経営方針をめぐる対立、不正の疑い、同族間の紛争などを背景に、取締役や監査役に退いてもらいたいと考えたとき、「どの手続を踏めば解任できるのか」「正当な理由がないと損害賠償を請求されるのか」「株主総会や登記では何をすればよいのか」が分からず、対応に迷う場面は少なくありません。
結論からいえば、株式会社の役員は、原則として株主総会の決議によりいつでも解任できるとされています(会社法339条1項)。ただし、①決議要件は役員の種類や定款の定めによって異なり、②招集手続や決議方法に瑕疵があると決議取消しの訴え(会社法831条)などで効力が争われる可能性があり、③解任に「正当な理由」がなければ、解任された役員から損害賠償を請求される可能性があります(会社法339条2項)。つまり、「解任できるか」と「解任して問題が残らないか」は、分けて検討する必要があります。
本記事では、株式会社の役員解任を念頭に、手続の流れ、役員の種類ごとの決議要件、「正当な理由」の考え方、損害賠償リスクの整理の仕方を、経営者・株主・管理部門の方が実務で確認しやすい順序で解説します。あわせて、解任される役員側の対応にも触れながら、できるだけ中立的に整理します。なお、結論は定款の定め、機関設計、役員の種類、個別の事情により異なりますので、最終的には資料を確認したうえで判断する必要があります。
Contents
この記事で分かること
- 解任・解職・辞任・任期満了の違いと、会社法上の「役員」の範囲
- 株主総会の招集から解任決議、議事録、役員変更登記までの手続の流れ
- 取締役・監査役など役員の種類ごとに異なる決議要件(一覧表)
- 会社法339条2項の「正当な理由」の判断枠組みと、解任決議の効力との関係
- 損害賠償リスクの整理の仕方と、任期・報酬・退職慰労金との関係
- 解任議案が否決された場合や、対象役員が過半数の株式を持つ場合の選択肢
役員解任は、解任理由・定款・株主構成・役員の任期・後任体制・登記までを一連で確認したうえで進めることが重要です。株主総会の招集や本人への通知に進む前に、資料を整理したうえで対応方針を検討することをおすすめします。
役員解任でまず押さえたい結論(全体像)
役員解任を検討する場面で、最初に押さえておきたいのは次の点です。
- 取締役・監査役などの役員は、原則として株主総会の決議によりいつでも解任できます(会社法339条1項)。ただし、監査役などの解任には特別決議が必要です。
- 「正当な理由」は解任決議の効力要件ではなく、主に解任後の損害賠償請求(会社法339条2項)の場面で問題になります。
- 招集手続や決議方法に瑕疵があると、決議の日から3か月以内の決議取消しの訴え(会社法831条)などで効力が争われる可能性があります。
- 解任された役員は、任期満了や辞任で退任した役員と異なり、後任者が就任するまで権利義務を有する役員(会社法346条1項)にはならないため、員数が欠ける場合は後任の確保が前提になります。
- 役員の変更は、原則として変更から2週間以内に登記する必要があり(会社法915条1項)、解任の場合は退任の理由として「解任」の旨が登記されます。
- 実務では、解任決議による紛争化を避けるため、辞任と退任条件を内容とする退任合意の交渉を先行させる選択肢も検討されます。
検討の順序としては、「どの決議で解任できるか」「手続の瑕疵をどう避けるか」「損害賠償リスクをどう整理するか」「解任以外の選択肢はないか」の4点を、定款・登記・株主名簿などの資料に基づいて確認していくことになります。
役員解任の基礎知識(用語と当事者の整理)
会社法上の「役員」と執行役員の違い
会社法上、「役員」とは、取締役、会計参与、監査役を指します(会社法329条1項)。日常用語で使われる「執行役員」は、会社が任意に設けている役職であることが多く、会社法上の役員とは限りません。執行役員が従業員としての地位を持つ場合、その処遇の変更は解任ではなく雇用契約・労働法の問題として整理する必要があります。なお、指名委員会等設置会社の「執行役」は会社法上の機関であり(その解任は取締役会の決議によります。会社法403条)、ここでいう執行役員とは別の概念です。
解任・解職・辞任・任期満了の違い
