資金繰りが厳しくなってきた会社の経営者から、「採算のとれている事業だけを新しい会社に移し、従業員の雇用と取引先との関係を残したい。しかし、後から財産逃しだと言われないだろうか」というご相談をいただくことがあります。いわゆる第二会社方式や、倒産手続に入る前の事業譲渡と呼ばれる手法です。
インターネット上には「第二会社方式は違法」という説明と、「適正価格で譲渡すれば問題ない」という説明が並んでいます。しかし、実務上の判断はそのどちらでもありません。手法それ自体が直ちに違法となるわけではない一方で、譲渡価格が適正であれば安全というものでもなく、譲受先の選び方、社内の承認手続、債権者への対応、譲渡代金が実際にどこへ行ったか、旧会社をどの手続で処理するかまでを合わせて評価されます。
この記事では、倒産前の事業譲渡と第二会社方式について、適法性の考え方、財産逃しと評価され得る場面、適正価格の検討と証拠化、手続ルートの比較、雇用・契約・許認可の注意点、役員の責任、そして実行前に準備すべき資料を整理します。個別事情により結論は変わりますので、判断の枠組みと確認すべき項目を示すことを目的としています。
この記事で分かること
- 第二会社方式や倒産前の事業譲渡が、それ自体としては違法とされない理由と、その公的な裏付け
- 詐害行為取消し、会社法上の履行請求、倒産手続上の否認、役員の民事責任、刑事責任という五つの異なる責任の枠組み
- 適正価格を、金額・選定過程・譲渡代金の帰属という三つの層で検討する方法
- 私的整理、民事再生、破産のどのルートで実行するかによって変わる点
- 署名・支払・従業員説明の前に確認しておくべき資料と記録
事業譲渡の枠組みは、契約書に署名した後や代金を支払った後では組み直しが難しくなります。資料をご用意いただければ、選択肢と必要な手続を整理したうえで見通しを検討できます。
結論|第二会社方式は、それ自体が直ちに違法となるものではありません
第二会社方式や倒産前の事業譲渡は、それだけで直ちに違法となるものではなく、事業再生の方法になり得ます。実際、全国銀行協会が公表している「中小企業の事業再生等に関するガイドライン」のQ&A(令和8年3月16日一部改定)は、再生型私的整理手続において、事業を会社分割又は事業譲渡により別会社に譲渡した後、旧会社について特別清算手続等により実質的な債権放棄を得るという第二会社方式を選択することが「可能です」と明示しています。手法それ自体が禁じられているわけではないことは、この記載からも確認できます。
もっとも、同Q&Aは、その場合の事業再生計画の内容として、別会社へ譲渡する事業の内容、対象債権者への弁済内容、旧会社が事業譲渡の後に清算することを含み、対象債権者からこれらへの同意を得ることが必要になるとしています。つまり、公的な文書が第二会社方式に言及しているのは、あくまで債権者の同意を伴う枠組みの中での話です。同ガイドラインは法的拘束力を持つものではなく、手法全体を適法化する許可や安全港ではありません。
適法性や法的リスクは、譲渡価格の一点で決まるものではありません。次の要素を総合して評価されます。
| 着眼点 | 確認される事項 | 評価が分かれやすい場面 |
|---|---|---|
| 目的 | 事業と雇用を存続させるためか、債権者の追及を避けるためか。検討の経緯と時系列。 | 資金繰り破綻が目前に迫った時点で、外部への打診をせずに新会社を設立した場合。 |
| 価格 | 譲渡対象の範囲、継続企業価値と清算価値の比較、評価手法と基準日、偶発債務の扱い。 | 帳簿価額や固定資産税評価額だけで対価を決めた場合。のれんや顧客関係を無償とした場合。 |
| 選定過程 | 複数候補への打診の有無、比較の記録、選定理由、社外の助言。 | 相対交渉のみで決めた場合に、その理由が記録されていない場合。 |
| 譲受側との関係 | 役員、株主、親族、従業員など旧会社の関係者が譲受側にいるか。利益相反の管理。 | 代表者本人が設立した新会社が譲受先で、価格の検証を誰も行っていない場合。 |
| 代金の帰属と使途 | 約定した対価が現実に提供されたか。旧会社に利用可能な価値が残ったか。追跡できるか。 | 現金払と記載しながら相殺で決済した場合。入金後すぐ関係者へ流出した場合。 |
| 債権者対応 | 金融機関・取引先への説明の時期と内容、担保・保証・財務制限条項の確認。 | 実行後に事後報告のみを行った場合。一部の債権者にだけ先に弁済した場合。 |
| 会社法上の承認 | 取締役会決議、株主総会の特別決議、利益相反取引の承認、議事録の内容。 | 必要な承認を経ないまま契約を締結した場合。議事録が事後に作成された場合。 |
| 労務・契約・許認可 | 労働者の個別の承諾、契約上の地位の移転、許認可の承継要件、担保権者の同意。 | 従業員の承諾を得ないまま新会社で就労させた場合。 |
| 旧会社の処理 | その後の再生計画や清算工程が定まっているか。放置・休眠となっていないか。 | 事業だけ移して旧会社を放置し、債権者への説明も清算手続もしない場合。 |
ご注意 「適正価格で譲渡すれば安全」「第三者の評価書があれば適法」「銀行が同意すれば問題ない」「取引先の債権を残せば問題ない」といった単純な安全基準はありません。反対に、「親族や役員が設立した新会社への譲渡は違法」「低額譲渡なら犯罪」というのも正確ではありません。いずれも、要件と資料に照らして個別に判断される事柄です。
第二会社方式と倒産前の事業譲渡の基礎知識
