非上場会社の株式を手放したいのに会社が譲渡を承認しない、合併や株式併合に反対したが会社の示す買取価格に納得できない――株式の買取価格をめぐる争いでは、価格の高い安いを論じる前に、どの制度に基づく買取りかを特定し、その制度の期限を守ることが出発点です。譲渡承認の拒否に伴う買取りと、組織再編・スクイーズアウトに伴う買取りとでは、請求の相手方、裁判所への申立ての時期、価格の考え方、受け取る代金の課税区分まで異なります。結論は、会社の手続、株主の立場、日付、価格の前提によって変わります。
この記事の要点
- 株式を売りたいというだけで、会社に買取りを強制できる一般的な権利はありません。譲渡承認の請求、組織再編等への反対など、法律又は契約上の根拠が必要です。
- 期限の起算点は制度ごとに異なります。会社と価格を協議していても、裁判所への申立期限は延びません。
- 会社の提示額や税務上の評価額が、そのまま裁判所の結論になるわけではありません。評価の目的、基準となる時点、算定の前提と手続の公正さを検討します。
- 同じ代金でも、発行会社が買い取るか第三者が買い取るか、どの手続によるかで、みなし配当と譲渡所得の区分が変わります。合意の前に課税区分と税負担の概算を確認します。
株式買取請求は制度の特定と期限の確認が先
株式の買取価格を争うときは、最初に、どの制度に基づく買取りか、誰に請求し誰が裁判所に申し立てるのか、いつまでに何をする必要があるのかを確定させます。制度を取り違えると、請求先や起算日を誤り、裁判所に価格を決めてもらう機会を失うおそれがあります。
売りたいだけで会社に買取りを強制できるか
株主が株式を現金化したいと考えただけで、会社に買取りを強制できる一般的な権利は、会社法上ありません。会社や他の株主などに買い取ってもらうには、株主間契約などの契約上の根拠か、会社法上の制度に当たることが必要です。株主から会社に買取りを請求できるのは、主に次の場面です。
- 譲渡制限株式を特定の相手に譲渡するため会社に承認を求め、承認しない場合の買取りもあわせて請求した場合(会社法第136条~第138条)
- 合併・会社分割・株式交換・株式移転などの組織再編や、株式併合に反対した場合(同法第785条、第797条、第806条、第182条の4)
これに対し、特別支配株主の株式売渡請求や全部取得条項付種類株式の取得のように、支配株主や会社の行為によって株式を手放すことになる場面では、株主は裁判所に価格の決定を申し立てて価格を争います(同法第179条の8、第172条)。なお、相続人等に対する売渡しの請求は別の制度であり、この記事では扱いません。
譲渡承認拒否・反対株主・売渡請求の違い
制度ごとに、誰に何を請求するか、裁判所への申立てがいつまでかが異なります。表の「吸収型」は吸収合併・吸収分割・株式交換、「新設型」は新設合併・新設分割・株式移転をいいます。
| 制度 | 会社等への請求 | 裁判所への申立て | 根拠条文 |
|---|---|---|---|
| 譲渡承認の 拒否 |
承認請求の際に、承認しない場合の会社又は指定買取人による買取りもあわせて請求 | 買取通知があった日から20日以内 | 会社法第138条、第144条 |
| 吸収型の 組織再編 |
効力発生日の20日前の日から前日までに買取請求 | 効力発生日から30日以内に協議が調わないとき、その満了の日後30日以内 | 同法第785条、第786条、第797条、第798条 |
| 新設型の 組織再編 |
会社が通知又は公告をした日から20日以内に買取請求 | 設立会社の成立の日から30日以内に協議が調わないとき、その満了の日後30日以内 | 同法第806条、第807条 |
| 株式併合 | 効力発生日の20日前の日から前日までに、端数となる株式の全部について買取請求 | 効力発生日から30日以内に協議が調わないとき、その満了の日後30日以内 | 同法第182条の4、第182条の5 |
| 特別支配株主の 株式売渡請求 |
会社への買取請求の手続はない | 取得日の20日前の日から前日までに直接申立て | 同法第179条、第179条の8 |
| 全部取得条項付 種類株式の取得 |
裁判所に直接申し立てる(議決権を行使できる株主は、事前の反対通知と総会での反対が必要) | 取得日の20日前の日から前日までに直接申立て | 同法第172条 |
