取引先の倒産や売上の落ち込みで業績が悪化し、それを金融機関に知られたくないという思いから、売上や在庫を実際より大きく見せた決算書を提出して融資や返済猶予を受けた――。
そのような経緯のある会社が資金繰りに行き詰まったとき、経営者の方が最も不安に感じるのは、「そもそも会社や自分は破産を申し立てられるのか」「決算書を作り替えていたことで詐欺罪に問われるのではないか」「自己破産しても借金が残るのではないか」という点ではないでしょうか。
この記事では、粉飾した決算書等を用いて融資を受けた会社と代表者について、法人破産・代表者個人の破産、詐欺罪が成立する可能性、代表者の免責不許可事由と裁量免責、免責後も残り得る非免責債権、代表者保証や民事責任、会計・税務への影響、破産以外の選択肢、破産手続と刑事手続の関係、そして相談前に避けるべき行動と準備すべき資料を整理します。
個別の事情によって結論は変わりますので、最終的な判断は資料を確認したうえで弁護士にご相談ください。
この記事で分かること
- 粉飾融資があっても、会社の破産申立て自体が当然に禁止されるわけではないこと
- 「会社の破産」「代表者個人の免責」「金融機関への民事責任」「刑事責任」は別々に判断されること
- 粉飾があれば当然に詐欺罪や免責不許可が確定するわけではなく、資料・経緯・説明内容の精査が必要なこと
- 免責許可を得ても、金融機関の債権が非免責債権として残るかを個別に検討する必要があること
- 粉飾には税務上の影響もあり、破産以外の選択肢や経営者保証への対応もあわせて検討できること
- 資料を消去・修正したり、追加融資や特定の債権者への返済をしたりする前に確認すべきこと
決算書・融資申込資料・金融機関とのやり取りを確認することから始まります。
決算書、金銭消費貸借契約書、融資申込書、資金繰り表などを確認することで、会社の破産、代表者保証、免責、刑事上の論点を切り分けて検討できます。
資料の処分や金融機関への回答をする前に、一度ご相談ください。
Contents
- 結論|粉飾融資があっても、破産申立て・免責・刑事責任は別々に判断される
- 最初に切り分けるべき四つの問題
- 粉飾決算とは|単なる会計上の判断と、故意の虚偽表示は異なる
- 粉飾した決算書で融資を受けると詐欺罪になるのか
- 会社の破産と代表者個人の破産は、別の手続
- 代表者の自己破産で問題となる免責不許可事由
- 免責不許可と非免責債権は、別の問題
- 会計と税務の観点|粉飾の是正と税務への影響もあわせて確認する
- 破産手続と刑事手続が並行する場合の注意点
- 詐欺破産罪その他の関連犯罪との区別
- 破産以外の選択肢と、経営者保証への対応
- 相談前にしてはいけないこと
- 相談時に準備したい資料と、時系列の整理
- 弁護士への相談を検討したいタイミング
- よくある質問
- まとめ
- 監修者・執筆者
結論|粉飾融資があっても、破産申立て・免責・刑事責任は別々に判断される
全体像としては、粉飾決算による融資があった場合でも、次のように問題を分けて考える必要があります。ひとつの事実から、すべての結論が自動的に決まるわけではありません。
まず、会社(法人)については、支払不能や債務超過という破産手続開始の原因があれば、過去に粉飾した決算書で融資を受けていたという一事によって、破産の申立て自体が当然に禁止されるわけではありません。法人には、個人の自己破産のような「免責」という制度そのものがなく、会社は破産手続を経て清算され、消滅します。
次に、代表者個人が自己破産をする場合、粉飾を用いた借入れは破産法上の免責不許可事由に該当する可能性があります。ただし、免責不許可事由があっても、裁判所が一切の事情を考慮して免責を許可する「裁量免責」がなされる余地があります。
もっとも、免責許可を得られても、金融機関が粉飾による欺罔を「悪意で加えた不法行為」と主張し、その損害賠償請求権が非免責債権として残ると争う可能性があります。これらは、いずれも事案により結論が異なります。
刑事責任については、粉飾した資料で融資を受けた行為が詐欺罪(刑法第246条)に当たる可能性があります。ただし、粉飾の存在だけで当然に詐欺罪が成立し、逮捕・有罪となるわけではありません。 欺く行為や故意、融資判断との因果関係などの要件を、資料と経緯に即して検討する必要があります。
