「自己破産をすれば、借金だけでなく税金や国民健康保険料の滞納もなくなる」と考えている方は少なくありません。しかし、税金や国民健康保険料・社会保険料などは、自己破産をしても支払義務が残る可能性がある債権です。借金の返済と税金の滞納が重なり、督促状や差押予告が届いて不安を抱えている方もいらっしゃると思います。
このコラムでは、税金・国民健康保険料等が自己破産でどのように扱われるか、滞納処分(差押え)と破産手続の関係、換価の猶予などの納付相談、借金との優先順位、そして弁護士に相談するタイミングを、一般の方に向けて整理します。結論の方向性を先にお伝えすると、自己破産で整理できる債務と、破産後も残る可能性がある債務は分けて考える必要があります。個別の事情により結論は変わりますので、最終的にはご自身の資料を確認したうえで判断することをおすすめします。
借金と税金の両方でお困りの場合は、自己破産などで整理できる債務と、残る可能性がある債務を分けて確認することが出発点になります。督促状・差押予告・納税通知などのお手元の資料を整理したうえで、破産手続と納付相談の進め方を一緒に検討できます。
Contents
結論:税金・国民健康保険料等は自己破産でも支払義務が残る可能性があります
自己破産をして免責許可決定が確定すると、原則として借金などの支払義務を免れます。もっとも、法律は一定の債権を例外(非免責債権)としており、その筆頭が税金などの「租税等の請求権」です。国民健康保険料や国民年金保険料、社会保険料などの公課も、これに準じて扱われるのが一般的です。
まずは、自己破産で整理できる可能性のある債務と、破産後も残る可能性がある債務を分けて把握してください。
先に押さえたい3つの点
- 借金(貸金・クレジット・事業借入など)は、免責により支払義務がなくなる可能性があります。
- 税金・国民健康保険料・社会保険料などは、免責されず支払義務が残る可能性があります。
- 破産手続と、税務署・市役所・年金事務所などへの納付相談は、役割が異なります。両方を分けて整理する必要があります。
| 区分 | 主な例 | 自己破産での扱い(方向性) |
|---|---|---|
| 一般の借金 | 消費者金融・カードローン・クレジット・事業借入・友人からの借入など | 免責の対象となり、支払義務がなくなる可能性があります |
| 税金・公課 | 所得税・住民税・消費税・固定資産税・自動車税、国民健康保険料、国民年金保険料、社会保険料など | 非免責債権として、支払義務が残る可能性があります |
この違いを踏まえると、「破産すれば税金対応も不要になる」わけではなく、破産後も税・社会保険料の納付方法を別途整理する必要があることが分かります。以下で、その理由と対応の考え方を順に見ていきます。
自己破産をしても免責されない「非免責債権」とは
免責の効果と非免責債権の関係(破産法253条)
個人が自己破産を申し立て、裁判所から免責許可決定を受けて確定すると、破産手続による配当を除き、破産債権について支払う責任を免れます。ただし、法律は政策的な理由から一部の債権を免責の対象外としています。これを非免責債権といい、破産法253条1項に列挙されています。その第1号が、税金などの「租税等の請求権」です。
つまり、免責許可決定が確定しても、非免責債権については支払義務が残ります。税が免責されない理由は、公的な収入を確保する必要があることや、他の納税者との公平を保つ必要があることにあると説明されています。
「租税等の請求権」に含まれるもの
ここでいう「租税等の請求権」とは、国税徴収法または国税徴収の例によって徴収することのできる請求権を指します(破産法97条4号)。裁判などの手続を経なくても、法律上、強制的に徴収できると定められているものが該当します。
そのため、所得税・住民税・固定資産税などの税金だけでなく、国民健康保険料や国民年金保険料、健康保険料・厚生年金保険料といった社会保険料も、法律上「滞納処分の例により徴収できる」とされているものは、租税等の請求権に準じて非免責債権として扱われるのが一般的です。国民健康保険料を保険料として徴収する自治体(神戸市はこの方式です)でも、国民健康保険税として徴収する自治体でも、いずれも支払義務が残る可能性があります。
個々の債権がどのカテゴリーに当たるか、また納期限との関係でどのように扱われるかは、事案により異なります。手元の通知書や自治体の案内で確認する必要があります。
税金・国民健康保険料・社会保険料等の分類
