自賠責保険・共済から届いた通知に納得できない。後遺障害が非該当とされた、想定より低い等級だった、休業損害や看護料の一部が認められなかった、過失があるとして減額された。理由書を読み返しても、どこを争えばよいのか、次に何をすればよいのかが分からない。そうした場面で問題になるのが、次の一手をどう選ぶかです。
このとき取り得る手続は一つではありません。保険会社・共済組合に対して異議申立てを行う方法、国が指定した第三者機関である自賠責保険・共済紛争処理機構(以下「紛争処理機構」といいます。)に申請する方法、そして訴訟で損害賠償を争う方法があります。
この記事では、紛争処理機構がどのような機関で、誰が、どの争点について申請できるのか、受理されないのはどのような場合か、申請の方法と必要書類、費用、時効との関係、そして調停の結果に納得できない場合にどうなるのかを整理します。そのうえで、三つの手続をどう使い分けるかを検討します。
先に結論の方向性を申し上げます。どの手続が常に先で、常に有利ということはありません。何を争うのか、自賠責でまだ判断されていない資料があるのか、自賠責の支払判断だけを争うのか損害賠償全体を争うのか、示談が成立していないか、期限が迫っていないか、他の手続が進行していないか。これらの事情によって選ぶべき手続は変わります。とりわけ紛争処理機構の調停は同一の紛争について原則として一回しか受けられないため、申請の時期と内容をあらかじめ検討しておくことが重要になります。
この記事で特にお伝えしたい点 紛争処理機構は、令和5年8月に新たな資料の受付に関する運用を改めています。それ以前は、自賠責への請求時に提出していない資料が添付された申請について、受付を制限する取扱いがされていました。現在は、そうした資料が添付されていても受付を行う運用に改善されています。インターネット上には、改善前の取扱いを前提とした解説がなお残っています。詳しくは「新たな資料の扱いは令和5年8月に変わりました」でご説明します。
支払や等級の判断に納得できないとき、次に取れる手続は一つではありません。保険会社・共済組合から届いた通知書と、これまでに提出した資料をお手元にご用意いただければ、どの点を争えるのか、どの手続が検討の対象になるのかを整理できます。
自賠責の判断に不服があるときの結論
まず手元で確認する六点
手続を選ぶ前に、次の点を資料で確認してください。ここが確認できていないまま手続を選ぶと、判断を誤ります。
- 保険会社・共済組合から届いた支払(又は不払)の通知書と、その理由の記載が手元にあるか
- 初回の請求と異議申立てでどの資料を提出したかの一覧を作れるか
- 自賠責でまだ判断されていない新たな資料があるか、又は取得できる見込みがあるか
- 争いたいのは自賠責の支払判断だけか、損害賠償全体か
- 示談書・免責証書・承諾書に署名していないか
- 事故日、症状固定日、請求日、通知を受けた日を確認し、期限が迫っていないか
自賠責保険・共済に対する請求権の消滅時効と、加害者に対する損害賠償請求権の消滅時効は、根拠となる規定も起算点も異なる別の制度です。同じ「3年」という数字が出てくる場面がありますが、内容は同じではありません。また、紛争処理機構へ申請しただけでは時効は更新されません。この点は後ほど詳しくご説明します。
三つの手続の使い分け早見表
詳しい比較は後述しますが、まず全体像を示します。個別事情により結論は変わります。
| いまの状況 | 検討の対象になりやすい手続 | その理由 |
|---|---|---|
| まだ判断されていない資料を取得できた | 異議申立て/紛争処理申請 | どちらにも提出できます。ただし紛争処理機構の調停は原則一回のため、順序の検討が必要です |
| 異議申立てを行ったが判断が変わらなかった | 紛争処理申請/訴訟 | 第三者機関の判断を求めるか、賠償全体を訴訟で争うかの分岐です |
| 等級だけでなく賠償全体を争いたい | 訴訟 | 紛争処理機構は損害賠償全体を一括して解決する制度ではありません |
| 既に示談が成立している | いずれも困難 | 当事者間の紛争が解決している事案は、紛争処理機構の対象外とされています |
| 他機関に和解あっ旋等を申し出ている | まず手続の整理から | 中断・中止・終結の手続をとらないと、紛争処理機構への申請は受け付けられません |
自賠責保険・共済紛争処理機構とは
制度の役割と、判断する人
紛争処理機構は、自動車損害賠償保障法(以下「自賠法」といいます。)に基づいて国が指定した機関(指定紛争処理機関)です。同法第23条の6は、指定紛争処理機関の業務として、「紛争の当事者である保険会社、組合、被保険者、被共済者又は被害者からの申請により、当該紛争の調停(紛争処理)を行うこと」を定めています。手続の細目は、国土交通大臣及び内閣総理大臣の認可を受けた紛争処理業務規程に定められています(同法第23条の11)。監督官庁は国土交通省と金融庁です。
審査を行うのは、弁護士、医師、学識経験者で構成される紛争処理委員です。機構は、これらの委員が中立的な立場から合議によって審査を行うと説明しています。つまり、支払の判断をした保険会社・共済組合とは別の立場の委員が、資料に基づいて判断する仕組みです。
機構は、業務の実施に必要な範囲で、保険会社又は共済組合に対して説明や資料の提出を求めることができ、求められた側は正当な理由がなければ拒めません(同法第23条の12)。手続は非公開とされています(同法第23条の13)。
裁判所の調停との違い
「調停」という言葉から、当事者が期日に出席して話合いで妥協点を探る手続を想像される方がいます。しかし機構は、この手続について「当事者が話し合う場ではございません。裁判所で行う調停とは異なります」と明確に説明しています。提出された書類をもとに審査するため来所の必要はなく、申請者が出席する必要もありません。
相手方と交渉して金額を歩み寄る手続ではなく、自賠責の支払判断が適切かどうかを、資料に基づいて第三者が検討する手続です。したがって、どの資料を、どの争点に対応させて提出するかが、この手続の中身のほとんどを決めることになります。
よくある誤解と、公式資料に基づく理解
