相続人等への株式売渡請求|手続・相続クーデター・一部の相続人への請求 |神戸市(須磨・垂水・西神・北神)の弁護士|初回相談無料|

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相続人等への株式売渡請求|手続・相続クーデター・一部の相続人への請求

非上場会社の株式を相続した後、その会社から、株式を会社に売り渡すよう求める通知や、その予告を受けることがあります。会社法第174条以下の「相続人等に対する売渡しの請求」は、定款に定めのある会社が、請求のたびに株主総会の特別決議を経て、相続などで譲渡制限株式を取得した人に、その株式を会社へ売り渡すよう求める制度です。要件を満たした請求であれば、相続人が承諾しなくても手続は進むと解されており、「売りたくない」と伝えるだけでは対応になりません。他方で、定款の根拠、決議の手続、請求の期限、売買価格はそれぞれ別に確認する必要があり、要件を欠く請求には効力を争う余地があります。価格は協議で定まり、協議が調わない場合は、期間内に会社又は相続人が申し立てれば裁判所が決定します(どちらも申し立てず協議も調わなければ、請求は効力を失います)。

この記事は、売渡請求を受けた相続人を主な読者とし、会社側(経営者・後継者)が守るべき手続と制度の限界もあわせて整理します。売買価格の決定を申し立てられる期間は請求の日から20日以内と短いため、この期間や株主総会の日が迫っている場合は、資料がそろっていなくても早めに弁護士へ相談することをおすすめします。結論は、定款の内容、相続の状況、会社の手続などの個別事情によって異なります。

この記事の要点

  • 会社が請求できるのは相続などを知った日から1年以内、価格決定の申立ては請求の日から20日以内、決議取消しの訴えは決議の日から3か月以内で、起算点がそれぞれ異なります。
  • 売渡請求の総会では、対象とされた相続人は原則として議決権を行使できず、多数の株式を相続していても決議を止められないことがあります。
  • 総会前の仮処分、総会後の決議取消しの訴え、価格決定の申立ては、目的も期限も異なる別の手続です。
  • 持分割合が確定していない準共有株式について、一部の準共有者だけへの請求を認めた下級審の裁判例がありますが、他の準共有者の持分まで取得するものではありません。
  • 売買価格、会社の分配可能額、税務は別々に判断され、相続税評価額や会社の提示額がそのまま売買価格になるわけではありません。

売渡請求を受けたら、先に三つの期限を確認する

売渡請求をめぐっては、性質の異なる三つの期間が問題になります。誰の期間で、いつから数えるのかが異なるため、一つの「期限」としてまとめて考えると、対応が間に合わなくなるおそれがあります。

売渡請求をめぐる三つの期間
期間 起算点 相続人側が取る行動
会社が請求できる
期間(1年)
会社が相続その他の一般承継があったことを知った日(会社法第176条第1項ただし書)。死亡日と一致するとは限りません。遺産分割の成立を待って数えるものではないとした裁判例があります 会社が相続をいつ、誰から知ったかを示す記録を確保し、請求が期間内に届いたかを確認する
価格決定の
申立期間(20日)
請求があった日(通常は請求が届いた日。会社法第177条第2項)。会社と相続人のどちらも申し立てられます。価格交渉が決裂した日や、会社が示した回答期限から数えるものではありません 請求の効力を争うか、価格を争うかの方針を期間内に決める。どちらかが申し立てるか価格に合意すれば請求は失効しない点を踏まえ、会社の申立ての有無も確認する
決議取消しの
提訴期間(3か月)
株主総会の決議の日(会社法第831条第1項)。決議を知った日ではありません 招集通知や議事録を確保し、招集の手続や決議の方法に違反がないかを検討する

