交通事故で鼻や顔面を強く打ち、鼻の一部を失った、形が変わった、鼻で息がしにくい、においが分からなくなった。こうした状態が治療後も残ると、「後遺障害としてどう評価されるのか」という問題が出てきます。調べると「鼻の後遺障害は9級5号」という説明を見かけますが、9級5号は鼻のけが全般を指す等級ではありません。
自動車損害賠償保障法施行令別表第二の第9級第5号は「鼻を欠損し、その機能に著しい障害を残すもの」と定められています。条文の形から分かるとおり、「鼻の欠損」と「機能の著しい障害」の二つをあわせて満たすことを求める規定です。鼻を骨折した、形が変わった、鼻づまりが残ったというだけでは、そのまま9級5号になるわけではありません。逆に、二つの要件を満たす場合であっても、最終的に認定される等級が第9級にとどまるとは限りません。鼻の欠損は「外貌の醜状」としても評価され得るからです。
この記事では、公表されている法令と認定基準を手がかりに、第9級第5号の二つの要件、要件を満たさない場合に検討する等級、外貌の醜状との関係、嗅覚の障害が併存する場合の考え方、申請や示談の前に確認しておきたい資料を整理します。後遺障害の評価は、診断書、画像、検査結果、写真、治療経過といった個別の資料に基づいて行われますので、以下は一般的な考え方の整理であり、個別事情により結論は異なります。
この記事で分かること
- 第9級第5号の二つの要件(鼻軟骨部の欠損と、鼻呼吸困難又は嗅覚脱失)と、その確認方法
- 要件の一方しか満たさない場合に、どの等級を検討することになるか
- 鼻の欠損が外貌の醜状としても評価される場合に、二つの等級が併合されない理由
- 「併合」「相当」「加重」という三つの用語の違い
- 嗅覚脱失と嗅覚減退の区分、検知域値と認知域値の違い
- 後遺障害診断書、画像、写真、検査結果として何を確認しておくとよいか
鼻の欠損や鼻呼吸の障害が残った事案では、「何級になるのか」より先に、「欠損の範囲と機能障害の内容が資料に表れているか」を確認する必要があります。後遺障害診断書、画像、検査結果、事故前後の写真、保険会社から届いた書面を確認することで、提出資料の過不足と今後の進め方を整理できます。
結論|鼻のけがで問題になる等級は一つではありません
鼻に関する後遺障害を検討するときは、三つの軸を分けて考える必要があります。第一に鼻そのものの障害(鼻の欠損と機能障害)、第二に外貌の醜状、第三に嗅覚の障害です。等級表に鼻の障害として定められているのは第9級第5号だけですが、これに当たらない場合でも別の等級が問題になる余地があります。
まず三つの質問で当てはまりを確認してください
- 質問1 鼻軟骨部(鼻の下側の、軟骨で形づくられている部分)が、全部又は大部分なくなっていますか。
- 質問2 鼻で息をすることが困難ですか。又は、においがまったく分からなくなりましたか。
- 質問3 鼻を含む顔面に、傷あとや組織の陥没が残っていますか。
質問1と質問2の両方が「はい」であれば、第9級第5号の要件を検討することになります。どちらか一方だけであれば、外貌の醜状としての等級か、機能障害に相当する等級のいずれかを検討します。質問3だけであれば、鼻の障害ではなく外貌の醜状の問題になります。
| 症状固定時の状態 | 主に問題になる等級 | 根拠・注意点 |
|---|---|---|
| 鼻軟骨部の全部又は大部分の欠損があり、鼻呼吸困難又は嗅覚脱失もある | 鼻の障害としては第9級第5号。あわせて外貌の著しい醜状として第7級第12号にも当たり得る | 公表基準は、この場合を例示して、両者を併合せず上位の第7級第12号によるとしています |
| 鼻軟骨部の全部又は大部分の欠損はあるが、鼻呼吸困難も嗅覚脱失もない | 第9級第5号には当たらない。外貌の著しい醜状として第7級第12号を検討 | 公表基準は、鼻軟骨部の全部又は大部分の欠損を外貌の「著しい醜状」としています |
| 鼻の欠損はなく、鼻呼吸困難又は嗅覚脱失だけが残った | 第12級に相当する等級 | 等級表に定めがないため、程度の近い等級に準じて定める扱いとされています |
| 鼻の欠損はなく、嗅覚が低下した(嗅覚減退) | 第14級に相当する等級 | 嗅覚脱失と嗅覚減退は検査結果により区分され、扱いが異なります |
| 欠損が鼻軟骨部の一部又は鼻翼にとどまる | 外貌の醜状として第12級第14号を検討 | 公表基準は、鼻軟骨部の一部又は鼻翼の欠損を単なる「醜状」としています |
