交通事故でけがをして治療や示談交渉を続けていたところ、ある日、裁判所から「訴状」や「口頭弁論期日呼出状」などの書類が届き、そこに自分の名前が「被告」として記載されていた――。加害者側が先に裁判を起こす「債務不存在確認請求訴訟」と呼ばれる手続で、交通事故の被害者がこのような立場に置かれることがあります。
最初に結論をお伝えします。訴状が届いた時点で、加害者側の主張が正しいと認められたわけではありません。裁判はこれからであり、被害者側には反論と立証の機会があります。他方で、裁判所からの正式な書類である以上、放置は禁物です。まずは訴状一式と届いたときの封筒を保管し、答弁書の提出期限と第1回口頭弁論期日を確認してください。
この記事では、次の点を解説します。
- 交通事故の債務不存在確認請求訴訟の意味と、被害者が「被告」になる理由
- 訴状が届いた直後に確認・保存すべきもの
- 答弁書を提出せずに放置した場合に生じ得ること
- 答弁と反訴の違い、反訴を検討すべき場合
- 治療中・後遺障害未確定の段階で訴えられた場合の考え方
- 誰がどの事実を立証し、どのような資料を準備するのか
- 時効・判決の効力・弁護士費用特約に関する注意点
訴状を受け取り、対応にお迷いの方へ。神戸みらい法律会計事務所では、交通事故の損害賠償に関するご相談をお受けしています。訴状や保険会社とのやり取りを確認したうえで、答弁書の準備、反訴の要否、証拠の集め方といった対応の順序を整理できます。答弁書の提出期限が迫っている場合は、お早めにご相談ください。
交通事故の債務不存在確認請求訴訟とは
債務不存在確認請求訴訟とは、「自分は相手に対して債務(支払義務)を負っていない」ことの確認を裁判所に求める訴訟です。交通事故の場面では、加害者側が原告となり、被害者に対する損害賠償債務が「存在しない」こと、又は「一定額を超えては存在しない」ことの確認を求める形で使われます。「債務」という言葉から借金の問題を連想する方も多いのですが、ここでの債務は、交通事故によって生じた損害賠償の支払義務を指します。
誰が誰を訴える手続なのか
通常の交通事故訴訟では、被害者が原告となり、加害者側を被告として損害賠償を請求します。債務不存在確認請求訴訟ではこの関係が逆になり、賠償義務を負うと主張される側(相手方の運転者のほか、車の保有者や運転者の勤務先の会社などのこともあります)が原告、損害賠償を請求する立場の被害者が被告となります。
「被告」は、民事訴訟で訴えられた側を指す手続上の呼び名にすぎません。刑事事件で罪を問われる「被告人」とは全く別のものであり、被告と記載されたからといって、悪いことをしたと扱われているわけでも、責任があると判断されたわけでもありません。
また、訴訟の準備や進行には加害者側の任意保険会社が関与していること(弁護士の選任など)が多くありますが、保険会社自身が常に原告になるわけではありません。誰が原告なのかは、思い込みではなく訴状の当事者欄で確認してください。
債務の全部を争う場合と一定額を超える部分を争う場合
請求の内容には、大きく分けて、損害賠償債務が全く「存在しない」ことの確認を求める型と、「一定の金額を超えては存在しない」ことの確認を求める型があります。後者は、加害者側が一定額の支払義務は認めたうえで、それを超える請求を争う形です。
対象が人身損害だけか物的損害を含むか、支払済みの治療費などの既払金や遅延損害金をどう扱っているかは、訴状の「請求の趣旨」と「請求の原因」の記載によって異なります。どの範囲が争われているかは一般論では決められず、実際の訴状で確認する必要があります。
確認判決と金銭の支払を命じる給付判決の違い
債務不存在確認請求訴訟の判決は、債務の有無や範囲を確定する「確認判決」です。権利関係を確定させる効力は持ちますが、相手に支払を命じるものではないため、これに基づいて強制執行はできません。これに対し、相手に金銭の支払を命じる判決は「給付判決」と呼ばれ、確定すれば強制執行の根拠になります。
被害者側から見ると、加害者側の確認請求(本訴)を退けさせただけでは、賠償金の支払を命じる判決を得たことにはなりません。この違いが、後で説明する「反訴」を検討する理由につながります。