この制度については、古い情報や不正確な説明がインターネット上に残っています。申請の判断を誤らないよう、代表的なものを整理しておきます。
| よく見かける説明 | 公式資料に基づく理解 |
|---|---|
| 新しい資料は提出できない | 令和5年8月に運用が改められ、自賠責への請求時に提出していない資料が添付された申請でも受付を行うこととされています |
| 異議申立てをしないと申請できない | 異議申立てを経ることは要件とされていません。ただし自賠責保険・共済への請求と判断は前提になります |
| 後遺障害の等級だけを審査する | 過失の有無・過失割合、事故と傷害等との因果関係、休業損害の認定額、看護料なども対象とされています |
| 一事故につき一回しか使えない | 数え方は事故単位ではなく紛争の同一性です。既に紛争処理を行った事案は対象外とされています |
| 取り下げたら二度と申請できない | 取下げはいつでもでき、機構で既に紛争処理を行った事案でなければ、取下げ後の再申請は可能とされています |
| 申請すれば時効が止まる | 機構は「紛争処理申請を行っても時効は更新されません」と明示しています |
| 訴訟中は申請できない | 申請自体はできます。受理するかどうかは、裁判の内容等を踏まえて個別に判断され、後日文書で回答されます |
| 郵送でしか申請できない | オンライン申請(フォーム入力・書類アップロード)と郵送の三つの方法があり、審査の内容や結果に違いはないとされています |
| 調停結果は判決と同じ効力を持つ | 判決とは異なり、既判力や執行力を持つものではありません。結果に不服があれば訴訟を提起できます |
似た名称の機関との違い
交通事故に関係する紛争解決の窓口には、名称の似たものがあります。役割が異なりますので、混同しないようご注意ください。
| 機関・制度 | 主な対象 | 留意点 |
|---|---|---|
| 自賠責保険・共済紛争処理機構 | 自賠責保険・共済の保険金等の支払に関する紛争 | 損害賠償全体を一括して解決する制度ではありません |
| 公益財団法人交通事故紛争処理センター | 自動車事故の被害者と保険会社等との示談をめぐる紛争。法律相談、和解あっ旋、審査手続を無料で実施 | 同センターの案内では、自賠責保険(共済)の後遺障害等級認定に関する紛争は対象外とされています。また、申立人が紛争処理機構へ調停を申し立てている間は、和解あっ旋が停止されることがあるとされています |
| 国土交通大臣に対する申出制度 | 支払が支払基準に従っていないとき、書面の交付がないとき、書面による説明を求めたのに応じないとき(自賠法第16条の7) | 等級や金額の当否を審査する不服申立ての制度とは性質が異なります |
| 政府保障事業 | ひき逃げ事故・無保険(共済)事故の被害者に対する損害の塡補 | 自賠責保険・共済の支払に関する紛争処理とは別の制度です |
申請できる人・対象となる争点・受理されない場合
申請できる人と、代理人による申請
機構の案内では、申請できるのは次の方とされています。
- 自動車事故の被害者(死亡事故の場合はご遺族)
- 加害者(被保険者)
- 保険会社・共済組合
- これらの方の代理人
法律上も、申請できるのは紛争の当事者である保険会社、組合、被保険者、被共済者又は被害者とされています(自賠法第23条の6第1項第1号)。
ご家族が代わりに申請することもできますが、その場合は代理人としての申請になります。成人のご本人が存命の場合、ご家族に固有の申請権があるわけではありません。代理申請には委任状と、申請日前3か月以内に発行された委任者の印鑑証明書が必要とされています。ただし、弁護士が代理人となる場合は印鑑証明書を省略できるとされています。
対象となる争点
紛争処理機構が扱うのは、自賠責保険・共済の保険金等の支払に関する紛争です。機構が対象として挙げているのは、たとえば次のような争点です。
- 後遺障害の等級認定(非該当とされた場合を含みます)
- 過失の有無・過失割合
- 事故と死亡・傷害・後遺障害との因果関係
- 休業損害の認定額
- 看護料その他の損害項目の認定
「等級のことしか扱わない機関だ」という理解は正確ではありません。理由書を読み、どの判断に納得できないのかを特定することが出発点になります。
他方で、次のものは対象になりません。物損だけの事故(自賠責保険・共済は人身事故に係る損害賠償責任保険であるためです)、被害者ご自身が契約する人身傷害補償型の自動車保険の等級認定、そして損害賠償全体(慰謝料や逸失利益を含む賠償額そのもの)の当否です。ただし、人身傷害補償型の場合でも、相手方が加入する自賠責保険会社・共済組合に被害者請求(自賠法第16条)を行い、その回答に納得できないときは、申請の対象になるとされています。
受理されない可能性がある場合
申請の前に、次に当たらないかご確認ください。機構の案内では、これらに該当する場合は申請を受け付けられないとされています。
- 示談等により、当事者間の紛争が既に解決しているとき
- 他の機関に和解あっ旋等を申し出ており、中断・中止・終結の手続をとっていないとき
- 請求の時効が完成しているとき
- 弁護士資格なく法律事務を行う疑いがあるとき
- 同一内容について既に機構で紛争処理を行ったとき
- 申請者が権利を有しないと認められるとき、その他機構が不適切と判断したとき
「他の機関に申し出ている」に当たるかどうかは、慎重に確認してください。他機関に法律相談をしただけの段階と、和解あっ旋などの紛争解決手続を現に申し立てている段階とは異なります。既に申し立てている場合でも、中断・中止・終結の手続をとれば申請できるとされていますので、まず手続の状況を整理することになります。
異議申立て・紛争処理申請・訴訟の比較
三つの手続の比較表
三つの手続は、目的も、判断する主体も、結果の意味も異なります。同じ尺度で優劣を決められる関係にはありません。
| 項目 | 異議申立て | 紛争処理申請 | 訴訟 |
|---|---|---|---|
| 手続の目的 | 自賠責の支払判断について、支払をした側に再検討を求める | 自賠責の支払に関する紛争について、第三者機関の調停を求める | 損害賠償請求権又は自賠責保険金等の請求権の存否・額について裁判所の判断を求める |
