「タイムカードを押した後も従業員が仕事をしている」「管理職には残業代を払っていないが、労働時間の記録もしていない」「自己申告の残業時間とパソコンの使用記録が合わない」――。会社を経営し、または人事労務を担当していると、労働時間の管理について、このような迷いが生じる場面が少なくありません。使用者には従業員の労働時間を把握することが求められますが、そこで管理すべき「労働時間」は、タイムカードの打刻時刻や本人の申告と、必ずしも一致するとは限りません。
この記事では、労働時間に該当する範囲、始業・終業時刻の把握方法、客観的記録と自己申告制、管理監督者やテレワークの取扱い、法定労働時間・休憩・休日と36協定、時間外労働の上限規制、端数処理と割増賃金、記録の保存期間、そして管理の不備が見つかったときの初動までを、法令と厚生労働省の資料に沿って、使用者・経営者・人事労務担当者の方に向けて整理します。個別の事情によって結論は変わりますので、最終的な判断は、就業規則や勤怠記録などの資料を確認したうえで行う必要があります。
この記事で分かること
- 使用者に求められる労働時間管理には、労働基準法上の管理と労働安全衛生法上の把握という二つの目的があること
- 「労働時間」に当たるかは、就業規則の名称や本人の申告ではなく、実質的に使用者の指揮命令下にあったかで判断されること
- タイムカードや自己申告など把握方法ごとに、使用者が確認・整備すべき点が異なること
- 毎日の労働時間は1分単位で扱う必要があり、15分単位などで一律に切り捨てられるわけではないこと
- 管理監督者やテレワークにも、労働時間の状況を把握すべき場面があること
- 勤怠記録に不備が見つかっても、記録を書き換えず、まず保全したうえで問題の範囲を確認する必要があること
就業規則・勤怠記録・36協定を照合することから、労働時間管理の点検は始まります。
就業規則、賃金規程、雇用契約書、タイムカードやPCログ、36協定などを確認することで、自社の労働時間管理のどこに見直しの余地があるかを整理できます。制度を変更する前や、従業員・労働基準監督署へ回答する前に、一度ご確認ください。
Contents
結論|使用者に求められる労働時間管理の全体像
先に要点をお示しします。使用者には、賃金を正しく計算し労働時間規制を守るために始業・終業時刻を確認・記録すること(労働基準法上の管理)と、従業員の健康を確保するために労働時間の状況を把握すること(労働安全衛生法上の把握)の、二つの目的からなる労働時間管理が求められます。これらは目的も根拠も対象者も異なるため、分けて考える必要があります。
そのうえで、管理すべき「労働時間」は、使用者の指揮命令下に置かれていたかという観点から実質的に判断されます。タイムカードの打刻や本人の自己申告は判断の出発点にすぎず、それだけで労働時間の全部が確定するわけではありません。反対に、打刻や申告に表れていない時間であっても、実際に指揮命令下にあれば労働時間と評価されることがあります。
この記事の前提
本記事は一般的な情報提供です。労働時間に当たるか、どこまでの記録が必要か、割増賃金がいくら発生するかは、業種、労働時間制度、勤務の実態、就業規則や賃金規程の内容、記録の状況によって変わります。具体的な結論は、資料を確認したうえで個別に判断する必要があります。また、管理に不備があることと、未払賃金が実際に発生していることは別の問題であり、実際の労働時間や賃金の支払状況を確認して初めて判断できます。
まず整理|労働時間管理で使用者が確認する項目
自社の労働時間管理を点検するときは、次の項目を順に確認すると、どこに問題があり得るかを把握しやすくなります。すべての事業者にすべての資料が必要というわけではなく、事業形態や採用している労働時間制度、問題となっている期間によって、確認すべき範囲は変わります。
| 確認の観点 | 主に確認する内容 |
|---|---|
| 誰の時間を把握するか | 正社員・パート・アルバイト・管理監督者・みなし労働時間制の対象者・テレワーク勤務者など、対象者ごとの適用関係 |
