「自己破産をすれば、借金はすべてなくなる」と考えている方は少なくありません。しかし、自己破産で免責許可決定が確定しても、税金や養育費、一定の損害賠償、罰金などは「非免責債権(ひめんせきさいけん)」として支払義務が残る場合があります。これを知らずに手続を進めると、破産後に予想外の支払いが残り、生活の立て直しがうまくいかないこともあります。
この記事では、自己破産を検討している方に向けて、破産法第253条が定める非免責債権の種類を整理し、税金・養育費・損害賠償・罰金などが破産後にどう扱われるのか、そして申立て前にどのような資料を準備し、いつ弁護士に相談すべきかを解説します。結論を先にお伝えすると、自己破産には「残る支払い」と「整理できる借金」があり、両者を分けて把握することが、手続を選ぶ第一歩になります。
何が残り、何を整理できるのかは、契約書や通知書などの資料を確認したうえで判断する必要があります。ご自身のケースを整理したい方は、まず資料をそろえてご相談ください。
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「自己破産=借金ゼロ」ではない(結論と全体像)
自己破産は、財産を清算したうえで、残った債務の支払義務を免除してもらう手続です。もっとも、破産手続を行っただけで債務が消えるわけではなく、別に免責許可の決定を受ける必要があります。個人が破産手続開始を申し立てた場合、原則として同時に免責許可の申立てをしたものとみなされます(破産法第248条第4項)。
そして、免責許可決定が確定しても、破産法第253条第1項が定める一定の債権については支払義務が残ります。代表例が、税金・社会保険料、養育費・婚姻費用、一定の損害賠償、罰金などです。まずは全体像を整理します。
| 区分 | 主な例 | 自己破産後の扱い |
|---|---|---|
| 免責の対象となり得るもの | 消費者金融・カードローン・クレジット・銀行からの借入れ・通常の個人間の貸金(保証や悪意がないもの) | 免責許可決定が確定すれば、支払義務を免れる可能性があります |
| 非免責債権となる可能性が高いもの | 税金・社会保険料、養育費・婚姻費用、罰金・科料、従業員の給与・預り金 | 免責許可決定が確定しても、支払義務が残る可能性があります |
| 個別の判断が必要なもの | 損害賠償(悪意・故意・重過失・生命身体侵害の有無で結論が分かれる)、債権者名簿に記載しなかった債権(知りながらかどうか) | 要件や個別事情により、残るかどうかが変わります |
非免責債権があっても、自己破産に意味がないわけではありません。カードローンやクレジットなどの一般債務を整理できれば、税金や養育費など残る支払いに充てる原資を確保しやすくなる場合があります。何が残り、何を整理できるのかを切り分けることが重要です。
非免責債権とは(免責・免責不許可事由との違い)
免責とは
免責とは、破産手続で配当しても残ってしまった債務について、裁判所の決定により支払義務を免れることをいいます。免責許可決定が確定すると、破産者は、破産手続による配当を除き、破産債権についての責任を免れます(破産法第253条第1項本文)。
非免責債権とは
非免責債権とは、免責許可決定が確定しても支払義務が残る債権をいいます。政策的な理由から、破産法第253条第1項各号に限って定められています。つまり、「自己破産をすればすべての支払いがゼロになる」わけではなく、法律が定めた一定の債権は残るということです。
非免責債権と免責不許可事由は別の問題
よく混同されるのが「非免責債権」と「免責不許可事由」です。両者はまったく別の問題です。非免責債権は、免責が認められても特定の債権だけ残るという話であるのに対し、免責不許可事由は、浪費やギャンブル、財産隠しなどの事情により免責そのものが認められない可能性があるという話です。
| 項目 | 非免責債権 | 免責不許可事由 |
|---|---|---|
| 根拠条文 | 破産法第253条第1項 | 破産法第252条第1項 |
| 問題になること | 免責が確定しても特定の債権だけ支払義務が残る | 免責そのものが認められない可能性がある |
| 対象 | 税金・養育費・罰金など個別の債権 | 浪費・ギャンブル・財産隠し・虚偽説明などの行為 |
| 主な効果 | 他の債権は免責され、その債権だけ残る | 該当すると免責が認められないことがある(裁判所の裁量で免責される場合もあります) |
免責不許可事由があっても、破産に至った経緯その他一切の事情を考慮して、裁判所が免責を認めることがあります(裁量免責。破産法第252条第2項)。該当の有無は個別の事情によって判断されますので、不安がある場合は早めに弁護士へ資料を見せて確認することをおすすめします。
主な非免責債権の一覧(破産法第253条第1項)
