相手が一時停止を無視して交差点に入ってきたのに、保険会社から「あなたにも2割の過失があります」と告げられると、納得しにくいものです。しかし、相手に一時停止違反があっても、自分の過失が自動的に0になるわけではありません。四輪車同士の出合い頭事故で双方が同程度の速度だった場合、実務で参照される基準の基本例は、一時停止規制のない側(A)20:規制のある側(B)80です。
もっとも、これは出発点です。双方の速度や一時停止後の動きによって基本の割合は変わり、Aが徐行していたことなどを証拠で示せる場合は、Aの過失を0とすること(A0:B100)も検討できます。
この記事の前提
- 対象は、信号機などによる交通整理が行われていない交差点で、一方の道路だけに一時停止の規制があり、四輪車同士がどちらも直進して衝突した事故です。
- 一時停止の規制がない側の車を「A」、規制がある側の車を「B」と呼び、過失割合は常に「A:B」の順で示します。読者ご自身がAの立場にある場合を想定しています。
- 双方に一時停止の規制がある交差点、右折・左折中の事故、歩行者・自転車・二輪車との事故、駐車場内の事故、点滅信号のある交差点には、この記事の説明をそのまま当てはめることはできません。
相手が一時停止を無視しても自分に過失はつくのか
Bには、停止線の直前(停止線がなければ交差点の直前)で一時停止し、交差する道路を通行する車両の進行を妨げてはならない義務があります(道路交通法第43条)。Bの過失が重く評価されるのはそのためです。
しかし、Bの交通違反と、Aの民事上の過失は、別々に検討されます。交通事故の損害賠償(民法第709条)では、被害者にも過失があったとき、裁判所はこれを考慮して賠償額を定めることができます(同法第722条第2項。過失相殺)。Aも、交差点に入る際に必要な注意を尽くしていたかが問われます。
一方、「一時停止違反の事故はA20:B80」と法令で一律に定められているわけでもありません。実務で参照される『民事交通訴訟における過失相殺率の認定基準〔全訂6版〕』(別冊判例タイムズ39号。以下「認定基準」)の割合は、事実関係に応じて用いる参考基準であり、裁判所を拘束する法規ではありません(認定基準22~23頁)。警察が民事上の過失割合を決めるわけではなく、保険会社の提示も確定した割合ではありません。
一時停止規制がない道路と優先道路は別
一時停止の規制がないというだけで、Aの道路が法律上の優先道路になるわけではありません。優先道路に当たるかは、道路標識などによる指定があるか、その交差点の中に中央線又は車両通行帯が設けられているかで確かめます(道路交通法第36条第2項)。道幅が広いだけの道路も、優先道路と同じではありません。
この記事で扱う基準(認定基準227~229頁【Ⅲ-7】)は、同じ幅の道路同士だけでなく、一方に一時停止の規制がある広い道路と狭い道路の交差点にも用いることが想定されています(228頁注①)。ただし、一方の優先性が特に顕著な道路などでは、この基準によるか、隣接する類型(226頁【Ⅲ-6】注②、230頁【Ⅲ-8】注①)によるかが問題になります。標識と道路の形状を確かめずに、A20:B80を一律に当てはめることはできません。
見通しの悪い交差点では規制のない側にも注意義務がある
交通整理が行われておらず、左右の見通しがきかない交差点に入るときは、Aにも原則として徐行する義務があります(道路交通法第42条第1号)。徐行とは、直ちに停止できるような速度で進行することをいい(同法第2条第1項第20号)、時速何キロメートル以下という一律の決まりはありません。
この徐行義務は、優先道路を通行している場合には課されません(同法第42条第1号)。ただし、優先道路でも、交差する道路の車両などに注意し、できる限り安全な速度と方法で進行する義務(同法第36条第4項)や、安全運転の義務(同法第70条)は残ります。Aにも過失が認められることがあるのは、こうした義務があるためです。
基本割合は速度と一時停止後の動きで変わる