このほか、総会の開催前に仮処分を検討する場合は、総会の日が事実上の期限になります。

通知を受けた日と総会の日を記録する

期間の起算点や手続の適法性を後から確認できるよう、届いた書面は受け取ったときの状態のまま保管し、次の事項を確認・記録します。

  • 請求書(通知書)の本体と封筒、消印、書留や配達証明の記録など、届いた日が分かるもの
  • 差出人が発行会社か、会社法や定款の条項と請求する株式の数が示されているか(会社法上の売渡請求か任意の買取りの打診かを見分けるため。判別できない場合は、売渡請求として期間を前提に確認する)
  • 株主総会の招集通知と議案、総会の日時、決議があった場合はその日
  • 会社とのやり取りの記録(書面、メール、面談の日時と内容のメモ)
  • 承諾書や価格の合意書、清算条項を含む書面には、対象となる株式と権利の範囲を確認するまで署名しない

会社に異議や反対の意思を伝えること自体は差し支えありませんが、それだけでは総会の開催も、20日や3か月の期間の進行も止まりません。任意の買取りの打診であれば応じるかどうかを相続人が判断できますが、会社法上の売渡請求であれば、これらの期間を前提に対応を決める必要があります。

20日の期間や総会の日が迫っている場合

資料がそろっていなくても、請求が届いた日や総会の日が分かれば、期限を前提に確認を始められます。初回のご連絡は、会社名、ご相談者と相手方の名称、相談の概要、期限にとどめ、資料は利益相反の確認が済んだ後に事務所の案内に従ってお送りください。相談方法・費用をご確認のうえ、ご予約ください。

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会社が株式売渡請求を行う具体的な手続

会社側から見ると、売渡請求は、定款の確認から代金の支払まで、いくつもの段階を順に踏む手続です(会社法第174条から第177条)。相続人側にとっては、各段階が適法に行われたかどうかが、請求の効力や決議を争うかを判断する材料になります。

会社側の工程と相続人側の確認事項
段階 会社が行うこと 相続人側の確認事項
定款の確認 株式の譲渡制限の定めと、相続人等に売渡しを請求できる旨の定めを確認する 現行の定款と変更の履歴。売渡請求の条項がいつ置かれたか
対象の特定 請求する株式の数と、その株式を有する者を決める 相続などで取得した株式に限られているか。単独で保有しているか、遺産分割前の準共有か
株主総会の
特別決議
権限のある者が適法に総会を招集し、特別決議で対象と株式の数を定める 招集の権限と通知、議案の内容、議決権の数え方、定款で加重された要件
請求 株式の数を明らかにして、相続などを知った日から1年以内に請求する 請求した者の権限、宛先、記載内容、届いた日
価格の協議・
申立て
価格を協議し、必要に応じて請求の日から20日以内に申し立てる 協議の経過、どちらかの申立ての有無、期間の計算
財源の確認と
取得
代金の支払と株式の取得の処理を、分配可能額の範囲内で行う 計算書類などから見た分配可能額と、支払の見通し

譲渡制限と売渡請求条項、対象となる株式を確認する

売渡請求ができるのは、定款に、相続その他の一般承継により譲渡制限株式を取得した者に対して、その株式を会社に売り渡すよう請求できる旨の定めがある会社に限られます(会社法第174条)。相続などの一般承継による株式の移転は、売買などの譲渡と異なり会社の譲渡承認の対象にならないため、定款に定めを置いた会社に限ってこの請求が認められています。非上場会社であることや、定款に譲渡制限の定めがあることだけでは足りず、売渡請求の条項が別に必要です。

請求し、株式を取得し、代金を支払うのは会社であり、残る株主や後継者が直接買い取る制度ではありません。また、対象は相続などの一般承継によって取得した株式であり、相続人が相続の前から自分で保有していた株式まで、この制度で当然に取得できるわけではありません。ただし、総会で議決権を行使できるかどうかは別の問題です。

対象者と株式数を決め、株主総会の特別決議を行う

会社は、請求をしようとするたびに、株主総会の決議によって、請求する株式の数(種類株式発行会社では株式の種類と種類ごとの数)と、その株式を有する者の氏名又は名称を定めます(会社法第175条第1項)。この決議は特別決議で、原則として、議決権を行使できる株主の議決権の過半数を有する株主が出席し、出席した株主の議決権の3分の2以上の賛成が必要です(会社法第309条第2項第3号)。定款で定足数を下げる場合も3分の1が下限であり、賛成の割合を引き上げたり、一定数以上の株主の賛成を求めたりする定款の定めがないかも確認します。