粉飾の内容、決算期、金額、誰が作成・説明したか、融資の態様、返済状況などによって結論は大きく変わりますため、具体的な見通しは、資料を確認したうえで個別に判断する必要があります。
最初に切り分けるべき四つの問題
ご相談の際にまず整理するのは、次の四つの問題です。
これらは重なり合う部分もありますが、要件も判断者も効果も異なります。混同すると、「会社が破産すれば自分の保証もなくなる」「詐欺罪になれば免責はおよそ受けられない」といった誤解につながります。
| 問題 | 主に問われること | 判断する主体 | 粉飾の影響(概要) |
|---|---|---|---|
| ①会社の破産手続 | 破産手続を開始できるか、どう清算するか | 裁判所・破産管財人 | 申立て自体は原則妨げられない。ただし管財人の調査対象になり得る |
| ②代表者個人の破産・免責 | 免責許可を得られるか(免責不許可事由・裁量免責) | 裁判所 | 免責不許可事由に該当する可能性。裁量免責の余地も検討 |
| ③金融機関への民事責任 | 保証債務・不法行為・会社法上の責任を負うか | 金融機関・裁判所(民事) | 保証債務は残り得る。粉飾は不法行為責任の根拠として主張され得る |
| ④刑事責任 | 詐欺罪その他の犯罪が成立するか | 捜査機関・裁判所(刑事) | 詐欺罪の可能性。ただし成立には要件の検討が必要 |
特に、「破産できるか」と「免責されるか」は別の問題です。
また「免責不許可」(そもそも免責を得られるか)と「非免責債権」(免責を得ても残る債権があるか)も別の問題です。
さらに、「会社の債務」と「代表者個人の債務」、「刑事責任」と「民事責任」も、それぞれ分けて考える必要があります。
粉飾決算とは|単なる会計上の判断と、故意の虚偽表示は異なる
「粉飾決算」は、それ自体がひとつの罪名や法律上の要件を指す言葉ではありません。一般には、会社の財政状態や経営成績を実際より良く見せるために、会計数値を意図的に不適切に処理することを指します。典型例としては、架空売上の計上、売上の前倒し計上、在庫の過大計上、費用や損失の繰延べ、負債の計上漏れなどが挙げられます。
ここで重要なのは、次のものを区別することです。単なる入力ミス、会計上の見積りの相違、認められた会計方針の範囲内の選択、税務処理との差異は、直ちに違法な粉飾を意味しません。他方で、業績の悪化を隠す目的で、事実と異なる数値を故意に記載した決算書等を作成し、それを金融機関に提出して融資判断に用いさせた場合には、詐欺罪や免責不許可事由、非免責債権の問題が現実に生じ得ます。
したがって、後の検討では、どの決算期の、どの勘定科目を、いくら、誰の指示・承認で作成し、誰が金融機関にどう説明したかが決定的に重要になります。粉飾があったという抽象的な事実だけで、代表者の故意や詐欺罪の成立、免責不許可が当然に確定するわけではありません。
粉飾した決算書で融資を受けると詐欺罪になるのか
粉飾した決算書等を提出して融資を受けた行為は、詐欺罪(刑法第246条)に問われる可能性があります。もっとも、「粉飾=当然に詐欺罪」ではありません。以下の要件を、資料と経緯に即して検討する必要があります。
詐欺罪の成立に必要な要素
刑法第246条第1項は、人を欺いて財物を交付させた者を処罰します(現行法の法定刑は十年以下の拘禁刑)。 同条第2項は、財産上不法の利益を得た場合を対象とします。
詐欺罪が成立するには、一般に、①欺く行為、②相手方の錯誤、③錯誤に基づく処分行為(融資の実行など)、④財物または財産上の利益の移転、⑤これらの因果関係、そして⑥故意などの主観的要件が必要とされます。
粉飾融資の場面では、粉飾した資料が金融機関の融資判断にとって重要な事項であったか、金融機関が真実の財務状況を知っていれば同じ条件で融資しなかったといえるかが、特に問題になります。
結果的に返済できなくなったことや、事後的に会社が倒産したことは、それだけで「借入れの時点から詐欺の故意があった」ことを意味しません。「返済できなくなった=詐欺」「倒産した=当初から欺くつもりだった」と短絡することはできません。
