「役員報酬はそれほど高くないはずなのに、配偶者は自宅の家賃も車も会社に払ってもらって生活していた」「離婚の話になったとたん、会社の経費で落としていた支出が急に見えなくなった」――経営者や会社役員との離婚では、こうした会社経費として処理されている私的な支出の扱いが、財産分与・婚姻費用・養育費のいずれの場面でも問題になります。
会社が負担してきた自宅家賃、車両、保険料、会社カードでの飲食や旅行、交際費などは、家計から見れば生活費に近い性質を持つ一方、会計上・税務上は「会社の経費」として処理されています。この食い違いを、離婚の場面でどう整理するかが本記事のテーマです。
結論から申し上げると、会社経費の私的支出があるからといって、それを直ちに「隠し財産」や「違法」と決めつけることはできません。他方で、「会社の経費として処理されているから、家事事件では収入にも財産にも一切関係しない」と言い切ることもできません。重要なのは、その支出を、会社の債権・役員個人の所得・株式価値・生活費・事業経費のどれに当たるかへ切り分けて確認することです。本記事では、その切り分けの視点と、確認すべき資料、相談のタイミングを整理します。
なお、本記事が扱うのは、あくまで離婚・婚姻費用・養育費・財産分与といった家事事件における扱いです。会社から経営者・役員に対する返還請求(役員責任・横領・背任などの追及)や、税務調査への対応そのものは主題としていません。税務上の詳細な判断は、税理士・公認会計士に確認すべき事項として整理します。
Contents
この記事で分かること
- 経営者の離婚で「会社経費の私的支出」が財産分与・婚姻費用・養育費のどこで問題になるか
- 会社経費として処理されやすい私的支出の典型例(自宅家賃・車両・保険・会社カード・交際費・役員貸付金など)
- 会社財産と経営者個人の財産の区別と、株式価値・会社の債権への反映の考え方
- 役員報酬が低く設定され、会社が生活費を負担している場合の収入認定の考え方
- 「説明できない支出=隠し財産」と決めつけずに、資料を突き合わせて切り分ける方法
- 調停申立て・合意書への署名・離婚届提出の前に確認しておきたい資料と相談のタイミング
会社経費で生活費が支払われている可能性があり、婚姻費用・養育費・財産分与への影響が気になる方へ。神戸みらい法律会計事務所では、弁護士・公認会計士の視点から、決算書や帳簿などの資料を確認したうえで、確認すべき点と見通しを整理します。調停や合意の前に、一度ご相談ください。
結論:会社経費の私的支出は財産分与・婚姻費用・養育費で見方が異なる
最初に全体像を整理します。同じ「会社が負担してきた私的支出」であっても、財産分与で問題になる場面と、婚姻費用・養育費で問題になる場面とでは、見るべきポイントが異なります。
- 財産分与は、婚姻中に夫婦が形成した財産を清算する手続です。会社経費の私的支出は、主に「経営者が保有する株式の価値」や「会社から役員への債権(役員貸付金・仮払金・未収金など)」に反映されているかどうかという形で問題になります。
- 婚姻費用・養育費は、生活費や子の養育に関する継続的な支払能力の問題です。会社経費の私的支出は、「役員報酬という形式的な収入」だけでなく、会社が負担している生活費や経済的な利益を、収入としてどこまで考慮するかという形で問題になります。
重要なポイント
会社経費の私的支出は、財産分与・婚姻費用・養育費で見方が異なります。支出を「会社の債権」「役員個人の所得(経済的利益)」「株式価値」「すでに消費された生活費」「正当な事業経費」のどれに当たるかへ切り分けて検討することが出発点になります。切り分けを飛ばして「隠し財産だ」「いや、会社の経費だから関係ない」と決めつけると、いずれの結論も誤るおそれがあります。
| 確認項目 | 財産分与での主な見方 | 婚姻費用・養育費での主な見方 | 主な確認資料 |
