自己破産を検討していると、「財産がほとんどないから、すぐに終わる手続になるはずだ」「保険や退職金があると、管財事件になって費用がかかるらしい」「同時廃止と管財事件は、こちらで選べるのだろうか」といった疑問に行き当たります。神戸地方裁判所へ申し立てる場合も同じです。
結論から申し上げると、同時廃止事件とするか破産管財事件とするかを、申立人が選ぶことはできません。申立ての方針を検討し、資料をそろえて説明することはできますが、最終的な振分けは、提出された資料と個別の事情を踏まえて裁判所が判断します。判断の材料は「財産の額」だけではなく、「調査の必要があるかどうか」という別の軸もあります。
神戸地方裁判所は、本庁・各支部の破産係が平成29年(2017年)6月1日に策定した「破産事件の振り分け基準」により、振分けの取扱いを管内で統一しています。この記事では、破産法が定める同時廃止の位置付けを整理したうえで、この基準にそって、財産の項目ごとに何を確認されるのか、財産が少なくても管財事件となるのはどのような場合か、相談前に何をそろえておくとよいのかを説明します。
この記事で紹介する基準の位置付けについて
金額の基準は、神戸地方裁判所 本庁・各支部破産係が平成29年6月1日に策定した「破産事件の振り分け基準」に定められたものです。同基準が現在も改訂されずに用いられていることは、2026年9月2日時点で当事務所の弁護士が確認しています。
もっとも、これは法律や規則ではなく、裁判所の運用に関する基準です。運用は改定されることがありますし、基準の各項目には「特段の事情が認められる場合」「例外的な事情が認められる場合」という除外事由が置かれています。数値を当てはめれば結論が出るというものではありません。実際に申し立てる際は、申立時点の取扱いを申立先の裁判所又は弁護士にご確認ください。
手元の財産が振分けにどう影響するかは、通帳、保険証券、車検証などの資料を確認しなければ判断できません。ご自身で財産を動かす前に、資料を持参してご相談いただくと、申立ての方針を整理しやすくなります。
ご相談のご予約は、お電話又はLINE・メールで承っています。
結論 振分けは「財産の額」と「調査の必要性」の二段階で判断されます
そもそも、どちらになると何が変わるのか
破産管財事件になると、裁判所が破産管財人を選任します。破産管財人とは、破産手続において破産財団に属する財産の管理及び処分をする権利を有する者です(破産法第2条第12項)。財産の調査、換価、債権者への配当といった手続が行われるため、その費用として予納金を納める必要があり、手続に要する期間も長くなります。同時廃止事件は、破産手続の開始と同時に手続を廃止する扱いですので、この過程がありません。費用と期間、手続中に求められる対応が変わりますから、申立ての前に自分の財産がどう評価されるのかを整理しておく意味があります。
判断は二段階で行われます
| 段階 | 基準上の位置付け | 見られる内容 |
|---|---|---|
| 第一段階 財産の額 | 「同時廃止事件として取り扱うことができないもの」(基準第2)。特段の事情が認められる場合を除き、同時廃止として扱えないとされています。 | 現金、預貯金、保険、退職金、敷金、過払金、債権、車、不動産などについて、項目ごとの評価額と、その積算総額。あわせて、申立てに近接する時期の換価や、否認の対象となり得る処分行為の有無。 |
| 第二段階 調査の必要性 | 「同時廃止事件として取り扱うことが相当でないもの」(基準第3)。例外的な事情が認められる場合を除き、同時廃止として扱うことが相当でないとされています。 | 法人の代表者であったか、個人事業を営んでいたか、財産関係や借入れの経緯が資料から十分に分かるか、否認の対象となり得る行為がないか、免責について調査を要する事情がないか。 |
最初に押さえておきたい五点
- 同時廃止か管財事件かを、申立人が選ぶことはできません。裁判所が判断します。
- 財産の額が基準を下回っていても、調査の必要があれば管財事件として扱われます。
- 同時廃止になったからといって、それだけで借金の支払義務がなくなるわけではありません。免責の判断は別に行われます。
