労基署の調査への会社対応|提出資料・期限・是正勧告の初動整理 |神戸市(須磨・垂水・西神・北神)の弁護士|初回相談無料|

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労基署の調査への会社対応|提出資料・期限・是正勧告の初動整理

「監督官が予告なく事業場に来ている」「電話で来署を求められた」「是正勧告書を受け取ったが、いつまでに何を出せばよいのか分からない」——労働基準監督署(以下「労基署」といいます)の調査では、最初の数日の対応が、その後の手続と社内の負担を左右します。

この記事は、会社側(経営者、役員、人事・労務・総務の責任者、事業場責任者)に向けて、初動を①書面と局面を見分ける、②資料を保全し提出範囲を確定する、③連絡・資料管理の窓口を決める、④期限を管理し是正報告につなげるの四つに整理します。事実を隠す、資料を作り替えるといった対応は、それ自体が新たな法的問題を生みます。他方で、書面の法的性質や要求の範囲を確認しないまま応じることも適切ではありません。調査の端緒も指摘事項も期限も事業場ごとに異なり、個別事情により結論は変わります。

この記事で分かること

  • 臨検、質問、資料提出、来署の求め、報告・出頭命令の違いと根拠条文
  • 是正勧告書・指導票と、行政処分・刑事手続との法的性質の違い
  • 提出資料の範囲の決め方と、原本・電子データの保全、提出履歴の残し方
  • 是正期限の確認方法と、期限内に完了できない見込みのときの進め方
  • 弁護士・社会保険労務士に相談を検討する場面と、相談前に整えたい資料

結論|現在の局面で最初に行うこと

予告のない臨検、来署の求め、是正勧告書の交付、行政処分や刑事手続の入口では、確認すべきことも避けるべき行為も異なります。まず、交付された書面の表題と根拠条文で、いま自社がどの局面にいるのかを特定してください。

現在の局面別に、最初に確認するもの・避ける行為・連絡を検討する相手
現在の局面 最初に確認するもの 避ける行為 連絡を検討する相手
予告なく監督官が来ている 監督官の証票(労働基準法第101条第2項、同法施行規則第52条)、氏名と所属署、対象事業場、求められた帳簿書類の範囲、根拠が労働基準法第101条か労働安全衛生法第91条か 資料の廃棄・書換え、推測での回答、虚偽の説明、事実上の立入り妨害 事業場責任者と本社の労務担当。必要に応じ社会保険労務士・弁護士
電話・通知書・来署依頼を受けた 書面の表題と根拠条文、報告・出頭を命じる書面か任意の求めか、労働基準法施行規則第58条の通知事項(理由・聴取事項)の記載、来署日・持参資料・対象期間・提出方法 日程や持参資料を確認せず放置すること、対象期間を確かめず一括して持参すること 担当監督官(日程と持参資料の確認)、資料を保管する部署
是正勧告書・指導票を受けた 書面の表題(是正勧告書か指導票か)、指摘された法条項、是正期限、報告の要否と提出方法、指摘事項ごとの対象者と対象期間 期限の見落とし、未実施の事項を実施済みと報告すること 是正を実行する部署の責任者。評価が分かれる項目は弁護士
行政処分・刑事手続の兆候がある 書面の名称と根拠条文(労働安全衛生法第98条・第99条によるものか)、令状の有無、聴取を受ける立場(参考人か被疑者か) 自己判断のまま対応を続けること、内容を確認せず署名すること 弁護士(速やかに)

「最初の24時間」は社内の初動目安です。法令が24時間以内の対応を義務づけているわけではなく、実際の期限は交付された書面に記載された日付が基準になります。受領当日のうちに、①書面の全ページを写しにする、②指摘事項と期限を一覧にする、③対象期間の資料に触れないよう周知する、④担当窓口を決める、までは済ませておきたいところです。