請求の対象とされた人は、この総会で議決権を行使できません(会社法第175条第2項本文)。ただし、対象とされた人以外の株主の全部がその総会で議決権を行使できない場合は、例外として制限されません(同項ただし書)。また、条文は対象とされた「人」が議決権を行使できないと定めているため、相続の前から保有していた株式の議決権であれば行使できる、とは当然にはいえません。この点は条文の構造からの解釈であり、直接判断した確立した判例があるわけではありません。

決議を可決できるだけの議決権を持つ株主がいても、その株主が単独で適法に総会を招集し、会社を代表して請求できるとは限りません。招集の権限、招集の通知、議案の記載、取締役会の有無などの機関の構成、代表者の権限を確認します。なお、特例有限会社(商号に「有限会社」を含む会社)では、特別決議の要件が会社法の施行に伴う関係法律の整備等に関する法律第14条第3項で読み替えられており、この記事の計算をそのまま当てはめることはできません。

1年以内に請求し、20日の価格手続を管理する

会社は、相続その他の一般承継があったことを知った日から1年を経過すると、売渡請求をすることができません(会社法第176条第1項ただし書)。この起算点について、東京高等裁判所平成19年8月16日決定(平成18年(ラ)第1882号)は、通常の共同相続の事案で、株主の死亡による相続そのものを会社が知った時を基準とし、誰が株式を承継したかや遺産分割の確定を知るまで起算を待つという考え方を採らなかったと紹介されています(売渡請求の1年の起算点に関する判例評釈)。会社側が遺産分割の成立や相続人との交渉の終了を待ってから請求すると、期間の経過と判断されるおそれがあります。もっとも、その原審(東京地方裁判所平成18年12月19日決定)では、会社がおよそ株式の承継者を知ることができないような特段の事情がある場合には別途の考慮が必要となり得るとの留保が付されていたと紹介されており、あらゆる一般承継で死亡を知った日が起算点になるとまではいえません。会社がいつ、誰を通じて、何を知ったかが争点となるため、その時期を示す記録が重要です。

請求は、株式の数(種類株式発行会社では種類と種類ごとの数)を明らかにして行います(会社法第176条第2項)。意思表示は原則として相手方に到達した時から効力を生じるため(民法第97条第1項)、会社側は、1年以内に決議をしたり書面を発送したりしただけで足りると考えず、請求が相手方に届くところまで管理する必要があります。内容証明郵便や配達証明は、請求の内容と届いた日を証明する方法の一つですが、法律で定められた方式ではありません。

請求があると、売買価格は会社と請求を受けた人との協議で定めます(会社法第177条第1項)。会社又は請求を受けた人は、請求があった日から20日以内に、裁判所に売買価格の決定を申し立てることができ(同条第2項)、協議を尽くしてからでなければ申し立てられないわけではありません。期間は「20営業日」ではなく、初日を算入しない民法第140条の定めなどに従って個別に計算します。期間内にどちらからも申立てがなく、協議も調わなかったときは、請求は効力を失います(同条第5項)。他方、どちらか一方が期間内に申し立てれば請求は失効せず、裁判所が定めた額が売買価格となります(同条第4項)。会社の提示額が期間の経過によって自動的に確定する仕組みではなく、期間内に協議が調えば、その額が売買価格になります。相続人側は、株式を手放したくないのか、適正な価格での売却を望むのかによって申立てをするかどうかの判断が変わるため、期間内に方針を決める必要があります。

会社はいつでも請求を撤回できます(会社法第176条第3項)。ただし、撤回された場合の扱いはそれまでの合意や支払の有無などによって個別に検討が必要であり、相続人側は、撤回されるかもしれないという見込みだけで、20日以内の判断を先送りしないことが大切です。

