「原材料費や人件費の高騰で手当の見直しを迫られている」「賃金体系を成果を反映する形へ改めたい」「シフトや休日の組み方を変えたいが、従業員に何と説明すればよいのか分からない」――。会社を経営し、または人事労務を担当していると、賃金、労働時間、休日、勤務地といった労働条件の変更を検討せざるを得ない場面があります。
先に結論の方向性をお伝えすると、労働契約の内容である労働条件は、労働者と使用者(会社)の合意によって変更するのが原則であり、会社が一方的に労働者の不利益になる変更をすることは、原則として認められていません(労働契約法第8条・第9条)。もっとも、就業規則の変更による方法など、法律の定める要件を満たすことで変更が認められる場合もあります。どの方法を選び、どのような手続と資料を整えるかによって、変更の有効性と紛争リスクは大きく変わります。
この記事では、労働条件を変更する主な3つの方法(個別合意・労働協約・就業規則の変更)、不利益変更への同意の有効性、就業規則変更の合理性・意見聴取・届出・周知、会社側の実務手順と必要資料、弁護士へ相談するタイミングまでを、会社・使用者側の視点から整理します。個別の事情によって結論は変わりますので、最終的な判断は、雇用契約書や就業規則などの資料を確認したうえで行う必要があります。
この記事で分かること
- 労働条件の変更は労使の合意が原則であり、一方的な不利益変更は原則としてできないこと
- 個別合意・労働協約・就業規則の変更という3つの方法の違いと使い分け
- 同意書に署名があっても、自由な意思に基づく同意かどうかが問題になり得ること
- 就業規則の変更による不利益変更には、周知と合理性が必要であること
- 意見聴取・労働基準監督署への届出と、民事上の有効性は別の問題であること
- 変更を実施する前に確認しておきたい資料と手続の流れ
本記事は、主に会社・使用者側の視点から労働条件の変更を整理するものです。会社から労働条件の変更を求められた労働者の方は、変更に同意する義務が当然にあるわけではなく、同意の前に内容を確認することが大切です。労働者側のご相談については、労働問題(労働者側)の取扱業務をご覧ください。
労働条件の変更は、現行の規程と変更案を照合することから始まります。
雇用契約書、労働条件通知書、就業規則、賃金規程などを確認することで、どの方法でどのような手続が必要になるかを整理できます。社内へ告知する前、同意書を取得する前に、一度ご確認ください。
結論|労働条件の変更を会社が一方的にできるのか
労働契約の内容である労働条件は、労働者と使用者の合意により変更することができます(労働契約法第8条)。裏を返せば、合意によらない変更は原則として許されず、特に、使用者が労働者と合意することなく、就業規則を変更することによって労働条件を労働者の不利益に変更することは、原則としてできないと定められています(同法第9条)。
もっとも、例外がないわけではありません。変更後の就業規則を労働者に周知させ、かつ、その変更が、労働者の受ける不利益の程度、変更の必要性、変更後の内容の相当性、労働組合等との交渉の状況その他の事情に照らして合理的なものであるときは、労働条件は変更後の就業規則の定めによることになります(同法第10条)。また、労働組合がある場合には、労働協約の締結によって労働条件を変更する方法もあります。「一方的な変更は原則としてできないが、法律の定める要件を満たす方法によれば変更が認められる場合がある」というのが全体像です。
検討の出発点として、変更したい労働条件がどこで定められているかを確認してください。雇用契約書や労働条件通知書で個別に定められているのか、就業規則や賃金規程で統一的に定められているのか、労働協約によるのかによって、選ぶべき方法と必要な手続が変わります。
この記事の前提
本記事は一般的な情報提供です。変更が有効と認められるかどうかは、変更する条件の内容、不利益の程度、変更の必要性、説明や協議の経過、就業規則・雇用契約書の定め方など、個別の事情によって変わります。具体的な結論は、資料を確認したうえで個別に判断する必要があります。
「労働条件の変更」に当たる主なケース
労働条件とは、賃金や労働時間をはじめとする、労働契約上の労働者の待遇全般をいいます。実務で変更が問題になりやすいのは、次のような場面です。
- 賃金に関するもの|基本給の引下げ、諸手当の廃止・減額、賞与の算定方法の変更、退職金制度の見直し、固定残業代制度の導入・変更