|---|---|---|---|
| 会社負担の自宅家賃・社宅 | 会社の費用か、役員への経済的利益か。株式価値への反映を検討 | 会社負担分を実質的な収入・利益として考慮する余地 | 賃貸借契約書、総勘定元帳、決算書 |
| 会社名義の車両・保険 | 会社資産か個人利用か。会社資産なら直ちに分与対象とは限らない | 私的利用部分を利益として考慮する余地 | 車検証、リース契約書、保険証券 |
| 役員貸付金・仮払金・未収金 | 会社の役員に対する債権として、株式価値や清算に影響し得る | 返済の実体や資金の流れを収入・資産の観点から確認 | 勘定科目内訳明細書、総勘定元帳 |
| 低く設定された役員報酬 | 会社に残った利益・内部留保が株式価値に反映される可能性 | 会社負担の生活費や経済的利益を含めた実質を検討 | 役員報酬明細、源泉徴収票、決算書 |
これらはあくまで検討の出発点であり、結論は資料の内容と個別事情により異なります。以下では、それぞれの場面を順に見ていきます。
なぜ経営者の離婚で会社経費の私的支出が問題になるのか
会社経営者、とりわけ株式の多くを保有する同族会社のオーナーの場合、家計と会社の資金が実際には近い関係にあることが少なくありません。具体的には、次のような状況がよく見られます。
- 役員報酬(給与)はそれほど高く設定されていないのに、実際の生活水準はそれより高い。
- 自宅家賃、車両、保険、会社カードでの飲食・旅行、交際費などを会社が負担しており、個人の預金からの支出が少ない。
- 決算書上の会社の利益、役員報酬の額、家計の実際の支出が、それぞれ一致しない。
このような場合、役員報酬の額や個人名義の預金だけを見ても、その家庭の実際の経済状況は把握できません。そこで、会社が負担してきた支出を、財産分与・婚姻費用・養育費のそれぞれの観点から確認する必要が生じます。逆に、経営者側から見れば、会社経費として処理してきた支出について、事業との関連性や会計処理の合理性を、資料に基づいて説明できるように準備しておくことが重要になります。
会社経費として処理されやすい私的支出の例
実務上、家事事件で確認の対象になりやすいのは、次のような支出です。ただし、これらに当てはまる支出があるからといって、直ちに不正・私的流用と決めつけられるわけではありません。事業に関連する支出であった可能性、福利厚生として合理性がある可能性、会計処理上の区分の問題にとどまる可能性もあり、資料を確認したうえで評価する必要があります。
- 会社負担の自宅家賃、社宅・役員社宅の利用
- 会社名義の車両、ガソリン代、駐車場代、リース料
- 生命保険、医療保険、損害保険の保険料
- 会社カードでの飲食、旅行、買物
- 交際費、会議費、福利厚生費
- 家族も利用している通信費、携帯電話、パソコン、各種サブスクリプション
- 会社から役員への貸付金、仮払金、立替金、未収入金
- 役員報酬を低く抑え、会社に利益や内部留保を残している場合
税務の観点では、会社が役員個人のために負担した費用や、無償・低額での資産の提供、無利息・低利での貸付けなどは、役員に対する「経済的利益」(役員給与に類するもの)と評価されることがあります(国税庁の取扱いによる)。もっとも、税務上の経費性や役員給与の判断と、家事事件における収入認定・財産評価は、常に一致するわけではありません。税務上の詳細な判断は税理士・公認会計士に確認すべき事項として、本記事では家事事件に必要な範囲にとどめて整理します。
財産分与での扱い
財産分与は、婚姻中に夫婦が協力して形成した財産を清算する手続です(民法768条。裁判上の離婚にも準用されます―民法771条)。会社経営者の離婚では、「会社の財産」と「経営者個人の財産」を混同しないことが出発点になります。
会社名義の資産は直ちに夫婦共有の財産とは限らない