| 何を労働時間として扱うか | 始業前後の準備・片付け、着替え、朝礼、待機・手待時間、研修、持ち帰り業務などが指揮命令下にあるか |
| どの記録で把握するか | 使用者の現認、タイムカード、ICカード、入退館記録、PCログ、勤怠システム、自己申告など |
| 記録間に差がないか | 打刻とPCログ・入退館記録の乖離、自己申告と客観的記録の差の有無と、その調査・補正 |
| 36協定と実態が合うか | 36協定の締結・届出の有無、上限規制や特別条項の範囲と、実際の時間外・休日労働の一致 |
| 給与計算と整合するか | 勤怠記録と割増賃金の計算、端数処理、割増賃金の基礎となる賃金の範囲 |
| 記録を保存しているか | 賃金台帳・出勤簿・タイムカードなどを法定の期間保存しているか |
| 問題発見時に何を守るか | 既存の勤怠データを消去・上書きせず保全し、遡って書き換えないこと |
「労働時間」とは何か|指揮命令下にあったかで判断する
労働時間管理の出発点は、そもそも何が「労働時間」に当たるのかという点です。労働時間に該当するかどうかは、就業規則上の名称や、会社が形式的に労働時間として扱っているか、従業員本人が申告したかだけで決まるものではありません。実質的に使用者の指揮命令下に置かれていたと評価できるかという観点から判断されます。使用者が明確に命じた場合だけでなく、黙示の指示があったと評価される場合も含まれます。
よく問題になる「労働時間かどうか」の場面
次のような時間は、労働時間に当たるかどうかがしばしば問題になります。いずれも一律に労働時間である、または労働時間でないと断定できるものではなく、会社の指示の有無、業務上の必要性、その時間の過ごし方に自由があったか、場所的な拘束があったかといった事情によって結論が変わります。
- 始業前の準備、清掃、朝礼、業務終了後の片付けや引継ぎ
- 制服や作業着への着替え、保護具の装着
- 電話番や来客対応をしながらの休憩、いわゆる手待時間・待機時間
- 参加が事実上義務付けられている研修や教育
- 業務終了後のメールやチャットへの対応、持ち帰り業務
- 会社の許可を得ていない時間外労働や、始業時刻より大幅に早い出勤
- パソコンの起動・終了の時刻や、入退館記録とタイムカードの差
これらの時間の扱いは、実態によって異なります。たとえば、休憩と称していても電話や来客に対応するため待機している時間は、労働から離れることが保障されていないとして労働時間と評価されることがあります。反対に、始業前の在館が本人の都合による自由な時間であれば、直ちに労働時間とはいえない場合もあります。自社の運用が労働時間として扱うべきものか迷う場合は、就業規則や実際の業務指示の状況を確認して判断する必要があります。
使用者が労働時間を把握する二つの法的理由
使用者が労働時間を管理する理由は一つではありません。目的の異なる二つの制度があり、これらを混同すると、「健康管理のために把握していれば賃金計算は不要」「管理職は残業代がないから記録も不要」といった誤解につながります。
労働基準法上の管理|賃金計算と労働時間規制のため
一つ目は、労働基準法上の労働時間の管理です。使用者は、法定労働時間や割増賃金に関する規定(労働基準法第32条・第37条など)を適正に運用するために、労働日ごとの始業・終業時刻を確認し、記録する必要があります。この点について厚生労働省は、「労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関するガイドライン」(平成29年1月20日策定)を示しています。ガイドラインは、始業・終業時刻の確認・記録の原則的な方法として、使用者が自ら現認する方法か、タイムカード・ICカード・パソコンの使用時間の記録などの客観的な記録による方法を挙げています。
労働安全衛生法上の把握|健康確保と面接指導のため
