従業員の競業避止義務とは|在職中と退職後の違い・有効性の判断 … 総合・網羅 |淡路島(淡路・洲本・南あわじ)の弁護士|初回相談無料|弁護士法人ひょうご あわじみらい法律会計事務所

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従業員の競業避止義務とは|在職中と退職後の違い・有効性の判断 … 総合・網羅

従業員が競合他社へ転職したり、独立して同じ業種で開業したりする場面では、「元の会社に対して競業避止義務を負うのか」「誓約書に署名させていれば転職を止められるのか」といった疑問が、会社側からも従業員側からも生じます。競業避止義務は、在職中と退職後で法的な考え方が大きく異なり、また誓約書や就業規則に定めがあるだけで当然に有効になるわけではありません。実際の結論は、契約書・就業規則・職務内容・制限の範囲といった資料を確認したうえで、個別事情を踏まえて判断する必要があります。

この記事では、従業員の競業避止義務について、在職中と退職後の違い、誓約書・雇用契約書・就業規則に定める競業避止条項の有効性が問題となる場面、裁判実務上考慮される判断要素、秘密保持義務や営業秘密との違い、違反が疑われる場合の会社側・従業員側の対応までを、会社側と従業員側の立場を分けて整理します。就業規則や誓約書の見直しを考えている会社の方も、退職時に署名を求められた従業員の方も、次に何を確認すればよいかが分かる内容を目指しています。

競業避止条項の有効性や、転職・独立が問題となるかは、契約書・就業規則・職務内容・制限範囲などによって結論が変わります。署名前・警告前・回答前に資料を確認しておくことで、論点と対応方針を整理しやすくなります。

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Contents

従業員の競業避止義務について先に確認したい結論

詳しい説明に入る前に、会社側・従業員側のいずれにとっても出発点となる3つの要点を先に示します。

在職中と退職後では法的な考え方が異なる

在職中の従業員は、雇用契約に伴う信義則(誠実義務)の一内容として、会社の利益を著しく害するような競業行為を控えるべき立場にあると考えられています。これに対して退職後は、職業選択の自由(日本国憲法第22条第1項)が正面から問題になります。退職した人が別の会社で働くこと自体は本来自由であり、退職後の競業を制限するには、雇用契約書・誓約書・就業規則などの明確な根拠が必要になるのが原則です。

誓約書や就業規則があっても有効性は個別に判断される

退職後の競業避止条項は、契約上の根拠があればそれで全面的に有効になるわけではありません。裁判実務では、会社の守るべき利益、制限される業務・地域・期間の範囲、従業員が受ける不利益、代償措置の有無などを総合的に考慮し、制限が広すぎる場合には公序良俗(民法第90条)に反して無効と判断されることがあります。「この期間なら必ず有効」といった形式的な線引きはできません。

秘密情報の持出しは競業避止義務とは別に問題となる

競業避止義務は「競業行為そのもの」を制限するものです。一方、営業秘密や顧客情報の持出し・利用は、秘密保持義務や不正競争防止法という別の枠組みで問題になります。競業避止条項が無効と判断される場合でも、情報の不正な持出しや利用については別途責任が生じ得るため、両者を分けて考える必要があります。

ここまでの整理

在職中か退職後か、契約上の根拠があるか、問題となっているのが「競業そのもの」か「情報の持出し」か。この3点を切り分けることが、会社側・従業員側いずれの対応でも出発点になります。いずれも最終的な結論は個別事情により異なり、資料の確認が欠かせません。

競業避止義務とは

競業避止義務とは、労働者や役員などが、使用者や会社と競合する事業を行ったり、競合する会社で働いたりしないという義務をいいます。ここでは、まずどのような行為が問題になり得るのか、また混同されやすい秘密保持義務・営業秘密との違いを整理します。

どのような行為が「競業」に当たり得るか

競業に当たり得る行為には、たとえば次のようなものがあります。ただし、これらが直ちに違法・違反になるわけではなく、在職中か退職後か、契約上の根拠や制限範囲との関係で評価が変わります。

  • 在職中に、会社の許可なく競合他社に雇用され、又は競合する事業を営むこと
  • 退職後に、有効な競業避止条項で禁止された業務・地域・期間の範囲で競合事業に関与すること
  • 元の会社の顧客に対して営業を行い、又は取引を働きかけること
  • 元の会社の従業員に対して、退職や転職を組織的に勧誘すること