会社は、経営者個人とは別の法人格を持ちます。そのため、会社名義の預金、車両、不動産、保険などは、それ自体が当然に夫婦で分けるべき共有財産になるわけではありません。他方で、経営者が保有するその会社の株式(持分)の価値は、婚姻中に形成された財産として、財産分与で考慮され得ます。会社経費の私的支出は、この株式価値や、会社が役員に対して持つ債権を通じて、間接的に財産分与に影響することがあります。
会社経費の私的支出が反映され得る先
会社経費として処理された私的支出は、その後の会計上の扱いによって、次のいずれかに整理される可能性があります。どこに反映されているかによって、財産分与での意味合いが変わります。
- 会社から役員への債権(役員貸付金・仮払金・立替金・未収金など)として残っている場合は、会社が経営者に対して持つ債権として、株式価値の算定や清算の場面で問題になり得ます。
- 会社の利益・純資産に残っている場合は、株式の評価に影響し得ます。
- すでに消費された生活費であり、財産としては残っていない場合もあります。
なお、株式そのものが財産分与の対象になるか、非上場株式(自社株)をどのように評価するかは、それ自体が専門的な検討を要する論点です。自社株の評価方法や評価時点、分割の方法については、別記事「中小企業オーナーの熟年離婚と非上場株式の評価と財産分与」で解説していますので、あわせてご確認ください。本記事では、会社経費の私的支出そのものの整理に絞って説明します。
「説明できない支出=隠し財産」と決めつけない
調査の過程で、使途を説明しにくい出金が見つかることがあります。しかし、そうした支出を直ちに「隠し財産」と断定することはできません。前述のとおり、会社経費・福利厚生・役員給与(経済的利益)・貸付金・立替金・正当な事業関連支出など、複数の可能性があるためです。逆に、形式的には経費として処理されていても、事業との関連性が乏しい支出であれば、家事事件で収入や財産の観点から評価される余地があります。いずれにせよ、決算書、総勘定元帳、勘定科目内訳明細書、法人の預金通帳、会社カードの明細、領収書、議事録、税務処理などを突き合わせて確認する作業が必要です。
財産分与を請求できる期間(2年から5年へ)と考慮要素の明確化
財産分与には、請求できる期間の制限があります。令和6年の民法改正(令和6年法律第33号。令和8年4月1日施行)により、この期間は離婚のときから原則として5年に延長されました。改正前は原則2年であり、法務省の説明によれば、令和8年3月31日以前に離婚した場合は従前どおり2年とされています。過去に離婚が成立している場合など、どちらの期間が適用されるかは離婚の時期により異なるため、期間の管理には注意が必要です。
また、同じ改正により、財産分与で考慮すべき事情(婚姻中に取得・維持した財産の額、その取得・維持についての各当事者の寄与の程度、婚姻の期間、生活水準など)が明文化され、寄与の程度は原則として夫婦が対等(2分の1ずつ)であることが示されています。会社経費の私的支出をめぐる主張も、こうした考慮要素の枠組みの中で整理されることになります。もっとも、具体的な分与の割合や対象は個別事情により異なります。
会社の決算書や帳簿を確認したうえで、会社経費の私的支出が財産分与にどう影響し得るかを整理することができます。合意書に署名する前に、資料を持って一度ご確認ください。
婚姻費用・養育費での扱い
婚姻費用(別居中の生活費)は民法760条、離婚後の子の養育費は民法766条を根拠とする支払です。金額の検討では、家庭裁判所の実務で用いられている養育費・婚姻費用の算定表(令和元年に改定された標準算定方式・算定表)が一つの目安になります。
出発点は収入資料と算定表