二つ目は、労働安全衛生法上の「労働時間の状況」の把握です。使用者は、長時間労働をした従業員に対する医師の面接指導などを適切に行うため、タイムカードによる記録やパソコンの使用時間の記録等の客観的な方法その他の適切な方法により、労働時間の状況を把握しなければならないとされています(労働安全衛生法第66条の8の3)。これは平成31年(2019年)4月から求められている取扱いで、賃金計算のためというより、従業員の健康を確保するための仕組みです。
| 観点 | 労働基準法上の管理 | 労働安全衛生法上の把握 |
|---|---|---|
| 主な目的 | 賃金計算、労働時間規制の適正な運用 | 健康確保、医師による面接指導などの実施 |
| 主な根拠 | 労働基準法と適正把握ガイドライン | 労働安全衛生法第66条の8の3 |
| 把握する内容 | 始業・終業時刻を確認し記録する | 労働時間の状況を客観的な方法などで把握する |
| 主な対象 | ガイドラインは管理監督者・みなし労働時間制の対象者を対象外とする | 管理監督者やみなし労働時間制の対象者も含めて把握する |
労働時間の管理に不備があることは、直ちに未払賃金や安全配慮義務違反が確定することを意味しません。実際にいくら未払いが生じているか、健康障害との間に因果関係があるかなどは、実際の労働時間、賃金規程、支払状況、勤務の実態を確認して初めて判断できます。管理の不備と法的責任の有無は、分けて考える必要があります。
誰の労働時間を把握するのか|雇用形態・管理監督者・テレワーク
労働時間管理の対象は、正社員に限られません。雇用形態や労働時間制度によって適用関係が異なるため、対象者ごとに整理する必要があります。
| 対象者 | 労働時間の取扱い(概要) |
|---|---|
| 正社員・契約社員・パート・アルバイト | 労働基準法の労働時間規制が適用され、始業・終業時刻の確認・記録が必要 |
| 管理監督者(労働基準法第41条) | 労働時間・休憩・休日の規定は適用されないが、深夜労働の割増賃金は必要。労働安全衛生法上の労働時間の状況の把握の対象にはなる |
| みなし労働時間制・裁量労働制の対象者 | 労働時間の算定に特則があるが、健康確保のための労働時間の状況の把握は必要 |
| テレワーク勤務者 | 勤務場所が異なるだけで、労働時間の把握が不要になるわけではない |
特に注意が必要なのは管理監督者です。管理監督者に当たる場合、労働時間・休憩・休日の規定は適用されませんが、深夜労働に対する割増賃金は必要であり、健康確保のための労働時間の状況の把握の対象にもなります。「管理職だから労働時間は一切記録しなくてよい」という理解は正確ではありません。また、労働基準法上の管理監督者に当たるかどうかは、部長・店長などの肩書だけで決まるものではなく、職務内容や権限、待遇などの実態によって判断されます。管理監督者の範囲そのものについては、別の記事で扱うべき論点ですが、肩書だけで判断していないかを確認しておくことが大切です。
適正な把握方法|客観的記録と自己申告制
労働時間の把握方法には、使用者による現認、タイムカードやICカード、入退館記録、PCログ、勤怠管理システム、自己申告制などがあります。適正把握ガイドラインは、原則として、使用者が自ら現認する方法か、客観的な記録による方法によることを求めています。
客観的な記録による把握
タイムカード、ICカード、パソコンの使用時間の記録などの客観的な記録を基礎とする方法が原則とされています。もっとも、これらの記録に表れた時間の全部が当然に労働時間になるわけではなく、反対に、打刻時刻だけを理由に実際に行われた労働を切り捨ててよいわけでもありません。記録はあくまで判断の基礎であり、実態との照合が前提になります。
自己申告制による把握