相続クーデターが問題になる仕組みと対抗手段

「相続クーデター」は法律上の制度名ではなく、売渡請求の総会で相続人が議決権を行使できないことによって、残る株主の側に会社の支配が移る状況を指して使われる通称です。多数の株式を相続しても、請求の対象とされた総会では議決権を行使できないため、持株比率の高さだけでは決議を防げません。他方で、制度を利用すること自体が当然に違法となるわけではなく、決議や請求の適法性、会社が請求する理由などを具体的に検討することになります。

80株と20株の設例で見る議決権排除

次の設例は、仕組みを説明するための仮定であり、実際の事件や当事務所の取扱事例ではありません。

  • 発行済株式は100株、議決権は1株につき1個の株式会社(特例有限会社ではない)
  • 自己株式や種類株式はなく、定足数や決議の要件を変更する定款の定めもない
  • 定款には、相続の前から相続人等に対する売渡請求の定めがある
  • 株主Aが亡くなり、Aの80株を相続人Xが単独で承継した。残る20株は株主Bが持っている
  • 総会は、権限のある者が適法に招集する

Xを対象とする売渡請求の総会では、Xは議決権を行使できません。この総会で議決権を行使できるのはBの20個だけとなるため、Bが出席すれば定足数(議決権を行使できる株主の議決権の過半数)を満たし、Bが賛成すれば出席した議決権の3分の2以上という要件も満たします。20株を持つBだけで特別決議が成立し得るということです。

80株を取得するのはBではなく会社です。会社による取得が適法に完了すると、その80株は自己株式となって議決権がないため(会社法第308条第2項)、議決権を行使できる株主はBだけになり、会社の支配がBの側に移ります。ただし、そのためには、請求が期間内に適法に届くこと、売買価格が定まること、分配可能額の範囲内で支払うことなど、決議以外の要件も満たす必要があります。また、この設例は相続人が単独で株式を承継した場合のものであり、遺産分割前の準共有株式の一部を対象とする場合とは異なります。

総会前は開催禁止等の仮処分を検討する

売渡請求の総会が予定されている段階では、総会の開催禁止や、特定の議案についての決議禁止を求める仮処分の申立てを検討することがあります。これらは民事保全法上の「仮の地位を定める仮処分」に当たり、争いのある権利関係と、著しい損害又は急迫の危険を避けるために必要であることを、疎明(裁判官が一応確からしいと判断できる程度の証明)する必要があります(同法第13条、第23条第2項)。担保を立てるよう求められることがあり(同法第14条)、原則として、口頭弁論又は相手方が立ち会うことのできる審尋の期日を経なければ発令されません(同法第23条第4項。例外があります)。

「相続クーデターだ」という評価や、多数の株式を持つ相続人が議決権を行使できないという事情だけで、仮処分が当然に認められるわけではありません。定款の根拠を欠く、招集の手続に違反があるなど、違法な決議がされるおそれを示す具体的な事情を、資料に基づいて主張します。会社が特定の相続人だけを対象とする理由、事業の承継に関する合意の有無、それまでの経営への関与なども検討材料となり、権利の濫用(民法第1条第3項)を主張する場合も、個別の事情によって判断されます。

総会後は決議取消し等と価格決定を別々に検討する

決議がされた後は、決議の瑕疵、請求の効力、売買価格を別々に検討します。決議取消しの訴え(会社法第831条)は、招集の手続や決議の方法が法令・定款に違反し又は著しく不公正なとき、決議の内容が定款に違反するとき、特別の利害関係を有する者が議決権を行使したことによって著しく不当な決議がされたときに検討します。訴えは、決議の日から3か月以内に、会社を被告として提起します(同条第1項、同法第834条第17号)。訴えを起こせる者は条文で定められており、決議の取消しによって株主となる者も含まれます。招集の手続などに違反があっても、違反が重大でなく決議に影響を及ぼさないと認められるときは、請求が棄却されることがあります(同法第831条第2項)。

決議の内容が法令に違反する場合は決議無効確認の訴え、決議が存在しないと評価される場合は決議不存在確認の訴え(会社法第830条)の問題となり、取消しの訴えとは区別して検討します。取消しの訴えの3か月を過ぎた後に、同じ瑕疵を「無効」と言い換えれば救済される、というものではありません。

