交通事故のあと、事故の場面が突然よみがえる、車に乗ろうとすると強い恐怖を感じる、夜になっても神経が高ぶって眠れない——。こうした状態が続くと、「これはPTSD(心的外傷後ストレス障害)ではないか」「後遺障害として認められるのか」「保険会社にどう説明すればよいのか」と不安を抱える方は少なくありません。
この記事では、交通事故後の精神症状とPTSD、そして後遺障害としての考え方について、被害者ご本人やご家族が「今、何を確認し、どの資料を整え、いつ相談すべきか」を判断しやすくなるよう整理します。PTSDかどうかの診断は医師の領域であり、後遺障害としての見通しは資料を確認したうえで判断する必要があります。個別事情により結論は異なりますので、一般的な考え方として読み進めてください。
この記事で分かること
- PTSDに見られる主な症状の一般的な説明
- 後遺障害として問題になる場合の考え方と、診断名だけでは決まらない理由
- 事故との因果関係が争われやすい理由
- 精神科・心療内科への通院と医療記録が持つ意味
- 身体症状と精神症状が併存する場合の資料整理
- 示談前・後遺障害申請前に確認したいことと、相談の目安
事故後の精神症状は、症状の経過や医療記録の整え方によって、後の手続で確認できる内容が変わってくることがあります。示談や後遺障害の申請を進める前に、診断書や診療記録、保険会社からの書面をもとに対応の選択肢を整理しておくと安心です。
Contents
交通事故後のPTSDは後遺障害になるのか
結論から申し上げると、交通事故後のPTSDが後遺障害として問題になることはあります。もっとも、「PTSDと診断された」というだけで機械的に等級が認定されるわけではありません。後遺障害として評価されるかどうかは、症状の内容や継続性、事故との関連、日常生活や就労への支障、そしてそれらを裏づける医療記録などを総合的に確認して判断されます。
脳の損傷などの身体的な原因を伴わない精神障害は、実務上「非器質性精神障害」として整理され、その認定は慎重に行われる傾向があります。したがって、読者の方にとって重要なのは「診断名がつくかどうか」だけでなく、「症状の経過と生活への影響を、医療記録として適切に残せているか」という点です。
| 確認したい観点 | 内容 |
|---|---|
| 診断名の有無だけで決まるか | 決まりません。症状の内容・継続性・生活や就労への支障などが総合的に確認されます。 |
| 事故との関連 | 事故と症状の相当因果関係が問題になります。受診の時期や診療録の記載が重要になります。 |
| 医療記録 | 診断書、診療録(カルテ)、後遺障害診断書など、症状経過を示す資料が確認されます。 |
| 身体症状との関係 | むち打ちや骨折などの身体症状と精神症状は、診療科ごとに分けて整理する必要があります。 |
| 診断・治療 | PTSDかどうかの診断や治療方針は医師の領域です。自己判断は避けてください。 |
PTSDとはどのような状態か
PTSDは、生命の危険を感じるような強い体験のあと、その体験が過ぎ去った後も記憶のなかに残り、精神的な影響を与え続けることがある状態を指します。ここでは一般的な説明にとどめます。実際にご自身がPTSDに該当するかどうかは、精神科や心療内科などの医療機関で相談してください。
PTSDに見られる主な症状
一般に、次のような症状が知られています。これらは典型例であり、現れ方や程度は人によって異なります。
- 再体験(侵入症状):事故の記憶が意思と関係なくよみがえる、悪夢を見る、思い出すと動悸や発汗を伴うなど。フラッシュバックもこれに含まれます。
- 回避:事故を思い出させる場所・状況・話題を避ける、運転や事故現場を避けるなど。
- 過覚醒:強い警戒感が続く、些細な物音に驚きやすい、眠れない、集中しにくい、苛立ちやすいなど。
- 認知・気分の陰性の変化:気分の落ち込み、無力感、周囲や自分の将来から切り離されたような感覚など。
強い恐怖感や不眠が続く場合、まずはご自身の状態を医療機関に相談することが大切です。この記事は一般的な情報提供であり、診断・治療に代わるものではありません。
事故後の反応がすべてPTSDとは限らない
事故のあとに不安や恐怖、眠りにくさを感じることは、多くの方に生じ得る自然な反応でもあります。そうした反応がすべてPTSDと診断されるわけではなく、急性ストレス反応など、経過や診断名が異なる場合もあります。運転が怖くなる状態(運転への強い恐怖)についても、どの診断に当たるかは症状の内容次第です。いずれにしても、診断は医師が総合的に行うものですので、症状が続くときは自己判断で決めつけず、受診をご検討ください。
後遺障害として問題になる場合の考え方
診断名だけで等級は決まらない
後遺障害の認定は、一般に、治療を続けても症状の改善が見込めない状態(症状固定)に至った後、残った症状を評価して行われます。精神症状の場合、診断名の有無だけでなく、症状がどの程度続いているか、日常生活や仕事にどのような支障があるか、それらが医療記録から確認できるかといった点が重視されます。「PTSDの診断書がある」というだけで自動的に認定されるものではない点に注意が必要です。
