長年連れ添った夫婦が離婚を考えるとき、多くの方が最初に不安を感じるのが「財産をどう分けるのか」という点ではないでしょうか。自宅、住宅ローン、退職金、企業年金、預貯金、生命保険、証券口座など、長い婚姻生活の中で積み重なった財産は種類が多く、名義や取得の経緯も複雑になりがちです。
こうした財産分与のルールが、令和6年(2026年)に成立した民法等の改正によって見直され、令和8年4月1日から施行されています。特に、離婚後に財産分与を請求できる期間がこれまでの2年から5年に延び、財産分与で考慮する事情も条文に明示されました。
この記事では、これから離婚を検討している方や、すでに別居している方に向けて、改正の内容と、熟年離婚で確認しておきたい財産、相談前に整理しておきたいポイントを、公的機関の情報をもとに整理します。個別の可否や具体的な期限は事情により変わるため、最終的にはご自身の資料を確認したうえで判断する必要があります。
この記事で分かること
- 2026年(令和8年)改正で財産分与の請求期間が2年から5年に延びたことと、離婚時期による適用の分かれ目
- 財産分与で考慮される事情と、寄与割合が原則2分の1とされることの意味
- 熟年離婚で確認しておきたい財産の種類と、集めておきたい資料
- 離婚前・署名前に確認したいことと、弁護士に相談するタイミング
財産分与は、離婚前に方針を整理しておくことで見通しを立てやすくなります。まずは資料の整理状況を確認したい方は、相談予約フォームや費用のご案内をご覧ください。
Contents
まず結論:請求期間は5年に延びても、財産資料の整理は早めが安心です
先に要点をお伝えします。令和8年4月1日以後に離婚した場合、財産分与を家庭裁判所に求められる期間は、離婚の翌日から起算して原則5年に延びました。一方で、令和8年3月31日以前に離婚した場合は、これまでどおり原則2年です。どちらが適用されるかは離婚の時期によって分かれます。
期間が延びたことは、離婚後に生活を立て直しながら手続を進めたい方にとって負担の軽減につながります。もっとも、時間が経つほど通帳や証明書などの資料は集めにくくなり、記憶もあいまいになりがちです。「5年あるから急がなくてよい」と考えるよりも、離婚前・別居前の段階から財産資料を整理しておくほうが、結果的に見通しを立てやすくなります。
| 項目 | 改正前(令和8年3月31日以前の離婚) | 改正後(令和8年4月1日以後の離婚) |
|---|---|---|
| 財産分与を家庭裁判所に求められる期間 | 原則2年 | 原則5年 |
| 考慮する事情 | 「協力によって得た財産の額その他一切の事情」 | 財産の額・寄与の程度・婚姻期間・生活水準・協力扶助の状況・年齢・心身の状況・職業・収入その他一切の事情 |
| 寄与割合の考え方 | 条文に明示なし(実務上は2分の1とされることが多い) | 寄与の程度が異なることが明らかでないときは相等しい(原則2分の1)と明示 |
| 財産状況の開示 | 個別の運用による | 裁判所が情報開示を命じることができる制度を新設(正当な理由のない不開示・虚偽開示には過料) |
財産分与とは何か——熟年離婚で対象になりやすい財産
財産分与の基本的な考え方
財産分与とは、夫婦が婚姻中に協力して取得した財産を、離婚する際または離婚後に分けることをいいます。どちらの収入で取得したか、どちらの名義かにかかわらず、婚姻中に夫婦の協力で形成した財産(共有財産)が対象になり得ると考えられています。
対象になり得る財産・対象になりにくい財産
自宅不動産、預貯金、退職金、生命保険の解約返戻金、証券・投資信託などは、婚姻中に協力して形成したものであれば対象になり得ます。一方、結婚前から持っていた財産や、婚姻中に相続・贈与で得た財産(特有財産)は、原則として対象になりにくいと考えられています。ただし、特有財産であっても、他の財産と混ざっていたり、維持や管理に配偶者の寄与があったりする場合には、扱いが争点になることがあります。個別事情により結論は変わります。
財産分与と年金分割は別の制度です
