ご家族が逮捕されたり、判決で「拘禁刑」という言葉を聞いたりすると、「懲役とは何が違うのか」「刑務所に行くことになるのか」「執行猶予は付くのか」と、不安が次々に浮かぶと思います。令和7年6月に刑法が改正され、これまでの懲役・禁錮が「拘禁刑」に一本化されました。あわせて、執行猶予中に再び事件を起こした場合に関わる「再度の執行猶予」の要件も変わっています。
この記事では、拘禁刑の内容と施行時期、懲役・禁錮との違い、執行猶予制度の変更点を、被疑者・被告人のご家族に向けて整理します。そのうえで、いま手続のどの段階にいるかによって確認すべき資料が変わることを踏まえ、ご家族が相談前に準備できることを具体的にお伝えします。刑事事件は個別の事情によって見通しが大きく変わりますので、一般的な制度の説明として読み進めていただき、実際の判断は資料を確認したうえで検討することをおすすめします。
判決前、起訴後、執行猶予中の再犯など、刑事事件では手続の段階によって確認すべき資料が変わります。ご家族だけで判断が難しい場合は、事件の資料を整理したうえで、早めに方針を確認しておくと落ち着いて対応しやすくなります。
Contents
まず押さえたい全体像|拘禁刑と執行猶予
細かい条文に入る前に、今回の改正で押さえておきたい要点を先にまとめます。制度が変わったことと、実際にどのような判決になるかは別の問題である、という点が出発点になります。
この記事の要点
- 拘禁刑は、懲役と禁錮を一本化した新しい刑です(令和7年6月1日施行)。
- 名称が変わっても、刑の重さが一律に軽くなったという意味ではありません。
- 執行猶予が付くかどうかは、罪名、量刑、前刑、情状、証拠、被害弁償、保護観察の有無などにより、事案ごとに異なります。
- 再度の執行猶予は要件が緩和されましたが、簡単に認められる制度ではありません。
拘禁刑とは何か|懲役・禁錮の一本化
拘禁刑の基本的な内容(刑法第12条)
拘禁刑は、これまで別々に定められていた懲役と禁錮を一つにまとめた刑です。改正後の刑法第12条は、拘禁刑を刑事施設に拘置する刑と定めたうえで、拘禁刑に処せられた者には、改善更生を図るため、必要な作業を行わせ、又は必要な指導を行うことができる、としています。有期の拘禁刑の期間は、一月以上二十年以下です。
改正前の懲役は、刑務作業を義務づける点に特徴がありました。これに対して拘禁刑では、作業と指導・教育を、受刑者一人ひとりの特性に応じて柔軟に組み合わせられるようになりました。高齢者、障害のある方、若年者、依存症の問題を抱える方など、それぞれの状況に応じた処遇を行いやすくすることが、改正の趣旨とされています。
「刑が軽くなった」という理解は正確ではありません
「拘禁刑」という名称や「改善更生」という言葉から、刑が軽くなった、刑務作業がなくなった、刑務所に行かなくてよくなった、と受け取られることがあります。しかし、これは正確な理解ではありません。拘禁刑は刑事施設に拘置する刑であり、必要な作業を行わせることもできます。刑の重さそのものが一律に引き下げられたわけではなく、実刑となれば刑事施設に収容される点はこれまでと変わりません。
拘禁刑はいつから始まったのか|施行日と経過措置
施行日
拘禁刑は、令和7年6月1日に始まりました。根拠となるのは「刑法等の一部を改正する法律」(令和4年法律第67号)で、施行日は政令によって令和7年6月1日と定められました。刑の種類が変更されるのは、明治40年に刑法が施行されて以来のことです。
施行日前の行為・確定した判決の扱い
施行日の前後で、確認すべき点が変わります。施行日である令和7年6月1日より前に行われた行為については、引き続き懲役・禁錮によって処罰されます。また、施行日より前に既に確定していた判決は、懲役・禁錮のまま執行されます。そのため、事件がいつの行為か、判決がいつ言い渡され、いつ確定したかによって、適用される刑や確認すべき事項が異なります。
ご注意ください
