M&A(会社の合併・買収)の話が進み始めると、仲介会社やFA(フィナンシャル・アドバイザー)から「法務DDのために資料をそろえてほしい」「デューデリジェンスを行う」と求められ、何を準備すればよいのか戸惑う経営者の方は少なくありません。
法務DD(法務デューデリジェンス)とは、対象会社にどのような法的リスクがあるかを調査し、買収の可否、買収価格、契約条件、取引実行後の対応方針を検討するための工程です。買主側(譲り受け側)が実施することが多い調査ですが、売主側(譲り渡し側)にとっても、自社の論点を事前に整理しておくことが、円滑な交渉と適正な評価につながります。
本記事では、淡路島(南あわじ市・洲本市・淡路市)や兵庫県、神戸周辺の中小企業のM&Aを念頭に、法務DDの目的、流れ、確認項目、問題が見つかった場合の影響、弁護士に相談すべきタイミングを整理します。なお、ここで述べる内容は一般的な整理であり、結論は対象会社の状況や契約内容によって変わります。実際の判断には資料の確認が必要であり、個別事情により結論は変わりますので、その前提でお読みください。
「基本合意の前に論点を整理しておきたい」「DD資料の開示を控えているが、何を説明できる状態にすべきか確認したい」といった段階でのご相談にも対応しています。資料を確認したうえで、検討の方向性を整理することができます。
Contents
■法務DDとは|結論として押さえる要点
はじめに、法務DDについて最初に押さえておきたい要点を整理します。
- 目的:法務DDは、取引実行の障害となる法的問題の有無、買収価格に影響する法的リスク、実行に必要な手続、買収後の経営に影響する問題点を確認するための調査です。
- 反映先:調査結果は、買収価格、表明保証、補償条項、クロージング(取引実行)の前提条件などに反映されます。
- 主な確認分野:会社の基礎・株式・株主、契約、許認可、労務、知的財産、不動産、訴訟・紛争、組織体制(機関運営)、決算手続などです。
- 問題が見つかっても直ちに破談とは限りません:価格調整や補償条項、是正措置などで対応できる場合があります。一方で、重大なリスクが取引中止につながることもあります。
- 売主側の準備:資料を隠すのではなく、説明可能な状態に整えることが重要です。
- 相談の時期:仲介・FA契約前、秘密保持契約前、基本合意前、DD資料の開示前など、早い段階での確認をおすすめします。
以下、それぞれを詳しく整理します。財務・税務面の評価は法務DDの対象外であり、公認会計士・税理士による財務DD・税務DDでの確認が必要です。
■法務DDとは何か
◆法務DDの定義
法務DD(法務デューデリジェンス)とは、M&Aにあたり、対象会社の法的なリスクを抽出・調査し、買収スキーム(取引手法)、買収価格、最終契約の内容、表明保証や補償条項、クロージング条件などの検討に役立てるための情報収集・調査をいいます。
調査で見つかった法的リスクのうち、金額に換算できるものは買収価格に反映し、または将来そのリスクが現実化した場合に売主が一定の負担をすることを契約で取り決める(表明保証・補償)などの対応を検討します。独占禁止法上の問題など、リスクが重大な場合には、取引そのものを見送る判断につながることもあります。
◆財務DD・税務DD・ビジネスDD・労務DDとの違い
DDには複数の種類があり、それぞれ担当する専門家と着眼点が異なります。
| 種類 | 主な担当 | 主な着眼点 |
|---|---|---|
| 法務DD | 弁護士 | 株式・契約・許認可・労務・紛争などの法的リスク |
| 財務DD | 公認会計士など | 財務状況、簿外債務、純資産・収益力の実態 |
| 税務DD | 税理士など | 過去の税務処理、追徴・否認のリスク |
| ビジネスDD | 買主・専門家 | 事業の将来性、市場、シナジー |
| 労務DD | 弁護士・社会保険労務士など | 労働時間、未払賃金、社会保険などの労務リスク |
各DDは重なり合う部分もあり、相互に連携して進められます。たとえば未払残業代は、法務DDで法的に評価しつつ、金額面は財務DDと連携して把握します。