器質性(高次脳機能障害)との違い
精神症状は、脳の器質的な損傷を伴うかどうかで整理が分かれます。受傷直後の意識障害や画像所見(MRI・CT等)によって器質的損傷が確認される場合は、高次脳機能障害として扱われることがあります。一方、そうした所見を伴わない精神障害は非器質性精神障害として整理されます。両者は資料の整え方や見通しが異なるため、ご自身の症状がどちらの枠組みで検討され得るのかを、医療記録をもとに確認しておくことが重要です。具体的にどの区分・程度に当たるかは、資料を確認したうえで判断する必要があり、個別事情により結論は異なります。
事故との因果関係が争われやすい理由
精神症状は、後遺障害の場面で事故との因果関係が争われやすい類型です。主な理由として、次のような点が挙げられます。
- 症状が外から見えにくく、客観的な所見で示しにくいこと
- 受診の開始が遅れると、事故と症状の結びつきを説明しづらくなること
- 事故前からの精神的な既往症や、生活上のストレスとの区別が問題になり得ること
- 事故の態様(衝撃の程度など)と症状の重さの関係が検討されること
- 診療録に症状の経過が十分に記載されていないと、経過を裏づけにくいこと
- 身体症状と併存する場合に、どの症状がどの原因によるものかの整理が複雑になること
こうした事情があるため、早い段階から症状の経過を医療記録として残しておくことが、後の手続で対応方針を整理するうえで意味を持ちます。
精神科・心療内科への通院と医療記録の意味
精神科・心療内科への通院は、後遺障害の認定を保証するものではありません。もっとも、いつ・どのような症状が・どの程度続き・生活や仕事にどう影響しているかを医療記録として残す意味があります。医師に伝える際は、感情的に訴えるだけでなく、次のような点を具体的に整理して伝えると、症状経過が記録に残りやすくなります。
- 症状がいつから始まったか
- どのような症状が、どの頻度で起きているか
- 仕事・家事・運転・外出・睡眠にどのような支障が出ているか
また、自己判断で通院を中断すると、その期間の症状経過が記録に残らず、後の手続で経過を説明しにくくなることがあります。治療の継続や中断については、医師とよく相談してください。診断名だけでなく、症状経過と生活上の支障の記録が重要になる、という点を意識しておくとよいでしょう。
身体症状と精神症状が併存する場合の整理
交通事故では、むち打ち、痛みやしびれ、骨折、頭部外傷による障害などの身体症状と、PTSDのような精神症状が併存することがあります。この場合、身体面と精神面を混同せず、診療科ごとに記録を整理することが大切です。
| 整理する項目 | 確認する内容 |
|---|---|
| 診療科ごとの記録 | 整形外科・脳神経外科・精神科・心療内科など、どの科でどの症状を診てもらっているかを整理する。 |
| 症状固定の時期 | 身体症状と精神症状で症状固定の時期が異なることがあるため、それぞれの経過を確認する。 |
| 後遺障害診断書 | 身体症状と精神症状の双方について、必要な記載が漏れていないかを確認する。 |
| 損害項目 | 治療費・休業損害・慰謝料など、それぞれの症状に対応する損害の整理を確認する。 |
精神症状に気を取られて身体症状の治療や申請が後回しになったり、反対に身体症状だけに注目して精神症状の記録が残らなかったりすると、後の手続で不利になることがあります。どちらも取りこぼさないよう、記録の整理を意識してください。
示談前・後遺障害申請前に確認したいこと
示談、後遺障害の申請、治療費打ち切りの打診があった場面などでは、いったん立ち止まって資料を確認しておくことが重要です。以下は、確認したい資料・情報の例です。
- 診断書・診療録(カルテ)に、症状の内容と経過が記載されているか
- 症状がいつから、どの頻度で続いているかを自分で整理できているか
- 仕事・家事・運転・外出・睡眠への支障を具体的に説明できるか
- 身体症状と精神症状の双方について、通院・記録が残っているか
- 後遺障害診断書に必要な項目が漏れていないか
- 保険会社から届いた書面(治療費打ち切りの通知、示談案など)の内容を確認したか
- 症状固定の時期について、医師と相談できているか
治療費の打ち切りを打診された場合でも、症状が続いているときは、まず医師に相談し、必要な資料を確認することが大切です。示談は原則としてやり直しが難しいため、署名の前に内容を確認することをおすすめします。
後遺障害の申請や示談を進める前に、診断書・診療記録・保険会社からの書面をもとに、対応の選択肢を整理しておくことができます。交通事故を取り扱う弁護士に相談することで、資料の整え方や今後の見通しの検討につながります。
弁護士に相談するタイミング
