の資格・登録・通知の状況や委任内容によって異なります。
顧問税理士との連携
顧問税理士がいる場合、弁護士・公認会計士が関与するときも、顧問税理士と対立するのではなく、役割分担と連携を前提とするのが実務的です。日常の税務は顧問税理士が担い、法的な論点や紛争の可能性がある部分を弁護士が、会計・財務の整理を公認会計士が補うといった形が考えられます。
顧問税理士がいる場合でも、法的な論点や紛争の可能性が気になるときは、資料を確認したうえで対応方針を整理できます。顧問税理士との連携を前提に、どの部分をどう準備するかを一緒に検討します。
調査当日の対応で意識したいこと
- 質問には、分かる範囲で正確に答える。
- その場で分からないことは即答せず、資料を確認してから回答する。
- 事実(起きたこと)と評価(どう考えるか)を分けて説明する。
- 求められた資料、回答した内容、次回までの宿題事項を記録しておく。
- 社内で、誰が主に受け答えをするかを決めておく。
- 資料の作り替え・後付け作成・廃棄・口裏合わせはしない。
- 判断に迷う点は、その場で確約せず、顧問税理士や弁護士に確認する。
修正申告を勧められたときに確認したいこと
調査の結果、指摘を受けて修正申告を勧められることがあります。修正申告に応じるかどうかは、指摘内容、根拠となる資料、税額、加算税や延滞税、そして不服申立てとの関係を確認したうえで判断する必要があります。
| 選択肢 | 主な特徴(確認したい点) |
|---|---|
| 修正申告に応じる | 自ら申告内容を訂正する方法です。修正申告をした部分については、原則として不服申立てはできませんが、後日、更正の請求はできます。 |
| 修正申告に応じず更正処分を受ける | 税務署の処分を受けたうえで、その処分に不服があれば、再調査の請求や審査請求などで争う道があります。 |
「修正申告をすれば必ず有利」「争えば必ず不利」と一概には言えません。加算税は、事前通知(調査通知)の前に自主的に修正申告をすれば過少申告加算税がかからず、通知後で調査による更正を予知する前であれば原則5%、調査で指摘を受けた後は原則10%(一定額を超える部分は15%)というように、タイミングによって割合が変わります。延滞税は本税を対象に、法定納期限の翌日から納付日までの期間に応じて課され、その割合は年によって異なります。具体的な金額や割合、手続の期限は、国税庁などの公式情報を確認したうえで判断してください。
更正処分などに納得できない場合の不服申立て(再調査の請求・審査請求)や、更正の請求には、それぞれ期限があります。期限を過ぎると選択肢が狭まるため、処分の通知を受けたら早めに内容を確認し、必要に応じて専門職に相談することをおすすめします。
手続の前に確認したいチェックリスト
事前通知を受けた直後
- 対象税目・期間・日時・場所・調査官の氏名を控えたか。
- 顧問税理士への通知の有無、連携の段取りを確認したか。
- 資料の作り替え・廃棄をしないことを社内で共有したか。
調査日の前
- 対象期間の帳簿・証憑がそろっているか確認したか。
- 受け答えの担当者と、回答方針を決めたか。
- 日程・場所の変更が必要なら、理由を添えて相談したか。
調査当日
- 分かる範囲で正確に答え、不明点は資料確認後に回答したか。
- 提示資料・回答内容・宿題事項を記録したか。
調査結果の説明後・修正申告の前
- 指摘の内容と根拠資料を確認したか。
- 税額・加算税・延滞税の見込みを把握したか。
- 修正申告と更正処分・不服申立ての関係を理解したか。
不服申立ての検討前
- 処分の理由と、争う場合の根拠資料を整理したか。
- 各手続の期限を確認したか。
弁護士への相談を検討したいタイミング
結果を保証するものではありませんが、次のような場面では、資料を確認したうえで対応方針や見通しを整理しやすくなります。
- 税務調査の事前通知を受けた直後で、準備の進め方に不安があるとき。
- 顧問税理士だけでは、法的な紛争や証拠関係の整理に不安があるとき。
- 役員・従業員・取引先との間で、事実関係の説明が分かれているとき。
- 重加算税、仮装・隠蔽、架空取引、横領・背任、粉飾などの疑いを指摘されたとき。
- 修正申告を勧められたが、内容に納得できないとき。
- 更正処分を受け、不服申立てを検討するとき。
よくある質問(FAQ)
税務調査の事前通知が来たら、まず何を確認すべきですか。
対象となる税目・期間、調査を開始する日時・場所、調査官の氏名などを確認し、控えておきましょう。顧問税理士がいる場合は、通知の受け方や連携も確認します。詳細は事案により異なります。
税務調査の日程は変更できますか。
開始日時や場所について、合理的な理由を付して変更を求めることができ、税務署等は協議に努めることとされています(国税通則法第74条の9第2項)。認められる範囲は事情によって異なります。
顧問税理士がいても弁護士に相談できますか。
できます。日常の税務は顧問税理士が担い、法的な論点や紛争の可能性がある部分を弁護士が、会計・財務の整理を公認会計士が補うなど、連携を前提とした関与が考えられます。
弁護士・公認会計士は税務調査で何を支援できますか。
法律面・会計面からの資料整理や事実関係の確認、対応方針の検討などを支援できる場合があります。ただし、税務代理や税務書類の作成などは税理士業務にあたり、資格・登録・通知の状況によって対応できる範囲が異なります。
修正申告を勧められたら応じるべきですか。
指摘内容、根拠資料、税額、加算税・延滞税、不服申立てとの関係を確認したうえで判断する必要があります。応じるかどうかで、その後に争えるかどうかも変わります。個別事情により結論は異なります。
追加で資料を提出するよう言われた場合はどうすればよいですか。
求められた資料の範囲を確認し、既にある資料を整理して提示・提出します。事実と異なる資料を作成することは避けてください。判断に迷う場合は専門職に確認しましょう。
更正処分に納得できない場合は争えますか。
再調査の請求や審査請求などの不服申立ての手続があります。いずれも期限があるため、処分の通知を受けたら早めに内容を確認することが大切です。手続の詳細は公式資料でご確認ください。
相談時には何を準備すればよいですか。
事前通知の内容の控え、申告書・決算書、対象期間の帳簿や主要な証憑があると、状況を整理しやすくなります。手元にある範囲でお持ちください。
まとめ
- 事前通知では、対象税目・期間・日時・場所などを正確に確認し、控えておく。
- 資料は作り替えず、既にある帳簿・証憑を整理して事実を正確に説明できるようにする。
- 顧問税理士がいる場合は連携を前提に、法的・会計的な論点は弁護士・公認会計士の関与も検討する。
- 修正申告は、指摘内容・根拠・税額・加算税・不服申立てとの関係を確認してから判断する。
- 処分に納得できないときは、期限に注意して不服申立てや更正の請求を検討する。
税務調査の事前通知を受けて、準備や対応方針を整理したい方へ。資料を確認したうえで、回答前・修正申告前に確認しておきたい点を一緒に整理します。
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