賃貸人からの解約申入れと正当事由|6か月通知だけでは足りない理由 |淡路島(淡路・洲本・南あわじ)の弁護士|初回相談無料|弁護士法人ひょうご あわじみらい法律会計事務所

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賃貸人からの解約申入れと正当事由|6か月通知だけでは足りない理由

アパートや店舗、事務所、倉庫などを貸している賃貸人(貸主)の方から、「契約書に貸主から解約できる条項がある」「借主に6か月前に通知すれば出て行ってもらえるはずだ」というご相談をいただくことがあります。しかし、居住用・事業用を問わず一般的に用いられている普通建物賃貸借では、賃貸人(貸主)から契約を終了させるために、借地借家法上の「正当の事由」(一般に正当事由と呼ばれます)が必要とされ、単に6か月の期間が経過しただけでは契約は終了しません。

しかも、賃貸借にはいくつかの種類があり、契約の種類によって適用される規律が異なります。普通建物賃貸借と定期建物賃貸借では手続が違い、さらに、賃料の不払や契約違反を理由に契約を終了させる場合は、正当事由とは別の法的な構成(債務不履行解除など)が問題になります。これらを混同したまま通知を送ってしまうと、かえって解決が遅れることがあります。

この記事では、賃貸人(貸主)が借主(賃借人)に退去・建物の明渡しを求めたい場合を中心に、契約類型ごとの違い、解約申入れと更新拒絶の区別、通知の期間、正当事由の判断要素、立退料の考え方、通知から明渡しまでの流れ、避けるべき対応、通知前に確認すべき資料、弁護士に相談するタイミングを、借地借家法などの条文にもとづいて整理します。なお、本文の記載は2026年7月時点の法令をもとにしています。個別の事案では結論が変わりますので、通知や交渉を始める前に、まず契約書と関係資料を確認することをおすすめします。

「契約書の解約条項をそのまま使ってよいか」「まず何を準備すればよいか」を確認したい方へ。通知を送る前に、賃貸借契約書・更新の状況・通知の予定時期・貸主が建物を必要とする事情・建物の現況に関する資料を整理しておくと、方針を検討しやすくなります。

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結論:賃貸人からの解約申入れは、6か月前の通知だけでは足りません

先に要点を整理します(普通建物賃貸借を前提とした一般的な整理です。個別事情により結論は異なります)。

  • 普通建物賃貸借では、賃貸人(貸主)からの更新拒絶解約申入れ正当事由が必要です(借地借家法第28条)。契約書に貸主側の解約条項があっても、それだけで当然に終了するわけではありません。
  • 「6か月」という期間は、あくまで期間の定めのない契約で解約申入れをした後に契約が終了するまでの期間などを指します(第27条)。6か月が経過すれば必ず終了する、という意味ではありません。
  • 正当事由は、貸主・借主それぞれが建物の使用を必要とする事情を中心に、従前の経過、利用状況、建物の現況、立退料(財産上の給付)の申出などを総合的に考慮して判断されます。一つの事情だけで結論が決まるものではありません。
  • 定期建物賃貸借や、賃料不払・用法違反を理由とする解除は、これとは別の規律によります。まず自分の契約がどの類型かを確認することが出発点です。
  • 鍵の交換、荷物の撤去、電気・ガス・水道の停止といった実力行使(自力救済)は、原則として認められません。トラブルや責任問題に発展するおそれがあります。

まず「契約の種類」を確認する

賃貸人(貸主)が借主に退去を求めたいとき、最初に確認すべきなのは「その契約がどの種類か」です。種類によって、必要な手続も、正当事由が必要かどうかも変わります。まずは全体像を整理します。

契約・終了の類型 貸主から終了させる主な方法 正当事由の要否 主な根拠
普通建物賃貸借(期間の定めあり) 期間満了時の更新拒絶(更新をしない旨の通知) 必要 借地借家法第26条・第28条
普通建物賃貸借(期間の定めなし) 解約の申入れ 必要 借地借家法第27条・第28条
法定更新後の普通建物賃貸借 解約の申入れ(更新後は期間の定めのない契約となります) 必要 借地借家法第26条・第27条・第28条
定期建物賃貸借 期間満了による終了(更新がありません。期間1年以上なら終了通知が必要) 不要(ただし成立要件を満たしていることが前提) 借地借家法第38条
賃料不払・用法違反などの契約違反 債務不履行を理由とする契約解除 正当事由の問題ではありません(別の判断枠組み) 民法・信頼関係破壊の法理
当事者の合意による終了 合意解約(明渡条件を合意して終了) 合意によるため不要 当事者間の合意