算定表は、原則として、双方の収入額を当てはめて標準的な金額の目安を得るためのものです。収入資料としては、給与所得者であれば源泉徴収票や給与明細、自営業者や会社役員であれば確定申告書や課税証明書などが用いられます。もっとも、算定表の金額が機械的にそのまま結論になるわけではなく、個別の事情によって修正され得ることに注意が必要です。
会社役員・同族会社経営者の収入の見方
問題となりやすいのは、会社役員や同族会社の経営者の「収入」をどう読むかです。役員報酬の額面だけを見ると収入が低く見える場合でも、会社が自宅家賃・車両・保険料などの生活費を負担していたり、役員に対する経済的利益が継続的に提供されていたりすることがあります。こうした会社負担分を、実質的な収入・経済的利益として、婚姻費用・養育費の算定でどこまで考慮するかが検討の対象になります。
役員報酬が低く、会社が生活費を負担している場合
役員報酬が低く抑えられている一方で、会社が生活費の相当部分を負担している場合、形式的な報酬額のみを前提とすると、実際の生活実態と合わない結果になりかねません。そのため、会社負担の支出を収入としてどの程度反映するかが問題になります。もっとも、どこまで反映するかは、その支出の性質、事業との関連性、継続性、家計への寄与の程度、会計・税務上の処理、資料の有無などによって異なり、一律に決まるものではありません。会社の利益がそのまま経営者個人の自由に使える収入になるわけではない点にも注意が必要です。会社の資金繰り、借入れ、事業継続の必要性なども踏まえて検討されます。
収入認定の具体的な判断は、資料の内容と個別事情により大きく変わります。会社負担の支出を収入としてどこまで考慮するかについて、確立した計算式が一律にあるわけではありません。会社資料と個人の収入資料を整理したうえで、見通しを個別に検討する必要があります。
令和6年改正で新設された制度(法定養育費・先取特権)
令和6年の民法改正(令和8年4月1日施行)では、養育費に関する制度も新設されました。離婚の際に養育費の取決めをしていなくても、一定の要件のもとで暫定的に養育費(子1人当たり月額2万円を標準とする法定養育費)を請求できる制度や、養育費債権に先取特権を認め、一定の要件のもとで差押えの手続を申し立てやすくする制度が導入されています(先取特権の上限は子1人当たり月額8万円とされています)。これらの制度には施行日前の離婚等に関する経過措置があり、適用の可否は事案によって異なります。詳細や自分のケースへの当てはめは、個別に確認する必要があります。
財産分与と婚姻費用・養育費の違い(同じ支出でも見方が変わる)
ここまで見てきたとおり、同じ「会社経費の私的支出」でも、財産分与と婚姻費用・養育費とでは、着目するポイントが異なります。整理すると次のとおりです。
| 観点 | 財産分与 | 婚姻費用・養育費 |
|---|---|---|
| 問題の性質 | 婚姻中に形成した財産の清算 | 収入に応じた生活費・扶養の継続的な負担 |
| 会社経費の私的支出の主な位置づけ | 株式価値・会社の債権(役員貸付金など)への反映 | 役員報酬に加えた実質的な収入・経済的利益 |
| 主に見るポイント | 会社資産・株式・債権として何が残っているか | 会社負担分を含めた実際の支払能力・生活水準 |
| 時間的な性質 | 基準時における財産の清算(一回的) | 継続的な支払(別居中・離婚後) |
同じ決算書や帳簿を見ても、財産分与では「財産として何が残っているか」を、婚姻費用・養育費では「実際の支払能力はどの程度か」を確認することになります。資料は共通でも、読み方の目的が異なる点が、経営者の離婚の特徴です。
よく問題になる支出別の整理
会社経費の私的支出のうち、家事事件で確認の対象になりやすいものを、支出の種類ごとに整理します。いずれも、私的利用かどうか、会計上どの科目で処理されているかを資料で確認することが前提です。
| 支出項目 | よくある問題 | 家事事件での主な整理 | 確認資料・注意点 |
|---|---|---|---|