来署日や提出期限の前に、交付された書面と手元の資料を整理しておくと、対応の順序と方針を検討しやすくなります。書面の法的性質や提出範囲の判断に迷う場合は、期限前に一度ご確認ください。

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労基署の調査で行われること

調査は、根拠となる法律ごとに権限の内容が異なります。どの法律に基づく、どの権限が行使されているのかを最初に確認してください。

臨検・帳簿書類の提出・尋問と、労働安全衛生法上の立入検査

労働基準監督官は、事業場、寄宿舎その他の附属建設物に臨検し、帳簿及び書類の提出を求め、又は使用者若しくは労働者に対して尋問を行うことができます(労働基準法第101条第1項)。この場合、監督官は身分を証明する証票を携帯しなければならず(同条第2項)、様式は同法施行規則第52条で定められています。

労働安全衛生法に基づく立入検査では、事業場に立ち入り、関係者に質問し、帳簿、書類その他の物件を検査し、作業環境測定を行い、検査に必要な限度で無償で製品、原材料若しくは器具を収去することができます(労働安全衛生法第91条第1項)。この場合、監督官は証票を携帯し、関係者に提示しなければならず(同条第3項)、この権限は犯罪捜査のために認められたものと解釈してはならないとされています(同条第4項)。

厚生労働省の資料では、監督指導は計画的な選定によるほか、労働者からの申告や労働災害の発生を契機として行われる旨が示されており、予告なく立ち入ることを原則としているとの説明もあります。予告がないこと自体は直ちに違法とはいえません。行政の統計上は「定期監督等」「申告監督」といった区分が用いられていますが、法律で定められた手続類型ではありません。

報告・出頭を命じる場合と、任意の来署の求め

「呼出し」「来署依頼」という言い方は日常的に使われますが、法律上の位置づけは書面によって異なります。行政官庁及び労働基準監督官は、労働基準法を施行するため必要があると認めるときは、使用者又は労働者に対し、必要な事項を報告させ、又は出頭を命ずることができます(同法第104条の2)。行政官庁が同条第1項により命ずるときは、①報告をさせ、又は出頭を命ずる理由、②出頭を命ずる場合には聴取しようとする事項を通知するものとされています(労働基準法施行規則第58条)。労働安全衛生法にも同様の規定があります(同法第100条第1項・第3項)。

書面の表題や電話での言い回しだけで、任意の依頼か法律上の命令かを判断しないでください。根拠条文の記載を確認し、読み取れなければ担当監督官に確認します。

受け取った書面の法的性質を分けて確認する

是正勧告書、指導票、報告・出頭を命じる書面、使用停止等命令、刑事手続は、いずれも別の制度です。手元の書面がどれに当たるかを特定してください。

労基署の調査で交付され得る書面・措置と、その法的性質
書面・措置 主な根拠 法的性質 応じない場合に問題となり得ること
是正勧告書・指導票 監督の結果として交付される文書指導 行政指導(行政手続法第2条第6号)に当たると整理されます 勧告自体に強制力はありませんが、前提となる法違反は残ります。改めての監督、重大・悪質な事案での司法処分
報告・出頭を命じる書面 労働基準法第104条の2、労働安全衛生法第100条 法律に基づく命令 労働基準法第120条第5号、労働安全衛生法第120条第5号の罰則
使用停止等命令・緊急措置命令 労働安全衛生法第98条第1項、第99条第1項 行政処分 労働安全衛生法第119条第2号の罰則
司法警察員としての捜査 労働基準法第102条、労働安全衛生法第92条、刑事訴訟法 刑事手続 送検されたことと、起訴・有罪とは別の問題です

是正勧告書・指導票は行政指導として整理される

行政指導とは、行政機関がその任務又は所掌事務の範囲内において一定の行政目的を実現するため特定の者に一定の作為又は不作為を求める指導、勧告、助言その他の行為であって処分に該当しないものをいいます(行政手続法第2条第6号)。行政指導は相手方の任意の協力によってのみ実現されるものであることに留意しなければならず、従わなかったことを理由とする不利益な取扱いは禁止されています(同法第32条)。行政指導に携わる者は趣旨、内容及び責任者を明確に示さなければならず、口頭でされた場合には原則として書面の交付を求めることができます(同法第35条第1項・第3項)。