◆中小企業のM&Aにおける位置づけ
中小企業庁「中小M&Aガイドライン(第3版)」(令和6年8月)でも、DDはM&Aの一連のプロセスの中に位置づけられています。もっとも、すべての案件で同じ深さの調査を行うわけではなく、案件の規模や買主の関心に応じて、調査範囲(スコープ)は調整されます。中小企業のM&Aでは、重点的に確認する項目を絞って実施することもあります。
■法務DDの目的
法務DDは、主に次の点を確認するために実施されます。
- 取引実行の障害の有無:対象会社に、M&Aの実行を妨げる法的な問題がないかを確認します。
- 価値評価への影響:買収価格に影響する法的リスク(簿外債務となりうる未払賃金、係争中の訴訟など)を把握します。
- 実行に必要な手続:株主総会や取締役会の決議、許認可の届出など、取引実行に必要な手続を確認します。
- 買収後への影響:取引実行後の事業運営や経営判断に影響する問題、買収後に改善すべき点(PMI=買収後の統合作業で対応する事項)を確認します。
調査結果は、最終契約における表明保証、補償条項、クロージング(取引実行)の前提条件などに反映され、価格や条件の交渉材料になります。
なお、取締役がM&Aの実行を判断するにあたっては、その前提となる事実を調査・検討したという観点から、法務DDの実施が経営判断の合理性を基礎づける要素の一つになると考えられています。もっとも、法務DDを実施したからといって、それだけで直ちに取締役の善管注意義務を果たしたことになるわけではありません。調査の範囲や深さ、結果を踏まえた判断の合理性などが、なお問われます。
売主側にとっても、法務DDを見据えて自社の論点を事前に整理しておくことには意味があります。後の交渉で指摘を受けてから慌てるのではなく、あらかじめ説明できる状態にしておくことで、評価や条件交渉を落ち着いて進めやすくなります。
■法務DDの流れ
◆公開情報の調査
まず、公開されている情報から初期的な検討を行うことが多くあります。対象会社が上場企業であれば有価証券報告書などから、沿革、事業内容、関係会社、株式・役員の状況などを把握できます。中小企業の場合は、登記情報(履歴事項全部証明書)などが出発点になります。
◆秘密保持契約・基本合意・スコープ設定
本格的な調査に入る前に、秘密保持契約(NDA)を締結し、基本合意(基本的な条件の確認)を行ったうえで、調査範囲(スコープ)を設定します。スコープは、予算やスケジュール、案件の規模、買主が関心を持つ経営資源(技術、人材、取引先、不動産など)に応じて決められます。
◆資料提供依頼・QA・データルーム
スコープに沿って、非公開の資料の提供を依頼します。依頼する資料や質問事項はQAシート(質問・資料依頼の一覧表)にまとめて対象会社へ提出するのが一般的です。提供された資料は、データルーム(資料を集約・閲覧する場所。近年は電子的なものが多い)で管理されます。あらかじめ対象会社が開示資料のパッケージを用意していることもあります。
◆マネジメント・インタビュー
書面だけでは分からない事情や、書類作成後の最新の状況を確認するため、経営陣などキーパーソンへの口頭でのインタビューが行われます。資料の裏付けを取るとともに、運用の実態を確認する重要な場面です。
◆中間報告・最終報告
調査がある程度進んだ段階で中間報告が行われ、重要なリスクが見つかった場合には、必要に応じて調査範囲を広げて追加調査を行います。最終的には、リスクの重要度に応じてメリハリを付けた最終報告がまとめられ、特に重要な指摘は冒頭の要約(エグゼクティブ・サマリー)に整理されます。単に問題点を指摘するだけでなく、対応策の提案まで行うことが重要です。これらの結果が、価格、契約条件、クロージング条件、PMIの検討に反映されます。
■法務DDのチェック項目一覧
法務DDで確認される主な項目を整理しました。案件によって重点は変わりますが、売主側が「事前に整理したいこと」もあわせて記載します。なお、項目ごとの詳しい扱いは対象会社の状況により異なります。
