長年の取引を突然打ち切られたら|設備投資・在庫・逸失利益の損害賠償 |神戸市(須磨・垂水・西神・北神)の弁護士|初回相談無料|

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長年の取引を突然打ち切られたら|設備投資・在庫・逸失利益の損害賠償

長年の取引先から、契約の終了、更新の拒絶、発注の停止を告げられた。相手方に合わせて専用設備や在庫、人員を用意してきた製造受託会社、代理店、販売店にとっては、事業の存続に関わる問題です。

結論からいえば、取引が長く続いたというだけで、取引の継続や損害の補償が保証されるわけではありません。ただし、契約の定め、予告の有無、既に受けた注文、相手方からの投資の要請などを確認すると、即時の打切りに異議を述べる、既発注分の履行や清算を求める、損害賠償を請求する、終了時期の延期や在庫の買取りを交渉する、といった対応ができる場合があります。検討の際は、次の4つを分けて考えます。

  • 取引終了の効力:相手方が契約上取引を終了できるのか、いつ終了するのか
  • 個別注文の処理:既に成立した注文の納入、代金、取消しをどう扱うか
  • 補償の根拠と金額:何を根拠に、どの損害をいくら請求できるか
  • 回収の可能性:請求が認められるとして、現実に支払を受けられるか

帳簿上の設備の残高や将来の売上見込みが、そのまま賠償額になるわけではありません。通知を受けたら、まず通知書・封筒・電子メールの原本と、届いた日時、終了予定日を保存してください。回答期限が近いときは、資料がそろうのを待たずに相談することも検討してください。結論は、契約の内容と取引の経緯によって異なります。

取引終了の通知を受けたら最初に確認すること

通知を受け取った直後に、承諾する、全面的に反論する、生産を止めるといった結論を急ぐ必要はありません。まず、通知がどの種類のものかと、契約・発注の状況を分けて確認し、そのうえで、異議や権利の留保を伝えるか、追加の損失をどう防ぐかを検討します。

通知の種類と最初に確認すること
通知の種類 問題になること 最初に確認する資料
期間満了・
更新拒絶
契約で定めた期限と方法で更新が拒絶されたか 契約期間と自動更新の条項、通知が届いた日
約定による
中途解約
解約の要件と予告期間を満たしているか 解約条項、予告期間、解約時の精算の定め
債務不履行を
理由とする解除
指摘された不履行があるか、催告が必要な場合か 指摘された事実、催告の有無、是正の経緯
新規発注の停止 発注する義務や最低購入数量の約束があるか 最低数量・購入保証・独占の定め、内示の扱い
成立した注文の
取消し
個別の注文が既に成立しているか 注文書・注文請書、受注の記録、納期

通知の内容に同意していないことや、損害賠償などの権利を留保することを書面で伝えるかは、早めに検討します。ただし、異議を伝えれば取引が当然に続くわけではありません。また、既に受けた注文の履行を無断で一律に止めると、こちらの債務不履行を主張されるおそれがあるため、追加の生産や材料の購入をどこまで行うかは、注文の有無と契約の定めに照らして整理します。

基本契約の終了と既に受けた注文は分けて考える

基本契約が終了しても、それより前に成立した個別の注文が当然に消えるわけではありません。注文ごとに成立の有無、納期、代金を確認し、基本契約に、終了後も成立済みの個別契約に効力を残す条項があるかも確認します。

個別の注文が、製品を製作して完成させる請負に当たり、まだ完成していない段階であれば、注文者は損害を賠償して契約を解除することができます(民法第641条)。解除自体は認められても、損害の賠償が問題になります。ただし、製造受託のすべてが請負に当たるとは限らないため、契約の内容から判断します。

令和8年(2026年)1月1日以後の発注で取適法が適用される取引では、既に発注した物品の受領拒否や、費用を負担しない発注の取消しが、同法の問題にもなります(後述)。

