知人や親族、取引先、あるいは自分の会社にお金を貸すとき、「借用書と金銭消費貸借契約書はどちらを作ればよいのか」「ひな型をそのまま使ってよいのか」と迷われる方は少なくありません。すでにお金を渡してしまい、後から書面を整えたいという方や、逆に借用書への署名を求められている借主・保証人の方もいらっしゃいます。
結論から申し上げると、書面のタイトルが「借用書」か「金銭消費貸借契約書」かで、契約の効力や回収のしやすさが自動的に決まるわけではありません。大切なのは、契約の内容を正確に記載すること、そして実際にお金を渡したこと(貸付けの実行)を示す資料を残しておくことです。書面さえあれば必ず回収できる、というものでもありません。
この記事では、借用書と金銭消費貸借契約書の違い、契約がいつ成立するのか、記載しておきたい事項、利息・遅延損害金・保証・公正証書・収入印紙・電子契約の注意点、そしてすでにお金を渡した後や返済が遅れ始めたときの初動までを、貸主・借主双方の視点から整理します。なお、具体的な結論は、貸付けの金額・時期・返済方法・当事者の関係・保証の有無などの個別事情により異なります。金銭を渡す前、契約書へ署名する前には、資料を確認したうえで検討されることをおすすめします。
「借用書の書き方で足りているか不安」「貸す前に条件を整理しておきたい」という段階でも問題ありません。貸付金額・返済方法・保証の有無などによって、定めておくべき条項は変わります。契約書案や送金方法を確認することで、検討すべき事項を整理しやすくなります。
金銭消費貸借契約書・借用書を作るときの結論
細かな論点に入る前に、全体像を整理します。お金の貸し借りをめぐる書面には、大きく分けて「契約の内容を定める役割」「お金を渡したことを示す役割」「裁判を経ずに強制執行できるようにする役割」があります。これらは別々のものであり、一つの書面ですべてを満たせるとは限りません。
| 場面 | 主に確認すること | 関係する書面・資料 |
|---|---|---|
| 貸付けの前 | 返済条件・利息・保証・担保を決め、書面にする。相手方の本人確認と返済可能性も検討する。 | 金銭消費貸借契約書または借用書、返済予定表 |
| 貸付けの時 | 実際にお金を渡した事実を記録に残す。可能なら振込で行う。 | 振込明細、通帳の記録、受領書 |
| 貸付けの後 | 返済の入金を記録する。返済が滞れば、期限・時効・保証・公正証書の有無を確認する。 | 入金記録、督促の記録、契約書・公正証書 |
お金の貸し借りでは、次の四つを分けて考えることが大切です。これらは連動しているようで、それぞれ別の問題です。
(1)契約が成立しているか(2)契約の内容を証明できるか(3)裁判を経ずに強制執行できるか(4)相手方に差し押さえられる財産があるか。借用書や契約書があっても(1)(2)を満たすだけで、(3)(4)は別に検討する必要があります。
金銭消費貸借契約書と借用書の違い
金銭消費貸借契約書とは
金銭消費貸借契約とは、借主が貸主から金銭を受け取り、後日これと同額を返還することを約束する契約です(民法587条ほか)。金銭消費貸借契約書は、この合意の内容を記載し、通常は貸主・借主の双方が署名または記名押印して、2通作成し各自が1通ずつ保管する形式の書面です。返済条件や利息、保証などを双方の合意として明確にできる点に特徴があります。
借用書とは
借用書は、一般に、借主が「いくらを借りて、いつまでに返す」といった内容を記載し、署名または記名押印して貸主に差し入れる書面を指すことが多い言葉です。借主側が作成して一方的に差し入れる点で、双方が取り交わす契約書とは作り方が異なります。もっとも、記載すべき事項は契約書と共通する部分が多く、内容が十分であれば証拠としての価値を持ちます。
名称だけで法的効力が決まるわけではない