| 確認項目 | 主な確認資料 | 見られるポイント | 問題が見つかった場合の影響 | 売主側が事前に整理したいこと |
|---|---|---|---|---|
| 会社の基礎・登記・定款 | 登記事項証明書、定款 | 事業目的、機関設計、登記と実態の一致 | 手続のやり直し、実行手続の追加 | 最新の定款・登記内容の確認 |
| 株式・株主名簿 | 株主名簿、出資の記録 | 株主名簿と実態の一致、持株比率 | 株主の真正性への疑義、取得範囲の見直し | 株主名簿の整備状況の確認 |
| 株券・過去の株式譲渡 | 株券、譲渡承認の記録 | 株券発行会社か、過去の譲渡の経緯 | 権利関係の整理が必要となる場合がある | 過去の譲渡・相続の経緯の整理 |
| 株主総会・取締役会・議事録 | 議事録、招集の記録 | 開催の有無、決議手続、議事録の整備 | 決議の効力への疑義、是正手続 | 議事録の有無・内容の確認 |
| 社内規程 | 取締役会規則、各種規程 | 定款・法令との整合、運用との一致 | 運用の見直し、整備 | 主要規程の有無の確認 |
| 主要契約・COC条項 | 取引基本契約、賃貸借、ライセンス等 | 解除条項、地位譲渡の可否、承諾の要否 | 契約の継続性への影響、相手方の承諾取得 | 主要契約のCOC条項の確認 |
| 許認可・届出 | 許認可証、届出書類 | 必要な許認可、スキームでの承継可否 | 再取得・承継手続が必要となる場合がある | 事業に必要な許認可の一覧化 |
| 労務・労働時間・未払賃金 | 就業規則、賃金台帳、勤怠記録、労使協定 | 労働時間管理、割増賃金、固定残業代 | 未払賃金(簿外債務)、価格・補償への影響 | 勤怠・賃金の管理方法の確認 |
| 知的財産 | 登録情報、ライセンス契約 | 権利の帰属(会社か個人か)、侵害の有無 | 権利移転・ライセンスの手当て | 事業に必要な知財の帰属の確認 |
| 不動産 | 登記、賃貸借契約、担保関係資料 | 使用権原、担保・差押え、原状回復 | 使用継続への影響、費用負担 | 不動産の権利関係の確認 |
| 借入・担保・経営者保証 | 金銭消費貸借契約、保証関係資料 | コベナンツ(誓約条項)、経営者保証の有無 | 保証の取扱い、誓約条項への抵触 | 借入・保証の状況の整理 |
| 個人情報・営業秘密 | 規程、管理体制の資料 | 個人情報の管理、営業秘密の管理状況 | 管理体制の是正 | 管理規程・運用の確認 |
| 訴訟・紛争・クレーム | 訴訟資料、クレーム記録 | 係争の有無・内容、将来の紛争リスク | 賠償リスク、表明保証・補償での分担 | 係争・クレームの一覧化 |
| 反社・コンプライアンス | 取引先確認資料、是正記録 | 反社会的勢力との関係、行政指導の履歴 | 取引中止に至る場合がある | 過去の行政対応の整理 |
| 決算・計算書類・決算公告 | 計算書類、公告の記録 | 決算手続、公告の実施、配当の適法性 | 是正・追加対応 | 決算・公告・配当の確認 |
| 関連当事者取引・利益相反取引 | 取引記録、承認の記録 | 取締役の利益相反取引の承認の有無 | 取引の効力・是正 | 役員・関係者との取引の整理 |
■株式・株主で問題になりやすい点
◆株主の真正性
株式譲渡によってM&Aを行う場合、現在の株主とされている方が、適法かつ有効に株式を保有しており、買主がその方から有効に株式を譲り受けられるかが、極めて重要な論点になります。株主名簿の記載と実態が一致しているか、過去の譲渡・相続・譲渡承認の手続に問題がないかを確認します。
◆株券発行会社と令和6年最高裁判決
定款で「株券を発行する」と定めている会社(株券発行会社)では、株式の譲渡の効力について注意が必要です。平成18年施行の会社法の経過措置により、実際には株券を発行していないのに「株券発行会社」と登記されたままの中小企業が、現在も多く存在します。
この点について、近時、重要な最高裁判決が出ています(最高裁第二小法廷令和6年4月19日判決)。同判決は、おおむね次のように判断したと理解されています。