表の期間は法律が定めるもので、会社の通知書に書かれた回答期限とは区別して確認します。組織再編や株式併合、売渡請求などの起算点は、効力発生日、会社が通知・公告をした日、取得日などであり、株主が通知を受け取った日や、法律上の起算点でない予定日に置き換えることはできません。書面を発送しただけで期限を守ったことになるとは限らないため、通知書と封筒、公告、請求書の控え、配達の記録、裁判所に提出した申立書の控えを保管します。実務上は、期間の末日を待たずに準備を始めることをおすすめします。
譲渡承認を拒否された場合の買取りと価格決定
譲渡制限株式(譲渡に会社の承認を要する株式)の株主は、譲渡の承認を求める際、会社が承認しない場合に備えて、会社又は会社が指定する者(指定買取人)による買取りをあわせて請求できます。
承認請求時に確認する事項
請求では、譲渡しようとする株式の数(種類株式発行会社では種類と種類ごとの数)と、譲受人の氏名又は名称を明らかにします。承認しない場合に会社又は指定買取人が買い取ることを求めるときは、その旨も明らかにする必要があります(会社法第138条)。
承認するかどうかは、原則として株主総会、取締役会設置会社では取締役会が決めますが、定款に別段の定めがあればそれによります(同法第139条)。買取りもあわせて請求されている場合に承認しないときは、会社は自ら買い取るか、指定買取人を指定します。会社が買い取るときは、買い取ること及び買い取る株式の数を株主総会の決議で定める必要があり、承認しないとの判断とは別の決議になることがあります(同法第140条)。
買取通知・供託・20日以内の申立て
会社が承認請求の日から原則2週間以内に承認するかどうかを通知しないときは、譲渡を承認したものとみなされます。承認しない旨を通知した場合も、その通知の日から原則40日以内に会社が買取りの通知(買取通知)をしないときは、承認したものとみなされます。ただし、指定買取人がその通知の日から原則10日以内に買取通知をした場合は除かれます(会社法第145条)。これらの期間は定款で短縮でき、会社と請求者が合意で別段の定めをすることもできます。期間内に買取通知があっても、次に述べる供託を証する書面が期間内に交付されないときは、承認したものとみなされる場合があります(会社法施行規則第26条)。
会社や指定買取人は、買取通知をする際に、1株当たり純資産額に株式数を乗じた額を供託し、供託を証する書面を株主に交付します(会社法第141条、第142条)。この1株当たり純資産額は会社法施行規則第25条の方法で算定する額で、株価算定で用いる純資産法の評価額とも、税務上の資本金等の額とも異なります。供託額は、会社の希望価格でも、裁判所が最終的に定める価格でもありません。
株券発行会社の株式であれば、株主は書面の交付を受けた日から1週間以内に株券を供託し、遅滞なくその旨を会社又は指定買取人に通知します。期間内に供託しないときは、買主である会社又は指定買取人が売買契約を解除できますが、自動的に解除されるわけではありません。株券が発行されていない場合や紛失している場合の扱いは、個別の確認が必要です。
売買価格は当事者の協議で定めますが、会社(又は指定買取人)と株主は、買取通知があった日から20日以内に、裁判所に売買価格の決定を申し立てることができます(会社法第144条第2項・第7項)。起算点は、承認しない旨の通知の日ではなく、買取通知があった日です。期間内に申立てがなく、協議も調っていないときは、1株当たり純資産額に株式数を乗じた額が売買価格になります(同条第5項)。協議を続けていても、この期間は延びません。
承認請求から申立てまでの手続の詳細は、譲渡制限株式の承認請求と売買価格決定の手続で解説しています。
反対株主の買取請求とスクイーズアウト
組織再編や株式併合に反対する株主は、会社に対し、自己の株式を「公正な価格」で買い取るよう請求できる場合があります。また、少数株主に金銭を交付して株主の地位を失わせる手続(スクイーズアウト)では、株式併合のほか、特別支配株主の株式売渡請求などが用いられ、手法によって争い方が異なります。
事前の反対通知と総会での反対
