業務中や通勤中のけが・病気について治療を続けても、痛みやしびれ、関節の動かしにくさ、機能の低下、精神的な症状などが残ることがあります。このような場合、労災保険では「後遺障害(障害等級)」として、残った障害の程度に応じた給付が問題になります。
もっとも、「自分の症状が何級に当たるのか」「何級ならどのような補償になるのか」「申請前に何を準備すればよいのか」「認定結果に納得できないときはどうすればよいのか」が分からず、手続を進めてよいか迷う方は少なくありません。
この記事では、労災の後遺障害(障害等級)について、認定の仕組み、等級ごとの補償の考え方、申請の流れ、申請前・決定後に確認したい資料、認定結果に納得できないときの入口を整理します。具体的な金額・日数・期限は個別の制度内容や最新の公的資料によって異なるため、本文では考え方を中心に説明し、確定的な数値は厚生労働省などの公式資料で確認することをおすすめします。
この記事で分かること
- 労災の「後遺障害」と「障害等級」の関係
- 障害(補償)等給付の種類と、年金型・一時金型の違い
- 障害等級が認定されるまでの大まかな流れ
- 申請前・決定後に確認したい資料
- 認定結果に納得できないときの検討手順
労災で残った症状について、障害等級や給付の見通しを整理したい方は、資料を確認したうえで対応方針を検討できます。
Contents
労災で後遺障害が残ったとき、最初に確認したいこと
労災で治療を続けても症状が残ったときは、次の点を順番に整理すると、現状と次の行動が見えやすくなります。
- 残っている症状が、医学的にどのように評価されているか(後遺障害診断書・検査結果)
- 治療が「治ゆ(症状固定)」と判断される段階かどうか
- 残った障害が、第1級から第14級までのどの区分の問題になりそうか
- 等級によって、年金型の給付か一時金型の給付かが変わること
- 認定結果に納得できないときは、申立てができる期間が定められていること
労災の障害等級認定は、主治医の診断内容や労働基準監督署の判断によって結論が変わります。本文の内容は一般的な整理であり、個別の事案ではあてはまりが異なります。実際の見通しは、診断書や検査結果などの資料を確認したうえで判断する必要があります。
労災の「後遺障害」と「障害等級」とは
労災でいう「後遺障害」
「後遺障害」は一般的な言い方で、労災保険の制度上は「障害等級」「障害(補償)等給付」などの用語で整理されます。業務上のけが・病気(業務災害)や通勤によるけが・病気(通勤災害)について治療を行い、これ以上の改善が見込めない状態になった後も、身体や精神に一定の障害が残った場合に問題になります。けがによる障害だけでなく、一定の精神的な障害が対象になる場合もあります。
障害等級は第1級から第14級まで
労災保険の障害等級は、残った障害の程度に応じて第1級から第14級まで定められています。数字が小さいほど障害の程度が重く、第1級が最も重い区分です。等級は、労働者災害補償保険法施行規則の障害等級表に基づいて判断されます。複数の障害が残った場合には、一定のルールに従って等級が調整されることがあります。
「治ゆ(症状固定)」と障害等級の関係
労災保険でいう「治ゆ」は、完全に元どおりになることだけを指すのではなく、治療を続けてもこれ以上の改善が見込めない状態(症状固定)になったことを含みます。障害等級の認定は、原則としてこの段階で残っている症状を前提に行われます。いつ症状固定と判断するかは医学的な評価によるため、主治医とよく相談することが大切です。
労災の障害(補償)等給付の種類
障害が残った場合の給付は、性質の異なる複数の給付で構成されます。代表的なものを整理します。
| 給付の区分 | 算定の基礎 | 給付の性質 |
|---|---|---|
| 障害(補償)給付 | 給付基礎日額 | 等級に応じて年金または一時金 |
| 障害特別年金・障害特別一時金 | 算定基礎日額(賞与などが基礎) | 等級に応じて年金または一時金 |
| 障害特別支給金 | 等級ごとの定額 | 一時金 |
給付基礎日額・算定基礎日額とは
「給付基礎日額」は、原則として労働基準法上の平均賃金に相当する額で、災害が発生した日などの直前一定期間の賃金をもとに計算されます。「算定基礎日額」は、賞与など特別に支払われた賃金をもとにする金額で、障害特別年金・障害特別一時金の計算に用いられます。いずれも具体的な計算方法や対象となる賃金の範囲は個別事情によるため、正確な金額は公式資料や労働基準監督署で確認する必要があります。