弁護士への相談は、結果を保証するためのものではなく、判断材料や対応方針を整理するためのものです。特に次のようなタイミングでは、資料を確認したうえで対応の選択肢を検討しやすくなります。
- 後遺障害の申請を検討し始めたとき
- 症状固定の時期が近づいたとき、または打診されたとき
- 保険会社から治療費打ち切りの連絡があったとき
- 示談案が提示され、内容が妥当か判断できないとき
- 身体症状と精神症状の記録の整理に不安があるとき
ご相談の際に、診断書や診療記録、保険会社からの書面をご用意いただくと、より具体的に状況を整理しやすくなります。弁護士費用を確認することも、依頼を検討するうえで参考になります。
よくある質問
事故後のフラッシュバックだけで後遺障害になりますか。
フラッシュバックがあるという事実だけで後遺障害が認定されるわけではありません。症状の内容や継続性、事故との関連、生活や就労への支障などが総合的に確認されます。個別事情により結論は異なりますので、資料を確認したうえで判断する必要があります。
PTSDの診断書があれば後遺障害に認定されますか。
診断書があることは重要な資料の一つですが、それだけで認定が決まるものではありません。診療録に記載された症状経過や、生活・就労への支障などを含めて確認されます。診断名の有無と後遺障害としての評価は、別の問題としてお考えください。
精神科や心療内科に通っていない場合はどうなりますか。
受診がないと、症状の内容や経過を裏づける医療記録が残らず、事故との関連を説明しにくくなることがあります。症状が続いている場合は、まず医療機関への相談をご検討ください。診断や治療の要否は医師が判断します。
事故から時間が経ってから受診した場合でも請求できますか。
受診の開始が遅い場合、事故と症状の結びつきが争われやすくなる傾向はありますが、請求の可否は個別事情によります。事故後の経過や症状の記録などを確認したうえで判断する必要があります。まずは資料を整理し、相談することをおすすめします。
身体の痛みとPTSDのような症状が両方ある場合はどう整理しますか。
身体症状と精神症状は、診療科ごとに記録を分けて整理することが大切です。症状固定の時期や後遺障害診断書の記載、損害項目もそれぞれ確認します。どちらか一方に偏って記録が残らないよう注意してください。
保険会社から示談を求められた場合はどうすればよいですか。
示談は原則としてやり直しが難しいため、署名の前に内容を確認することをおすすめします。症状が続いている場合や、後遺障害の申請を検討している場合は、示談を急がず、資料を確認したうえで対応方針を整理するとよいでしょう。
後遺障害申請前に準備する資料は何ですか。
診断書、診療録(カルテ)、後遺障害診断書、保険会社からの書面などが挙げられます。あわせて、症状がいつから・どの頻度で続き、生活や仕事にどう影響しているかを自分で整理しておくと、状況を説明しやすくなります。
家族が相談してもよいですか。
ご本人が受診や相談に動きにくい状態のときは、ご家族が状況を整理して相談されることも考えられます。症状の経過や生活への影響について、ご家族から見た様子を伝えていただくことも、状況の把握に役立つ場合があります。
まとめ
- 交通事故後のPTSDは後遺障害として問題になることがありますが、診断名だけで決まるものではありません。
- 症状の内容・継続性、事故との関連、生活や就労への支障、医療記録などが総合的に確認されます。
- PTSDかどうかの診断や治療は医師の領域です。症状が続くときは自己判断せず受診をご検討ください。
- 事故との因果関係が争われやすい類型のため、早い段階から症状の経過を記録に残すことが役立ちます。
- 身体症状と精神症状は、診療科ごとに記録を整理し、どちらも取りこぼさないようにしましょう。
- 示談前・申請前・症状固定前後・治療費打ち切りの打診時には、資料を確認したうえで対応方針を整理することをおすすめします。
神戸みらい法律会計事務所(弁護士法人ひょうご支所)では、交通事故に関するご相談をお受けしています。事故後の精神症状や後遺障害の申請についてお悩みの場合は、診断書や診療記録、保険会社からの書面をもとに、対応の選択肢や今後の見通しを一緒に整理することができます。神戸市須磨区・垂水区・西区・北区などにお住まいの方も、まずはお気軽にご相談ください。
監修者・執筆者
藤井 貴之(ふじい たかゆき)
弁護士・公認会計士
神戸みらい法律会計事務所(弁護士法人ひょうご支所) 代表弁護士
兵庫県弁護士会所属(登録番号48566)/日本公認会計士協会兵庫会所属
交通事故、相続、離婚、借金問題(債務整理)、刑事事件、企業法務など、個人・法人の幅広い分野に対応しています。交通事故に関する取扱いや弁護士費用については、交通事故の取扱業務および弁護士費用のページをご覧ください。
参考資料

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