組織再編に株主総会の決議が必要な場合、その総会で議決権を行使できる株主は、原則として、総会に先立って会社に反対の意思を通知し、かつ、総会で反対したときに、買取請求ができる「反対株主」に当たります。総会で反対票を投じるだけでは足りません。議決権を行使できない株主や、総会の決議を要しない場合は、別の定めに従います(会社法第785条、第797条、第806条)。
簡易な手続による組織再編では買取請求自体が認められない場合があり、略式の手続では特別支配会社が反対株主から除かれるなど、手続の種類によって要件が異なります。招集通知と議案の内容から、自分が請求できる立場かを確認します。手続の基本は、反対株主の株式買取請求の基本手続で説明しています。
会社への請求期間と裁判所への申立期間
吸収型では、効力発生日の20日前の日から効力発生日の前日までに、株式の数(種類株式発行会社では種類と種類ごとの数)を明らかにして買取請求をします(会社法第785条第5項、第797条第5項)。価格について効力発生日から30日以内に協議が調わないときは、株主又は会社は、その期間の満了の日後30日以内に、裁判所に価格の決定を申し立てることができます(同法第786条第2項、第798条第2項)。
新設型では、会社が通知又は公告をした日から20日以内に買取請求をし(同法第806条第5項)、協議と申立ての期間は、設立会社の成立の日から30日、その満了の日後30日で数えます(同法第807条第2項)。
吸収型で価格の協議が調った場合、会社は効力発生日から60日以内に代金を支払います。裁判所が価格を決定した場合は、その60日の期間の満了の日後の法定利率による利息も支払う必要があります。買取りの効力は効力発生日に生じ、会社は価格の決定前でも、自らが公正な価格と認める額を支払うことができます(同法第786条、第798条)。新設型では、これらを設立会社の成立の日を基準に考えます(同法第807条)。株券が発行されている株式について買取請求をするときは、原則として株券の提出も必要です(同法第785条第6項等。株券喪失登録の請求をした者は除かれます)。
株式併合と特別支配株主の売渡請求
株式併合によって1株に満たない端数が生じる場合、反対株主は、自己の株式のうち端数となるものの全部を公正な価格で買い取るよう請求できます(会社法第182条の4)。対象は端数となる株式であり、すべての併合で保有株式全体の買取りを請求できるわけではありません。反対株主の要件を満たす必要がある点は組織再編と同様で、請求は効力発生日の20日前の日から前日まで、協議は効力発生日から30日以内、協議が調わないときの申立ては、その満了の日後30日以内です(同法第182条の4、第182条の5)。
特別支配株主(原則として総株主の議決権の10分の9以上を、自ら又は完全子法人等と合わせて有する者。定款でこれを上回る割合を定めることもできます)が株式売渡請求をした場合、少数株主は会社に買取請求をするのではなく、取得日の20日前の日から取得日の前日までに、裁判所に売買価格の決定を直接申し立てます(同法第179条、第179条の8)。取得日の後に協議し、その後で申し立てる仕組みではありません。全部取得条項付種類株式の取得による場合も、取得日の20日前の日から前日までに裁判所へ直接申し立てる仕組みで、総会で議決権を行使できる株主は、事前の反対通知と総会での反対が必要です(同法第172条)。
期限の確認からご相談いただけます
買取請求や価格決定の申立ては、制度ごとに期限と起算点が異なります。会社からの通知書、招集通知、公告の写しと、それぞれの日付が分かる資料(封筒、配達の記録など)をお手元にご用意ください。資料がそろうのを待たずに、まず相談の概要と期限をお知らせください。
公正な価格と株価算定書をどう検討するか
価格を争うには、「提示額が低い」と主張するだけでは足りません。どの制度の価格決定か、いつの時点の価格か、どの評価方法をどの前提で用いたかを分けて検討します。
税務評価額や会社提示額がそのまま結論になるか
譲渡承認拒否に伴う売買価格の決定では、裁判所は、譲渡等承認請求の時における会社の資産状態その他一切の事情を考慮して価格を定めます(会社法第144条第3項)。組織再編などの反対株主の買取請求では「公正な価格」が問題となり、評価の基準となる時点や考え方が異なります。