被害者なのに訴えられるのはなぜか
加害者側が先に提訴する背景には、多くの場合、示談交渉での対立があります。治療期間、症状固定の時期、因果関係、過失割合、既払金の清算などで話合いがまとまらないときに、裁判所の判断で支払義務の有無や範囲を確定させようとして提訴されることがあります。
提訴の目的や当否は事案によりさまざまであり、加害者側の提訴が常に不当なものとは限りません。他方で、訴えられたからといって、被害者の請求が否定されたわけでもありません。大切なのは、感情的に受け止めすぎず、どの点が争われているのかを訴状から読み取ることです。
| 争いになりやすい事項 | 加害者側の主張の例 |
|---|---|
| 治療の必要性・治療期間 | 治療が長すぎる、一定時期以降の治療は賠償の対象でない |
| 症状固定の時期 | すでに症状固定しており、以後の治療費や休業損害は対象でない |
| 事故と症状の因果関係 | 症状は事故ではなく既往症など他の原因によるものである |
| 過失割合 | 被害者側にも相応の過失がある |
| 休業損害 | 休業の必要性がない、収入の裏付けがない |
| 後遺障害・逸失利益 | 後遺障害は残っていない、程度が争われている |
| 既払金の清算 | 治療費等は支払済みであり、追加の支払義務はない |
上記は典型例です。実際に何が争われているかは訴状によって異なり、複数の項目が同時に問題になることもあります。
訴状が届いたら最初に確認すること
訴状と同封の書類には、答弁書の提出期限や期日など、対応の起点となる情報が記載されています。次の順序で確認し、封筒も含めてすべて保管してください。
| 確認する項目 | 確認のポイント |
|---|---|
| 裁判所名・事件番号・担当部(係) | 問い合わせや書面提出の宛先になります |
| 原告・原告代理人の表示 | 運転者本人か、保有者・会社か。代理人弁護士名も確認します |
| 訴状を受け取った日・封筒 | 受領日をメモし、封筒も送達の記録として保管します |
| 答弁書の提出期限 | 同封の書面(答弁書催告状など)の記載が基準です。一律の日数ではありません |
| 第1回口頭弁論期日 | 日時・場所(ウェブ会議の案内があればその内容)を確認します |
| 請求の趣旨 | 全部不存在型か、一定額を超えない旨の確認か。認められている金額の有無も見ます |
| 請求の原因・争点 | どの事実・どの損害項目が争われているかを読み取ります |
| 添付された証拠(書証) | 相手方の根拠資料(診断書、事故状況の資料など)を確認します |
| 既払金の内訳 | 治療費・休業損害など支払済みとされる金額の内訳を確認します |
| 治療・後遺障害の現在地 | ご自身の治療状況、症状固定・後遺障害申請の段階を整理します |
| 弁護士費用特約の有無 | 本人・家族の自動車保険・火災保険などの特約を確認します |
なお、裁判所は手続の一般的な案内には応じてくれますが、どのように答弁すべきかといった法律相談はできません。裁判所から届く書類全般の見方と初動は、関連記事「裁判所から書類が届いた場合の初動を確認する」でも解説しています。
訴状を放置した場合に生じ得ること
答弁書を提出せず、口頭弁論期日にも出頭しない場合、原告の主張した事実を争わないもの(認めたもの)とみなされることがあります(民事訴訟法第159条)。裁判所も、被告が答弁書等で請求を争う意思を示していない限り、原告の請求どおりの判決が言い渡される可能性があると案内しています。
債務不存在確認請求訴訟でこれが起こると、「損害賠償債務は存在しない」ことなどを確認する判決がされ、そのまま確定してしまうおそれがあります。判決が確定すると、その訴訟で争われた範囲については、後から損害賠償を請求することが困難になります。「放置すれば自動的に敗訴が確定する」という単純なものではありませんが、回復の難しい重大な不利益につながり得るため、記載された期限までの対応が重要です。