| 申立先・判断主体 | 各損害保険会社(共済組合)に申し立てます。審査は損害保険料率算出機構が行い、異議申立事案は自賠責保険(共済)審査会で外部の委員が参加して審議されます | 自賠責保険・共済紛争処理機構。弁護士、医師、学識経験者で構成される紛争処理委員が合議で判断します | 裁判所(相手方は加害者又は自賠責保険会社等) |
| 主な対象 | 自賠責の支払額、後遺障害の等級、因果関係、過失割合など支払判断に関する事項 | 同左(自賠責保険・共済の支払に関する紛争) | 損害賠償全体、又は自賠責保険者に対する直接請求など、請求の構成により異なります |
| 前提となる手続 | 自賠責への請求と支払・不払の判断 | まず保険会社・共済組合に請求し、支払に関する判断を受けていることが必要です | 法律上、異議申立てや紛争処理を経ることは要件ではありません |
| 新たな資料の取扱い | 非該当や等級の理由に対応した新たな立証資料を添えて行うことができます | 令和5年8月以降、自賠責への請求時に提出していない資料が添付された申請でも受付を行うこととされています | 証拠として提出できます。文書送付嘱託や鑑定などの手段もあります |
| 審査・立証の方法 | 提出資料に基づく審査 | 提出された書類と、機構が保険会社等から取り寄せた資料に基づく審査 | 書証のほか、証人尋問、本人尋問、鑑定など |
| 出席の要否 | 通常は不要 | 不要。来所の必要はないとされています | 期日への出頭が必要になる場合があります(代理人による対応を含みます) |
| 利用回数 | 回数について、公式資料で一律の定めを確認できません。取扱いは申立先にご確認ください | 同一の紛争について原則一回。結果に納得できない場合でも、再度の申請はできないとされています | 確定判決を経た同一の請求を蒸し返すことはできません |
| 取下げと再申請 | ― | 申請者はいつでも取り下げられます。既に紛争処理を行った事案でなければ、取下げ後の再申請は可能とされています | 訴えの取下げには、相手方が応訴した後は同意が必要になる場合があります |
| 費用 | 申立て自体の費用負担はありません。資料の取得費などは自己負担です | 審査費用は原則無料。資料の取得費、郵送費、弁護士に依頼する場合の費用は自己負担です | 訴額に応じた申立手数料、郵便費用、鑑定費用、弁護士費用などがかかります |
| 所要期間 | 公式に一律の標準期間は示されていません | 紛争の内容により異なるとされ、標準処理期間は公表されていません | 争点の数、証拠調べの要否により大きく異なります |
| 結果の扱い | 再検討の結果が通知されます | 調停結果が文書で通知されます。機構は、調停結果を守ることについて自賠責保険(共済)の約款等に定められていると説明しています。判決とは異なり、既判力や執行力を持つものではありません | 判決には既判力があり、給付判決は債務名義となります。和解調書も同様の効力を持ちます |
| 時効への影響 | 申立てをしたことだけで、当然に時効が更新され、又は完成が猶予されるわけではありません | 申請をしても時効は更新されません。機構は、時効更新の手続を自賠責保険会社に依頼するよう案内しています | 訴えの提起により、時効の完成猶予・更新の効果が問題となります |
| 自賠法第23条の14の特則 | 適用はありません | 紛争処理による解決の見込みがないことを理由に機構が紛争処理を打ち切り、申請をした当事者がその旨の通知を受けた日から1か月以内に、紛争処理の目的となった請求について訴えを提起したときは、時効の完成猶予に関して、申請の時に訴えの提起があったものとみなされます | ― |
| 係属中の訴訟との関係 | ― | 訴訟中でも申請自体はできます。受理するかどうかは裁判の内容等を踏まえて個別に判断されます。なお自賠法第23条の15は、機構による紛争処理が実施されているなどの事由があり、かつ当事者の共同の申立てがあるときに、受訴裁判所が4か月以内の期間を定めて訴訟手続を中止する決定をすることができると定めています | ― |
| 結果に不服がある場合 | 紛争処理機構への申請、又は訴訟を検討できます | 機構への再度の申請はできません。加害者や自賠責保険会社等を相手として訴訟を提起することになります | 控訴・上告の手続によります |
| 向いている可能性がある場面 | 自賠責でまだ判断されていない資料があり、支払をした側の再検討を求めたい場合 | 自賠責の支払判断について、第三者の立場からの検討を求めたい場合 | 自賠責の支払判断にとどまらず損害賠償全体を争う場合。証人尋問など訴訟上の立証が必要な場合 |
| 主な限界・注意点 | 同じ資料を出し直すだけでは結果が変わりにくい手続です | 原則一回のため、申請の時期と内容の検討が重要です。損害賠償全体を解決する制度ではありません | 費用と時間の負担があります。裁判所が自賠責の等級そのものを変更・再認定するわけではありません |
それぞれの手続が向く場面
異議申立てを先に検討する場面
自賠責でまだ判断されていない資料を取得できた場合、まず異議申立てを行い、その資料を踏まえた再検討を求めるという順序が考えられます。紛争処理機構の調停が原則一回であることを踏まえると、先に異議申立てを使い、それでも判断が変わらなかったときに紛争処理申請という第三者の判断を残しておくという組み立てには一定の合理性があります。
異議申立ての審査体制についても、正確に理解しておくとよいでしょう。審査は損害保険料率算出機構が行い、異議申立事案は自賠責保険(共済)審査会で、日本弁護士連合会が推薦する弁護士、専門医、交通法学者、学識経験者等の外部の委員が参加して審議されるとされています。「支払をした担当者が内部で考え直すだけ」という理解は正確ではありません。
もっとも、同機構の説明によれば、新たな資料の提出により追加支払が可能な事案や、支払基準に定める損害項目の認定金額に対する異議申立事案などは、審査会の対象外とされています。どのような体制で審査されるかは争点によって異なります。