第二会社方式は、法令上の単一の手続を指す言葉ではありません
第二会社方式は、法令に定義された制度の名称ではなく、実務上の再生手法を指す幅のある呼び方です。採算事業を別会社へ移し、旧会社に残った債務を清算等で処理するという全体の流れを指しますが、その中身は次のように分かれます。
- 事業を移す方法が、事業譲渡か、会社分割か
- 受け皿が、外部のスポンサー企業か、新たに設立した会社か
- 新会社の株主・役員が、外部の第三者か、旧会社の経営者・親族等か
- 旧会社の処理が、特別清算か、破産か、通常清算か
- 手続が、当事者間の個別交渉か、準則型私的整理か、法的整理か
この組合せによって、必要な手続も、後から問題になり得る論点も変わります。「第二会社方式」という一語で説明されている記事を読むときは、どの組合せを前提としているのかを確認する必要があります。
外部スポンサー型と、経営者等が関与する新会社型
外部のスポンサー企業が譲受先となる場合、価格や条件は独立した当事者間の交渉によって形成されるため、その過程自体が価格の合理性を示す資料になり得ます。これに対し、旧会社の役員、株主、親族、従業員などが譲受側に関与する場合は、価格や条件を決めた人と、その利益を受ける人が重なります。
この場合、関係者であるというだけで自動的に違法や否認の対象になるわけではありません。他方で、独立した評価や外部の助言があれば安全になるというものでもありません。実際、破産法161条2項は、相当の対価を得てした財産の処分行為の否認について、相手方が破産者である法人の取締役等、議決権の過半数を有する者、親族又は同居者である場合には、隠匿等の処分の意思を知っていたものと推定すると定めています。同様の推定は、破産法162条2項により偏頗行為の否認にも及びます。関係者が譲受側にいる場合は、認識の立証の面で慎重な検討を要する、というのが実務的な意味です。
事業譲渡と会社分割は、承継の仕組みが異なります
事業を移す方法として、事業譲渡と会社分割は、しばしば並べて説明されます。しかし、権利義務が移る仕組みが異なるため、必要な手続も、労働者や債権者の保護の仕組みも異なります。会社分割について述べられていることを、そのまま事業譲渡に当てはめることはできません。
| 項目 | 事業譲渡 | 会社分割 |
|---|---|---|
| 権利義務の移転 | 個別に移転させる。資産、契約上の地位、債務のそれぞれについて、相手方の同意や対抗要件の具備を個別に検討する。 | 分割計画・分割契約の定めに従い、包括的に承継される。 |
| 労働契約 | 労働契約承継法の適用はない。承継予定の労働者から、民法625条1項に基づく個別の承諾を得る必要がある。 | 会社分割に伴う労働契約の承継等に関する法律が適用される。同法1条は、適用対象を会社分割が行われる場合と定めている。 |
| 債権者保護の仕組み | 会社法上の一般的な債権者異議手続は予定されていない。個別の同意、担保解除、財務制限条項等を個別に確認する。 | 会社法上の債権者異議手続と、残存債権者の保護に関する規定が置かれている。 |
| 株主総会 | 会社法467条1項の要件に当たる場合に特別決議が必要となる。 | 会社法の組織再編の規律に従う。 |
| 許認可 | 原則として個別に取得し直す。承継の可否は根拠法令ごとに確認する。 | 根拠法令に承継の定めがある場合とない場合がある。 |
なお、契約書の表題が「事業譲渡契約書」となっているかどうかで、法的な性質が決まるわけではありません。移転する対象が、組織化され有機的一体として機能する財産といえるのか、それとも個々の資産の売買にとどまるのかは、対象の内容に即して検討されます。
旧会社に債務を残すこと自体と、債権者を害する取引は別の問題です
事業を移した結果として旧会社に債務が残ること自体は、第二会社方式の構造上、当然に生じます。問題とされるのは、その過程で債権者が本来受けられたはずの回収の機会が不当に失われたかどうかです。旧会社に残った財産と、そこから債権者が回収できる見込みが、事業譲渡をしなかった場合と比べてどうなったのかが、多くの論点の出発点になります。
財産逃しと評価され得る主な法的リスク
ここが実務上もっとも誤解の多いところです。「違法」「無効」「取消し」「否認」「損害賠償」「犯罪」は、それぞれ主体も要件も効果も異なります。ひとまとめに考えると、対策も的外れになります。
民法の詐害行為取消請求
債権者が、債務者のした行為を裁判所に請求して取り消す制度です。民法424条1項が一般的な要件を定め、行為の類型ごとに要件が加重されています。被保全債権は、その行為の前の原因に基づいて生じたものである必要があり(同条3項)、強制執行により実現することのできない債権では請求できません(同条4項)。
| 類型 | 根拠条文 | 主な要件 | 実務上の着眼点 |
|---|---|---|---|
| 一般類型 | 民法424条 | 債務者が債権者を害することを知ってした行為であること。受益者が行為の時に善意であったときは取り消せない。 | 受益者の認識が中心的な争点になりやすい。 |
| 相当の対価を得てした財産の処分 | 民法424条の2 | 財産の種類の変更により隠匿等の処分をするおそれを現に生じさせること、債務者に隠匿等の処分をする意思があったこと、受益者がその意思を知っていたこと。三つのいずれにも該当することが必要。 | 対価が相当であっても取消しの余地は残る。逆に、三要件のすべてを満たす必要がある点も重要。 |