もっとも、これは「従わなくてよい」という意味ではありません。勧告そのものに強制力がないことと、指摘された法違反が存在するかどうかは別の問題です。是正がされなければ、改めて監督を受けることや、重大・悪質な事案で司法処分に至ることがあります。事実誤認があると考える場合も、無視するのではなく、根拠資料を添えて説明する方向で検討してください。

通常の是正勧告とは異なる局面があります。労働安全衛生法第98条第1項・第99条第1項に基づく使用停止等命令・緊急措置命令は行政処分であり、指導とは区別されます(急迫した危険があるときは監督官が即時に権限を行使できます。同法第98条第3項)。処分を争う手続と期限は、書面に付された教示の記載と現行法によって決まり、審査請求や取消訴訟を提起すれば当然に効力が止まるわけではありません。また、監督官は労働基準法違反の罪について司法警察官の、労働安全衛生法違反の罪について司法警察員の職務を行います(労働基準法第102条、労働安全衛生法第92条)。任意の事情聴取、被疑者としての取調べ、令状による捜索・差押え、送検、起訴、有罪はそれぞれ別の段階です。これらの兆候があるときは、社内で対応を続けず、速やかに弁護士にご相談ください。

拒否・虚偽陳述・不提出に対する罰則

調査への対応そのものに罰則が定められている点は、初動で押さえておく必要があります。もっとも、社内の記載ミスや資料の不備が当然に処罰の対象となるわけではありません。構成要件は法令ごとに異なりますので、次の整理を出発点に個別の事実関係へ当てはめてください。

調査への対応に関して罰則が定められている行為
問題となる行為 根拠条文 法定刑
臨検を拒み、妨げ、忌避する/尋問に対して陳述をせず、虚偽の陳述をする/帳簿書類を提出せず、虚偽の記載をした帳簿書類を提出する 労働基準法第101条、第120条第4号 30万円以下の罰金
労働基準法第104条の2による報告をせず、虚偽の報告をし、又は出頭しない 労働基準法第120条第5号 30万円以下の罰金
労働安全衛生法第91条第1項の立入り、検査、作業環境測定、収去、検診を拒み、妨げ、忌避する/質問に陳述をせず、虚偽の陳述をする 労働安全衛生法第120条第4号 50万円以下の罰金
労働安全衛生法第100条第1項・第3項による報告をせず、虚偽の報告をし、又は出頭しない 労働安全衛生法第120条第5号 50万円以下の罰金
使用停止等命令(第98条第1項)又は緊急措置命令(第99条第1項)に違反する 労働安全衛生法第119条第2号 6月以下の拘禁刑又は50万円以下の罰金

労働基準法第121条及び労働安全衛生法第122条は、いわゆる両罰規定を定めており、行為者のほか事業主(法人を含みます)も罰金刑の対象となり得ます。担当者個人の判断で対応を誤ると法人にも影響が及び得るという点に、社内の窓口を一本化する意味があります。

臨検・来署から是正報告までの実務手順

予告なしの臨検を受けているとき

求められた帳簿書類は、備え付けているものから順に提示し、その場にない資料は保管場所と提出できる時期を伝えて調整します。即答できない事項を推測で答えたり事実と異なる説明をしたりすることは避け、「確認のうえ回答したい」と伝えて回答期限を確認してください。弁護士に連絡することを理由に臨検を拒否したり中断させたりすることはできませんが、連絡すること自体が妨げられるわけではありません。当日のやり取りは、時刻、担当監督官名、質問と回答の内容、提示・提出した資料を記録に残します。