障害等級が認定されるまでの流れ
障害等級の認定は、おおむね次のような流れで進みます。事案によって順序や必要な対応が変わることがあります。
- けが・病気の治療(療養)を行う
- これ以上改善が見込めない段階(治ゆ・症状固定)かどうかを主治医が判断する
- 主治医に後遺障害の状態に関する診断書を作成してもらう
- 請求書と必要な資料を労働基準監督署へ提出する
- 調査官による調査や面談が行われる
- 障害等級が認定される
- 支給・不支給などの決定が通知される
- 結果に納得できない場合は、不服申立てを検討する
請求書は、業務災害か通勤災害かによって使用する様式が異なります。提出先や様式の詳細、添付書類は、厚生労働省や労働基準監督署の案内で確認してください。
等級ごとの補償の違い(年金型と一時金型)
障害等級は、給付の性質によって大きく二つに分かれます。重い区分では継続的な年金として、比較的軽い区分では一括の一時金として給付が行われるのが基本的な考え方です。
| 障害等級 | 給付の性質 | 主な給付 | 障害の程度のイメージ |
|---|---|---|---|
| 第1級〜第7級 | 年金(継続的に支給) | 障害(補償)年金、障害特別年金、障害特別支給金 | 欠損障害や重い機能障害など、労働能力への影響が大きいもの |
| 第8級〜第14級 | 一時金(一括で支給) | 障害(補償)一時金、障害特別一時金、障害特別支給金 | 比較的程度の軽い機能障害や神経症状など |
各等級に対応する具体的な給付日数や金額は、給付基礎日額・算定基礎日額や等級ごとに定められた日数によって決まります。実際の金額は事案により異なるため、確定的な数値は公式資料で確認してください。障害等級表に記載された個々の障害の細かな要件は、医学的な評価を踏まえて判断されます。
よく問題になるケース(申請前・決定後)
症状や検査結果の整理が不十分なまま申請してしまう
残っている症状が後遺障害診断書や検査結果に十分反映されていないと、実際の状態より軽く評価されてしまうことがあります。自覚症状を具体的に医師へ伝え、必要な検査や画像所見、可動域の測定結果などを整理しておくことが大切です。
会社が労災申請に協力しない・事業主証明が得られない
請求書には会社(事業主)の証明欄がありますが、会社が証明に協力しない場合でも、その経緯を説明して労働基準監督署へ請求すること自体は検討できます。対応に迷うときは、資料を確認したうえで方針を整理することをおすすめします。
想定より低い等級・非該当となった
認定された等級が想定より低い、または非該当となった場合、その判断の前提となった医学的資料を確認することが出発点になります。追加で提出できる資料があるかどうかも含めて、対応を検討する余地があります。
労災保険給付と会社への損害賠償請求を混同している
労災保険からの給付と、会社に対する損害賠償請求は別の制度です。慰謝料や、保険給付では埋めきれない損害については、会社の安全配慮義務違反などを前提に別途請求できる可能性がありますが、要件や証拠、過失割合などは個別事情により結論が異なります。この点は、本記事とは別に検討すべき論点です。
申請前・決定後に確認したい資料チェックリスト
場面ごとに、確認・準備しておきたい資料を整理します。事案によって必要な資料は変わります。
申請前に確認したい資料
- 後遺障害の状態に関する診断書(主治医に作成を依頼)
- 検査画像(MRI・CT・レントゲンなど)と画像所見
- 関節の可動域測定の結果
- 通院・治療の経過がわかる記録
- 業務災害・通勤災害の状況がわかる資料
- 会社とのやり取りの記録
決定通知を受け取った後に確認したいこと
- 支給・不支給などの決定内容
- 認定された等級とその理由
- 不服申立てができる期間(決定通知書の記載を確認)
認定結果に納得できないとき(不服申立ての入口)
労働基準監督署長の決定に納得できない場合、その決定について不服を申し立てる手続が用意されています。一般的には、まず労働者災害補償保険審査官への審査請求を行い、その結果にも納得できない場合は労働保険審査会への再審査請求、さらに裁判所への取消訴訟という流れになります。審査請求を経ていれば、再審査請求を経ずに取消訴訟を提起できる場合もあります。
これらの不服申立てには、それぞれ申立てができる期間が定められています。期間を過ぎると申立てができなくなるおそれがあるため、決定通知書に記載された期限を必ず確認してください。具体的な期間や手続の詳細は、厚生労働省や労働局の案内で確認することをおすすめします。