やむを得ず自己申告制によって把握する場合には、ガイドライン上、一定の措置を講じることが求められます。具体的には、自己申告を行う従業員や、時間を管理する者に対して適正な申告について十分に説明すること、自己申告した時間と、入退場記録やPCの使用時間などの客観的な記録との間に著しい差がある場合には実態を調査して必要な補正をすること、適正な申告を阻害しない措置を講じることなどが挙げられます。時間外労働の時間数に上限を設けて、それを超える申告を認めない運用や、実態と異なる過少な申告を求める運用は、適正な把握を妨げるものとして問題になり得ます。
複数の記録に差があるとき
タイムカードの打刻とPCログ、入退館記録との間に差がある場合、その差が労働時間なのか、私的な在館なのかは、実態を確認しなければ判断できません。差があること自体が直ちに違法になるわけではありませんが、差を放置したまま少ない方の記録だけで賃金を計算していると、後に未払いを指摘される場面につながることがあります。差の理由を確認し、記録を残しておくことが望まれます。
勤怠の記録方法を見直す前に、現在の運用と実態のずれを確認できます。
タイムカード、PCログ、入退館記録、自己申告の記録を照合することで、労働時間として扱うべき範囲や、補正が必要な部分を検討できます。自己申告制への変更や勤怠システムの入替えを行う前に、確認しておくことをおすすめします。
法定労働時間・休憩・休日と36協定・上限規制
法定労働時間と所定労働時間
労働基準法第32条は、原則として、使用者は労働者に、休憩時間を除き1週間について40時間、1日について8時間を超えて労働させてはならないと定めています。常時10人未満の労働者を使用する商業、映画・演劇業(映画の製作を除く)、保健衛生業、接客娯楽業の一定の事業場については、1週間の法定労働時間が44時間とされる特例措置があります。これらの法定労働時間は、会社が就業規則などで定める所定労働時間とは異なる概念です。所定労働時間を超えても法定労働時間の範囲内であれば、法律上の割増賃金の対象とはならないなど、両者を区別して考える必要があります。
休憩と休日
使用者は、労働時間が6時間を超える場合は少なくとも45分、8時間を超える場合は少なくとも1時間の休憩を、労働時間の途中に与えなければなりません(労働基準法第34条)。また、原則として毎週少なくとも1回、または4週間を通じて4日以上の休日を与える必要があります(労働基準法第35条)。就業規則で定めた休日(所定休日)と、法律上の休日(法定休日)は異なり、割増賃金の計算でも区別されます。
36協定と時間外労働の上限規制
法定労働時間を超えて労働させ、または法定休日に労働させるには、労働基準法第36条に基づく労使協定(36協定)を締結し、労働基準監督署へ届け出る必要があります。36協定がないまま法定労働時間を超えて労働させることは認められません。さらに、時間外労働には次のような上限が設けられています。
| 区分 | 上限 |
|---|---|
| 原則 | 月45時間・年360時間 |
| 特別条項がある場合の年間 | 年720時間以内 |
| 単月(休日労働を含む) | 100時間未満 |
| 複数月平均(休日労働を含む) | 2か月から6か月の平均がいずれも80時間以内 |
| 原則の月45時間を超えられる回数 | 年6回まで |
ここで注意したいのは、特別条項を結んでも、臨時的な特別の事情がある場合に限って上限の範囲内で例外的に認められるにすぎず、自由に上限を超えられるわけではないという点です。また、単月の100時間未満と複数月平均の80時間以内は、時間外労働に休日労働を含めて判断します。年720時間は休日労働を含まない数値であるなど、含む数値と含まない数値の違いにも注意が必要です。なお、建設業、自動車運転の業務、医師などについては、令和6年(2024年)4月から適用される特則があり、扱いが異なります。自社が特則の対象となるかは、業種ごとに個別に確認する必要があります。
端数処理と割増賃金
端数処理|毎日の切り捨てはできない