辞任は役員が自らの意思で退くこと、任期満了は任期の到来により退任することをいいます。これらに対し、解任は、役員本人の意思にかかわらず、株主総会などの決議によって地位を失わせることをいいます。また、代表取締役を代表者の地位から外すことは「解職」と呼ばれ、取締役の「解任」とは区別されます。代表取締役を解職しても、取締役としての地位は当然には失われません。
実務上の違いとして、登記の記載があります。役員の退任登記には退任の理由が記載されるため、解任の場合は「解任」の旨が登記され、登記事項証明書を取得した取引先や金融機関が知り得る状態になります。紛争予防や対外的な影響の観点から、辞任の形での退任を交渉するかどうかも、検討項目の一つになります。
役員の任期と解任の関係
取締役の任期は原則として約2年(選任後2年以内に終了する事業年度のうち最終のものに関する定時株主総会の終結時まで)ですが、非公開会社(監査等委員会設置会社・指名委員会等設置会社を除く)では定款で最長10年まで伸長できます(会社法332条)。監査役の任期は原則として約4年で、非公開会社では最長10年まで伸長できます(会社法336条)。
任期は、後述する損害賠償リスクに直結します。残りの任期が長いほど、正当な理由のない解任の場合に賠償の対象となり得る報酬相当額が大きくなるためです。なお、定款変更により任期を短縮して退任させる方法が用いられることもありますが、この方法についても会社法339条2項の類推適用が問題とされた裁判例があり、慎重な検討が必要です。
役員解任の手続の流れ(株主総会から登記まで)
実務では、おおむね次の順序で確認・対応を進めます。役員の種類や機関設計により細部は変わります。
ステップ1 前提資料の確認
- 定款(決議要件の加重、代表取締役の定め方、種類株式・属人的な定めの有無)
- 履歴事項全部証明書(役員構成・任期・機関設計・公開会社かどうか)
- 株主名簿(議決権を行使できる株主と持株比率、決議の成立見込み)
- 役員の任期・報酬・退職慰労金に関する定めや決議、委任契約書
- 後任役員の確保と、代表者や員数が欠けるリスクの確認
ステップ2 株主総会の招集
取締役会設置会社では、取締役会で株主総会の招集と議題(役員解任の件)を決定し、招集通知を発します。招集通知は、原則として株主総会の日の2週間前まで(書面投票・電子投票を採用しない非公開会社では1週間前まで、取締役会非設置会社では定款でさらに短縮可)に発する必要があります(会社法299条)。株主全員の同意があるときは原則として招集手続を省略でき(会社法300条)、議決権を行使できる株主全員が提案に書面等で同意すれば、株主総会を開催せずに決議があったものとみなす方法(会社法319条)もあります。
株主の側から解任を進めたい場合には、総株主の議決権の100分の3以上を6か月前から引き続き有する株主(非公開会社では保有期間の要件はありません)が、株主総会の招集を請求でき、招集手続がとられない場合などには、裁判所の許可を得て自ら招集できる制度があります(会社法297条)。
ステップ3 解任決議
株主総会で、役員の種類に応じた決議(次章の一覧表)を行います。解任の対象となる役員が株主でもある場合、株主総会では原則としてその役員も株主として議決権を行使できます。ただし、特別の利害関係を有する株主の議決権行使によって著しく不当な決議がされたときは、決議取消しの原因になり得ます(会社法831条1項3号)。また、監査役は自身の解任について株主総会で意見を述べることができ(会社法345条4項)、監査等委員である取締役にも同様の意見陳述権があります(会社法342条の2第1項)。
ステップ4 議事録の作成と後任の選任
株主総会議事録を作成します(会社法318条)。解任により法律・定款上の員数を欠く場合には、同じ株主総会で後任を選任するのが通例です。前述のとおり、解任された役員は権利義務を有する役員にはならないため、後任を選任できないまま員数が欠けると、裁判所への一時役員の職務を行うべき者の選任申立て(会社法346条2項)が必要になる場合があります。代表取締役を解職・解任した場合は、新たな代表取締役の選定も併せて行います。
ステップ5 役員変更登記(2週間以内)