例えば株式交換について、最高裁判所第二小法廷令和8年9月30日決定(令和6年(許)第32号~第34号)は、従来の判例を参照して、株式交換により企業価値の増加が生じない場合は、原則として、買取請求の日に株式交換を承認する決議がなければその株式が有したであろう価格、それ以外の場合は、原則として、交換比率が公正なものであったならば買取請求の日にその株式が有すると認められる価格が公正な価格であると整理しました。上場株式で、市場株価が企業の客観的価値を反映していないことをうかがわせる事情がなく、交換比率が公正と認められる場合には、企業価値の増加が生じないときを除き、請求の日の市場株価や、これに近接する一定期間の平均値を用いることも、裁判所の合理的な裁量の範囲内とされています。
相続税評価額のように課税のために算定された評価額は、裁判所の価格決定とは目的が異なり、そのまま結論になるものではありません。会社の提示額も、どの目的で、いつを基準に、どの資料を前提として算定されたかを確認します。評価方法ごとの違いは、非上場株式の評価方法と税務評価の違いで説明しています。
非上場株式の減額が認められる範囲
非上場株式は市場で自由に売却できないため、その分を減額する「非流動性ディスカウント」が問題になります。最高裁判所は、制度と評価方法に応じて異なる判断を示しています。
| 項目 | 平成27年3月26日決定 | 令和5年5月24日決定 |
|---|---|---|
| 対象の制度 | 吸収合併に反対した消滅会社の株主の買取請求(会社法第785条) | 譲渡制限株式の売買価格の決定(会社法第144条) |
| 評価方法 | 収益還元法 | DCF法 |
| 判断 | 非流動性ディスカウントを行うことはできない | 相当と認められるときは行うことができる。ただし、算定の過程で市場性がないことが既に十分考慮されている場合に、重ねて減額することは相当でない |
平成27年決定(最高裁判所第一小法廷平成27年3月26日決定・平成26年(許)第39号・民集69巻2号365頁)は、譲渡承認拒否の事件ではありません。令和5年決定(最高裁判所第三小法廷令和5年5月24日決定・令和4年(許)第8号)は、平成27年決定を「事案を異にし、本件に適切でない」としており、これを変更したものではありません。令和5年決定の事案で採られた減額の割合は、その事件の鑑定と事情を前提としたもので、標準的な割合を示したものではありません。どちらの決定も、すべての制度・評価方法に当てはまる一般論として扱わないことが大切です。
第三者委員会・算定書と裁判所の判断
上場会社の非公開化や組織再編では、会社が独立した委員会を設け、算定書を取得したうえで価格を決めることがあります。最高裁判所第一小法廷平成28年7月1日決定(平成28年(許)第4号~第20号・民集70巻6号1445頁)は、公開買付けの後に全部取得条項付種類株式を取得した事案です。同決定は、多数株主と少数株主の利益が相反する状況において、独立した第三者委員会の意見を聴くなど意思決定の過程が恣意的になることを排除する措置が講じられ、公開買付けに応募しなかった株主の株式も同じ価格で取得する旨が明示されるなど、一般に公正と認められる手続で公開買付けが行われ、その後に同じ価格で取得された場合には、取引の基礎となった事情に予期しない変動が生じたと認めるに足りる特段の事情がない限り、取得価格を公開買付けの価格と同額とするのが相当と判断しました。もっとも、平成26年改正前の会社法第172条の事案であり、現在のすべてのスクイーズアウトに無条件に当てはまるわけではありません。
令和8年決定は、株式交換をする会社(株式交換完全親会社)の反対株主の買取請求について、会社と反対株主が価格の決定を申し立てた事件です。独立した第三者委員会と評価できる特別委員会が関係者と実質的に交渉し、株主の判断の基礎となる情報が適切に開示されたうえで株主総会の承認を得るなど、一般に公正と認められる手続がとられ、交換比率も公正と認められた事情の下で、競合する買収提案や、より高い理論株価の試算が公表されていたことを考慮して会社の提示額から増額した原審の判断を、会社法第797条第1項の解釈適用を誤ったものとしました。その結果、市場株価を基礎とした会社の提示額を買取価格とした第一審の決定が維持されています。
これらの決定からは、「高い算定書があれば増額される」とも、「会社の提示額には常に従うべきである」ともいえません。争点となるのは、委員会が独立して実質的に交渉したか、株主に必要な情報が開示されたか、算定の前提が合理的か、といった手続と前提の実質です。
