納入した部品の不具合(品質不良)を理由に、取引先から「生産ラインが止まった」「受注を失った」として、部品の代金を大きく上回る損害賠償を請求されることがあります。不具合が事実であっても、それだけで請求額の全部を負担することが決まるわけではありません。不具合の原因、契約上の責任、操業停止や失注との因果関係、損害額、責任制限条項の適用を分けて確認する必要があります。他方で、責任と相当な損害が認められる場合には、その範囲での賠償を検討することになります。
この記事では、請求を受けた納入企業の立場から、回答や支払を約束する前に確認すべき資料と判断の順序を整理します。日本法が適用される国内の企業間取引で、主に令和2年(2020年)4月1日以降に締結された売買契約を前提とし、製作・設置を伴う請負契約との違いにも触れます。人身事故や安全上の問題が生じている場合は、安全の確保と関係法令に基づく対応を優先してください。結論は、契約の内容、技術的な原因、損害の資料によって異なります。
請求を受けたら、支払約束より先に確認すること
原因が分からない段階で「損害はすべて補償します」と約束すると、後から責任の有無や金額を争うことが難しくなるおそれがあります。人の安全確保と被害の拡大防止を優先しつつ、原因・責任・損害を分けて検討できるよう、期限の管理と証拠の保存を並行して進めます。
回答期限を確認し、社内の窓口を一本化する
取引先が通知書で指定した回答期限、契約書に定められた通知や協議の期限、裁判所から届いた書類に記載された期限は、それぞれ性質が違います。取引先が指定した期限は、それだけで法律上の権利を失わせるものではありませんが、連絡をしないまま過ぎれば交渉や取引関係に影響します。訴状など裁判所からの書類は、記載された期限までの対応が必要になるため、別に管理してください。
期限までに結論を出せないときは、請求を受領したこと、原因を調査中であること、確認に必要な資料、回答の予定時期を、書面で伝える方法があります。社内では連絡窓口を一本化し、営業・品質保証・製造・経理の担当者が個別に約束や見解を伝えないようにします。取引先へ送る文書では、確認できた事実、調査中の仮説、未確認の事項を書き分けます。
現物・ロット・検査結果・停止ログを残す
不具合と操業停止、操業停止と利益減少のつながりは、資料によって確かめるほかありません。取引先の手元にあるものも含め、次の資料を保存の対象として整理します。
- 不具合品の現物、同一ロットの未使用品、比較のための正常品
- 図面とその版、仕様書、仕様変更の履歴
- 出荷検査・受入検査の記録、検査機器の校正記録
- 設置・使用の条件(使用環境、組付けの方法、保守の状況)
- 設備の停止・警報・復旧の記録(停止ログ)
- 不具合が見つかった当時の担当者のメール、報告書、打合せの記録
- 現物の保管場所、移動、検査の履歴
現物の返却・交換・廃棄や、洗浄・分解・破壊検査をすると、原因を確かめる手掛かりが失われることがあります。実施の前に、写真撮影、試料の確保、双方の立会い、試験の条件を取引先と調整し、記録に残します。ただし、人の安全確保や被害の拡大防止のための措置を、証拠の保存を理由に遅らせてはいけません。取引先の設備やデータに権限なくアクセスすることも避けてください。
部品の不具合と自社の賠償責任は分けて判断する
売買契約で引き渡した部品が種類・品質・数量に関して契約の内容に適合しない場合、取引先は、修補や代替品の引渡しなどの履行の追完(民法第562条)や代金の減額(同法第563条)を請求でき、損害賠償の請求や契約の解除も妨げられません(同法第564条)。ただし、不適合が取引先の責めに帰すべき事由によるものであれば、追完や代金の減額は請求できません(同法第562条第2項、第563条第3項)。
操業停止による損害の賠償は、契約上の責任としては債務不履行による損害賠償の問題になります(民法第415条)。不適合が、契約その他の債務の発生原因と取引上の社会通念に照らして自社の責めに帰することができない事由によるものであれば、損害賠償の責任は生じません(同条第1項ただし書)。部品の交換や修理に応じることと、すでに生じた損害を賠償することは、別の問題です。
仕様違反、使用条件、相手方の設計・指示を確認する
出荷検査や受入検査に合格していたことは、仕様どおりの部品を納めたことを示す有力な資料ですが、それだけで責任がないと決まるわけではありません。反対に、受入後に不具合が見つかったことだけで、自社の責任が確定するわけでもありません。契約で求められた仕様・品質と実際の部品との差、取引先の設計・組付け・使用環境・保守の状況、不具合が生じた時期と工程を確認します。取引先の図面や指示に従って製造した部品であれば、そのことは、責任の有無や、損害の発生・拡大についての取引先の過失(民法第418条)を検討する材料になります。