破産法第253条第1項は、非免責債権を次のように定めています。具体例は代表的なものであり、実際に該当するかどうかは債権の性質や個別事情により異なります。
| 号 | 非免責債権の類型 | 主に問題となる例 |
|---|---|---|
| 第1号 | 租税等の請求権 | 所得税・住民税・固定資産税・自動車税・国民健康保険料・国民年金保険料など |
| 第2号 | 破産者が悪意で加えた不法行為に基づく損害賠償請求権 | 積極的な害意による加害(横領・詐欺などが問題になることがあります) |
| 第3号 | 故意又は重大な過失により人の生命・身体を害する不法行為に基づく損害賠償請求権 | 故意・重過失による交通事故や暴行などが問題になることがあります |
| 第4号 | 夫婦の協力扶助・婚姻費用・子の監護・扶養義務などに関する請求権 | 養育費・婚姻費用・扶養料 |
| 第5号 | 雇用関係に基づく使用人の請求権・預り金返還請求権 | 従業員の未払給与・退職金・預り金 |
| 第6号 | 破産者が知りながら債権者名簿に記載しなかった請求権 | 知りながら申告しなかった借入れ(相手が破産開始を知っていた場合を除く) |
| 第7号 | 罰金等の請求権 | 罰金・科料・刑事訴訟費用・追徴金など |
このうち、相談で特に問題になりやすい「税金・社会保険料」「養育費・婚姻費用」「一定の損害賠償」を、以下で個別に整理します。
税金・社会保険料は自己破産でどうなるか
税金や社会保険料は、租税等の請求権として非免責債権にあたり(破産法第253条第1項第1号)、免責許可決定が確定しても支払義務が残る可能性が高いものです。例えば、所得税・住民税・固定資産税・自動車税などの税金や、国民健康保険料・国民年金保険料などが問題になります。具体的な対象や扱いは、税目や保険料の種類により異なります。
注意したいのは、弁護士に債務整理を依頼し、貸金業者などへ受任通知を送っても、税金や社会保険料の督促や滞納処分(差押え等)が当然に止まるわけではないという点です。税金・社会保険料については、納付や差押えのルールが一般の借入れとは異なります。
納付が難しい場合には、税務署や自治体、年金事務所への納付相談や、国税の「換価の猶予」「納税の猶予」といった猶予制度が用意されています。これらは申請や一定の要件が必要で、自動的に認められるものではありません。破産手続の検討と並行して、税務署・自治体・年金事務所への相談も早めに検討することが実務上重要です。
養育費・婚姻費用・扶養義務はどうなるか
離婚後の養育費や、別居中の婚姻費用、親族間の扶養料などは、非免責債権にあたり(破産法第253条第1項第4号)、自己破産をしても支払義務が残る可能性があります。これらは、受け取る側の生活を支える重要な権利であるため、政策的に非免責債権とされています。
整理のうえで重要なのは、「滞納している分(過去分)」と「これから発生する分(将来分)」を分けて考えることです。いずれも基本的に免責の対象外と考えられますが、金額そのものを見直したい場合は、破産手続とは別の問題になります。
養育費や婚姻費用の金額の変更は、相手方との協議や、家庭裁判所の調停・審判といった家事手続のなかで検討されるものであり、自己破産によって当然に減額・免除されるわけではありません。減額の可否や見込みは、収入の変動や取り決めの内容など個別事情により異なります。
養育費・婚姻費用が関係する場合は、離婚協議書・公正証書・調停調書・審判書・判決書・支払履歴などの資料を確認することが出発点になります。これにより、滞納額や取り決めの内容を正確に把握できます。
一定の損害賠償は自己破産で残るのか
「損害賠償はすべて非免責債権になる」と誤解されることがありますが、そうではありません。損害賠償が非免責債権となるのは、次のいずれかにあたる場合です。
- 破産者が悪意で加えた不法行為に基づく損害賠償請求権(破産法第253条第1項第2号)
- 破産者が故意又は重大な過失により、人の生命・身体を害する不法行為に基づく損害賠償請求権(同項第3号)
ここでいう「悪意」は、単に「わざと」という意味ではなく、相手を積極的に害そうとする意思(害意)を指すと解されているのが実務上の一般的な考え方です。そのため、例えば不貞行為の慰謝料は、積極的な害意が認められるような例外的な場合を除き、第2号には該当しないと判断されることが多いと考えられます。一方で、横領や詐欺による損害賠償などは、悪意が問題となり非免責債権にあたると評価されることがあります。
第3号は、交通事故や暴行など、人の生命・身体を傷つけた場合の損害賠償が対象です。ただし、故意又は重大な過失が要件であり、単なる過失にとどまる事故であれば免責の対象となり得ます。物を壊しただけの損害(物損)も、第3号の「生命・身体を害する」には直接あたりません。