不服申立ては、単に結論への不満を述べるだけで結果が変わるものではなく、判断の前提となった医学的資料や評価のどこに問題があるのかを、資料に基づいて具体的に示すことが重要になります。
弁護士に相談するタイミング
弁護士への相談は、必ず良い結果を保証するものではありませんが、判断材料や対応方針を整理しやすくなります。次のような場面では、早めに相談を検討する余地があります。
- 申請前に、症状や資料の整理の仕方を確認したいとき
- 「治ゆ(症状固定)」と言われたが、症状が残っているとき
- 認定された等級に納得できないとき
- 不服申立ての期限が迫っているとき
- 会社への損害賠償請求もあわせて検討したいとき
労災の障害等級や給付内容、認定結果への対応について、資料を確認したうえで見通しを検討できます。労災・労働問題を取り扱う弁護士に相談することで、対応方針を整理しやすくなります。
よくある質問(FAQ)
労災の後遺障害(障害等級)とは何ですか。
業務上または通勤によるけが・病気の治療を続けても、これ以上の改善が見込めない段階で身体や精神に残った障害について、その程度に応じて等級が定められ、給付が問題になる仕組みです。一般に「後遺障害」と呼ばれますが、制度上は「障害等級」「障害(補償)等給付」などの用語で整理されます。
障害等級は誰が認定しますか。
労働基準監督署が、提出された診断書や検査結果などの資料、調査・面談の結果をもとに認定します。認定の前提として、主治医による医学的な評価が重要になります。
何級になると年金として支給されますか。
一般的には、重い区分では継続的な年金、比較的軽い区分では一括の一時金として給付されるのが基本的な考え方です。具体的な区分や金額は事案や最新の公的資料によって異なるため、厚生労働省などの公式資料で確認してください。
等級認定に必要な資料は何ですか。
後遺障害の状態に関する診断書、検査画像と画像所見、可動域の測定結果、通院・治療の記録、災害の状況がわかる資料などが中心になります。必要な資料は症状や事案によって変わります。
会社が労災申請に協力してくれない場合はどうすればよいですか。
会社の証明が得られない場合でも、その経緯を説明して労働基準監督署へ請求すること自体は検討できます。対応に迷うときは、資料を確認したうえで方針を整理することをおすすめします。
認定された等級に納得できない場合はどうすればよいですか。
判断の前提となった医学的資料を確認したうえで、審査請求などの不服申立てを検討する余地があります。これらの手続には申立てができる期間が定められているため、決定通知書の記載を確認してください。
労災保険から慰謝料は支払われますか。
労災保険の給付は、慰謝料とは異なる制度です。慰謝料や、保険給付で埋めきれない損害については、会社の責任を前提に別途請求できる可能性がありますが、要件や証拠、過失割合などにより結論は異なります。
弁護士に相談するタイミングはいつですか。
申請前、症状固定と言われたとき、認定結果に納得できないとき、不服申立ての期限が迫っているとき、会社への損害賠償請求も検討したいときなどが、相談を検討しやすい場面です。相談により、対応方針を整理しやすくなります。
まとめ
- 労災の「後遺障害」は、制度上は「障害等級」「障害(補償)等給付」として整理される
- 障害等級は第1級から第14級まであり、重い区分は年金型、比較的軽い区分は一時金型が基本
- 給付は、障害(補償)給付・障害特別年金(一時金)・障害特別支給金などで構成される
- 認定は労働基準監督署が行い、診断書や検査結果などの資料が重要になる
- 認定結果に納得できないときは、申立期間に注意しつつ不服申立てを検討できる
- 労災保険給付と会社への損害賠償請求は別制度であり、混同しないことが大切
具体的な金額・日数・期限は、最新の公的資料や個別の事情によって異なります。判断に迷うときは、診断書や検査結果などの資料を整理したうえで、早めに確認することをおすすめします。
労災の障害等級や給付内容、認定結果への対応について確認したい方は、資料を確認したうえで見通しを検討できます。手続を進める前に、一度内容を整理しておくと安心です。
監修・執筆
本コラムは、神戸みらい法律会計事務所の弁護士が内容を確認しています。担当弁護士の経歴や取扱分野については、弁護士紹介ページをご覧ください。
参考資料

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