電話・通知書・来署依頼を受けたとき

書面が届いた場合は、全ページを写しにしたうえで、表題、宛名、対象事業場、根拠条文、来署日時、持参資料、対象期間、提出方法を一覧にします。電話のみで求められた場合は、担当監督官名、求められている内容、根拠、書面送付の有無を記録してください。範囲が読み取れないときは、想像で広げるのではなく担当監督官に確認します。日程の都合がつかない場合も放置せず、事前に理由と代替日を伝えて相談してください。

調査当日の質問への対応

当日は、労働時間の把握方法、時間外労働の実態と36協定の内容との対応関係、賃金の計算方法、規程の運用、安全衛生の管理体制などが確認されることがあります。回答者は事実を把握している担当者に絞り、①資料で確認できた事実、②まだ確認できていない事項、③法的評価が分かれ得る事項を分けて伝えると、後の是正報告との整合を保ちやすくなります。

会社側で連絡・資料管理の窓口を設けること自体は差し支えありません。ただしそれは、監督官が労働者に対して行う適法な質問や連絡を管理職が遮ったり、回答内容を指示したり、すべてを会社の窓口経由にさせたりする趣旨ではありません。

是正勧告書・指導票を受け取った後

受領後は、指摘事項ごとに、根拠となる法条項、対象者、対象期間、是正期限、報告の要否を表にして管理します。指摘事項には、規程の改訂だけで足りるものと、賃金の追加支払など金銭の支出を伴うものが混在します。社内手続も所要期間も異なるため、初期の段階で分けて計画を立ててください。

提出資料の集め方と確認方法

通知書の記載を起点に、提出範囲を確定する

提出資料は、まず通知書や要求書に記載されたものを優先します。一般的な資料一覧はあくまで確認の手がかりです。対象期間、事業場の範囲、提出方法(持参、郵送、電子データ)を確認し、読み取れない部分は担当監督官に確認してください。原本の提示を求められている場合に写しだけで足りるとは限らず、原本を提示・預託するときは、控え、資料索引、受領の記録、返却の履歴を残します。

資料の例と、その位置づけを分けて考える

資料は、法令上の義務があるもの、個別の書面で求められたもの、証拠化・社内管理として整えるものに分けると、範囲の判断がしやすくなります。すべてを一律に用意しなければならないわけではありません。

労基署の調査で問題となりやすい資料の区分と位置づけ
区分 資料の例 位置づけ
法令上の作成・保存義務があるもの 労働者名簿(労働基準法第107条)、賃金台帳(同法第108条)、就業規則(同法第89条)、時間外・休日労働に関する協定(同法第36条)、労働条件を明示した書面(同法第15条) 労働関係に関する重要な書類の保存期間は同法第109条で5年間とされ、附則第143条第1項により当分の間は3年間です
個別の書面で提出を求められたもの 通知書・来署依頼書に列挙された資料、指定された対象期間の勤怠記録・賃金台帳・給与明細等 要求の範囲、対象期間、提出方法を確認したうえで用意します
安全衛生に関するもの 健康診断の記録、医師による面接指導の記録、安全衛生委員会の議事録、機械設備の点検記録、労働災害の記録 労働安全衛生法第103条第1項及び関係省令により、書類ごとに保存が定められています
証拠化・社内管理として整えるもの 入退館記録、パソコンの使用時間の記録、残業の申請書、業務上のメール、給与の振込記録、社内確認の時系列メモ 法令上の義務ではありませんが、説明の裏づけになります

労働時間の把握については、厚生労働省の「労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関するガイドライン」が、始業・終業時刻の確認及び記録の原則的な方法として、使用者が自ら現認して記録する方法と、タイムカード、ICカード、パソコンの使用時間の記録等の客観的な記録を基礎として確認し記録する方法を挙げ、自己申告制による場合に講ずべき措置も示しています。