- 施行日前後の事件は、行為の時期、判決の時期、確定の時期、経過措置の確認が必要です。
- 過去の懲役・禁錮の前科が今回の判断にどう影響するかは、前刑の内容や時期によって変わります。
- 制度が改正されたことだけで、個別事件の結論が決まるわけではありません。
懲役・禁錮と拘禁刑は何が違うのか
改正前後の関係を整理すると、次のようになります。刑の重さや対象となる行為時期の考え方を確認する際の参考にしてください。
| 項目 | 懲役(改正前) | 禁錮(改正前) | 拘禁刑(改正後) |
|---|---|---|---|
| 基本的な内容 | 刑事施設に拘置し、所定の作業を行わせる | 刑事施設に拘置する(作業は義務づけない) | 刑事施設に拘置する |
| 作業・指導の位置づけ | 刑務作業が原則として義務 | 作業義務なし(願い出により作業も可能) | 改善更生のため、必要な作業を行わせ、又は必要な指導を行うことができる |
| 適用の考え方 | 施行日前に行われた行為・施行日前に確定した判決に関係します | 原則として施行日以後に行われた行為に関係します | |
作業と指導を柔軟に組み合わせられるようになった点が拘禁刑の特徴ですが、これは処遇の枠組みの変更であり、実刑か執行猶予かという判断や、刑の長さそのものを直接決めるものではありません。
執行猶予制度はどう変わったのか|再度の執行猶予
執行猶予とは(初度と再度)
執行猶予とは、有罪判決で刑を言い渡しつつ、一定の期間その刑の執行を猶予し、期間を無事に経過すれば刑の執行を受けずに済む制度です。大きく分けて、これまで拘禁刑等の前科がない方などに言い渡す初度の執行猶予と、執行猶予期間中に再び罪を犯した方などに言い渡す再度の執行猶予があります。今回の改正で特に変わったのは、この再度の執行猶予です。
初度の執行猶予(刑法第25条第1項)
初度の執行猶予は、三年以下の拘禁刑又は五十万円以下の罰金の言渡しを受けたときに、情状により、裁判が確定した日から一年以上五年以下の期間、刑の全部の執行を猶予できる、というものです。対象となるのは、前に拘禁刑以上の刑に処せられたことがない方、又は、前に拘禁刑以上の刑に処せられたことがあっても、その執行を終えた日等から五年以内に拘禁刑以上の刑に処せられたことがない方です。初度であっても必ず執行猶予が付くわけではなく、付けるかどうかは裁判所の判断に委ねられています。
再度の執行猶予と二つの要件緩和(刑法第25条第2項)
再度の執行猶予は、前に拘禁刑に処せられてその全部の執行を猶予された方が、二年以下の拘禁刑の言渡しを受け、情状に特に酌量すべきものがあるときに、刑の全部の執行を猶予できる、というものです。今回の改正では、次の二点が緩和されました。
一つ目は、言い渡すことのできる刑の上限が、一年から二年に引き上げられた点です。改正前は一年以下の刑を言い渡す場合しか再度の執行猶予はできず、一年を超える刑では付けられませんでした。改正後は、一年を超え二年以下の刑を言い渡す場合でも、再度の執行猶予を検討できるようになりました。
二つ目は、保護観察との関係です。改正前は、保護観察付きの執行猶予中に再び罪を犯した場合、再度の執行猶予は認められませんでした。改正後は、初度の執行猶予に裁量で保護観察が付いていた方が、その期間中に再び罪を犯した場合でも、再度の執行猶予を検討できるようになりました。ただし、再度の執行猶予には必ず保護観察が付きますので、その保護観察期間中にさらに罪を犯した場合には、いわば三度目の執行猶予を付けることはできません。
| 項目 | 初度の執行猶予(第25条第1項) | 再度の執行猶予(第25条第2項) |
|---|---|---|
| 主な対象 | 拘禁刑以上の前科がない方など | 拘禁刑の全部執行猶予中の方など |
| 言い渡す刑の範囲 | 三年以下の拘禁刑又は五十万円以下の罰金 | 二年以下の拘禁刑(改正前は一年以下) |