このように、「解約申入れ」「更新拒絶」「(債務不履行)解除」「合意解約」は、いずれも契約を終了させる方法ですが、根拠も要件も異なります。本記事は、このうち貸主都合による普通建物賃貸借の更新拒絶・解約申入れ(正当事由が問題になる場面)を中心に解説します。賃料の滞納を理由とする明渡しや、用法違反・無断転貸を理由とする解除については、別の記事で扱っています(後述の内部リンクをご覧ください)。

「解約申入れ」と「更新拒絶」はどう違いますか

普通建物賃貸借で貸主から契約を終了させる方法は、契約に期間の定めがあるかで分かれます。ここが「6か月前に通知すればよい」という誤解が生じやすいところです。

期間の定めがある場合:更新拒絶(借地借家法第26条)

期間の定めがある普通建物賃貸借では、当事者が期間満了の1年前から6か月前までの間に、相手方に対して「更新をしない旨の通知」または「条件を変更しなければ更新をしない旨の通知」をしなかったときは、従前の契約と同一の条件で契約を更新したものとみなされます(第26条第1項本文)。ただし、更新後の期間は「定めがないもの」となります(同項ただし書)。

そして、賃貸人(貸主)がこの更新拒絶の通知をするには、正当事由が必要です(第28条)。つまり、期間満了が近いからといって、貸主が理由を問わず更新を拒めるわけではありません。

さらに注意が必要なのは、正当事由を備えた通知をしていた場合であっても、期間満了後に借主が使用を継続しているのに、貸主が遅滞なく異議を述べなかったときは、やはり契約を更新したものとみなされる点です(第26条第2項)。通知をして終わりではなく、期間満了後の借主の使用継続に対して、遅滞なく異議を述べる対応が必要になります。

期間の定めがない場合:解約申入れ(借地借家法第27条)

期間の定めがない普通建物賃貸借では、賃貸人(貸主)が解約の申入れをした場合、その申入れの日から6か月を経過することによって契約が終了します(第27条第1項)。この解約申入れにも、正当事由が必要です(第28条)。

この場合も、解約申入れによって契約が終了した後に借主が使用を継続しているときは、貸主が遅滞なく異議を述べなければ、契約が継続していることになり得ます(第27条第2項が第26条第2項を準用)。「6か月が過ぎたら自動的に出て行ってもらえる」という理解は正確ではありません。

なお、解約申入れは相手方に対する意思表示であり、その効力は原則として通知が相手方に到達した時に生じます(民法第97条第1項)。いつ到達したかが後日の争点になり得るため、通知の到達を証明できるようにしておくことが重要です。

法定更新後の契約はどうなりますか

更新拒絶をしなかったなどの理由で契約が法定更新された場合、更新後は期間の定めのない契約になります(第26条第1項ただし書)。したがって、その後に貸主から終了させるには、期間の定めのない契約としての解約申入れ(第27条)+正当事由(第28条)が問題になります。

契約書に短い解約予告期間の特約があるとき

「貸主はいつでも○か月前の予告で解約できる」といった特約が契約書にある場合でも、借地借家法の規定に反して借主に不利な特約は無効とされています(第30条。第26条から第28条までは、この強行規定の対象です)。そのため、契約書の解約条項があっても、正当事由の要件を免れることは基本的にできません。契約書の文言だけを見て「解約できる」と判断せず、条文に照らした確認が必要です。

ここまでのポイント:普通建物賃貸借では、期間の定めがあれば「更新拒絶」(第26条)、期間の定めがなければ「解約申入れ」(第27条)という形で終了を求めますが、いずれも正当事由(第28条)が必要です。「6か月」は、期間の定めのない契約で解約申入れから終了までに必要な期間などを指すものであり、6か月の経過だけで当然に終了するわけではありません。

正当事由(正当の事由)とは何か

借地借家法第28条は、賃貸人(貸主)による更新拒絶の通知や解約申入れは、次の事情を考慮して「正当の事由」があると認められる場合でなければすることができない、と定めています。条文上の「正当の事由」を、一般に正当事由と呼びます。