製作や設置を伴う取引は、契約書の名称だけでなく取引の内容から、売買と請負のどちらに当たるかを検討します(請負は民法第632条)。請負では、注文者が提供した材料の性質や注文者の指図によって生じた不適合を理由として、注文者は、原則として履行の追完、報酬の減額、損害賠償の請求、契約の解除をすることができません。ただし、請負人がその材料や指図が不適当であることを知りながら告げなかったときは別です(同法第636条)。
製造物責任法(PL法)は、製造物の欠陥、つまり通常有すべき安全性を欠いていることによって、他人の生命・身体・財産を侵害した場合の製造業者等の責任を定めています(同法第2条第2項、第3条)。仕様との不一致や性能の不足が、それだけで同法の欠陥に当たるとは限りません。損害がその製造物だけに生じたときは対象外とされ(同法第3条ただし書)、財産の侵害を伴わない利益の減少だけで同法の責任が当然に生じるわけでもありません。部品や原材料の製造業者は、欠陥が専ら完成品の製造業者の設計に関する指示に従ったことにより生じ、かつ、欠陥の発生について過失がないことを証明すれば、同法の責任を負いません(同法第4条第2号)。これは同法の責任に関する規定であり、契約上の責任を免れる根拠とは別です。
検収済み・保証期間経過だけで請求を拒めるか
「検収が終わっている」「保証期間を過ぎている」という事情は重要ですが、請求を拒めるかどうかは、どの制度の期限が問題かを分けて確認します。
| 制度 | 期間と起算点 | 例外・確認する点 |
|---|---|---|
| 商人間の売買 (商法第526条) |
受領後遅滞なく検査し、不適合を発見したら直ちに通知。直ちに発見できない種類・品質の不適合は、受領から6か月以内に発見したときも、発見後直ちに通知 | 売主が不適合を知っていた(悪意の)場合は適用されない。別段の合意の有無と、商人間の売買に当たるかを先に確認 |
| 売買の通知 (民法第566条) |
買主が種類・品質の不適合を知った時から1年以内に通知 | 引渡しの時に売主が不適合を知り、又は重大な過失によって知らなかった場合は適用されない。数量の不適合は対象外 |
| 請負の通知 (民法第637条) |
注文者が不適合を知った時から1年以内に通知 | 引渡し(引渡しを要しない場合は仕事の終了)の時に、請負人が不適合を知り、又は重大な過失によって知らなかった場合は適用されない |
| 契約上の保証期間 | 取引基本契約や品質保証協定の定めによる | 対象が交換・修理に限られるか、損害賠償を含むか、法律上の期間との関係を条項で確認 |
| 消滅時効 (民法第166条第1項) |
権利を行使できることを知った時から5年、又は権利を行使できる時から10年 | 起算点、完成猶予・更新の事由、改正前の民法が適用される契約かを確認 |
これらは別々の制度であり、契約上の保証期間が過ぎたことだけで、法律上の請求がすべてできなくなるとは限りません。反対に、商人間の売買で取引先が商法第526条の通知をしていなければ、その不適合を理由とする請求はできないと主張できる可能性があります。同条の6か月は「6か月以内なら通知を待ってよい」という意味ではないため、取引先が不具合を発見した時期と通知した時期を確認します。
令和2年(2020年)4月1日より前に締結された契約や、その前に結ばれた取引基本契約に基づく取引では、改正前の民法が適用される場合があります(民法の一部を改正する法律(平成29年法律第44号)附則第10条第4項、第17条、第34条第1項)。基本契約と個別の注文の締結時期、変更・更新の時期と内容を確認し、納入日だけで適用される法律を判断しないようにします。
責任上限・免責・保証条項はどこまで使えるか
取引基本契約や品質保証協定に「賠償額は個別契約の代金額を上限とする」「逸失利益その他の間接損害は賠償しない」といった条項があれば、まずその内容と適用範囲を確認します。ただし、部品の代金額が法律上当然に賠償の上限になるわけではなく、条項がない場合や適用されない場合、賠償の範囲は民法の原則に従って判断されます。