| 自宅家賃・社宅 | 会社が自宅の家賃を負担している | 会社負担分を実質的な収入・利益として考慮する余地。社宅制度の合理性も確認 | 賃貸借契約書、社宅規程、総勘定元帳 |
| 車両関係費 | 会社名義の車を家庭でも使っている | 会社資産か個人利用か。私的利用部分の評価 | 車検証、リース契約書、ガソリン・駐車場の明細 |
| 保険料 | 生命保険・医療保険を会社が払っている | 契約者・被保険者・受取人の別により、資産性や利益性を確認 | 保険証券、解約返戻金の資料 |
| 会社カード利用 | 飲食・買物を会社カードで決済している | 事業関連性の有無。私的利用分の性質を確認 | カード利用明細、領収書、経費精算資料 |
| 旅行費 | 家族旅行を会社の費用で処理している | 事業目的か私的利用か。私的利用分の評価 | 旅程表、請求書、稟議・議事録 |
| 交際費 | 交際費の中に私的支出が含まれている | 事業関連性の有無。私的利用分の性質を確認 | 総勘定元帳、領収書、相手先の記録 |
| 通信費 | 家族の携帯・通信費を会社が負担 | 私的利用部分を利益として考慮する余地 | 契約書、利用明細 |
| 役員貸付金・仮払金 | 精算されないまま残高が増えている | 会社の役員に対する債権として、株式価値・清算に影響し得る | 勘定科目内訳明細書、総勘定元帳、金銭消費貸借契約書 |
会社の債権・役員の所得・株価への反映の切り分け
会社経費の私的支出を家事事件で検討する際は、その支出が会計・税務上どのように処理されているかによって、意味合いが変わります。資料上どの勘定科目で処理されているかを確認したうえで、次のように切り分けて考えることが有益です。
| 資料上の処理 | 考えられる整理 | 財産分与への影響 | 婚姻費用・養育費への影響 | 確認ポイント |
|---|---|---|---|---|
| 役員貸付金として計上 | 会社から役員への貸付債権 | 会社の債権として株式価値・清算に影響し得る | 返済の実体・資金の流れを確認 | 貸付契約、返済状況、残高推移 |
| 仮払金・立替金・未収金として計上 | 精算が予定される一時的な処理 | 残高の性質により債権として影響し得る | 実質が生活費補助か否かを確認 | 精算の有無、相手勘定、期間 |
| 役員給与・経済的利益として処理 | 役員個人への所得・利益 | すでに個人へ移転していれば個人財産の問題 | 実質的な収入・利益として考慮の余地 | 源泉徴収の状況、継続性 |
| 経費(損金)として処理(私的利用の疑い) | 事業経費か私的支出かが争点 | 私的利用分は評価の対象になり得る | 私的利用分は収入・利益の観点で検討 | 事業関連性、証憑、金額 |
| 会社の利益・純資産に残存 | 会社内部に留保 | 株式の評価に影響し得る | 直ちに個人の収入とはいえない | 純資産、内部留保、株式保有割合 |
| すでに費消され残存なし | 生活費等として消費済み | 財産としては残っていない場合がある | 過去の生活水準の資料になり得る | 使途、時期、家計への寄与 |
役員報酬を低くして会社利益を増やしている場合
役員報酬を低く設定し、その分だけ会社に利益や内部留保を残しているケースがあります。この場合、婚姻費用・養育費の場面では、形式的な役員報酬だけでなく、会社が負担している生活費や経済的利益を含めて、実質的な支払能力を検討することが問題になり得ます。財産分与の場面では、会社に残った利益や内部留保が、経営者の保有する株式の価値に反映される可能性があります。
もっとも、会社の利益がそのまま経営者個人の自由になるわけではありません。会社の資金繰り、借入れの返済、事業継続に必要な資金、税務上の処理、株式の保有割合などによって、結論は変わります。役員報酬の水準や会社利益の扱いを一面的にとらえるのではなく、会社全体の資料を踏まえて検討する必要があります。