役員の変更は、原則として変更が生じた日から2週間以内に、本店所在地で変更登記を申請します(会社法915条1項)。解任による退任登記の添付書面は、株主総会議事録と株主リストが基本になります(事案により異なるため、法務局の案内をご確認ください)。登記を怠ると、登記申請義務を負う代表者個人が100万円以下の過料に処せられる可能性があります(会社法976条1号)。
ステップ6 登記後の実務対応
金融機関・主要取引先への届出、許認可上の役員変更の届出、届出印や法人の電子証明書、社内システムのアクセス権限、貸与物の返還、機密情報の管理など、登記以外の実務対応を確認します。代表者が交代した場合は、契約名義、口座の取扱い、インターネットバンキングの管理者設定などの見直しも必要になります。
役員の種類別の決議要件(一覧表)
解任に必要な決議は、役員の種類によって異なります。下表は原則的な整理であり、定款で定足数や可決要件が変更されている場合があるため、まず定款と登記の確認から始めてください。
| 対象 | 決議の種類 | 定足数(原則) | 可決要件(原則) | 主な根拠条文 |
|---|---|---|---|---|
| 取締役(下記以外)・会計参与 | 株主総会の普通決議(特則) | 議決権の過半数(定款で3分の1まで引下げ可) | 出席株主の議決権の過半数(定款で加重可) | 会社法339条1項・341条 |
| 監査役 | 株主総会の特別決議 | 議決権の過半数(定款で3分の1まで引下げ可) | 出席株主の議決権の3分の2以上 | 会社法339条1項・343条4項・309条2項7号 |
| 監査等委員である取締役 | 株主総会の特別決議 | 同上 | 出席株主の議決権の3分の2以上 | 会社法339条1項・309条2項7号 |
| 累積投票で選任された取締役 | 株主総会の特別決議 | 同上 | 出席株主の議決権の3分の2以上 | 会社法342条・309条2項7号 |
| 代表取締役の解職(取締役会設置会社) | 取締役会決議 | 議決に加わることができる取締役の過半数の出席 | 出席取締役の過半数(いずれも定款で加重可) | 会社法362条2項3号・369条 |
注意点が3つあります。第1に、代表取締役の解職を取締役会で決議する場合、解職の対象となる代表取締役は「特別の利害関係を有する取締役」として議決に加わることができないとするのが最高裁判例です(会社法369条2項)。対象者を除いた取締役で定足数と過半数を計算するため、賛否の見込みに直結します。第2に、取締役会非設置会社の代表取締役は、定款、定款の定めに基づく取締役の互選、株主総会の決議のいずれかで定められるため(会社法349条3項)、解職の方法も選定方法に応じて確認する必要があります。第3に、特例有限会社(旧有限会社のままの会社)では、取締役・監査役の解任に、総株主の半数以上であって総株主の議決権の4分の3以上の賛成による特別決議が必要とされ、通常の株式会社より要件が重くなっています(会社法整備法14条3項)。
役員の種類や定款の定めによって、必要な決議や手続は変わります。誤った手続で進めると、決議の効力が争われたり、想定外の損害賠償リスクが生じたりする可能性があります。株主総会の招集前に、定款・株主構成・任期・解任理由・証拠を確認したうえで、対応方針を整理することをおすすめします。
「正当な理由」とは(会社法339条2項)
解任の自由と損害賠償の関係
会社法は、株主総会の決議により役員を「いつでも」解任できるとする一方(会社法339条1項)、解任された役員は、その解任について「正当な理由」がある場合を除き、会社に対して、解任によって生じた損害の賠償を請求できるとしています(同条2項)。株主に解任の自由を保障しつつ、役員の任期に対する期待を保護し、双方の利益の調和を図る趣旨と説明されています。
重要なのは、「正当な理由」は解任決議の効力要件ではないという点です。正当な理由がなくても、解任決議自体は有効に成立し得ます。その代わりに、会社が損害賠償義務を負う可能性が残ります。この責任は、会社側の故意・過失を前提としない法定の責任と説明されるのが一般的で、「解任は有効だが、金銭的な清算が必要になる場合がある」という構造で理解すると整理しやすくなります。
「正当な理由」の判断枠組み