訴えを提起しても、会社に抗議をしても、決議の効力が自動的に止まるわけではありません。総会の後に決議の効力の停止や株主としての地位をめぐる仮処分を検討する場合は、求める内容、相手方、本案の訴えとの対応関係を整理します。また、価格決定の申立てによって、決議の瑕疵や株主の地位の問題が解決するわけでもありません。決議の無効などを主張する場合でも、決議の日から3か月と請求の日から20日という、起算点の異なる二つの期間を並行して管理する必要があります。

価格未確定でも株主の地位を失う可能性がある

価格が決まり代金が支払われるまでは株主のままでいられる、という前提で対応することはできません。下級審には、売買価格が確定していなくても、売渡請求の時に株主としての地位を失うと判断した例があります(札幌地方裁判所平成29年8月21日判決、札幌高等裁判所平成30年1月30日判決。株主としての地位の移転時期に関する判例解説による紹介)。他方で、価格の決定時や代金の支払時を重視する見解もあり、確立した結論があるとはいえません。

そのため、「代金の支払までは株主である」とも、「請求書が届けば、どの事案でも株主の資格を失う」とも言い切れません。請求が有効か、対象となる株式の範囲はどこまでか、議決権の行使や会社の資料の閲覧などの権利をいつまで行使できるかを、早い段階で検討しておく必要があります。

一部の相続人だけに売渡請求できるか

相続人が複数いる場合、会社が一部の相続人だけを対象に請求できるかが問題になります。結論は、株式が遺産分割などで特定の相続人に単独で帰属しているのか、遺産分割前で相続人全員の準共有になっているのかによって異なります。一部の準共有者への請求を認めた下級審の裁判例はありますが、遺留分をめぐって準共有となった事案であり、その効力には限界があり、反対の見解もあります。

遺産分割後の単独保有と、分割前の準共有を分ける

遺産分割によって株式が特定の相続人に帰属した場合は、その相続人が保有する株式について、その相続人を対象として請求することが考えられます(1年の期間内であることが前提です)。これに対し、遺産分割の前は、相続財産である株式は相続人全員の共有(株式のような所有権以外の財産権では「準共有」)に属します(民法第898条、第264条)。たとえば相続人が二人で法定相続分が2分の1ずつでも、100株のうち50株ずつを各自が単独で所有しているわけではありません。

準共有の株式について権利を行使するには、原則として、共有者が権利を行使する者を一人定めて会社に通知する必要があります(会社法第106条本文)。この権利行使者は、最終的に株式を取得する人でも、株式を自由に処分できる人でもありません。権利行使者の指定・通知と決議を争う手続は、相続株式の権利行使者の指定と通知のコラムで詳しく整理しています。

最高裁平成27年2月19日判決(最高裁判所第一小法廷・平成25年(受)第650号)は、権利行使者の指定・通知を欠いたまま権利が行使された場合、その行使が民法の共有に関する規定に従ったものでないときは、会社が会社法第106条ただし書の同意をしても適法となるものではないと判断しました。そのうえで、準共有株式の議決権の行使は、直ちに株式を処分し又は株式の内容を変更することになるなどの特段の事情のない限り、株式の管理に関する行為として、各共有者の持分の価格に従い、その過半数で決せられるとしています。持分2分の1ずつの共有者の一方が、他方の同意なく議決権を行使した事案であり、人数ではなく持分の価格の過半数が基準となります。ただし、この判決は、一部の相続人に対する売渡請求の可否を判断したものではありません。

東京高裁の肯定例は、他の相続人の持分まで取得するものではない

東京高等裁判所平成24年11月28日判決(平成24年(ネ)第6229号)は、持分割合が確定していない準共有株式について、準共有者の一部だけを対象とする売渡請求を認め、その効力は、最終的に確定するその人の持分割合の限度で生じるとしたと紹介されています(一部の共同相続人への売渡請求に関する判例評釈)。この事件は、遺言で株式を取得した相続人に対し、他の相続人が改正前の民法による「遺留分減殺請求」をしたことで株式が準共有となった事案です。遺産分割前の共同相続による準共有とも、金銭の支払を求める現在の「遺留分侵害額請求」(民法第1046条)とも前提が異なります。