弁護士・評価担当者・税務担当者の役割
価格を争う手続では、法的な権利の保全、財務の分析、税額の確認を分担して進めます。
- 弁護士:制度と請求資格の確認、期限の管理、主張と立証の組立て、相手方の反論への対応
- 評価担当者(公認会計士など):財務資料の分析、評価方法の選択、事業計画や割引率などの前提の合理性の検討
- 税務担当者(税理士など):課税区分、取得費、源泉徴収、確定申告の確認
株価の評価には、当事者が依頼して作成する算定書、相手方の算定書を検討する意見書、裁判所が命じる鑑定があり、目的と位置付けが異なります。すべての事件で鑑定が行われるわけではなく、算定書や鑑定があっても、法的に相当でない評価要素は裁判所の判断で修正されることがあります。評価を依頼する際は、評価人の独立性、依頼の目的と利用の範囲、評価の基準日、計算の明細を確認します。評価実務の整理としては日本公認会計士協会の研究報告「企業価値評価ガイドライン」がありますが、法的拘束力のある基準ではありません。
買取代金の税務は買主と手続によって変わる
同じ金額で株式を手放しても、課税区分は買主と手続によって変わります。以下は、個人の株主(居住者)が非上場株式を手放す場合の基本的な整理です。判定は、誰が買うか、どの法的原因による取得か、除外規定や特例に当たるか、の順に行います。
会社買取りと指定買取人への譲渡
譲渡承認を拒否した会社自身が買い取る場合(自己株式の取得)は、原則として、代金のうちその株式に対応する税務上の資本金等の額を超える部分が「みなし配当」として配当所得になり、残りの部分が株式等の譲渡所得等の収入金額になります(所得税法第25条第1項第5号、所得税法施行令第61条第2項第6号)。代金から取得費を差し引いた売却益の全体がみなし配当になるわけではありません。
これに対し、指定買取人が買い取る場合は、発行会社による取得ではないため、通常の株式の譲渡として、代金から取得費などを差し引いて譲渡所得等を計算します。指定買取人が役員や既存の株主であっても、そのことだけで発行会社の取得として扱われるわけではありません。
合併・株式交換・株式併合の違い
発行会社による取得であっても、法令が定める一定の買取りは、みなし配当の対象から除かれています(国税庁タックスアンサー「株式等に係る譲渡所得等の収入金額とみなされる場合」)。主な類型は次のとおりです。
| 場面 | 課税区分(原則) | 根拠・注意点 |
|---|---|---|
| 譲渡承認拒否後の 会社の買取り |
みなし配当(資本金等の額を超える部分)と株式等の譲渡所得等 | 所得税法第25条第1項第5号 |
| 譲渡承認拒否後の 指定買取人の買取り |
株式等の譲渡所得等(通常の譲渡) | 買主は発行会社以外。役員・株主が買主でも同じ |
| 合併に反対した 消滅会社株主から の買取り |
株式等の譲渡所得等(みなし配当の対象から除外) | 所得税法施行令第61条第1項第8号。存続会社の株主からの買取りには及ばない |
| 株式交換に反対した 完全子会社株主から の買取り |
みなし配当と株式等の譲渡所得等 | 合併の場合の除外規定は適用されない |
| 株式併合に反対した 株主からの買取り |
株式等の譲渡所得等(みなし配当の対象から除外) | 所得税法施行令第61条第1項第9号(会社法第182条の4第1項)。端数の買取り(会社法第234条第4項・第235条第2項)も同号 |
| 特別支配株主への 売渡し |
株式等の譲渡所得等 | 発行会社ではない特別支配株主への譲渡 |
「みなし配当の対象から除外」とは、代金の全額が株式等の譲渡所得等の収入金額になるという意味で、非課税になるわけではありません。譲渡益があれば課税されます。合併に際して、買取請求をせずに合併の対価を受け取る場合の課税は、ここでいう買取りとは別の問題です。全部取得条項付種類株式に関する除外(所得税法施行令第61条第1項第10号・第11号)は適用に条件があるため、個別に確認します。
同じ1,000万円でも課税区分が異なる例
次の設例は、課税区分の違いを示すための仮定です(個人居住者、非上場株式、代金1,000万円、その株式に対応する税務上の資本金等の額200万円、取得費100万円、譲渡費用・特例の適用なし)。