仕事や体調、裁判所が遠方であることなどから対応が難しい場合も、そのまま放置せず、早めに弁護士に相談するか、訴状に記載された担当部に連絡して対応方法を確認してください。
被害者側が検討する主な対応
訴状の内容と治療・損害の状況によって、取り得る対応は変わります。主な選択肢は次のとおりです。
答弁書で請求と事実関係を争う
答弁書は、原告の請求に対する被告側の最初の応答です。「請求を棄却するとの判決を求める」という請求への答弁と、請求の原因に記載された事実への認否・反論を記載します。注意したいのは事実の認否です。深く考えずに「認める」とした事実は、後から争うことが難しくなる場合があります。損害額や既払金の前提に誤りがないかも含め、訴状全体を確認して作成します。答弁書に何をどこまで書くかは訴状の内容によって変わるため、ひな型をそのまま流用することは避けてください。
確認の利益がないとの主張を検討する
確認の訴えは、判決で権利関係を確定することが、紛争の解決にとって必要かつ適切といえる場合に認められます。この必要性を「確認の利益」と呼びます。民事訴訟法に定義の条文が置かれているわけではなく、判例・実務の積み重ねによって認められてきた訴訟の要件です。
損害がまだ固まっていない段階での提訴などでは、この確認の利益の有無が争いになることがあります。確認の利益を欠くと判断されると、訴えは「却下」されます。却下は、請求の中身を判断せずに訴えを不適法とする判断であり、中身を審理したうえで請求に理由がないとする「棄却」とは異なります。もっとも、訴えが却下されても紛争そのものがなくなるわけではないため、確認の利益を争うことが最善かどうかは個別の検討が必要です。
損害賠償請求の反訴を検討する
被害者側から、同じ訴訟手続の中で、加害者側に損害賠償金の支払を求める訴えを起こすことができます。これを反訴といいます。本訴への防御にとどまらず、支払を命じる判決を目指す対応であり、この訴訟類型では特に重要な選択肢です。詳しくは次の章で説明します。
訴訟上の和解を検討する
訴訟中も、裁判所の関与のもとで和解により解決できます。支払額だけでなく、既払金の扱い、支払時期、対象となる損害の範囲、清算条項の確認が重要です(後述します)。
管轄・移送など手続上の問題を確認する
訴えは、事故地や当事者の住所地などを基準に管轄のある裁判所に提起されます。遠方の裁判所に提訴された場合は、審理の遅滞を避けるためなどの移送(民事訴訟法第17条)の申立てを検討できることがあり、期日についてはウェブ会議による参加も広がっています。管轄や手数料は請求の範囲・訴額の評価によって異なるため、個別に確認します。
答弁書をどう書くか、反訴まで行うかは、訴状と資料を見なければ判断できません。神戸みらい法律会計事務所では、訴状、診断書などの医療資料、保険会社とのやり取りを確認したうえで、答弁・反訴・証拠収集・和解の進め方を整理するお手伝いをしています。
反訴とは何か|必ず提起する必要があるのか
答弁だけでは支払を命じる判決を得られない
答弁は、原告の請求(債務不存在の確認)に対する防御です。答弁で本訴を退けさせても、それだけでは加害者側に支払を命じる判決を得たことにはなりません。賠償金の支払まで求めるのであれば、同じ手続の中で損害賠償請求の反訴を提起し、認容判決(給付判決)を得ることが重要な選択肢になります。
ポイント:本訴への反論(答弁)は「守り」、反訴は「支払を求める攻め」です。支払を命じる判決まで求めるかどうかが、反訴を検討する分かれ目になります。
反訴の要件と時期
反訴は、本訴の目的である請求又は防御の方法と関連する請求について、口頭弁論の終結に至るまで提起できます(民事訴訟法第146条)。債務不存在確認の本訴に対する損害賠償請求の反訴は、同じ交通事故をめぐる表裏の請求ですから、この関連性は通常問題になりません。ただし、反訴の提起には申立手数料が必要で、控訴審での反訴には相手方の同意が必要とされるなど、時期や手続の制約もあります。
反訴を提起すると本訴はどうなるのか