| 種類 | 具体例 | 徴収の根拠(大まかな整理) | 自己破産での扱い(方向性) |
|---|---|---|---|
| 国税 | 所得税・消費税・源泉所得税・相続税など | 国税徴収法 | 非免責債権(残る可能性) |
| 地方税 | 住民税(市県民税)・固定資産税・自動車税・事業税など | 地方税法(国税徴収の例により徴収) | 非免責債権(残る可能性) |
| 国民健康保険料・国民健康保険税 | 国民健康保険料(神戸市は保険料方式)・国民健康保険税 | 国民健康保険法・地方自治法/地方税法(滞納処分の例により徴収) | 非免責債権として扱われるのが一般的 |
| 国民年金保険料 | 国民年金保険料 | 国民年金法(国税徴収の例により徴収) | 非免責債権(残る可能性) |
| 社会保険料 | 健康保険料・厚生年金保険料・介護保険料など | 各法(国税徴収の例により徴収) | 非免責債権(残る可能性) |
| その他の公課 | 後期高齢者医療保険料・下水道使用料など | 各法(滞納処分の例により徴収) | 非免責債権として扱われ得る |
| (参考)一般の借金 | 貸金・カードローン・クレジット・事業借入など | 民事上の債権 | 免責の対象となり得る |
上記は一般的な整理であり、個々の債権の性質や自治体の制度、事案によって扱いが異なる場合があります。具体的な区分は、通知書・条例・窓口で確認する必要があります。
滞納処分(差押え)とは何か|自己破産との関係
督促から差押え・換価・配当までの流れ
税や社会保険料を滞納すると、行政庁は裁判所の手続を経ずに財産を差し押さえ、換価(売却)して滞納分に充てることができます。この一連の手続を滞納処分といいます。一般的な流れは、次のように進みます。
| 段階 | 内容 |
|---|---|
| 納期限の経過 | 納付書・納税通知書の期限を過ぎると滞納となります |
| 督促 | 督促状が送付されます |
| 催告・差押予告 | 催告書や差押予告書が送付されることがあります |
| 差押え | 給与・預金・売掛金・不動産・自動車などが差し押さえられることがあります |
| 換価・配当 | 差押財産を換価し、滞納分に充当されます |
差押えは、通常、督促状が発せられて一定期間が経過しても納付がない場合に行われます。まずは、お手元の通知書がどの段階のものかと、滞納額を確認することが大切です。過度に不安を抱く必要はありませんが、通知書を放置しないことが重要です。
借金の差押えと、税・社会保険料の滞納処分は扱いが異なります
「自己破産をすれば差押えは止まる」と考える方が多いのですが、借金に基づく差押え(強制執行)と、税・社会保険料に基づく滞納処分とでは、破産手続との関係が異なります。
- 貸金・クレジットなどの借金に基づく強制執行は、破産手続が始まると新たにはできず、既にされているものも破産財団との関係で効力を失うのが原則です(破産法42条)。
- これに対して税・社会保険料の滞納処分は、破産手続の開始後に新たに行うことは制限されますが、破産手続の開始前に着手されていれば続行され得ます(破産法43条)。また、免責許可決定が確定しても、非免責債権としての支払義務は残ります。
そのため、差押えの帰趨は、対象財産・手続の段階・差押えが着手された時期などによって変わります。差押えや差押予告を受けている場合は、通知書の内容を確認したうえで、破産手続と納付相談の双方から検討する必要があります。
換価の猶予・納税の猶予など「納付相談」の制度
税や社会保険料を一度に納めることが難しい場合には、免除ではないものの、納付を待ってもらったり分割で納めたりするための制度があります。代表的なものを整理します。
換価の猶予・納税の猶予・徴収猶予・分割納付の違い
| 制度 | 主な対象・場面 | 主な窓口 | ポイント |
|---|---|---|---|
| 換価の猶予(申請による) | 税を一度に納めると事業の継続または生活の維持が困難になるおそれがある場合 | 国税は税務署、市税・国民健康保険料は神戸市、社会保険料は年金事務所など | 差押財産の換価を猶予し分割納付できます。延滞税・延滞金の一部が軽減される場合があり、担保が必要なことがあります。申請の時期に定めがあります |
| 換価の猶予(職権による) | すでに滞納があり、申請の要件に合わない場合などの受け皿 | 同上 | 窓口の判断により行われるもので、申請できるものではありません |
| 納税の猶予・徴収猶予 | 災害・病気・事業の休廃業・大きな損害などの事情がある場合 | 同上 | 一定期間、納付が猶予されます。延滞税・延滞金が軽減または免除される場合があります |