通知日・回答期限・更新期限を記録する

通知書・封筒・電子メールの原本を保存し、届いた日時、終了予定日、相手方が指定した回答期限、契約上の予告期間や更新拒絶の期限を一覧にします。指定された回答期限は、過ぎれば法律上当然に権利を失う期限とは限りませんが、回答しないままにせず、期限内に伝える内容を検討します。

長く続いた取引では、契約の時期も確認します。令和2年(2020年)4月1日に施行された民法改正の前に締結された契約や生じた債権には、時効、債務不履行の責任、解除、請負・委任などについて、改正前の規定が適用される場合があります(民法の一部を改正する法律(平成29年法律第44号)附則第10条・第17条・第32条・第34条)。基本契約、変更・更新の合意、個別の注文の日付をそれぞれ確認し、自動更新が続いているだけで一律に改正後の規定によると考えないようにします。

時効も、打切りの通知から一律に5年と数えるものではありません。現行の民法では、権利を行使することができることを知った時から5年、又は権利を行使することができる時から10年で時効が完成し(民法第166条第1項)、契約で請求や通知の期限を定めていることもあるため、請求権ごとに確認します。

終了合意書や、清算の条項を含む書面に署名する前には、少なくとも次の点を確認します。

  • 終了日と、それまでの発注・納入の扱い
  • 未納入の注文、未払の代金、立替費用の清算方法
  • 在庫・仕掛品・材料の品番、数量、引取りや買取りの条件
  • 専用設備や型の所有権、返還、保管費・撤去費の負担
  • 製品保証・保守・顧客対応をいつまで、誰の費用で行うか
  • 「今後一切の請求をしない」といった広い清算条項の有無と、その対象の範囲

回答期限や終了予定日が迫っているとき

期限が近い場合は、資料がそろうのを待たずに相談をご予約ください。最初のご連絡は、会社名、ご担当者名、相手方の名称、ご相談の概要と期限にとどめてください。契約書などの機密資料は、利益相反の確認が済んだ後、当事務所がご案内する方法でお受け取りします。

取引終了についての相談を予約する

長年の取引なら打切りを拒めるのか

取引の期間が長いことや、売上の多くを相手方に頼っていることだけで、取引の継続を求めたり、当然に補償を受けたりできるわけではありません。契約を結ぶかどうかや契約の内容は、法令の制限内で当事者が自由に決めるのが原則だからです(民法第521条)。

他方で、権利の行使は信義に従い誠実に行わなければならず(民法第1条第2項)、契約の内容、具体的な供給や発注の義務、終了に至る経緯によっては、相手方の終了の権限や、その行使の方法が制約されることがあります。「信頼関係があるから取引は続けられる」と考えるのではなく、契約の条項と取引の実態、終了の理由、予告の有無、投資の経緯を合わせて検討します。

期間・更新・解約条項と取引の実態を確認する

解約条項があっても、それだけで結論が決まるわけではありません。条項を出発点として、実際にどのような義務を負っていたか、終了の方法が信義則に照らして問題とならないかを検討します。予告期間についても、何か月あれば足りるという一律の基準はなく、契約の定めと個別の事情によって判断されます。主に確認する条項は次のとおりです。

  • 契約期間、自動更新、更新拒絶や中途解約の可否・予告期間・方法
  • 解約時の精算や補償の定め
  • 最低購入数量、購入保証、独占的な取引、注文に応じる義務の定め
  • 契約上の解除事由と、民法上の解除の要件(催告の要否。民法第541条・第542条)
  • 損害賠償の上限や、逸失利益(失われた将来の利益)を賠償の対象から除く定め

基本契約(取引基本契約)が価格や支払条件などの枠組みを定めるだけなのか、こうした義務まで定めているのかによって、終了の扱いは変わります。発注数量の推移や価格改定の経緯など、実際の運用も確認します。特に、需要予測や内示が確定した注文や購入の保証に当たるかどうかは、文言、変更の履歴、それまでの扱いによって判断が分かれます。署名前・更新前に確認しておきたい条項の考え方は「取引基本契約の解除・損害賠償条項の確認点」で解説しています。