- 会社法第128条第1項(株券を交付しなければ株式譲渡の効力を生じない)は、株券の発行後にした譲渡に適用される規定であると解するのが相当である。
- したがって、株券の発行前にした株券発行会社の株式の譲渡は、譲渡の当事者の間では、株券の交付がないことをもって効力が否定されることはない(=当事者間では有効)。
- もっとも、会社法第128条第2項により、株券発行前の譲渡は会社(株券発行会社)に対しては効力を生じない。
- 株式の譲受人は、譲渡人に対する株券交付請求権を保全する必要があるときは、譲渡人が会社に対して有する株券発行請求権を、債権者代位(民法第423条第1項)により行使し、自己への直接の株券交付を求めることができる。
このように、「株券が交付されていない譲渡はすべて無効」と一律に整理できるわけではなく、株券発行の前か後かによって扱いが異なります。一度も株券が発行されていない場合の過去の譲渡は、当事者間では有効と評価され得る一方、会社に対する関係や株主としての権利行使には、なお手当てが必要です。
実務上は、こうしたリスクへの対応として、過去の譲渡について株券の交付をやり直す方法、組織再編(会社分割など)を用いる方法、最終契約上の表明保証・特別補償でリスクを売主・買主間で分担する方法などが検討されます。ただし、どの方法が適切かは事案により異なり、過去の譲渡当事者の協力が必要になるなど、慎重な検討を要します。なお、本判決の射程や個別事案へのあてはめは専門的な判断を要しますので、株券発行会社が関係する場合は早めに弁護士へご相談ください。
◆少数株主とスクイーズアウト
買主は、対象会社の発行済株式の100%の取得を希望することが多く、少数株主がいる場合には、その株式を買い集める必要が生じることがあります。中小企業のM&Aでは、株主の事情をよく知る経営株主に買取交渉を委ね、全株式の取得をクロージングの前提条件とする、といった対応をとることがあります。
買い集めの際、株主ごとに譲渡対価に大きな差があると、税務上の問題(寄附金の認定など)が生じるおそれがあります。この点は税理士による確認が必要です。
一部の少数株主から任意に取得できない場合に備えて、クロージング後に残りの株式を取得(キャッシュアウト)できるよう、一定割合以上の株式・議決権の取得を目指すことがあります。具体的には、特別支配株主の株式等売渡請求(会社法第179条)や、株式併合を用いる方法(会社法第180条第2項、第309条第2項)などが検討されます。これらの制度には、議決権割合などの要件や所定の手続があり、要件・手続は会社法の規定に従って確認する必要があります。利用の可否は事案により異なります。
◆名義株・相続未了株式
平成2年の商法改正前は、会社の設立に発起人が7名以上必要だったため、第三者(名義株主)から名義を借りて発起人とし、実際の出資は創業者などが行う、という扱いがされることがありました。判例上は、実際に出資した者(名義借用者)が真正の株主になると考えられていますが、古い会社では、実質的な株主を裏付ける客観的な資料が残っていないことも少なくありません。名義株主から権利を主張された場合に備え、名義書換えへの同意書を取得するなどの対応が検討されます。
また、過去の株主が亡くなり、相続手続が未了のまま株式が放置されているケース(相続未了株式)もあります。誰が現在の株主かを確定する作業が必要になることがあります。
■労務コンプライアンスで問題になりやすい点
◆労働時間管理と未払賃金
労働関連法規は複雑かつ多岐にわたり、中小企業では労務コンプライアンス上の問題が見つかりやすい分野です。使用者には、労働者の労働時間を適正に把握する責務があります。厚生労働省「労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関するガイドライン」では、始業・終業時刻の確認・記録について、使用者自身による現認、またはタイムカード・ICカード・パソコンの使用記録などの客観的な記録を基礎とすることが原則とされています。
