阪神・淡路大震災のあと、生活の立て直しのために「災害援護資金」を借りた世帯は少なくありません。当時から長い年月が経ったいまでも、「返済が残っていると通知が届いた」「亡くなった親が借りていたらしい」「保証人になっていたかもしれない」といったご相談があります。
災害援護資金は、条件を満たせば返済の免除を受けられる場合がある一方で、免除・破産・相続放棄はそれぞれ別の制度であり、扱いを取り違えると不利な対応をしてしまうことがあります。この記事では、通知を受け取った方が、支払や署名をする前に確認しておきたいポイントを、借受人・保証人・相続人の立場ごとに整理します。
この記事は一般的な情報の整理です。免除の可否や返済義務の有無は、通知の内容、借入時の契約、過去の破産・相続放棄の有無、自治体の運用などにより結論が変わります。個別の判断は、資料を確認したうえで行う必要があります。
「支払ってよいのか」「署名してよいのか」で迷ったら、書類を確認したうえで方針を整理できます。
Contents
まず確認したいこと|立場によって注意点が変わります
災害援護資金の通知を受け取ったとき、最初にはっきりさせたいのは「自分がどの立場か」です。借受人本人・保証人・相続人のどれに当たるかで、確認すべきことが変わります。
| あなたの立場 | まず確認したいこと |
|---|---|
| 借受人本人 | 残額の内訳、免除・支払猶予・分納の対象か、過去に破産・個人再生をしていないか、免除申請ができる状況か |
| 保証人(連帯保証人) | 本当に保証人になっているか、主債務者(借受人)の状況、保証債権が放棄・免除の対象になっていないか |
| 借受人の相続人 | 借受人が亡くなっているか、相続放棄・限定承認を検討すべきか、その期限、支払・財産処分をしてよいか |
| 保証人の相続人 | 保証人が亡くなっているか、保証債務を承継しているか、相続放棄を検討すべきか |
共通して大切なのは、通知が届いても、その場で支払・分割の合意・署名をする前に、まず内容を確認することです。一部を支払ったり書類に署名したりすると、後の選択肢が狭まることがあります。
災害援護資金とはどのような制度か
災害援護資金は、災害弔慰金の支給等に関する法律(以下「災害弔慰金法」といいます)にもとづき、自然災害で世帯主が負傷したり、住居・家財に被害を受けたりした所得が一定以下の世帯に対して、市町村が生活の立て直しのための資金を貸し付ける制度です。貸付限度額は最大350万円、償還期間は10年(据置期間を含む)とされています。
給付金・義援金との違い
災害援護資金は「貸付金」であり、返済を前提とする点で、返済不要の義援金や給付金とは性質が異なります。だからこそ、時間が経ってから「未返済分が残っている」という形で問題になります。
阪神・淡路大震災当時と現在の制度の違い
災害援護資金の制度は、その後の法改正で内容が見直されています。とくに令和元年(2019年)の改正では、返済が困難な被災者への対応として、免除に関する仕組みが拡充されました。
また、利率や保証人の要否などの貸付条件も、災害の時期や自治体によって異なります。神戸市が現在案内している貸付条件(利率など)と、阪神・淡路大震災当時にご自身が借りた条件は同じとは限りません。実際の条件は、当時の貸付決定通知や契約書で確認する必要があります。
「今の制度ではこうだから、自分の場合もこうなるはず」と考えるのは危険です。ご自身の借入がいつの災害に係るもので、どの条件で貸し付けられたかを、手元の書類で確認してください。
「返済が残っている」と言われたら最初に確認すること
通知や督促を受け取ったら、次の点を書類で確認することをおすすめします。口頭の説明だけで判断せず、根拠となる資料を手元にそろえることが出発点です。
- 誰が借受人か(世帯主は誰だったか)
- 誰が保証人(連帯保証人)か
- 通知・督促の差出人はどこか(市区町村か、委託先か)
- 請求額の内訳(元本・利息・延滞に係る違約金など)
- 免除・債権放棄・支払猶予・分割納付の対象になっていないか
- 過去に破産・個人再生・相続放棄・限定承認・任意整理をしていないか
- 自治体から免除や債権放棄の通知を受けていないか
時効に関する判断は、支払・督促・承認などの経緯によって結論が変わり、安易に「もう時効だから払わなくてよい」とは言えません。時効を主張できるかどうかは、資料を確認したうえで慎重に検討する必要があります。
免除・債権放棄の対象になる場合の確認ポイント
災害援護資金には、一定の場合に返済の免除を受けられる仕組みがあります。ただし「必ず免除される」わけではなく、要件の確認と、多くの場合は申請が必要です。