ここが誤解されやすい点です。「借用書だから効力が弱い」「金銭消費貸借契約書だから安心」というように、書面のタイトルだけで効力や証拠価値が決まるわけではありません。借用書であっても、当事者・金額・返済条件などが正確に記載され、署名等によって借主の意思が確認できれば、契約の内容を示す証拠になります。逆に、「契約書」と題していても、記載が曖昧であったり、実際にお金を渡した事実を示せなかったりすれば、後の争いで不利になることがあります。重要なのは、名称ではなく、記載内容の正確さと、貸付けを実行した証拠の有無です。
貸主・借主が保管する書面の違い
実務上の違いとして、金銭消費貸借契約書は双方が保管するため、後日の紛争でも双方が同じ内容を確認できます。一方、借主が差し入れる借用書は貸主のみが保管し、借主の手元に控えが残らないことがあります。借主・保証人の立場では、署名する前に内容を写しなどで確認・保管しておくことが望まれます。
金銭消費貸借契約はいつ成立するのか
金銭を交付した後に成立する契約
民法上、消費貸借は原則として、借主が金銭を受け取ることによって成立する契約とされています(民法587条。いわゆる要物契約)。この原則を前提にすると、契約書に署名しても、実際にお金を渡していなければ、原則として貸金の返還を求める権利は生じません。「契約書があるのだから返せ」と言うためには、お金を渡した事実が重要になります。
書面による諾成的消費貸借
もっとも、2020年(令和2年)に施行された改正民法により、書面(電磁的記録を含む)でする消費貸借は、金銭の交付前でも合意によって成立するものとされました(民法587条の2)。これにより、たとえば融資の合意を先に書面で固めておくことが可能です。ただし、借主は金銭を受け取るまでの間は契約を解除できるなど、借主を保護する定めも置かれています。どちらの形が適するかは、貸付けの目的や時期によって異なります。
貸付実行を示す資料も残す
契約書や借用書とは別に、実際にお金を渡した事実を示す資料を残しておくことが、後の回収では重要になります。振込であれば振込明細や通帳の記録が残りますが、現金で手渡した場合は証拠が乏しくなりがちです。可能であれば銀行振込で行い、現金の場合は受領書を作成しておくと、「本当に渡したのか」という争いを避けやすくなります。契約書の作成日と、実際にお金を渡した日が異なる場合は、その点も記録しておきます。
すでに金銭を渡している場合
先にお金を渡してしまい、後から書面を整えたいという場合は、債務承認書、債務弁済契約書、返済合意書などの形で、現在の残額や返済条件を確認する書面を作成することが考えられます。売買代金など既存の債務を、あらためて貸金として整理し直す準消費貸借(民法588条)という方法もあります。いずれの場合も、実際とは異なる作成日・交付日・署名日を記載すること(バックデート)は避けるべきです。事実に反する記載は、かえって書面全体の信用性を損ないます。
金銭消費貸借契約書・借用書に記載する事項
記載しておきたい事項を整理します。すべての項目が常に「法律上の必須事項」というわけではなく、契約内容を特定するために重要なもの、事案に応じて定めるもの、法令上の方式が問題になるものが含まれます。分かっている範囲で、正確に記載することが基本です。
| 項目 | 確認する内容 | 定めない場合に生じやすい問題 |
|---|---|---|
| 当事者 | 貸主・借主の氏名(名称)、住所。法人は正式な商号・所在地・代表者。 | 相手方の特定が難しく、請求や送達に支障が出る。 |
| 貸付金額 | 金額を明確に記載する。 | いくら貸したのかが争いになる。 |
| 交付日・交付方法 | お金を渡した日と方法(振込・現金)。 | 貸付けの実行を証明しにくくなる。 |
| 返済期限・返済方法 | 一括か分割か、分割なら回数・各回の金額・支払日・振込先。 | 返済時期が不明確になり、時効の起算点も曖昧になる。 |
| 利息 | 利率、支払時期。利息を定めるか否か。 | 利息を請求できるかが争いになる。 |
| 遅延損害金 | 返済が遅れた場合の損害金の利率。 | 遅延時の請求範囲が不明確になる。 |