| 情状の要件 | 情状により | 情状に特に酌量すべきものがあるとき |
| 保護観察 | 裁判所の裁量で付すことができる | 必ず付く |
| 猶予期間 | 裁判が確定した日から一年以上五年以下 | |
誤解しやすい点
要件が緩和されたことは、「必ず再度の執行猶予が付く」ことを意味しません。再度の執行猶予には「情状に特に酌量すべきものがあるとき」という加重された要件があり、二度目である以上、認められる場面は限られます。また、執行猶予期間の満了と再犯の時期の関係によっても扱いが変わり得るため、個別の事情に沿った確認が必要です。
よく問題になるケース
実際のご相談で、判断が分かれやすい典型的な場面を整理します。いずれも、資料と事情によって結論が変わるものであり、当てはまるからといって見通しが決まるわけではありません。
- 執行猶予中に再び事件を起こした場合。再度の執行猶予を検討できるかは、今回言い渡される見込みの刑、前刑の内容、情状の程度によって変わります。
- 前刑に保護観察が付いていた場合。その保護観察が初度の裁量的なものか、再度の執行猶予に伴う必要的なものかによって、再度の執行猶予の可否の考え方が異なります。
- 被害者がいる事件で示談が済んでいない場合。被害弁償や示談の状況は情状に関わるため、進め方を含めて確認が必要です。
- 依存症・病気・生活環境が背景にある場合。治療や通院、家族の監督体制など、再発防止に向けた環境調整が情状の検討材料になります。
- 施行日前後の事件で、旧法・新法の確認が必要な場合。行為の時期や判決・確定の時期によって、適用される刑が変わります。
なお、改正では、執行猶予期間の満了を待つことに関する仕組みも変更されています。公判が続いている間に前の執行猶予期間が経過した場合の扱いなど、専門的で複雑な論点が関わるため、執行猶予中の再犯が問題になる場合は、早い段階で個別に確認しておくことをおすすめします。
執行猶予中の再犯や、判決前の準備は、制度が複雑で、ご家族だけで見通しを立てるのが難しい場面です。前刑の内容や保護観察の有無、被害弁償の状況などの資料を整理したうえで相談すると、いまの段階で取り得る対応を検討しやすくなります。
家族が確認すべきこと|相談前の準備
ご家族としてまず整理していただきたいのは、いま手続のどの段階にいるかです。段階によって、確認すべき事項や準備できることが変わります。
| 手続の段階 | 確認しておきたい主な事項 |
|---|---|
| 逮捕・勾留中(起訴前) | 身柄拘束の状況、罪名、弁護人の有無、被害者の有無、示談の可能性 |
| 起訴後・判決前 | 起訴状の内容、認めているか争っているか、前刑・前科の内容、情状資料の準備状況 |
| 執行猶予中の再犯 | 前の執行猶予判決の内容、保護観察の有無、猶予期間の残り、今回の罪名 |
| 判決後 | 判決の内容、確定の有無、今後の手続で確認すべき事項 |
相談の際に、次のような資料をお持ちいただけると、事実関係の把握がスムーズになります。手元にあるものだけでも構いません。
- 逮捕・勾留に関する書類
- 起訴状、略式命令、判決書
- 前刑の判決書、執行猶予判決の内容が分かる資料
- 保護観察の有無が分かる資料
- 被害者対応・示談に関する資料(示談書など)
- 反省文、謝罪文
- 診断書、通院・治療に関する資料
- 勤務先や家族の監督体制に関する資料
- 裁判所・検察庁・警察からの通知
- 弁護人とのやり取りの内容
神戸・兵庫で刑事事件の相談を検討する場合の確認ポイント
神戸・兵庫で刑事事件のご相談を検討される場合も、確認すべき事項の基本は変わりません。特定の裁判所で結論がどうなるかを一般論として述べることはできませんので、個別の事件の資料に基づいて、接見の要否、保釈を検討する場面かどうか、被害者対応の進め方、情状資料や再発防止策の整理、保護観察との関係などを、一つずつ確認していくことになります。ご家族としては、前記のチェックリストの資料を整理し、いま手続のどの段階にいるかを明確にしておくと、相談が具体的に進みやすくなります。