災害弔慰金法にもとづく償還免除(死亡・障害・破産等)
災害弔慰金法第14条は、災害援護資金を借りた方について、次のような場合に、償還未済額の全部または一部の償還を免除できると定めています。
- 借受人が死亡したとき
- 精神または身体に著しい障害を受けて償還できなくなったと認められるとき
- 破産手続開始の決定または再生手続開始の決定を受けたとき
このうち「破産手続開始の決定または再生手続開始の決定を受けたとき」は、令和元年改正で加えられたものです。ただし、報告を求められて正当な理由なく報告しない場合や、保証人が償還できると認められる場合などは、免除の対象外とされることがあります。免除は自動ではなく、要件の確認を前提とする制度である点に注意が必要です。
低所得による免除(内閣府令が定める基準)
阪神・淡路大震災のように、被災者生活再建支援法が制定される前に生じた災害に係る災害援護資金については、令和元年改正により、借受人の収入・資産の状況から償還が著しく困難と認められる場合として内閣府令で定める場合に、償還未済額の免除ができることとされました。
この免除を受けるには、内閣府令が定める所得基準・資産基準を満たしたうえで、市区町村への申請が必要です。基準の具体的な内容や必要書類は自治体の案内で確認してください。ご自身が基準に当てはまるかどうかは、所得・資産の資料を確認したうえで判断することになります。
神戸市での免除・債権放棄の経緯と個別確認の必要性
神戸市では、阪神・淡路大震災に係る災害援護資金について、返済が長期化する中で、一定の要件を満たす方の償還免除や、保証人に対する債権放棄が進められてきた経緯があります。もっとも、その対象となる債権の範囲、基準、通知の有無、対象外となる事情は、個別の状況によって異なります。
「神戸市では放棄されたと聞いた」という情報だけで、ご自身の債務も当然に消えていると考えることはできません。ご自身に免除・放棄の通知が届いているか、対象になっているかは、神戸市の担当窓口や通知の内容で確認する必要があります。神戸市以外の自治体については、それぞれの自治体の運用・通知内容の確認が必要です。
破産・免責との関係で注意すること
「破産すれば災害援護資金も当然に消える」と考えるのは早計です。破産手続と自治体の免除制度は別の制度であり、扱いを混同しないことが大切です。
これから自己破産・個人再生を検討している場合
自己破産や個人再生を検討する場合、災害援護資金を含めて、どのような債務があるかを漏れなく把握し、債権者一覧に記載すべきものがないかを確認する必要があります。破産手続開始の決定や再生手続開始の決定を受けたことは、前述のとおり自治体による償還免除の検討につながり得ますが、その手続と免除の申請・要件は別に確認する必要があります。
過去に破産・免責を受けている場合
過去に破産・免責を受けたのに通知が届くことがあります。この場合は、当時の破産手続で災害援護資金を債権者一覧に記載していたか、自治体が把握していたか、免責許可決定が確定しているかなどを確認する必要があります。
なお、免責許可決定が確定しても、法律上、一部の債権は免責の対象外(非免責債権)とされています。災害援護資金の償還債権がこの非免責債権に当たるかどうかは、その債権の性質などによって結論が変わり得るため、当時の資料を確認したうえで慎重に検討する必要があります。
保証人・相続人への影響
借受人本人が破産したからといって、保証人や相続人の立場が機械的に決まるわけではありません。保証人がどのような責任を負うか、相続人にどのような影響が及ぶかは、契約内容や手続の経緯、自治体の対応によって変わります。保証人・相続人の立場で通知を受けた場合も、まず資料を確認することが重要です。
相続人・保証人が注意すべきこと
相続放棄・限定承認・単純承認の違い
相続が始まると、相続人は次の三つのいずれかを選ぶことになります。
| 選択肢 | 内容 |
|---|---|
| 単純承認 | プラスの財産も借金などの義務も、すべて受け継ぐ |
| 相続放棄 | 財産も義務も一切受け継がない(家庭裁判所への申述が必要) |
| 限定承認 | 相続で得た財産の限度で債務を受け継ぐ(家庭裁判所への申述が必要) |
相続放棄と限定承認は、家庭裁判所に申述をする必要があります。自治体に「相続放棄します」と伝えるだけでは足りません。とくに限定承認は、共同相続人の全員が共同して行う必要があり、手続も複雑なため、進める前に確認が必要です。
相続放棄の期限(いつから数えるか)