裁判実務では、「正当な理由」にあたり得る典型として、①職務執行上の法令・定款違反行為、②心身の故障、③職務への著しい不適任(経営能力の著しい欠如を含む)といった類型を軸に、解任の時点で客観的に存在した事情に基づいて判断する整理が示されています。古い最高裁判例にも、持病の悪化により職務の継続が難しくなった代表取締役の解任について、正当な理由を認めたものがあります。他方、単なる感情的な対立や経営方針の相違にとどまる場合には、正当な理由が否定される方向に働きやすいと解されています。いずれも法的評価を伴う問題であり、個別の事情により結論は異なります。
「正当な理由」は会社側が立証する
裁判実務では、正当な理由があることは、損害賠償を免れようとする会社側が主張・立証すべきものと整理されています。そのため、解任を検討する段階から、正当な理由を基礎づける事実と、その裏付けとなる資料(議事録、メール、会計資料、調査報告書など)を整理しておくことが重要です。証拠が不十分なまま解任に進むと、後に損害賠償請求を受けた際に立証できないリスクが高まります。
正当な理由の有無が問題になりやすい事情
正当な理由を基礎づける方向に働きやすい事情
裁判例や実務上の整理で、正当な理由の方向に働きやすいとされる事情には、例えば次のようなものがあります。ただし、いずれも個別の事情により評価が分かれ得ます。
- 横領・背任、利益相反取引、競業など、会社の利益を害する行為
- 法令、定款、重要な社内規程に違反する重大な行為
- 会社の財産や信用を害する行為、重要な職務の放置・懈怠
- 心身の故障により、職務の遂行が客観的に困難になったこと
- 職務への著しい不適任(客観的な資料により示すことができる場合)
それだけでは慎重な判断が必要な事情
これに対し、それだけでは正当な理由と認められるか慎重に判断すべき事情として、例えば次のようなものが挙げられます。
- 代表者や大株主との人間関係の悪化、感情的な対立
- 経営方針の相違
- 業績不振(原因が市場環境や会社全体の事情にもある場合)
- 退任を求めたのに本人が応じないこと自体
- 内部通報・公益通報をしたこと
- 従業員兼務役員について、従業員としての勤務上の問題のみがある場合
特に、公益通報をしたことを理由とする役員の解任には注意が必要です。公益通報者保護法は、役員に対する通報を理由とする不利益な取扱いを禁止し(同法5条)、通報を理由に解任された役員は、会社に対して解任によって生じた損害の賠償を請求できると定めています(同法6条)。また、同法は令和7年(2025年)に改正法が成立し、2026年12月1日に施行される予定です(2026年7月時点の情報)。通報対応が関係する事案では、最新の制度内容の確認が不可欠です。
解任に伴う損害賠償リスクの整理
損害に含まれ得るもの
正当な理由のない解任の場合、裁判例では、解任されなければ残りの任期中に得られたであろう役員報酬相当額を中心に、損害を整理する考え方が多くみられます。役員賞与や退職慰労金については、定款の定めや支給基準・支給慣行の有無・内容により、損害に含まれる場合と含まれない場合があり、裁判例の判断も分かれています。慰謝料や弁護士費用は原則として認められにくいものの、解任の経緯などについて別途不法行為が成立するような場合には、認められる余地があると整理されることがあります。
任期の長さで賠償リスクは大きく変わる
賠償の中心が残りの任期分の報酬相当額である以上、残りの任期が長いほどリスクは大きくなります。特に、非公開会社で定款により任期を10年としている場合、解任の時期によっては残りの任期が数年単位となり、報酬額によっては相当高額の請求を受ける可能性があります。他方、任期満了が近い場合には、解任ではなく、任期満了時に再任しないという選択肢も比較の対象になります。任期満了による退任は解任ではないため、原則として会社法339条2項の適用はないと解されていますが、事案により争いが生じる余地はあります。
金額を断定できない理由と会計・税務上の確認