「鼻の欠損」「鼻呼吸困難」「嗅覚障害」「外貌の醜状」は別の評価軸です
ご相談の場面では、これらの言葉が同じ意味で使われていることが少なくありません。しかし後遺障害の評価では、それぞれが別の要件に対応しています。
鼻骨骨折・鼻中隔弯曲・変形は、それだけでは「鼻の欠損」ではありません
鼻は、上方が鼻骨という骨で、下方が軟骨で形づくられています。公表されている認定基準は、「鼻の欠損」を鼻軟骨部の全部又は大部分の欠損としていますので、問題になるのは軟骨で支えられている部分が失われたかどうかです。骨折、変形、瘢痕、鼻づまりは、いずれも「欠損」そのものではありません。
したがって、鼻骨骨折後に変形と鼻づまりが残ったという事案では、第9級第5号の第一の要件をそもそも満たしません。検討することになるのは、変形や瘢痕が外貌の醜状として評価できる程度かどうか、鼻呼吸困難として評価できる機能障害があるかどうか、という別の問題です。
鼻呼吸困難・嗅覚脱失・嗅覚減退は別々に評価されます
公表基準は、鼻の機能障害を、鼻呼吸困難、嗅覚脱失、嗅覚の減退に区分しています。鼻呼吸困難は鼻から息を通すこと自体の障害であり、嗅覚障害はにおいを感じる働きの障害です。原因も評価も別に扱われます。嗅覚脱失(においがまったく分からない状態)と嗅覚減退(においを感じにくくなった状態)とでは、想定される等級も異なります。
なお、ここでいう鼻呼吸困難は鼻の通り道の障害を指すものであり、肺や気管支の障害(呼吸機能の障害)とは別の枠組みで評価されます。両方の症状がある場合は、それぞれ別に検討する必要があります。
第9級第5号の要件|欠損と機能障害の両方が必要です
自動車損害賠償保障法施行令別表第二の第9級第5号は「鼻を欠損し、その機能に著しい障害を残すもの」と定めています。自賠責保険における後遺障害等級の認定は、支払基準(平成13年金融庁・国土交通省告示第1号)が「等級の認定は、原則として労働者災害補償保険における障害の等級認定の基準に準じて行う。」と定めており、労災の障害等級認定基準(昭和50年9月30日基発第565号)の内容が参照されます。以下で「公表基準」というのは、この認定基準を指します。
第一の要件 鼻軟骨部の全部又は大部分の欠損
公表基準は、「鼻の欠損」とは鼻軟骨部の全部又は大部分の欠損をいう、としています。したがって、外見上「鼻の一部が欠けている」と感じられる状態であっても、欠損の範囲が鼻軟骨部の一部や鼻翼にとどまる場合には、この要件を満たしません。
もっとも、どこまでが「大部分」に当たるかについて、公表基準は面積や割合の数値を定めていません。結局は、症状固定時の写真、画像、手術記録、診察所見から、欠損の範囲を具体的に示せるかどうかが問題になります。
第二の要件 鼻呼吸困難又は嗅覚脱失
公表基準は、「機能に著しい障害を残すもの」とは鼻呼吸困難又は嗅覚脱失をいう、としています。つまり、鼻軟骨部の欠損があっても、鼻呼吸ができ、においも分かるという状態であれば、この要件を満たしません。
嗅覚脱失と嗅覚減退の区分について、公表基準は、T&Tオルファクトメータによる基準嗅力検査の認知域値の平均嗅覚損失値により、5.6以上を嗅覚脱失、2.6以上5.5以下を嗅覚の減退と区分しています。あわせて、嗅覚脱失については、アリナミン静脈注射による静脈性嗅覚検査の検査所見のみによって確認しても差し支えないとされています。
他方、鼻呼吸困難については、公表されている認定基準が特定の検査を必須としていることを確認できません。労災の障害給付請求用の診断書様式では、鼻の機能障害の欄に鼻呼吸困難・嗅覚脱失・嗅覚減退の有無を記載し、検査所見を記入するか各種検査結果を添付することが求められています。鼻腔の通気の程度を測る方法としては、日本鼻科学会が鼻腔通気度測定法についてガイドラインを公表していますが、これは診療上の測定方法を定めたものであって、等級認定の要件を定めたものではありません。どの検査を行うかは、症状と鼻腔の状態に応じて主治医が判断する事項です。
| 鼻軟骨部の全部又は大部分の欠損 | 鼻呼吸困難又は嗅覚脱失 | 第9級第5号の該当性 | 検討することになる等級 |
|---|---|---|---|
| あり | あり | 要件を満たす | 外貌の著しい醜状(第7級第12号)にも当たり得るため、上位の等級によるとされています |
| あり | なし | 当たらない | 外貌の著しい醜状(第7級第12号) |
