交通事故で骨折や外傷を負い、治療自体は一段落したはずなのに、患部の激しい痛みや腫れ、皮膚の色や温度の変化、思うように動かせない状態が続いている――そうした症状が長引くと、CRPS(複合性局所疼痛症候群。旧称RSD)ではないかと不安になり、後遺障害の申請について調べ始める方は少なくありません。
この記事では、交通事故による骨折後などに問題となり得るCRPSについて、症状の特徴、医学的な診断と後遺障害認定の考え方の違い、想定される後遺障害等級と要件、痛みという症状を立証するうえで整理しておきたい資料、そして示談や後遺障害申請の前に確認しておきたい点を整理します。まず押さえていただきたいのは、主治医がCRPSと診断したことと、後遺障害の等級が認定されることは、同じではないという点です。診断名だけで結論が決まるわけではなく、症状固定時の状態、客観的な所見、治療経過、事故との因果関係などが重要になります。
骨折後の痛みが長引き、後遺障害の申請や示談の進め方に迷っている方は、資料を確認したうえで方針を整理することができます。
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CRPS(複合性局所疼痛症候群)とは|骨折後の痛みが続くとき
CRPS(Complex Regional Pain Syndrome、複合性局所疼痛症候群)とは、骨折や外傷、手術、固定などの後に、その組織損傷から通常予測される程度を超える痛みが長く続く、慢性の痛みの状態を指します。単一の病気というよりも、複数の病態のまとまりとして理解されており、原因やメカニズムが完全には解明されていない領域でもあります。
典型的には、次のような症状が、医学的な資料で確認できる範囲で挙げられます。ただし、これらのすべてが必ず生じるわけではなく、あらわれ方は人によって異なります。
- 安静時にも生じる強い痛み、焼けつくような痛み(灼熱痛)
- 本来なら痛みを感じない程度の刺激で痛む状態(アロディニア)、痛覚過敏
- 患部の腫れ(浮腫)、皮膚の色調の変化、皮膚温の変化
- 発汗の異常、皮膚・爪・毛の変化
- 関節の可動域制限、関節拘縮、骨の萎縮
これらは「痛い」という訴えだけで判断されるものではありません。発症の経過、診察所見、画像所見、可動域、皮膚の変化などの記録が重要になります。医学的な診断や治療方針そのものは、主治医やペインクリニックなどの専門の医療機関にご確認ください。
CRPSとRSD・カウザルギーの関係
かつては、明らかな末梢神経の損傷を伴わないものをRSD(反射性交感神経性ジストロフィー)、明らかな末梢神経の損傷を伴うものをカウザルギーなどと呼んでいました。その後、国際疼痛学会(IASP)がこれらを整理し、CRPSという名称に統合したという経緯があります。現在では、神経損傷が明らかでないものをCRPSタイプⅠ(従来のRSDに相当)、神経損傷を伴うものをCRPSタイプⅡ(従来のカウザルギーに相当)と分類する整理が用いられています。
もっとも、後述するとおり、自賠責保険の後遺障害認定の実務では、現在も「RSD」「カウザルギー」という区分に沿って要件が整理されており、この点が読者の混乱を招きやすいところです。
骨折後に問題になりやすい症状
CRPSは、必ずしも外傷の大きさに比例して生じるわけではないとされ、比較的軽度に見える受傷からは想像しにくいほどの痛みが慢性化することがある点に特徴があります。医学的な資料では、骨折(特に手首の橈骨遠位端骨折や足関節の骨折など)や、ギプス固定などによる長期間の不動化が、CRPSの発症に関連する因子として指摘されています。発症する部位は手や足などの四肢が中心で、体幹や顔面に生じることはまれとされています。
結論|診断名だけで後遺障害の等級が決まるわけではありません
CRPSに関して、まず押さえておきたい要点は次のとおりです。
- 交通事故による骨折や外傷の後に、強い痛みや皮膚の変化などが残る場合に、CRPSが問題となることがあります。
- 主治医の診断名だけで後遺障害の等級が決まるわけではありません。
- 診断基準、症状固定時の状態、客観的な所見、治療経過、事故との因果関係が重要になります。
- 痛みは主観的な症状であるため、診療録、画像、患部の写真、可動域、皮膚の変化、症状の記録などの資料整理が重要です。
- 示談の前、後遺障害診断書の作成前、保険会社から治療の終了や示談を打診されたときには、資料を確認して方針を整理しておくことが望ましいといえます。
- 具体的な等級や損害額は、症状固定時の所見、検査結果、生活・仕事への影響、既往歴、事故との因果関係などにより異なります。
医学的な「診断」と後遺障害の「認定」は基準も目的も異なります