労働時間の端数処理については、誤解が生じやすい点があります。まず、1日ごとの労働時間は1分単位で把握するのが原則で、毎日、15分未満や30分未満の労働時間を一律に切り捨てることはできません。他方で、事務の簡便のため、1か月における時間外労働・休日労働・深夜労働の各時間数を合計した結果に1時間未満の端数が生じた場合に、30分未満を切り捨て、30分以上を1時間に切り上げる処理は、行政上認められています。これは月単位で合計したあとの端数についての取扱いであり、毎日の労働時間を切り捨てる根拠にはなりません。「労働時間は15分単位でよい」「法律に1分単位と書いてある」といった表現は、いずれも正確ではありません。
割増賃金|率と基礎となる賃金
法定労働時間を超える時間外労働、深夜労働、法定休日労働には、割増賃金を支払う必要があります(労働基準法第37条)。主な割増率は次のとおりです。
| 種類 | 割増率 |
|---|---|
| 時間外労働(法定労働時間を超える部分) | 25%以上 |
| 1か月の時間外労働が60時間を超えた部分 | 50%以上(中小企業も令和5年(2023年)4月から適用) |
| 深夜労働(原則として午後10時から午前5時) | 25%以上 |
| 法定休日労働 | 35%以上 |
時間外労働と深夜労働が重なる場合など、複数の割増事由が重なるときは、それぞれの割増率を合算します。たとえば、月60時間を超える時間外労働が深夜に及ぶ場合は、50%と25%を合わせた率になります。また、割増賃金の基礎となる賃金からは、家族手当、通勤手当、別居手当、子女教育手当、住宅手当、臨時に支払われた賃金、1か月を超える期間ごとに支払われる賃金などが除かれます。もっとも、これらに当たるかどうかは手当の名称だけで決まるものではなく、支給の実態によって判断されます。たとえば、住宅手当という名称でも、住宅費用に応じて支給額が変わらず一律に支払われている場合には、除外できないことがあります。固定残業代(定額残業代)を採用している場合の考え方は、次の記事で扱っています。
よく問題になるケースと確認の視点
実務では、次のような場面で労働時間の扱いが問題になります。いずれも、確認すべき資料と、判断を左右する事情を押さえることが出発点になります。ここで挙げるのは一般的な検討場面であり、結論はいずれも個別の事情によって変わります。
| 場面 | 確認したい資料・判断を左右する事情 |
|---|---|
| タイムカードを押した後も業務をしている | PCログや業務メールの時刻、退館記録。打刻後の作業が指示・黙認によるものか |
| 始業前の朝礼・清掃を行っている | 参加が義務付けられているか、業務性があるか。就業規則や実際の運用 |
| 制服・作業着への着替えが必要である | 着替えが業務上義務付けられ、事業所内で行う必要があるか |
| 残業申請がないが上司が業務を認識している | 黙示の指示があったといえるか。申請制の運用実態 |
| 自己申告とPCログに差がある | 差の理由、著しい乖離の有無、実態調査と補正の記録 |
| 管理職だから労働時間を記録していない | 労働基準法上の管理監督者に当たるか。深夜労働や健康確保のための把握 |
| テレワーク中に夜間のメール対応がある | 時間外・深夜の指示や黙認の有無、始業・終業の把握方法 |
| 15分未満を毎日切り捨てている | 毎日の切り捨ての可否、月単位の端数処理との区別 |
| 休憩中も電話番をしている | 労働から離れることが保障されているか(手待時間かどうか) |
| 36協定の上限と実際の残業が合わない | 協定の内容・届出、特別条項の範囲、実際の時間外・休日労働 |
| 労働基準監督署から資料提出を求められた | 求められた資料の範囲、勤怠記録と賃金台帳の整合、回答の準備 |
| 従業員から過去の残業代を請求された | 対象期間、勤怠記録、割増賃金の計算、消滅時効の起算点 |