| 既存債務への担保供与・債務消滅行為 | 民法424条の3第1項 | 支払不能の時に行われたこと、債務者と受益者が通謀して他の債権者を害する意図をもって行ったこと。 | 弁済期が来ている債務の支払であっても、要件を満たせば対象となり得る。 |
| 非義務行為・期限前の行為 | 民法424条の3第2項 | 支払不能になる前30日以内に行われたこと、通謀して害する意図があったこと。 | 義務のない担保供与や、期限前の弁済が典型。 |
| 過大な代物弁済等 | 民法424条の4 | 受益者の受けた給付の価額が消滅した債務の額より過大であること。民法424条の要件に該当するとき、過大部分について取消しができる。 | 債務の額を超える部分だけが対象になる。 |
訴えの提起には期間の制限があります。民法426条は、債務者が債権者を害することを知って行為をしたことを債権者が知った時から2年、行為の時から10年と定めています。
会社法23条の2による譲受会社への履行請求
民法の取消しとは別に、会社法23条の2は、事業譲渡の場面に固有の制度を置いています。譲渡会社が、譲受会社に承継されない債務の債権者(残存債権者)を害することを知って事業を譲渡した場合、残存債権者は、譲受会社に対し、承継した財産の価額を限度として、その債務の履行を請求することができます。譲受会社が事業譲渡の効力が生じた時において残存債権者を害することを知らなかったときは、この限りではありません。
行為を取り消して財産を戻す民法の制度とは異なり、承継した財産の価額を限度とする履行請求である点が特徴です。期間も別に定められており、同条2項は、譲渡会社が残存債権者を害することを知って事業を譲渡したことを残存債権者が知った時から2年以内に請求又は請求の予告をしないときは、その期間の経過により責任が消滅するとし、事業譲渡の効力が生じた日から10年を経過したときも同様としています。起算点が民法426条とは異なることに注意が必要です。
さらに、同条3項は、譲渡会社について破産手続開始の決定、再生手続開始の決定又は更生手続開始の決定があったときは、残存債権者はこの請求権を行使することができないと定めています。旧会社が倒産手続に入った後は、個々の債権者の請求ではなく、管財人等による否認等の枠組みに委ねられることになります。
商号やブランドを引き継ぐ場合の譲受会社の責任
会社法22条1項は、譲受会社が譲渡会社の商号を引き続き使用する場合には、譲受会社も譲渡会社の事業によって生じた債務を弁済する責任を負うと定めています。同条2項により、事業を譲り受けた後、遅滞なく責任を負わない旨を本店の所在地において登記した場合、又は譲受会社及び譲渡会社から第三者に通知した場合には、この責任は生じません。また、会社法23条1項は、商号を続用しない場合でも、譲渡会社の事業によって生じた債務を引き受ける旨の広告をしたときは、債権者が譲受会社に弁済を請求できるとしています。
期間の読み違いに注意 会社法22条3項と23条2項が定める2年は、いずれも「譲渡会社」の責任が消滅する期間です。譲受会社に対するすべての請求権が2年で消える、という意味ではありませんし、会社法23条の2第2項の期間とも別のものです。
なお、登記上の商号を変更すれば譲受会社の責任が常に生じない、というわけではありません。屋号、ブランド名その他の営業主体を示す表示を引き継いだ場合の扱いは、事案ごとに検討されています。裁判例の射程については、公開されている判決全文にあたって確認する必要があります。
倒産手続における否認
旧会社について破産手続、民事再生手続又は会社更生手続が開始されると、管財人等は、開始前にされた一定の行為を否認することができます。ここで重要なのは、事業譲渡そのものと、譲渡代金から特定の債権者だけに支払う行為とが、別々に評価されるという点です。
| 類型 | 根拠条文 | 主な要件 | 起算点・期間に関する注意 |
|---|---|---|---|
| 詐害行為の否認 | 破産法160条1項 | 破産債権者を害することを知ってした行為、又は支払の停止若しくは破産手続開始の申立てがあった後にした行為。受益者が善意であったときは否認できない。 | 行為の時点が、支払の停止等の前か後かで要件が変わる。 |
| 無償行為の否認 | 破産法160条3項 | 支払の停止等があった後、又はその前6か月以内にした無償行為及びこれと同視すべき有償行為。 | 相手方の認識を問わない類型。 |
| 相当の対価を得てした財産の処分行為の否認 | 破産法161条 | 財産の種類の変更により隠匿等の処分のおそれを現に生じさせること、破産者に隠匿等の処分の意思があったこと、相手方がその意思を知っていたこと。 | 相手方が役員、議決権の過半数を有する者、親族又は同居者であるときは、知っていたものと推定される(同条2項)。 |
| 偏頗行為の否認 | 破産法162条 | 既存の債務についての担保供与又は債務消滅行為で、支払不能になった後又は申立て後にされたもの。非義務行為は支払不能になる前30日以内のもの。 | 申立て前1年以内の支払の停止があった後は、支払不能であったものと推定される(同条3項)。 |
| 対抗要件の否認 | 破産法164条 | 権利の設定・移転・変更があった日から15日を経過した後、支払の停止等を知ってした対抗要件具備行為。 | 契約自体と、登記・登録等の具備行為は別に評価される。 |