| 期限の利益喪失 | どのような場合に残額を一括請求できるか。 | 分割払いが遅れても一括請求しにくい。 |
| 保証・担保 | 保証人の有無、連帯保証か、担保の内容。 | 回収の裏づけが弱くなる。 |
| 通知先・合意管轄 | 連絡先の変更方法、紛争時の管轄裁判所。 | 連絡不能や、遠方での訴訟対応の負担が生じる。 |
| 作成通数・署名 | 作成する通数、署名・記名押印、電子署名の別。 | 各自の保管や、真正な作成の確認で問題が生じる。 |
当事者と貸付金額
当事者は、後から特定できるよう、氏名・住所を正確に記載します。法人が当事者となる場合は、登記事項証明書で正式な商号・本店所在地・代表者を確認しておくと安全です。貸付金額は、算用数字だけでなく、改ざんを防ぐ趣旨で漢数字を併記する例もあります。
貸付日・返済期限・返済方法
いつお金を渡したか、いつまでにどのように返すかは、返済請求や消滅時効の判断にも関わる重要な事項です。分割払いの場合は、回数・各回の金額・支払日・振込先・振込手数料の負担を定めておくと、後の運用がスムーズになります。返済予定表を作成し、契約書に添付する方法もあります。
利息・遅延損害金
利息は、当事者が合意して初めて請求できるのが原則です。利率には利息制限法などの上限があるため、上限を超えないよう注意が必要です。返済が遅れた場合の遅延損害金は、利息とは別の性質のもので、これにも上限があります。詳しくは次の章で説明します。
期限の利益喪失
分割払いの場合、「借主が返済を一定回数怠ったときは、残額を一括して支払う」といった期限の利益喪失条項を定めておくことが一般的です。もっとも、一度の遅れで直ちに全額請求できると当然に決まるわけではなく、どのような場合に一括請求できるのかを具体的に定めておくことが望まれます。通知を要する定めとするか、当然に喪失する定めとするかでも運用が変わります。
保証・担保
返済の確実性を高めるために、保証人を付けたり、不動産などに担保を設定したりすることがあります。ただし、保証には法律上の方式や、事業用融資に関する特別な手続があり、後述するとおり注意点が多い分野です。保証人がいれば必ず回収できる、というものではありません。
通知先・合意管轄・契約書の保管
住所変更時の通知方法や、紛争が生じた場合に訴訟を提起する裁判所(合意管轄)を定めておくと、後の手続がスムーズになります。契約書は、貸主・借主が各自保管し、借用書の場合も借主が写しを保管しておくとよいでしょう。
利息・遅延損害金を定めるときの注意点
利息と遅延損害金は、混同されがちですが別のものです。利息は、お金を貸している期間に対する対価です。遅延損害金は、約束した返済期限に遅れたことによる損害の賠償です。いずれも、契約で自由に高く定められるわけではなく、上限があります。
利息の上限は、元本の額に応じて利息制限法が定めています(元本が大きいほど上限利率は下がる仕組みです)。遅延損害金にも上限があり、貸主が事業として貸し付ける営業的金銭消費貸借と、それ以外とで扱いが異なります。また、利息を定めなかった場合の法定利率は、民法により定められています。法定利率は、令和2年4月1日から年3%とされ、3年ごとに見直されますが、令和8年(2026年)4月1日から令和11年(2029年)3月31日までも年3%とされています(民法404条、法務省公表)。
上限を超える利息の定めは、超えた部分が無効となるほか、貸主が業として貸し付ける場合には出資法による刑事罰の問題が生じることもあります。上限利率や過払いの考え方の詳細は、別の記事で整理しています。契約書で利率を定める際は、利息制限法と出資法の違いに関するコラムを読むもあわせてご確認ください。個別の利率が適法かどうかは、元本額・貸主の属性・契約時期などにより異なります。
連帯保証人を付ける場合の注意点
通常保証と連帯保証の違い