| 分割納付(納付相談) | 一度に納めるのが難しい場合の相談 | 同上 | 分割の可否・金額は個別の判断によります |
制度の名称・要件・期間・必要書類・担保の要否は、国税・地方税・国民健康保険料・年金などで異なります。神戸市では、市税と国民健康保険料とで猶予の期間の扱いが異なる場合があります。最新の要件は、各窓口や公式資料で確認してください。
「猶予」は「免除」ではありません
猶予は、支払方法や徴収手続に関する制度であり、税や社会保険料そのものがなくなるわけではありません。また、認められるかどうかは要件と個別の事情、窓口の判断に左右されます。生活や事業の維持が難しい場合は、早めに窓口へ相談することに意味があります。
借金と税金の両方がある場合の「優先順位」
一般の借金と非免責債権を分けて整理する
借金と税・社会保険料の滞納が重なっている場合は、まず「自己破産などで整理できる可能性のある債務」と「破産後も残る可能性がある債務」を一覧にして分けることが出発点になります。そのうえで、生活費・家賃・公共料金・税・社会保険料・借金の支払いをどう組み立てるかを検討します。どれを優先すべきかは、収入・財産・滞納の段階・家族の状況などによって変わるため、一律には決められません。
破産申立て前の一括納付・偏頗弁済に注意
破産を検討している段階で、特定の債権者にだけ返済したり、財産を処分したり、滞納していた税を急いで一括納付したりすると、後の手続で問題になることがあります。税の納付が例外的に扱われる場面もありますが、事案により結論が異なります。支払いを実行する前に、破産手続への影響を確認することをおすすめします。自己判断で動く前に、通知書と借入・滞納の全体像を整理してご相談ください。
よく問題になるケース
以下は、実際に迷いやすい一般的な場面です(特定の解決事例ではありません)。いずれも個別事情により結論は異なります。
- 住民税とカードローンを同時に滞納しており、どちらから手を付ければよいか分からない。
- 国民健康保険料と消費者金融の返済が重なり、毎月の資金繰りが回らない。
- 給与の差押予告が届いたが、放置してしまっている。
- 預金口座が差し押さえられた。
- 個人事業主として、消費税や国民健康保険料を滞納している。
- 会社代表者で、会社の税金・社会保険料と個人の保証債務が絡んでいる。
- 破産の申立て前に、滞納していた税を一括で払ってよいか迷っている。
- 市役所や税務署と分割納付の約束をしたが、支払えなくなった。
これらの場面では、破産手続の方針と、窓口での納付相談の準備を並行して整理することが、現実的な対応につながります。
相談・手続の前に確認したい資料(チェックリスト)
破産の相談前、納付相談前、差押えへの対応前には、次の資料を手元でそろえておくと、方針を検討しやすくなります。すべてがそろっていなくても相談は可能です。
- 督促状・催告書・差押予告書・差押通知書
- 納税通知書・納付書・滞納明細・課税証明書
- 給与明細・預金通帳・家計の収支メモ
- 借入の一覧・債権者からの請求書・契約書
- 保険証・年金関係の書類
- (事業をしている場合)帳簿・売掛金の資料・確定申告書
弁護士に相談するタイミングと、窓口相談との役割分担
弁護士への相談は、結果を保証するものではありませんが、判断材料や対応方針を整理する場になります。特に次のような場合は、早めに相談することで見通しを検討しやすくなります。
- 自己破産を検討しているが、税金・国民健康保険料の滞納がある。
- 督促状・催告書・差押予告書が届いた。
- 給与・預金・売掛金・不動産などの差押えを受けた。
- 借金の返済と税・社会保険料の納付の両立が難しい。
- 個人事業主・会社代表者で、保証債務や家族名義の財産が絡んでいる。
- 破産申立て前に、どの支払いを止めるべきか判断できない。
税・社会保険料そのものの納付相談は、税務署・市役所・年金事務所などの窓口で行う必要があります。弁護士による債務整理の相談では、自己破産・任意整理などの方針、滞納処分の状況、支払いの優先順位を整理します。窓口相談の前に全体の方針を整理しておくと、手続の齟齬を避けやすくなります。
差押予告や督促状が届いている場合は、通知書・滞納額・借入の一覧を整理したうえでご相談ください。自己破産などで整理できる債務と、残る可能性がある債務を分けて確認し、破産手続と納付相談の進め方を一緒に検討します。
税金は自己破産で免責されますか?