秘密保持義務・営業秘密との違い

競業避止義務・秘密保持義務・不正競争防止法上の営業秘密は、いずれも「会社の情報や利益を守る」ものですが、規律の対象と要件が異なります。次の表で違いを整理します。

項目 競業避止義務 秘密保持義務 不正競争防止法上の営業秘密
制限・保護の対象 競合する事業・就労そのもの 秘密情報の開示・使用 営業秘密の不正な取得・使用・開示
主な根拠 雇用契約・就業規則・誓約書、在職中は信義則 雇用契約・就業規則・誓約書、信義則 不正競争防止法
主な要件・ポイント 制限の範囲・期間・代償措置等を総合考慮し公序良俗に反しないこと 対象情報が特定され、秘密として扱われていること 秘密管理性・有用性・非公知性の3要件を満たすこと
違反時の主な対応 差止め・損害賠償・懲戒・退職金の減額等(条項の有効性による) 差止め・損害賠償等 差止請求・損害賠償請求等

とくに注意したいのは、会社が「秘密」と呼ぶ情報がすべて不正競争防止法上の営業秘密に当たるわけではないという点です。営業秘密として保護されるには、秘密として管理されていること(秘密管理性)、事業活動に有用であること(有用性)、公然と知られていないこと(非公知性)という3つの要件を満たす必要があります。顧客名簿や価格情報、営業資料などが自動的に営業秘密になるわけではありません。

従業員と取締役では規律が異なる

同じ「競業避止」でも、従業員の競業避止義務と、会社法上の取締役の競業取引規制は別の制度です。取締役は、自己又は第三者のために会社の事業の部類に属する取引をしようとするときは、株主総会(取締役会設置会社では取締役会)で重要な事実を開示して承認を受ける必要があるとされています(会社法第356条第1項第1号等)。従業員のケースとは要件や手続が異なるため、取締役の競業が問題になる場合は、次の記事もあわせてご確認ください。

取締役の競業避止義務について確認する

在職中の従業員が負う競業避止義務

まず、在職中の競業避止義務について整理します。会社側は「在職中なら何でも禁止できる」と考えがちですが、実際にはそこまで広くはありません。

雇用契約・就業規則・信義則との関係

在職中の従業員は、雇用契約に伴う信義則(誠実義務)の一内容として、会社の正当な利益を著しく害する競業行為を控えるべき立場にあると考えられています。就業規則に競業の禁止や許可制が定められている場合には、その定めも根拠になります。もっとも、義務の範囲は従業員の職務・地位・権限や、行為の態様によって異なり、あらゆる副業や社外活動が一律に禁止されるわけではありません。

転職・独立の「準備」は直ちに違反となるのか

退職や独立に向けた準備行為(情報収集、退職の意思決定、退職後の事業計画の検討など)は、それ自体では直ちに違反とはいえないと考えられています。一方で、在職中に会社の顧客や従業員へ具体的に働きかける、会社の資源を利用して競合事業を立ち上げるといった具体的な競業行為に及ぶ場合には、評価が異なり得ます。「準備にとどまるのか」「在職中の競業行為に踏み込んでいるのか」の切り分けが重要です。

顧客への働きかけ・情報の持出しがある場合

在職中に、会社の顧客へ取引先の切替えを働きかけたり、営業秘密や顧客情報を持ち出したりする行為があれば、競業避止義務のほか、秘密保持義務違反や不正競争防止法上の問題、就業規則に基づく懲戒の検討対象にもなり得ます。もっとも、懲戒や解雇を行うには客観的合理性と社会的相当性が必要であり(労働契約法第15条・第16条)、事実関係と証拠を確認せずに拙速に処分することは避けるべきです。

退職後の競業避止義務

退職後は、在職中とは考え方が変わります。ここが会社側・従業員側の双方で最も誤解が生じやすい部分です。

退職後の転職・独立は原則として自由

退職した従業員が別の会社で働き、又は同じ業種で独立すること自体は、職業選択の自由として本来自由です。したがって、雇用契約書・誓約書・就業規則などに競業避止に関する定めがない限り、退職後は原則として競業避止義務を負わないと考えられています。会社が退職後の競業を制限したい場合には、まず明確な契約上の根拠が必要になります。