最高裁は、債務の不存在確認を求める本訴の係属中に、その債務の支払を求める反訴が提起された場合には、もはや本訴について確認の利益を認めることはできない、という判断を示しています(最高裁平成16年3月25日判決・民集58巻3号753頁)。反訴(給付の訴え)の審理の中で債務の存否と金額が直接判断されるため、確認だけを目的とする本訴を維持する意味が失われる、という考え方です。この最高裁判決自体は保険金の支払債務が問題となった事案ですが、示された考え方は、債務の種類を限定しない一般的なものと理解されています。
交通事故の事案でも、加害者側の債務不存在確認の本訴を却下したうえで、被害者側の反訴に基づき損害賠償の支払を命じた裁判例があります(大阪高裁平成18年9月28日判決)。
ただし、この結論がどの事案にもそのまま当てはまるわけではありません。反訴が損害の一部だけを請求するものである場合や、本訴と反訴の対象範囲が一致しない場合に本訴の扱いがどうなるかは、事案ごとの検討が必要です。
反訴は義務ではない|検討の視点
反訴は義務ではありません。反訴をしなかったからといって、直ちに損害賠償請求権を失うわけでもありません。もっとも、次の事情を考え合わせると、反訴の要否と時期は早い段階で検討しておくべき事項です。
- 本訴だけで審理が進み、債務の不存在を確認する判決が確定すると、その範囲では後からの請求が困難になること
- 治療や後遺障害の状況によって、請求できる損害の範囲・金額の見通しが変わること
- 応訴や反訴の内容が、消滅時効の管理に影響し得ること(後述)
- 反訴には手数料と立証の準備が必要で、全部請求か一部請求かの判断も必要になること
今の時点で確定している損害に限って反訴するのか、後遺障害による損害まで含めて請求するのかは、まさに事案ごとの判断です。資料を確認したうえで方針を立てることをおすすめします。
治療中・後遺障害未確定で提訴された場合
治療の途中や、後遺障害等級の認定前に提訴されるケースは少なくありません。この場合でも、治療中であることだけを理由に、訴えが当然に却下されるとは限りません。他方で、損害がまだ固まっていない段階での確認請求には、確認の利益などの面で争う余地が生じることもあり、その判断は個別の事情によって分かれます。
被害者側として押さえておきたいのは、次の点です。
- 保険会社から治療費の支払を打ち切られたことと、症状固定とは別の問題です。症状固定の時期は、相手方や保険会社の主張だけで決まるものではなく、医師の判断を踏まえて検討されます
- 通院の経過、症状の推移、検査結果、仕事や生活への影響は、診療の記録や日々のメモとして残しておきます
- 後遺障害が残る可能性がある場合には、自賠責保険の等級認定手続と訴訟の進行をどのように並行させるかも検討事項になります。自賠責の認定結果は実務上参考にされることが多いものの、民事裁判所を法的に拘束するものではありません
- 治療を続けるかどうかは医学上の判断を含む問題です。訴訟対応のために自己判断で治療を中断したり、必要のない通院を続けたりせず、治療方針は主治医と相談してください
治療中に反訴を提起する場合には、現時点で確定している損害に限って請求するのか、後遺障害部分をどう扱うのかなど、請求の範囲の組み立てに検討が必要です。この点も含めて、方針は資料を踏まえて判断することになります。
誰が何を立証するのか
「訴えたのは加害者側だから、立証もすべて加害者側がする」と考えるのは誤解です。債務不存在確認訴訟でも、誰がどの事実について主張・立証の責任を負うかという分配は、通常の損害賠償請求訴訟の場合と基本的に変わらないと考えられています。被害者は形式上「被告」ですが、損害賠償請求権の発生を基礎づける事実、たとえば事故の発生、受傷、事故と症状の因果関係、損害の内容・金額などについては、被害者側が具体的な主張と資料を示していく必要があります。
責任の根拠によっても立証の構造は異なります。民法第709条(不法行為)に基づく請求では、加害者の故意・過失にあたる事実を被害者側が立証する必要があります。これに対し、人身損害について自動車損害賠償保障法第3条(運行供用者責任)に基づく場合は、運行供用者側が、運行に関し注意を怠らなかったことなど法律の定める免責の要件をすべて立証しない限り責任を免れない仕組みで、立証の負担が実質的に転換されています(物的損害には適用されません)。