代理商・販売店・製造請負でルールが異なる

「代理店」「業務委託」といった契約の名称だけでは、どのルールが当てはまるかは決まりません。相手方のために取引の代理や媒介をするのか、自分の名義で商品を仕入れて再販売するのか、注文に応じて製品を製作するのかなど、取引の実質で区別します。

取引の類型と終了時に確認する規定
類型 取引の実質 終了時に確認する主な規定
代理商 相手方のために、その平常の事業(営業)の部類に属する取引の代理や媒介をする者で、相手方の使用人ではないもの(会社法第16条、商法第27条) 契約期間の定めがない場合は、2か月前までの予告による解除と、やむを得ない事由があるときの随時の解除(相手方が会社であれば会社法第19条、会社以外の商人であれば商法第30条)。契約の特約も確認する
販売店 自分の名義で商品を仕入れ、自分の顧客に再販売する 代理商の規定がそのまま当てはまるわけではない。契約の条項、取引の経緯、信義則から検討する
製造の請負 注文に応じて製品を製作し、完成させて納める 仕事の完成前は、注文者が損害を賠償して解除できる(民法第641条)。製造受託のすべてが請負に当たるとは限らない
委任・準委任 相手方から事務の処理を任される 各当事者がいつでも解除できるのが原則。相手方に不利な時期の解除や、受任者の利益(専ら報酬を得ることによるものを除く)をも目的とする委任の解除では、やむを得ない事由がない限り損害の賠償が必要(民法第651条・第656条)

代理商の2か月前の予告の規定を、販売店契約や製造委託の一般的なルールとしてそのまま当てはめることはできません。販売店契約を名称や形式だけで準委任と扱うことも適切ではありません。

即時停止と予告後の終了を分けた裁判例

大阪地方裁判所平成29年7月20日判決(平成26年(ワ)第9674号)は、約40年続いた洗車機の販売代理店取引について、メーカーによる即時の解除を無効としつつ、契約で定められた3か月の予告期間が経過した後の終了は有効と判断しました。予告後の終了を認めた判断には、販売店の側にも、メーカーの商品表示に関わる商標権を無断で取得したなどの問題があったという事情が関わっています。

失われた利益については、終了が有効となるまでの期間について、個別の商談が成立した見込みや代替の販売などを検討し、それより後の期間の利益の請求は認めませんでした。

この判決は一つの地方裁判所の判断であり、予告期間は3か月が相場である、長期取引の終了には常に正当な理由が必要である、といった一般的なルールを示したものではありません。専用設備への投資額の賠償を認めた例でもありません。判決の全文は「大阪地裁平成29年7月20日判決」(裁判所ウェブサイト)で確認できます。

専用設備・在庫・人員への投資はどこまで損害になるか

相手方に合わせて行った投資のうち、まだ回収できていない金額の全額を請求できるとは限りません。

契約上の義務違反(債務不履行)を理由に損害賠償を求めるには、相手方の具体的な義務とその不履行、損害、不履行と損害との因果関係が必要です。不履行が、契約などの債務の発生原因と取引上の社会通念に照らして相手方の責めに帰することができない事由によるときは、責任は生じません(民法第415条第1項)。賠償の範囲も、通常生ずべき損害と、特別の事情による損害のうち当事者がその事情を予見すべきであったものに限られます(民法第416条)。投資が相手方の要請や了解の下で行われたことは重要な事情ですが、それだけで全額の賠償が決まるわけではありません。

なお、終了そのものが契約上適法な場合でも、請負に当たる注文の解除(民法第641条)や委任の解除(民法第651条)では損害の賠償が問題になり得ます。投資の回収について合意があれば、その合意に基づく請求も検討します。