原本・電子データの保全と、提出履歴の記録

対象期間に関わる資料は原本をそのまま保全し、提出用には写しを作成します。電子データは、更新日時などのメタデータや操作ログが残る形で保全し、編集を止めたうえで、アクセスできる担当者を必要な範囲に限定します。ここでいう制限は資料の散逸と誤操作を防ぐためのものであり、監督官の求めに応じないための制限ではありません。提出のたびに、提出日、提出方法、提出先、資料名、版、原本か写しかを記録し、返却の履歴も残してください。

資料の間に不一致が見つかったとき

勤怠記録、賃金台帳、給与計算、入退館記録、パソコンのログ、残業の申請書などを突き合わせると、食い違いが見つかることがあります。不一致を消すために原資料を書き換えたり、遡って作成したりしてはいけません。虚偽の記載をした帳簿書類の提出は、労働基準法第120条第4号の罰則の対象となり得ます。確認できた事実、確認できていない事項、法的評価が分かれる事項を分けて整理し、不一致の理由を説明できる状態にしてください。原因が制度設計にあるか運用にあるかで、是正の方法も変わります。

健康情報・機密情報を含む資料の取扱い

健康診断の結果や面接指導の記録は要配慮個人情報を含みます。労働安全衛生法第104条は、事業者が労働者の心身の状態に関する情報を収集、保管、使用するに当たっての取扱いと、適正な管理のために必要な措置を定めています。会社の独断で黒塗りをしたり提出を拒んだりすることは適切ではありませんが、要求の範囲を超える資料を一括して提出することも当然ではありません。範囲に疑義があるときは担当監督官に確認し、必要に応じて法律相談を検討してください。弁護士が関与したからといって、資料が一律に提出や開示の対象外になるわけではありません。

期限と是正報告への対応

期限は交付された書面で確認する

是正期限、報告期限、来署日は、全国一律に「何日以内」と決まっているものではありません。交付された書面に記載された日付、提出方法、対象項目が基準になります。指摘事項ごとに期限が異なることもありますので、一覧にして管理してください。

期限内に完了できない見込みのとき

期限を過ぎてから連絡するのではなく、期限前に担当監督官へ相談するのが実務上の方向性です。その際は、①完了できない理由、②現時点の進捗、③完了の見込み時期、④それまでの暫定措置、⑤提出できる資料を整理しておきます。もっとも、相談すれば必ず期限の延長が認められるわけではなく、取扱いは指摘事項の内容と事業場の実情によって異なります。

是正報告書に整理する項目

是正報告書について、全国統一の法定様式が定められているわけではありません。労働局によっては参考様式を公表しており、事業場の是正の状況が分かるように任意の書面で報告して差し支えないとする案内も見られます。実際の様式と提出方法は、管轄署の指示又は交付された書面の案内に従ってください。

是正報告書に整理しておきたい項目と添付資料の例
項目 記載する内容 添付資料の例
指摘事項 是正勧告書・指導票に記載された法条項と指摘内容をそのまま転記する 交付された書面の写し
是正の状況 既往の違反をどう是正したかと、将来の再発防止として何を導入したかを分けて記載する 改訂後の規程、協定届の写し、周知の記録
是正年月日 実際に実施した日を記載する。未実施の事項を実施済みと記載しない 議事録、掲示や配布の記録
未完了の事項 完了していない理由、完了予定日、それまでの暫定措置を記載する 工程表、社内決裁の記録
金銭の支払を伴う場合 対象者の範囲、対象期間、計算根拠、支払日を記載する 賃金台帳、計算表、振込明細の写し、受領書

是正勧告を受けた後の是正報告の提出要請と、労働基準法第104条の2又は労働安全衛生法第100条に基づく報告・出頭命令とは根拠が異なります。未提出の場合の取扱いも書面がどちらに当たるかで変わりますので、罰則の有無を一般化せず、根拠条文を確認してください。なお、指摘事項を直すだけでなく、再発しない仕組み(記録方法、承認の手順、規程と運用の整合、責任者の役割)まで整理しておくと、改めて監督を受けた場合にも説明がしやすくなります。