期間の制限もあります。破産法166条は、破産手続開始の申立ての日から1年以上前にした行為については、無償行為の否認を除き、支払の停止があった後にされたことや支払の停止の事実を知っていたことを理由として否認することはできないとしています。また、破産法176条は、否認権は破産手続開始の日から2年、否認しようとする行為の日から10年を経過したときは行使できないと定めています。民事再生法139条、会社更生法98条にも同じ内容の規定があります。
ここから分かるのは、「倒産の何か月前までなら安全」という共通の期間は存在しないということです。支払不能、支払の停止、申立て、開始決定、そして取引の時点は、それぞれ別の概念であり、類型ごとに起算点も要件も異なります。
取締役等の民事責任
会社法423条1項は、取締役等が任務を怠ったときは、会社に対して損害賠償責任を負うと定めています。利益相反取引によって会社に損害が生じたときは、同条3項により、取引をした取締役、取引をすることを決定した取締役、承認決議に賛成した取締役は、任務を怠ったものと推定されます。承認決議に賛成しただけでも推定が及ぶ点は、実務上見落とされやすい部分です。
また、会社法429条1項は、役員等がその職務を行うについて悪意又は重大な過失があったときは、これによって第三者に生じた損害を賠償する責任を負うと定めています。もっとも、倒産の直前であること、あるいは債務超過であることだけを理由に、代表者が当然に個人責任を負うわけではありません。悪意又は重大な過失、損害、因果関係といった要件が、それぞれ検討されます。
逆に、株主である、実質的に会社を支配している、親族である、譲受会社側にいる、というだけで、取締役としての義務や責任が当然に生じるわけでもありません。会社法上の利益相反取引に当たるかどうかは、会社法356条1項各号の要件によって判断されます。会計や開示の場面で用いられる「関連当事者」という広い言葉と、会社法上の利益相反取引の該当性は、同じものではありません。
刑事責任は、それぞれ固有の要件を満たす場合に問題となります
廉価での譲渡であること、関連会社への譲渡であること、民事上の取消しや否認の余地があることだけで犯罪が成立するわけではありません。各罪には、主体、占有や任務の有無、目的や故意、損害、手続開始決定の確定といった固有の要件があります。
| 規定 | 根拠条文 | 主な要件 | 法定刑 |
|---|---|---|---|
| 詐欺破産罪 | 破産法265条 | 債権者を害する目的で、財産の隠匿・損壊、譲渡や債務負担の仮装、価格の減損、債権者に不利益な処分等をしたこと。破産手続開始の決定が確定したこと。 | 10年以下の拘禁刑若しくは1000万円以下の罰金、又は併科 |
| 特定の債権者に対する担保の供与等の罪 | 破産法266条 | 他の債権者を害する目的で、義務に属さない担保供与又は債務消滅行為をしたこと。破産手続開始の決定が確定したこと。 | 5年以下の拘禁刑若しくは500万円以下の罰金、又は併科 |
| 取締役等の特別背任罪 | 会社法960条 | 取締役等が、自己若しくは第三者の利益を図り又は会社に損害を加える目的で任務に背く行為をし、会社に財産上の損害を加えたこと。 | 10年以下の拘禁刑若しくは1000万円以下の罰金、又は併科(未遂も処罰。会社法962条) |
| 背任罪 | 刑法247条 | 他人のためにその事務を処理する者が、図利加害目的で任務に背く行為をし、本人に財産上の損害を加えたこと。 | 5年以下の拘禁刑又は50万円以下の罰金 |
| 強制執行妨害目的財産損壊等 | 刑法96条の2 | 強制執行を妨害する目的で、財産の隠匿・譲渡の仮装、価格の減損、金銭執行を受けるべき財産の無償その他の不利益な条件での譲渡等をしたこと。 | 3年以下の拘禁刑若しくは250万円以下の罰金、又は併科 |
| 横領罪・業務上横領罪 | 刑法252条・253条 | 自己の占有する他人の物を横領したこと。業務上占有する場合は業務上横領罪。 | 横領は5年以下の拘禁刑、業務上横領は10年以下の拘禁刑 |
破産法265条及び266条は、いずれも破産手続開始の決定が確定したことを要件としています。この点でも、民事上の否認の可否とは判断の構造が異なります。
適正価格だけでは足りない|価格・選定過程・売却代金の三層
ご相談の場で最も多い誤解が、「評価書をとって適正価格で売れば大丈夫」というものです。実際には、金額、そこに至る過程、代金がどうなったかという三つの層が、それぞれ別に検討されます。
第一層 譲渡対象の特定と価値の評価
まず、何を譲渡するのかを特定します。有形資産、在庫、売掛金、知的財産、顧客関係、のれん、契約上の地位、不動産、承継する負債の範囲です。この特定が曖昧なままでは、価格が適正かどうかを検討する土台がありません。
そのうえで、事業を継続した場合の価値と、清算した場合の価値を比較します。帳簿価額、固定資産税評価額、あるいは単一のDCF法の計算結果だけをもって適正と判断することはできません。複数の評価手法、基準日、前提条件、感応度の幅、そして偶発債務の扱いを併せて検討し、なぜその価格になったのかを説明できる状態にしておく必要があります。
非上場株式や事業の評価方法そのものについては、非上場株式の評価方法と買取価格の考え方を見るもあわせてご確認ください。
第二層 譲受先の選定過程
複数の候補に打診したのか、入札の形をとったのか、相対交渉のみだったのか。その選択にどのような理由があったのかが問われます。競争入札を行うことがすべての事案で法律上の要件とされているわけではありませんが、相対交渉のみで進めた場合には、なぜそれが合理的だったのかを説明できる資料が求められます。