紛争処理申請を検討する場面
異議申立てを行っても判断が変わらなかった場合や、支払をした側の判断とは別に第三者の立場からの検討を求めたい場合に、紛争処理申請が検討の対象になります。国土交通省の案内でも、後遺障害の認定等級に不服がある場合について、新たな立証資料を添えて異議申立てを行うか、紛争処理機構へ調停の申請を行うことができると並べて説明されており、異議申立てを先に行うことは要件とされていません。
ただし、原則一回であることは動きません。資料が揃っていない段階で申請してしまうと、後から補う機会が限られます。申請の前に、争点と資料の対応関係を確認しておくことが重要です。
訴訟を検討する場面
争いたいのが自賠責の支払判断にとどまらず、傷害慰謝料、後遺障害慰謝料、逸失利益、将来の治療費や介護費を含む損害賠償全体である場合には、訴訟が選択肢になります。自賠責の支払基準と限度額は、裁判実務上参照される損害額の算定基準とは異なるものですので、賠償額そのものを争うのであれば、紛争処理機構の手続では目的を達せられません。
また、医師の証人尋問や本人尋問、鑑定といった訴訟上の立証手段が必要な事案では、書面中心の審査では判断が難しいことがあります。他方で、費用と時間の負担は大きくなります。費用対効果を含めて検討してください。
どの手続を選ぶかの意思決定フロー
順に確認する九項目
次の順序で確認すると、検討すべき手続を絞り込みやすくなります。これは一般的な整理であり、個別案件の結論を保証するものではありません。
- 判断の通知を受けているか。自賠責保険会社・共済組合、又は一括して対応する任意保険会社等から、自賠責部分の支払・不払に関する判断の通知を受けていますか。受けていない場合、まず請求と判断が前提になります。
- 既に解決していないか。示談書、免責証書、承諾書に署名していませんか。当事者間の紛争が解決している事案は対象外とされています。
- 他の機関で手続が継続していないか。他の紛争解決機関に和解あっ旋等を申し出ていませんか。法律相談をした段階と混同していませんか。
- 時効が完成していないか、迫っていないか。請求の時効が完成していると申請できません。申請しても時効は更新されない点にもご注意ください。
- 新たな資料があるか。自賠責でまだ判断されていない資料を持っている、又は取得できる見込みがありますか。
- 再審査の機会をどこで使うか。その資料を異議申立てで使うか、紛争処理申請で使うかを決めます。
- 争点はどこまでか。争いたいのは自賠責の支払判断ですか、損害賠償全体ですか。
- 立証の方法は足りるか。書面の審査で足りますか、証人尋問などを含む訴訟上の立証が必要ですか。
- 資料の準備は整っているか。原則一回の申請を、いま行うだけの資料が揃っていますか。
状況別の分岐
| 確認した状況 | まず取り組むこと | 次に検討する手続 |
|---|---|---|
| 新たな資料があり、異議申立てをまだ行っていない | 資料が理由書のどの記載に対応するかを整理する | 異議申立て。判断が変わらなければ紛争処理申請 |
| 新たな資料があり、異議申立てでは変わらなかった | 異議申立てで何が評価されなかったのかを確認する | 紛争処理申請。争点を絞り込んで申請 |
| 新たな資料がなく、判断の評価そのものを争いたい | 提出済み資料の一覧と理由書を突き合わせる | 紛争処理申請 |
| 過失割合や賠償額全体を争いたい | 損害項目ごとに争点と金額を整理する | 訴訟。自賠責部分のみを先に確定させる選択肢も検討 |
| 期限が迫っている | 事故日、症状固定日、請求日、通知日を書き出す | 時効更新の手続を保険会社に依頼したうえで手続を選ぶ。提訴の要否も検討 |
| 示談を提示されている | 署名前に、提示内容と争点の関係を確認する | 署名すると手続の選択肢が大きく狭まるため、判断を保留して検討 |
紛争処理機構への申請を検討する前に、判断理由のどこを争うのか、提出済みの資料で足りるのか、新たに取得すべき資料があるのかを対応づけておくと、手続の選択を検討しやすくなります。通知書と資料の控えを確認したうえで、申請の時期と内容についてご相談いただけます。当事務所では、交通事故に関する初回のご相談を無料でお受けしています(事前予約制)。
申請の流れと申請方法
申請の方法は三つ
機構は、次の三つの方法を案内しています。いずれを選んでも、審査の内容や結果に違いはないとされています。
| 方法 | 内容 | 向いている方 |
|---|---|---|
| オンライン申請(フォーム入力) | ウェブサイト上のフォームに必要事項を直接入力して送信します。24時間いつでも送信でき、入力内容を保存できます | パソコンやスマートフォンの操作に慣れている方 |
| オンライン申請(書類アップロード) | 申請書をダウンロードして手書き又はパソコンで記入し、スキャン又は撮影してアップロードします | 書面で記入したいが、郵送は避けたい方 |
| 郵送 | 必要書類を印刷して記入し、添付書類とともに郵送します。近畿・中国・四国地域は大阪支部、それ以外の地域は本部が送付先です | 紙で確認しながら進めたい方、インターネット環境がない方 |
受付から調停結果の通知まで
機構が案内している手続の流れは、次の五段階です。申請すれば必ず審査に進むわけではなく、間に「受理判断」の段階がある点にご注意ください。
| 段階 | 機構が行うこと | 申請者に届くもの |
|---|---|---|
| 1 申請の受付 | 申請を受け付け、相手方(保険会社等)に申請があったことを通知します | 受付通知 |
| 2 受理判断 | 保険会社等から資料を取り寄せ、申請を受理できるかどうかを判断します | 対象とならないと判断された場合は不受理通知 |
| 3 受理 | 紛争処理の対象になると判断した場合、受理したことを通知します | 受理通知 |
| 4 紛争処理委員会で審査 | 申請内容と、保険会社等から取り寄せた資料に基づき、中立・公正な立場から審査します | ― |
| 5 調停結果の通知 | 審査結果を、申請者と相手方の双方に通知します | 調停結果通知 |
所要期間について