是正期限が迫っている、指摘事項の法的評価が分かれている、支払の対象者や対象期間が確定できないといった場面では、書面と資料を確認したうえで、優先順位と対応方針を検討できます。是正報告書を提出する前の段階でもご相談いただけます。

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よく問題となる場面

ここでは、解決事例ではなく、判断が分かれやすい場面として整理します。いずれも結論は資料と個別事情によって変わります。

勤怠記録と入退館記録・パソコンのログが合わない

自己申告による勤怠記録と、入退館記録やパソコンの使用時間の記録との間に差がある場合、その差が労働時間に当たるかどうかが検討されます。差の理由(着替え、休憩、私的利用、持ち帰り作業など)は事案によって異なり、記録だけで結論が決まるものではありません。まず差の分布と発生している部署・時期を把握し、説明できる範囲と確認が必要な範囲を分けてください。

未払賃金の可能性が出てきた

調査の過程で、割増賃金の計算方法や固定残業代の運用に問題が見つかることがあります。対象者、対象期間、計算方法によって金額は大きく変わるため、算定の前提を先に固める必要があります。賃金の請求権の消滅時効は、労働基準法第115条及び附則第143条第3項により、当分の間、退職手当を除く賃金は3年間とされています(退職手当は5年間)。算定方法や起算点は争点になり得ますので、支払範囲を確定する前に確認してください。規程と記録の整え方は残業代請求に備える就業規則と勤怠記録の整え方もご参照ください。

36協定・就業規則・労働条件の明示

常時十人以上の労働者を使用する使用者は、就業規則を作成し、行政官庁に届け出なければなりません(労働基準法第89条)。また、労働契約の締結に際し、賃金、労働時間その他の労働条件を明示しなければなりません(同法第15条第1項)。時間外・休日労働に関する協定(同法第36条)は、届出の有無だけでなく、有効期間、対象者の範囲、限度時間が実際の勤務と対応しているかが問題となります。書面が整っていても、運用が対応していなければ指摘の対象となり得ます。平時の点検は会社側の労務管理を法務と財務から点検もご参照ください。

従業員の申告が端緒と思われる場合

労働者は、事業場に労働基準法又は同法に基づいて発する命令に違反する事実がある場合、その事実を行政官庁又は労働基準監督官に申告することができ、使用者は、申告をしたことを理由として、労働者に対して解雇その他不利益な取扱いをしてはなりません(労働基準法第104条)。労働安全衛生法第97条にも申告と不利益取扱いの禁止に関する規定があり、公益通報者保護法第5条は公益通報をしたことを理由とする不利益取扱いを禁止しています。

申告した者を特定するための調査や、報復を目的とした聞き取り、関係者への口裏合わせの働きかけは行わないでください。監督官は職務上知り得た秘密を漏らしてはならないとされていますが(労働基準法第105条)、匿名性の範囲は制度ごとに異なります。他方で、指摘された事実の有無を資料に基づいて確認する作業まで一律に禁止されるわけではありません。目的、方法、対象となる法令を分けて検討してください。

時間外労働に関する監督指導の運用について。厚生労働省は、2026年8月19日に「時間外労働等に係る相談・支援及び監督指導を見直します」を公表し、同年9月1日から、時間外・休日労働時間数のみに着目して1か月45時間以内への削減を求める一律の指導を見直し、各事業場が36協定で定める健康及び福祉を確保するための措置の実施状況を重点的に確認するとしています。これは監督指導の運用に関するものであり、時間外労働の上限規制そのものが緩和されたという趣旨ではありません。過重労働による健康障害が生じるおそれが高い場合には、引き続き必要な指導を行うとされています。