考慮される主な要素は、次のとおりです。これらを総合的に考慮して判断される点が重要で、どれか一つがあれば(または欠ければ)結論が決まる、というものではありません。

考慮要素(第28条) 問題となる事実の例 貸主側で確認・準備する資料の例 留意点
賃貸人(貸主)が建物の使用を必要とする事情 貸主や家族の居住・営業の必要、建替えや土地活用の必要など 使用計画を裏付ける資料、建替計画・設計図・見積書、事業計画など 抽象的な希望では足りず、必要性の具体性・切実さが問われます
賃借人(借主。転借人を含む)が建物の使用を必要とする事情 借主の居住・営業の実態、移転の難易、生活・営業への影響など 借主の利用状況が分かる資料、転借人の有無が分かる資料 借主側の必要性が高いほど、貸主側により強い事情が求められる傾向があります
建物の賃貸借に関する従前の経過 契約期間・更新の経緯、賃料の水準や改定の経過、権利金・立退きに関するやり取りなど 契約書、更新契約書・更新通知、賃料の入金履歴、これまでの通知・交渉の記録 これまでの経緯が有利にも不利にも評価され得ます
建物の利用状況 実際にどのように使われているか、空室・未使用の有無など 現地の写真、利用状況が分かる資料 利用実態と契約内容の食い違いがないかを確認します
建物の現況 老朽化の程度、耐震性、安全性、修繕の要否など 建物登記事項証明書、図面・写真、修繕履歴、建物調査報告書、耐震診断書 老朽化・耐震性は考慮要素の一つですが、それだけで結論が決まるものではありません
財産上の給付(立退料)の申出 明渡しの条件として、または明渡しと引換えに支払う金銭などの申出 立退料の提示内容・提示履歴、移転費用・賃料差額などの試算資料 立退料の申出は正当事由を補う一要素ですが、支払えば必ず認められるわけではありません

実務では、まず「貸主側の使用の必要性」と「借主側の使用の必要性」を比較し、これに従前の経過・利用状況・現況を加えて評価し、なお正当事由として十分でない部分を、立退料の申出によって補えるかを検討する、という流れで考えられることが多いといえます。もっとも、どの事情がどの程度重視されるかは事案ごとに異なり、裁判所の判断を事前に確実に見通すことは容易ではありません。だからこそ、通知の前に、どの事情を主張し、どの資料で裏付けるかを整理しておくことが重要になります。

正当事由が問題になりやすいケース

貸主から退去を求める理由はさまざまですが、理由の種類によって正当事由の評価は変わります。ここでは、相談で多く問題になる場面を整理します。いずれも、その事情だけで正当事由が当然に認められる(または否定される)というものではなく、前記の各要素を総合して判断される点にご留意ください。

貸主や家族が自ら使用したい(自己使用)

貸主や家族が居住・営業のために使いたいという事情は、正当事由の中心的な考慮要素である「貸主が建物の使用を必要とする事情」にあたり得ます。もっとも、使用の必要性が具体的で切実であるか、他に代替手段がないか、借主側の必要性と比べてどうか、といった点が問われます。単に「自分の物件を自由に使いたい」という一般的な希望にとどまる場合は、正当事由として十分と評価されないことがあります。

建替え・取壊し・大規模修繕をしたい/老朽化・耐震性に問題がある

建物の老朽化や耐震性への懸念、建替えの必要性は、正当事由を基礎づけ得る事情です。ただし、これらの事情がある場合でも、「老朽化していれば必ず退去させられる」「耐震性に問題があれば当然に明渡しが認められる」といった単純な結論にはなりません。建物の危険性の程度、修繕・補強で対応できないか、建替えの必要性や計画の具体性、借主側の事情、立退料による調整の可否などを総合して判断されます。建替えを理由とする場合は、計画の具体性(設計・資金・工程など)を資料で示せるかが重要になります。

近時の裁判例の傾向(法務省の調査研究報告書)

法務省は、建物賃貸借の更新拒絶・解約申入れの要件(正当事由)に関する近時の裁判例を分析した「借地借家法の更新拒絶等要件に関する調査研究報告書」(令和7年3月公表)を公表しています。この報告書は、令和元年から令和6年にかけての裁判例のうち、正当事由の判断がされたと考えられる約130件あまりを分析したものです。そこでは、賃貸人側の事情として建替えの必要性が争われた事案が多く、老朽化を理由とする事案では正当事由が認められたものが一定の割合を占める一方、耐震性能なども重要な考慮要素の一つとされている、といった傾向が示されています。

数値の読み方には注意が必要です。この報告書が分析したのは、訴訟になり、裁判所が正当事由を判断した事案です。示談・和解で解決した事案や、そもそも訴訟に至らなかった事案は含まれていません。したがって、そこに現れる割合は、立退き交渉の全体を代表するものではなく、「老朽化があれば何%の確率で退去させられる」といった意味の数字でもありません。報告書自身も、耐震性能の不足のみ、老朽化のみ、あるいは土地の有効活用の観点のみによって正当事由が認められるわけではなく、諸事情を総合して判断されるとしています。また、立退料についても、目安や算定基準を一律に示すことにはなじまないとされています。老朽化・耐震性・建替えの必要性は、あくまで総合考慮の一要素として評価される、という理解が正確です。