保証人は、借主が返済しないときに代わりに支払う義務を負います。通常の保証人には、まず借主に請求するよう求める権利(催告の抗弁)や、借主の財産から先に取り立てるよう求める権利(検索の抗弁)が認められています。これに対し連帯保証人は、これらの権利を持たないため、貸主は借主に請求する前でも連帯保証人に直接請求できます。貸主にとっては連帯保証の方が回収しやすい一方、保証人の負担は重くなります。
保証契約の方式
保証契約は、書面(または電磁的記録)でしなければ効力を生じません(民法446条)。口頭の約束だけでは保証の効力は認められません。借用書や契約書に保証人欄を設ける場合も、保証人自身の意思が書面で確認できる形にしておく必要があります。
事業用融資の個人保証
特に注意が必要なのが、事業のために負担する貸金等の債務について、個人が保証人になる場合です。この場合、原則として、契約締結日の前1か月以内に、公証人が保証予定者と面談して保証意思を確認する「保証意思宣明公正証書」を作成しなければ、保証契約は効力を生じません(民法465条の6)。ただし、主たる債務者が法人であるときのその取締役や議決権の過半数を持つ者、主たる債務者と共同して事業を行う者、事業に現に従事している配偶者などは、この手続が不要とされています(民法465条の9。いわゆる経営者保証などの例外)。事業資金の貸付けで個人保証を求める場合は、この手続の要否を必ず確認してください。
個人根保証と極度額
一定の範囲に属する不特定の債務を保証する個人の根保証契約では、保証人が負担する上限額(極度額)を書面で定めなければ効力を生じません(民法465条の2)。継続的な取引から生じる債務をまとめて保証してもらうような場合には、極度額の定めが必要になります。
保証人がいても回収できるとは限らない
保証人・連帯保証人を付けても、その保証人に十分な資力がなければ、現実の回収は難しくなります。「連帯保証人を付けたから安心」とは限らない点に注意が必要です。保証人の資力や、保証人に対して情報を提供すべき場面についても、あらかじめ検討しておくことが望まれます。
「保証の付け方や公正証書の要否がよく分からない」という場合は、契約書案の段階で確認しておくと安心です。事業用融資の個人保証や根保証は、方式を誤ると効力に影響します。契約書案・保証人に関する資料を確認することで、必要な手続と条項を整理しやすくなります。
公正証書を作成する意味と限界
執行証書となるための条件
金銭の貸し借りでは、強制執行認諾文言を付した公正証書(執行証書)が用いられることがあります。これは、金銭の一定額の支払を内容とし、「債務者が支払を怠ったときは直ちに強制執行に服する」という趣旨の陳述が記載された公正証書です(民事執行法22条5号)。この条件を満たすと、返済されない場合に、訴訟という判決を得る手続を経なくても、強制執行の申立てに進める点に意味があります。
金銭交付前後で異なる点
公正証書を作成するタイミングは、すでにお金を渡した後のこともあれば、書面による諾成的消費貸借として交付前に作成することも考えられます。事案によって適切な形が異なるため、目的に応じて検討します。
強制執行には申立て等が必要
ここも誤解されやすい点です。執行証書があっても、それだけで自動的にお金が戻ってくるわけではありません。実際に強制執行を行うには、執行文の付与を受けたり、公正証書が相手方に送達されたことを証明したりしたうえで、裁判所などに強制執行を申し立てる必要があります。そして、差し押さえる財産を特定できなければ回収は実現しません。相手方にめぼしい財産がなければ、公正証書があっても回収は難しいことがあります。
公正証書を検討しやすいケース
貸付金額が大きい、分割払いの期間が長い、確実な履行を重視したい、といった場合には、公正証書の作成を検討しやすいといえます。もっとも、公証人の手数料などの費用がかかり、作成にあたって双方の関与が必要です。費用と効果を比較して判断することになります。
収入印紙と電子契約の注意点
紙の契約書と印紙税