これらの場面で共通して避けるべきなのは、過去の打刻や勤怠データを遡って書き換えること、記録を消去・上書きすること、36協定や帳簿を後から作成して当初から存在したように見せることです。こうした対応は、それ自体が新たな問題を生み、後の交渉や手続で不利に働くおそれがあります。判断に迷う場面や、従業員・労働組合・労働基準監督署への回答を控えている場面では、回答の前に資料を整理し、必要に応じて確認しておくことが考えられます。
会社が行う勤怠管理の点検手順
自社の労働時間管理を点検する際は、次のような手順で進めると、問題の範囲と対象者を整理しやすくなります。
- 就業規則、賃金規程、雇用契約書、労働条件通知書の内容を確認する
- 36協定の締結・届出の状況と、特別条項の有無・範囲を確認する
- 勤怠記録の種類(タイムカード、ICカード、入退館記録、PCログ、勤怠システム、自己申告)を洗い出す
- 各記録の間に差がないか、差がある場合の理由を確認する
- 勤怠記録と給与計算(割増賃金・端数処理・基礎賃金)が整合しているかを確認する
- 自己申告制を採用している場合は、説明・実態調査・補正の運用を確認する
- 長時間労働者の有無と、健康確保のための対応状況を確認する
- 問題があり得る期間と対象者を特定する
- 既存の勤怠データを書き換えず、原本のまま保全する
- 是正の方針と、従業員への説明方法を検討する
手続・回答前に確認したい資料チェックリスト
制度を変更する前、従業員や労働基準監督署へ回答する前には、少なくとも次の資料を確認しておくと、検討がしやすくなります。すべての事業者にすべてが必要というわけではなく、事業形態や問題となる期間によって異なります。
- 就業規則、賃金規程、雇用契約書、労働条件通知書
- 36協定、変形労働時間制やみなし労働時間制に関する協定・規程、年間カレンダー、シフト表
- タイムカード、ICカード記録、入退館記録、PCログ、勤怠管理システムのデータ
- 残業申請書、日報、業務メールやチャットの履歴
- 給与明細、賃金台帳、時間単価の計算資料
- テレワーク規程、長時間労働者への面接指導などの記録
- 従業員や労働基準監督署から届いた書面
弁護士に相談する場面
次のような場面では、早めに確認しておくことで、資料の整理や対応方針の検討がしやすくなります。相談は結果を保証するものではありませんが、法律上の見通しや対応の順序を整理するために役立ちます。
- 勤怠管理制度を新たに導入し、または変更しようとするとき
- 自己申告制へ変更する前、36協定を締結・更新する前
- 管理監督者の範囲や、固定残業代制度を見直すとき
- タイムカードの打刻とPCログに大きな差があることに気づいたとき
- 従業員から未払残業代を請求され、または労働組合から団体交渉を申し入れられたとき
- 労働基準監督署から連絡や資料提出の依頼を受けたとき
- 過去の給与計算を見直す必要が生じたとき、長時間労働による健康問題が生じたとき
相談によって、確認すべき資料の整理、労働時間に当たる範囲の検討、従業員や行政機関への回答方針の検討、制度の見直し手順の整理などを行うことができます。継続的な労務管理の体制づくりについては、顧問契約を含めて検討することも考えられます(末尾に法律顧問ページへの案内があります)。
よくある質問
会社には従業員の労働時間を把握する義務がありますか。
賃金計算や労働時間規制の適正な運用のために始業・終業時刻を確認・記録することが求められ、健康確保のために労働時間の状況を把握することも求められます(労働安全衛生法第66条の8の3など)。目的の異なる二つの把握があり、対象者や方法が異なります。具体的な運用は、自社の労働時間制度を確認して検討する必要があります。
タイムカードを設置していれば、それだけで足りますか。
タイムカードは客観的な記録の一つですが、打刻時刻がそのまま労働時間になるとは限らず、反対に打刻に表れない労働がある場合もあります。PCログや入退館記録との差を確認し、実態と照合しておくことが望まれます。結論は運用の実態により変わります。
自己申告制による勤怠管理は違法ですか。