融資金の詐取と、信用保証を受ける地位の詐取
粉飾によってどの利益を得たかによって、適用される条文が異なり得ます。
裁判例の中には、信用保証協会の保証を受ける地位を詐取した点を詐欺罪の第2項(財産上の利益)に、金融機関から融資金そのものを詐取した点を第1項(財物)に、それぞれ分けて構成したものがあります。追加融資、借換え、融資枠の設定、返済猶予、条件変更のうち何が問題となるかは行為の態様によって異なり、機械的には決まりません。
追加融資・借換え・返済猶予・信用保証がある場合
担保や保証(信用保証協会の保証を含む)が付いている場合、金融機関独自の審査が行われた場合、その後に一定の返済がされた場合などは、欺く行為の有無、錯誤や損害の有無、因果関係の判断に影響し得ます。
もっとも、担保や保証があること、あるいは金融機関側に審査上の落ち度があったことを理由に、詐欺罪が必ず否定されるわけでも、必ず成立するわけでもありません。いずれも事案に即した検討が必要です。
代表者以外の役員・経理担当者等の責任
融資金を受け取ったのが会社であっても、粉飾に関与した代表者、役員、経理担当者などについて、共同正犯や幇助などが問題となる余地があります。ただし、その成否は、役職名だけでなく、各人が粉飾や融資申込みをどこまで認識し、どのように関与したか(意思の連絡、権限、役割、寄与の程度)によります。関与や認識を確認しないまま、役職を理由に責任を断定することはできません。
なお、詐欺罪(刑法第246条)には、会社そのものを処罰する一般的な両罰規定はありません。会社の口座に融資金が入金されたという事実だけを理由に、「会社が詐欺罪で処罰される」ことにはなりません。
金融機関への回答や追加の資金調達を行う前に、影響を確認してください。
粉飾の有無や態様は、詐欺罪の成否だけでなく、破産手続や免責にも影響します。同じ資料を使って追加融資・借換え・条件変更を申し込む前に、破産法上・刑事上の影響を確認することをおすすめします。
会社の破産と代表者個人の破産は、別の手続
会社は破産を申し立てられるか
会社に支払不能や債務超過といった破産手続開始の原因があり、申立ての要件を満たしていれば、過去に粉飾融資があったという理由だけで、会社の破産申立て自体が当然に禁止されるわけではありません。会社(法人)には、自然人の自己破産のような免責制度はなく、破産手続によって財産が清算され、会社は最終的に消滅します。したがって、法人破産では「免責されるかどうか」という問題は生じません。
もっとも、粉飾決算、役員貸付金、会社資金の私的流用、関連当事者との取引、破産直前の資産移転などがあると、破産管財人の調査、否認権の行使、役員に対する責任追及、代表者個人の財産調査につながる可能性があります。
代表者は、会社の借入れを当然に負うわけではない
会社と代表者は、法律上は別の人格です。したがって、会社が破産して消滅しても、代表者個人が会社の借入れを当然に肩代わりするわけではありません。代表者が会社の債務について責任を負うのは、連帯保証、物上保証、不法行為、会社法上の責任など、別個の法的根拠がある場合です。
逆に、会社が破産しても、代表者が金融機関に対して差し入れた連帯保証は、それだけでは当然に消滅しません。会社の破産と、代表者個人の保証債務の整理は、別々に検討する必要があります。
連帯保証・不法行為・会社法上の責任
代表者が金融機関に対して負い得る責任には、次のように複数の根拠があり、要件も効果も異なります。
| 責任の根拠 | 主な内容 | 主に問題となる場面 |
|---|---|---|
| 連帯保証・物上保証 | 保証契約・担保設定に基づく責任 | 会社の借入れに代表者が保証・担保提供している場合 |
| 不法行為(民法第709条) | 故意・過失により他人の権利・利益を侵害した場合の損害賠償 | 粉飾による欺罔を不法行為として主張される場合 |
| 会社法第429条第1項 | 職務を行うにつき悪意・重過失があった場合の第三者への責任 | 代表者の職務執行に悪意・重過失があると主張される場合 |
| 会社法第429条第2項 | 計算書類等の虚偽記載等に関する責任(注意を怠らなかったことの証明で免れ得る) | 計算書類等に虚偽記載があると主張される場合 |