免責されないのが原則です。税金は「租税等の請求権」として非免責債権にあたり、免責許可決定が確定しても支払義務が残ります。もっとも、破産で他の借金の負担が軽くなり、結果として納付を進めやすくなる場合はあります。
国民健康保険料や国民健康保険税は自己破産で消えますか?
消えない可能性が高い債権です。国民健康保険料は法律上、滞納処分の例により徴収でき、租税等の請求権に準じて扱われるのが一般的です。国民健康保険税でも同様です。神戸市は保険料方式です。個別の扱いは事案・窓口により異なる場合があるため、確認が必要です。
税金を滞納したまま自己破産できますか?
税金の滞納があっても、自己破産の申立て自体はできます。ただし税金は免責されないため、破産後も納付方法を別途整理する必要があります。
自己破産をすれば差押えは止まりますか?
借金に基づく差押えと、税・社会保険料の滞納処分とでは扱いが異なります。滞納処分は破産手続の開始前に着手されていれば続行され得ますし、免責許可決定でも非免責債権の支払義務は残ります。状況や手続の段階により異なるため、確認が必要です。
換価の猶予とは何ですか?
税を一度に納めると事業の継続や生活の維持が困難な場合に、申請等により差押財産の換価(売却)を待ってもらい、分割で納付できる制度です。免除ではなく、延滞税・延滞金の一部が軽減される場合があります。認められるかは要件・個別事情によります。
税金と借金のどちらを先に払うべきですか?
一律には決められません。破産を検討している場合、特定の債権者への返済や税の一括納付が後で問題になることもあります。支払いの優先順位は個別事情で変わるため、自己判断せず確認することをおすすめします。
市役所や税務署に納付相談する前に弁護士へ相談できますか?
できます。借金全体の整理方針と、税・社会保険料の納付相談は役割が異なります。先に全体像を整理してから窓口相談に臨むと、方針の齟齬を避けやすくなります。
破産申立て前に税金だけ払ってもよいですか?
慎重な判断が必要です。破産直前の一部の支払いは、手続上問題となる場合があります。税の納付が例外的に扱われる場面もありますが、事案により結論が異なるため、支払う前に確認することをおすすめします。
まとめ
- 税金・国民健康保険料・社会保険料などは、自己破産をしても非免責債権として支払義務が残る可能性があります。
- 借金に基づく差押えと、税・社会保険料の滞納処分とでは、破産手続との関係が異なります。
- 換価の猶予・納税の猶予などは「免除」ではなく、納付方法・徴収手続に関する制度です。
- 自己破産・滞納処分・納付相談は分けて考える必要があります。
- 破産申立て前の一括納付・偏頗弁済は問題になり得るため、支払う前に確認することをおすすめします。
資料を確認したうえで、破産手続と納付相談の進め方を整理します。借金と税金の両方でお困りの場合は、まずはお手元の通知書と借入の一覧をご用意のうえ、お問い合わせください。弁護士費用の目安や相談の進め方もあわせてご案内します。
監修者・執筆者
弁護士法人ひょうご支所 神戸みらい法律会計事務所
代表弁護士 藤井 貴之(兵庫県弁護士会所属・公認会計士)
個人の債務整理・自己破産から、企業・個人事業者の破産・私的整理まで対応しています。借金と税金・社会保険料が重なる事案では、法務・財務の両面から現実的な進め方を検討します。
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