弁護士に相談するタイミング
刑事事件では、手続の段階によって取り得る対応が変わります。弁護士への相談は、結果を保証するためのものではなく、いまの段階で確認すべき資料を整理し、対応の方針を検討するためのものです。一般的には、起訴前、起訴後、保釈を検討する場面、判決前、執行猶予中の再犯が判明したときなどが、方針を確認しておきたいタイミングになります。判決期日までの時間が限られている場合もありますので、資料が揃っていなくても、まずは事実関係を整理する段階からご相談いただけます。
よくある質問
拘禁刑とは何ですか。
これまでの懲役と禁錮を一本化した刑です。刑事施設に拘置する刑であり、改善更生のために必要な作業や指導を行うことができるとされています。令和7年6月1日に始まりました。
拘禁刑はいつから始まりましたか。
令和7年6月1日から始まりました。施行日より前に行われた行為は懲役・禁錮によって処罰され、施行日前に確定した判決は懲役・禁錮のまま執行されます。
拘禁刑と懲役・禁錮は何が違いますか。
懲役は刑務作業が原則として義務でしたが、拘禁刑では作業と指導を受刑者の特性に応じて柔軟に組み合わせられるようになりました。刑事施設に拘置する点は共通しており、刑が一律に軽くなったわけではありません。
拘禁刑になると刑務作業はなくなりますか。
なくなるわけではありません。拘禁刑でも、改善更生を図るために必要な作業を行わせることができるとされています。作業と指導を柔軟に組み合わせられるようになった、という位置づけです。
拘禁刑でも執行猶予は付きますか。
付く場合があります。ただし、執行猶予が付くかどうかは、罪名、量刑、前刑、情状、被害弁償、保護観察の有無などにより、事案ごとに異なります。資料を確認したうえでの判断が必要です。
再度の執行猶予とは何ですか。
執行猶予期間中に再び罪を犯した方などに、もう一度執行猶予を付ける制度です。二年以下の拘禁刑の言渡しを受け、情状に特に酌量すべきものがあるときに検討され、必ず保護観察が付きます。
執行猶予中に再び事件を起こすと、必ず実刑になりますか。
必ず実刑になるとは限りません。再度の執行猶予を検討できる場合がありますが、認められる場面は限られており、前刑の内容や情状によって結論は変わります。個別の事情に沿った確認が必要です。
家族は判決前に何を準備すべきですか。
まず、いま手続のどの段階かを確認してください。そのうえで、前刑や保護観察の有無、被害弁償・示談の状況、反省や再発防止に関する資料などを整理しておくと、相談が具体的に進みやすくなります。
まとめ
- 拘禁刑は、懲役と禁錮を一本化した刑で、令和7年6月1日に始まりました。
- 名称や趣旨から誤解されがちですが、刑が一律に軽くなったわけではありません。
- 再度の執行猶予は、上限が二年に引き上げられ、保護観察との関係でも要件が緩和されましたが、必ず付く制度ではありません。
- 施行日前後の事件は、行為・判決・確定の時期と経過措置の確認が必要です。
- まずは手続の段階を確認し、前刑・保護観察・被害弁償などの資料を整理することが、次の一歩になります。
刑事事件は、手続の段階や前刑の内容、情状によって見通しが大きく変わります。ご家族だけで判断が難しいときは、事件の資料を整理したうえで、早めに方針を確認しておくと安心につながります。
監修
本記事は、神戸みらい法律会計事務所に所属し、刑事事件・少年事件を取り扱う弁護士が監修しています。担当する弁護士の経歴や取扱分野は、弁護士紹介ページをご覧ください。
参考資料
- e-Gov法令検索「刑法」(デジタル庁)
- 法務省「拘禁刑下の矯正処遇等について」(法務省矯正局)
- 参議院法制局「懲役・禁錮の拘禁刑への一本化」(法律のラウンジ)

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