機構は、所要期間について紛争の内容により異なるとしており、標準的な処理期間は公表されていません。争点の数、資料の分量、追加で取り寄せる資料の要否によって変わるためです。解説記事などで見かける「おおむね○か月」といった数字は公式に示されたものではありませんので、目安として扱わないほうが安全です。期限が迫っている事案では、結果を待つ間に権利行使の機会を失わないよう、別途の期限管理が必要になります。
申請したあとにできること
申請後も、次のような対応ができるとされています。
- 申請内容の変更。ただし、紛争処理を著しく遅延させると判断された場合には、変更を受け付けられないことがあります
- 申請の取下げ。申請者はいつでも、文書又はオンラインの方法により取り下げることができるとされています
- 取下げ後の再申請。既に紛争処理を行った事案でなければ、取下げ後に改めて申請することは可能とされています
必要書類と、争点別に準備する資料
必ず提出する書類
機構が案内している提出書類は次のとおりです。様式は機構のウェブサイトから入手できます。
| 書類 | 区分 | 内容 |
|---|---|---|
| 紛争処理申請書 | 必須 | 調停を希望する方が記入する申請書です |
| 紛争処理申請書 別紙 | 必須 | 紛争処理を求める事項(争点)を詳しく記述する用紙です |
| 同意書 | 必須 | 機構が関係各所に書類の提出を依頼することなどに同意する書類です |
| 交通事故証明書 | 必須(コピー可) | ― |
| 保険会社・共済組合からの通知書 | 必須(コピー可) | 支払・不払に関する判断の通知です |
| 委任状 | 代理申請の場合は必須 | 申請に係る一切の権限を委任することを明記します |
| 委任者の印鑑証明書 | 代理申請の場合は必須 | 申請日前3か月以内に発行されたもの。弁護士が代理人の場合は省略できるとされています |
| その他の添付書類 | 任意 | ドライブレコーダーのデータ、保険会社・共済組合から返却されたCD・DVDなどの参考資料です |
申請書別紙に何を書くか
この手続の中身を実質的に決めるのが、申請書別紙です。機構の記入例によれば、別紙では、争点を次の四つの区分から選び、いま何に納得できないのかを、専門用語を使わず平易な言葉で説明することが求められています。あわせて、保険会社や医師とどのようなやり取りがあったのか、その時期と内容、ご自身の考え、どのような解決を望むのかを記載します。
| 争点の区分 | 別紙で説明することの例 | 対応させたい資料の例 |
|---|---|---|
| 後遺障害の等級認定 | 認定された等級では説明のつかない症状の程度、検査所見との食い違い、仕事や日常生活にどのような支障が出ているか | 後遺障害診断書、診療録、診療報酬明細書、画像データと画像診断報告書、神経学的検査・可動域測定などの検査結果、主治医の意見書・照会回答、就労状況や家事への支障を示す記録 |
| 過失の有無・過失割合 | 事故がどのような状況で起きたか、どの点について過失があるとされたか、第三者の説明と食い違う点、割合が過大と考える理由 | 事故発生状況報告書、実況見分に関する資料、現場写真、車両の損傷写真、ドライブレコーダーの記録、目撃者の説明 |
| 事故と傷害・死亡との因果関係 | 症状がいつ出て、どう推移したか、事故と症状を結びつける医師の説明、既往症との区別、因果関係を認めるべき理由 | 初診時の診断書、事故直後からの診療録、経過が分かる検査結果、事故前の診療記録・健康診断結果、主治医の意見書 |
| その他(休業損害・看護料など) | 支払われていない費目は何か、説明のどこに一貫性がないと考えるか、どのような支払を求めるか | 休業損害証明書、収入資料、看護記録、領収書、勤務先の記録、通院状況が分かる資料 |
争点整理表をつくる
資料を集める前に、次の形で表を作ると、別紙にそのまま書き写せる形に整理でき、不足している資料も見えてきます。記入例を一行示します。
| 通知書に書かれた判断理由 | 争う点 | 提出済み資料 | 新たに提出する資料 | その資料で説明する事実 | 取得先 | 確認すべき期限 |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 画像上、神経の圧迫所見が認められない | 画像所見がないことのみを理由に症状を否定した点 | 初回請求時の後遺障害診断書、単純エックス線写真 | 症状固定後のMRI画像と画像診断報告書、神経学的検査の結果 | 画像所見と神経学的所見の対応関係、症状が一貫して継続していること | 治療を受けた医療機関の画像室・整形外科 | 取得に2週間程度。症状固定日からの経過にも注意 |
| 前方不注視の過失があるとして減額された | 減額の前提とされた事故態様の認定 | 事故発生状況報告書、交通事故証明書 | ドライブレコーダーの映像、現場の見通しが分かる写真 | 相手方車両の進入位置と速度、こちらから相手方を認識できた時点 | 自車のドライブレコーダー、現場での撮影 | 映像の保存期間。上書きされる前に複製する |
すべての事案で多くの資料が必要になるわけではありません。大切なのは資料の点数ではなく、争点との対応関係です。「何を争うのか」を先に決め、それを説明する資料を選んでください。
提出した資料は返却されるか
機構の案内では、申請書に添付したCDやレントゲン写真は返却される一方、申請書、別紙、同意書、委任状、印鑑証明書は返却されないとされています。もっとも、後に異議申立てや訴訟を検討する際、「何をどの手続に提出したか」が分からなくなると主張の組み立てに支障が生じます。提出前に、書面は全ページの写しを、画像データは複製を手元に残しておくことをおすすめします。
申請前に必ず確認すべきこと
同一の紛争について原則一回
機構の紛争処理は、同一の紛争について原則として一回しか行われません。結果に納得できない場合でも、機構への再度の申請はできず、加害者や自賠責保険会社等を相手として訴訟を提起することになるとされています。