認定基準【Ⅲ-7】は、基本の過失割合を、双方の速度と、Bが一時停止をした後に進入したかどうかによって分けています。
双方の速度と減速の有無
双方の速度に関する三つの基本例は、次のとおりです(認定基準228頁の数値を整理したものです)。
| 速度の前提 | 基本割合(A:B) | 確かめる事実 |
|---|---|---|
| AとBが 同程度の速度 |
A20:B80 | 交差点に入る時点の双方の速度に、目立った差がなかったか |
| Aは減速せず、 Bは減速 |
A30:B70 | Bが明らかに速度を落としていたか、Aは速度を落とさずに進入したか |
| Aは減速、 Bは減速せず |
A10:B90 | Aが明らかに速度を落とし、Bは速度を落とさずに進入したか(Aが徐行に達していた場合は別に検討) |
ここでいう「減速」とは、通常の速度より明らかに速度を落とすことをいい、徐行にまで達している必要はありません(認定基準43~44頁、228頁注②)。一方、事故の危険が具体的になった後、衝突の直前に急ブレーキをかけただけでは、減速していたとは扱われません。速度は、交差点に進入する時点などの状況と、事故当時の規制速度から検討します。
三つの数値は、異なる前提に立つ基本例です。一時停止規制の有無、事故の類型、双方の速度を確かめて当てはまるものを選び、見通しその他の事情も踏まえて検討します。
相手が一度停止してから進入した場合
Bが一時停止をしてから進入した場合について、認定基準はA40:B60という基本割合を示しています(228頁)。ただし、これは、Bが一時停止をして左右を確認し、Aの接近を認めたものの、その速度や距離の判断を誤って低速で先に交差点へ入り、減速しなかったAと衝突した場面を想定したものです(229頁注⑥)。Aからも、Bを具体的に認識できたことが前提になっています。
したがって、Bが「一度止まった」と主張しているだけの場合や、止まったものの左右を十分に確認せずに発進した場合にまで、A40:B60が自動的に当てはまるわけではありません。停止線の位置から左右を確認できないとき、Bには、まず所定の位置で停止し、徐行しながら見通しのきく位置まで進み、必要があれば再び停止することが求められます(認定基準227頁、44頁)。「見える所で一度止まればよい」「止まれば安全確認は要らない」という理解は、いずれも正確ではありません。
なお、A40:B60によるときは、Bが停止したという同じ事情を、Bに有利な事情として重ねて考慮することはしません。
一時停止違反を重ねて加算しない
Bの一時停止義務違反は、基本割合を決める段階ですでに織り込まれています。同じ違反だけを理由に、Bの割合をさらに加算することはしません。
認定基準【Ⅲ-7】は、著しい過失がある側に10ポイント、重過失がある側に20ポイントの不利な修正を示しています(228頁注③④、57頁、59頁)。この修正には、通常想定される程度を超える過失があり、それが事故と関係していることが必要です。同じ当事者について両者を重ねて加算することはせず、いずれか一方を適用します。たとえば、A20:B80の前提で、一時停止違反とは別にBの著しい過失が認められれば、A10:B90の方向で検討します。もっとも、何がこれらに当たるかは個別の事情によるもので、計算表のように自動的に決まるわけではありません。
また、この類型では、Bが明らかに先に交差点へ入ったこと(先入)は、修正の対象とされていません。Bが一時停止をした後に進入した場合の先入も、A40:B60の基本割合の中で考慮されています。損傷した部位だけを理由に、Bに有利に修正されるわけでもありません。
自分の過失が0となる可能性はあるか
「動いている車同士の事故では、どちらにも1~2割の過失がつく」という一律のルールはありません。認定基準は、Aが徐行していたにもかかわらず、Bが減速していなかった場合には、Aの基本の過失相殺率を0と考えるのが相当であるとしています(228頁注⑤)。基本割合の表の「Aは減速、Bは減速せず」(A10:B90)は、Aが速度を落としていた場合の数値であり、徐行にまで達していた場合は、これと区別して検討されます。