会社法第429条第2項は、計算書類等の重要な事項に虚偽の記載をした取締役等について、第三者に対する責任を定めています。もっとも、ここでいう「計算書類等」は会社法上の書類であり、金融機関向けにのみ作成した資金繰り表や試算表が当然に含まれるわけではありません。その場合は、会社法第429条第1項や民法第709条の不法行為が主張の中心になります。なお、会社自身の責任として会社法第350条、会社に対する任務懈怠責任として会社法第423条もありますが、主体や相手方が異なるため、これらを混同しないことが重要です。
会社と代表者個人の破産を同時に申し立てることが検討される場合も多いですが、必ず同時申立てが適切とは限りません。会社の状況、代表者の資産・保証の状況によって、進め方は変わります。
代表者の自己破産で問題となる免責不許可事由
代表者個人が自己破産を申し立てる場合、免責を受けられるかどうかが最大の関心事になります。破産法第252条第1項は、免責を許可できない事由(免責不許可事由)を各号で定めています。粉飾融資に関係し得る主な事由を整理します。
詐術を用いた信用取引と、条文上の要件
破産法第252条第1項第5号は、破産手続開始の申立てがあった日の一年前の日から破産手続開始の決定があった日までの間に、破産手続開始の原因となる事実(支払不能など)があることを知りながら、その事実がないと信じさせるために詐術を用いて信用取引により財産を取得したことを、免責不許可事由としています。粉飾した決算書を用いた融資は、この「詐術を用いた信用取引」に当たり得ます。
ここで注意したいのは、条文が対象とする期間です。第5号は「申立ての一年前の日から開始決定まで」の行為を対象としています。粉飾融資がこの期間より前の出来事である場合、第5号には直ちに当たらないこともあります。もっとも、その場合でも後述の他の事由や、非免責債権・刑事責任の問題は別に検討する必要があります。「粉飾融資があれば当然に免責不許可」というものではありません。
帳簿等の隠滅・偽造・変造、虚偽説明など
破産に関連して問題となりやすい免責不許可事由は、第5号だけではありません。破産手続の前後で次のような行為があると、それぞれが別個の免責不許可事由となり得ます。
- 業務・財産の状況に関する帳簿、書類等を隠滅・偽造・変造すること(第252条第1項第6号)
- 債権者を害する目的で財産を隠匿・毀損し、または不利益に処分すること(第1号)
- 特定の債権者にだけ有利な弁済・担保供与をすること(偏頗行為、第3号)
- 虚偽の債権者名簿を提出すること(第7号)
- 裁判所の調査で説明を拒み、または虚偽の説明をすること(第8号)
粉飾融資の事案では、融資時の粉飾そのものに加えて、破産直前の資産移転や、特定の金融機関だけへの返済、破産手続での不十分な説明などが重なり、複数の事由が同時に問題となることが少なくありません。
裁量免責で考慮される事情
免責不許可事由に該当する場合でも、破産法第252条第2項は、裁判所が破産手続開始に至った経緯その他一切の事情を考慮して、免責を許可することが相当と認めるときは免責許可の決定ができるとしています。これを裁量免責といいます。
裁量免責は当然に認められるものではありません。行為の時期・回数・金額・悪質性、金融機関等が受けた被害、破産者が事実をどこまで開示し説明したか、資料を保全し破産管財人に協力したか、生活や事業の再建状況といった個別の事情が考慮され得ます。逆に言えば、事実を隠したり、資料を処分したり、管財人に虚偽の説明をしたりすることは、裁量免責の判断において不利に働くおそれがあります。
免責の見通しは、資料と経緯を整理してはじめて検討できます。
どの事由に当たり得るか、裁量免責を求める材料があるかは、決算書・元帳・融資資料・資金移動の状況を確認して判断します。相談により、資料・時系列・対応方針を整理しやすくなります。
免責不許可と非免責債権は、別の問題
免責許可を得ても、金融機関の債権が残る可能性
「免責不許可事由」は、そもそも免責許可を得られるかという手続全体の問題です。これに対して「非免責債権」は、免責許可を得た後も、特定の債権については責任が残るという別の問題です。両者を混同しないことが大切です。