紙で作成する金銭消費貸借契約書は、印紙税法上の課税文書(第1号文書)にあたり、記載金額に応じた収入印紙を貼る必要があります。主な税額は次のとおりです(国税庁の印紙税額一覧表による。一部抜粋)。
| 契約書に記載された金額 | 印紙税額 |
|---|---|
| 1万円未満 | 非課税 |
| 1万円以上 10万円以下 | 200円 |
| 10万円超 50万円以下 | 400円 |
| 50万円超 100万円以下 | 1,000円 |
| 100万円超 500万円以下 | 2,000円 |
| 500万円超 1,000万円以下 | 10,000円 |
| 1,000万円超 5,000万円以下 | 20,000円 |
| 契約金額の記載のないもの | 200円 |
これより高額の区分もあります。最新の税額は、国税庁の印紙税額一覧表でご確認ください。
原本・副本・コピーの違い
同じ内容の契約書を2通作成し、双方が署名・押印して各自が原本を保管する場合、原則としてそれぞれが課税文書となります。一方、契約の成立を証明する目的で作られたものでない単なるコピー(写し)は、一般に課税文書として扱われません。もっとも、署名や押印がされた副本・謄本などは課税対象となることがあり、扱いは文書の性質によって異なります。
電子契約の場合
電子契約サービスなどを用い、紙の文書を作成せずに電磁的記録として契約を締結する場合、印紙税は課税されないと一般に理解されています。印紙税は「文書」の作成に対して課される税であり、電磁的記録はこの「文書」に当たらないと解されているためです(国税庁の質疑応答事例などによる)。ただし、電子で締結した後に、あらためて紙の原本を作成して交付すれば、その紙の文書は課税対象となり得ます。
印紙がないことと契約の有効性は別問題
収入印紙を貼っていなくても、契約そのものが無効になるわけではありません。印紙税は文書に対する税の問題であり、貸し借りの合意の効力とは別です。もっとも、必要な印紙を貼らなかった場合、後日、過怠税が課されることがあります。「印紙がないから借用書は無効だ」という理解は誤りですが、納税の面では注意が必要です。
よく問題になるケース
親族・知人に貸す場合
親子や親族、知人の間でも、契約書や借用書、返済の記録を残しておくことは重要です。書面がなく返済の実態もない場合、税務上は贈与とみなされ、贈与税が問題になることがあります。国税庁は、実質的に贈与であるのに形式上貸借としている場合や、「ある時払いの催促なし」「出世払い」といった内容の場合には贈与として扱われ得ること、無利子の場合には利息相当額が贈与とみなされ得ることを示しています。税務上の判断は個別事情によるため、必要に応じて税理士や税務署に確認してください。
会社と役員・関係会社の間で貸し借りする場合
会社が取締役にお金を貸す場合や、取締役が会社に貸す場合は、会社と取締役の利益が相反する取引にあたることがあり、取締役会(取締役会を設置していない会社では株主総会)の承認が必要になることがあります(会社法356条・365条)。関係会社間の貸付けでは、貸付条件の合理性や、会計・税務上の処理も問題になります。また、反復・継続して業として貸し付ける場合には、貸金業法の登録が必要になることもあります。当事者の関係や取引の実態により結論が変わるため、一般論として断定はできません。
すでに現金を渡したが書面がない場合
書面を作らないままお金を渡してしまっても、それだけで直ちに請求できなくなるとは限りません。送金記録、メッセージのやり取り、これまでの返済履歴などから、貸したことを裏づけられる場合があります。もっとも、相手方から「もらったものだ(贈与だ)」と反論されることもあるため、債務承認書や返済合意書を作成して、現在の残額と返済条件を確認しておくことが考えられます。
相手が契約書への署名を拒んでいる場合
相手方が書面への署名に応じない場合は、無理に事実と異なる書面を作るのではなく、これまでのやり取りや送金の記録を証拠として整理しておくことが大切です。状況によっては、内容証明郵便による請求を検討する場面もあります。