他方、すでに支払ったという主張(弁済・既払)や、被害者側の過失を理由とする過失相殺の基礎になる事実などは、基本的に、それを主張する加害者側が立証すべき事項です。人身傷害保険金や労災給付などの控除・調整の扱いは項目ごとに考え方が異なるため、一括りに論じることはできません。
| 主な争点 | 主に問題となる事実 | 主な確認資料 |
|---|---|---|
| 事故態様・過失割合 | 信号・速度・道路状況・衝突の状況 | 交通事故証明書、実況見分調書等の刑事記録、ドライブレコーダー映像、現場写真 |
| 責任の主体・根拠 | 運転者の過失、運行供用者・使用者の立場 | 車検証、登録事項証明書、勤務関係の資料 |
| 受傷・因果関係 | 事故直後の受診状況、症状の連続性 | 診断書、診療録、画像・検査結果 |
| 治療の必要性・期間 | 通院頻度、治療内容、症状の経過 | 診療報酬明細書、通院記録 |
| 症状固定・後遺障害 | 症状固定の時期、残存症状の内容・程度 | 後遺障害診断書、等級認定票、画像・検査結果 |
| 休業損害・逸失利益 | 休業の必要性、収入の実態 | 休業損害証明書、給与明細、源泉徴収票、確定申告書 |
| 既払金・控除 | 支払の内訳、各種給付との調整 | 保険会社の支払通知、振込記録、給付決定通知 |
表の「確認資料」は、法律上の立証責任がどちらにあるかにかかわらず、被害者側が実際に準備しておくべき資料という観点で整理しています。
訴訟対応で準備する資料
相手方の主張に対応させる形で資料を整理すると、答弁や反訴の準備が進めやすくなります。
| 相手方の主張の例 | 確認・反論する事項 | 主な資料 |
|---|---|---|
| 治療が長すぎる・過剰である | 治療の必要性・相当性、通院頻度の理由 | 診断書、診療録、診療報酬明細書、画像・検査結果 |
| すでに症状固定している | 症状の推移、医師の判断、治療による改善の状況 | 診療録、医師の意見、後遺障害診断書 |
| 症状は事故と関係がない | 受傷の機転、事故直後からの症状の連続性 | 事故直後の診断書、通院記録、既往症に関する資料 |
| 被害者側の過失が大きい | 事故態様、道路状況、信号・速度 | 実況見分調書等の刑事記録、ドライブレコーダー映像、現場写真 |
| 休業の必要性・収入額に疑問がある | 休業の指示・必要性、収入の裏付け | 休業損害証明書、給与明細、源泉徴収票、確定申告書 |
| 既払金で清算済みである | 支払の内訳と対象損害の対応関係 | 保険会社の支払通知、振込記録、示談の提示書面 |
あわせて、次の資料は事案を問わず保管しておくことをおすすめします。
- 訴状・証拠説明書・書証の写し・期日呼出状・答弁書催告状と、届いたときの封筒
- 保険会社や相手方との電話・メール・書面のやり取り(日時のメモを含む)
- 治療費・通院交通費・装具などの領収書
- ご自身とご家族の保険証券・約款(弁護士費用特約の確認用)
訴訟の流れと解決方法
一般的な流れは、訴状の送達、答弁書の提出、口頭弁論・争点整理(主張書面と証拠の提出を重ねる手続)、必要に応じた反訴の提起、当事者尋問・証人尋問と進み、和解(各段階であり得ます)が成立しなければ判決、という順序です。どのくらいの期間がかかるかは、争点の数、鑑定の要否、治療の状況などによって大きく異なるため、一概にはいえません。
なお、令和8年5月21日以降に提起された民事訴訟では、手続のデジタル化が全面的に実施されています。弁護士などの訴訟代理人にはオンラインでの申立て・書面提出が義務付けられる一方、代理人を付けない本人は、これまでどおり紙の書面でも提出できるとされています。書類の受け取り方(システム送達)や手数料の納付方法も従来の事件と異なるため、具体的な方法は裁判所から届く案内や裁判所ウェブサイトで確認してください。