民法第416条は、債務不履行によって通常生ずべき損害(第1項)と、特別の事情によって生じた損害のうち当事者がその事情を予見すべきであったもの(第2項)を区別しています。操業停止による損害や逸失利益がどちらに当たるかは名称で一律に決まらず、契約でいう「間接損害」に当然に当たるとも限りません。部品の用途、生産ラインでの役割、停止した場合の影響について、契約の時などにどのような説明を受け、どのような仕様資料やメールが残っているかを確認します。
基本契約、注文書、品質保証協定の優先関係
責任制限の定めは、取引基本契約、個別の注文書・注文請書、品質保証協定、仕様書、見積書の取引条件などに分かれていることがあります。次の点を確認します。
- その条項が当事者間で合意され、個別の取引に組み入れられているか(注文書の裏面約款や見積条件の扱いを含みます)
- 文書の間の優先関係の定めと、矛盾する定めの扱い
- 不具合の発生前後に、契約の変更・更新や覚書の締結がないか
- 品質保証協定に、損害賠償とは別の補償義務や費用負担の定めがないか
上限の単位、逸失利益の除外、故意・重過失の扱い
上限額の定めがあっても、上限が1個・1ロット・1回の事故・1年間の合計のどの単位で計算されるか、対象が契約不適合の責任に限られるか債務不履行や不法行為による責任を含むか、「逸失利益」「間接損害」「特別損害」がどの範囲を指すか、補償条項などが別建てになっていないかによって、結論は変わります。上限条項があるからといって、賠償額がその金額に収まると決まるわけではありません。
契約の当事者は、法令の制限内で契約の内容を自由に決めることができます(民法第521条第2項)。一方で、公の秩序又は善良の風俗に反する定めは無効とされ(同法第90条)、売主は、責任を負わない旨の特約をしていても、知りながら告げなかった事実については責任を免れることができません(同法第572条)。故意や重大な過失がある場合に責任制限条項がどこまで効力を持つかは、条項の文言、当事者の関係、事案の内容によって判断が分かれ、「企業間の合意だから常に有効」とも「故意・重過失があれば常に無効」とも言い切れません。
取引基本契約の条項を署名・更新の前に点検する観点は、別の記事で整理しています。取引基本契約の責任制限条項を確認する
操業停止損害の計算書を費目ごとに点検する
取引先の計算書は、停止時間に1時間当たりの売上高を掛けた金額や、前年同月の売上高との差額で作られていることがあります。しかし、検討の対象は、不具合がなかった場合に得られたはずの結果と実際の結果との差です。まず、影響を受けた生産ライン、製品、受注、停止期間を特定し、全社の売上の変動と区別します。
在庫、代替生産、挽回生産で実際に失われた売上を確かめる
生産が止まっても、在庫からの出荷、他工場での生産、代替品の調達、停止後の残業や休日稼働による挽回生産によって、最終的に売上が実現していることがあります。停止期間に予定していた売上がすべて失われたとは限らないため、出荷実績や受注の推移で確認します。
債務の不履行や損害の発生・拡大について取引先に過失があった場合は、責任や金額を定める際に考慮されます(民法第418条)。また、最高裁平成21年1月19日判決(最高裁判所第二小法廷・平成19年(受)第102号)は、店舗の浸水で営業できなくなった賃借人が、修繕をしなかった賃貸人に営業利益の損害を請求した事案で、その店舗での営業再開の見込みが乏しかったこと、他の場所で営業を再開できた可能性、受け取った保険金を営業設備の資金に充てられたことなどを踏まえ、損害を回避・減少させる措置をとることができたと考えられる時期以降の営業利益の損害のすべてを請求することは、民法第416条第1項の通常生ずべき損害の解釈上認められないとして、損害の範囲に関する部分を原審に差し戻しました。部品の事故についての判断ではなく、工場の移転や無制限の代替調達を求めるものでもありませんが、合理的な代替策をとることができたか、停止期間が合理的かを検討する手掛かりになります。
一方で、代替策には、安全・品質の認証、設備の能力、納期、費用、資金、技術情報の秘密保持などの制約があります。現実には実行できなかった代替生産を前提に、損害がないと主張することは適切ではありません。
売上減、回避費用、継続固定費を区別する
売上の減少額は、そのまま利益の減少額ではありません。生産しなかったことで支出せずに済んだ原材料費、外注費、運送費などは、失われた売上から控除します。停止中も支払い続けた人件費や減価償却費などの固定費は、「損害と関係ない」とも「全額を別に請求できる」とも言えず、計算の中での扱いを確認します。次の仮定の例で考えます。
| 項目 | 金額 | 内容 |
|---|---|---|
| 当初影響が 見込まれた売上 |