返済が遅れ始めている場合
返済が遅れ始めたら、まず契約書・借用書、送金記録、返済期限、保証や公正証書の有無を確認します。時効や期限の利益喪失の状況によって、取り得る対応が変わります。早い段階で状況を整理しておくことが、その後の選択肢を広げます。
契約前・署名前のチェックリスト
お金を渡す前、契約書や借用書に署名する前に、次のような資料・情報がそろっているかを確認しておくと、後の判断や相談がスムーズになります。すべてが必須というわけではなく、そろっている範囲から整理しておけば十分です。
- 契約書案または借用書案(金額・返済条件・利息・遅延損害金・期限の利益喪失を含む)
- 当事者の本人確認資料(氏名・住所)。法人の場合は登記事項証明書
- 法人が当事者・保証人の場合の代表権・契約締結権限の確認
- お金を渡す方法(振込・現金)と、送金記録の残し方
- 返済予定表、利息・遅延損害金の計算方法
- 保証人に関する資料、事業用融資での保証意思宣明公正証書の要否
- 担保を設定する場合の対象資産の資料
- 公正証書を作成するかどうかの検討
- 親族間・無利子の場合などの税務上の確認(贈与税の検討)
- 相手方の返済可能性、他の借入れの有無
- 紛争になった場合に備えて残しておく資料(やり取りの記録など)
返済されない場合に確認すること
返済されないときは、次の点を順に確認していくことになります。契約書・借用書の内容、送金記録による貸付けの証明、返済期限と期限の利益、保証や公正証書の有無、相手方との連絡の記録、消滅時効の状況、相手方の財産の手掛かりです。これらを踏まえて、任意の請求、内容証明郵便、支払督促、少額訴訟、通常訴訟、仮差押え、強制執行といった手続を検討します。
消滅時効については、「必ず契約から5年」というように単純化はできません。債権を行使できることを知った時から5年、行使できる時から10年という民法の原則(民法166条)を前提に、契約の締結日・貸付日・弁済期、改正民法の経過措置、時効の完成猶予・更新の有無などによって結論が変わります。どの手続を選ぶか、時効が完成していないかは、資料を確認したうえで個別に判断する必要があります。回収手続の全体像と選び方は、債権回収の方法・手続に関するコラムを読むで整理しています。
弁護士に相談するタイミング
次のような場面では、資料を確認したうえで方針を整理しておくことが、その後の判断に役立ちます。相談は結果を保証するものではありませんが、契約条項の不足や矛盾の確認、証拠の残し方、返済遅延後の選択肢の整理のための場としてご利用いただけます。
- これから金銭を渡す前に、返済条件や証拠の残し方を整理したいとき
- 借用書や契約書に署名する前に、内容を確認したいとき
- 保証人・連帯保証人を付ける前に、方式や要否を確認したいとき
- 公正証書を作成すべきか迷っているとき
- すでに金銭を渡したが、書面がない・内容が不十分なとき
- 返済が遅れ始め、今後の対応を検討したいとき
- 内容証明郵便、訴訟、強制執行などを検討する段階になったとき
よくあるご質問(FAQ)
Q1.借用書と金銭消費貸借契約書は、どちらを作るべきですか。
どちらでなければならない、という決まりはありません。双方で条件を取り交わすなら金銭消費貸借契約書、借主が差し入れる形なら借用書が用いられます。いずれの場合も、当事者・金額・返済条件などを正確に記載し、お金を渡した証拠を残すことが重要です。事案により適した形は異なります。
Q2.借用書がなくても、貸したお金を請求できますか。
書面がないだけで直ちに請求できなくなるとは限りません。送金記録、メッセージ、返済履歴などから貸付けを裏づけられる場合があります。ただし、贈与だと反論されることもあり、立証のしやすさは資料によって変わります。債務承認書などを作成して残額を確認する方法も考えられます。
Q3.借用書に実印は必要ですか。認印では無効ですか。