解決の形には、訴えを不適法とする却下、請求に理由がないとする棄却、請求を認める認容(全部・一部)の判決があり、反訴を提起した場合には反訴についての判決もされます。また、判決まで進まず、訴訟上の和解によって解決することも多くあります。どの形を目指すかは、立証の見通し、時間、費用、治療の状況を踏まえた総合判断です。
時効・判決の効力・清算条項で注意すること
消滅時効を自己判断しない
交通事故の損害賠償に関する権利には、請求の相手方や損害の種類によって異なる時効・期間制限があります。民法上、人の生命・身体の侵害による損害賠償請求権には物的損害とは異なる期間が定められており(民法第724条・第724条の2)、自賠責保険への被害者請求には自動車損害賠償保障法上の別の期間の定めがあります(同法第19条)。
注意したいのは、「訴訟が始まったから時効はもう心配ない」と考えてしまうことです。加害者側が起こした本訴に応訴して権利を主張した場合や、反訴を提起した場合に、どの請求権のどの範囲について時効の完成猶予・更新の効果が生じるかは、訴訟の経過や終わり方によって異なり得ます。時効の管理は自己判断せず、起算点と満了時期を確認しながら進めてください。時効の基本的な考え方は、関連記事「交通事故の損害賠償請求権の時効を確認する」で解説しています。
判決の効力の範囲
判決が確定すると、その訴訟で判断された範囲については、原則として後から蒸し返して争うことができなくなります(既判力)。債務不存在確認の判決だけがされた場合と、反訴に基づく給付判決がされた場合とでは、確定する内容も、強制執行との関係も異なります。また、口頭弁論の終結後に判明した損害や、その時点では予測の難しかった後遺障害をどのように扱うかは複雑な問題であり、「判決後は一切請求できない」「後からいつでも追加請求できる」のいずれの断定も正確ではありません。判決の効力が及ぶ範囲は、事案に即した検討が必要です。
和解の清算条項に注意する
訴訟上の和解をする場合、和解条項には通常、「当事者間には、本件に関し、この和解条項に定めるもののほかに債権債務がないことを相互に確認する」といった清算条項が入ります。清算条項の書き方によって、後から後遺障害が問題になった場合などの扱いが変わり得るため、金額だけでなく条項の内容まで確認することが大切です。示談案・和解案を検討する際の確認項目は、関連記事「交通事故の示談案で確認すべき項目を見る」で整理しています。
弁護士に相談するタイミング
次のような場面では、早めの相談をおすすめします。
- 訴状が届いた直後(答弁書の提出期限の前)
- 答弁書を自分で提出したものの、その後の進め方に迷いがあるとき
- 反訴をするかどうか、どの範囲でするかを判断するとき
- 治療中・後遺障害の認定前に提訴され、症状固定や因果関係を争われているとき
- 相手方から和解案・示談案を示されたとき
弁護士に相談したからといって、結果が保証されるわけではありません。ただ、訴状と医療資料・保険資料を確認することで、争点がどこにあるのか、どの証拠を優先して集めるべきか、答弁・反訴・和解をどの順序で検討するのかといった方針を整理できます。答弁書の提出期限がある手続ですので、資料がそろっていない段階でも、早めの相談の方が対応の選択肢は広がります。
また、ご自身やご家族の自動車保険・火災保険などに弁護士費用特約が付いている場合、訴えられた場面の対応や反訴が特約の対象になるかどうか、事前承認の要否や補償の範囲は、約款・保険会社によって異なります。相談とあわせて確認してください。特約の確認手順は、関連記事「弁護士費用特約の確認事項を見る」で解説しています。弁護士に依頼する場合の費用の考え方は「弁護士費用を確認する」をご覧ください。
よくある質問(FAQ)
Q.交通事故の被害者なのに、なぜ私が「被告」になるのですか。
A.民事訴訟では、訴えを起こした側を原告、起こされた側を被告と呼びます。加害者側が先に債務不存在確認の訴えを起こすと、被害者が被告になりますが、これは手続上の呼び名にすぎず、責任の有無や請求の当否が判断されたわけではありません。刑事事件の「被告人」とも別のものです。
Q.訴状が届いたということは、加害者側の主張が認められたのですか。