| なし | あり | 当たらない | 第12級に相当する等級 |
要件を満たさない場合に検討する等級|「相当」という認定
等級表に定めのない障害については、その障害の程度に応じ、等級表に掲げる障害に準じて等級を定めることとされています。鼻の機能障害だけが残る場合が、これに当たります。
欠損がなく、鼻呼吸困難又は嗅覚脱失が残る場合
公表基準は、鼻の機能障害のみを残すもののうち、嗅覚脱失又は鼻呼吸困難については第12級の等級を準用するとしています。自賠責保険の等級認定は前記のとおり労災の認定基準に準じて行われますので、この場合も第12級に相当する等級として検討されることになります。
ここで注意していただきたいのは、労災の認定基準に記載されている号数と、自動車損害賠償保障法施行令別表第二の号数は一致しないことがある、という点です。この場合の認定は、別表第二の特定の号に当てはめて行われるものではありません。認定結果を受け取ったときは、等級だけでなく、その理由の記載もあわせて確認してください。
なお、鼻呼吸困難と嗅覚脱失の両方が残った場合の扱いについて、公表基準は両者を並べて一つの準用等級を定めており、両方が存在する場合に等級が上がるかどうかまでは記載していません。この点も、認定結果の理由の記載で確認する必要があります。
嗅覚が低下しただけの場合
嗅覚の減退については、公表基準は第14級の等級を準用するとしており、自賠責保険でも第14級に相当する等級として検討されることになります。前記のとおり脱失と減退の区分は検査結果の数値によりますので、検査をいつ、どのような条件で受けたかが結論に影響します。
また、嗅覚障害は事故直後には自覚されにくく、症状の申告や検査の時期が遅れると、事故との関係の説明が難しくなることがあります。においの変化に気付いた時点で主治医に伝え、診療録に残しておくことが重要です。
欠損が鼻軟骨部の一部・鼻翼にとどまる場合
公表基準は、鼻の欠損が鼻軟骨部の全部又は大部分に達しないものであっても、単なる「外貌の醜状」の程度に達するものである場合は、外貌の醜状として評価するとしています。外貌障害の認定基準(平成23年2月1日基発0201第2号)では、鼻軟骨部の全部又は大部分を欠損した場合を「著しい醜状」とし、その一部又は鼻翼を欠損した場合を単なる「醜状」とするとされています。
なお、この場合に、外貌の醜状としての等級と鼻の機能障害としての等級とをどのように調整するのかについて、公表基準に明示の記載を確認できませんでした。両方の症状がある事案では、認定結果の理由と、実際にどの障害がどのように評価されたのかを確認したうえで検討する必要があります。
鼻の欠損と外貌の醜状|併合ではなく上位の等級によります
なぜ二つの等級が足されないのか
後遺障害が二つ以上ある場合には、原則として「併合」により等級を繰り上げます。第13級以上に該当する障害が二つ以上あるときは重い方を1級、第8級以上が二つ以上あるときは2級、第5級以上が二つ以上あるときは3級、それぞれ繰り上げるという仕組みです。
もっとも、公表基準は、「1の身体障害に他の身体障害が通常派生する関係にある場合には、いずれか上位の等級をもって、当該身体障害の等級とする」としています。一方の障害があれば通常もう一方も生じるという関係にあるときは、二つの障害として重ねて評価しないという考え方です。
鼻の欠損は、鼻という器官の障害であると同時に、日常人目につく部分の変化でもあります。公表基準は、鼻の欠損は一方では「外貌の醜状」としてもとらえうるが、耳介の欠損の場合と同様、それぞれの等級を併合することなく、いずれか上位の等級によることとしています。
公表基準が示している例
公表基準は、その例として、鼻を欠損しその機能に著しい障害を残す場合について、鼻の障害としては第9級第5号に該当するが、外貌の醜状障害としては第7級第12号に該当するので、この場合は第7級第12号とする、と示しています。
つまり、第9級第5号の要件を満たす事案でも、最終的な等級が第9級ではなく第7級になる可能性があります。認定結果を受け取ったときは、どちらの枠組みで評価されたのかを、理由の記載で確認してください。
顔面のほかの部分にも傷あとがある場合
公表基準は、鼻の欠損を外貌の醜状障害としてとらえる場合であって、鼻以外の顔面にも瘢痕等があるときは、鼻の欠損と顔面の瘢痕等をあわせて、その程度により、単なる「醜状」か「著しい醜状」かを判断するとしています。顔面に複数の傷あとがある事案では、全体としての評価が問題になります。