- 申立て前に財産を動かすと、かえって説明を求められる事項が増えます。自己判断で処分せず、資料を残してご相談ください。
- 同時廃止を前提に準備していても、提出した資料や説明の結果、管財事件として取り扱われることがあります。
前提となる法律上の仕組み
破産法では、破産管財人を選任する手続が原則です
破産手続とは、債務者の財産などを清算する手続です(破産法第2条第1項)。個人の場合、裁判所は、債務者が支払不能にあるときに破産手続を開始します(同法第15条第1項)。
そして同法第31条第1項は、「裁判所は、破産手続開始の決定と同時に、一人又は数人の破産管財人を選任し、かつ、次に掲げる事項を定めなければならない」と定めています。つまり、破産手続開始の決定をするときは、破産管財人を選任するのが原則の形です。
同時廃止は、その例外として定められています。同法第216条第1項は、「裁判所は、破産財団をもって破産手続の費用を支弁するのに不足すると認めるときは、破産手続開始の決定と同時に、破産手続廃止の決定をしなければならない」と定めています。破産管財人が動くための費用すら財産から出せない場合に、手続を開始すると同時に終わらせる扱いです。
「予納金を払えないから同時廃止になる」わけではありません
ここは誤解が多いところです。破産法第216条第2項は、「前項の規定は、破産手続の費用を支弁するのに足りる金額の予納があった場合には、適用しない」と定めています。費用に足りる予納があるときは、同時廃止にはならないという関係です。予納金を用意できないことが、同時廃止につながるわけではありません。
むしろ、費用の予納がないことは、破産手続開始の決定そのものの障害になり得ます。同法第22条第1項は費用の予納を義務付け、第30条第1項は、破産手続開始の原因となる事実があると認めるときでも、「破産手続の費用の予納がないとき」(第一号)などに当たる場合を除いて開始決定をする、という構造を採っています。なお、同法第23条第1項には、裁判所が費用を仮に国庫から支弁できる場合の定めがあります。
費用には、申立手数料(収入印紙)、連絡用の郵便料、官報公告のための費用、破産管財人が選任される場合の予納金、そして弁護士に依頼する場合の弁護士費用があり、それぞれ別のものです。金額は裁判所ごとに異なり、改定されることもあります。裁判所の案内でも、必要書類や費用は「裁判所ごとに異なりますので、申立先の裁判所へ確認してください」とされています。費用については、弁護士費用を確認するページと、申立先の裁判所の最新の案内をご覧ください。
振分け、自由財産、換価、免責は、それぞれ別の問題です
相談の場で最も混同されやすいのが、この四つです。
| 概念 | 何を決めるものか | 根拠・注意点 |
|---|---|---|
| 振分け | 同時廃止事件として進めるか、破産管財人を選任する管財事件として進めるか。手続の形を決めるものです。 | 破産法第31条第1項、第216条。具体的な取扱いの基準は裁判所ごとに定められており、内容は異なり得ます。 |
| 破産財団と自由財産 | どの財産が清算の対象になり、どの財産が手元に残るか。 | 破産財団とは、破産管財人にその管理及び処分をする権利が専属する財産です(同法第2条第14項)。同法第34条第1項が範囲を定め、同条第3項各号が破産財団に属しない財産を、同条第4項が裁判所によるその範囲の拡張を定めます。 |
| 実際の換価 | 破産財団に属する財産を、実際にお金に換えるかどうか。 | 評価額が付いた財産が、常にそのまま換価されるとは限りません。管財人の判断や手続の経過によります。 |
| 免責 | 破産債権について支払義務を免れるかどうか。 | 同法第252条第1項各号が免責不許可事由を定め、同条第2項に、事情を考慮して免責を許可することができる旨の定めがあります。免責許可の決定が確定しても、同法第253条第1項ただし書の各号に当たる請求権については責任を免れません。 |
「現金は99万円まで残せる」という説明の正確な意味
破産法第34条第3項第一号は、破産財団に属しない財産として「民事執行法…第百三十一条第三号に規定する額に二分の三を乗じた額の金銭」を挙げています。民事執行法施行令第1条は、この額を「六十六万円とする」と定めていますので、66万円に2分の3を乗じた99万円が導かれます。