8,000 | 停止によって影響を受けると当初見込まれた対象製品の売上 |
| 実現できた売上 | 3,000 | 在庫からの出荷や後日の挽回生産などで実現できた売上 |
| 実現できなかった売上 | 5,000 | 8,000-3,000 |
| 支出を免れた費用 | 3,000 | 実現できなかった売上5,000に対応して、実際に支出を免れた原材料・外注・運送などの費用 |
| 利益減少の検討額 | 2,000 | 5,000-3,000 |
| 合理的な追加費用 | 300 | ここまでの計算に含まれていない特急輸送・代替生産の追加費用 |
| 検討額の合計 | 2,300 | (8,000-3,000)-3,000+300 |
この例では、在庫出荷や挽回生産で実現した売上3,000万円を最初に控除しているため、同じ代替生産による利益を重ねて控除しません。停止中も通常どおり支払った固定費は、本来なら失われた売上でまかなわれるはずだったものであり、この計算の中にすでに反映されているため、別の費目として加算すると二重の計算になります。反対に、赤字の決算であることだけを理由に、利益の減少がないと断定することもできません。
この2,300万円は、法律で定められた計算式や裁判例の認定額ではなく、責任、因果関係、停止期間の合理性、取引先の過失、責任上限、保険による補償を判断する前の検討額です。支払義務のある金額、裁判で認められる金額、保険金の額を示すものではありません。
請求費目・法的根拠・重複・必要資料の点検表
取引先の計算書は、費目ごとに次の表で点検し、足りない資料を特定して開示を求めます。
| 請求費目 | 法的根拠 | 重複 | 必要資料 |
|---|---|---|---|
| 利益損失 | 契約違反と失注・利益減少との因果関係(民法第415条、第416条) | 在庫出荷・挽回生産による売上、固定費、追加費用の二重計上 | 対象となる受注・キャンセルの記録、販売実績、原価の明細、停止・復旧の記録 |
| 部品交換・ 設備修理 |
追完義務と損害賠償の区別、修理の対象と必要性 | 無償交換や修理済みの費用、修理による改良分 | 仕様書、現物の写真、修理明細、請求書、交換の記録 |
| 代替生産・ 特急輸送 |
停止の被害を抑えるための必要性と相当性 | 通常でもかかった費用と追加分の区別、回復した売上の計算との重複 | 代替案の比較資料、外注契約、運送明細、納期の資料 |
| 追加人件費・ 再検査費 |
当該不具合への対応に必要だった作業と費用 | 通常の人件費や、利益の計算に織り込み済みの費用 | 作業者・日時・工数・単価、勤怠・給与の記録、検査記録 |
| 仕掛品・製品の 廃棄 |
対象ロットとの対応、廃棄の必要性、残存価値 | 原価の控除、交換、保険や第三者からの支払との関係を個別に照合 | ロットの対応表、在庫・製造原価、廃棄記録、残存品の処分資料 |
| 取引先の顧客への 補償・違約金 |
取引先と顧客との契約、自社との補償条項、転嫁の法的根拠と相当性 | 同じ売上・利益の損失と重ねた請求 | 顧客からの請求の内訳、合意書、支払の記録、自社への事前の説明の有無が分かる資料 |
取引先が顧客に補償金や違約金を支払ったことだけで、その金額を納入企業に転嫁できるわけではありません。取引先と顧客との契約、自社と取引先との契約にある補償条項や違約金・賠償額の予定(民法第420条)の定め、自社の部品との因果関係、その損害が通常生ずべき損害か予見すべきであった特別の事情による損害かを確認します。
取引先が保険金や第三者からの支払を受けている場合も、その全額を当然に賠償額から差し引けるとは限りません。保険給付をした保険会社が一定の範囲で取引先の損害賠償請求権を取得することもあるため(保険法第25条)、支払の対象、求償や代位の有無、請求する者、重なる範囲を照合する資料として確認します。
取引先の資料が不足していても、損害がまったくないとは言い切れません。民事訴訟法第248条は、損害が生じたことが認められ、損害の性質上その額の立証が極めて困難な場合に、裁判所が口頭弁論の全趣旨と証拠調べの結果に基づいて相当な損害額を認定できると定めています。責任の原因や損害の発生そのものの証明を不要にする規定ではありませんが、資料の不足だけで支払額がゼロになると見込むことはできません。
営業損害を請求する側・される側の双方から見た計算と反論の考え方は、別の記事で解説しています。営業損害の計算・請求・反論の基本
保険会社への通知と対外回答を並行して進める