相続放棄は、民法により「自己のために相続の開始があったことを知った時から3か月以内」に家庭裁判所へ申述しなければならないとされています。これは、必ずしも被相続人が亡くなった日から3か月という意味ではありません。もっとも、期限の考え方は事案によって異なり、通知を受け取った時点ですでに期間が問題になっていることもあります。
3か月以内に判断が難しい場合には、家庭裁判所に「相続の承認又は放棄の期間の伸長」を申し立てて、期間を延ばせる場合があります。期限が近い、または過ぎているかもしれないと感じたら、早めに確認することをおすすめします。
支払・署名の前に気をつけたいこと
相続人が被相続人の財産を処分したり、相続財産から支払をしたりすると、単純承認をしたものとみなされ(法定単純承認)、その後の相続放棄ができなくなることがあります。「とりあえず一部を払っておこう」「督促が来たので相続財産から支払おう」という対応が、選択肢を狭めてしまう可能性があります。
相続放棄を検討する可能性があるなら、被相続人の財産に手をつける前、支払や署名をする前に、相続放棄ができる状況かどうかを確認することが大切です。
保証債務は相続の対象になることがある
災害援護資金の保証人(連帯保証人)が亡くなった場合、その保証債務が相続の対象となり、保証人の相続人が承継することがあります。「保証人だった親が亡くなったが、自分には関係ない」と考える前に、保証債務を承継しているか、相続放棄を検討すべきかを確認する必要があります。
相続放棄の期限や保証債務の有無が不安なときは、戸籍や通知などの資料を確認したうえで、取り得る選択肢を整理できます。
よくある場面と一般的な注意点
次のような場面は、いずれも「まず資料を確認する」ことが出発点になります。ここでは一般的な注意点として整理します。
| 場面 | 一般的な注意点 |
|---|---|
| 自治体から突然通知が届いた | 差出人・請求額の内訳・対象者を確認し、支払や署名の前に内容を確認する |
| 親が借りていた資金の請求が来た | 相続関係と相続放棄の可否・期限を確認する。支払・財産処分は慎重に |
| 保証人だった親が亡くなった | 保証債務を承継しているか、相続放棄を検討すべきかを確認する |
| 自分は借りていないのに請求された | 保証人・相続人としての請求か、対象者の誤りがないかを確認する |
| 過去に破産したのに通知が届いた | 当時の債権者一覧への記載・免責の範囲・債権の性質を確認する |
| 相続放棄の期限が過ぎたかもしれない | 起算点の考え方を確認する。事案により対応できる場合もある |
| 分割払いの書類に署名してよいか迷う | 署名が債務の承認や選択肢の制限につながらないかを確認する |
手続の前に確認したい資料チェックリスト
相談や手続の前に、次のような資料をそろえておくと、状況の確認と方針の整理がしやすくなります。必要な資料は事案によって異なるため、すべてが必須というわけではありません。手元にあるものから準備してください。
- 自治体から届いた通知書・督促状・照会書
- 納付書・分納誓約書・回答書・免除申請書
- 災害援護資金の貸付決定通知・契約書・借用書
- 借受人・保証人・相続人が分かる資料、戸籍謄本・除籍謄本・住民票・法定相続情報一覧図
- 相続放棄申述受理通知書・相続放棄申述受理証明書(相続放棄をした場合)
- 過去の破産申立書・債権者一覧表・免責許可決定書・確定証明書、個人再生の再生計画認可決定書
- 過去の支払履歴・通帳・領収書、自治体とのやり取りの記録
- 収入・資産の状況が分かる資料(所得証明、固定資産税の通知、預貯金の残高など)
免除の申請を検討する場合、所得・資産の資料が必要になることがあります。どの資料が必要かは、免除の種類や自治体の運用によって異なります。
弁護士に相談するタイミング
弁護士への相談は「必ず解決する」ためのものではなく、資料を確認したうえで、取り得る選択肢と対応方針を整理するためのものです。次のような場面では、早めの確認が選択肢の確保につながります。
- 自治体から通知・督促・照会書が届いたとき
- 相続人または保証人として請求を受けたとき
- 相続放棄の期限が近い、または過ぎているかもしれないとき
- 自己破産・個人再生・任意整理を検討しているとき
- 支払・分割・誓約書・回答書への署名の前
- 他の借入・税金・相続債務も含めて整理が必要なとき
債務整理や相続の観点から、災害援護資金の通知への対応を一緒に整理できます。費用の目安や相談の流れもあわせてご確認ください。
よくある質問
- 阪神・淡路大震災の災害援護資金は、今からでも免除されますか?