対象とされているのは「金銭」です。同じ99万円でも、預貯金は金銭そのものではなく金融機関に対する債権ですから、両者が法律上まったく同じ扱いになるわけではありません。
さらに重要なのは、これが「手元に残るかどうか」の話であって、「同時廃止になるかどうか」の話ではないことです。神戸地方裁判所の振分基準は、現金と流動性預貯金を合わせて50万円以上であれば同時廃止として扱えないとしたうえで、99万円以下の現金自体は法定の自由財産であるものの、他の財産が存在する相応の蓋然性が類型的に認められるため、財産調査型の管財事件として取り扱う旨を明記しています。手元に残せる範囲の詳細は、自己破産で手元に残せる財産・自由財産を確認する記事をご覧ください。
神戸地方裁判所の振分基準の位置付け
どのような基準か
「破産事件の振り分け基準」は、神戸地方裁判所 本庁・各支部破産係が平成29年6月1日に策定した基準です。本文と、別紙の「補足説明」で構成されています。
附則により、平成29年10月1日以降に神戸地方裁判所(本庁・支部を問わない)に係属した全ての破産事件に適用され、平成29年9月30日より前に係属した事件は、なお従前の例によるとされています。基準となるのが「申立日」ではなく「係属した」時点である点にご注意ください。従前の同裁判所第3民事部破産係「同時廃止事件の処理基準」(平成17年1月1日実施、平成28年3月31日最終改訂)は廃止されています。
別紙の補足説明には、策定の主な趣旨として、管内(本庁及び各支部)での基準の統一、従前の処理基準の実質的な見直し(流動性預貯金の取扱い、清算配当すなわち按分弁済の廃止など)、そして既に定着していながら基準としては明示されていなかった運用の明示(個別財産の評価方法など)の三点が挙げられています。また、この基準は振分けについて定めるものであり、「S管財事件の処理要領」その他の運用基準・要領を併せて変更するものではない旨も明記されています。
同時廃止の対象となる事件の範囲
基準第1は、同時廃止事件として取り扱うものを「自然人による自己破産申立事件」のうち一定のものに限り、それ以外の全ての事件を管財事件として取り扱うとしています。したがって、この基準の下では、法人の破産事件や、債権者から申し立てられた事件は、同時廃止の対象とされていません。
法人の代表者が、法人と個人の破産を併せて申し立てる場合、法人側の手続と個人側の手続は別に扱われます。以下で説明する財産の基準額は、あくまで個人側の申立てについてのものであり、法人の財産にそのまま当てはめるものではありません。なお、これは神戸地方裁判所の振分けに関する運用上の取扱いであって、破産法が法人について同時廃止を一律に排除しているという意味ではありません。
法律ではなく、裁判所の運用基準です
この基準は、法律や規則ではありません。破産法や破産規則に、財産が何円以上なら管財事件とする、といった全国一律の数値基準は置かれていません。神戸地方裁判所管内の裁判所に係属した破産事件に適用される運用基準であり、他の裁判所には他の裁判所の取扱いがあります。他庁の金額や呼称をそのまま当てはめることはできません。
「特段の事情」と「例外的な事情」
基準の各柱書には除外事由が置かれています。財産の額による第2の各項目には「特段の事情が認められる場合を除き」、調査の必要性による第3の各類型には「例外的な事情が認められる場合を除き」という限定です。
補足説明によれば、個別の事案における特別な事情は第2の「特段の事情」の判断で考慮され、この考慮は、後で述べる否認対象行為のみなしや申立てに近接する時期の換価の場面にも及びます。また、個人事業の実情(業種、規模など)は、第3柱書の「例外的な事情」の判断で考慮されます。数値や類型に形式的に当てはまることと、実際の振分けとは、そのまま一致するわけではありません。
財産の額から見た振分基準
基準第2は、次のいずれかに該当するときは、特段の事情が認められる場合を除き、同時廃止事件として取り扱うことができないとしています。項目ごとに、評価の対象、控除するもの、合算の単位が定められています。