また、比較の対象は提示価格だけではありません。資金を実際に調達できる見込み、クロージングの条件、事業を継続できる体制があるか、雇用や取引先への影響はどうか、といった実行可能性も含めて評価されます。中小企業庁は中小M&Aガイドラインを公表しており、譲渡側が準備すべき情報の整理の参考になります。
役員、株主、親族その他の関係者が譲受側にいる場合は、独立した立場からの評価、利益相反の管理、社内の承認、外部の助言、そして債権者への説明が、より重要になります。これらは有力な資料になり得ますが、すべての事案で法律上必須とされているわけではなく、また、これらを備えたからといって否認や取消しの可能性が消えるわけでもありません。
第三層 譲渡代金が旧会社に実際に残ったか
ここが最も見落とされやすい層です。契約書に記載された対価の額が相当であっても、その対価が現実に提供されず、旧会社や債権者にとって利用可能な価値が残っていなければ、評価は変わります。決済の方法によって、法的な効果も異なります。
| 支払方法 | 主な確認事項 | 留意点 |
|---|---|---|
| 現金払 | 旧会社名義の口座への着金、着金後の資金移動、関係者への流出の有無。 | 入金と流出が短期間に連続している場合、実質的に対価が残っていないと評価される余地がある。 |
| 相殺 | 相殺に用いる自働債権の発生原因と時期、債権譲渡を介した相殺かどうか。 | 倒産手続では相殺の可否に制限がある。額面上の対価が相殺で消えた場合、旧会社に残る価値は減る。 |
| 債務引受け | 引き受ける債務の範囲、債権者の承諾の有無、免責的か併存的か。 | どの債権者の債務を引き受けるかによって、債権者間の公平の評価が変わる。 |
| 債権者への直接払 | どの債権者に、どの順序で、どの根拠に基づいて支払ったか。 | 偏った弁済と評価される余地がある。費目が賃金や公租公課であっても、当然に問題がないとはいえない。 |
代金の使途についても、同様の検討が必要です。仕入先への支払、賃金、公租公課など、どの費目であれば常に安全という区分はありません。優先順位、支払の根拠、支払の時期をそれぞれ確認します。
残すべき記録と証拠
後から説明を求められたときに、当時の判断が合理的であったことを示せるかどうかは、記録の有無に左右されます。次のものは、実行前から保存しておくことをおすすめします。
- 事業価値評価書と、その前提条件・基準日が分かる資料
- 候補先への打診記録、受領したすべての提案、条件の比較表
- 選定理由を記載した書面と、その決定に至る交渉経過
- 取締役会・株主総会の招集資料と議事録
- 利益相反の関係を整理した資料と、承認手続の記録
- 債権者・金融機関への説明資料と、説明の日時・出席者
- 譲渡代金の入出金記録と、その後の資金使途が追える帳簿
- 社内外のメール、チャット等、意思決定の時系列が分かる電子データ
価格の妥当性、選定過程、代金の帰属は、実行後に資料を作り直すことができません。契約書への署名、代金の支払、従業員への説明の前であれば、選択肢と必要な手続を整理したうえで進め方を検討できます。
どの手続で行うか|私的整理・法的整理の比較
同じ事業譲渡でも、どの枠組みの中で行うかによって、透明性、第三者の関与、実行までの時間、そして手続が拘束する債権者の範囲が変わります。
| ルート | 第三者・裁判所の関与 | 拘束が及ぶ範囲 | 主な注意点 |
|---|---|---|---|
| 当事者間の個別交渉による事業譲渡 | なし。当事者の判断で進める。 | 合意した当事者のみ。 | 価格と選定過程を検証する仕組みが外部にないため、後日の説明資料を自ら整えておく必要がある。 |
| 中小企業活性化協議会による再生支援 | 協議会が計画策定を支援し、債権者間の調整と成立後のモニタリングを行う。 | 同意した対象債権者。 | 再生支援実施要領は、計画の内容として、実質的な債務超過の解消年数、黒字転換、有利子負債の対キャッシュフロー比率、清算価値保障、債権者間の衡平といった考え方を示している。 |
| 中小企業の事業再生等に関するガイドラインによる私的整理 | 弁護士・公認会計士等のうち適格認定を得た第三者支援専門家が、計画案の相当性及び実行可能性を調査する。 | すべての対象債権者が同意した場合に成立する。多数決ではない。 | 対象債権者は原則として金融機関、信用保証協会、サービサー等及び貸金業者であり、必要なときはその他の債権者を含む。ガイドライン自体に法的拘束力はない。 |
| 特定調停・事業再生ADR | 特定調停は裁判所の調停手続を利用する。日本弁護士連合会が事業再生型・廃業支援型の手引を公表している。 | 調停が成立した当事者。 | このほか事業再生ADRも選択肢となり得る。いずれについても、利用の条件と対象は運営主体が公表している資料で確認する。 |
| 民事再生手続における事業譲渡 | 再生手続開始後の事業の全部又は重要な一部の譲渡には裁判所の許可が必要(民事再生法42条1項)。再生債権者及び労働組合等の意見を聴く。 | 手続に参加する再生債権者。 | 債務超過の場合には、株主総会決議に代わる許可(代替許可)を得る道がある(民事再生法43条)。 |