- 一定の要件を満たす場合、免除の対象となる可能性があります。ただし自動ではなく、多くの場合は申請と要件の確認が必要です。対象になるかどうかは、通知の内容や所得・資産の状況を確認したうえで判断することになります。
- 神戸市から通知が届いたら、まず何を確認すべきですか?
- 差出人、請求額の内訳、対象者(誰の債務か)、免除・債権放棄・支払猶予の対象になっていないかを、書類で確認することをおすすめします。その場で支払や署名をする前に、内容を確認してください。
- 自己破産をすれば災害援護資金は免責されますか?
- 免責の対象になるかどうかは、その債権の性質などにより結論が変わり得ます。破産手続開始の決定を受けたことは自治体による免除の検討につながる場合がありますが、破産免責と自治体の免除は別の制度です。当時の資料を確認したうえで検討する必要があります。
- 借受人が亡くなった場合、相続人が支払う必要がありますか?
- 相続の仕方によって異なります。単純承認をすれば債務を受け継ぎますが、相続放棄や限定承認により結論が変わることがあります。相続放棄には期限があるため、早めの確認が重要です。
- 保証人や保証人の相続人に請求されることはありますか?
- 保証人は保証債務を負う場合があり、保証人が亡くなった場合はその相続人が保証債務を承継することがあります。ただし、債権が放棄・免除の対象になっていることもあるため、通知の内容と契約を確認する必要があります。
- 相続放棄をすれば災害援護資金の請求を避けられますか?
- 相続放棄が認められれば、その債務を受け継がないことになります。ただし、家庭裁判所への申述が必要で、期限があります。財産の処分や支払により相続放棄ができなくなることもあるため、事前の確認が大切です。
- 分割払いの書類に署名してもよいですか?
- 署名や一部の支払が、債務の承認や、相続放棄など後の選択肢の制限につながることがあります。署名の前に、その書類の意味と影響を確認することをおすすめします。
- 相談時にはどの資料を持参すればよいですか?
- 通知書・督促状、貸付決定通知や契約書、戸籍関係の資料、過去の破産・相続放棄に関する資料などがあると確認がスムーズです。手元にあるものからで構いません。必要な資料は事案により異なります。
まとめ|通知が届いたら、支払・署名の前に確認を
- まず「自分は借受人・保証人・相続人のどれか」を確認する
- 免除・破産・相続放棄は別の制度。取り違えないように整理する
- 免除は自動ではなく、要件の確認や申請が必要な場合がある
- 神戸市での免除・債権放棄は、対象・通知の有無を個別に確認する
- 相続放棄には期限がある。財産の処分・支払は慎重に
- 支払・分割・署名の前に、資料を確認して選択肢を整理する
災害援護資金の通知にどう対応すべきか、債務整理・相続の観点から資料を確認したうえで方針を整理します。まずはお気軽にご相談ください。
この記事の監修者
藤井 貴之(ふじい たかゆき)弁護士・公認会計士
兵庫県弁護士会所属
弁護士法人ひょうご支所 神戸みらい法律会計事務所
交通事故、相続、離婚・男女問題、債務整理、企業法務などに対応しています。災害援護資金に関するご相談についても、通知書や契約書などの資料を確認したうえで、対応方針を整理します。

24時間365日受付