| 財産区分 | 評価の対象と控除するもの | 合算の単位 | 基準額 | 注意点 |
|---|---|---|---|---|
| 現金・流動性預貯金 | 現金と、普通預金・通常貯金などの全ての流動性預貯金の残高。相殺の対象となるものは、その見込額を控除した残額。 | 現金と流動性預貯金を通算 | 合わせて50万円以上 | 流動性預貯金は法定の自由財産ではありませんが、振分けでは現金に準じて扱われます。 |
| 定期性預貯金 | 全ての定期性預貯金の預入額。相殺の対象となるものは、相殺見込額を控除した残額。 | 全ての定期性預貯金を合算 | 合わせて20万円以上 | 流動性預貯金とは別枠で判断されます。 |
| 保険・共済 | 解約返戻金等の見込額。 | 全ての保険・共済を合算 | 合わせて20万円以上 | 一件ごとは少額でも、合計で基準額に達することがあります。 |
| 退職金(退職時期が未定又は退職予定時期が1年以上先) | 申立時点における自己都合退職時の支給見込額の8分の1相当額。使用者からの借入金による相殺は原則として認められ、その見込額を控除した残額で算定されます。 | 当該残額の8分の1相当額で判断 | 20万円以上 | 在職中で退職の予定がなくても対象になります。 |
| 退職金(退職済み又は退職予定時期が1年未満) | 支給額ないし支給見込額の4分の1相当額。相殺の扱いは上記と同じです。 | 当該残額の4分の1相当額で判断 | 20万円以上 | 退職の時期により、8分の1と4分の1の区分が変わります。 |
| 賃借保証金・敷金(居住用物件) | 差入額(敷引があるときは敷引後の残額)から、原状回復・明渡費用相当額(原則として60万円とみなされます)及び未払賃料等の実額を控除した残額。 | 物件ごとの残額 | 20万円以上 | その余の物件とは扱いが異なります。 |
| 賃借保証金・敷金(その余の物件) | 返戻見積実額。 | 物件ごとの実額 | 20万円以上 | 事業用物件などが想定されます。 |
| 過払金 | 利息制限法所定の制限利率による引き直し計算後の全ての過払金の額面額。既に貸金業者と合意済みで入金待ちの場合は、その合意額(回収費用・報酬を控除する前のもの)。 | 全ての過払金を合算 | 合わせて30万円以上 | 過払利息を含みます。他の区分より高い基準額です。既に回収済みで手元に残っている場合は、後述の「申立てに近接する時期の換価」の扱いによります。 |
| 貸付金・求償金・売掛金 | 回収見込額。 | 債権の種別ごとに合算 | 20万円以上 | 額面ではなく回収見込みで評価されます。 |
| 車両 | 処分価格。レッドブック又は査定資料により評価され、所有権留保については別途考慮されます。 | 全ての車両を合算 | 合わせて20万円以上 | 国産普通乗用自動車(車両本体の新車価格が300万円未満のものに限る)で製造から7年を経過したもの、国産軽自動車又は商用の国産普通乗用自動車で製造から5年を経過したものは無価値とみなされます。起算点は「初度登録から」ではなく「製造から」です。年数だけで決まるものではありません。 |
| 不動産 | 評価額。 | 全ての不動産を合算 | 合わせて20万円以上 | 抵当権の残存被担保債権額が固定資産評価額の1.5倍を超えるものは、原則として無価値とみなされます。「1.5倍以上」ではありません。担保が付いていれば当然に無価値になるわけではなく、担保余力の評価と実際の換価も別の問題です。 |
| その余の財産(動産、積立金、その他の財産権) | 評価額。 | 財産の種別ごとに合算 | 20万円以上 | 種別ごとに合算する点に注意が必要です。 |
| 個別財産の積算 | 現金及び普通預貯金を含む全ての個別財産(20万円未満のものを含む)の評価額。算定方法は上記の各区分によります。 | 全財産を通算した積算総額 | 100万円以上 | 個別の基準額をすべて下回っていても、積算総額でこの基準に達することがあります。次項をご覧ください。 |
いずれの項目も、特段の事情が認められる場合を除く、という限定が付されています。個別事情及び申立時の裁判所の運用により結論は異なりますので、数値だけで自動的に判定できるものとしてお読みにならないでください。