提出・回答・署名・是正報告の前に確認すること

  • 交付された書面の表題、根拠条文、宛名、対象事業場、対象期間を確認したか
  • 指摘事項ごとの期限と、報告の要否・提出方法を一覧にしたか
  • 求められている資料の範囲と、原本の提示が必要かどうかを確認したか
  • 対象期間の資料について、原本と電子データを保全し、編集を止めたか
  • 提出日、提出方法、資料名、版、原本か写しかの履歴を記録しているか
  • 説明の内容を、確認できた事実、未確認の事項、法的評価に分けて整理したか
  • 資料間の不一致について、原因と説明の方針を検討したか
  • 是正報告の内容が、実際に実施した事項と一致しているか
  • 金銭の支払を伴う場合、対象者、対象期間、計算根拠、支払時期を確定したか
  • 再発防止の措置と責任者・実施時期を決め、社内の承認手続を経ているか
  • 専門職への相談が必要な項目を切り分けたか

弁護士に相談するタイミングと役割

弁護士に相談したからといって、調査が止まるわけでも、処分や送検を避けられるわけでも、期限が延びるわけでもありません。相談によってできるのは、書面の法的性質を確認し、資料と事実関係を整理し、説明の方針と対応の順序を検討することです。

相談を検討しやすい四つの場面

  • 来署日や提出期限の前に、書面の法的性質や提出範囲を社内で判断できないとき
  • 勤怠記録、賃金台帳、給与計算、入退館記録などの間に重要な不一致があるとき
  • 是正の内容、対象者、対象期間、未払額などの法的評価が争点になっているとき
  • 使用停止等命令、捜索・差押え、被疑者としての事情聴取などの兆候があるとき

相談前に整えておきたい資料

次の資料がそろっていると、初回の相談で検討できる範囲が広がります。ただし、すべてがそろうまで相談を待つ必要はありません。期限が迫っている場合は、手元にあるものだけでも先にご確認ください。

  • 通知書、来署依頼書、是正勧告書、指導票の全ページ
  • 担当監督官とのやり取りの記録(日時、内容、担当者名)
  • 提出済みの資料と、提出を求められている資料の一覧
  • 指摘事項ごとの期限を整理した一覧
  • 就業規則、賃金規程、36協定、対象期間の勤怠記録・賃金台帳
  • 社内で確認した事実の時系列メモ

社会保険労務士との役割分担

社会保険労務士は、労働社会保険諸法令に基づく申請書等の作成や提出手続の代行のほか、申請等又は当該申請等に係る行政機関等の調査若しくは処分に関して行政機関等に対してする主張若しくは陳述の代理(事務代理)を業務としています(社会保険労務士法第2条第1項第1号の3)。労務管理や社会保険に関する相談・指導も業務に含まれます(同項第3号)。

弁護士は、訴訟事件、非訟事件、行政庁に対する不服申立事件に関する行為その他一般の法律事務を職務とします(弁護士法第3条第1項)。書面の法的性質の判定、証拠の整理、争点となる法的評価、従業員や労働組合との紛争、行政処分への対応、刑事事件化の兆候がある場面などで関与します。両者の役割は重なることがあり、連携が有用な場面もあります。「社会保険労務士は同席できない」「弁護士に依頼すれば調査を拒否できる」「依頼すれば送検されない」といった一律の説明は正確ではありません。継続的な体制整備は法律顧問(顧問契約)としてのご相談にも対応しています。

よくあるご質問

突然、監督官が来ました。まず何をすればよいですか。

監督官の証票と氏名・所属署、対象事業場、求められている帳簿書類の範囲を確認し、備え付けている資料から順に提示します。その場にない資料は保管場所と提出できる時期を伝えて調整してください。推測での回答や事実と異なる説明は避け、当日のやり取りを記録に残します。

調査を断ったり、日程を変更してもらったりできますか。

臨検を拒み、妨げ、忌避する行為には罰則があります(労働基準法第101条、第120条第4号。労働安全衛生法第91条第1項、第120条第4号)。他方、来署の日程は、事前に理由と代替日を伝えて担当監督官に相談することが考えられます。ただし、報告・出頭を命じる書面であれば取扱いが異なりますので、根拠条文を確認してください。