| 項目 | 会社が買い取る場合 | 指定買取人が買い取る場合 |
|---|---|---|
| みなし配当(配当所得) | 800万円(1,000万円-200万円) | なし |
| 株式等の譲渡収入 | 200万円 | 1,000万円 |
| 取得費 | 100万円 | 100万円 |
| 株式等の譲渡益 | 100万円(200万円-100万円) | 900万円(1,000万円-100万円) |
会社が買い取る場合のみなし配当は、原則として総合課税の配当所得となり、他の所得と合算して税額を計算します。2026年中に支払を受ける非上場株式のみなし配当には、原則として20.42%の所得税及び復興特別所得税が源泉徴収されますが(住民税は源泉徴収されません)、これは最終的な税負担ではなく、原則として確定申告で精算します(少額配当等の例外があります)。株式等の譲渡益は、2026年(令和8年)分では、所得税及び復興特別所得税と住民税を合わせて20.315%の申告分離課税が基本です(国税庁タックスアンサー「配当金を受け取ったとき(配当所得)」「株式等を譲渡したときの課税(申告分離課税)」)。この税率は譲渡益に対するもので、代金全額に掛けるものではありません。2027年(令和9年)以後の支払や年分については、適用される税率を国税庁の最新の案内で確認してください。どちらの方法で税負担が軽くなるかは、他の所得や取得費の資料などによって異なり、この設例だけでは判断できません。
取得費は株主が株式を取得した際の金額で、会社の税務上の資本金等の額とも、相続税評価額とも別の数値です。相続や遺贈で取得した株式の取得費は、原則として被相続人の取得費を引き継ぎます(国税庁タックスアンサー「譲渡した株式等の取得費」)。計算には、株主側の取得時の資料と、会社側の資本金等の額が分かる税務資料の両方が必要です。
相続した株式と法人株主の注意
相続又は遺贈で非上場株式を取得し、納付すべき相続税額がある個人が、相続税の課税対象となったその株式を、相続開始の日の翌日から相続税の申告期限の翌日以後3年を経過する日までに発行会社へ譲渡した場合などには、一定の要件の下で、みなし配当課税を行わず、代金の全額を譲渡所得等の収入金額とする特例があります(租税特別措置法第9条の7)。適用を受けるには、譲渡の時までに所定の届出書を発行会社に提出する必要があり、発行会社は、譲り受けた日の属する年の翌年1月31日までに所轄税務署長へ提出します(国税庁タックスアンサー「相続により取得した非上場株式をその発行会社に譲渡した場合の課税の特例」)。期限は「相続から3年」ではなく、贈与で取得した株式に当然に適用されるものでもありません。
株主が法人の場合は、個人の税率は当てはまりません。みなし配当と株式の譲渡損益を区分し、保有割合などに応じた受取配当等の益金不算入や、自己株式としての取得が予定されている株式を取得していた場合の不適用(法人税法第23条)などを検討します。みなし配当から除かれる取得の事由は法人税法施行令第23条第4項に定められ、源泉徴収についても、一定の持株要件を満たす法人株主が受ける配当等には所得税を課さない規定があります(所得税法第177条)。
当事務所の企業法務のご相談では税務申告・税務代理をお受けしていないため、具体的な税額の計算や申告は、税理士又は税務署にご確認ください。
価格を争うための資料と手続の選び方
買取りを請求する権利があるか、申立てが期間内で適法か、主張する価格が採用されるか、決まった代金を実際に受け取れるかは、それぞれ別の問題です。証拠、費用、税負担、相手方の支払能力をあわせて検討します。
提示額への反論は資料に対応させる
資料は名前を並べるだけでなく、何を確認するための資料かを対応させて整理します。
| 争点 | 資料 | 確認目的 |
|---|---|---|
| 権利・期限 | 定款、株主名簿等、会社からの通知書と封筒、公告、請求書の控え、送達・到達の記録、議決権行使書、総会議事録 | 請求資格の有無、期限の起算点、請求・申立てが期間内か |
| 価格 | 過年度の決算書、事業計画、株価算定書とその計算明細、関連当事者との取引や事業に使っていない資産の資料 | 評価方法と前提の合理性、資産・負債の把握漏れ、減額の重複の有無 |