この判断によっても、会社が他の相続人の持分まで一括して取得できるわけではなく、会社と他の相続人との間で準共有の状態が残ることがあります。また、この判断には反対する見解があり、請求の対象をどう特定するか、総会で誰の議決権を排除するか、会社自身が準共有者となった後に権利をどう行使するかといった難点が指摘されています。会社が取得した部分を含めて株式全体を直ちに「議決権のない自己株式」として扱えるとは限らず、対象とされなかった相続人が当然に自由に議決権を行使できるとも言い切れません。一部の相続人だけを対象とする請求を受けた場合や会社側として検討する場合には、対象を選んだ理由、会社の必要性、定款の定め、他の相続人への影響を具体的に確認します。

売買価格・分配可能額・税務は分けて検討する

売渡請求では、「いくらで売るか」(売買価格)、「会社がその金額を支払えるか」(財源規制と資金繰り)、「売った人にどのような税金がかかるか」(税務)が、それぞれ別の判断になります。

売買価格は、協議が調わない場合、期間内の申立てにより裁判所が決定します。裁判所は、請求の時における会社の資産状態その他一切の事情を考慮して価格を定めます(会社法第177条第3項)。株主が亡くなった日や代金の支払日が自動的に評価の基準日になるわけではなく、株式のいわゆる額面、相続税の申告で用いた評価額、帳簿上の純資産額、会社の提示額のいずれも、当然に売買価格になるものではありません。

会社が売渡請求に基づいて株式を買い取る場合、株主に交付する金銭等の帳簿価額の総額は、取得の効力が生じる日における分配可能額を超えてはなりません(会社法第461条第1項第5号)。分配可能額は同条第2項などに従って計算するもので、預金残高や借入れの余力、単純な純資産額とは一致しません。会社の資金事情だけを理由に適正な売買価格を引き下げられるわけではなく、価格の問題と支払の問題は分けて考えます。規制に違反して支払がされた場合には、金銭の交付を受けた者や職務を行った業務執行者などが会社に対して支払義務を負うことがあるなど(同法第462条)、責任の問題が生じますが、違反があれば請求が常に当然無効になると断定することもできません。会社側は、決議や請求の前から、財務担当者などとともに分配可能額と資金計画を確認しておく必要があります。

税務では、個人が株式を発行会社に譲渡すると、受け取る代金の一部が配当とみなされ(みなし配当)、通常の株式の売却とは課税関係が異なることがあります。相続や遺贈で取得した非上場株式を発行会社に譲渡する場合には、納付すべき相続税額があること、相続税の課税の対象となった株式であること、譲渡の時期などの要件を満たすと、みなし配当の課税を行わない特例があり、譲渡の時までに所定の届出書を発行会社に提出する手続が必要です(国税庁タックスアンサーの相続した非上場株式を発行会社へ譲渡する場合の税務上の特例)。この特例はすべての相続株式に自動的に適用されるものではないため、会社側は請求の前から、相続人側は請求やその予告を受けた段階から、税理士などに確認することをおすすめします。価格の確定や入金を待ってから検討すると、手続が間に合わないおそれがあります。

価格の根拠資料を集め、20日以内の申立てに備える

価格を検討する際は、請求の時点の会社の財産の状態や収益力を示す資料を集めます。直近数期の決算書と勘定科目の内訳、不動産や有価証券など含み損益のある資産の資料、借入金などの負債の資料、事業計画や業績の見通しが検討材料になります。どの評価方法が採用されるかは事案によって異なり、特定の方法や有利な価格が保証されるものではありません。他の事件で用いられた割引率などを、この手続に当然に当てはまる基準として扱うこともできません。