見落としやすい「積算総額」の考え方
最後の項目は、現金及び普通預貯金を含む全ての個別財産の評価額を積算して100万円以上かどうかを見るものです。20万円未満の財産も、この積算には含まれます。個別の基準額をすべて下回っていても、ここで基準に達することがあります。
もっとも、ここで用いる評価額は、単純な財産の額面合計ではありません。基準は「前号までの算定方法による」としていますので、各区分について定められた算定方法をそのまま用います。具体的には次のような違いが生じます。
- 退職金は、支給見込額そのものではなく、その8分の1又は4分の1相当額で積算されます。
- 居住用物件の敷金は、敷引後の額から原状回復・明渡費用相当額(原則60万円)と未払賃料等を控除した残額で積算されます。
- 相殺の対象となる預貯金は、相殺見込額を控除した残額で積算されます。
- 無価値とみなされる車両や不動産は、その分が積算に加わりません。
額面の大きい財産があっても評価額としては小さくなることがありますし、逆に、一つひとつは少額でも積み上げると基準に達することがあります。ご自身で概算する場合も、この算定方法を踏まえる必要があります。
この基準から生じやすい誤解
| よくある理解 | 正確には |
|---|---|
| 財産が20万円未満なら必ず同時廃止になる | そうとは限りません。項目ごとの基準額を下回っていても、20万円未満のものを含めた全個別財産の積算総額が100万円以上であれば、同時廃止として扱うことができないとされています。さらに、財産の額とは別に、調査の必要性から管財事件として扱われることがあります。 |
| 現金が99万円以下なら同時廃止になる | なりません。99万円という額は、破産法第34条第3項第一号が定める、破産財団に属しない金銭の額の話です。振分けについては、現金と流動性預貯金を合わせて50万円以上であれば同時廃止として扱えないとされており、99万円以下の現金自体が法定の自由財産であっても、財産調査型の管財事件として取り扱われます。 |
| 基準額を下回る財産は必ず手元に残せる | 振分けの基準と、破産財団の範囲・自由財産の範囲は別の問題です。振分けの基準額を下回ったことが、その財産を手元に残せることを意味するわけではありません。 |
| 管財事件と異時廃止事件は同じものだ | 異なります。異時廃止は、破産手続開始の決定があった後に、破産財団をもって費用を支弁するのに不足すると認められる場合の廃止です(破産法第217条第1項)。管財事件として進んだ結果、異時廃止で終わることもあります。 |
財産が少なくても管財事件となる場合
基準第3は、財産の額とは別に、次のいずれかに該当するときは、例外的な事情が認められる場合を除き、同時廃止事件として取り扱うことが相当でないとしています。五つの類型が定められています。
| 類型 | どのような場合か | 基準に記載された例外の趣旨 |
|---|---|---|
| 法人代表者型 | 申立人が現在又は過去に法人の代表者であったとき。 | 法人の清算が実質的に完了しているなど、個人財産と法人財産との峻別についての調査を要しない場合は、通常、例外的な事情に当たると考えられるとされています。 |
| 個人事業者型 | 申立人が現在又は過去に個人事業者であったとき。 | 相当以前に事業を廃止しているなど、事業用資産と個人財産との峻別についての調査を要しない場合は、通常、例外的な事情に当たると考えられるとされています。個人事業の実情(業種、規模など)も考慮されます。 |
| 財産調査型 | 破産に至る経緯や財産関係が十分に明らかになっておらず、調査を要するとき。 | 資料により経緯と財産関係を説明できるかどうかが問われます。 |
| 否認調査型 | 否認の対象となり得る処分行為についての調査を要するとき。 | 行為の有無だけでなく、その経緯と使途の説明が問題になります。 |
| 免責観察型 | 免責についての調査・観察を要するとき。 | 免責不許可事由に当たり得る事情があるかどうかとは、別の判断です。 |