損害として何がどこまで認められるかは、任期、報酬の定め、退職慰労金・賞与に関する規程や支給慣行、委任契約の内容、解任の経緯、個別の裁判例の判断により異なります。残りの任期分の報酬相当額がそのまま全額認められるとは限らず、事情により調整される場合もあるため、金額をあらかじめ断定することはできません。また、解任に伴い会社が支払う金銭は、その性質(報酬相当額の賠償か、退職慰労金か、和解金か)により、会計処理や税務上の取扱い(損金算入の可否・時期、源泉徴収の要否、受け取る側の所得区分)が異なり得ます。金額の見通しと併せて、会計・税務面の整理も行っておくと、後の処理が円滑になります。
リスクを抑えるための実務対応
- 解任理由を基礎づける事実と証拠を、解任決議の前に整理しておく
- 不正の疑いがある場合は、内部調査・資料保全を先行させる
- 辞任と退任条件(引継ぎ、退職慰労金、清算条項、守秘条項など)を内容とする退任合意の交渉を検討する
- 任期満了が近い場合は、再任しない方法との比較を行う
- 解任議案の上程前に、株主構成と決議の成立見込みを確認する
退任合意による解決は、紛争の長期化や「解任」の登記記載を避けられる点で有力な選択肢です。もっとも、交渉の進め方や合意書の内容によっては後日争いが残ることもあるため、条項の設計は慎重に行う必要があります。
手続前チェックリスト(招集通知・本人への通知の前に)
解任を検討する段階で、次の資料・事項を確認しておくことが望ましいといえます。何が必要かは事案により異なります。
- 定款(決議要件、任期、代表取締役の定め、種類株式・属人的な定め)
- 履歴事項全部証明書、株主名簿、議決権比率の試算
- 役員の任期の残存期間と報酬額(損害賠償リスクの概算)
- 役員報酬・退職慰労金に関する決議、規程、支給慣行
- 解任理由を裏付ける証拠(メール、議事録、会計資料、入出金記録、調査報告書など)
- 従業員兼務の有無(雇用契約書、就業規則、賃金台帳)
- 内部通報・公益通報に関する経緯の有無
- 後任役員・後任代表者の確保と本人の承諾
- 金融機関、取引先、許認可への影響
- 役員・従業員・取引先向けの説明の準備
よく問題になるケースと考え方
代表取締役だけを外したい場合
取締役会設置会社では、取締役会決議により代表取締役を解職できます(会社法362条2項3号)。前述のとおり、対象の代表取締役は特別の利害関係を有する取締役として議決に加わることができないと解されているため、残りの取締役で定足数と過半数を満たすかを確認します。解職後も取締役の地位は残るため、取締役からも退いてほしい場合は、別途、株主総会での解任などが必要です。
取締役としても退いてほしい場合
取締役の地位そのものを失わせるには、株主総会の解任決議が必要です。急を要する場合には、取締役会での解職と株主総会での解任を近接した日程で組み合わせることもありますが、招集手続に瑕疵が生じないよう、日程と書類の管理が重要になります。
監査役を解任したい場合
監査役の解任には株主総会の特別決議が必要です(会社法343条4項・309条2項7号)。監査役は解任について株主総会で意見を述べることができ(会社法345条4項)、監査の独立性に配慮した運営が求められます。
解任したい役員が過半数の株式を持っている場合
解任決議は株主総会の多数決によるため、対象役員が議決権の過半数を握っている場合、通常の方法での解任は事実上困難です。この場合、職務執行に関する不正の行為または法令・定款違反の重大な事実があるときに否決を経て解任の訴え(会社法854条)を提起する方法、株式の譲渡・買取りの交渉、定款や資本構成の見直しなど、複数の選択肢を比較することになります。いずれも要件と実現可能性の検討が必要であり、個別の事情により結論が変わる典型的な場面です。
株主総会で解任議案が否決された場合(解任の訴え)
役員の職務執行に関し不正の行為または法令・定款に違反する重大な事実があったにもかかわらず、解任議案が株主総会で否決されたときは、総株主の議決権の100分の3以上(定款で引下げ可)を6か月前から引き続き有する株主など一定の株主は、その株主総会の日から30日以内に、会社と当該役員の双方を被告として、解任の訴えを提起できます(会社法854条・855条。非公開会社では6か月の保有期間の要件はありません)。提訴期間が短いため、否決が見込まれる場合には事前の準備が必要です。関連して、役員の職務執行停止・職務代行者選任の仮処分が検討される場合もあります。
役員が従業員を兼ねている場合(従業員兼務役員)