ただし、この考え方によるには、Aが徐行していたことと、Bが減速していなかったことを、証拠で示す必要があります。Aに別の過失(道路交通法第36条第4項、第70条の注意を欠いた事情)がなかったか、AからBを認識できたか、認識できた時点で衝突を避けられたかも併せて検討されるため、徐行していたと主張すれば認められるというものではありません。
徐行と相手の進入状況を証拠で確かめる
次の点を、当事者の言い分ではなく証拠で確かめます。
- Aは、交差点に入る前から、直ちに停止できる速度まで落としていたか。
- Bは、停止線の手前で止まったか、減速しないまま進入したか。
- Aの位置から、Bをいつ、どこで見ることができたか(建物、塀、駐車車両などの遮蔽物)。
- Bを認識できた時点で、衝突を避けることができたか。
- Aに、速度以外の点で注意を欠いた事情がなかったか。
過失0を主張する場合に、ご自身の保険会社による示談交渉がどうなるかは、過失のない事故で自分の保険会社が示談交渉できない場合の対応で説明しています。
過失割合を検討するために残す証拠
どの資料から何が分かり、どこに限界があるのかを整理します。認定基準65~66頁のほか、国土交通省の事故後の対応に関する案内と、交通事故紛争処理センターの必要資料に関する案内を踏まえた整理です。
| 証拠・資料 | 確認できる事項 | 限界・注意点 |
|---|---|---|
| 事故前後の 連続映像 |
ドライブレコーダーなどの映像から、停止、発進、減速、交差点に入った順序を確かめる | 時刻のずれ、撮影範囲、速度を推定するときの前提を確認する |
| 現場の写真 | 標識、停止線、交差点、遮蔽物の写真から、規制、停止位置、見通しを確かめる | 事故後に現場が変わっていないか、撮影位置による見え方の違いに注意する |
| 損傷写真・ 現場図など |
損傷写真、現場図、実況見分調書などから、衝突地点、進路、相手を認識した位置を確かめる | 損傷した部位だけでは、どちらが先に入ったかや、過失がないことまでは確定できない |
| 目撃者の情報 | 目撃者の連絡先と当時の記録により、映像に映らない範囲や双方の動きを補う | 聞き取った内容や事故状況のメモは、記憶が確かな部分と推測を分けて残す |
| 保険会社の 提示書 |
採用された基準、前提とされた事実、修正の理由を確かめる | 前提とされた事実が実際と合っているかを確認する |
事故の直後は、安全の確保、けが人の救護、警察への報告(道路交通法第72条第1項)、必要な受診を優先してください。そのうえで、ドライブレコーダーの映像は、上書きされる前に元のデータのまま保存し、衝突の瞬間だけを切り抜かずに前後の記録も残します。防犯カメラなど他人のカメラの映像は、管理者に保存と提供を依頼します。現場の写真は、安全を確保できる場所から撮影してください。
ドライブレコーダーがなくても、ほかの資料から検討することは可能です。もっとも、交通事故証明書だけでは、詳しい事故の態様や過失割合は分かりません。同証明書の取得方法は、神戸市の交通事故証明書取得案内で確認できます。
また、実況見分調書などは作成・開示されるとは限らず、記載も、計測された事実と当事者の指示説明を区別して読む必要があります。入手については、実況見分調書などの刑事記録を取得・利用する方法で説明しています。
保険会社の提示に納得できないときの進め方
「納得できない」と伝えるだけでは、話合いは進みにくくなります。次の順序で整理します。
- まず、保険会社に、用いた基準書の版と図の番号、前提とした双方の速度などの事実、適用した修正項目を尋ねます。
- 次に、争いのない事実と、言い分が食い違っている事実を分けます。
- 食い違っている点ごとに、映像や写真などの証拠を結び付けます。