過去に法人の代表者であったこと、個人事業を営んでいたことは、いずれも「例外なく管財事件になる」ことを意味しません。基準にも例外が明記されています。他方で、これらの事情がなければ必ず同時廃止になる、ということでもありません。ギャンブルや浪費と免責の関係については、ギャンブル・浪費がある場合の免責について確認する記事で扱っています。
申立ての前の処分・換価・返済について
財産を動かしても、振分けの問題は消えません
「定期預金を解約して使ってしまえば、財産がないことになるのではないか」「保険を解約しておけばよいのではないか」というご質問をいただくことがあります。しかし、基準第2には、次の定めが置かれています。
- 否認の対象となることが見込まれる処分行為がある場合は、これにより処分された財産が現存するものとみなしたうえで、財産の額による基準を適用する。
- 申立てに近接する時期に、現金及び流動性預貯金以外の財産が換価された場合(過払金の回収や退職金の受領を含む)、換価後の残存財産について、財産の額による基準を適用する。ただし、裁判所が必要と認めるときは、換価の経緯・使途についての説明を求める。
- この説明の結果、財産調査型等の管財事件として取り扱われることがある。
- 同時廃止事件として取り扱うための清算配当(按分弁済)は廃止する。
つまり、申立ての前に財産を現金化しても、その分だけ判断の対象から外れるという仕組みにはなっていません。むしろ、換価の経緯と使途について、裁判所から説明を求められる事項が増えます。
自己判断で財産を動かさないでください
財産の名義を変えること、市場価格より安く売ること、贈与すること、まとめて引き出すこと、特定の債権者にだけ返済すること、事業や法人の帳簿を処分することは、いずれも避けてください。これらは、否認、財産調査、免責の判断に関わる問題となり得ます。通帳、取引履歴、契約書、領収書などの資料は、処分せずに保存したうえでご相談ください。
なお、かつて行われていた清算配当(按分弁済)による同時廃止の取扱いは、この基準により廃止されています。債権者に一部を支払うことで同時廃止にしてもらう、という方法は採れません。
具体的な期間や効果は、個別に確認が必要です
「何年前までさかのぼるのか」「いつまでの行為が問題になるのか」という点は、行為の性質、相手方、対価の有無、当時の資力の状況などによって検討すべき条文が異なります。年数だけを一律の目安として示すことは適切ではありません。取引の日付が分かる資料をそろえたうえで、個別にご確認ください。
どのような順序で確認されるか
ここまでの内容を、確認の順序として整理すると次のようになります。ただし、これは判断の枠組みであって、当てはめれば結論が出るというものではありません。各段階に除外事由が置かれており、最終的な振分けは裁判所が判断します。
- 自然人による自己破産の申立てかどうか。そうでなければ、この基準の下では管財事件として取り扱われます。
- 現金と流動性預貯金を合わせた額。
- 定期性預貯金、保険・共済、退職金、賃借保証金・敷金、過払金、債権、車両、不動産、その余の財産について、区分ごとの評価額。
- 上記の算定方法で求めた評価額を全て積算した総額。
- 申立てに近接する時期の換価や、否認の対象となり得る処分行為の有無。
- 法人代表者型、個人事業者型、財産調査型、否認調査型、免責観察型に当たる事情の有無。
2から5のいずれかに該当すれば、特段の事情が認められる場合を除き、同時廃止として取り扱うことができません。6に該当すれば、例外的な事情が認められる場合を除き、同時廃止として取り扱うことが相当でないとされます。
相談の前にそろえておきたい資料
財産の評価は、申告だけでは足りず、裏付けとなる資料で確認します。次の一覧は、前掲の財産区分の順に並べています。お手元にあるものをお持ちください。すべてそろっていなくても構いません。取得先が分からないものは、相談の場でご確認いただけます。
- 手元にある現金の額(おおよその額で構いません)
- 全ての口座の通帳、取引履歴、残高が分かる資料。解約済みの口座があればその記録も
- 定期預金・定期積金の証書、残高が分かる資料
- 保険証券と、解約返戻金額が分かる証明書。共済を含みます