雇用契約書・誓約書・就業規則に条項がある場合

退職後の競業避止条項がある場合でも、それだけで当然に全面的に有効となるわけではありません。制限が合理的な範囲を超えていると評価されれば、公序良俗に反して無効と判断されることがあります。有効性は、次の見出しで整理する複数の要素を総合的に考慮して判断されるため、「誓約書に署名させたから安心」「署名した以上は争えない」と決めつけることはできません。

条項がなくても法的責任が問題となる場合

競業避止条項がない場合でも、退職者の行為の態様によっては別の法的責任が問題になることがあります。たとえば、営業秘密を不正に使用する行為は不正競争防止法上の問題となり得ますし、社会的相当性を逸脱した方法で会社の顧客を大量に奪う、組織的に従業員を引き抜くといった行為は、不法行為(民法第709条)として損害賠償の対象になり得ます。「条項がないから何をしても自由」とは限らない点に注意が必要です。

競業避止条項の有効性を判断する主な要素

退職後の競業避止条項の有効性は、経済産業省が裁判例を整理した資料などでも示されているとおり、複数の要素を総合的に考慮して判断されます。次の表は、実務でよく挙げられる判断要素と検討のポイントを整理したものです。いずれか1つの要素だけで結論が決まるわけではありません。

判断要素 主な内容 検討のポイント
守るべき正当な利益 会社が保護しようとする技術・ノウハウ・顧客関係等 「競合を減らしたい」という抽象的利益では足りず、何を守るのかの具体化が必要
従業員の地位・職務 役職名ではなく、機密情報や顧客への実際の接触状況 肩書だけで判断されず、実際に保護すべき情報に接していたかが重視される
禁止される業務の範囲 禁止される職種・業務・顧客・商品等の範囲 「同業他社すべて禁止」など広すぎる定めは不利に評価されやすい
地域的な範囲 競業を禁止する地域の広さ 会社の事業実態と釣り合っているかが問われる。限定がないこと自体で当然に無効とはならない
存続期間 競業を禁止する期間の長さ 期間だけで有効・無効が決まるわけではなく、他の要素と併せて総合判断される
代償措置・不利益 手当・退職金等の代償措置の有無と、従業員が受ける不利益の程度 代償措置がないことは不利に働きやすいが、これも他の要素と併せて評価される

会社に守るべき正当な利益があるか

有効性の出発点となるのが、会社に「守るべき正当な利益」があるかどうかです。ここでいう利益は、不正競争防止法上の営業秘密に限られず、独自の技術情報やノウハウ、長期の投資によって築いた顧客関係などが含まれ得ると整理されています。もっとも、会社が守りたい情報がすべて法的に保護されるわけではなく、どの情報・関係を保護しようとしているのかを具体的に示せることが重要です。

従業員の地位・職務・情報への接触

その従業員が、実際に保護すべき情報や顧客に接していたかどうかも重視されます。役職名が上位であっても機密情報に接していなければ制限が正当化されにくく、逆に、肩書は高くなくても重要情報に接していた場合には制限が認められやすくなる傾向があります。従業員全員に一律の競業避止義務を課すような設計は、慎重な検討が必要です。

禁止範囲(業務・地域・期間)が広すぎないか

禁止される業務・地域・期間の範囲も重要な要素です。禁止行為を、従前の職務や具体的な顧客との関係に即して限定しているかどうかが問われます。地域的な限定がないこと、期間が一定程度長いことなどは、それだけで直ちに有効・無効を決めるものではなく、他の要素と併せて総合的に評価されます。

代償措置や従業員の不利益

競業を制限することの見返り(代償措置)があるかどうかも考慮されます。競業避止に対応する手当や退職金の上乗せなどが代償措置として評価されることがありますが、代償措置がない場合には有効性が否定される方向に働きやすくなります。もっとも、これも一要素であり、代償措置の有無だけで結論が決まるわけではありません。

注意

「競業避止期間が1年なら有効、2年なら無効」「地域を限定していないから必ず無効」といった、1つの要素だけで結論を決める説明は正確ではありません。実際には、守るべき利益・従業員の地位・禁止範囲・代償措置などを併せて総合的に判断されます。具体的な有効性は、条項の文言と個別事情を確認したうえで検討する必要があります。