損害項目ごとの点検事項
損害項目 点検すること 重複・控除の注意
専用設備・型 取得費、相手方の投資要請や了解、回収期間や数量の約束、単価への上乗せで既に回収した額、他の用途への転用・売却・賃貸の現実性、残存価値、撤去費 帳簿価額や税務上の未償却残高は、損害額そのものではない。逸失利益の計算に含まれる投資回収分と重ねない
既発注分の製品・
仕掛品・材料
注文番号、品番、数量、原価、所有権、買取りの条項、転売の制約、処分による収入 代金や買取代金として回収できる分は差し引く。売上から回避できた費用だけを差し引く利益計算に、在庫原価を重ねて加えない
見込み生産の在庫 生産の要請や内示の内容、数量の根拠、処分による収入 既発注分とは区別する。取適法の受領拒否とは別の問題として検討する
人員・賃料などの
固定費
対象期間に実際に支出を免れたか、配置転換や撤去などの追加費用の必要性・相当性・因果関係 売上から回避できた費用だけを差し引く計算では、同じ給与や賃料を別に加えない
借入金の返済 設備資金の借入れと投資との関係 返済額そのものは損害ではない。設備の取得費と二重に数えない

設備の帳簿価額と損害額は一致するとは限らない

設備の帳簿価額、税務上の未償却残高、契約上の未回収投資額、民事上の損害額は、それぞれ別のものです。損害は、相手方の義務違反がなかった場合と現実の経済状態を比べて考えます。相手方からの投資の要請や、回収期間・数量についての説明が記録に残っているかも重要です。

例えば、単価への上乗せで設備費の一部を既に回収していれば、その分は差し引いて考えます。設備を転用、売却、賃貸できるという場合は、その現実性と見込まれる価額、撤去や処分の費用を確認します。また、後で説明する逸失利益の計算に、設備投資の回収に当たる部分が既に含まれていることもあります。設備の損失と逸失利益は、常に両方を請求できるものでも、常にどちらか一方に限られるものでもなく、重複する部分を除いて検討します。

会計上の減損処理や税務上の取扱いは、損害額の判断とは別の問題です。

在庫と継続する固定費の二重計上を避ける

在庫は、既に発注を受けた製品・仕掛品・材料と、需要予測に基づいて先行して用意した在庫に分け、品番、数量、原価、所有権、買取りの条項、転売の制約、処分による収入を対応させて整理します。発注を受けていない見込み生産の在庫でも、相手方の要請に基づく生産であれば民事上の請求を検討する余地はありますが、取適法の受領拒否とは区別します。

計算の重複にも注意が必要です。逸失利益を「売上から、打切りによって支出を免れた費用だけを差し引く」方法で計算すると、既に支出した在庫の原価や、打切り後も支払が続く給与・賃料は差し引かれず、それらを賄う部分も計算結果に含まれます。そこへ同じ在庫原価や給与・賃料を損害として別に加えると、二重に数えることになり得ます。反対に、在庫原価を差し引いた後の利益で計算する場合は、在庫の損失を別に検討する余地があります。

給与や賃料が固定費か変動費かは、勘定科目の名前だけでは決まらず、対象期間に実際に支出を免れたかどうかで判断します。

失われた利益は売上から何を差し引くのか

逸失利益は、将来の売上の全額ではありません。受注や商談の確度、過去の売上の推移、季節による変動、市況、自社の品質・納期・生産能力などから、実現できたといえる売上(対象売上)を裏付け、そこから支出を免れた費用と、同じ期間に空いた設備・人員を使って得た代わりの取引の利益を差し引いて検討します。算定と立証の詳しい考え方は「契約不履行による逸失利益の計算・立証」で解説しています。

対象期間と取引成立の見込みを先に確かめる

前年の売上を何年分も積み上げて請求できるわけではありません。対象期間は、契約の残りの期間、予告の義務の有無と不足していた期間、相手方が契約上適法に取引を終了できた時点、取引の回復や代わりの取引先の確保の可能性などから検討します。大阪地裁平成29年7月20日判決も、終了が有効となった時点より後の利益は認めていません。

設備の税務上の耐用年数や投資の回収予定年数を、そのまま損害の期間とすることはできません。法的な義務が及ぶ期間を超えて、「代わりの取引先が見つかるまで」として無期限に請求することもできません。将来の長い期間の利益を請求する場合は、利息相当額の控除(中間利息控除。民法第417条の2)とその適用時点を別に検討します。次の設例は、この点を含まない単純な例です。