- 「Aは徐行していなかった」「Bは一時停止後に進入した」「Aの速度が出ていた」といった相手方の反論も、先に検討しておきます。
- それでも合意に至らないときは、弁護士への相談や紛争解決手続の利用を検討します。
過失割合は賠償額に影響します。仮に、Aの物的損害が100万円と認められ、Aの過失が20%とされた場合、Aの損害について賠償される額の基本的な計算は、100万円×(1-0.20)=80万円です。これは、既払金、保険給付、B側の損害、相殺などを含めない単純な設例であり、実際に受け取る額ではありません。自賠責保険の重過失による減額に、この計算を当てはめることもできません。
過失割合への異議だけを述べ続けるのではなく、示談書の賠償項目や、その示談で清算される範囲も確認してください。確認する項目は、交通事故の示談案で確認すべき項目にまとめています。
紛争解決手続の種類と選び方は、交通事故の交渉がまとまらない場合の手続の選び方で説明しています。
よくある質問
少しでも動いていたら、自分にも過失がつくのですか。
動いていたことだけで過失がつくわけではありません。Aが徐行し、Bが減速していなかったことを証拠で示せる場合は、Aの過失を0とする余地があります。結論は個別の事情によって異なります。
相手が「先に交差点に入った」と主張すれば、過失割合は変わりますか。
主張だけでは変わりません。この類型では、Bが明らかに先に入ったことは修正の対象とされていません。Bが一時停止をしたうえで進入したのかどうかは、映像などで停止の有無と進入の状況を確かめて判断します。
ドライブレコーダーがないと、過失割合を争えませんか。
争えないわけではありません。現場や車両の写真、目撃者の情報、周辺のカメラの映像など、ほかの資料から事故の状況を検討します。映像は上書きされることがあるため、早めに保存や提供の依頼を進めてください。
過失割合について相談を希望される方へ
過失割合のご相談は、保険会社の提示書、映像、事故状況のメモなど、お手元の資料から始められます。資料が揃うことや、相手方の刑事処分の結果、実況見分調書などの入手を待つ必要はありません。事故から時間が経っている場合や、期限が気になる場合は、早めの確認をおすすめします。
弁護士法人ひょうご支所神戸みらい法律会計事務所(兵庫県弁護士会所属)は、神戸市須磨区中落合2丁目2-5 名谷センタービル7階(名谷駅から徒歩1分)にあります。所属する弁護士は弁護士紹介でご確認いただけます。
過失割合の根拠や証拠の確認について、ご相談をご希望の方は、相談予約フォームをご利用ください。相談の方法と費用は、事前にご確認ください。フォームの送信は予約のお申込みであり、相談の実施やご依頼の受任をお約束するものではありません。受任の可否は、ご相談の内容を確認したうえで別途判断します。
参考資料と情報基準日
- 菊池憲久・堂薗幹一郎・伊東智和編『民事交通訴訟における過失相殺率の認定基準〔全訂6版〕』(別冊判例タイムズ39号、判例タイムズ社、令和8年(2026年)3月30日)22~23頁、43~45頁、57頁、59頁、65~66頁、226~230頁。別冊判例タイムズ39号〔全訂6版〕の書誌情報
- 道路交通法(e-Gov法令検索) 第2条第1項第20号、第36条、第42条、第43条、第70条、第72条第1項
- 民法(e-Gov法令検索) 第709条、第722条第2項
- 公益財団法人交通事故紛争処理センター「ご用意いただく主な資料等」
- 国土交通省「交通事故にあったらまずどうする?」
- 神戸市「交通事故証明書の取り方について教えてください。」
この記事は、令和8年(2026年)10月10日時点で施行されている法令と、同日に確認した資料に基づく一般的な説明です。個別の事故では、事故当時の法令と交通規制の状況を確認する必要があり、結論は事実関係と証拠によって異なります。

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