| 公正な手続 | 特別委員会の構成と独立性が分かる資料、交渉の経過、株主への開示資料 | 価格が公正な手続を経て決められたか |
| 税務 | 取得費の証憑、資本金等の額が分かる資料、相続関係の資料、源泉徴収・供託・追加支払の記録 | 課税区分と税額、精算の確認 |
価格への反論は、事業計画と実績の乖離、割引率や継続価値の設定、事業に使っていない資産や有利子負債の扱い、減額の重複、委員会の独立性や情報開示の不足など、具体的な前提に向けます。手元の資料が足りなくても、それを理由に申立てを先送りせず、閲覧・開示など法律上認められた方法による入手を検討します。会社の資料を無断で持ち出したり、記録を書き換えたりすることは避けてください。
交渉・価格決定・差止め等を分ける
会社と価格を交渉していても、裁判所への申立期限は延びないため、交渉と並行して申立ての準備を進めます。会社側からは「公正な手続を経て算定済みである」「期限を過ぎている」「請求の資格がない」といった反論が考えられるため、これらにも備えます。
価格の決定は、会社法に基づく非訟事件の手続であり、組織再編などの差止めや株主総会決議の効力を争う訴えとは別の手続です。取引そのものを止めたいのか、価格だけを争うのかで、選ぶ手続が異なります。また、法律が価格の決定を定める場面に当たらず、任意の売買交渉がまとまらないだけの場合には、この手続は使えません。
争うかどうかは、「保有株式数×主張する1株当たりの差額」で争う金額の規模を把握したうえで、主張が認められる見込み、弁護士費用・算定費用・鑑定費用、税負担、解決までの時間、相手方の支払能力を考慮して判断します。この計算は判断の出発点であり、受け取れる金額を約束するものではありません。弁護士費用は弁護士費用の案内でご確認いただけます。
支払の確保も確認が必要です。譲渡承認拒否の後に会社自身が買い取る場合は、分配可能額による財源の規制(会社法第461条第1項第1号)を確認し、指定買取人が買い取る場合はその支払能力を確認します。反対株主の買取請求には、これと同じ規制が一律に当てはまるわけではありません(株式併合などの場合について、同法第464条が別の定めを置いています)。会社に預金があることと分配可能額があることは別の問題であり、取得が適法か、資金の手当てができるか、実際に代金を受け取れるかを分けて確認します。
価格に合意する前、申立てをする前に、次の点を確認します。
- 通知書・公告の日付から、適用される制度と期限の起算点を特定したか
- 事前の反対通知、総会での反対、請求書の控えなど、請求資格に関する記録を確認し、保存したか
- 提示額や主張額の算定目的、基準日、前提となった資料を確認したか
- 代金の支払に必要な財源・資金と、買主の支払能力を確認したか
- 買主と手続に応じた課税区分、源泉徴収の要否、税負担の概算を確認したか
神戸で相談・申立てを検討する場合
価格決定の申立ては、原則として会社の本店の所在地を管轄する地方裁判所に行い、特別支配株主の株式売渡請求に関する売買価格の決定は、対象会社の本店の所在地を管轄する地方裁判所に申し立てます(会社法第868条第1項・第3項)。管轄は株主の住所ではなく、会社の本店の所在地で決まります。神戸地方裁判所の窓口案内では、本庁の商事非訟の申立窓口は第3民事部(3階)とされていますが、兵庫県内に本店がある会社の事件がすべて本庁で扱われるとは限らないため、本庁・支部の分担や提出方法を事前に確認します。
よくある質問
会社と価格を協議している間は、裁判所への申立てを待ってもよいですか。
協議中であることは、申立てを待つ理由になりません。譲渡承認拒否では買取通知があった日から20日以内、吸収型の組織再編では効力発生日から30日の協議期間の満了の日後30日以内など、制度ごとの期間を過ぎると申立てはできません。譲渡承認拒否で期間内に申立ても合意もなければ、1株当たり純資産額に株式数を乗じた額が売買価格になります。
税務上の評価額(相続税評価額など)で買い取られることになりますか。
当然にそうなるわけではありません。相続税評価額は課税のための評価で、価格決定とは目的が異なります。譲渡承認拒否の場合は請求の時の会社の資産状態その他一切の事情が、組織再編などの場合は「公正な価格」が問題となります。会社が税務上の評価額を示してきた場合も、その評価の目的と前提を確認します。