- 労働時間・休日に関するもの|所定労働時間の延長・短縮、始業・終業時刻の変更、休憩時間の変更、休日数や休日の曜日の変更、シフト制の変更
- 働き方に関するもの|勤務地の変更、職務内容の変更、役職の変更、テレワーク制度の導入・縮小、福利厚生の見直し
ここで一つ整理しておきたいのは、契約内容の変更と、人事権の行使の区別です。雇用契約書や就業規則に、業務上の必要により転勤や配置換えを命じることがある旨の定めがあり、勤務地や職務が契約上限定されていない場合、その範囲内で行われる転勤や配置換えは、労働条件(契約内容)の変更ではなく、人事権(配転命令権)の行使として扱われるのが一般的です。ただし、人事権の行使にも権利の濫用に当たらないかという別の制約があり、配置転換、降格、出向、転籍などには、労働条件の変更とは異なる法的検討が必要です。本記事では、契約内容としての労働条件を変更する場面を中心に扱います。
また、労働者に有利な変更(賃上げ、休日の増加など)は、通常、争いになりにくいものです。問題になるのは、労働者に不利益な変更と、一部が有利で一部が不利になる変更です。ある変更が不利益に当たるかどうかは、名目だけでなく実質で判断されます。不利益かどうか判断に迷う変更については、不利益変更に準じた手続を踏んでおくことが、紛争予防の観点からは安全です。
労働条件を変更する主な3つの方法
実務上、労働条件の変更は、次の3つの方法のいずれか、またはその組合せによって進めるのが基本です。これは法律上の全場面を網羅する唯一の分類ではありませんが、大半の場面はこの整理で検討できます。
方法①|労働者との個別合意による変更
労働者と使用者が合意すれば、労働契約の内容である労働条件を変更することができます(労働契約法第8条)。合意は口頭でも成立し得ますが、労働契約の内容は、できる限り書面により確認するものとされており(同法第4条第2項)、後日の紛争を避けるため、変更合意書や同意書などの書面を取り交わすことが重要です。個別の事情に応じた変更や、対象者が特定されている変更に向いた方法です。ただし、後述のとおり、不利益変更への同意は署名があるだけでは有効と即断できないこと、就業規則の基準を下回る個別合意はその部分が無効になることに注意が必要です。
方法②|労働協約の締結による変更
労働組合がある場合には、使用者と労働組合が労働協約を締結することによって、組合員の労働条件を変更する方法があります。労働協約とは、労働組合と使用者(またはその団体)との間の労働条件その他に関する協定で、書面に作成し、両当事者が署名または記名押印することによって効力を生じます(労働組合法第14条)。協約に定める労働条件の基準は、個々の労働契約を直接規律する効力(規範的効力)を持ちます(同法第16条)。
方法③|就業規則の変更による変更
多数の労働者に統一的に適用される労働条件を変更する場合には、就業規則(賃金規程・退職金規程などの付属規程を含みます)を変更する方法が中心になります。不利益変更の場合、変更後の就業規則の周知と、変更の合理性が必要です(労働契約法第10条)。あわせて、労働基準法上の手続として、過半数代表者等からの意見聴取、労働基準監督署への届出(常時10人以上の事業場)、労働者への周知が求められます。
| 方法 | 主な対象 | 必要となる手続 | 有効性を検討する際の主要事項 | 残すべき資料 | 特に注意すべき場面 |
|---|---|---|---|---|---|
| 個別合意 | 個々の労働者 | 説明と合意、書面の取り交わし | 自由な意思に基づく同意といえるか、就業規則の基準を下回らないか | 説明資料、同意書・変更合意書、面談記録 | 賃金・退職金など重要な条件の不利益変更 |
| 労働協約 | 原則として締結した組合の組合員 | 労働組合との交渉、書面作成、署名または記名押印 | 協約の成立要件、適用範囲、内容や締結経緯 | 交渉記録、労働協約書 | 非組合員への適用の可否、組合が複数ある場合 |
| 就業規則の変更 | 就業規則の適用を受ける労働者全体 | 意見聴取、届出(常時10人以上の事業場)、周知 | 変更後の周知と、変更の合理性 | 変更前後の規程、意見書、届出控え、周知記録 | 不利益変更全般、個別契約で異なる定めがある場合 |
不利益変更への個別同意|署名があっても有効と即断できない