自己申告制自体が直ちに違法になるわけではありません。ただし、やむを得ず自己申告制による場合には、適正な申告についての説明、客観的な記録と著しい差があるときの実態調査と補正、適正な申告を阻害しない措置などが求められます。運用の内容によって評価が変わります。
毎日、15分未満の残業を切り捨ててもよいですか。
1日ごとの労働時間は1分単位で把握するのが原則で、毎日一律に切り捨てることはできません。1か月の時間外労働などの合計に生じた1時間未満の端数を、30分未満切り捨て・30分以上切り上げで処理することは行政上認められていますが、これは月単位の取扱いであり、毎日の切り捨てとは異なります。
管理監督者の労働時間も記録する必要がありますか。
労働基準法上の管理監督者には労働時間・休憩・休日の規定は適用されませんが、深夜労働の割増賃金は必要で、健康確保のための労働時間の状況の把握の対象にもなります。また、管理監督者に当たるかは肩書だけで決まらないため、実態の確認が必要です。
パソコンのログイン時間は、すべて労働時間になりますか。
PCログは労働時間を判断する客観的な記録の一つですが、記録された時間の全部が当然に労働時間になるわけではありません。私的な利用や待機の時間が含まれることもあります。打刻や申告との差がある場合は、その理由を確認して判断する必要があります。
テレワーク中のメール対応は労働時間になりますか。
使用者の指示や黙認のもとで業務としてメールに対応していれば、労働時間と評価されることがあります。テレワークでも始業・終業の時刻や中抜けの時間を把握し、時間外・深夜の対応の有無を確認しておく必要があります。結論は勤務の実態により変わります。
労働時間の記録は何年間保存する必要がありますか。
賃金台帳や出勤簿、タイムカードなどの記録の保存期間は、労働基準法上、本則では5年とされ、当分の間は3年とする経過措置が設けられています(労働基準法第109条)。賃金請求権の消滅時効も同様に本則5年・当分の間3年です。今後の取扱いは、経過措置の動向を確認する必要があります。
まとめ
- 使用者の労働時間管理には、賃金計算・労働時間規制のための管理と、健康確保のための把握という二つの目的があります。
- 「労働時間」に当たるかは、名称や申告ではなく、実質的に指揮命令下にあったかで判断されます。
- 毎日の労働時間は1分単位で扱う必要があり、15分単位などで一律に切り捨てることはできません。
- 管理に不備があっても、未払賃金や安全配慮義務違反が当然に確定するわけではなく、実態の確認が必要です。
- 勤怠記録に問題が見つかっても、記録を書き換えず、まず保全したうえで、対象期間と是正方針を検討することが大切です。
勤怠記録と規程を照合し、労働時間管理の見直しを検討しましょう。
ご相談の際は、就業規則、賃金規程、雇用契約書、36協定、タイムカードやPCログ、給与明細などをご用意いただくと、確認がスムーズです。初回の法律相談は無料です(予約制、受付時間9時〜20時)。淡路市・洲本市・南あわじ市を含む淡路島の事業者の方からのご相談に対応しています。
お電話でのお問い合わせは 0799-53-6782 へ。関連する取扱業務や費用は、労働法務、法律顧問、弁護士費用、弁護士紹介の各ページをご確認ください。
参考資料
- 労働基準法(e-Gov法令検索)
- 労働基準法施行規則(e-Gov法令検索)
- 労働安全衛生法(e-Gov法令検索)
- 労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関するガイドライン(厚生労働省)
- 時間外労働の上限規制(厚生労働省)
- テレワークの適切な導入及び実施の推進のためのガイドライン(厚生労働省)
- 労働時間の適正な把握について(兵庫労働局)
本記事は一般的な情報提供であり、具体的な結論は事実関係と資料により異なります。個別の事案については、資料を確認したうえで弁護士にご相談ください。

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