「年金も財産分与で分けるのか」と迷われる方がいますが、年金分割は財産分与とは別の制度・別の手続です。対象や請求先、必要書類が異なります。詳しくは後述します。
2026年(令和8年)改正で変わる3つのポイント
①財産分与の請求期間が2年から5年に延びました
改正により、当事者間で話合いがまとまらない場合などに家庭裁判所へ財産分与を求められる期間が、離婚の翌日から起算して原則5年に延びました(民法768条2項)。ただし経過措置があり、令和8年4月1日より前に離婚した場合は、従来どおり離婚の翌日から起算して原則2年です。
この期間は、家庭裁判所に調停や審判を申し立てられる期間です。期間内に申立てをしていれば、その後に話合いが長引いても、その理由だけで請求できなくなるわけではないと考えられています。期間経過後の取扱いは個別事情により異なるため、資料を確認したうえで判断する必要があります。
②考慮要素が条文に明示され、寄与割合は原則2分の1に
これまでの条文は「協力によって得た財産の額その他一切の事情」とだけ定めていましたが、改正後は、婚姻中に取得・維持した財産の額、その取得・維持についての各自の寄与の程度、婚姻の期間、婚姻中の生活水準、婚姻中の協力・扶助の状況、各自の年齢・心身の状況・職業・収入、その他一切の事情を考慮すると明示されました(民法768条3項)。
あわせて、財産の取得・維持についての寄与の程度は、その程度が異なることが明らかでないときは相等しいものとする、と定められました。これは寄与割合を原則2分の1とする考え方を条文に示したものです。ここでいう寄与には、収入を得るための就労だけでなく、家事や育児の分担なども含まれると説明されています。したがって、専業主婦・専業主夫であった期間があることだけを理由に一律に不利になるわけではありません。もっとも「原則」であり、財産の種類や個別の事情によって結論は変わります。「必ず半分」と決まっているわけではない点にご注意ください。
③財産状況の情報開示命令が新設されました
財産分与は、双方が財産を開示し合わなければ適切に行えません。そこで改正では、財産分与に関する裁判手続において、裁判所が当事者に対し財産の状況に関する情報の開示を命じることができる制度が設けられました(人事訴訟法・家事事件手続法)。正当な理由なく開示しない場合や虚偽の情報を開示した場合には、過料の定めがあります。相手が資料を出さない場面での一助になり得ますが、事案により進め方は異なります。
熟年離婚で特に確認しておきたい財産類型
神戸市須磨区・垂水区・西区・北区・中央区や明石方面などからご相談いただく際にも、次のような財産の整理が問題になることがあります。地域として特定の傾向があるという趣旨ではなく、熟年離婚で相談されることのある資産の例としてご覧ください。
| 財産類型 | 確認資料の例 | 注意点 |
|---|---|---|
| 自宅不動産(戸建て・マンション) | 不動産登記事項証明書、固定資産税納税通知書・評価証明書 | 名義、購入時期、頭金の原資(相続・贈与かどうか)などで扱いが変わることがあります |
| 住宅ローン | 住宅ローン残高証明書、返済予定表 | ペアローン・連帯債務・連帯保証の有無で整理の方法が変わります |
| 退職金・企業年金 | 退職金規程、退職金見込額の資料、源泉徴収票 | 支給の確実性、勤務期間、婚姻期間、別居時期などで扱いが変わり、一律ではありません |
| 預貯金 | 通帳、残高証明書、取引明細 | 別居時点・離婚時点の残高が問題になりやすいです |
| 生命保険 | 保険証券、解約返戻金額が分かる資料 | 解約返戻金のある保険は対象になり得ます |
| 証券・投資信託等 | 証券口座の残高報告書、取引報告書 | 評価の基準となる時期により金額が変わります |
| 自営業・会社役員の資産 | 確定申告書、決算書、役員報酬の資料 | 事業用資産と個人資産の切り分けが問題になります |
| 相続・贈与を受けた財産 | 相続関係の資料、贈与の記録 | 原則は特有財産ですが、混在や維持への寄与などで争点になることがあります |
| 年金分割(別制度) | 年金分割のための情報通知書 | 財産分与とは別の手続です(下記参照) |