労働条件の変更は合意が原則ですから、労働者の同意を得て変更すること自体は、正攻法といえます。ただし、労働者にとって不利益な変更への同意は、同意書に署名があるというだけでは有効と即断できない点に、実務上の最大の注意点があります。
最高裁は、山梨県民信用組合事件(最高裁平成28年2月19日判決)において、就業規則に定められた賃金や退職金に関する労働条件の変更に対する労働者の同意の有無について、変更を受け入れる旨の労働者の行為(署名押印など)があるかどうかだけでなく、変更により労働者にもたらされる不利益の内容・程度、労働者がその行為をするに至った経緯やその態様、その行為に先立つ労働者への情報提供・説明の内容などに照らして、その行為が労働者の自由な意思に基づいてされたものと認めるに足りる合理的な理由が客観的に存在するかという観点からも判断すべきであるとしています。
この考え方を前提にすると、会社としては、同意書という形式を整えるだけでは足りず、次のような実質を伴った同意の取得が求められます。
- 変更の内容と必要性に加えて、労働者に生じる不利益の内容・程度(金額の試算を含みます)を具体的に説明すること
- その場での即答を求めず、検討する時間と質問する機会を確保すること
- 威圧的な言動や、誤解を与える説明、同意しなければ不利益に取り扱う旨の示唆をしないこと
- 説明資料、説明の日時・出席者、質疑の内容、同意書、面談記録などを保存しておくこと
なお、変更後も労働者が異議を述べずに勤務を続けたという事実だけで、当然に同意があったと評価されるとは限りません。同意の有無が争われる場面を想定し、同意の取得過程を記録として残しておくことが重要です。
もう一つの注意点は、就業規則との関係です。就業規則で定める基準に達しない労働条件を定める労働契約は、その部分については無効となり、無効となった部分は就業規則の基準によります(労働契約法第12条。就業規則の最低基準効と呼ばれます)。たとえば、賃金規程を改定しないまま、個別合意だけで賃金を規程の基準より引き下げても、その合意は効力を認められないことがあります。賃金の引下げでは、個別合意とあわせて、賃金規程等の改定が必要かどうかをその都度確認してください。また、引下げ後の賃金額が最低賃金額に達しない定めは、合意があってもその部分が無効となります(最低賃金法第4条)。
同意書の取得や就業規則の改定を進める前に、現行規程と変更案の関係を確認できます。
変更したい条件が雇用契約書と就業規則のどちらで定められているか、説明資料や同意書の内容に不足がないか、手続の順序に問題がないかを、資料に基づいて検討できます。
就業規則の変更による不利益変更が問題となる場合
従業員全体に統一的に適用される労働条件を変更する場合、実務の中心となるのは就業規則の変更です。ここでは、民事上の有効要件である「周知」と「合理性」、労働基準法上の手続である「意見聴取」「届出」「周知」を、順に整理します。
変更の合理性はどのような事情で判断されるか
労働契約法第10条は、就業規則の変更が合理的なものであるかどうかを、次の事情に照らして判断するものとしています。
- 労働者の受ける不利益の程度
- 労働条件の変更の必要性
- 変更後の就業規則の内容の相当性
- 労働組合等との交渉の状況
- その他の就業規則の変更に係る事情
特に、賃金や退職金など労働者にとって重要な労働条件を不利益に変更する場合には、そのような不利益を労働者に法的に受忍させることを許容できるだけの高度の必要性に基づいた合理的な内容のものであることが必要であるとするのが、最高裁判例の考え方です。経営状態が苦しいという事情だけで、直ちに賃金の引下げが認められるわけではありません。
合理性を基礎付ける事情として、実務上は次のような工夫が検討されます。いずれも、講じておけば変更が有効になるというものではありませんが、合理性の判断に影響し得る事情です。
- 経過措置(段階的な実施)や緩和措置を設けること
- 不利益を補う代償措置(別の手当や処遇の改善など)を検討すること
- 労働組合や従業員への説明・協議を重ね、その経過を記録すること
- 変更の必要性を裏付ける客観的な資料(経営状況、同業の一般的な水準など)を整理すること
変更後の就業規則の周知