| 破産手続における事業譲渡 | 破産管財人が行い、裁判所の許可が必要(破産法78条2項3号)。労働組合等の意見を聴く(同条4項)。 | 破産手続に参加する債権者。 | 許可を得ないでした行為は無効とされる(同条5項)。事業価値の劣化が進んだ後になりやすい。 |
| 会社更生手続における事業譲渡 | 開始後は原則として更生計画によるが、計画案を決議に付する決定の前は管財人が裁判所の許可を得て行える(会社更生法46条)。 | 手続に参加する更生債権者等。 | 株式会社を対象とする手続であり、規模や事案の性質に応じて選択される。 |
| 特別清算による旧会社の処理 | 特別清算開始の命令後、清算株式会社が事業の全部の譲渡等をするには裁判所の許可が必要(会社法536条1項)。 | 手続に参加する債権者。 | 特別清算は「第二会社方式そのもの」ではなく、事業譲渡や会社分割の後に旧会社を処理する選択肢の一つ。 |
私的整理と法的整理を単純化しないこと
「私的整理は公表されない」「金融機関の全員同意があれば全債権者を拘束できる」「取引先の債権は常に対象外」「法的整理なら取引に争いが生じない」という説明は、いずれも正確ではありません。制度ごとに、対象となる債権者の範囲、同意の意味、裁判所や第三者の関与の程度、そして法的な拘束力が異なります。
特に注意が必要なのは、私的整理における同意の効果です。中小企業の事業再生等に関するガイドラインでは、すべての対象債権者が同意した時点で事業再生計画が成立するとされています。同意しなかった債権者を多数決で拘束する仕組みではありません。
旧会社の処理まで含めて計画すること
事業を移した後、旧会社をどう処理するかは、計画の一部として最初から検討しておく必要があります。事業だけを移して旧会社を休眠状態のまま置いたままにすると、債権者への説明も、清算に伴う税務処理も、役員の責任の整理も、いずれも未処理のまま残ります。特別清算、破産、通常清算のいずれを選ぶのかは、残る債務の額、債権者の同意の見込み、資料の状況によって変わります。
公開時点で施行されていない制度について 経済産業省は、令和8年12月11日からの施行に向けて、いわゆる早期事業再生法に関するQ&A等を公表しています。この記事の最終調査日である令和8年9月3日の時点では施行前であり、現に利用できる手続ではありません。施行後に利用を検討する場合は、政省令を含む最新の情報を確認してください。
雇用・契約・許認可・担保・税務の注意点
雇用は自動的には移りません
事業譲渡では、労働契約は当然には新会社に移りません。民法625条1項は、使用者は労働者の承諾を得なければその権利を第三者に譲り渡すことができないと定めており、承継予定の労働者から個別の承諾を得る必要があります。
この点について、厚生労働省の「事業譲渡又は合併を行うに当たって会社等が留意すべき事項に関する指針」(令和8年厚生労働省告示第11号による改正後のもの。令和8年5月25日適用)は、承継予定労働者から民法625条1項の規定に基づく個別の承諾を得る必要があるとしたうえで、真意による承諾を得られるよう、事業譲渡に関する全体の状況等について十分に説明し、承諾に向けた協議を行うことが「適当」であるとしています。また、労働者の過半数で組織する労働組合、それがない場合は労働者の過半数を代表する者との協議その他これに準ずる方法によって、労働者の理解と協力を得るよう「努めることが適当」であるとし、承継されない労働者については、雇用関係を維持するための相応の措置を講ずる「必要」があることに留意すべきであるとしています。法律上の義務と、指針が求める対応とを区別して読む必要があります。
労働者が承諾しなかったこと、あるいは事業譲渡が行われたことだけを理由に解雇が有効になるわけではありません。労働契約法16条は、解雇は客観的に合理的な理由を欠き社会通念上相当であると認められない場合には権利の濫用として無効とすると定めています。承継の対象者を選ぶ基準が差別的でないか、労働組合の活動を理由としていないかも、あわせて検討する必要があります。労務面の整理については、労働法務の取扱業務を見るもご参照ください。
契約上の地位、債権、債務は個別に確認します
売買、賃貸借、リース、融資、担保、保証、知的財産のライセンス、顧客データの取扱い、補助金の交付決定など、承継の要件は契約や根拠法令ごとに異なります。「事業譲渡だから自動的に移る」「事業譲渡だから移らない」と一括りにすることはできません。相手方の承諾が必要なもの、通知で足りるもの、そもそも移転できないものを、一覧にして仕分けする作業が必要になります。
許認可は原則として個別に確認します
建設業、運送業、飲食業、産業廃棄物処理業など、許認可を要する事業では、譲受会社が改めて許可を取得する必要があるのか、承継の手続が用意されているのかを、根拠法令ごとに確認します。許可が下りるまでの期間が事業の停止期間になり得るため、譲渡の実行日を決める前に確認しておく項目です。
企業価値担保権が設定されている場合
事業性融資の推進等に関する法律に基づく企業価値担保権が設定されている場合は、注意が必要です。同法20条2項は、定款で定められた目的及び取引上の社会通念に照らして通常の事業活動の範囲を超える担保目的財産の使用、収益及び処分をするには、その対象となる財産について、すべての企業価値担保権者の同意を得なければならないとし、その例として重要な財産の処分、事業の全部又は重要な一部の譲渡を挙げています。同条3項は、これに違反して行った債務者の行為は無効とするとしたうえで、善意でかつ重大な過失がない第三者には対抗できないとしています。