どの資料を、どの期間分そろえればよいですか。

通知書や要求書に記載された資料と対象期間が基準になります。一般的な資料一覧は例示にすぎません。範囲が読み取れない場合は担当監督官に確認してください。なお、労働関係に関する重要な書類の保存期間(労働基準法第109条、附則第143条第1項により当分の間3年間)と、今回の提出対象期間とは別の問題です。

資料が不足していたり、記録どうしが食い違っていたりする場合はどうすればよいですか。

不足や不一致を埋めるために資料を遡って作成したり書き換えたりしてはいけません。虚偽の記載をした帳簿書類の提出は罰則の対象となり得ます(労働基準法第120条第4号)。確認できた事実、未確認の事項、法的評価が分かれる事項を分けて整理し、不足の理由と代わりに説明できる資料を示す方向で検討してください。

是正勧告に強制力はありますか。無視するとどうなりますか。

是正勧告は行政指導(行政手続法第2条第6号)に当たると整理され、勧告そのものに強制力はないと考えられます。ただし、指摘された法違反がなくなるわけではなく、是正がされなければ改めて監督を受けることや、重大・悪質な事案で司法処分に至ることがあります。事実誤認があると考える場合も、資料を添えて説明する方向で検討してください。

是正期限に間に合いそうにありません。延長できますか。

期限を過ぎてから連絡するのではなく、期限前に、理由、進捗、完了見込み、暫定措置、提出できる資料を整理して担当監督官に相談してください。ただし、相談すれば必ず延長が認められるわけではなく、取扱いは指摘事項の内容と事業場の実情によって異なります。

是正勧告を受けると、会社名が公表されますか。

是正勧告を受けたことのみで自動的に企業名が公表される仕組みにはなっていません。送検事案の公表、長時間労働に関する指導・公表の制度、個別の行政処分は、それぞれ別の枠組みです。公表の可能性が問題となる場合は、最新の公的資料を確認したうえで検討してください。

弁護士と社会保険労務士のどちらに相談すればよいですか。

勤怠・給与の運用、規程の整備、届出、是正策の実装が中心であれば社会保険労務士、書面の法的性質の判定、争点となる法的評価、従業員との紛争、行政処分や刑事手続の可能性が絡む場面では弁護士が関与することが多くなります。役割は重なることがあり、連携が有用な場面もあります。

まとめ

  • 交付された書面の表題と根拠条文で、いまどの局面にいるのかを特定する。
  • 臨検(労働基準法第101条、労働安全衛生法第91条)、報告・出頭命令(労働基準法第104条の2、労働安全衛生法第100条)、是正勧告書・指導票、使用停止等命令(同法第98条・第99条)、刑事手続は別の制度として扱う。
  • 対象期間の資料は原本と電子データを保全し、提出履歴を記録する。書換えや遡っての作成は行わない。
  • 提出範囲は通知書の記載を起点に確定し、読み取れない部分は担当監督官に確認する。
  • 期限は交付された書面で確認し、完了できない見込みであれば期限前に相談する。
  • 是正報告は、既往の是正と将来の再発防止を分け、未完了の事項は未完了として記載する。
  • 申告者の特定や報復を目的とする調査、不利益取扱い、口裏合わせは行わない。

労基署の調査を受けた会社側のご相談では、交付された書面と手元の資料を確認したうえで、指摘事項ごとの法的性質、提出範囲、期限管理、是正報告の進め方を整理します。結論は個別事情により異なりますので、提出前・回答前・是正報告前の段階でご相談ください。

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監修者・執筆者

藤井 貴之(ふじい たかゆき)
弁護士・公認会計士/兵庫県弁護士会所属・日本公認会計士協会兵庫会所属
弁護士法人ひょうご支所 神戸みらい法律会計事務所 代表弁護士

企業法務、労働法務、相続、交通事故、債務整理等のご相談に対応しています。会社側の労務に関するご相談では、規程と運用の整合、資料の整理、社内手続の順序を確認しながら方針を検討します。

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