変更後の就業規則が労働契約の内容となるためには、変更後の就業規則を労働者に周知させることが必要です(労働契約法第10条)。ここでいう周知は、労働者が知ろうとすれば知ることができる状態に置くこと(実質的な周知)をいうと解されています。また、労働基準法上も、就業規則は、常時各作業場の見やすい場所への掲示・備付け、書面の交付、電子データとして記録し各作業場で常時確認できる機器を設置する方法のいずれかにより、労働者に周知させなければなりません(労働基準法第106条、労働基準法施行規則第52条の2)。実務上は、この労働基準法上の方法に沿って周知し、いつ・どの方法で周知したかを記録しておくことが安全です。周知を欠いたままでは、変更の効力は認められない方向に働きます。
意見聴取と労働基準監督署への届出
常時10人以上の労働者を使用する使用者は、就業規則を作成し、労働基準監督署へ届け出る義務があり、変更した場合も同様です(労働基準法第89条)。そして、就業規則の作成・変更については、その事業場の労働者の過半数で組織する労働組合がある場合はその労働組合、ない場合は労働者の過半数を代表する者(過半数代表者)の意見を聴かなければならず、届出には意見を記した書面(意見書)を添付します(同法第90条)。
過半数代表者は、誰でもよいわけではありません。労働基準法上の管理監督者でないこと、意見を聴く目的を明らかにして実施される投票・挙手などの方法による手続で選出された者であって、使用者の意向に基づいて選出された者でないことが必要です(労働基準法施行規則第6条の2)。会社が特定の従業員を指名する方法は、この要件を満たしません。選出の経過(実施方法・日時・結果)も記録しておいてください。
ここで誤解が多いのは、意見聴取と同意の違いです。法律が求めているのは意見を聴くことであり、過半数代表者等の同意を得ることまでは求められていません。反対意見が記載された意見書であっても、意見聴取の手続自体が行われていれば、そのことだけで届出ができなくなるものではないとされています。もっとも、反対意見に対応しないまま変更を進めれば、労働組合等との交渉の状況として合理性の判断に影響し得るほか、紛争に発展するリスクも高まります。反対意見に対しては、追加の説明や協議を検討することが望まれます。
届出をしても民事上有効になるわけではない
意見聴取と届出は、労働基準法上の義務であり、これを怠ると同法違反の問題が生じます。他方で、届出をして受理されたからといって、変更が民事上有効になるわけではありません。労働基準監督署は、変更の合理性を審査して有効性を認定する機関ではないからです。変更後の労働条件が個々の労働者との関係で効力を持つかどうかは、あくまで周知と合理性(労働契約法第10条)によって判断されます。手続面(意見聴取・届出・周知)と実体面(合理性)の両方を満たす必要がある、と理解してください。
常時10人未満の事業場の場合
就業規則の作成・届出義務は、常時10人以上の労働者を使用する事業場を単位として判断されます。この人数は、会社全体ではなく事業場ごとに数えるのが行政実務の取扱いで、パートやアルバイトも含まれます。常時10人未満の事業場には届出義務はありませんが、だからといって労働条件を自由に変更できるわけではありません。労働契約法第8条から第10条までの規律は、事業場の人数にかかわらず適用されます。就業規則を作成している場合はその変更手続を踏む必要がありますし、就業規則がない場合は、個別合意による変更が中心となるため、説明と書面化がいっそう重要になります。
労働協約によって労働条件を変更する場合
労働組合がある会社では、労働協約の改定によって労働条件を変更することが考えられます。労働協約は、書面に作成し、労使双方が署名または記名押印して初めて効力を生じます(労働組合法第14条)。口頭の合意や、形式を欠く覚書では、労働協約としての効力は認められません。
労働協約に定める労働条件その他の労働者の待遇に関する基準に違反する労働契約の部分は無効となり、無効となった部分は協約の基準によります(労働組合法第16条・規範的効力)。この効力により、協約の改定を通じて組合員の労働条件を変更することができます。労働条件を引き下げる方向の協約も直ちに無効となるわけではありませんが、特定の層の労働者にことさら大きな不利益のみを与えるような内容である場合や、締結の経緯等に問題がある場合には、効力が否定されることがあります。