CRPSをめぐって被害者の方が最も戸惑いやすいのが、医療機関でCRPSと診断されたのに、後遺障害の認定では思うような結果にならないという場面です。これは、両者が異なる目的・異なる基準で判断されていることに由来します。
医学的なCRPS判定指標の位置づけ
日本では、厚生労働省の研究班により、2008年に「複合性局所疼痛症候群の判定指標」が作成されています。名称が「診断基準」ではなく「判定指標」とされているのは、CRPSが単一の疾患ではなく複数の病態の集合体と考えられているためと説明されています。
重要なのは、この判定指標に付された但し書きにおいて、当該指標は治療方針の決定や専門施設への紹介の判断などを目的とするものであり、外傷後の症状がCRPSによるものかを判断する補償や訴訟などの場面で使用するべきではなく、重症度や後遺障害の有無を判定するための指標ではないと明記されている点です。つまり、医学的な判定指標は、後遺障害の有無や等級を決めるためのものとしては予定されていません。
自賠責保険(後遺障害認定)が用いる基準
これに対し、交通事故の後遺障害認定の実務では、労災保険の認定基準(厚生労働省「神経系統の機能又は精神の障害に関する障害等級認定基準について」平成15年8月8日基発第0808002号)に準拠して判断が行われています。自賠責保険の後遺障害は、傷害と後遺障害との間に相当因果関係が認められ、かつ、その存在が医学的に認められる症状で、自動車損害賠償保障法施行令別表第一又は第二に該当するものが対象とされています。
医学的な判定指標と補償上の認定基準は別のものです。医療機関でのCRPSの判定と、後遺障害認定における評価とを混同しないことが、見通しを検討するうえで出発点になります。
CRPSと後遺障害等級|想定される等級と要件
上記の認定基準を前提とすると、交通事故によるCRPS(RSD・カウザルギー)に関して、痛みや神経症状の程度に応じて、以下の等級が問題になり得ます。いずれも要件を満たす場合に該当し得るものであり、診断名だけで自動的に決まるわけではありません。
| 等級 | 自賠責保険(施行令別表第二)上の位置づけ |
|---|---|
| 第7級4号 | 神経系統の機能又は精神に障害を残し、軽易な労務以外の労務に服することができないもの |
| 第9級10号 | 神経系統の機能又は精神に障害を残し、服することができる労務が相当な程度に制限されるもの |
| 第12級13号 | 局部に頑固な神経症状を残すもの |
| 第14級9号 | 局部に神経症状を残すもの |
どの等級に該当し得るか、あるいは非該当となるかは、症状の内容・程度、客観的な所見、治療経過、事故との因果関係などにより異なります。具体的な保険金額や後遺障害慰謝料、逸失利益の算定については、国土交通省が公表する支払基準や労働能力喪失率表などが参照されますが、事案や適用される基準(自賠責の基準か、裁判上参照される基準か)によって結論が変わるため、資料を確認したうえで個別に検討する必要があります。
カウザルギー(CRPSタイプⅡ)の場合
明らかな末梢神経の損傷を伴うカウザルギーについては、上記通達において、疼痛の部位、性状、疼痛発作の頻度、疼痛の強度と持続時間及び日内変動、疼痛の原因となる他覚的所見などにより、疼痛が労働能力に及ぼす影響を判断して等級を認定することとされています。神経損傷を裏づける他覚的所見によって症状を立証していくことが中心になります。
RSD(CRPSタイプⅠ)の場合と「3要件」
これに対し、明らかな末梢神経の損傷を伴わないRSDについては、上記通達において、次の慢性期の主要な3つの症状のいずれもが、健側(受傷していない側)と比較して明らかに認められる場合に限り、カウザルギーと同様の基準により等級を認定することとされています。実務上、CRPSについても同様の考え方で扱われています。
| 要件 | 内容 | 確認に用いられ得る検査等 |
|---|---|---|
| ①関節拘縮 | 患部の関節可動域の制限 | 関節可動域の測定 等 |
| ②骨の萎縮 | 局所的な骨の萎縮(ズデック萎縮) | 単純エックス線、骨シンチグラフィー 等 |
| ③皮膚の変化 | 皮膚温の変化、皮膚の萎縮 | サーモグラフィー、視診・触診 等 |
この3要件は、あくまで補償上の認定における要件です。医学的には、これらがそろっていなくてもCRPSと診断されることがありますが、その場合でも認定要件を満たさないと判断されることがあり得ます。特に「②骨の萎縮」は、単純エックス線での確認が重要とされる一方、検査や診断書への記載が十分でないと要件を欠くと判断される場合があるため、注意が必要です。
要件を満たさないと判断された場合