会社が株式を買い取ると、常にみなし配当になりますか。
いいえ。発行会社による取得は原則としてみなし配当の対象ですが、合併に反対した消滅会社の株主からの買取りや、株式併合に反対した株主からの買取りなどは除外されています。相続税額がある個人が、相続した非上場株式を一定の期間内に発行会社へ譲渡する場合の特例もあります。除外や特例に当たっても非課税になるわけではなく、譲渡益には課税されます。
買取りの請求をした後に撤回できますか。
制度と段階によって異なります。譲渡承認の請求は、会社又は指定買取人から買取通知を受けた後は、その承諾がなければ撤回できません。組織再編の反対株主の買取請求も、原則として会社の承諾が必要ですが、吸収型で協議が調わず、効力発生日から60日以内に価格決定の申立てがないときは、その期間の満了後、株主はいつでも撤回できます(新設型は設立会社の成立の日から数えます)。
株式買取請求の相談前に確認したいこと
期限・当事者・資料の受渡し
最初のご連絡では、会社名、ご相談者のお名前、相手方の名称、相談の概要、分かっている期限をお知らせください。資料がすべてそろうのを待つ必要はありません。
通知書、定款、決算書、株価算定書などの資料は、利益相反の確認が済んだ後に、当事務所がご案内する方法でお受けします。確認が済むまでは、機密資料をお送りいただかないようお願いします。同じ紛争で利害が対立する当事者の双方から、ご相談をお受けすることはできません。相談の予約やお問い合わせは事件の受任(委任契約の成立)を意味するものではなく、これによって法律上の期限が止まったり延びたりすることもありません。
相談の対象となる内容は、企業法務の相談のページでご案内しています。
ご相談の予約
期限が迫っている場合は、予約の際にその旨と期限の日付をお知らせください。ご相談の受入れや受任の可否は、利益相反の確認と事案の内容を踏まえて判断します。
事務所・弁護士紹介
弁護士法人ひょうご支所神戸みらい法律会計事務所
所属弁護士会:兵庫県弁護士会
〒654-0154 兵庫県神戸市須磨区中落合2丁目2-5 名谷センタービル7階(神戸市営地下鉄西神・山手線 名谷駅から徒歩1分)
株主間の紛争や会社法に関する問題を含め、企業法務のご相談をお受けしています。所属弁護士の資格や所属弁護士会は、弁護士紹介のページでご確認いただけます。
参考資料・情報基準日
情報基準日:2026年10月14日(本記事の法令・判例・公表資料の記載は、同日時点で確認した内容に基づいています。公開日・更新日とは異なります。)
- 会社法(e-Gov法令検索)
- 会社法施行規則(e-Gov法令検索)
- 所得税法(e-Gov法令検索)
- 所得税法施行令(e-Gov法令検索)
- 法人税法(e-Gov法令検索)
- 法人税法施行令(e-Gov法令検索)
- 最高裁判所第一小法廷平成27年3月26日決定(平成26年(許)第39号)全文(PDF)
- 最高裁判所第一小法廷平成28年7月1日決定(平成28年(許)第4号~第20号)全文(PDF)
- 最高裁判所第三小法廷令和5年5月24日決定(令和4年(許)第8号)全文(PDF)
- 最高裁判所第二小法廷令和8年9月30日決定(令和6年(許)第32号~第34号)全文(PDF)
- 国税庁タックスアンサー「株式等に係る譲渡所得等の収入金額とみなされる場合」
- 国税庁タックスアンサー「配当金を受け取ったとき(配当所得)」
- 国税庁タックスアンサー「株式等を譲渡したときの課税(申告分離課税)」
- 国税庁タックスアンサー「譲渡した株式等の取得費」
- 国税庁タックスアンサー「相続により取得した非上場株式をその発行会社に譲渡した場合の課税の特例」
- 日本公認会計士協会 経営研究調査会研究報告第32号「企業価値評価ガイドライン」(PDF)
- 神戸地方裁判所「窓口案内」
本記事は、株式買取請求をめぐる一般的な情報を提供するもので、個別の事案についての法的助言や税務上の助言ではありません。どの制度が適用されるか、価格や税務がどうなるかは、会社の定款や手続、株主の立場、日付、価格の前提などによって異なります。情報基準日の後の法令・税制の改正や裁判例により、取扱いが変わることがあります。

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