使用者による労働時間の管理について
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使用者による労働時間の管理
はじめに
使用者は、労働安全衛生法上、労働時間の状況を把握する義務を負っており(法第66条の8の3)、また、労働時間が適切に管理されていない場合、誤った労働時間に基づいて労働者の賃金が計算されていることになるため、未払賃金が発生していることになります。
そこで、本コラムでは、使用者による労働時間の管理について、淡路島の弁護士が解説いたします。
1 労働時間制度について
そもそも、使用者は原則として、労働者を1日につき8時間、1週間につき40時間を超えて労働させてはならず(労働基準法第第32条)、毎週1回又は4週を通じて4日以上の休日を与えなければなりません(労働基準法第35条)。
このため、労使協定(36協定)を締結し、労働基準監督署長に届け出なければ、時間外・休日労働を行わせることはできません(労働基準法第36条、労働基準法規則第17条第1項)。
また、労使協定(36協定)による時間外労働の上限時間は、原則1か月45時間、1年360時間です(労働基準法第36条第3項)。
一時的・突発的に時間外労働の必要性が生じた場合、特別条項を定めることで6か月を超えない期間、月100時間未満(休日労働時間を含む。)、1年720時間等の範囲で時間外労働を行わせることは可能です(労働基準法第36条第5項)が、恒常的・状態的に1か月45時間の時間外労働をさせることはできません。
2 労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関するガイドライン
厚生労働省の通達である「労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関するガイドライン」では、
① 労働者の労働日ごとの始業・終業時刻を確認・記録すること
➁ 確認・記録の方法は、使用者が自ら現認するか、タイムカード、ICカード、パソコンの使用時間の記録などによること
➂ 自己申告により確認・記録せざるを得ない場合は、適正に自己申告を行わせ、必要に応じて実態調査をすること
が定められています。
このように、使用者には自ら労働時間を適正に把握すべき義務があることから、自己申告制のもとで労働者が労働時間を正確に申告していないなどの場合でも、時間外手当の支払を免れることはできません。
3 長時間労働による安全配慮義務違反
労働者が長時間労働したことで、脳・心臓疾患や精神障害を発症した場合、使用者は安全配慮義務違反・不法行為による損害賠償責任をを負うことになります。
そして、安全配慮義務違反が認められるかどうかについては、労働時間は重要な要素になります
4 労働時間の端数処理
労働時間の端数について、1日における端数処理は認められておらず、時間外労働が行われた場合、使用者は1分単位で時間外手当を計算し支払う必要があります。
なお、1か月における時間外労働、休日労働、深夜労働のそれぞれの合計時間に関しては、30分未満の端数を切り捨て、それ以上を1時間に切り上げることは認められています。
5 割増賃金の計算方法
割増賃金の金額は、通常の賃金に、割増率を乗じた労働時間数を乗じて計算する。
通常の労働賃金は、時間単価であり、日給制の場合は、日給を1日の所定労働時間数で除した金額、月給制の場合は、月給を1か月の所定労働時間で除した金額です。
ただし、割増賃金の算定基礎となり基礎賃金には、家族手当・通勤手当・別居手当、子女教育手当・住宅手当・臨時に支払われた賃金・1か月を超えるごとに支払われる賃金は算入しません。
割増率は、以下のとおりです。
・ 60時間以内の法定時間外労働:25%増し
(ただし、45時間超、60時間以内では、割増率を25%よりも高く定める努力義務あり )
・ 60時間超の法定時間外労働 :50%
・ 法定休日労働 :35%
・ 深夜労働 :上記の各時間に+25%