数え方は「一事故につき一回」ではなく、紛争の同一性です。他方で、申請の取下げはいつでもでき、既に紛争処理を行った事案でなければ、取り下げた後に改めて申請することは可能とされています。つまり、審査を経て結果が出てしまうと次はありませんが、審査に至る前に一度引くという選択肢は残されています。
新たな資料の扱いは令和5年8月に変わりました
この点は、申請の順序を決めるうえで最も重要な変更です。経緯も含めて正確にご説明します。
機構は、平成25年11月から令和5年7月末まで、自賠責保険会社・共済組合への請求時に提出されていない資料(以下「新資料」といいます。)が申請者から提出された場合に、新資料は審査の対象にならない旨を説明したうえで、申請を取り下げて保険会社等へ異議申立てを行うよう促すなど、新資料の受付を制限する運用を行っていました。機構の説明によれば、これは申請件数の急増により処理が滞ったことへの対応として採られた措置でした。
しかし、この運用については、機構の紛争処理業務規程第15条第1項第2号(紛争処理は「申請者から提出された資料」に基づき行う旨の規定)に抵触するのではないか、被害者保護という設立目的に反するのではないかという指摘が寄せられていました。こうした経緯を踏まえ、機構は令和5年8月にこの運用を廃止し、新資料が添付された申請があった場合でもその受付を行うよう改善しています。また、令和5年11月18日には、監督官庁である国土交通省から、業務規程第15条第1項第2号に基づき被害者から提出された資料を適切に受理し、紛争処理を行うよう行政指導を受けたことも公表されています。
実務上も、申請書には自賠責保険会社に提出済みの資料のほかに新たに提出する資料があるかどうかを記載する欄が設けられています。したがって、新資料があること自体が申請の妨げになるわけではありません。
もっとも、機構は、新たな医証を提出したい場合について、自賠責保険会社への異議申立てを案内したうえで、機構として資料の受付をして紛争処理を行うこともできる旨を説明しています。つまり、どちらの手続で新資料を使うかは、申請者が選ぶことになります。紛争処理が原則一回であることを踏まえると、先に異議申立てで再検討を求め、第三者の判断を後に残すという順序も、十分に検討に値します。
過去に新資料の受付を制限された方へ
機構は、上記の運用によって不利益を受けた可能性がある申請者を対象に、相談対応の窓口を設けています。平成25年11月から令和5年7月末までの間に申請し、新資料を受け付けてもらえなかった、あるいは取下げを促されたという方は、機構の相談窓口に問い合わせることが考えられます。機構は、過去の案件について確認し、対応が可能と判断されるものについては再申請の案内をすると説明しています。心当たりのある方は、当時の申請書の控えや通知書を確認したうえで、ご相談ください。
費用
機構は、審査費用は原則無料としています。紛争処理業務規程にも、紛争処理に係る費用は機構が負担する旨が定められています。
もっとも、手続に関連して申請者側の負担となる費用はあります。医療機関から診断書や画像データを取り寄せる費用、郵送で申請する場合の郵送料、弁護士に依頼する場合の弁護士費用は自己負担です。「一切費用がかからない」というわけではありませんので、資料の取得計画とあわせてご検討ください。
時効と、申請できる期限
期限に関する事項は、制度ごとに根拠も起算点も異なります。混同しないよう整理してください。
| 対象 | 内容 |
|---|---|
| 自賠責への請求権(条文) | 自賠法第16条第1項等による請求権は、被害者又はその法定代理人が「損害及び保有者を知つた時」から3年を経過したときは、時効によって消滅します(自賠法第19条) |
| 自賠責の請求期限(行政の案内) | 国土交通省の案内では、加害者請求は被害者に賠償金を支払った日から3年以内、被害者請求は事故が起こった日から3年以内、死亡の場合は死亡日から、後遺障害の場合は症状固定日からそれぞれ3年以内とされています。平成22年3月31日以前に発生した事故については2年です |
| 紛争処理を申請できる期限 | 一括払により交渉が続いている場合は、交渉期間中であればいつでも申請できるとされています。それ以外の場合は時効の期間内である必要があり、請求の時効が完成していると申請できません |
| 申請と時効の関係 | 紛争処理の申請をしても、時効は更新されません。機構は、時効更新の手続を自賠責保険会社に依頼するよう案内しています |
| 加害者に対する損害賠償請求権 | 自賠責への請求権とは別の権利であり、根拠となる規定も起算点も異なります。事故の時期によって適用される規定が異なることもあります |
同じ「3年」でも、条文の文言(損害及び保有者を知った時から)と、行政の案内(損害の種類ごとの起算点)とでは示され方が異なります。ご自身の事案でいつが起算点になるのかは、事故日、症状固定日、請求日、通知を受けた日を書き出したうえで確認する必要があります。期限が近いと感じたら、まず時効更新の手続について自賠責保険会社に確認し、あわせて提訴の要否を検討してください。保険会社等へ連絡をしたことだけで時効を更新できると考えるのは適切ではなく、どの請求権について、どのような内容の承認が、いつ、どのような書面でされたのかを確認する必要があります。
自賠法第23条の14による時効の完成猶予
紛争処理と時効については、法律上、次の特則があります。紛争処理による解決の見込みがないことを理由に機構が紛争処理を打ち切った場合において、申請をした当事者がその旨の通知を受けた日から1か月以内に、紛争処理の目的となった請求について訴えを提起したときは、時効の完成猶予に関して、紛争処理の申請の時に訴えの提起があったものとみなされます(自賠法第23条の14第1項)。
なお、紛争処理の打切りについては、機構の業務規程にも、不受理事由に該当する場合又は紛争処理による解決の見込みがないと認められるときに打ち切ることができる旨が定められています。
この規定は、これらの要件を満たす場合の定めです。申請者による自主的な取下げ、不受理、通常の調停結果には当然には及びません。「申請しておけば時効は何とかなる」という理解は誤りですのでご注意ください。
示談、他の機関、係属中の訴訟との関係