もっとも、少額の資産処分のすべてに一律の同意が必要になるという意味ではありません。まず、企業価値担保権が設定されているかどうかを、登記と契約で確認することが出発点になります。
税務・会計は法務と分けて検討します
事業譲渡や第二会社方式には、譲渡益、債務免除益、繰越欠損金、消費税、不動産に関する税、第二次納税義務など、税務上の論点が伴います。これらは会計上の処理とも、会社法上の論点とも別のものであり、事実関係の確認と国税庁等の資料に基づく検討が必要です。「第二会社方式なら節税できる」といった説明を前提に手続を組み立てることは適切ではありません。税務の取扱いについては、顧問税理士と早い段階で情報を共有し、法務面の検討と並行して進めることをおすすめします。
役員の責任が問題となりやすい場面と、記録の残し方
問題になり得る場面
これまで述べてきた論点が重なると、役員の責任が正面から争われることがあります。実在の事案としてではなく、一般化された類型として、次のような場面が問題になり得ます。
- 複数の評価を行わず、帳簿価額だけで対価を決め、その理由の記録も残していない場合
- 代表者や親族が設立した新会社へ譲渡したが、社内の承認手続を経ていない場合
- 譲渡代金が旧会社の口座に入金された後、短期間で関係者へ流出している場合
- 一部の債権者にだけ先に弁済し、他の債権者には説明していない場合
- 債権者や金融機関に対し、事実と異なる財務資料を提示した場合
- 会計帳簿や電子データを破棄・改変した場合
責任を抑えるとは、隠すことではありません
この記事でいう「責任を抑える」とは、債権者から発見されにくくすることではありません。むしろ逆で、適切な承認を経ること、独立した立場からの評価を得ること、複数の選択肢を比較すること、関係者に説明すること、そして記録を保全することを意味します。
すでに取引を実行してしまった場合も同じです。資料を修正したり廃棄したりせず、送金記録と意思決定の過程をそのまま保全したうえで相談することが、結果的にご自身を守ることにつながります。粉飾の疑いがある決算書を金融機関に提出していた場合の考え方については、粉飾決算で融資を受けた会社の破産に関する記事を読むもあわせてご確認ください。
- 会計帳簿、伝票、通帳、メール、チャットを削除・改変しない
- 譲渡契約書、評価資料、議事録の日付を後から書き換えない
- 新会社への資金移動、役員貸付、役員報酬の変更をいったん止めて確認する
- 債権者からの照会には、事実と異なる回答をしない
- 署名や支払を求められている書面があれば、期限を確認したうえで相談する
実行前チェックリスト
ご相談の際に次の資料をご用意いただけると、選択肢の整理と見通しの検討を早く進められます。すべてがそろっていなくても構いません。上から順に優先度が高いものです。
資金繰りと財務
- 13週間程度の資金繰り表、支払予定、資金が不足する見込み日
- 直近の月次試算表、直近3期分の決算書、税務申告書
- 総勘定元帳、事業別・部門別の損益が分かる資料
- 債権者一覧(債務の発生原因、残高、支払期日)
- 滞納している公租公課、未払賃金、未払退職金の額と期間
担保・保証・登記
- 不動産・動産・債権の担保設定契約書と登記事項証明書
- 経営者保証、第三者保証の契約書
- 企業価値担保権の設定の有無と、その登記・契約
- 財務制限条項の有無が分かる金銭消費貸借契約書
譲渡対象と評価
- 譲渡対象となる資産、在庫、売掛金、知的財産、顧客、契約、賃貸借、リース、許認可、補助金の一覧
- 清算貸借対照表と、事業価値の評価書(前提条件を含む)
- スポンサー候補の一覧、打診・入札・交渉の記録、条件の比較表
- 譲渡契約案、基本合意書
社内承認と意思決定
- 定款、登記事項証明書、株主名簿
- 取締役会・株主総会の招集資料と議事録
- 役員・株主・親族と譲受会社との関係を整理した図
- 検討開始から現在までの時系列と、関係する電子データ
労務・債権者対応・代金管理
- 従業員名簿、労働条件通知書、就業規則、賃金台帳
- 労働組合又は労働者代表の有無、説明の予定
- 金融機関・主要取引先への説明資料と説明時期の予定
- 譲渡代金の入金予定口座、代金の使途に関する計画
- 旧会社をどの手続で処理するかの方針
弁護士に相談するタイミング
倒産前の事業譲渡は、倒産法務とM&A法務の両方が同時に関わる場面です。片方だけを前提に組み立てると、後から手続をやり直せない部分が残ります。次のいずれかの前に、いったん確認しておくことをおすすめします。
- 新会社を設立する前、又はスポンサー候補を1社に絞る前
- 基本合意書に署名する前
- 取締役会・株主総会を開催する前
- 事業譲渡契約書に署名する前
- 譲渡代金の支払又は受領を行う前
- 従業員へ説明する前
- 主要取引先・金融機関へ説明する前
- 一部の債権者へ弁済する前、又は倒産手続の申立てをする前
相談によって結論が保証されるわけではありませんが、選択肢、必要な資料、手続の順序、説明の方針を整理することはできます。すでに事業を移した後であっても、記録の保全と現状の把握のために相談していただく意味があります。資金繰りの段階での初動については、会社の資金繰りが厳しいときの初動と相談先に関する記事を読むもご参照ください。
よくある質問
第二会社方式は、それ自体が違法なのですか。