自己申告制は例外的な方法と位置づけられ、採用する場合には、労働者・管理者への十分な説明、客観的な記録との著しい乖離がある場合の実態調査と補正、適正な申告を妨げる措置を設けないことなど、所定の措置を講じる必要があります。これらが不十分な場合、是正勧告や指導を受けるリスクがあります。
労働時間の管理方法を確認したうえで、いわゆるサービス残業の有無、割増賃金の算定基礎から除外している賃金(除外賃金)が適切か、管理監督者の範囲が妥当か、などを確認し、未払賃金(未払残業代)が生じていないかを検討します。未払残業代は、決算書に現れにくい簿外債務として、買収価格や補償条項に影響する典型的な論点です。
◆固定残業代
固定残業代制度とは、時間外手当(残業代)に代えて、一定額の手当を支払う制度です。固定残業代の有効性をめぐっては、裁判例上、いくつかの点が問題になります。具体的には、通常の労働時間に対する賃金部分と、割増賃金にあたる部分とが明確に区別されているか(判別できるか)、その手当が時間外労働の対価として支払われているといえるか、固定された残業時間を超える時間外労働があった場合に差額が別途支払われる仕組みになっているか、などです。
これらの点に不備があると、固定残業代が割増賃金の支払として認められず、結果として未払残業代が生じていると評価されることがあります。固定残業代の有効性は裁判例の蓄積がある専門的な論点であり、評価は個別の制度設計や運用実態によって変わりますので、賃金規程や雇用契約書の確認が重要です。
◆就業規則・労使協定・退職金・社会保険
このほか、就業規則・賃金規程の整備状況、時間外労働に関する労使協定(いわゆる36協定)の締結・届出、退職金制度の内容と引当の状況、社会保険の適正な加入なども確認されます。これらの不備は、是正の手間やコスト、場合によっては追加負担につながり、価格・条件交渉に影響することがあります。
■組織体制・機関運営で問題になりやすい点
◆株主総会・取締役会の運営
会社法に沿った機関運営も、中小企業で問題が見つかりやすい分野です。実際には株主総会や取締役会を開催せず、書類だけを整えている、あるいは書類自体も残っていない、というケースがあります。決議が必要な事項について適正な手続が踏まれているかを確認します。
◆議事録・書面決議
株主総会・取締役会の議事録が作成・保存されているか、その内容が法令の要件を満たしているかを確認します。書面決議(実際に会議を開かずに書面等で決議する方法)を用いている場合は、その要件を満たしているかも確認の対象です。議事録の不備は、過去の重要な意思決定の効力をめぐる疑義につながることがあります。
◆利益相反取引
取締役が自己または第三者のために会社と取引をする場合(利益相反取引。会社法第356条第1項)には、株主総会または取締役会の承認などの手続が必要です(取締役会設置会社では会社法第365条)。中小企業では、代表者と会社との間の取引などについて、必要な承認手続が踏まれていないことがあり、確認の対象になります。
◆決算公告・違法配当
計算書類(決算書)が適正に作成・承認されているか、株式会社に求められる決算公告(会社法第440条)が行われているか、剰余金の配当が分配可能額の範囲内で行われているか(分配可能額を超える配当は違法配当となり得ます。会社法第461条等)なども確認されます。これらは是正対応や追加手続が必要になる場合があります。
■契約・許認可・知財・不動産・紛争の確認
◆主要契約とCOC条項
取引基本契約、業務委託契約、賃貸借契約、ライセンス契約など、事業の継続に重要な契約を確認します。特に注意が必要なのが、チェンジ・オブ・コントロール条項(COC条項。株主の変更などを理由に相手方が契約を解除したり、相手方の承諾が必要になったりする条項)です。M&Aによって主要な契約が解除・終了するおそれがないか、相手方の承諾を取得する必要がないかを検討します。
◆許認可の承継