資料確認・突合のチェックリスト
会社経費の私的支出を整理するには、家計の資料だけでなく、会社の会計資料を突き合わせて確認することが有益です。相談の際に、次のような資料が手元にあると、事実関係の整理や見通しの検討が進みやすくなります。すべてがそろっていなくても、相談を始めることはできます。
- 法人の預金通帳、入出金明細
- 会社カードの利用明細
- 領収書、請求書
- 総勘定元帳、補助元帳
- 試算表
- 決算書(貸借対照表・損益計算書)
- 勘定科目内訳明細書
- 法人税・所得税の申告書
- 役員報酬明細、源泉徴収票
- 所得証明書(課税証明書)
- 株主名簿、定款
- 取締役会議事録・株主総会議事録
- 保険証券
- 車検証・リース契約書などの車両関係資料
- 賃貸借契約書、社宅規程
- 税理士が作成した資料
会社資料の取得方法には注意が必要です。本記事は、相手方の会社パソコン、メール、クラウド、会計ソフト、会社カードの明細、通帳、税務資料などへ無断でアクセスしたり、無断で持ち出したりすることをすすめるものではありません。違法・不適切な方法で取得した資料は、後の交渉や手続で利用に支障が生じるだけでなく、かえって責任を問われる原因にもなりかねません。どの資料を、どのような方法で取得・提出すべきかに迷う場合は、資料を集める前に弁護士に確認してください。
弁護士に相談するタイミング
次のような場面では、早めに弁護士に相談することで、確認すべき点と対応方針を整理しやすくなります。結果を保証するものではありませんが、資料を確認したうえで、財産分与・婚姻費用・養育費のそれぞれについて見通しを検討することができます。
- 調停や離婚協議を始める前に、会社経費や会社資産の扱いを整理しておきたいとき
- 相手方から収入資料(源泉徴収票・確定申告書など)が提示され、内容の読み方に迷うとき
- 役員報酬が低い一方で、生活は会社の負担でまかなわれているように見えるとき
- 会社カードや役員貸付金などの会社経費の説明に疑問があるとき
- 婚姻費用・養育費の金額に争いがあるとき
- 合意書・離婚協議書に署名する前、離婚届を提出する前
- 会社資料の取得・提出の方法に迷うとき
- 経営者本人として、会社経費の処理を離婚事件でどう説明すべきか整理したいとき
よくある質問(FAQ)
会社経費で自宅家賃を払っている場合、婚姻費用や養育費に影響しますか?
影響する場合があります。役員報酬が低くても、会社が家賃などの生活費を負担している場合には、会社負担分を実質的な収入・経済的利益として考慮する余地があります。もっとも、どこまで反映するかは支出の性質や資料により異なり、一律には決まりません。個別事情により結論は変わります。
会社名義の車や自宅は財産分与の対象になりますか?
会社名義の資産は、それ自体が当然に夫婦共有の財産になるわけではありません。ただし、経営者が保有する株式の価値や、会社から役員への債権を通じて、間接的に財産分与で問題になることがあります。会社資産か個人の財産かを資料で切り分けて確認する必要があります。
役員報酬が低い場合、婚姻費用や養育費も低くなりますか?
役員報酬の額面だけで決まるとは限りません。会社が生活費を負担している場合や、継続的な経済的利益がある場合には、これらを含めた実質的な支払能力が検討され得ます。反映の程度は資料と個別事情によります。
会社カードの私的利用は「隠し財産」になりますか?
私的利用があるからといって、直ちに隠し財産と決めつけることはできません。事業関連性のある支出、経済的利益、貸付金など複数の可能性があり、資料を突き合わせて切り分ける必要があります。他方で、事業と無関係な支出であれば、家事事件で評価の対象になる余地はあります。
会社の利益や内部留保は、経営者個人の財産として分けられますか?