それ自体が直ちに違法となるものではありません。中小企業の事業再生等に関するガイドラインのQ&Aも、再生型私的整理手続において第二会社方式を選択することは可能であるとしています。ただし、これは対象債権者の同意を伴う枠組みを前提とした記載であり、手法全体を適法化するものではありません。価格、選定過程、代金の帰属、債権者対応、旧会社の処理を含めて評価されます。
適正価格で事業譲渡すれば、財産逃しとは評価されませんか。
価格が相当であることは重要な要素ですが、それだけで安全といえるものではありません。民法424条の2や破産法161条は、相当の対価を得た処分行為であっても、財産の種類の変更により隠匿等の処分のおそれを現に生じさせること等の要件を満たす場合には、取消しや否認の対象となり得ることを前提としています。対価が現実に旧会社に残ったかどうかも、あわせて確認されます。
帳簿価額で売れば適正価格といえますか。
帳簿価額は取得原価に基づく数値であり、事業の価値を示すものではありません。のれんや顧客関係が対価に反映されていない場合、実質的に低額での譲渡と評価される余地があります。継続企業価値と清算価値の比較、複数の評価手法、基準日、偶発債務の扱いを含めて検討する必要があります。個別事情により結論は変わります。
社長や親族が新会社を作って譲り受けることはできますか。
関係者が譲受側になること自体が禁じられているわけではありません。ただし、破産法161条2項は、相手方が破産者である法人の取締役等、議決権の過半数を有する者、親族又は同居者であるときは、隠匿等の処分の意思を知っていたものと推定するとしており、認識の立証の面で扱いが異なります。会社法上の利益相反取引に当たる場合の承認手続、独立した評価、社内の記録が重要になります。
メインバンクが同意すれば問題ありませんか。
主要な金融機関の同意は重要ですが、それだけで足りるとはいえません。私的整理では、同意していない債権者を多数決で拘束する仕組みはありません。また、取引先などの債権者や、後に選任される破産管財人等との関係は、金融機関の同意によって当然に解決されるものではありません。どの範囲の債権者を対象とするのかを、手続の選択とあわせて確認する必要があります。
事業譲渡後の売却代金を、賃金や仕入先への支払に使えますか。
費目によって常に安全という区分はありません。民法424条の3や破産法162条は、既存の債務についての担保供与や債務消滅行為について、支払不能の時期や義務に属するかどうかを要件としています。賃金や公租公課は優先的な扱いを受ける場面がありますが、支払の時期、根拠、他の債権者との関係を個別に確認する必要があります。支払の前にご相談ください。
従業員、取引契約、賃貸借、許認可は新会社へ自動的に移りますか。
事業譲渡では自動的には移りません。労働契約については、民法625条1項に基づく個別の承諾が必要です。契約上の地位や債権債務は、相手方の承諾や対抗要件の具備を個別に検討します。許認可は、根拠法令ごとに承継の可否と手続が異なります。一覧を作って仕分けする作業が、実行日を決める前に必要になります。
すでに新会社へ事業を移した後でも相談できますか。
相談していただけます。実行後であっても、資料の保全、資金の流れの把握、旧会社の処理方針の検討、債権者への説明方針の整理といった対応が残っています。この段階で最も避けたいのは、帳簿や電子データを修正・廃棄することです。現状のまま資料をご持参いただければ、状況を確認したうえで対応方針を検討します。
まとめ
- 第二会社方式や倒産前の事業譲渡は、それ自体が直ちに違法となるものではなく、事業再生の方法になり得ます。公的なガイドラインのQ&Aも選択可能な手法として扱っています。
- ただし、適法性は価格だけで決まりません。目的、選定過程、譲受側との関係、代金の帰属と使途、債権者対応、会社法上の承認、労務・契約・許認可、旧会社の処理を総合して評価されます。
- 民法の詐害行為取消し、会社法23条の2の履行請求、倒産手続上の否認、役員の民事責任、刑事責任は、それぞれ主体・要件・効果・期間が異なります。ひとまとめにせず、個別に確認してください。
- 「倒産の何か月前までなら安全」という共通の期間はありません。支払不能、支払の停止、申立て、開始決定は別の概念です。
- 譲渡代金は、約定した方法で現実に提供され、旧会社に利用可能な価値が残り、その後の使途を追跡できる状態にしておく必要があります。
- 次の安全な行動は、譲渡を急いで実行することではなく、資料と電子データを保全し、署名・支払・社内決議・従業員説明・債権者説明の前に確認することです。
倒産前の事業譲渡は、契約、労務、担保、税務、そして倒産手続の選択が同時に関わります。資金繰り表、決算書、債権者一覧、譲渡契約案などをご用意いただければ、選択肢と必要な手続を整理したうえで、進め方を検討できます。事業を移した後の段階でもご相談いただけます。
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監修者
弁護士法人ひょうご支所 神戸みらい法律会計事務所
代表弁護士・公認会計士 藤井 貴之
兵庫県弁護士会 所属
日本公認会計士協会兵庫会 所属
参考資料
この記事は、令和8年9月3日を最終調査日とする一般的な法情報です。法令、制度、指針の内容は改正されることがあり、個別の事案における結論は、契約書、会計資料、資金移動の記録及び取引の経緯を確認したうえでなければ判断できません。具体的な対応については、弁護士にご相談ください。

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