事業に必要な許認可については、選択するスキームによって扱いが変わります。一般に、株式譲渡では会社(法人)そのものは変わらないため、許認可は原則として会社に残ります。これに対し、事業譲渡や会社分割などでは、許認可を改めて取得し直したり、承継の手続をとったりする必要が生じる場合があります。どの許認可がどう扱われるかは、根拠となる法令や許認可の種類によって異なるため、個別の確認が必要です。重要な許認可については、取引実行後も維持できることをクロージングの条件とすることもあります。
◆知的財産・不動産
知的財産(特許・商標・著作権など)については、事業に必要な権利が会社に帰属しているか(創業者個人の名義になっていないか)、ライセンスの条件、第三者の権利を侵害していないかを確認します。不動産については、所有・賃貸借・担保・差押えの状況、原状回復義務、借地借家法の適用の有無などを確認します。
◆訴訟・紛争・クレーム
係争中の訴訟の有無・内容や、想定される賠償額のほか、まだ訴訟には至っていないものの将来紛争に発展しうるクレーム、行政指導、取引先とのトラブルなども、できるだけ網羅的に把握します。これらは、賠償リスクとして価格・補償に影響し得ます。
■DDで問題が見つかった場合の対応
法務DDで問題(リスク)が見つかった場合、その内容や重要度に応じて、次のような対応が検討されます。いずれも個別の契約交渉により内容が大きく異なりますので、一律の正解があるわけではありません。
- 価格調整:金額に換算できるリスクを買収価格に反映する。
- 表明保証:売主が一定の事実(例:未払賃金がないこと)を表明し、保証する。
- 補償条項:表明保証に違反があった場合などに、売主が損害を補償する。
- クロージングの前提条件:一定の手続の完了や許認可の維持などを、取引実行の条件とする。
- 誓約事項(コベナンツ):取引実行までに是正措置を行うことなどを取り決める。
- 取引中止:リスクが重大で対応が難しい場合、取引を見送る。
- 買収後の改善(PMI):取引実行後に、是正・整備を進める。
重要なのは、問題が見つかったこと自体が直ちに破談を意味するわけではないという点です。多くのケースでは、リスクを把握したうえで、価格や契約条件、是正措置によって対応の方向性を探ることになります。
■売主側が事前に準備したいこと
売主側(譲り渡し側)が事前にできる準備として、次のような点が挙げられます。
- 資料を「説明可能な状態」に整える:問題点を隠すのではなく、経緯や対応を説明できるように整理しておくことが、結果的に円滑な交渉につながります。
- 不足資料の洗い出し:議事録、契約書、株主名簿など、DDで求められやすい資料の有無を確認し、不足分を把握しておきます。
- 論点の一覧化:株券・名義株、未払賃金、許認可、係争などについて、自社で気になる点を事前に整理しておきます。
- 開示範囲とNDA:どの情報をどの段階で開示するか、秘密保持契約(NDA)の内容を確認します。
売り手側が法務DD・財務DDに向けて具体的にそろえる資料については、別の記事で整理しています。あわせてご確認ください。
■弁護士に相談するタイミング
弁護士への相談は、問題が起きてからよりも、早い段階のほうが、検討できる選択肢が広がりやすくなります。次のような場面が、相談を検討する目安です。
- M&Aを検討し始めた初期の段階
- 仲介契約・FA契約を結ぶ前(契約内容・手数料の確認)
- 秘密保持契約(NDA)を結ぶ前
- 基本合意を結ぶ前
- DD資料を開示する前(売主側)
- DDで指摘を受けたとき
- 最終契約を結ぶ前
- クロージング(取引実行)の前
弁護士に相談することで、結果が保証されるわけではありませんが、資料を確認したうえで、法的リスクや契約条件を整理し、検討の方向性を考える材料を得ることができます。
■よくある質問(FAQ)
法務DDとは何ですか。
M&Aにあたり、対象会社の法的なリスクを調査し、買収の可否や価格、契約条件、取引実行後の対応を検討するための工程です。株式・契約・許認可・労務・紛争・組織体制などが調査の対象になります。
法務DDと財務DDは何が違いますか。
法務DDは主に弁護士が法的リスクを調査します。財務DDは主に公認会計士などが財務状況や簿外債務などを調査します。着眼点と担当者が異なり、相互に連携して進められます。