破産法第253条第1項は、免責許可の決定が確定すると破産者は破産債権について責任を免れるとしたうえで、例外として責任が残る債権(非免責債権)を各号で列挙しています。その中に、「破産者が悪意で加えた不法行為に基づく損害賠償請求権」(同項第2号)があります。
詐欺と「悪意で加えた不法行為」の関係
粉飾融資の事案では、金融機関が、代表者個人に対して、保証債権とは別に、粉飾による欺罔を理由とする不法行為に基づく損害賠償請求権を主張し、それが第253条第1項第2号の非免責債権に当たると争ってくる可能性があります。この場合、免責許可を得ても、その損害賠償債務は残ると主張されることになります。
もっとも、第2号の「悪意」が、単なる故意で足りるのか、より積極的な害意を要するのかについては、裁判例でも判断が分かれており、議論があります。「粉飾による融資だから、当然に非免責債権になる」と断定することはできません。債権の存否や金額に争いがある場合も含め、個別の事情により結論は変わります。また、この非免責債権に当たるかどうかは、免責の手続そのものではなく、後の訴訟などの別の手続で争われるのが通常です。
また、破産法第253条第2項は、免責許可の決定が、保証人その他破産者と共に債務を負担する者や、第三者が提供した担保に影響を及ぼさないとしています。つまり、代表者個人が免責を得ても、別の連帯保証人(配偶者や他の役員など)がいる場合、その人の保証責任は当然には消えません。逆に、会社の債務について会社が「免責」されることはありません(法人に免責制度はありません)。非免責債権の一般的な種類については、次の記事も参考になります。
免責取消しは、さらに別の問題
免責許可が確定した後の「免責取消し」(破産法第254条)は、免責不許可や非免責債権とはさらに別の問題です。免責取消しは、破産法第265条の詐欺破産罪について破産者に有罪判決が確定した場合や、不正の方法で免責許可を得た場合などに問題となります。ここでいう詐欺破産罪(破産法第265条)は、融資の際の詐欺罪(刑法第246条)とは別の犯罪です。「融資詐欺で有罪になれば、免責が当然に取り消される」というものではありません。
会計と税務の観点|粉飾の是正と税務への影響もあわせて確認する
粉飾は会計上の事象であり、その是正や税務処理は、破産・免責・刑事のいずれの判断にも関わります。決算書や帳簿を法務と会計の両面から確認しておくと、方針を立てやすくなります。
まず「真実の数字」を復元する
どの決算期の、どの勘定科目を、いくら、どのように操作したのかを特定し、正しい財務状況を復元することが出発点になります。これは、詐欺罪でいう「重要な虚偽」がどこにあったか、免責でどの行為が問題になるか、金融機関の損害がいくらかを検討するための、共通の土台になります。会計ソフトの仕訳データや変更履歴、金融機関への提出版と社内で保管している版などは、上書きせず原本のまま保全してください。
粉飾には税務上の影響もある
利益を過大に見せる粉飾では、結果として法人税を過大に納めている場合があります。もっとも、粉飾(仮装経理)に基づく過大納付分の法人税は、修正の経理を行って申告したうえで更正を受け、その還付も複数年にわたる税額控除によるなど、通常の還付とは異なる特別な取扱いが定められています(法人税法第129条・第135条)。会計・税務の専門的な検討が必要になります。
逆に、借入金や会社資金を代表者・親族へ流用していた場合には、役員給与(賞与)の認定、源泉所得税、重加算税といった税務上の問題が生じることがあります。粉飾の是正と税務申告の修正は、破産手続や刑事手続への影響を踏まえて、その順序と時期を検討する必要があります。
破産手続と刑事手続が並行する場合の注意点
破産手続と刑事手続は、別の手続です。破産を申し立てたことや免責を得たことによって、刑事責任が当然に消えたり、捜査が当然に止まったりするわけではありません。逆に、破産を申し立てただけで警察・検察に自動的に通報され、必ず捜査・逮捕されるというものでもありません。金融機関による被害申告や告訴、捜査機関の任意の聴取、捜索差押え、逮捕・勾留、起訴は、それぞれ別の段階です。粉飾が判明したという一事から、特定の処分を断定することはできません。