生産物賠償責任保険(PL保険)などに加入している場合は、取引先への回答と並行して、保険会社や代理店に早めに連絡します。保険法第14条は、保険契約者又は被保険者が保険事故による損害が生じたことを知ったときは遅滞なく保険者に通知しなければならないと定めており、約款にも、事故や損害賠償請求を受けた場合の通知の方法や期限が定められていることがあります。
補償の範囲は商品や特約によって異なります。一例として、保険会社の生産物賠償責任保険の説明では、他人の身体の障害や財物の損壊について法律上の損害賠償責任を負った場合の補償を基本とし、契約で加重された責任、製品そのものの損害、製品の回収などは、免責とされ、又は特約で扱われています。同じ保険会社の使用不能等の補償に関する商品説明には、財物の損壊を伴わない使用不能などの損害を、条件付きで補償の対象に加える内容があります。いずれも商品の一例です。「PL保険に加入しているから操業停止の損害は全額補償される」とも「経済的な損害は一切補償されない」とも言えないため、加入している保険契約で次の点を確認します。
- 事故の発生日と保険期間、補償の対象となる製品・業務
- 事故や損害賠償請求の通知の方法と期限
- 支払限度額、免責金額、付帯している特約
- 弁護士費用や鑑定費用などの費用が補償される条件
- 示談・和解・支払の前に、保険会社の承認が必要か
保険会社の承認を待つ間も、人の安全確保や被害の拡大防止のための緊急の措置は遅らせないでください。法的責任を認める回答、和解、支払は、保険契約上の手続を確認してから行います。
交渉・訴訟・取引継続の方針を決める
方針は、責任と損害のそれぞれについて、認める事実と争う点を整理してから決めます。不具合の存在は認めつつ、操業停止との因果関係や一部の費目を争うこともあります。技術的な復旧への協力、法的な責任の範囲と金額、今後の取引条件は、判断の基準が異なるため分けて検討します。
交渉では、争点ごとに必要な資料を示して任意の開示を求め、開示の目的・範囲と秘密保持の方法を取り決めます。交渉の段階で、相手方の資料を当然に強制的に取得できるわけではありません。訴訟になった場合の裁判所は、契約で定めた管轄の合意や当事者の所在地などによって決まり、本社が神戸にあるからといって神戸地方裁判所で審理されるとは限りません。
調査協力や暫定対応の範囲を文書にする
取引先の生産再開のため、代替品の緊急出荷や交換・補修を先に行うことがあります。その場合は、協力の内容、費用を当面どちらが負担するか、責任と損害額は別途協議することを文書で確認し、調査への協力や交換が、責任や請求額全部の承認と受け取られないようにします。
すでに謝罪や不具合の報告をしていても、それだけで請求額の全部を支払う義務を認めたことになるとは限らず、文言、経緯、文書を出した人の権限によって評価が変わります。他方で、支払義務を認める内容の回答は、時効の更新事由である権利の承認(民法第152条第1項)に当たる可能性があります。保険を使う予定がある場合は、責任を認める回答の前に、保険会社の承認の要否を確認します。
未払代金、反訴・相殺、和解後の取引条件
取引先が損害賠償との相殺を主張して、納入代金の支払を止めたり代金から差し引いたりすることがあります。相殺は、双方が同種の目的を有する債務を負担し、双方の債務が弁済期にあることなどを要件として(民法第505条)、意思表示によって行います(同法第506条)。取引先の相殺が効力を持つかは、取引先の損害賠償請求権が実際にどれだけ存在するかによって決まります。契約で相殺が制限されている場合もあり、人の生命又は身体の侵害による損害賠償の債務のように、債務者の側から相殺できない債務もあります(同法第509条)。差引きをそのまま受け入れることも、対抗措置として一方的に納入を止めることも、新たな紛争を生むおそれがあるため、契約の内容を確認したうえで対応を決めます。
損害賠償請求の訴えを起こされた場合は、未払代金の請求を反訴として同じ手続で審理するよう求めることが考えられます。反訴は、本訴の請求又は防御の方法と関連する請求であることが要件とされ、著しく訴訟手続を遅滞させることとなる場合などには提起できません(民事訴訟法第146条第1項)。
取引の内容と当事者の資本金・従業員数によっては、取適法(令和8年(2026年)1月1日施行。改正前の名称は下請代金支払遅延等防止法)の対象となることがあります。対象となる取引では、委託を受けた中小受託事業者に責めに帰すべき理由がないのに代金を減額することは禁止され、合意があっても当然には許されません。ただし、不具合を理由とする控除がすべて違法になるわけでもありません。損害賠償の名目で代金から差し引かれた場合は、民事上の相殺や賠償責任とは別に、発注の時期、取引の内容、当事者の規模、減額の理由を確認します(取適法の代金減額に関する説明)。