仮定の計算例と設備損失を足す前の点検

仮定の計算例(説明のための例であり、実際の事件や当事務所の取扱事例ではありません。)

  • 相手方の損害賠償責任が成立し、算定の対象期間を3か月とすることが別途裏付けられている。その3か月は既に経過している
  • 対象売上は1か月500万円
  • 打切りによって支出を免れた費用は1か月350万円
  • 同じ設備・人員を使った代わりの取引の増分利益は、対象期間の合計で90万円

計算:(500万円-350万円)×3か月-90万円=360万円

税金、消費税、遅延損害金などの個別の論点は加えていません。

この設例の90万円は、代わりの取引の売上ではなく、そのための追加の費用を差し引いた後の利益です。元の取引と並行して得られたはずの独立した利益まで、自動的に差し引くわけではありません。また、3か月は説明のための仮定であり、法律で定められた期間や裁判例の相場、当事務所が推奨する期間ではありません。

同じ設例で、帳簿価額600万円、売却見込額200万円の専用設備があったとしても、差額の400万円を単純に加えた760万円を、請求できる額と考えることはできません。設備の経済的な価値と処分の費用を確認し、1か月150万円の利益の中に設備投資の回収に当たる部分が含まれていないかを点検したうえで、別に計上できる部分を検討します。

代わりの取引先の開拓、設備の転用・売却、追加生産の抑制などは、合理的な範囲で検討し、行った対応と、実現しなかった理由を記録しておきます。こうした対応は、因果関係や、損害の拡大について過失があったかどうか(民法第418条)の判断に影響し得ます。ただし、在庫の投げ売りや従業員の解雇、不利な条件での契約変更まで当然に求められるわけではありません。大阪地裁平成29年7月20日判決でも、販売店が従来の契約に反する前払いの条件を受け入れなかったことを理由とする過失相殺などは認められていません。

取適法・独占禁止法が問題になる場面

下請として製造を受託している、売上の大半を一社に頼っているといった事情があっても、取引の打切りが直ちに法律違反になるわけではありません。どの法律が適用されるかは、取引の内容、双方の規模、発注の時期などの要件で決まり、違反に当たるかどうかは、具体的に禁止された行為に当たるかで判断します。

既発注品の取消しや金型の無償保管

製造委託などの取引には、「製造委託等に係る中小受託事業者に対する代金の支払の遅延等の防止に関する法律」(取適法)が適用されることがあります。同法は、令和8年(2026年)1月1日以後に発注された取引に適用されます(公正取引委員会「取適法施行に当たり事業者の皆様に御留意いただきたい事項」)。対象になるかどうかは、取引の内容と、発注者(委託事業者)・受注者(中小受託事業者)の資本金又は従業員数の基準で決まり、自社の名義で商品を仕入れて販売する通常の販売店取引や、規格品の購入が当然に対象になるわけではありません。受注者が個人の事業者などの場合は、別の法律の要件に当たることもあるため、個別に確認します。

対象となる取引では、受注者に責任がないのに既に発注した物品の受領を拒むこと(取適法第5条第1項第1号)や、必要な費用を負担せずに発注を取り消すこと(同条第2項第3号)が問題になります。口頭の発注も含めて発注の有無を確認し、注文書がないことだけで「発注していない」と扱わないようにします。他方、将来の発注を止めることや、発注を受けていない見込み生産品の引取りを拒むことは、同法の受領拒否とは別の問題です。

長期間発注がないのに、金型などの型を無償で保管させることは、不当な経済上の利益の提供要請(同条第2項第2号)として問題になります。受注者が所有する型でも、廃棄の承認などを通じて委託事業者が事実上管理しているものは含まれます。詳しくは公正取引委員会の「取適法の運用基準」と「よくある質問コーナー(取適法)」で確認できます。