資料が手元にない場合、株主には、定款(会社法第31条第2項)、株主総会の議事録(同法第318条第4項)、計算書類(同法第442条第3項)について、閲覧や、謄写又は謄本の交付などを請求できる制度があり、請求できる内容は資料ごとに異なります。会計帳簿の閲覧・謄写(同法第433条)は、原則として総株主の議決権の100分の3以上、又は自己株式を除く発行済株式の100分の3以上を持つ株主に限られ(定款で引き下げることができます)、請求の理由を明らかにする必要があり、会社が拒むことのできる事由も定められています。株主であればどのような経営資料でも無条件に入手できるわけではなく、売渡請求の後は株主の地位そのものが争われることもあるため、請求の手段と時期を検討します。

資料がそろうまで申立てや相談を待つ必要はありません。手元の資料で期間内に取るべき手続を確保し、不足する資料は、その後の取得方法を含めて検討します。

定款と承継計画で予防できること、相続後には難しいこと

売渡請求の条項は、相続によって株式が経営に関与しない人へ分散することを防ぐために置かれることがあります。ただし、条項を置けば承継の問題がすべて解決するわけではなく、相続が起きた後にできることには限りがあります。

東京地方裁判所平成24年9月10日判決(前記の東京高等裁判所平成24年判決の第一審)は、株主の死亡後に定款で売渡請求の定めを設けた会社の対応を適法と認め、決議の取消しを求めた相続人の請求を棄却したと紹介されています(定款追加を扱う裁判例の紹介)。そのため、相続の時に条項がなかったことだけを理由に、請求ができないとは言い切れません。もっとも、定款変更の決議の適法性、その後の請求が1年以内か、権利の濫用に当たらないかなどは、個別の検討が必要です。

定款変更の決議は売渡請求の決議とは別のもので、会社法第466条と第309条第2項第11号による特別決議で行います。売渡請求の総会で対象者の議決権を排除する同法第175条第2項は、定款変更の決議に当然に及ぶものではないため、相続人が多数の株式を承継している場合には、条項を追加する定款変更そのものが可決されないこともあり得ます。また、定款に売買価格の算定方法を定めても、その算式が裁判所の価格決定を当然に拘束するとはいえず、法律が定める20日の申立期間を定款で自由に延ばしたり、なくしたりできるともいえません。

相続の前の承継対策としては、条項を置く必要性、想定される対象者、会社が買い取るための資金、後継者の地位との整合性を、株主構成や相続の見通しに合わせて検討します。種類株式(会社法第108条)を用いる設計などの選択肢もありますが、拒否権付株式を含め、一つの方法ですべての問題を解決できるわけではなく、定款の条項は会社ごとに検討が必要です。承継の全体像は株式・相続・税務を踏まえた事業承継の検討、相続人との合意による買取りなど売渡請求以外の方法は少数株主の株式を整理する方法のコラムで整理しています。

よくある質問

会社へ異議を送れば20日の期間は止まりますか。

止まりません。20日の期間は請求があった日から進み、会社への異議の申入れ、資料の請求、相談の予約、決議取消しの訴えの提起によって止まったり延びたりすることはありません。期間内にどちらからも申立てがなく、価格の協議も調わなければ請求は効力を失いますが、会社が期間内に申し立てれば手続は続きます。

相続したのが全株式でも議決権は排除されますか。

対象とされた人以外に議決権を行使できる株主がいなければ、例外として議決権は制限されません(会社法第175条第2項ただし書)。全株式を承継した相続人が対象とされた場合などがこれに当たり得ます。反対に、議決権を行使できる株主がほかに一人でもいれば、原則どおり議決権を行使できません。遺産分割前の準共有の場合は、株主名簿と相続の状況から個別に確認します。

相続税評価額で売買価格が決まりますか。

当然には決まりません。売買価格は協議で定まり、協議が調わず期間内に申立てがあれば、裁判所が請求の時における会社の資産状態その他一切の事情を考慮して定めます。相続税の申告で用いた評価額や会社の提示額は、検討資料の一つにとどまります。みなし配当などの税務上の扱いは、売買価格とは別に税理士などに確認してください。