なお、外貌の醜状に関する等級は、平成22年6月10日以後に発生した事故から、男女の区別のない現在の内容になっています(労災では平成23年2月1日の改正)。それ以前の基準を前提とした説明が残っている資料もありますので、確認の際は改正後の内容かどうかにご注意ください。
事故の前から鼻に障害があった場合|加重の考え方
事故の前から同じ部位に後遺障害があり、事故によってその程度が重くなった場合は「加重」として扱われます。公表基準は、既に身体障害のあった者が同一の部位について障害の程度を加重した場合は、加重した限度で補償を行うとしています。自賠責保険でも、自動車損害賠償保障法施行令は、加重の場合について、加重後の等級に応じた金額から、既にあった後遺障害の等級に応じた金額を控除した額を支払うものとしています。
したがって、以前の事故や手術、疾患によって既に鼻に障害があった方の場合は、事故前の状態がどうであったかを示す資料が重要になります。事故前の診療録、画像、写真、既に後遺障害等級の認定を受けたことがあるならその認定票が、これに当たります。
加重は、事故前から同じ部位に「後遺障害」があった場合の等級と金額の計算方法の問題です。事故前の体質や疾患が損害の発生・拡大に影響した場合に、加害者に対する損害賠償の場面で賠償額が調整されることがある、という問題(いわゆる素因の問題)とは、別の枠組みです。混同しないようご注意ください。
| 用語 | どういう場面で使われるか | 鼻の障害での例 |
|---|---|---|
| 併合 | 後遺障害が二つ以上あるときに、重い方の等級を繰り上げる扱い | 鼻の障害と、頸部のむちうちによる神経症状のように、通常派生する関係にない障害が併存する場合 |
| 相当 | 等級表に定めのない障害について、程度の近い等級に準じて等級を定める扱い | 鼻の欠損がなく、鼻呼吸困難又は嗅覚脱失だけが残った場合(第12級に相当する等級) |
| 加重 | 事故の前から同じ部位に後遺障害があり、事故によりその程度が重くなった場合の扱い | 以前の事故や病気で既に鼻に障害があり、今回の事故で程度が重くなった場合 |
嗅覚の障害が併存する場合の考え方
同じ嗅覚脱失でも、鼻の欠損の有無で枠組みが変わります
鼻軟骨部の欠損とあわせて嗅覚脱失がある場合、嗅覚脱失は第9級第5号の「機能に著しい障害」の内容として評価されます。他方、鼻の欠損がなく嗅覚脱失だけが残る場合は、第12級に相当する等級として扱われます。同じ症状でも、鼻の欠損があるかどうかによって評価の枠組みが変わります。
それでは、鼻の欠損とともに嗅覚脱失がある場合に、第9級第5号とは別に嗅覚障害としての等級を重ねて評価できるのでしょうか。公表基準は、この準用等級を「鼻の機能障害のみを残すもの」について定めており、鼻の欠損とあわせて評価される場合を対象としていません。この規定ぶりからは、同じ嗅覚脱失を重ねて評価することは想定されていないと読むことができます。もっとも、公表基準にこの点を正面から述べた記載は確認できませんでしたので、実際の認定結果と理由を確認したうえで検討する必要があります。
検知域値と認知域値の違い
基準嗅力検査(T&Tオルファクトメータ)では、においを初めて感じた濃度(検知域値)と、何のにおいかを認識できた濃度(認知域値)を測定します。公表基準が等級の区分に用いているのは、このうち認知域値の方です。検査結果を確認するときは、どちらの数値が記載されているかにご注意ください。
静脈性嗅覚検査(アリナミンテスト)は、注射を開始してからにおいを感じるまでの時間と、感じてから消失するまでの時間を測定する検査です。公表基準は、嗅覚脱失についてはこの検査の所見のみによって確認しても差し支えないとしていますが、一つの検査結果だけで障害の程度や事故との因果関係が常に確定するわけではありません。
事故との因果関係で確認される事情
嗅覚障害は、外傷以外にも、鼻炎、副鼻腔炎、感染症、加齢、薬剤、神経疾患など、さまざまな原因で生じます。事故との関係を検討するには、事故前の嗅覚の状態、事故直後の症状の記録、既往症の有無、検査の結果と時期をあわせて確認することになります。
また、外傷による嗅覚障害には、鼻の通り道が狭くなって空気がにおいを感じる部分まで届かなくなる場合(気導性)、においを感じ取る細胞が損傷を受ける場合(嗅神経性)、頭部外傷によって脳の側に損傷が生じる場合(中枢性)があり、確認すべき資料が異なります。画像検査に異常がないことだけで事故との関係が否定されるわけではありませんし、逆に画像上の所見があることだけで関係が確定するわけでもありません。