優越的地位と民事上の賠償は別に判断する

取適法の対象にならない取引でも、独占禁止法(私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律)が定める優越的地位の濫用(同法第2条第9項第5号)が問題になることがあります。優越的地位にあるかどうかは、相手方への取引依存度、相手方の市場における地位、取引先を変更する可能性(相手方との取引に関連して多額の投資をしているかどうかも考慮されます)、その他取引することの必要性を示す具体的な事実を総合して判断されます。大企業との取引である、依存度が高い、取引を打ち切られたという事情だけで、違反と決まるわけではありません(公正取引委員会「優越的地位の濫用に関する独占禁止法上の考え方」)。

取適法の対象となる取引で、公正取引委員会などに違反の事実を知らせたことを理由に取引を停止するなどの不利益な扱いをすることは、報復措置(取適法第5条第1項第7号)として問題になり得ます(公正取引委員会「委託事業者の禁止行為」)。

もっとも、行政機関への申告や行政上の措置と、取引終了の民事上の効力、損害賠償が認められるかどうか、現実に回収できるかどうかは別の問題です。申告によって取引が当然に再開されたり、損害の全額が賠償されたりするわけではありません。

交渉・保全・訴訟をどう選ぶか

取引の再開を目指すのか、終了を前提に金銭の清算を求めるのかは、取引を続ける必要性、法的な根拠、時間的な余裕、証拠の状況、相手方から回収できる見込みを踏まえて選びます。請求書や回答書の作成、相手方の反論への対応、訴訟の初動といった一般的な進め方は「営業損害の請求・反論・訴訟対応の進め方」で解説しています。

終了延期・在庫買取り・移行費用を組み合わせる

損害額が固まっていなくても、終了に向けた条件の交渉は進められます。具体的に検討する条件は次のとおりです。

  • 終了時期の延期、発注数量の段階的な削減、移行期間中の最低発注量
  • 既発注分の納入と代金の支払
  • 在庫・設備の買取り、型の返還や保管費の負担
  • 撤去や移行にかかる合理的な費用の負担
  • 顧客への保証や保守の引継ぎ
  • 秘密情報やデータの返却

これらには、法律上当然に請求できるものと、交渉によって合意で得る条件とがあり、両者を区別して臨みます。合意書では、金額だけでなく、対象の品番・数量、評価の方法、所有権が移る時期、引渡しの費用、支払日を特定し、清算する注文と未清算として残す注文を明記します。暫定的な合意に、将来の請求をすべて放棄するような広い条項を含めないよう注意します。

事業継続に危険があるときの仮処分と回収の見通し

取引の継続を求めて、裁判所に仮処分(仮の地位を定める仮処分)を申し立てる方法もあります。ただし、争いのある具体的な権利関係があり、著しい損害や急迫の危険を避けるために必要であることが求められ、経営が苦しいというだけで認められるものではありません。基本契約が存続しているとしても、新規の発注量まで当然に強制できるとは限りません。

損害賠償などの金銭の回収に備えて相手方の財産を仮に押さえる仮差押えは、将来の強制執行ができなくなるおそれや、著しく困難になるおそれがあるかを検討する、別の手続です。いずれの手続でも、裁判所から担保の提供を求められることがあり、審尋などを経ることもあるため、証拠の準備と費用・時間の負担を伴います。手続の概要は裁判所の「民事保全」のページで確認できます。