示談等により当事者間の紛争が既に解決している場合、申請は受け付けられないとされています。示談書や免責証書に署名する前に、後遺障害の申請や不服の手続が終わっているかを確認してください。
他の紛争解決機関に和解あっ旋等を申し出ている場合も、そのままでは申請できません。中断・中止・終結の手続をとれば申請できるとされていますので、まず現在の手続の状況を整理することになります。逆に、交通事故紛争処理センターの案内では、申立人が紛争処理機構に調停を申し立てている間は和解あっ旋が停止されることがあるとされており、影響は双方向に及びます。複数の窓口を並行して使うことは想定されていないとお考えください。
自賠法第23条の15による訴訟手続の中止
訴訟が係属している場合でも、申請自体はできます。受理するかどうかは、裁判の内容等を踏まえて個別に判断され、後日文書で回答されるとされています。
これとは別に、自賠法第23条の15は、当事者間に訴訟が係属している場合において、機構による紛争処理が実施されているなどの事由があり、かつ当事者の共同の申立てがあるときに、受訴裁判所が4か月以内の期間を定めて訴訟手続を中止する決定をすることができると定めています。申請をすれば係属中の訴訟が自動的に止まる、というものではありません。裁判所はいつでもこの決定を取り消すことができ、申立てを却下する決定や取消しの決定に対して不服を申し立てることはできません。
調停結果と、その後
調停結果はどう受け止めればよいか
審査の結果は、申請者と相手方の双方に文書で通知されます。機構は、調停結果を守ることについては自賠責保険(共済)の約款等に定められていると説明しています。
もっとも、調停の結果は判決と同じ効力を持つものではありません。既判力があるわけではなく、そのまま強制執行ができる債務名義になるものでもありません。申請者、加害者、裁判所が一律に拘束されるという性質のものでもなく、裁判所は自賠責の認定や紛争処理の結果に当然に拘束されるわけではありません。
結果に納得できない場合
機構への再度の申請はできません。加害者や自賠責保険会社等を相手として訴訟を提起し、解決を図ることになります。国土交通省の案内では、調停結果に不服がある場合に再度異議申立てを行うか、訴訟を提起できるとされています。いずれにしても、調停の結果によってその後の道が閉ざされるわけではありません。
訴訟で争う範囲と立証
訴訟を検討する場合、誰を相手に、どの請求をするかは事案により異なります。自賠責保険者に対する直接請求の訴訟と、加害者に対する損害賠償請求の訴訟とでは、相手方、請求できる範囲、金額の上限が異なり得ます。
また、注意していただきたいのは、裁判所が自賠責の等級そのものを変更したり、再認定したりするわけではないという点です。裁判所が判断するのは請求の当否であり、後遺障害が残っているか、それが事故によるものか、損害はいくらかといった事項を、提出された証拠に基づいて判断します。
さらに、調停の結果に基づいて自賠責から追加の支払があったとしても、それは加害者に対する損害賠償全体の解決や示談の成立とは別のことです。同一視しないようご注意ください。
弁護士に相談するタイミング
次のような場面では、資料を確認したうえで対応方針を整理することで、判断材料が揃いやすくなります。結果を保証するものではありませんが、手続の選択を誤るリスクを減らすことにつながります。
- 通知書の理由を読んでも、どこを争えばよいか分からないとき
- 原則一回の申請を、いま行ってよいか迷っているとき
- 新たな資料を、異議申立てと紛争処理申請のどちらで使うべきか判断がつかないとき
- 事故日や症状固定日から時間が経っており、期限が気になるとき
- 示談を提示されており、署名の可否を判断しなければならないとき
- 他の紛争解決機関の手続や訴訟が進行しており、複数の手続の関係を整理する必要があるとき
- 自賠責の支払判断にとどまらず、損害賠償全体を争うかどうかを検討したいとき
- 平成25年11月から令和5年7月末までの間に申請し、新たな資料を受け付けてもらえなかったとき
異議申立て、紛争処理機構への申請、訴訟のいずれを検討するかは、争う範囲、手元の資料、期限の状況によって変わります。通知書、提出済み資料の控え、示談の提示内容、他の手続の進行状況をご確認のうえご相談いただければ、資料に基づいて対応方針を整理できます。
当事務所では、交通事故に関する初回のご相談を無料でお受けしています(事前予約制。着手金も原則として無料です)。交通事故については、可能な範囲でお電話での無料相談にも対応しています。受付時間は9:00〜20:00で、時間外・土日祝日のご相談やオンラインでのご相談も、事前のご予約により承ります。
よくある質問
異議申立てをせずに紛争処理機構へ申請できますか。
できます。異議申立てを経ることは要件とされていません。国土交通省の案内でも、新たな立証資料を添えて異議申立てを行うか、紛争処理機構へ調停の申請を行うことができると並べて説明されています。ただし、まず保険会社・共済組合に請求し、支払に関する判断を受けていることが前提です。順序をどうするかは、資料の内容と争点により変わります。
紛争処理機構へ申請できるのは何回ですか。取り下げた場合はどうなりますか。
同一の紛争について原則一回です。結果に納得できない場合でも再度の申請はできず、訴訟によることになります。ただし、申請の取下げはいつでもでき、既に紛争処理を行った事案でなければ、取り下げた後に改めて申請することは可能とされています。数え方は事故単位ではなく紛争の同一性ですので、何が同一の紛争に当たるかは個別に確認が必要です。
初回請求や異議申立てで出していない新しい医証も提出できますか。
できます。機構は令和5年8月に運用を改め、自賠責への請求時に提出していない資料が添付された申請でも受付を行うこととしています。それ以前は受付を制限する運用がされていましたので、古い解説にはご注意ください。もっとも、新資料を異議申立てで使うか紛争処理申請で使うかは選択の問題です。紛争処理が原則一回であることを踏まえ、順序をご検討ください。
申請にはどのような費用がかかりますか。