嗅覚検査の内容、味覚障害を伴う場合の考え方、職業への影響と逸失利益の検討については、交通事故の嗅覚・味覚障害|検査と逸失利益の考え方で詳しく解説しています。本記事では、第9級第5号との関係を理解するために必要な範囲にとどめています。
鼻の欠損、鼻呼吸の障害、嗅覚の障害が併存する事案では、どの症状がどの枠組みで評価されているのかを、認定結果の理由まで確認しないと判断できません。後遺障害診断書、画像、検査結果、写真、事前認定の結果通知を確認することで、鼻の欠損・機能障害・外貌の醜状の評価関係と、資料の不足を整理できます。
鼻の欠損・鼻呼吸困難を裏づける資料
後遺障害の評価は、症状固定時にどのような状態が残っているかを資料によって確認する作業です。「何を証明したいのか」を先に決めて、そのために必要な資料を整理するという順序で考えると分かりやすくなります。
診断書に何が書かれるか
労災の障害給付請求用の診断書様式では、鼻について、鼻軟骨部の欠損を全部又は大部分か一部かに区分して記載すること、鼻呼吸困難・嗅覚脱失・嗅覚減退の有無を記載すること、検査所見を記入するか各種検査結果を添付すること、欠損がある場合はその状態を図示するか状態が分かる資料を添付することが求められています。外貌の醜状についても、頭部・顔面部・頸部の区分ごとに、大きさや形態を図示するか状態が分かる資料の添付が求められています。自賠責保険で用いる後遺障害診断書は様式が異なりますが、確認される事項の考え方は参考になります。
| 立証したい事項 | 確認しておきたい資料 | 確認の視点 |
|---|---|---|
| 鼻の欠損の範囲 | 症状固定時の顔面・鼻部の写真(正面・左右斜位・左右側面)、鼻部のCT等の画像、手術記録、退院時要約、診察所見 | 欠損が鼻軟骨部の全部・大部分・一部のいずれに当たるかが読み取れるか |
| 鼻呼吸困難の内容と程度 | 鼻腔内の診察所見(鼻鏡・内視鏡)、画像所見、鼻腔の通気に関する検査結果、左右差・常時性・睡眠や運動への影響の記載 | 症状固定時に、どの程度の障害が、どの範囲で残っているかが分かるか |
| 嗅覚障害の内容と程度 | 基準嗅力検査(T&Tオルファクトメータ)の結果と検査日、静脈性嗅覚検査の所見、耳鼻咽喉科の評価、事故前後の症状の記録 | 認知域値が記載されているか。脱失と減退のいずれに当たるかを判断できるか |
| 外貌の醜状 | 症状固定時の写真、瘢痕・線状痕の大きさと位置の記載、顔面のほかの部位の瘢痕の有無 | 大きさ・形状・位置が記録され、顔面全体として評価できるか |
| 事故との因果関係 | 交通事故証明書、事故状況が分かる資料、事故直後の救急記録・初診時の診断書・診療録、紹介状、事故前の写真 | 受傷の機序と症状の発現時期が資料でつながるか |
| 事故前の状態(既往症・加重) | 事故前の通院歴と診療録、鼻中隔弯曲・アレルギー性鼻炎・慢性副鼻腔炎等の記録、過去の鼻の手術や顔面外傷の記録、過去に受けた後遺障害等級の認定票 | 事故前の状態と事故後の変化を区別して説明できるか |
| 仕事・生活への影響 | 仕事の内容が分かる資料、勤務状況、業務上の支障や配置変更の記録、収入資料 | 症状が実際の業務や生活にどう影響しているかを具体的に示せるか |
特定の検査を受ければ等級が認定される、診断書に特定の文言を記載すれば等級が付く、という関係にはありません。医学的な判断は医師が行うものであり、等級の認定と損害の評価は提出された資料全体に基づいて行われます。事実と異なる記載を医師に求めることは避けてください。
写真についても同様で、写真だけで等級が決まるわけではありません。ただし、撮影の角度や明るさによって見え方が変わりますので、正面、左右斜位、左右側面など複数の向きから、撮影日を記録して残しておくと、経過の説明がしやすくなります。
鼻のけがで行き違いが生じやすい場面
ご相談を受ける場面では、次のような行き違いが生じやすいところです。
| 場面 | 生じやすい行き違い | 確認したいこと |
|---|---|---|
| 鼻骨骨折で変形と鼻づまりが残った | 「鼻をけがしたから9級5号」と考えていた | 鼻軟骨部の欠損があるか。ない場合、変形・瘢痕が外貌の醜状の基準に当たるか、鼻呼吸困難として評価できるか |