熟年離婚の財産分与でよく問題になるケース
長期間別居している場合
別居期間が長いと、共有財産をいつの時点で評価するか(別居時か離婚時か)などが問題になりやすくなります。なお、財産分与を家庭裁判所に求められる期間は離婚の成立を基準に数えるため、別居していても離婚が成立していなければ期間は進み始めません。もっとも、別居が長引くほど資料は集めにくくなります。
退職金・企業年金がある場合
退職金や将来受け取る退職金は対象になり得ますが、支給の確実性、勤務期間、婚姻期間、別居時期などによって扱いが変わります。「退職金は必ず半分請求できる」と一律に言えるものではなく、資料を確認したうえで検討する必要があります。
自宅不動産と住宅ローンが残っている場合
どちらが住み続けるか、ローンの名義や連帯債務・連帯保証をどう整理するかで、進め方が大きく変わります。売却して清算する場合と、一方が住み続けて代償金を支払う場合とでは、必要な検討事項が異なります。
相手が財産資料を開示しない場合
改正で新設された情報開示命令の活用が考えられます。ただし、相手方の資料を無断で持ち出したり、相手のインターネット口座に無断でログインしたりすることは避けてください。手元で分かる範囲から整理し、不足分の集め方は弁護士に相談することをおすすめします。
親から相続・贈与を受けた財産が混ざっている場合
相続・贈与で得た財産は原則として特有財産と考えられますが、預貯金として他の資金と混ざっていたり、その資金で購入した不動産のローン返済やリフォームに配偶者が関わっていたりすると、扱いが争点になることがあります。取得の経緯が分かる資料を整理しておくと検討がしやすくなります。
離婚協議書・公正証書に署名する前
いったん署名した合意は、後から見直すことが難しい場合があります。財産に抜けがないか、記載内容が意図したとおりかを、署名前に確認しておくことが大切です。
離婚前・別居前・署名前に確認したい手続前チェックリスト
- 財産の一覧と、離婚の日・別居の日を整理しましたか
- 通帳・残高証明・取引明細を、別居時点・離婚時点が分かる形で確認しましたか
- 不動産の登記事項証明書・固定資産税の納税通知書を用意しましたか
- 住宅ローンの残高証明・返済予定表、連帯債務・連帯保証の有無を確認しましたか
- 退職金規程・退職金見込額の資料を確認しましたか
- 生命保険証券・解約返戻金の資料、証券口座の残高資料を確認しましたか
- 年金分割のための情報通知書を年金事務所で取り寄せましたか
- 離婚協議書・公正証書に署名する前に、内容と抜けている財産がないかを確認しましたか
相手方の資料を無断で持ち出したり、相手名義の口座に無断でログインしたりする行為は、後の手続で不利になるだけでなく、別の法的問題を生むおそれがあります。まずは手元で分かる範囲から整理し、不足分の集め方を弁護士に相談することをおすすめします。
資料がすべて揃っていなくても、分かる範囲から整理を始められます。改正で請求期間は延びましたが、資料は時間の経過とともに集めにくくなります。離婚前・署名前の段階で一度確認しておくことが、見通しを立てるうえで役立ちます。
年金分割は財産分与とは別の手続です
年金分割は、婚姻期間中の厚生年金(報酬比例部分)の記録を当事者間で分ける制度で、財産分与とは別に手続が必要です。国民年金(老齢基礎年金)や、婚姻前・離婚後の記録は対象になりません。「相手の年金の半分がそのまま自分のものになる」わけではない点に注意が必要です。
請求期限は、離婚等をした日の翌日から起算して原則5年です(令和8年4月1日より前に離婚等をした場合は原則2年)。合意分割では按分割合(上限は2分の1)を当事者の合意または裁判手続で定め、手続をしないと分割されません。まずは年金事務所で「年金分割のための情報通知書」を取り寄せ、対象期間や按分割合の範囲を確認しておくと、離婚後の生活設計を考えやすくなります。
弁護士に相談するタイミングと相談でできること
弁護士への相談は、結果を保証するものではありません。相談を通じてできるのは、資料の整理、法律上の見通しの検討、手続の選択肢の確認です。次のような場面では、早めに相談しておくと方針を整理しやすくなります。