中小企業のM&Aでも法務DDは必要ですか。
案件の規模や買主の関心に応じて、調査範囲を絞って行うことはありますが、株式や契約、労務などのリスク確認は中小企業のM&Aでも重要です。必要な範囲は事案により異なります。
法務DDではどのような資料を見られますか。
登記事項証明書、定款、株主名簿、議事録、主要な契約書、就業規則・賃金台帳・勤怠記録、許認可関係資料、訴訟関係資料などが対象になります。案件によって必要な資料は変わります。
株主名簿や名義株に不備があるとM&Aはできませんか。
不備があるからといって、直ちにM&Aができなくなるわけではありません。権利関係を整理する方法や、契約での手当て(表明保証・補償など)が検討されます。適切な対応は事案により異なるため、資料の確認が必要です。
未払残業代があると買収は中止になりますか。
未払残業代は簿外債務として価格や補償条項に影響し得ますが、それだけで中止になるとは限りません。金額や範囲を把握したうえで、価格調整や補償などで対応を検討するのが一般的です。
DDで問題が見つかった場合、必ず破談になりますか。
必ず破談になるわけではありません。多くのケースでは、リスクを把握したうえで、価格・契約条件・是正措置によって対応の方向性を検討します。重大なリスクの場合に取引中止となることもあります。
弁護士にはいつ相談すべきですか。
M&Aの検討初期、仲介・FA契約前、秘密保持契約前、基本合意前、DD資料の開示前など、早い段階での相談をおすすめします。早いほど、検討できる選択肢が広がりやすくなります。
■まとめ
- 法務DDは、対象会社の法的リスクを調査し、価格・契約条件・取引実行の可否や、買収後の対応を検討するための工程です。
- 株式・株主、契約・許認可、労務、組織体制、決算手続など、確認項目は多岐にわたります。
- 株券発行会社の過去の株式譲渡は、令和6年4月19日最高裁判決を踏まえ、株券発行の前か後かで扱いが異なります。一律に無効とは整理できません。
- 未払残業代や議事録不備などは中小企業で見つかりやすい論点ですが、見つかったこと自体が直ちに破談を意味するわけではありません。
- 法務DDは、問題を探して責めるためではなく、リスクを把握して取引条件や対応方針を検討するための工程です。
- 売主側は、資料を「説明可能な状態」に整えておくことが重要です。早い段階で、資料を確認したうえでの相談を検討してください。
本記事の内容は一般的な整理であり、個別の事案における結論は、対象会社の状況や契約内容によって変わります。実際の対応にあたっては、資料を確認したうえでの個別の検討が必要です。
淡路島(南あわじ市・洲本市・淡路市)や兵庫県、神戸周辺で、事業承継・会社売却・会社買収をご検討の経営者の方へ。基本合意の前、DD資料の開示前、最終契約の前など、節目の前に一度ご相談ください。資料を確認したうえで、法的リスクや契約条件を整理し、検討の方向性をご一緒に考えます。
監修・執筆
【要確認:事務所正式名称】弁護士法人ひょうごあわじみらい法律会計事務所(兵庫県南あわじ市)/神戸みらい法律会計事務所(神戸市須磨区)
弁護士 藤井 貴之【要確認:肩書・資格表記(弁護士/公認会計士の併記の可否)】
所属弁護士会:【要確認:兵庫県弁護士会】
取扱分野:企業法務、M&A、事業承継、相続、交通事故ほか
参考資料(公的機関・公式資料)
- 中小企業庁「中小M&Aガイドライン(第3版)」(令和6年8月)
- e-Gov法令検索「会社法」
- e-Gov法令検索「労働基準法」
- 厚生労働省「労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関するガイドライン」
- 個人情報保護委員会「個人情報の保護に関する法律についてのガイドライン」
- 裁判所「最高裁判所第二小法廷令和6年4月19日判決」(株券発行会社の株式譲渡に関する判例)
- 法務局「商業・法人登記」関連情報

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