誓約書・就業規則を作成・見直すときの注意点

ここからは主に会社側の視点で、競業避止条項を設ける際の注意点を整理します。

ひな形をそのまま使うリスク

市販のひな形や他社の書式をそのまま使うと、自社の事業内容や守りたい利益に合わない広すぎる定めになり、いざというときに有効性が争われて機能しないおそれがあります。競業避止条項は、事業内容と従業員の職務に応じて設計する必要があるため、一律のひな形をそのまま用いることは避けたほうが安全です。

守りたい利益と禁止行為を具体化する

有効性を高めるうえでは、何を守りたいのか(技術情報・ノウハウ・特定の顧客関係など)を明確にし、それに対応する形で禁止行為・対象・期間を具体的に定めることが重要です。抽象的に「同業への転職を一律禁止」とするより、保護すべき利益と結び付いた限定的な定めのほうが、合理性が認められやすくなります。

定額の違約金を定める場合の問題

競業避止に違反した場合の「違約金」をあらかじめ定額で定めることには注意が必要です。労働基準法第16条は、労働契約の不履行について違約金を定め、又は損害賠償額を予定する契約を禁止しています。定額の違約金条項がこの規定との関係で問題になる場合があり、「違約金条項を書いておけば抑止できる」と単純に考えることはできません。現実に生じた損害を賠償請求することと、あらかじめ定額の違約金を定めることは区別して検討する必要があります。

入社時・在職中・退職時で確認すること

誓約書や就業規則は、入社時・昇進時・退職時など複数の場面で関わります。就業規則による場合には、合理的な内容であることに加えて、周知され、契約内容となっていることが前提になります。個別の誓約書による場合には、署名の経緯や説明の有無も後の判断に影響し得ます。作成・見直しの際は、これらの点を含めて確認することが望まれます。

誓約書や就業規則の競業避止条項は、事業内容と従業員の職務に合わせて検討する必要があります。作成・見直しをお考えの会社の方は、現在の条項や規程を確認したうえで、論点を整理することができます。

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競業避止義務違反が疑われる場合に会社が取り得る対応

元従業員による競業や情報の持出しが疑われる場合、会社側が検討し得る対応を段階的に整理します。いずれも、事実確認と証拠を踏まえて進めることが前提です。

事実確認と証拠の保全

まず、問題となる行為を具体的に特定し、契約書・就業規則・誓約書などの根拠と、守ろうとする利益を確認します。あわせて、貸与端末・メール・アクセスログ・顧客とのやり取り、損害や顧客移動を示す資料などの証拠を保全します。証拠の収集にあたっては、個人情報や通信の秘密、プライバシーへの配慮が必要になる場面があります。

警告・交渉・情報の返還や削除の請求

事実関係と法的根拠を整理したうえで、相手方に対する警告や交渉、持ち出された情報の返還・削除の請求などを検討します。警告書を送る前に、事実と根拠、表現を精査しておくことが重要です。根拠が固まらないまま相手方や転職先へ通知すると、かえって紛争を広げるおそれがあるため、送付前の確認が欠かせません。

差止め・仮処分

競業行為の差止めを求めることも考えられますが、契約条項があるだけで当然に差止めが認められるわけではありません。有効な競業避止義務(被保全権利)が認められるか、差止めの必要性があるかなどが問題になります。急いで対応する必要がある場合には民事保全法上の仮処分が検討されますが、迅速性が求められる一方で、事実確認と証拠の準備が不可欠です。

損害賠償請求

競業避止義務違反や不法行為を理由とする損害賠償請求も選択肢になります。もっとも、請求が認められるかは、条項の有効性、義務違反の有無、損害の発生と因果関係、損害額を裏付ける証拠などによって異なります。「違反があれば当然に請求できる」わけではない点に留意が必要です。

懲戒・解雇・退職金を検討するときの注意点

競業を理由とする懲戒・解雇や、退職金の減額・不支給を検討する場合には、規程の定めと個別事情の双方を確認する必要があります。裁判例では、規程に定めがあり、それまでの功労を減殺するほどの事情がある場合に、退職金の一定の減額等を認めた例もありますが、これは事案ごとの判断であり、当然に全額不支給とできるわけではありません。在職中の行為か退職後の行為かによっても評価が変わります。