同じ「損害賠償」でも、悪意・故意・重大な過失の有無や、生命・身体への侵害かどうかにより結論が分かれます。該当性は事案により異なりますので、判決・和解調書・示談書・事故証明・診断書・刑事記録・請求書などの資料を確認したうえで判断する必要があります。
罰金・科料などはどうなるか
罰金、科料、刑事訴訟費用、追徴金などは、罰金等の請求権として非免責債権にあたり(破産法第253条第1項第7号)、自己破産をしても残る可能性があります。刑事事件や行政上の制裁に関する詳しい論点は、事案により扱いが分かれますので、個別に確認が必要です。
個人事業主の場合(従業員の給与・預り金)
個人事業主や小規模事業者が自己破産をする場合、従業員に対する未払給与や退職金、預り金は、雇用関係に基づく使用人の請求権・預り金返還請求権として非免責債権にあたります(破産法第253条第1項第5号)。未払賃金や預り金、源泉徴収に関する金銭などの分類は複雑になりやすく、慎重な確認が必要です。
従業員の賃金については、破産手続のなかでの優先的な取扱いや、公的な立替払の枠組みが別途問題になる場合があります。事業の廃業が絡むケースでは、賃金台帳・雇用契約書・給与明細・源泉徴収関係資料・労働者名簿などをそろえ、早めに弁護士へ相談することが重要です。
債権者名簿に記載しなかった債権
破産者が「知りながら」債権者名簿に記載しなかった請求権は、非免責債権にあたる場合があります(破産法第253条第1項第6号。ただし、その債権者が破産手続開始の決定を知っていた場合を除きます)。親族や知人からの借入れを「知られたくない」という理由で記載しないと、その債権が免責されず残るおそれがあるほか、故意に記載しなかった場合には免責不許可事由として問題になることもあります。
債権者一覧を正確に作ることは、自己破産の準備で最も重要な作業の一つです。督促状・カード明細・借入契約書・通帳・メール・LINEのやり取りなどを確認し、借入先の漏れがないように整理してください。
ご自身のケースで何が残り、何を整理できるのかは、資料を確認したうえで見通しを検討できます。借金問題の整理を考えている方は、取扱業務もあわせてご覧ください。
よく問題になるケース
以下は、相談で迷いやすい典型的な場面です。いずれも結論は個別事情により異なり、ここでの整理は一般的な考え方を示すものです。
税金の滞納とカードローンがある場合
カードローンなどは免責の対象となり得る一方、税金は非免責債権として残る可能性が高いものです。カードローンを整理することで、残る税金の納付に充てる原資を確保しやすくなる場合があります。
養育費の滞納と消費者金融の借金がある場合
消費者金融の借入れは免責の対象となり得ますが、養育費は非免責債権として残る可能性があります。整理できる借金と残る支払いを分け、養育費の取り決め内容を資料で確認することが出発点になります。
損害賠償を請求されている場合
損害賠償が非免責債権にあたるかは、悪意・故意・重過失・生命身体侵害の有無により分かれます。請求の根拠や事故の内容を示す資料を確認しなければ、残るかどうかを判断できません。
個人事業主が税金・仕入債務・従業員給与を抱えている場合
仕入先への買掛金などは免責の対象となり得ますが、税金や従業員給与・預り金は非免責債権として残る可能性があります。廃業や事業資産の処理も絡むため、早期の資料確認が特に重要です。
債権者の一部を記載し忘れた・記載したくない場合
知りながら記載しなかった債権は残るおそれがあり、故意の不記載は免責不許可事由としても問題になり得ます。記載したくない事情がある場合こそ、自己判断せず弁護士に相談してください。
非免責債権があっても自己破産を検討する意味
非免責債権があるからといって、自己破産に意味がないとは限りません。カードローンやクレジット、消費者金融などの一般債務を整理できれば、税金や養育費など残る支払いに向き合う余裕が生まれる場合があります。
もっとも、自己破産・任意整理・個人再生のいずれが適しているかは、収入・支出・財産・債権者の構成・保証人の有無・非免責債権の額・差押えの状況などにより異なります。最終的な判断には、これらの資料を確認したうえでの検討が必要です。
自己破産の手続前に確認すべき資料(チェックリスト)
申立て前に、次の資料をそろえておくと、何が残り何を整理できるかを整理しやすくなります。
- 債権者一覧(借入先・残高・借入時期がわかるもの)
- 督促状・請求書・カード明細・借入契約書
- 税金・社会保険料の納付書・督促状・差押予告などの通知
- 養育費・婚姻費用の離婚協議書・公正証書・調停調書・審判書・判決書・支払履歴
- 損害賠償に関する判決・和解調書・示談書・事故証明・診断書・刑事記録・請求書
- 罰金・科料などの通知
- (個人事業主の場合)賃金台帳・雇用契約書・給与明細・源泉徴収関係資料・労働者名簿