適用範囲にも注意が必要です。労働協約は、原則として、締結した労働組合の組合員に適用されます。例外として、一つの工場・事業場に常時使用される同種の労働者の4分の3以上の労働者が一つの労働協約の適用を受けるに至ったときは、その事業場の他の同種の労働者にも協約が適用されます(労働組合法第17条・一般的拘束力)。もっとも、別の労働組合に加入している労働者には及ばないと解されているなど、非組合員に一律に適用されると断定できるものではなく、適用範囲は事案ごとの検討が必要です。
実務では、労働協約と労使協定、過半数代表者の意見書が混同されがちです。次のとおり、当事者も効力も異なる別の制度です。
| 名称 | 当事者 | 形式 | 主な効力・性質 |
|---|---|---|---|
| 労働協約 | 労働組合と使用者(またはその団体) | 書面+双方の署名または記名押印 | 組合員の労働条件を直接規律する(規範的効力)。労働条件の変更手段になり得る |
| 労使協定 | 過半数労働組合または過半数代表者と使用者 | 書面(例|時間外・休日労働に関する36協定) | 法律上禁止される取扱いを例外的に許容する効果が中心。労働条件を当然に変更する効力はない |
| 過半数代表者の意見書 | 過半数代表者(作成者) | 就業規則の届出に添付する書面 | 意見を聴いたことを示す記録。同意や合意を示すものではない |
なお、就業規則は、法令のほか、その事業場に適用される労働協約に反してはなりません(労働基準法第92条)。労働協約がある会社で就業規則を変更する場合は、協約との整合性の確認が必要です。
会社が労働条件を変更する際の実務手順
労働条件の変更は、おおむね次の流れで進めると、検討の抜けを防ぎやすくなります。事案によって必要な手続は異なり、すべての場面でこのすべてが必要になるわけではありません。
- 変更の対象となる労働条件を特定する
- 雇用契約書、労働条件通知書、就業規則、賃金規程、労働協約など、現行の定めを確認する
- 変更前後の条件を比較する資料を作成する
- 対象者の範囲と、対象者ごとの不利益の程度(金額の試算を含みます)を整理する
- 変更の必要性を裏付ける資料を整理し、より不利益の小さい代替案がないかを検討する
- 個別合意・労働協約・就業規則の変更のうち、適切な方法(またはその組合せ)を選ぶ
- 従業員向けの説明資料、質問への回答例、変更案(規程案・同意書案)を作成する
- 従業員への説明会や個別面談、労働組合との協議、過半数代表者からの意見聴取を行う
- 同意書、意見書、説明記録、交渉記録などの書面を整える
- 常時10人以上の事業場では、就業規則変更届に意見書を添付して労働基準監督署へ届け出る
- 変更後の就業規則を掲示・備付け・書面交付・電子データなどの方法で周知し、必要に応じて個別に通知する
- 施行後の給与計算や運用を確認し、従業員からの問い合わせに対応できる体制を整える
労働条件の変更で問題になりやすいケース
実務でご相談の多い場面と、検討の視点を整理します。いずれも一般化した例であり、結論は個別の事情によって変わります。
| 場面 | 主な確認資料と判断を左右する事情 |
|---|---|
| 基本給を引き下げたい | 賃金規程と雇用契約書の定め、不利益の程度、変更の必要性の裏付け、経過措置・代償措置、説明と同意の取得過程 |
| 手当を廃止・減額したい | 手当の性質(支給の趣旨・実態)、対象者の範囲、就業規則と個別契約のどちらで定まっているか |
| 賞与制度を変更したい | 賞与の定め方(支給基準が確定的か、業績等による裁量か)、規程の文言、これまでの支給実績 |
| 退職金制度を見直したい | 退職金規程、勤続年数に応じた影響の試算、経過措置の要否。重要な労働条件として厳しく判断されやすい |
| 所定労働時間・休日を変更したい | 就業規則・雇用契約書の定め、実質的な賃金単価への影響(時間延長で単価が下がる場合など)、年間休日数の変化 |
| 勤務地・職務内容を変更したい | 契約上の限定の有無、配転命令権の範囲か契約内容の変更か、労働者の事情への配慮 |
| テレワーク制度を縮小したい | 制度の根拠(規程か、個別合意か、事実上の運用か)、通勤負担など労働者への影響 |
| 固定残業代制度を変更したい | 現行制度の有効性、割増賃金の計算への影響、賃金規程・雇用契約書の整合性 |
| 一部の従業員だけが同意しない | 同意した従業員と不同意の従業員の扱い、就業規則変更による方法の可否、追加の説明・協議の経過 |