競業避止を求められた従業員が確認すること

ここからは、退職時に誓約書への署名を求められた方や、転職・独立を予定している方、元勤務先から警告書などを受け取った方に向けた整理です。

署名前に確認する契約内容

誓約書や退職合意書への署名を求められた場合は、その場で急いで署名する前に、禁止される業務・地域・期間、代償措置の有無、対象となる顧客や情報の範囲を確認することが大切です。署名したからといって、あらゆる制限が当然に有効になるわけではありませんが、後の紛争を避けるためにも、内容を理解したうえで対応することが望まれます。

転職先・独立後の業務との重なり

競業避止条項がある場合は、禁止されている範囲と、実際に予定している転職先の業務や独立後の事業内容とを比較し、どの程度重なるのかを確認します。重なりが小さい場合や、条項の範囲が広すぎる場合には、そもそも制限が及ばない、又は有効性が争われる余地があります。具体的な職務内容や制限範囲を踏まえて判断する必要があります。

警告書や請求を受けた場合の対応

元勤務先から警告書・内容証明郵便・請求書などを受け取った場合は、無視せず、事実関係と法的根拠を整理することが重要です。あわせて、元勤務先のデータを持ち出し・転送・複製・削除しないことにも注意が必要です。私物端末やクラウド上の情報の扱いを独断で進めると、別の問題を生じさせるおそれがあります。回答や対応の前に、内容を確認しておくことをおすすめします。

よく問題になるケース

相談の場面で迷いやすい典型的なケースを整理します。いずれも結論は個別事情により異なり、資料の確認が前提となります。

ケース 主に問題となる論点 確認すべきこと
競合他社への転職 有効な競業避止条項の有無、禁止範囲との重なり 条項の文言、職務内容、転職先業務との関係
同業種での独立開業 禁止される業務・地域・期間、顧客との関係 制限範囲、開業予定の事業内容・地域・顧客
元顧客への営業 勧誘禁止条項の有無、行為の態様、不法行為の成否 連絡の方法・時期、情報の利用の有無
元同僚の採用・勧誘 引抜きの態様、組織性、社会的相当性 勧誘の方法・規模、会社への影響
顧客名簿・営業資料の利用 秘密保持義務違反、不正競争防止法上の営業秘密 情報の管理状況、持出しの有無、営業秘密の要件充足
退職金の減額・不支給 規程の定め、個別事情、背信性の程度 退職金規程の内容、行為の時期・態様

会社側・従業員側の手続前チェックリスト

示談・署名・警告・回答などの前に確認しておきたい事項を、立場ごとに整理します。

会社側が確認したい資料と初動

  • 雇用契約書・労働条件通知書・就業規則・賃金規程・退職金規程
  • 秘密保持契約書・競業避止誓約書(入社時・昇進時・退職時のもの)
  • 職務分掌、アクセス権限の記録、退職時の引継資料
  • 貸与端末・メール・アクセスログ、顧客や従業員との連絡記録
  • 相手方から届いた通知・回答、損害や顧客移動を示す資料
  • 問題となる行為の具体的な特定と、守ろうとする利益の明確化
  • 警告・懲戒・退職金処理を急がず、証拠を保全してから検討する

従業員側が確認したい資料と初動

  • 雇用契約書・労働条件通知書・就業規則
  • 競業避止誓約書・秘密保持誓約書・退職合意書・退職金規程
  • 元勤務先からの警告書・内容証明郵便・請求書
  • 転職先で予定する職務内容、独立後の事業内容・対象地域・顧客
  • 禁止範囲と実際の転職先業務・独立後事業との重なりの比較
  • 署名・回答を急がない。元勤務先のデータを持ち出し・転送・複製・削除しない
  • 元顧客・元同僚への連絡方法を慎重に検討する

弁護士に相談するタイミング

競業避止義務が問題になる場面では、結論が個別事情によって変わるため、早い段階で資料を確認しておくことが有効です。会社側であれば、誓約書や就業規則を見直したいとき、退職者への警告や差止めを検討しているとき、営業秘密や顧客情報の持出しが疑われるときが、確認に適した場面です。従業員側であれば、退職時の誓約書への署名を求められたとき、競合他社への転職や独立を予定しているとき、元勤務先から警告書や請求を受けたときが挙げられます。