役員としての地位と従業員としての地位は別個に評価されるのが原則で、役員を解任しても、従業員としての地位は当然には失われません。従業員としての地位を終了させるには解雇や退職合意など労働法上の手続が別途必要となり、解雇には解雇権濫用法理(労働契約法16条)が適用されます。役員解任と労働問題が同時に生じる類型であり、一体的な設計が必要です。
不正の疑いはあるが証拠が十分でない場合
証拠が不十分なまま解任に進むと、後に正当な理由を立証できず、損害賠償リスクが残ります。会計資料の精査、メールやデータの保全、関係者からの聴取などの内部調査を先行させるか、調査と並行して代表権のみを外す解職や担当業務の変更などの暫定的な対応をとるか、事案に応じた組立てを検討します。
特例有限会社・種類株式がある会社の場合
特例有限会社では、前述のとおり、解任決議の要件が通常の株式会社と大きく異なります。また、役員の選任・解任について内容の異なる種類株式(会社法108条1項9号)や、非公開会社における株主ごとの属人的な定め(会社法109条2項)がある場合には、決議の主体や要件そのものが変わることがあります。定款と登記の確認が出発点になります。
解任された役員側の対応
解任された側では、解任決議の手続に瑕疵がないか(あれば決議の日から3か月以内の決議取消しの訴え。会社法831条)、正当な理由の有無と残りの任期・報酬額(損害賠償請求。会社法339条2項)、従業員としての地位や未払報酬の有無、公益通報に関連する解任でないか(公益通報者保護法6条)などを整理して、対応方針を検討することになります。時間の経過とともにとり得る手段が限られていくため、定款、議事録、報酬に関する定め、解任の経緯が分かる資料を早めに確保しておくことが重要です。
弁護士に相談するタイミング
役員解任は、決議のやり直しがきかず、後戻りが難しい局面の多い手続です。次のような段階で相談を検討すると、判断材料を整理しやすくなります。
- 解任理由を社内で整理し始めた段階(証拠の集め方から検討できます)
- 株主総会の招集通知を出す前(手続の瑕疵の防止)
- 本人に退任を求める前(退任合意の交渉方針の検討)
- 役員報酬、退職慰労金、退任合意書の条件を検討する段階
- 公益通報、ハラスメント、労務問題、不正調査が関係する場合
- 後任体制や登記に不安がある場合
- 解任された立場、または解任されそうな立場で対応を検討する場合
- 解任後に損害賠償請求を受けた場合
相談により、解任の可否だけでなく、手続の瑕疵を避ける進め方、損害賠償リスクの見通し、退任合意との比較といった判断材料を、資料を確認したうえで整理できます。
よくある質問(FAQ)
取締役はいつでも解任できますか?
取締役は、原則として株主総会の決議によりいつでも解任できるとされています(会社法339条1項)。ただし、定款で決議要件が加重されている場合や、招集・決議の手続に瑕疵がある場合には、決議の効力が争われる可能性があります。まず定款と株主構成の確認が必要です。
解任に「正当な理由」は必要ですか?
「正当な理由」は、解任決議そのものの効力要件ではありません。正当な理由がなくても解任決議は有効に成立し得ますが、その場合には、解任された役員から損害賠償を請求される可能性があります(会社法339条2項)。「解任できるか」と「損害賠償リスクがあるか」を分けて検討する必要があります。
正当な理由がない場合、どの範囲の損害賠償が問題になりますか?
裁判例では、解任されなければ残りの任期中に得られたであろう役員報酬相当額を中心に整理されることが多くみられます。役員賞与や退職慰労金が含まれるかは、定款・規程・支給慣行・個別の事情により異なり、判断が分かれています。金額は任期や報酬額により大きく変わるため、資料を確認したうえで個別に検討する必要があります。
代表取締役だけを辞めさせることはできますか?
代表取締役を代表者の地位から外すこと(解職)と、取締役の地位を失わせること(解任)は別の手続です。取締役会設置会社では、取締役会決議により代表取締役を解職できます(会社法362条2項3号)。この場合、対象の代表取締役は議決に加わることができないと解されており、解職後も取締役の地位は残ります。
監査役の解任は取締役と同じ手続ですか?