- 通帳・家計の状況・収入資料・源泉徴収票・確定申告書
- 保証人・連帯保証人に関する契約書
- 信用情報・カード明細・借入契約書
申立て前に、税金や養育費など特定の支払いだけを先に行うことには注意が必要です。一部の債権者だけに返済する行為(偏頗弁済)は、後に否認の対象となったり、免責不許可事由として問題になる可能性があります。どの支払いを続けてよいかは、自己判断せず、必ず弁護士に資料を見せて確認してください。
弁護士に相談するタイミング
弁護士への相談は、結果を保証するためではなく、何が残り何を整理できるのかを切り分け、対応方針を整理するために役立ちます。特に次のような事情がある場合は、早めに資料を確認することが重要です。
- 税金・社会保険料の滞納や差押予告がある
- 養育費・婚姻費用の滞納や取り決めがある
- 損害賠償を請求されている、または請求されそうである
- 保証人・連帯保証人がいる借入れがある
- 個人事業の廃業や従業員給与の未払いが絡む
これらが関係する場合、非免責債権の有無や額によって、選ぶべき手続が変わることがあります。資料をそろえて相談することで、法律上の見通しを検討しやすくなります。
自己破産・任意整理・個人再生のどれが適しているかは、資料をもとに方針を整理できます。費用の目安を知りたい方は、弁護士費用のページもご確認ください。
よくある質問(FAQ)
自己破産をすると税金も免除されますか?
税金は租税等の請求権として非免責債権にあたり(破産法第253条第1項第1号)、免責許可決定が確定しても残る可能性が高いものです。納付が難しい場合は、税務署や自治体への納付相談や猶予制度を別途検討することになります。
養育費は自己破産で払わなくてよくなりますか?
養育費は非免責債権にあたり(同項第4号)、自己破産をしても残る可能性があります。滞納分・将来分のいずれも基本的に対象外と考えられ、金額の見直しは破産手続とは別に、協議や家庭裁判所の手続で検討されます。
損害賠償はすべて非免責債権になりますか?
いいえ。損害賠償が残るのは、悪意による不法行為(同項第2号)や、故意・重大な過失による生命・身体への加害(同項第3号)にあたる場合です。該当するかどうかは事案により異なります。
罰金は自己破産で免責されますか?
罰金・科料などは罰金等の請求権として非免責債権にあたり(同項第7号)、自己破産をしても残る可能性があります。
非免責債権がある場合でも自己破産をする意味はありますか?
あります。カードローンやクレジットなどの一般債務を整理できれば、残る支払いに充てる原資を確保しやすくなる場合があります。適した手続は収入・財産・債権者の状況により異なります。
債権者名簿に書き忘れた借金はどうなりますか?
知りながら記載しなかった請求権は、非免責債権として残るおそれがあります(同項第6号)。故意の不記載は免責不許可事由としても問題になり得ますので、借入先の漏れがないよう正確に整理することが重要です。
税金や養育費を先に払ってから破産してもよいですか?
一部の債権者だけに返済する行為は、偏頗弁済として否認や免責への影響が問題になる可能性があります。どの支払いを続けてよいかは自己判断せず、弁護士に資料を見せて確認してください。
弁護士に相談するときは何を準備すればよいですか?
債権者一覧と、本記事のチェックリストに挙げた資料(督促状、税金・養育費・損害賠償に関する書類、通帳、収入資料など)をそろえると、何が残り何を整理できるかを検討しやすくなります。
まとめ
- 自己破産をしても、税金・社会保険料・養育費・婚姻費用・一定の損害賠償・罰金などは非免責債権として残る可能性があります(破産法第253条第1項)。
- 非免責債権と免責不許可事由は別の問題です。前者は特定の債権だけ残る話、後者は免責そのものが認められない可能性の話です。
- 損害賠償はすべてが残るわけではなく、悪意・故意・重過失・生命身体侵害の有無により結論が分かれます。
- 非免責債権があっても、一般債務を整理することで残る支払いに向き合いやすくなる場合があります。
- まずは何が残り何を整理できるかを分類し、資料をそろえて相談することが第一歩です。
残る支払いと整理できる借金を分けて把握し、自己破産・任意整理・個人再生のどれが適するかを検討するために、資料を整理したうえでご相談ください。当事務所の相談窓口や弁護士紹介は、次のページからご確認いただけます。
監修・執筆
神戸みらい法律会計事務所(弁護士法人ひょうご支所)
弁護士・公認会計士 藤井貴之(兵庫県弁護士会所属)
当事務所は、弁護士と公認会計士の双方の視点から、借金問題(債務整理)に関する資料の整理や見通しの検討に対応しています。弁護士の経歴・取扱分野は、弁護士紹介ページをご覧ください。

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