弁護士への相談では、結果を保証するものではありませんが、手元の資料をもとに事実関係と論点を整理し、取り得る選択肢や対応方針を検討することができます。署名前・警告前・回答前など、行動を起こす前の段階で確認しておくと、判断の材料をそろえやすくなります。

会社側・従業員側のいずれの場合も、契約書・就業規則・誓約書・関係するやり取りなどの資料をお手元にご用意いただくと、相談の際に事実関係と対応方針を整理しやすくなります。

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従業員の競業避止義務に関するよくある質問

誓約書に署名すれば、退職後の競業避止義務は必ず有効になりますか。

署名だけで有効性が確定するわけではありません。守るべき利益、禁止される業務・地域・期間、代償措置などを総合的にみて、制限が合理的な範囲かどうかが判断されます。条項の文言と個別事情の確認が必要です。

就業規則の定めだけで、退職後の転職を禁止できますか。

就業規則に合理的な競業避止の定めがあり、周知され契約内容となっていることが前提になります。定めがあっても範囲が広すぎれば無効と判断される可能性があり、結論は個別事情により異なります。

競合他社へ転職すると、直ちに競業避止義務違反になりますか。

直ちに違反になるとは限りません。有効な競業避止条項があるか、禁止範囲と実際の業務が重なるか、職務内容はどうかなどによって評価が変わります。資料を確認したうえで判断する必要があります。

競業避止の期間は何年までなら有効ですか。

期間だけで一律に有効・無効が決まるわけではありません。期間の長さは判断要素の1つにすぎず、守るべき利益・禁止範囲・代償措置などと併せて総合的に判断されます。

会社は差止めや損害賠償を請求できますか。

条項があるだけで当然に認められるわけではありません。条項の有効性、義務違反の有無、損害と因果関係、証拠などによって結論が異なります。差止めの仮処分では迅速性と証拠の準備が重要です。

元顧客への連絡や元同僚の勧誘は違反になりますか。

常に違法となるわけではありません。自由競争の範囲を超える態様や、有効な勧誘禁止条項に反する場合、営業秘密を利用する場合などに問題となり得ます。行為の方法・時期・対象により評価が変わります。

競業を理由に退職金を減額・不支給にできますか。

退職金規程の定めと個別事情の検討が必要です。裁判例では一定の場合に減額等を認めた例もありますが、当然に全額不支給とできるわけではありません。規程の内容と行為の態様の確認が前提となります。

退職時に競業避止の誓約書への署名を拒否できますか。

誓約書への署名は本来当事者の合意によるものです。拒否したこと自体で直ちに不利益な処分が正当化されるわけではありませんが、対応は状況によります。署名前に内容を確認し、必要に応じて相談することをおすすめします。

まとめ

従業員の競業避止義務について、要点と次の行動を整理します。

  • 在職中は信義則の一内容として一定の競業避止が問題になり、退職後は職業選択の自由が前提となる
  • 退職後の競業を制限するには契約上の根拠が必要で、誓約書等があっても有効性は個別に判断される
  • 有効性は、守るべき利益・従業員の地位・禁止範囲・地域・期間・代償措置などを総合考慮して判断される
  • 営業秘密の持出しや不当な顧客奪取・引抜きは、競業避止義務とは別の枠組みで問題となり得る
  • 差止め・損害賠償・懲戒・退職金の減額などは、条項の有効性・行為の内容・証拠により結論が変わる
  • 会社側は事実確認と証拠保全を、従業員側は署名・回答前の内容確認を優先し、いずれも行動前に資料を整理する

いずれの論点も、最終的な結論は契約書・就業規則・職務内容・制限範囲などの資料と個別事情によって変わります。判断に迷う場面では、資料を確認したうえで論点を整理することが、次の一歩につながります。

弁護士法人ひょうご あわじみらい法律会計事務所では、企業の労務管理や労働問題に関するご相談をお受けしています。競業避止条項の作成・見直し、退職者対応、退職時の誓約書への対応など、会社側・従業員側それぞれのお立場に応じて、資料を確認しながら対応方針を整理することができます。初回のご相談は無料です(予約制)。

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監修・執筆

弁護士法人ひょうご あわじみらい法律会計事務所(兵庫県南あわじ市)

藤井貴之(代表弁護士・公認会計士/兵庫県弁護士会所属、日本公認会計士協会兵庫会)

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参考資料

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