金融機関・破産管財人・捜査機関への説明
破産手続では、破産者は破産管財人などに対して財産や業務の状況を説明する義務を負います(破産法第40条)。説明を拒んだり虚偽の説明をしたりすると、免責不許可事由になり得るだけでなく、破産法上の罪に問われるおそれもあります。他方、刑事手続では、被疑者・被告人には黙秘権があり、弁護人を選任する権利があります。
破産手続上の説明・協力義務と、刑事手続上の防御は、緊張関係に立つことがあります。一般論として「すべて話すべき」「一切話すべきでない」と一律に決められるものではありません。どの場面で、誰に、何を、どのように説明するかは、破産と刑事の双方を見据えて個別に検討する必要があります。虚偽の説明をしたり、証拠を隠したり、関係者と口裏を合わせたりすることは、いずれの手続でも不利益となります。
被害弁償と、偏頗弁済・否認の調整
被害弁償や特定の金融機関への返済は、刑事手続では有利な事情となり得ます。しかし、破産手続の観点からは、特定の債権者だけへの返済は偏頗弁済として否認の対象になったり、免責不許可事由(破産法第252条第1項第3号)として問題となったりする可能性があります。刑事で有利になると考えて行った返済が、破産手続では債権者平等に反する行為と評価される、という食い違いが生じ得ます。したがって、被害弁償や返済は、破産法上の影響を確認せずに単独で実行しないことが重要です。
会社・代表者・刑事弁護の利益相反
会社の破産申立代理人、代表者個人の代理人、そして刑事弁護人は、必ずしも同じ立場ではありません。会社、代表者、経理担当者、外部の専門職の説明が食い違う場合には、同一の弁護士がすべてを担当することが適切かどうかを、個別に検討する必要があります。場面によっては、役割を分けることが望ましいこともあります。
詐欺破産罪その他の関連犯罪との区別
融資の際の詐欺罪(刑法第246条)と、破産法上の詐欺破産罪(破産法第265条)は、別の犯罪です。
詐欺破産罪は、破産手続の前後を問わず、債権者を害する目的で、財産を隠匿・損壊したり、財産の譲渡や債務の負担を仮装したり、財産を債権者に不利益に処分したりする行為を対象とし、破産手続開始の決定が確定したときに処罰されるものです。
実際の裁判例でも、粉飾した資料で融資金を詐取した行為(詐欺罪)と、その後に会社財産を無償で譲渡し破産管財人に虚偽の説明をした行為(破産法違反)とが、別個の犯罪として構成された例があります。融資時の粉飾と、破産手続をめぐる行為とは、分けて考える必要があります。
なお、内容が虚偽の決算書を、作成する権限のある者が作成した場合と、他人の名義や印章を冒用して文書を偽造した場合とは区別されます。「虚偽内容の決算書=当然に私文書偽造」となるわけではありません。文書偽造罪、特別背任罪、税法違反などが問題となるかどうかは、具体的な事実によります。可能性を列挙して不安をあおることは、本記事の目的ではありません。
破産以外の選択肢と、経営者保証への対応
資金繰りが行き詰まっても、選択肢は破産だけとは限りません。事業に再生の見込みがあるかどうかによって、次のような方法も検討の対象になります。ただし、いずれも虚偽の情報を前提とした再建は認められません。
再生・事業譲渡・私的整理
民事再生、事業譲渡、金融機関との協議による準則型私的整理などにより、事業や雇用の一部を残せる場合があります。もっとも、粉飾があった場合には、正確な財務状況の開示が前提となり、過去の経緯をどのように扱うかが問題になります。どの方法が現実的かは、事業の継続価値や資産・負債の状況によって変わります。
経営者保証ガイドライン
会社の借入れについて代表者が保証している場合、「経営者保証に関するガイドライン」という自主的なルールにより、破産の手続によらずに保証債務を整理できる場合があります。もっとも、その利用には、誠実な対応や、財産状況の適時かつ適切な開示などが前提とされています。粉飾や虚偽の開示があると、利用の可否や条件に影響し得るため、早い段階で、利用できる余地があるかを確認しておくことが大切です。
相談前にしてはいけないこと
粉飾融資が関係する破産では、相談前の行動が、その後の破産手続や刑事手続に大きく影響します。少なくとも次の行為は、事態を悪化させるおそれがあるため避けてください。