相談前に保存・整理したい資料

資料は、何を立証するためのものかと結び付けて整理します。全部がそろっていなくても、期限が迫っているときは先に相談してください。

相談前に整理したい資料と想定される反論
資料 確認目的 想定反論
基本契約、
更新・変更の合意書、
終了の通知、
発注・受領の履歴
終了の権限、予告の要否と期間、確定した注文の範囲 「いつでも自由に終了できる」「その数量は発注していない」
投資を求めるメール、
仕様書、社内の稟議書、
数量や回収期間の
説明資料
投資の経緯と、相手方がそれを知っていたか 「自社の判断による投資だ」「需要予測を示しただけだ」
固定資産台帳、
購入・リースの契約書、
回収の明細、
第三者の査定、
転用の見積り
設備の負担額と残存価値 「既に単価で回収済みだ」「他の取引に転用できる」
品番別の棚卸表、
仕掛品の記録、
原価資料、発注番号
在庫と注文との対応、処分による価値 「その在庫は当社との取引と関係がない」
取引先別の月次損益、
総勘定元帳、
販売管理データ、
受注残、商談の記録
売上が実現した見込みと、支出を免れた費用 「予測が過大だ」「売上の減少は不況や品質の問題が原因だ」
代わりの営業活動、
設備の稼働、
在庫処分の記録
代わりの取引による利益と、損害を抑える対応 「損失は回避できたはずだ」

契約書や会計データは、原本や元のデータの形のまま保存し、計算表を作る場合は、抽出の条件、前提、作成した版を残します。後から作る経緯の時系列表は、当時の記録と区別し、作成日を記載しておきます。当時の記録を書き換えることや、権限のないアカウントで相手方のシステムにアクセスしてデータを取得することは避けてください。

資料を整理しながら方針を検討したい方へ

ご相談では、契約と取引の経緯を伺い、取引終了の効力、個別注文の扱い、請求を検討できる損害と根拠、回収の見通しを資料に基づいて整理し、交渉・保全・訴訟などの進め方を検討します。資料がそろう前でもご予約いただけます。ご予約の際は、次の事項をお知らせください。

  • 会社名とご担当者名
  • 相手方の名称
  • ご相談の概要(通知の種類、取引の期間など)
  • 回答期限や終了予定日などの期限

相手方の名称は利益相反の確認のために伺い、確認の結果、ご相談をお受けできない場合があります。契約書・決算書・会計データなどの機密資料は確認が済むまでお送りいただかず、受渡しの方法は当事務所からご案内します。お問い合わせやご予約はご依頼(委任契約の成立)ではなく、時効や期限が止まったり延びたりすることもありません。

相談方法・費用をご確認のうえ、相談をご予約ください。

企業法務スポット相談のご案内

弁護士費用の案内

取引終了についての相談を予約する

よくある質問

契約書がないと、損害賠償を請求できませんか。

契約書がなくても、電子メール、注文書や注文請書、発注・納品・請求の履歴、価格改定のやり取りなどから、合意の内容を検討できます。ただし、取引が長く続いた記録があるだけでは、相手方が取引の継続や一定数量の発注を約束していたことまで当然に立証できるわけではありません。

交渉や弁護士への相談をしていれば、時効は止まりますか。

相手方との交渉や、弁護士への相談・予約だけでは、時効は止まりません。請求の意思を伝える催告をすると、その時から6か月間は時効が完成しませんが、その間に再び催告しても期間は延びません(民法第150条)。協議を行う旨を書面で合意した場合の猶予(民法第151条)も、原則として合意から1年以内に限られ、合意を重ねても本来の時効の完成時期から通算5年を超えることはできません。訴えの提起など(民法第147条)を含め、どの手段をいつ取るかは、改正前の規定が適用されるかどうかも含めて個別に確認してください。

事務所紹介

弁護士法人ひょうご 支所 神戸みらい法律会計事務所(兵庫県弁護士会所属)は、〒654-0154 兵庫県神戸市須磨区中落合2丁目2-5 名谷センタービル7階(神戸市営地下鉄西神・山手線 名谷駅から徒歩1分)にあります。企業法務では、取引の停止や契約の解除、損害賠償、販売店・代理店契約に関するご相談をお受けしています。

在籍する弁護士は「所属弁護士の紹介」、所在地と交通は「事務所案内・アクセス」のページでご覧いただけます。

参考資料と情報基準日

この記事は、情報基準日時点の法令と公表資料に基づく一般的な情報です。具体的な事件には、契約や注文の時期に応じた規定が適用され、結論は契約の内容や取引の経緯によって異なります。

情報基準日:2026年10月17日

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