会社の利益は、そのまま経営者個人の財産になるわけではありません。ただし、会社に残った利益や純資産は、経営者が保有する株式の価値に反映される形で、財産分与の検討に関係することがあります。株式の評価は個別の検討を要します。
役員貸付金や仮払金は離婚でどう扱われますか?
役員貸付金や仮払金は、会社が役員に対して持つ債権として整理される場合があり、株式価値の算定や清算に影響し得ます。返済の実体があるか、生活費の補助に近い実質か、どの勘定科目で処理されているかを確認することが重要です。
経営者側は、会社経費の処理をどう説明すればよいですか?
事業との関連性や会計処理の合理性を、決算書・帳簿・証憑などの資料に基づいて説明できるように整理しておくことが有益です。私的支出と事業支出の区分、役員貸付金の返済計画などを資料で示せると、無用な誤解を避けやすくなります。個別の説明方針は資料を確認したうえで検討します。
相手(配偶者)の会社の資料を勝手に取得してもよいですか?
無断でのアクセスや持ち出しは避けるべきです。違法・不適切に取得した資料は、後の手続で利用に支障が生じるだけでなく、かえって責任を問われる原因にもなりかねません。どの資料をどのような方法で取得・提出すべきかは、事前に弁護士に確認してください。
まとめ
経営者の離婚における会社経費の私的支出の扱いについて、要点を整理します。
- 会社経費の私的支出は、財産分与・婚姻費用・養育費で見方が異なる。
- 財産分与では、株式価値や会社の債権(役員貸付金など)への反映が問題になる。
- 婚姻費用・養育費では、役員報酬に加えて会社負担の生活費・経済的利益を含めた実質的な支払能力が問題になり得る。
- 「説明できない支出=隠し財産」と断定せず、また「会社経費だから家事事件に無関係」とも断定せず、会社の債権・役員の所得・株式価値・生活費・事業経費のどれに当たるかへ切り分ける。
- 財産分与の請求期間は、令和6年改正により離婚のときから原則5年に延長された(施行日前の離婚には経過措置がある)。
- 会社資料と個人の収入資料を突き合わせて確認することが有益であり、資料の取得方法には注意が必要である。
- 次の行動として、手元の資料を整理したうえで、調停申立て・合意・離婚届提出の前に相談を検討する。
神戸市・兵庫県周辺で、経営者・会社役員との離婚における会社経費や会社資産の扱いにお悩みの方へ。神戸みらい法律会計事務所では、弁護士・公認会計士の視点から、決算書・帳簿などの会社資料と個人の収入資料を確認したうえで、財産分与・婚姻費用・養育費で問題となる点と見通しを整理します。調停申立て・合意書への署名・離婚届の提出の前に、一度ご相談ください。
お電話でのご予約:078-797-5227(受付時間 9:00〜20:00)
監修者・執筆者
藤井 貴之(ふじい たかゆき)
代表弁護士・公認会計士/兵庫県弁護士会・日本公認会計士協会兵庫会所属
神戸みらい法律会計事務所
企業法務、事業承継、会計に関する取扱いを踏まえ、会社の決算書・帳簿を確認しながら、財産分与や婚姻費用・養育費で問題となる会社経費・役員報酬・会社資産の整理を、弁護士と公認会計士の双方の視点から検討します。会社の資料と個人の収入資料を突き合わせ、確認すべき点と対応方針の整理をお手伝いします。
参考資料
本記事は、一般的な情報提供を目的としたものであり、個別の事案に対する法的助言・税務助言を行うものではありません。会社経費の私的支出の評価、財産分与・婚姻費用・養育費における扱い、収入認定、株式の評価、税務上の取扱いは、資料の内容と個別の事情により結論が異なります。実際のご対応にあたっては、最新の法令・公式情報をご確認のうえ、弁護士にご相談ください。記載の内容は作成時点(2026年7月)の情報に基づくものであり、その後の法改正等により変更される場合があります。

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