- 帳簿、メール、チャット、銀行取引データ、紙資料を廃棄・削除・改変したり、後から作成したりすること
- 「正しい数字に直す」目的であっても、提出済みの資料や会計データの原本を上書きし、修正前の記録を失わせること
- 役員、従業員、税理士その他の関係者と、虚偽の説明について口裏を合わせること
- 同じ虚偽の資料を使って、追加融資・借換え・条件変更を申し込むこと
- 会社の財産を、代表者、親族、関連会社へ移すこと
- 特定の金融機関、親族、役員、取引先だけに返済すること
- 金融機関、破産管財人、裁判所、捜査機関に、確認しないまま場当たり的な説明や虚偽の説明をすること
- 弁護士などの助言を受けないまま、被害弁償、示談、債務承認書、合意書、追加担保の差入れをすること
これらはいずれも、免責不許可事由や否認、あるいは新たな犯罪の問題につながりかねません。事実を隠すのではなく、資料を保全したうえで、破産・民事・刑事の各問題を切り分けて早めに助言を受けることが、結果的に最も現実的な対応につながります。
相談時に準備したい資料と、時系列の整理
相談をスムーズに進め、見通しを立てやすくするために、次のような資料を可能な範囲で整理しておくことをおすすめします。原本を保全し、修正前後の記録を失わせないことが大切です。
| 区分 | 主な資料 |
|---|---|
| 融資・契約関係 | 金銭消費貸借契約書、保証契約書、担保関係書類、融資申込書、事業計画書、資金繰り表 |
| 会計・決算関係 | 決算書、試算表、税務申告書、勘定科目内訳明細書、総勘定元帳、仕訳帳、補助元帳、在庫表、売掛金・買掛金一覧、固定資産台帳 |
| 資金の動き | 銀行取引データ、融資金の入出金と使途が分かる資料 |
| やり取りの記録 | 金融機関・信用保証協会・税理士・会計担当者・役員とのメール、チャット、議事録、面談記録 |
| 複数版の資料 | 金融機関提出版、税務申告版、株主承認版、会計ソフト内データなど、同一決算期に複数版がある場合の各原本と作成・更新履歴 |
| 財産・関係者取引 | 会社資産と個人資産、役員貸付金・役員借入金、関連会社・親族との取引が分かる資料 |
| 督促・手続関係 | 督促状、期限の利益喪失通知、保証履行の通知、捜査機関や裁判所からの書面 |
あわせて、金融機関・融資ごとに、「申込日」「提出した資料」「実際の財務状況」「説明した人」「融資実行日・金額」「資金の使途」「返済状況」「現在の残高」「金融機関からの照会」を時系列に並べておくと、相談時の確認がしやすくなります。会社の資金繰りが悪化し始めた段階での初動については、次の記事も参考になります。
弁護士への相談を検討したいタイミング
次のような場面では、早めに相談することで、資料の保全や対応方針の整理がしやすくなります。相談は、結果を保証するものではありませんが、判断材料を整えるために役立ちます。
- 粉飾した決算書等で融資を受けたが、返済や事業継続が難しくなってきたとき
- 金融機関から、決算内容や資金使途について照会・説明を求められたとき
- 追加融資、借換え、返済猶予、条件変更を検討しているが、財務状況の説明に不安があるとき
- 会社と代表者個人の破産や、再生・私的整理を検討し始めたとき
- 金融機関、破産管財人、あるいは捜査機関から連絡があったとき
資料の廃棄や修正、特定の債権者への返済、資産の移転などをしてしまう前に相談することが、特に重要です。
よくある質問
粉飾決算で融資を受けていても、会社は破産できますか。
支払不能や債務超過という破産手続開始の原因があれば、過去に粉飾融資があったという理由だけで、会社の破産申立てが当然に禁止されるわけではありません。ただし、粉飾や資産移転などは破産管財人の調査対象となり得ます。個別事情により対応は変わります。
粉飾した決算書を提出すると、必ず詐欺罪になりますか。
必ず成立するわけではありません。欺く行為、金融機関の錯誤、融資判断との因果関係、故意などの要件を、資料と経緯に即して検討する必要があります。結果的に返済できなくなったことだけで、詐欺の故意があったとはいえません。