- 退職金規程、退職金見込額が分かる資料、勤務先からの借入金がある場合はその残高が分かる資料
- 賃貸借契約書、敷金・保証金の額と敷引の有無が分かる資料、未払賃料がある場合はその資料
- 借入れの取引履歴、引直計算書、過払金について合意がある場合は和解書
- 貸付金、求償金、売掛金に関する契約書、請求書、入金記録
- 車検証、所有名義が分かる資料、ローン契約書と残高、査定資料
- 不動産の登記事項証明書、固定資産評価証明書、担保債権の残高が分かる資料
- 有価証券、積立金その他の財産権に関する資料
- 法人や事業に関する帳簿、決算書、在庫、売掛金、事業用資産の資料
- 申立て前の売却、解約、引出し、送金、贈与、返済などの記録
提出を求められる資料の範囲や、さかのぼる期間は、事案によって異なります。神戸地方裁判所は、申立書式や必要書類の一覧をウェブサイトで公表していません。実際に提出する書類は、申立先の窓口又は弁護士にご確認ください。なお、破産の申立窓口は、神戸地方裁判所の本庁のほか、尼崎支部、姫路支部にも置かれています。
資料が全部そろっていなくても、現在お持ちのものを確認するだけで、どの項目が基準に近いのか、追加で何を取り寄せる必要があるかを整理できます。財産を動かす前、特定の債権者に返済する前、事業や法人の資料を処分する前にご相談いただくと、後から説明に困る場面を減らせます。
弁護士に相談するタイミング
相談によって振分けの結果が保証されるものではありません。もっとも、次のような場面では、資料を確認したうえで申立ての方針と見通しを検討しておく意味があります。
- 財産を売却、解約、名義変更しようと考えているとき。動かす前が適切です
- 親族や勤務先など、特定の相手にだけ返済しようと考えているとき
- 退職を予定しており、退職金の受領時期と申立ての時期が近いとき
- 法人の代表者であった、又は個人事業を営んでいたとき
- 過払金の回収や保険の解約を、すでに行ってしまったとき
- 裁判所や債権者から書面が届き、回答や署名を求められているとき
ご相談では、財産資料と取引履歴を確認し、どの項目がどのように評価されるのか、追加で必要な資料は何か、申立ての時期をどう考えるかを整理します。個別事情及び申立時の裁判所の運用により結論は異なります。
よくある質問
同時廃止と管財事件を、自分で選ぶことはできますか。
できません。申立ての方針を検討し、資料をそろえて説明することはできますが、最終的な振分けは、提出された資料と個別の事情を踏まえて裁判所が判断します。
財産が基準額を下回っていれば、必ず同時廃止になりますか。
そうとは限りません。保険や預貯金は区分ごとに合算して判断されますし、20万円未満のものを含む全個別財産の積算総額が100万円以上であれば、同時廃止として扱うことができないとされています。財産の額とは別に、調査の必要性からの判断もあります。
現金が99万円以下なら大丈夫だと聞きましたが、そのとおりですか。
振分けについては、そのとおりではありません。99万円は、破産法第34条第3項第一号が定める、破産財団に属しない「金銭」の額です。振分基準は、現金と流動性預貯金を合わせて50万円以上であれば同時廃止として扱えないとしたうえで、99万円以下の現金自体が法定の自由財産であっても、他の財産が存在する相応の蓋然性が類型的に認められるため、財産調査型の管財事件として取り扱うとしています。
まだ退職していませんが、退職金は関係しますか。
関係します。退職時期が未定又は1年以上先なら自己都合退職時の支給見込額の8分の1相当額、退職済み又は1年未満なら支給額ないし支給見込額の4分の1相当額が、それぞれ20万円以上かどうかを見ます。いずれも勤務先からの借入金による相殺は原則として認められ、その見込額を控除した残額で算定されます。
過去に会社の代表者だった場合や、個人事業をしていた場合は、必ず管財事件になりますか。
必ずそうなるわけではありません。法人の清算が実質的に完了しているなど、個人財産と法人財産との峻別についての調査を要しない場合や、相当以前に事業を廃止している場合は、通常、例外的な事情に当たると考えられる旨が基準に記載されています。もっとも、資料でどこまで説明できるかが問われますので、帳簿や決算書は処分せずに保存してください。