同じではありません。監査役の解任には、株主総会の特別決議が必要です(会社法343条4項・309条2項7号)。監査等委員である取締役や、累積投票で選任された取締役の解任も特別決議が必要とされています。監査役には解任についての意見陳述権もあり(会社法345条4項)、独立性に配慮した手続が求められます。
過半数の株式を持つ取締役を解任することはできますか?
対象役員が議決権の過半数を持つ場合、株主総会での解任決議の成立は事実上困難です。職務執行に関する不正の行為または法令・定款違反の重大な事実があるときは、否決を経たうえで、一定の株主が株主総会の日から30日以内に解任の訴え(会社法854条)を提起できる場合があります。要件・期間の制約が大きいため、早めの検討が必要です。
解任する前に、本人に理由を伝える必要はありますか?
解任決議の効力との関係では、解任理由の事前告知が一律に法律上の要件とされているわけではありません。もっとも、監査役などには株主総会での意見陳述権があるほか、後の損害賠償をめぐる紛争や退任合意の交渉に備える観点からも、理由と証拠の整理は重要です。対応は個別の事情により異なります。
役員変更登記はいつまでに必要ですか?「解任」と登記されますか?
役員の変更は、原則として変更が生じた日から2週間以内に登記する必要があります(会社法915条1項)。登記を怠ると、代表者個人が100万円以下の過料に処せられる可能性があります(会社法976条1号)。また、解任による退任は、退任の理由として「解任」の旨が登記されます。この点を避けたい場合には、辞任による退任の交渉が検討されることもあります。
まとめ
- 役員は、原則として株主総会の決議によりいつでも解任できますが、監査役・監査等委員である取締役・累積投票で選任された取締役の解任には特別決議が必要です。
- 「正当な理由」は解任決議の効力要件ではなく、主に解任後の損害賠償請求(会社法339条2項)の場面で問題になり、会社側が立証する構造と整理されています。
- 損害賠償の中心は残りの任期分の報酬相当額であり、任期の長い非公開会社ほどリスクが大きくなり得ます。
- 取締役の解任と代表取締役の解職は別の手続で、解職の取締役会決議では対象の代表取締役は議決に加わることができないと解されています。
- 解任された役員は権利義務を有する役員にならないため、後任の確保と、2週間以内の変更登記までを一連で設計する必要があります。
- 解任議案が否決された場合の解任の訴えには、持株要件と30日という提訴期間の制約があります。
- 紛争予防の観点からは、辞任と退任条件を内容とする退任合意の交渉も有力な選択肢であり、解任理由・証拠・定款・株主構成の確認から始めることが重要です。
役員解任は、手続の瑕疵や損害賠償リスクを避けるため、事前の資料確認と手順の設計が重要です。会社側・株主側・解任される役員側のいずれの立場でも、定款・株主構成・解任理由・証拠・報酬の定めなどを整理したうえで、対応方針を検討することをおすすめします。神戸みらい法律会計事務所では、会社法・株主総会・役員変更に関するご相談に対応しています。
監修者・執筆者
藤井 貴之(ふじい たかゆき)
弁護士・公認会計士/兵庫県弁護士会所属
神戸みらい法律会計事務所
会社法・株主総会・役員変更に関するご相談を含む企業法務を取り扱っています。法律と会計・税務の双方の視点から、損害賠償リスクの整理や資料の確認を踏まえた対応方針の検討をお手伝いします。
所在地:兵庫県神戸市須磨区中落合2丁目2-5 名谷センタービル7階
電話:078-797-5227(受付時間 9:00〜20:00)
参考資料
本記事は、一般的な情報提供を目的としたものであり、個別の事案に対する法的助言を行うものではありません。役員解任の可否、決議要件、「正当な理由」の有無、損害賠償の範囲などは、定款の定め、機関設計、役員の種類、契約内容、個別の事情により結論が異なります。実際のご対応にあたっては、最新の法令・公式情報をご確認のうえ、弁護士にご相談ください。記載の内容は作成時点(2026年7月)の情報に基づくものであり、その後の法改正等により変更される場合があります。

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