- 離婚届を提出する前、別居を始める前後
- 財産資料が手元にある時点、退職が近い場合
- 自宅不動産や住宅ローンがある場合
- 相手が財産資料を開示しない場合
- 調停の申立てを検討している場合
- 離婚協議書・公正証書に署名する前
- 離婚後で、請求できる期間が近づいている場合
財産分与や年金分割は、資料を確認することで見通しを検討しやすくなります。ご自身の状況に合わせて整理したい方は、離婚・男女問題の取扱業務や相談予約フォームをご覧ください。
よくある質問(FAQ)
Q.2026年改正で財産分与の請求期間はどう変わりましたか。
令和8年4月1日以後に離婚した場合、家庭裁判所に財産分与を求められる期間は、離婚の翌日から起算して原則5年に延びました。令和8年3月31日以前に離婚した場合は、原則2年のままです。
Q.「離婚後2年」と聞いていましたが、今は必ず5年ですか。
5年が適用されるのは令和8年4月1日以後に離婚した場合です。それ以前に離婚した場合は原則2年です。ご自身がどちらに当たるかは離婚の時期によって変わりますので、確認が必要です。
Q.別居中ですが、期間はいつから数えますか。
財産分与を家庭裁判所に求められる期間は、離婚の成立を基準に数えます。別居していても離婚が成立していなければ、この期間は進み始めません。もっとも、別居が長くなるほど資料は集めにくくなるため、早めの整理をおすすめします。
Q.改正で「必ず半分もらえる」と考えてよいですか。
改正では、寄与の程度が異なることが明らかでないときは相等しい(原則2分の1)とされました。ただし「原則」であり、財産の種類や個別の事情によって結論は変わります。「必ず半分」と決まっているわけではありません。
Q.専業主婦(主夫)だった期間は不利になりますか。
家事や育児の分担も、財産の取得・維持への寄与として考慮の対象になり得ます。収入の有無だけで寄与割合が決まるわけではありません。具体的な評価は事案により異なります。
Q.退職金は必ず財産分与の対象になりますか。
退職金や将来受け取る退職金は対象になり得ますが、支給の確実性、勤務期間、婚姻期間、別居時期などにより扱いが変わり、一律ではありません。資料を確認したうえで判断する必要があります。
Q.相手が財産の資料を出してくれません。
改正で、財産分与の裁判において裁判所が財産状況の情報開示を命じることができる制度が設けられ、正当な理由のない不開示や虚偽の開示には過料の定めがあります。もっとも、事案により進め方は異なりますので、対応方針を相談することをおすすめします。
Q.年金分割も財産分与と一緒に5年になったのですか。
年金分割の請求期限も、離婚等をした日の翌日から起算して原則5年に延びています(令和8年4月1日より前の離婚は原則2年)。ただし年金分割は財産分与とは別の制度・別の手続で、対象は厚生年金の記録の一部です。手続をしないと分割されない点にも注意が必要です。
まとめ——次に確認したいこと
- 令和8年4月1日以後の離婚は、財産分与を家庭裁判所に求められる期間が原則5年、それ以前は原則2年です
- 考慮する事情が条文に明示され、寄与割合は原則2分の1とされました(ただし個別事情により異なります)
- 財産状況の情報開示命令が新設されました
- 熟年離婚では、自宅・住宅ローン・退職金・年金分割・預貯金・保険・証券・相続財産などの整理が要点になります
- 請求期間は延びても、資料は早めに整理するほうが見通しを立てやすくなります
- 離婚前・別居前・署名前に、財産資料と請求できる期間を確認しておくことが大切です
財産分与や年金分割の見通しは、資料を確認することで整理しやすくなります。離婚前・署名前・請求期間が近い場合は、早めに確認しておくと安心です。
監修者情報
監修:藤井貴之(弁護士・公認会計士/兵庫県弁護士会所属)
神戸みらい法律会計事務所(神戸市須磨区)において、離婚・男女問題を含む家事事件に対応しています。経歴などは弁護士紹介ページをご覧ください。
参考資料(公的機関)

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