| 過半数代表者から反対意見が出た | 選出手続の適法性、反対理由への対応、意見聴取後の協議の経過 |
| 労働組合から団体交渉を求められた | 誠実に交渉に応じる義務への対応、交渉記録、協約・就業規則との関係 |
| 変更後に未払賃金等を主張された | 変更の有効性(同意・合理性・周知・手続)の再点検、賃金計算の差額、記録の保全 |
労働時間や休日の変更を検討する場合は、労働時間の把握や割増賃金の運用とあわせて確認することをおすすめします。固定残業代制度の考え方とあわせて、次の記事もご参照ください。
あわせて、避けるべき対応も押さえておいてください。まず、すでに行われた労働に対応する賃金を遡って減額することは、将来に向けた労働条件の変更とは別の問題です。賃金は全額を支払うことが原則であり(労働基準法第24条)、既に発生した賃金の減額や放棄は、労働者の自由な意思に基づくものといえるかが厳しく判断されます。また、同意や就業規則変更の手続が調う前に変更後の条件で給与計算を始めてしまう先行実施、回答を急がせる面談、記録を残さない口頭だけの説明も、後の紛争で会社側に不利に働きやすい対応です。なお、就業規則に基づく懲戒処分としての減給には、1回の額が平均賃金の1日分の半額以内、総額が一賃金支払期の賃金総額の10分の1以内という別の制限があり(労働基準法第91条)、労働条件の変更としての賃金の引下げとは区別して検討する必要があります。
変更を実施する前のチェックリスト
社内への告知、同意書の取得、就業規則の届出、施行の前には、少なくとも次の資料と手続を確認しておくと、検討がしやすくなります。すべての事案ですべてが必要になるわけではありません。また、資料がそろっていれば変更が有効になる、というものでもありません。
- 雇用契約書、労働条件通知書、就業規則、賃金規程、退職金規程、労働協約、労使協定などの現行資料
- 変更前後の条件の比較表と、対象従業員ごとの影響(不利益)の試算
- 変更の必要性を裏付ける客観資料(経営状況の資料など)と、代替案の検討経過
- 従業員向け説明資料、想定問答、説明会・個別面談の記録
- 同意書・変更合意書(不利益の内容を明示したもの)
- 労働組合との交渉記録、過半数代表者の選出記録と意見書
- 就業規則変更届と届出の控え(常時10人以上の事業場)
- 変更後の規程の周知方法・周知日の記録と、必要に応じた個別通知
弁護士へ相談するタイミング
労働条件の変更は、実施した後から手続をやり直すことが難しく、施行前の設計が重要です。次のような段階で確認しておくと、資料の整理や対応方針の検討がしやすくなります。
- 変更の方針を社内へ告知する前(方法の選択と手続の設計)
- 従業員から同意書を取得する前(説明資料と同意書の内容の確認)
- 就業規則・賃金規程の改定案を確定する前(合理性を基礎付ける事情の整理)
- 過半数代表者から意見を聴く前、労働基準監督署へ届け出る前
- 変更後の制度を施行する前(周知・給与計算・運用の確認)
- 従業員や労働組合から反対、質問、団体交渉の申入れを受けた段階
- 変更後に、未払賃金の主張や変更の無効の主張を受けた段階
相談によって、現行規程と変更案の関係の確認、個別合意による方法と就業規則変更による方法の比較、必要な手続と資料の整理、実施前に紛争リスクとなり得る点の確認、異議が出た場合の対応方針の検討などを行うことができます。労働条件の見直しを含む継続的な労務管理の体制づくりについては、顧問契約を含めて検討することも考えられます。法律顧問(顧問契約)の内容を確認する
労働条件の変更に関するよくある質問
会社は労働条件を一方的に変更できますか。
労働条件は労働者と使用者の合意により変更するのが原則で、一方的な不利益変更は原則としてできません(労働契約法第8条・第9条)。例外的に、変更後の就業規則の周知と変更の合理性が認められる場合には、就業規則の変更によることができます(同法第10条)。合理性の有無は個別事情により判断が分かれます。
同意書へ署名してもらえば、不利益変更は有効になりますか。
署名があるというだけでは有効と即断できません。最高裁判例は、賃金・退職金に関する変更への同意について、不利益の内容・程度、同意に至った経緯、事前の情報提供や説明の内容などに照らし、自由な意思に基づく同意と認められる合理的な理由が客観的にあるかという観点から判断するとしています。説明の内容と取得過程の記録が重要です。
就業規則を変更すれば、給与を下げることはできますか。