相談前に整理したい資料と神戸での手続の確認先

ご相談の際は、資料がすべてそろっていなくても構いません。次の表は、主な資料と、その資料で確認したい事項を対応させたものです。資料だけで結論が決まるわけではありませんが、どの主張をどの資料で裏付けられるかを早く把握できます。

相談前に整理したい資料と確認する事項
資料 確認する事項
定款(現行版)と
変更の履歴
売渡請求の条項があるか、相続の前後のいつ置かれたか
株主名簿、
登記事項証明書
株式の構成、取締役会の有無などの機関の構成、本店の所在地(管轄の確認)
戸籍謄本、遺言書、
遺産分割協議書など
誰が株式を承継したか、単独所有か準共有か、各相続人の持分
死亡を会社に
伝えた記録
会社が相続を知った時期(1年の起算点)
招集通知、議案、
議事録、投票の記録
招集の手続と決議の方法が適法か、議決権の数え方
請求書、封筒、
配達の記録
請求の対象となった株式と、請求の日(20日の起算点)
決算書、勘定科目の
内訳、事業計画など
売買価格の検討と、会社の分配可能額
承継に関する合意書、
経営への関与の記録
会社が特定の人を対象とした理由や、権利の濫用に当たるかの検討

資料は、適法に保有又は取得したものを、書き込みや加工をせずにそのまま保存してください。会社の資料を権限なく持ち出したり、他人のアカウントに無断でアクセスしたりして入手することは避けてください。

売買価格の決定の申立ては、会社の本店の所在地を管轄する地方裁判所に対する非訟事件の手続であり(会社法第868条第1項)、相続人の住所地の家庭裁判所に遺産分割として申し立てる手続ではありません。決議取消しの訴えも、会社の本店の所在地を管轄する地方裁判所の専属管轄です(同法第835条第1項)。神戸地方裁判所の窓口案内では、本庁について、商事非訟の申立ては第3民事部、保全に関する問い合わせは第3民事部(分室)とされていますが、兵庫県内の事件をすべて本庁が扱うわけではなく、会社の本店所在地や事件の種類によって、支部を含めて提出先を確認する必要があります。申立ての費用や郵便切手、鑑定の費用、保全の担保の額などは事件ごとに異なります。

ご相談の前に利益相反の確認を行い、確認が済むまでは、定款、株主名簿、決算書、会計帳簿などの資料をお送りいただかないようお願いしています。同じ紛争で、会社側と相続人側のように利害が対立する当事者の双方から、同時にご相談をお受けすることはできません。お問い合わせやご予約によって期間が止まることもありません。

ご相談の予約について

当事務所では、株式の相続や売渡請求をめぐる問題を含め、企業法務のご相談をお受けしています。相談の受入れや受任の可否は、利益相反の確認と事案の内容を踏まえて個別に判断し、予約の受付は受任(委任契約の成立)を意味するものではありません。ご予約の際は、請求が届いた日や総会の日などの期限もお知らせください。相談方法・費用をご確認のうえ、ご予約ください。

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事務所紹介

弁護士法人ひょうご支所神戸みらい法律会計事務所
所属弁護士会:兵庫県弁護士会

〒654-0154 兵庫県神戸市須磨区中落合2丁目2-5 名谷センタービル7階(神戸市営地下鉄西神・山手線 名谷駅から徒歩1分)

株式の相続や株主・役員間の対立を含め、企業法務のご相談をお受けしています(企業法務のスポット相談の案内)。所属弁護士の資格や所属弁護士会は、事務所の弁護士紹介でご確認いただけます。

参考資料

法令

裁判例の原文

判例評釈・論文(下級審の裁判例は、これらの資料による紹介です。判決・決定の原文ではありません)

公的機関の案内

本記事は、相続人等に対する株式売渡請求について一般的な情報を提供するもので、個別の事案についての法的助言や税務上の助言ではありません。請求の効力、手続の選択、売買価格の見通しは、定款、株主構成、相続の状況、会社の手続などの個別事情によって異なります。

情報基準日:2026年10月14日(同日時点の法令及び公表資料に基づいています)

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