上記の要件を満たさないと判断された場合には、局部の神経症状として第12級13号(局部に頑固な神経症状を残すもの)や第14級9号(局部に神経症状を残すもの)にとどまる、あるいは非該当と判断されることもあります。第12級13号は医学的に症状を証明できることが、第14級9号は症状の存在が医学的に説明できることが、それぞれ問われる傾向にあります。いずれの結論となるかは事案により異なり、認定結果に納得できない場合には、異議申立てや裁判上の主張を検討する余地があります。
発症の時期・治療経過・因果関係が重視される理由
CRPSが問題となる事案では、事故から症状固定に至るまでの経過が重視されます。事故直後からの症状の推移、骨折や手術・固定との時間的な関係、リハビリの状況、症状固定時に残っている症状などが、事故との因果関係や症状の一貫性を判断するうえで手がかりになるためです。
そのため、次のような、経過を示す資料を整えておくことが重要になります。特定の発症時期を一律に断定できるものではありませんが、記録が断片的だと、後から経過を説明することが難しくなります。
- 診断書、診療録(カルテ)、診療報酬明細書
- 後遺障害診断書
- エックス線・MRI・骨シンチグラフィー等の画像資料、検査結果
- 患部の写真(腫れ・皮膚の色調変化などの経時的な記録)
- リハビリの記録、症状の日誌(痛みの程度・日常生活への影響)
「痛み」の立証が難しい理由と整理すべき資料
CRPSの中心的な症状である痛みは、本人にしか分かりにくい主観的な症状です。そのため、後遺障害の申請や示談交渉では、痛みそのものを直接示すことが難しく、客観的な所見や症状の一貫性、治療経過、医師の記録、日常生活や仕事への支障などを組み合わせて整理する必要があります。
特に、画像所見が乏しい場合や、痛みの強さに比べて他覚的所見を得にくい場合には、後遺障害申請で評価が分かれやすくなります。だからこそ、症状固定の前後で、可動域・皮膚温・骨の状態などについて必要な検査を受け、その結果を後遺障害診断書に具体的に反映してもらうことが重要になります。過度に不安をあおる必要はありませんが、資料を確認したうえで見通しを検討しておくことが望まれます。
「痛みは強いのに、画像や検査で説明しにくい」という状況では、どの資料をどのように整えるかが見通しに影響します。診断書や検査資料を確認したうえで、後遺障害申請の要否や示談前の確認点を整理できます。
よく問題になるケース
CRPSが関係する事案では、次のような場面で判断が分かれやすくなります。いずれも個別事情により結論は異なります。
- 医療機関ではCRPSと診断されたが、後遺障害の認定では要件を満たすかどうかが争われるケース。
- 骨折自体は治ったと説明されたが、患部の痛みや腫れ、皮膚の変化が残っているケース。
- 痛みは強いものの、画像上の所見が乏しく、他覚的な裏づけを得にくいケース。
- 通院の頻度が少なかったり、途中で治療が中断していたりして、症状の一貫性の説明が難しくなっているケース。
- 示談が成立した後に、症状が悪化したと感じているケース。
- 事故の前から患部に痛みや既往症があり、事故との因果関係や素因の有無が問題になるケース。
加害者側の保険会社から、症状の重さは被害者側の体質や心理的な要因によるものだとして賠償額の減額(いわゆる素因減額)が主張されることがあります。こうした主張への対応も含め、資料をもとに検討することが考えられます。
示談前・後遺障害申請前のチェックリスト
示談書や免責証書に署名する前、後遺障害の申請前には、次の点を確認しておくことをおすすめします。示談が成立すると、原則として後から追加の請求を行うことは難しくなるため、署名の前の確認が重要です。
- 後遺障害の申請を行うかどうか、その要否を検討したか。
- 後遺障害診断書に、痛みの性状・可動域・皮膚温・骨の状態などが具体的に記載されているか。
- 単純エックス線・MRI・骨シンチグラフィー・サーモグラフィーなど、必要な検査資料がそろっているか。
- 患部の写真や症状の日誌など、経過を示す記録が残っているか。
- 診療録・診療報酬明細書・事故証明書・休業損害の資料など、基礎となる資料を確認したか。
- 保険会社から示された提示内容(金額・示談条件)の意味を確認したか。
- 免責証書・示談書の内容を、署名の前に確認したか。
弁護士に相談するタイミング
弁護士に相談することで、必ず等級が認定されたり賠償額が増えたりするわけではありません。もっとも、資料を整理し、後遺障害申請の要否や示談前の確認点、法律上の見通しを検討しやすくなります。CRPSが関係する事案では、次のようなタイミングでの相談が考えられます。
- 保険会社から治療の終了や示談を打診されたとき。
- 後遺障害診断書の作成前後で、記載内容や検査資料を確認しておきたいとき。
- 示談書や免責証書への署名を求められたとき。
- 後遺障害の非該当通知や、想定と異なる等級の通知を受けたとき。