A.いいえ。訴状は加害者側の言い分が裁判所を通じて送られてきたものにすぎず、裁判所が内容を認めたわけではありません。審理はこれからであり、被害者側には反論と立証の機会があります。
Q.答弁書を提出しないとどうなりますか。
A.期日にも出頭しない場合、原告の主張した事実を争わないものとみなされ、請求どおり債務の不存在を確認する判決がされる可能性があります。確定すると、争われた範囲の請求は困難になります。同封の書面に記載された期限までの対応が重要です。
Q.債務不存在確認請求訴訟では、必ず反訴が必要ですか。
A.反訴は義務ではなく、しなければ直ちに請求権を失うものでもありません。ただし、支払を命じる判決(給付判決)を得るためには反訴が重要な選択肢になります。損害の確定状況や時効も踏まえて、要否と時期を個別に検討します。
Q.反訴をすると、加害者側の本訴はどうなりますか。
A.同じ債務について支払を求める反訴が提起されると、本訴は確認の利益を欠くものとして却下される場合があります(最高裁平成16年3月25日判決)。ただし、損害の一部だけを反訴で請求する場合など、常に同じ結論になるとは限りません。
Q.まだ治療中・後遺障害の申請前ですが、反訴はできますか。
A.治療中でも反訴を提起できる場合があります。ただし、損害額が固まっていない段階では、請求する範囲や後遺障害部分の扱いに検討が必要です。医療資料の整理と並行して、方針を個別に判断することをおすすめします。
Q.訴訟が始まれば、損害賠償請求権の時効は心配ありませんか。
A.そのように考えるのは危険です。応訴や反訴によって、どの請求権のどの範囲に時効の完成猶予・更新の効果が生じるかは、訴訟の内容や終わり方によって異なり得ます。時効の管理は自己判断せず、確認しながら進めてください。
Q.弁護士費用特約で、答弁や反訴の費用をまかなえますか。
A.特約を使えるか、どの範囲まで補償されるかは、契約している保険の約款や保険会社によって異なります。事前承認が必要とされることも多いため、依頼の前に保険会社への確認をおすすめします。ご家族の保険に付いた特約を使える場合もあります。
まとめ|訴状が届いたら初動が大切です
- 訴状が届いても、加害者側の主張が認められたわけではない。ただし放置はしない
- 訴状一式と封筒を保管し、答弁書の提出期限と第1回期日をまず確認する
- 答弁は防御、反訴は支払を求める訴え。給付判決を得るには反訴が重要な選択肢になる
- 治療中・後遺障害未確定でも対応は可能。症状固定は保険会社の打切りだけでは決まらない
- 被害者側にも立証の準備が必要。医療資料・事故資料・収入資料・保険資料を早めに集める
- 時効、判決の効力、和解の清算条項は自己判断せず確認する
- 弁護士費用特約を使える場合がある。約款と事前承認の要否を確認する
交通事故で債務不存在確認請求訴訟を起こされてお困りの方へ
神戸みらい法律会計事務所では、交通事故の被害者側のご相談をお受けしています。訴状、医療資料、保険会社とのやり取りを確認したうえで、答弁書の準備、反訴の要否・範囲、証拠収集、和解の進め方を整理できます。答弁書の提出期限が定まる手続ですので、訴状を受け取った段階でのご相談をご検討ください。
ご相談は事前予約制です。初回相談は無料でお受けしています(電話:078-797-5227)。
本記事は、交通事故における債務不存在確認請求訴訟に関する一般的な解説であり、個別の事案についての法的助言ではありません。実際の結論は、訴状の内容、事故状況、治療経過、請求の範囲、証拠関係などの個別事情によって異なります。本文中の法令・手続に関する記載は、令和8年7月時点の情報に基づいています。
この記事の監修者
弁護士 藤井 貴之(弁護士・公認会計士)
弁護士法人ひょうご支所神戸みらい法律会計事務所 代表弁護士。兵庫県弁護士会所属。交通事故の損害賠償に関する相談・事件に対応するとともに、公認会計士としての知見を生かし、休業損害や逸失利益など収入資料の分析を要する事案にも取り組んでいます。

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