| 形成・再建手術を受けた | 手術前の状態で評価されると考えていた | 症状固定時の外観と機能がどうなっているか。予定されている治療があるか。主治医の見通しはどうか |
| 事故前から鼻炎・副鼻腔炎があった | 既往症があるから請求できないと考えていた | 事故前の状態と事故後の変化を区別できる資料があるか。加重に当たるか、素因の問題として扱われるかは別の枠組みです |
| 鼻の欠損と顔面の傷あとの両方がある | それぞれ別に等級が付き、併合されると考えていた | 公表基準では、通常派生する関係にある障害は併合せず上位の等級によるとされています。認定結果の理由を確認する必要があります |
| 「事故から6か月で症状固定」と言われた | 期間だけで症状固定を判断していた | 嗅覚障害の回復可能性、予定される形成・再建手術、治療効果、主治医の見解。嗅覚障害の治療は数か月から数年にわたることがあるとされています |
等級と賠償額は別|慰謝料・逸失利益の考え方
等級が認定されれば、その等級に応じた金額が自動的に支払われると理解されていることがありますが、後遺障害等級、自賠責保険から支払われる金額、最終的に受け取る賠償額は、それぞれ別の問題です。自賠責保険は最低限の保障を行う制度であり、加害者に対する損害賠償請求では実際の損害を個別に算定することになりますので、自賠責の金額がそのまま賠償額になるわけではありません。
| 等級 | 自賠責保険の支払限度額 | 労働能力喪失率 | 支払基準上の後遺障害慰謝料 |
|---|---|---|---|
| 第7級 | 1,051万円 | 56% | 419万円 |
| 第9級 | 616万円 | 35% | 249万円 |
| 第12級 | 224万円 | 14% | 94万円 |
| 第14級 | 75万円 | 5% | 32万円 |
上表の労働能力喪失率は、逸失利益を算定する際の目安として公表されているものです。実際の逸失利益は、仕事の内容、収入、症状が業務に与える影響、年齢などをもとに個別に検討されますので、表の率がそのまま用いられるとは限りません。外貌の醜状については、仕事への影響の有無や程度が争点になることがあります。鼻呼吸の障害や嗅覚の障害についても、業務との関係を具体的な資料で示せるかどうかが問題になります。
将来の形成・再建手術の費用等を検討する場合には、医学的な必要性、実施の見通し、治療計画、費用の見積りを確認する必要があります。将来の費用が当然に全額認められるという関係にはありません。
症状固定・申請・示談の各段階で確認したいこと
次の項目は、資料の不足に後から気付くことを避けるための確認事項です。段階ごとに整理しています。
症状固定・後遺障害診断書の作成前に
- 鼻の欠損がある場合、その範囲が写真・画像・手術記録から読み取れる状態になっているか
- 鼻呼吸の障害について、診察所見と検査結果が診療録に残っているか
- においの異常を自覚している場合、その旨を主治医に伝え、耳鼻咽喉科での評価を受けているか
- 症状固定の時期について、回復の見込みや予定されている手術を踏まえて主治医と相談したか
- 顔面のほかの部位にも瘢痕がある場合、その大きさと位置が記録されているか
後遺障害の申請前・異議申立ての前に
- 後遺障害診断書に、鼻の欠損、鼻呼吸困難、嗅覚障害、症状固定日の記載があるか
- 検査結果の写しが添付されているか、検査日と認知域値が分かるか
- 事故直後の診断書・救急記録と、症状の経過がつながっているか
- 事前認定の結果を受けている場合、等級だけでなく認定の理由の記載を確認したか
- 異議申立てを検討する場合、前回の申請と何が変わるのかを説明できる資料があるか
- 異議申立てのほかに、自賠責保険・共済紛争処理機構への紛争処理の申請という方法もあることを確認したか
示談書に署名する前に
- 提示された金額の内訳(治療費、休業損害、慰謝料、逸失利益等)が示されているか
- 後遺障害の等級が、鼻の障害・外貌の醜状・嗅覚障害のどの枠組みで評価されているか
- 将来の治療や手術の予定が損害の項目に反映されているか
- 清算条項の範囲を確認したか
- 期限を確認したか(自賠責保険への被害者請求は、国土交通省の説明では、後遺障害分について症状固定日の翌日から3年以内とされています。加害者に対する損害賠償請求権は、民法第724条の2により、人の生命又は身体を害する不法行為の場合は5年とされています。起算点は事案により異なります)