機構の審査費用は原則無料とされ、業務規程上も紛争処理に係る費用は機構が負担するとされています。ただし完全に無料というわけではありません。診断書や画像データを医療機関から取り寄せる費用、郵送で申請する場合の郵送料、弁護士に依頼する場合の弁護士費用は自己負担になります。
結果が出るまでどのくらいかかりますか。審査に出席する必要はありますか。
所要期間は紛争の内容により異なるとされ、標準的な処理期間は公表されていません。解説記事で見かける月数は公式に示されたものではありませんので、目安として扱わないほうが安全です。出席は不要です。機構は、提出された書類をもとに審査するため来所の必要はなく、当事者が話し合う場ではないと明確に説明しています。
申請すると時効はどうなりますか。時効の更新と完成猶予は違いますか。
機構は「紛争処理申請を行っても時効は更新されません」と明示しており、時効更新の手続を自賠責保険会社に依頼するよう案内しています。更新は時効期間が新たに進行を始めること、完成猶予は完成が一定期間先送りされることを指し、効果が異なります。なお自賠法第23条の14は、解決の見込みがないことを理由に打ち切られ、その通知を受けた日から1か月以内に、紛争処理の目的となった請求について訴えを提起した場合の特則であり、取下げや不受理、通常の調停結果に当然に及ぶものではありません。
既に訴訟中でも申請できますか。申請すれば訴訟は止まりますか。
申請自体はできます。受理するかどうかは裁判の内容等を踏まえて個別に判断され、後日文書で回答されるとされています。訴訟は自動的には止まりません。自賠法第23条の15は、機構による紛争処理が実施されているなどの事由があり、かつ当事者の共同の申立てがあるときに、裁判所が4か月以内の期間を定めて訴訟手続を中止する決定をすることができると定めるもので、裁判所の判断を必要とします。
調停結果に納得できない場合はどうなりますか。
機構への再度の申請はできず、加害者や自賠責保険会社等を相手として訴訟を提起することになります。国土交通省の案内では、再度異議申立てを行うか訴訟を提起できるとされています。誰を相手にどの請求をするかは事案により異なり、自賠責保険者への直接請求訴訟と加害者に対する損害賠償訴訟とでは、相手方、請求範囲、上限が異なり得ます。調停の結果は判決と同じ効力を持つものではありません。
まとめ
- 紛争処理機構は、自賠法に基づく指定紛争処理機関であり、弁護士、医師、学識経験者からなる紛争処理委員が、自賠責保険・共済の支払に関する紛争について調停を行います。監督官庁は国土交通省と金融庁です。
- 申請できるのは、被害者(死亡事故の場合は遺族)、加害者(被保険者)、保険会社・共済組合、これらの代理人です。ご家族が申請する場合は代理人としての手続になり、委任状が必要です。
- 対象は後遺障害の等級に限られません。過失の有無・過失割合、因果関係、休業損害の認定額、看護料なども対象です。物損のみの事故や、ご自身が契約する人身傷害補償型の保険は対象外です。
- 示談で解決済みの場合、他機関で手続中の場合、時効が完成している場合などは受け付けられません。
- 同一の紛争について原則一回です。ただし取下げはいつでもでき、紛争処理を行っていない事案であれば取下げ後の再申請は可能とされています。
- 新たな資料は提出できます。令和5年8月に運用が改められました。過去に受付を断られた方への相談窓口も設けられています。
- 申請方法はオンライン(フォーム入力・書類アップロード)と郵送の三つで、審査の内容や結果に違いはありません。申請から調停結果通知までは五段階で、間に受理判断があります。
- 審査費用は原則無料ですが、資料の取得費や郵送料は自己負担です。標準処理期間は公表されていません。
- 申請しても時効は更新されません。時効更新の手続は自賠責保険会社に依頼するよう案内されています。自賠法第23条の14の完成猶予には要件があります。
- 申請だけで係属中の訴訟は止まりません。自賠法第23条の15の中止には、当事者の共同の申立てと裁判所の決定が必要です。
- 調停結果は判決と同じ効力を持つものではなく、納得できない場合は訴訟を検討することになります。
- 次の一歩としては、通知書の理由の書き出し、提出済み資料の一覧化、争点整理表の作成、期限の確認、そして手続の選択という順序が取り組みやすいものです。
監修者・執筆者
藤井 貴之(ふじい たかゆき)
弁護士・公認会計士/兵庫県弁護士会所属・日本公認会計士協会兵庫会所属
弁護士法人ひょうご支所 神戸みらい法律会計事務所 代表弁護士
交通事故、相続、企業法務、労働問題、損害賠償など、個人・法人双方の法律相談に対応しています。交通事故の事案では、後遺障害に関する判断への対応、手続の選択、示談内容の検討など、資料に基づく方針の整理を行っています。
所在地:兵庫県神戸市須磨区中落合2丁目2-5 名谷センタービル7階
参考資料(本文で参照した公的資料・公式情報)
- e-Gov法令検索「自動車損害賠償保障法」(デジタル庁)
- 自賠責保険・共済紛争処理機構「紛争処理制度について」
- 同「申請ができる方」
- 同「紛争処理の流れ」
- 同「申請方法」
- 同「申請書類一覧」
- 同「申請書別紙の記入例」
- 同「よくあるご質問」
- 同「法律・定款・規程」(紛争処理業務規程を含む)
- 同「トップメッセージ(理事長)」(新資料の受付に関する運用改善の経緯)
- 国土交通省「支払に疑問、不服がある場合には」
- 国土交通省「自賠責保険・共済ポータルサイト よくあるご質問」
- 国土交通省「政府保障事業(ひき逃げ事故・無保険車事故)」
- 損害保険料率算出機構「当機構で行う損害調査」
- 公益財団法人交通事故紛争処理センター「ご利用について」
本記事は、一般的な情報提供を目的としたものであり、個別の事案に対する法的助言を行うものではありません。申請の可否、対象となる争点、必要な資料、期限の取扱い、手続の選択に関する結論は、提出済みの資料、通知の内容、事故の時期、他の手続の進行状況その他の個別事情により異なります。制度の運用や申請方法は変更されることがありますので、実際のお手続にあたっては、必ず最新の公式情報をご確認のうえ、弁護士にご相談ください。

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