申立ての前に財産を売ったり、債権者に一部を支払ったりすれば、管財事件を避けられますか。
そのような取扱いにはなっていません。否認の対象となることが見込まれる処分行為があれば処分された財産が現存するものとみなされ、申立てに近接する時期の換価については換価後の残存財産に基準が適用されます。裁判所から経緯や使途の説明を求められ、財産調査型等の管財事件として取り扱われることもあります。清算配当(按分弁済)による同時廃止の取扱いも廃止されています。
同時廃止になれば、借金の支払義務はなくなりますか。
同時廃止になっただけで支払義務がなくなるわけではありません。免責の審理は別に行われます。免責許可の決定が確定しても、破産法第253条第1項ただし書の各号に当たる請求権については責任を免れません。
神戸地方裁判所の本庁と支部で、扱いは同じですか。
この基準は、神戸地方裁判所(本庁・支部を問わない)に係属した全ての破産事件について適用するものとされており、管内での基準の統一が策定の趣旨の一つに挙げられています。もっとも、個別の事案の進め方や運用の細部は申立先により異なることがありますので、具体的な取扱いは申立先の窓口又は弁護士にご確認ください。
まとめ
- 同時廃止か管財事件かを申立人が選ぶことはできず、裁判所が資料と個別事情を踏まえて判断します。
- 破産法上は破産管財人を選任する手続が原則で、同時廃止は、破産財団で手続費用を支弁するのに不足すると認められる場合の扱いです。費用に足りる予納があるときは同時廃止になりません。
- 神戸地方裁判所は、平成29年6月1日策定の「破産事件の振り分け基準」により、財産の額と調査の必要性の二段階で振分けを行っています。同基準が同時廃止の対象とするのは、自然人による自己破産の申立事件です。
- 財産の額については、項目ごとの基準額のほか、20万円未満のものを含む全個別財産の積算総額100万円以上という基準があります。積算に用いる評価額は、各区分の算定方法によります。
- 財産の額が基準を下回っていても、法人代表者型、個人事業者型、財産調査型、否認調査型、免責観察型に当たれば、原則として管財事件となります。
- いずれの基準にも「特段の事情」「例外的な事情」という除外事由があり、形式的な当てはめだけで結論が決まるものではありません。振分け、自由財産、実際の換価、免責も、それぞれ別の問題です。
- 申立て前に財産を動かしても判断の対象から外れる仕組みにはなっておらず、清算配当(按分弁済)による同時廃止の取扱いも廃止されています。
次に取っていただきたい行動は、財産を動かさないこと、通帳や契約書などの資料を処分せずにまとめること、申立て前の入出金や処分の記録を残すこと、そして、資料を持参して早めにご相談いただくことです。
神戸市須磨区・垂水区・西区・北区をはじめ、兵庫県内から自己破産のご相談をお受けしています。財産資料と取引履歴を確認したうえで、申立ての方針と見通しを検討できます。神戸みらい法律会計事務所では、初回の法律相談を無料でお受けしています。
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監修者・執筆者
弁護士・公認会計士 藤井 貴之(兵庫県弁護士会所属、日本公認会計士協会兵庫会所属)
弁護士法人ひょうご支所 神戸みらい法律会計事務所 代表弁護士・公認会計士。借金問題(債務整理)、交通事故、遺言・相続、離婚・男女問題、企業法務などを取り扱っています。
本記事は、2026年9月2日時点で確認できた法令及び資料に基づく一般的な説明です。記事中の金額の基準は、神戸地方裁判所 本庁・各支部破産係が平成29年6月1日に策定した「破産事件の振り分け基準」によるもので、同日時点で改訂されていないことを確認しています。裁判所の運用は改定されることがあり、基準にも除外事由が置かれていますので、振分けの結論は、財産の内容、資料の内容、申立て前の経緯、申立時の運用により異なります。具体的な事案については、資料を確認したうえでご相談ください。

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