相談の前に手元にそろえておきたいもの
鼻の欠損や鼻呼吸の障害が問題になる事案では、症状固定の時期について話が出たとき、後遺障害診断書の作成を依頼する前、申請方法(事前認定と被害者請求)を選ぶとき、認定結果が届いたとき、示談案の提示を受けたときが、一度確認しておきたい節目です。
ご相談の際は、次の資料をお持ちいただけると確認が進みます。相談によって結果が定まるわけではありませんが、資料の過不足、鼻の欠損・機能障害・外貌の醜状の評価関係、申請方法の選択、損害の項目と期限を整理することはできます。
- 後遺障害診断書
- 画像・検査結果の写し(検査日が分かるもの)
- 症状固定時の顔面・鼻部の写真、事故前の写真
- 事故直後の診断書、救急記録、交通事故証明書
- 保険会社から届いた書面(事前認定の結果通知、示談提示書)
- 事故前から鼻の治療を受けていた場合はその診療録
鼻の後遺障害についてよくあるご質問
鼻の一部を失えば、必ず第9級第5号になりますか。
そうとは限りません。公表基準では、欠損は鼻軟骨部の全部又は大部分の欠損、機能の著しい障害は鼻呼吸困難又は嗅覚脱失とされ、両方を満たす必要があります。また、両方を満たす場合でも、外貌の著しい醜状として第7級第12号に当たり得るため、公表基準では上位の等級によるとされています。
鼻の欠損はなく、鼻で息がしにくいだけの場合はどうなりますか。
公表基準は、鼻の機能障害のみを残すもののうち、鼻呼吸困難又は嗅覚脱失について第12級の等級を準用するとしています。自賠責保険では「第12級に相当する」という形で認定されます。どの程度の障害が残っているかを、診察所見と検査結果で示せるかが問題になります。
鼻骨骨折や鼻の変形は「鼻の欠損」に含まれますか。
公表基準は「鼻の欠損」を鼻軟骨部の全部又は大部分の欠損としていますので、骨折、変形、瘢痕は、それだけでは「欠損」に当たりません。変形や瘢痕が外貌の醜状の基準に当たるか、鼻呼吸困難として評価できる機能障害があるかを、別に検討することになります。
鼻の欠損と外貌の醜状は併合されますか。
公表基準は、1つの身体障害に他の身体障害が通常派生する関係にある場合には、いずれか上位の等級によるとしています。そのうえで、鼻の欠損は「外貌の醜状」としてもとらえうるが、耳介の欠損の場合と同様、それぞれの等級を併合することなく、いずれか上位の等級によるとしています。鼻を欠損しその機能に著しい障害を残す場合について、第7級第12号とするという例も示されています。
嗅覚も失った場合、別の等級が加わりますか。
鼻の欠損とあわせて嗅覚脱失がある場合、嗅覚脱失は第9級第5号の「機能に著しい障害」の内容として評価されます。公表基準は、機能障害だけの場合の等級を「鼻の機能障害のみを残すもの」について定めていますので、同じ嗅覚脱失を重ねて評価することは想定されていないと読めます。ただし、この点を正面から述べた公表資料は確認できませんでしたので、認定結果と理由を確認したうえで検討する必要があります。
嗅覚が低下しただけの場合は、どう評価されますか。
公表基準は、嗅覚の減退について第14級の等級を準用するとしています。脱失と減退の区分は、T&Tオルファクトメータによる基準嗅力検査の認知域値の平均嗅覚損失値により、5.6以上を嗅覚脱失、2.6以上5.5以下を嗅覚の減退とするとされています。検査結果に検知域値と認知域値のどちらが記載されているかをご確認ください。
事故の前から鼻炎や副鼻腔炎があった場合は、どう評価されますか。
事故前に鼻の疾患があったことだけで、事故との関係が否定されたり賠償額が当然に減るわけではありません。事故前の状態と事故後の変化を区別して説明できる資料があるかが問題になります。なお、事故前から同じ部位に後遺障害があった場合の「加重」の扱いと、加害者に対する損害賠償の場面で被害者側の事情が考慮されるかどうかは、別の枠組みです。
再建手術を受けた場合、どの時点の状態で評価されますか。
後遺障害は、症状固定時に残っている状態をもとに評価されますので、形成・再建手術を受けた場合には手術後の外観と機能が問題になります。症状固定の時期についても、予定されている手術や回復の見込みを踏まえて主治医と相談する必要があり、「事故から6か月」といった期間だけで決まるものではありません。
この記事のまとめ
- 第9級第5号は、鼻軟骨部の全部又は大部分の欠損と、鼻呼吸困難又は嗅覚脱失の両方を要件としています。鼻骨骨折、変形、瘢痕、鼻づまりは、それだけでは「鼻の欠損」に当たりません。