会社が破産すると、代表者の連帯保証債務もなくなりますか。
なくなりません。会社と代表者は別の人格で、会社の破産は代表者の保証債務を当然には消滅させません。代表者の保証債務の整理は、個人の破産や経営者保証ガイドラインの利用など、別に検討する必要があります。
粉飾融資があると、代表者は必ず免責不許可になりますか。
必ず免責不許可になるわけではありません。詐術を用いた信用取引などの免責不許可事由に当たり得ますが、条文上の期間などの要件があり、また裁量免責が検討される余地もあります。結論は個別事情によります。
裁量免責が認められれば、金融機関への債務はすべて免責されますか。
必ずしもそうではありません。免責許可を得ても、金融機関が粉飾による欺罔を「悪意で加えた不法行為」と主張し、その損害賠償請求権が非免責債権として残ると争う可能性があります。「悪意」の意義には議論があり、事案により結論は変わります。
金融機関へ一部返済すれば、刑事責任や免責で有利になりますか。
被害弁償は刑事手続で有利な事情となり得ます。しかし、特定の債権者だけへの返済は、破産手続では偏頗弁済として否認の対象や免責不許可事由となり得ます。破産法上の影響を確認せずに単独で実行しないことをおすすめします。
信用保証協会付きの融資でも、扱いは同じですか。
基本的な考え方は共通しますが、信用保証協会が代位弁済した場合の債権関係は、契約や制度、事案によって異なります。保証地位の詐取と融資金の詐取が分けて検討されることもあります。資料を確認して個別に判断する必要があります。
粉飾で法人税を払い過ぎていた場合、取り戻せますか。
利益を過大に見せる粉飾では法人税を過大に納めている場合がありますが、その是正には、修正の経理と申告、更正、複数年の税額控除など特別な取扱いが定められています(法人税法第129条・第135条)。破産や刑事への影響も踏まえ、会計・税務の両面から検討する必要があります。
まとめ
- 粉飾融資があっても、会社の破産申立て自体が当然に禁止されるわけではありません。法人には免責制度がなく、会社は清算・消滅します。
- 会社の破産、代表者個人の免責、金融機関への民事責任、刑事責任は、それぞれ別に判断されます。
- 粉飾があっても、詐欺罪や免責不許可が当然に確定するわけではありません。要件を資料と経緯に即して検討する必要があります。
- 免責許可を得ても、金融機関の債権が非免責債権として残るかは、個別に検討する必要があります。
- 粉飾には税務上の影響もあり、破産以外に再生・私的整理・経営者保証ガイドラインの検討余地もあります。
- 資料の廃棄・修正、追加の粉飾融資、特定債権者への返済、資産移転をする前に、相談することが重要です。
資料を保全したうえで、破産・民事・刑事の論点を切り分けて検討しましょう。
ご相談の際は、決算書、金銭消費貸借契約書、融資申込書、資金繰り表、総勘定元帳、金融機関とのやり取りの記録などをお持ちください。初回相談は無料です。オンライン・出張でのご相談や、営業時間外・土日祝のご相談にも対応しています(受付時間9時〜20時)。
お電話でのお問い合わせは 078-797-5227 へ。関連する取扱業務や費用は、法人破産・事業者破産、借金問題(債務整理)、刑事事件・少年事件、弁護士費用の各ページをご確認ください。
監修者・執筆者
藤井 貴之(ふじい たかゆき)
弁護士・公認会計士(兵庫県弁護士会所属)
弁護士法人ひょうご支所 神戸みらい法律会計事務所 代表弁護士・公認会計士
企業法務をはじめとする分野を取り扱い、決算書、元帳、融資資料、資金の流れを、法務と会計の両面から確認できる体制で相談に対応しています。粉飾が関係する破産・免責・刑事の問題は、会計資料の読み解きと法的検討の双方が必要になります。
参考資料
- 破産法(e-Gov法令検索)
- 刑法(e-Gov法令検索)
- 会社法(e-Gov法令検索)
- 法人税法(e-Gov法令検索)
- 破産手続の概要(裁判所)
- 経営者保証に関するガイドライン(全国銀行協会)
- 経営者保証(中小企業庁)
本記事は一般的な情報提供であり、具体的な結論は事実関係と資料により異なります。個別の事案については、資料を確認したうえで弁護士にご相談ください。

24時間365日受付