和解をする場合は、対象となる事故・ロット・費目、すでに分かっている損害と確定していない損害の扱い、支払の方法、保険会社の承認、自社の仕入先などに対する求償の権利、清算の範囲、品質改善策と今後の取引条件を合意書で明確にします。取引先が保険金を受け取っている場合は、保険会社からの請求との関係も、清算の範囲を決める際に確認します。
よくある質問
すでに謝罪や不具合の報告をしてしまいました。請求額を全部支払わなければなりませんか。
謝罪や報告をしたことだけで、請求額の全部を支払う義務を認めたことになるとは限らず、文言、経緯、文書を出した人の権限によって評価が変わります。これから出す文書では、確認できた事実、調査中の事項、未確認の事項を分け、責任や金額を約束する表現を避けます。支払義務を認める内容の回答は、時効の更新事由である権利の承認に当たる可能性があります。
部品を交換すれば、それ以上の請求はなくなりますか。
交換や修補は履行の追完であり、すでに生じた操業停止の損害の賠償請求が当然になくなるわけではありません。交換に応じる際は、責任と損害額を別途協議することを文書で確認しておきます。
資料が揃っていない段階でも相談できますか。
資料が揃うのを待つ必要はありません。最初のご連絡では、会社名、ご相談者のお名前、相手方の名称、事案の概要、回答期限などの期限をお知らせください。契約書や技術資料などの機密資料は、利益相反の確認が済んだ後に、案内する方法でお渡しください。
回答・合意の前に、責任と損害額を整理するための相談を
弁護士法人ひょうご支所神戸みらい法律会計事務所の企業法務の相談窓口では、企業間取引での品質不良、納品・検収をめぐる問題、損害賠償を請求された側の対応、交渉・保全・訴訟についてのご相談をお受けしています。相談では、契約書・注文書・品質保証協定、技術資料、取引先の計算書と会計資料から、争点と対応の順序を整理します。会計資料の確認は損害額の主張を検討するためのもので、監査や保証の業務、税務代理、技術的な原因の鑑定とは異なります。技術的な原因の確認には、検査機関などによる調査が別に必要になることがあります。
最初のご連絡では、会社名、ご相談者のお名前、相手方の名称、事案の概要、回答期限などの期限だけをお知らせください。利益相反の確認が済むまでは、契約書、図面、決算書などの機密資料はお送りにならないでください。確認後に資料の受渡し方法をご案内しますが、確認の結果、ご相談をお受けできない場合があります。お問い合わせや予約は事件の依頼(委任契約の締結)ではなく、相談をしただけで時効や回答期限が止まるわけでもありません。
事務所・弁護士のご案内
この記事は、弁護士法人ひょうご支所神戸みらい法律会計事務所(兵庫県弁護士会所属)が、企業間取引の損害賠償に関する一般的な情報として掲載しています。所属する弁護士の氏名・資格・所属弁護士会は、事務所の弁護士紹介でご確認いただけます。
参考資料と情報基準日
- 民法 第90条、第152条第1項、第166条第1項、第415条、第416条、第418条、第420条、第505条、第506条、第509条、第521条第2項、第562条~第564条、第566条、第572条、第632条、第636条、第637条、民法の一部を改正する法律(平成29年法律第44号)附則第10条第4項・第17条・第34条第1項
- 商法 第526条
- 製造物責任法 第2条~第4条
- 民事訴訟法 第146条第1項、第248条
- 保険法 第14条、第25条
- 最高裁平成21年1月19日判決 最高裁判所第二小法廷・平成19年(受)第102号(裁判所ウェブサイト掲載の判決全文、PDF)
- 公正取引委員会「よくある質問コーナー(取適法)」
- 三井住友海上火災保険株式会社「生産物賠償責任保険」パンフレット、「MSLP」パンフレット(いずれもPDF。保険商品の一例として掲げたもの)
情報基準日:令和8年(2026年)10月17日。この記事は、同日に施行されている法令と、同日に確認した資料に基づく一般的な説明です(資料ごとの作成・更新の時期は異なります)。個別の事案では、契約の内容、技術的な原因、損害の資料、保険契約の内容によって結論が異なります。

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