- 鼻の欠損がなく機能障害だけが残る場合は、鼻呼吸困難・嗅覚脱失が第12級、嗅覚減退が第14級に相当する等級として扱われます。
- 鼻の欠損は外貌の醜状としても評価され得ますが、通常派生する関係にある障害は併合せず、いずれか上位の等級によるとされています。
- 事故前から同じ部位に後遺障害があった場合は「加重」として、既にあった障害の分を控除する扱いになります。
- 等級が決まっても、後遺障害慰謝料や逸失利益の金額が自動的に決まるわけではありません。
- 次の行動としては、後遺障害診断書、画像、検査結果、症状固定時の写真、認定結果の理由の記載を手元に集めて確認することをおすすめします。
神戸市須磨区・垂水区・西区・北区、明石市、加古川市その他の兵庫県内で、鼻の欠損、鼻呼吸の障害、嗅覚の障害が残った交通事故についてお悩みの方へ。後遺障害診断書、画像、検査結果、症状固定時の写真、保険会社から届いた書面を確認することで、鼻の欠損・機能障害・外貌の醜状の評価関係、提出資料の過不足、申請方法の選択、今後の進め方を整理できます。事案により結論は異なりますので、資料を確認したうえで検討します。
交通事故については、初回のご相談は無料です(事前のご予約をお願いしています。法テラスの扶助相談や弁護士費用特約をご利用いただける場合など、ご本人のご負担がない場合には、相談料をお願いすることがあります)。電話相談・オンライン相談・出張相談にも対応しています(出張の場合は出張費用が必要です)。ご事情に応じて、夜間・休日のご相談に対応できる場合があります。
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監修者・執筆者
藤井 貴之(ふじい たかゆき)
弁護士(2013年登録)・公認会計士/兵庫県弁護士会所属・日本公認会計士協会兵庫会所属
弁護士法人ひょうご支所 神戸みらい法律会計事務所 代表弁護士・公認会計士
遺産相続、交通事故、労働、債務整理、企業法務、M&A、事業承継、契約書作成・レビューを取り扱っています。交通事故については、法律の観点に加えて、損害の算定や保険実務の観点も踏まえて対応しています。
所在地:〒654-0154 兵庫県神戸市須磨区中落合2丁目2-5 名谷センタービル7階(神戸市営地下鉄西神・山手線「名谷駅」から徒歩1分)
参考資料(本文で参照した公的資料・公式資料)
- e-Gov法令検索「自動車損害賠償保障法施行令」(デジタル庁)
- e-Gov法令検索「自動車損害賠償保障法」(デジタル庁)
- 障害等級認定基準について(昭和50年9月30日基発第565号)のうち鼻の障害に関する部分(厚生労働省)
- 同基準のうち併合・準用・加重等の基本的事項に関する部分(厚生労働省)
- 外貌障害に係る障害等級の認定基準について(平成23年2月1日基発0201第2号)(厚生労働省)
- 障害(補償)等給付請求書に添付する診断書の様式(厚生労働省)
- 自動車損害賠償責任保険の保険金等及び自動車損害賠償責任共済の共済金等の支払基準(平成13年金融庁・国土交通省告示第1号)
- 自賠責保険・共済の限度額と補償内容(国土交通省)
- 支払までの流れと請求方法(国土交通省)
- 支払に疑問、不服がある場合には(国土交通省)
- 労働能力喪失率表(国土交通省)
- 自動車損害賠償保障法施行令の一部を改正する政令の公布について(外貌の醜状障害)(国土交通省)
- 鼻の病気(一般社団法人日本耳鼻咽喉科頭頸部外科学会)
- 嗅覚障害(兵庫医科大学病院 耳鼻咽喉科・頭頸部外科)
- 嗅覚障害診療ガイドライン(第2版)(日本鼻科学会、日本鼻科学会会誌64巻1号、2025年)
- 鼻腔通気度測定法(Rhinomanometry)ガイドライン(日本鼻科学会、日本鼻科学会会誌40巻4号、2001年)
本記事は、一般的な情報提供を目的としたものであり、個別の事案に対する法的助言を行うものではありません。後遺障害の等級認定及び損害賠償額は、受傷の内容、治療経過、検査結果、症状固定時の状態、既往症その他の個別事情により異なります。実際のご対応にあたっては、最新の法令・公式情報をご確認のうえ、弁護士にご相談ください。記載の内容は作成時点(2026年9月)の情報に基づくものであり、その後の法令改正・基準改定等により変更される場合があります。

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