神戸市須磨区・垂水区・西区・北区の周辺で、交通事故後の後遺障害申請や示談前の確認を検討されている方も、資料を確認したうえで方針を整理することができます。
よくある質問(FAQ)
CRPSとは何ですか。
骨折や外傷、手術などの後に、その損傷から通常予測される程度を超える痛みが長く続く、慢性の痛みの状態をいいます。強い痛みのほか、腫れ、皮膚の色や温度の変化、可動域制限などを伴うことがあります。あらわれ方は人により異なります。
RSDとCRPSは違うのですか。
RSDは、現在はCRPSの一類型(タイプⅠ)として整理されています。明らかな末梢神経の損傷を伴うものはカウザルギー(タイプⅡ)と呼ばれてきました。ただし後遺障害認定の実務では、現在もRSD・カウザルギーという区分に沿って要件が整理されています。
骨折後の痛みが続くと、後遺障害になりますか。
痛みが続くこと自体が直ちに後遺障害と認定されるわけではありません。症状固定時の状態、客観的な所見、治療経過、事故との因果関係などにより判断され、結論は事案によって異なります。
主治医がCRPSと診断すれば、後遺障害は認定されますか。
診断名だけで等級が決まるわけではありません。医学的な判定と、後遺障害認定で用いられる基準は目的も内容も異なります。診断書にCRPSと記載されていても、認定要件を満たすかどうかは別に判断されます。
CRPSの後遺障害申請では、どのような資料が必要ですか。
後遺障害診断書のほか、単純エックス線・MRI・骨シンチグラフィー・サーモグラフィーなどの検査資料、可動域や皮膚の変化の記録、患部の写真、症状の経過を示す資料などが手がかりになります。必要な検査や記載は、事案により異なります。
痛みが強いのに、画像所見が乏しい場合はどうなりますか。
他覚的な所見を得にくい場合、後遺障害申請で評価が分かれやすくなります。客観的な所見、症状の一貫性、治療経過、日常生活への支障などを組み合わせて整理することが重要です。結論は事案により異なります。
保険会社から示談を求められたら、どうすればよいですか。
症状が残っている場合、示談の前に後遺障害申請の要否や診断書・検査資料の内容を確認しておくことが重要です。示談が成立すると、後から追加の請求を行うことは難しくなる傾向があります。署名の前に確認することをおすすめします。
弁護士に相談するときは、何を準備すればよいですか。
診断書、後遺障害診断書、画像・検査資料、患部の写真、症状の記録、事故証明書、保険会社からの提示書面などがあると、状況を整理しやすくなります。手元にある資料の範囲でご相談いただけます。
まとめ
- CRPS(複合性局所疼痛症候群・旧RSD)は、交通事故による骨折や外傷の後に強い痛みや皮膚の変化などが残る場合に問題となることがあります。
- 主治医の診断名だけで後遺障害の等級が決まるわけではありません。医学的な判定と後遺障害の認定は、目的も基準も異なります。
- 後遺障害認定では、症状固定時の状態、客観的な所見、治療経過、事故との因果関係が重視されます。RSDについては「3要件」が問われます。
- 痛みは主観的な症状であるため、診療録・画像・写真・可動域・皮膚の変化・症状の記録などの資料整理が重要です。
- 示談前、後遺障害診断書の作成前、治療終了や示談を打診されたとき、非該当通知を受けたときは、資料を確認して方針を整理することが望ましいといえます。
- 具体的な等級や損害額は、個別事情により異なります。
CRPSが疑われる交通事故の後遺障害について、後遺障害診断書・画像資料・保険会社の提示書面などを確認することで、後遺障害申請の要否や示談前の確認点、法律上の見通しを整理できます。示談前・後遺障害申請前に、一度確認しておくことをおすすめします。
監修者情報
本記事は、神戸みらい法律会計事務所(弁護士法人ひょうご支所)に所属する弁護士・公認会計士 藤井貴之(兵庫県弁護士会所属)が監修しています。当事務所は、交通事故をはじめとする各分野の法律問題および会計・税務に関する業務を取り扱っています。
参考資料(公的機関・学会等)
- e-Gov法令検索「自動車損害賠償保障法」「自動車損害賠償保障法施行令(別表第二)」
- 国土交通省「自賠責保険・共済ポータルサイト|限度額と補償内容」
- 国土交通省「自賠責保険・共済ポータルサイト|障害が残ったときは?」
- 厚生労働省「神経系統の機能又は精神の障害に関する障害等級認定基準について」(平成15年8月8日基発第0808002号)
- 日本ペインクリニック学会「ペインクリニック治療指針」(複合性局所疼痛症候群)
- 厚生労働科学研究成果データベース(複合性局所疼痛症候群(CRPS)に関する研究)

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