変更後の就業規則を周知し、変更が合理的なものであると認められる場合には、変更後の基準によることになります。ただし、賃金は重要な労働条件であるため、高度の必要性に基づいた合理的な内容であることが求められ、経過措置や代償措置、説明・協議の経過などを含めて厳しく判断されます。結論は個別事情により異なります。
過半数代表者から反対意見が出た場合、就業規則の変更届は出せませんか。
法律が求めるのは意見を聴くことであり、同意を得ることまでは求められていません。反対意見が記載された意見書でも、意見聴取の手続が行われていれば、そのことだけで届出ができなくなるものではないとされています。もっとも、反対意見への対応を欠いたまま進めると合理性の判断や紛争リスクに影響し得るため、追加の説明・協議を検討することが望まれます。
従業員が10人未満の会社なら、労働条件を自由に変更できますか。
できません。常時10人未満の事業場には就業規則の作成・届出義務がないだけで、合意原則や就業規則の変更に関する労働契約法の規律は人数に関係なく適用されます。なお、10人の要件は会社全体ではなく事業場ごとに、パート・アルバイトを含めて数えるのが行政実務の取扱いです。
労働条件を変更したら、労働条件通知書を再交付する必要がありますか。
労働条件の明示義務(労働基準法第15条)は労働契約の締結の際や有期契約の更新の際に課されるもので、契約期間中の変更のたびに通知書の再交付までを一律に義務付けるものではないと解されています。もっとも、労働契約の内容はできる限り書面で確認するものとされており(労働契約法第4条第2項)、変更合意書や新しい通知書を交付しておくことが、紛争予防の観点から望まれます。
労働協約と労使協定は何が違いますか。
労働協約は労働組合と使用者が締結するもので、組合員の労働条件を直接規律する効力があります。労使協定は過半数労働組合または過半数代表者と使用者が締結するもので、36協定のように法律上禁止される取扱いを例外的に許容する効果が中心であり、労働条件を当然に変更する効力はありません。名称が似ていても別の制度です。
従業員が変更に同意しない場合、どうすればよいですか。
まず、不利益の内容や必要性について追加の説明・協議を行い、経過措置や代替案を検討することが基本です。統一的な変更が必要な場合には、就業規則の変更による方法(周知と合理性)を検討することになりますが、要件を満たすかは個別事情によります。同意しないことを理由とする解雇や不利益取扱いは、別の厳格な法的問題を生じさせるため、慎重な検討が必要です。
まとめ
- 労働条件の変更は労使の合意が原則で、一方的な不利益変更は原則としてできません。
- 変更の方法は、個別合意・労働協約・就業規則の変更の3つが基本で、条件がどこで定められているかによって使い分けます。
- 不利益変更への同意は、署名の有無だけでなく、説明の内容や取得過程を含めて実質的に判断されます。
- 就業規則による不利益変更には周知と合理性が必要で、意見聴取・届出という手続と民事上の有効性は別の問題です。
- 実施後のやり直しは難しいため、告知・同意取得・届出・施行の前に、資料と手続を確認しておくことが大切です。
労働条件の変更を実施する前に、手続と資料を確認しませんか。
ご相談の際は、雇用契約書、労働条件通知書、就業規則、賃金規程、変更案、従業員への説明資料などをご用意いただくと、確認がスムーズです。初回の法律相談は無料です(予約制、受付時間9時〜20時)。淡路市・洲本市・南あわじ市を含む淡路島の事業者の方からのご相談に対応しています。
お電話でのお問い合わせは 0799-53-6782 へ。関連する取扱業務や費用は、労働法務(使用者側)、法律顧問、弁護士費用、弁護士紹介の各ページをご確認ください。
参考資料(いずれも2026年7月23日閲覧)
- 労働契約法(e-Gov法令検索)|第4条・第7条〜第13条
- 労働基準法(e-Gov法令検索)|第15条・第24条・第89条〜第92条・第106条
- 労働基準法施行規則(e-Gov法令検索)|第6条の2・第52条の2
- 労働組合法(e-Gov法令検索)|第14条・第16条・第17条
- モデル就業規則について(厚生労働省)
本記事は一般的な情報提供であり、具体的な結論は事実関係と資料により異なります。個別の事案については、資料を確認したうえで弁護士にご相談ください。

24時間365日受付