実印でなければ無効、認印だから無効、という単純な決まりはありません。もっとも、実印と印鑑登録証明書をそろえておくと、本人が作成したことを示しやすくなります。本人の意思で作成された書面かどうかは、署名や押印の状況などから総合的に判断されます。
Q4.金銭消費貸借契約書に収入印紙がないと無効ですか。
収入印紙を貼っていなくても、契約そのものが無効になるわけではありません。印紙税は文書に対する税の問題で、貸し借りの合意の効力とは別です。ただし、必要な印紙を貼らないと過怠税が課されることがあるため、納税の面では注意が必要です。
Q5.電子契約でも金銭消費貸借契約を締結できますか。
書面(電磁的記録を含む)による消費貸借は、金銭の交付前でも合意により成立し得るとされており(民法587条の2)、電子契約による締結も考えられます。電磁的記録には印紙税が課されないと一般に理解されています。ただし、本人確認や証拠の残し方などは、利用するサービスの内容によって異なります。
Q6.利息は何%まで定められますか。
利息には利息制限法による上限があり、元本の額が大きいほど上限利率は下がります。上限を超える部分は無効となり、貸主が業として貸し付ける場合には刑事罰の問題が生じることもあります。個別の利率が適法かどうかは、元本額や契約時期などにより異なります。上限の詳細は、利息制限法に関するコラムをご確認ください。
Q7.連帯保証人がいれば、必ず回収できますか。
連帯保証人がいても、その保証人に十分な資力がなければ現実の回収は難しくなります。また、保証契約は書面でしなければ効力を生じず、事業用融資の個人保証では公正証書による意思確認が必要な場合があります。保証人を付ければ安心、とは限りません。
Q8.公正証書を作れば、すぐに差押えできますか。
強制執行認諾文言のある公正証書があれば、訴訟を経ずに強制執行に進める点に意味があります。もっとも、執行文の付与や送達などの手続が必要で、差し押さえる財産を特定できなければ回収は実現しません。公正証書があれば必ずすぐ回収できる、というものではありません。
まとめ
- 書面のタイトルが借用書か金銭消費貸借契約書かで効力が自動的に決まるわけではなく、記載内容の正確さと、お金を渡した証拠の有無が重要です。
- 消費貸借は原則として金銭の交付で成立しますが(民法587条)、書面によれば交付前でも成立し得ます(民法587条の2)。契約書とは別に、振込明細などの貸付実行の証拠を残しておきます。
- 利息・遅延損害金には上限があり、保証には方式や、事業用融資での公正証書による意思確認などの注意点があります。
- 公正証書は訴訟を経ずに強制執行へ進める点に意味がありますが、執行の申立てが必要で、相手方に財産がなければ回収は難しいことがあります。
- 印紙税は文書への課税で、貼っていなくても契約は無効になりません。電子契約では一般に印紙税が課されません。
- 親族間や会社・役員間の貸し借りでは、贈与税や利益相反取引などの検討も必要です。すでに渡した後や返済遅延時は、早めに資料を整理することをおすすめします。
お金の貸し借りに関する書面は、作成前に一度内容を確認しておくことで、後のトラブルを避けやすくなります。契約書案・借用書・送金記録・返済予定表・保証人に関する資料などを確認することで、追加すべき条項、返済条件、保証、公正証書の要否、返済が遅れた場合の対応方針を整理できます。金銭を渡す前、署名する前に、一度ご確認ください。
執筆者・監修者
藤井 貴之(ふじい たかゆき)
弁護士法人ひょうご あわじみらい法律会計事務所 代表弁護士・公認会計士
兵庫県弁護士会所属・日本公認会計士協会兵庫会所属
2013年弁護士登録、2020年公認会計士試験合格。兵庫県・山口県・東京都での実務を経て、南あわじ市に事務所を開設。契約書の作成・確認、金銭の貸し借りをめぐるトラブル、債権回収などの企業法務のご相談に対応しています。

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