建物や土地を売却したい/賃料が相場より低い/土地を有効活用したい

「売却したい」「賃料が周辺相場より低い」「土地をもっと有効に活用したい」といった事情は、貸主にとって切実であることも多いのですが、これらの経済的な事情だけで当然に正当事由が認められるわけではありません。借主側の使用の必要性との比較や、立退料による調整の余地などを含めて総合的に判断されます。これらを理由に退去を求める場合は、事情の具体化と資料の準備が特に重要です。

事業用の店舗・事務所・工場・倉庫の明渡しを求めたい

事業用物件では、借主の営業の継続性や、移転に伴う営業上の損失、顧客・立地との結び付きなどが「借主が建物の使用を必要とする事情」として考慮され得ます。住居の場合とは考慮される事情が異なり、立退料の検討においても営業補償的な要素が問題になり得ます。事業用物件の立退きは、居住用とは別の視点での検討が必要です。

借主に賃料不払・無断転貸・用法違反がある

借主に賃料の滞納や、無断転貸・用法違反といった契約違反がある場合、これらは正当事由を補強する事情として考慮され得ますが、それにとどまりません。賃料不払や契約違反は、正当事由とは別に、債務不履行を理由とする契約解除(信頼関係破壊の法理)という枠組みで契約を終了できないかが問題になります。むしろ、こうした事案では、正当事由・立退料を検討するよりも、債務不履行解除の可否を先に検討すべき場合があります。詳しくは、次の記事をご覧ください。

契約書がない/中途解約条項がある/借主が受領・退去を拒否している

書面の契約書がない場合でも賃貸借契約は成立し得ますが、契約内容(期間・賃料・更新の合意など)の立証が問題になります。契約書に貸主側の中途解約条項がある場合も、前述のとおり借主に不利な特約は無効になり得ます(第30条)。借主が通知の受領や退去を拒否している場合は、通知の到達の証明や、交渉・法的手続の選択が課題になります。いずれも、事情に応じた対応の検討が必要です。

正当事由や立退料の「検討材料」を整理したい方へ。建替計画・耐震診断・修繕履歴・借主との交渉履歴・立退料の提示案などがある場合は、それらをもとに、主張できる事情と不足している資料を整理することができます。

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立退料の考え方

立退料は、賃貸人(貸主)が明渡しを求める際に支払うことを申し出る金銭などを指す言葉として使われています。借地借家法第28条は、これを「(建物の明渡しの条件として又は明渡しと引換えに)財産上の給付をする旨の申出」として、正当事由の考慮要素の一つに位置づけています。立退料について、実務上おさえておきたい点は次のとおりです。

  • 立退料は、正当事由を判断するための一要素です。立退料を申し出れば必ず正当事由が認められる、というものではありません。貸主側の使用の必要性など他の事情があまりに乏しい場合には、立退料を積んでも正当事由が認められないことがあります。
  • 立退料は、常に法律上当然に発生する支払義務ではありません。事案によっては、立退料の支払なしに正当事由が認められることもあれば、逆に相当額の申出がなければ認められにくいこともあります。
  • 金額を一律に決める法定の計算式はありません。「家賃の○か月分」「通常は○万円」といった固定的な相場があるかのような説明には注意が必要です。
  • 住居用と事業用で、考慮される事情が異なり得ます。移転費用、移転先を確保する費用、従前との賃料差額、事業用物件であれば営業上の影響などが問題になり得ます。
  • 裁判例で示された金額を、そのまま一般的な相場として使うことはできません。金額は、建物の状況、双方の必要性、地域、契約の経過などの個別事情によって大きく変わります。

したがって、立退料の見込みは、契約書・建物の資料・双方の事情を確認したうえで、事案ごとに検討する必要があります。金額の提示は、正当事由に関する主張・資料と一体で検討することが望ましく、提示のしかたや時期によって交渉・裁判上の評価が変わることもあります。

通知から明渡しまでの流れ

貸主都合で明渡しを求める場合の一般的な流れは、次のとおりです。すべての手続が常に必要なわけではなく、事案によって選択する手続は変わります。

段階 主な内容
1 事前確認 賃貸借契約書・更新の状況を確認し、契約類型(普通・定期、期間の定めの有無など)を判定する
2 事実・資料の整理 正当事由を基礎づける事情と、それを裏付ける資料を整理する。通知の時期・内容・立退料の申出を検討する
3 通知 更新拒絶の通知(第26条)または解約申入れ(第27条)を行う。到達を証明できる方法を検討する
4 交渉 明渡しの時期・条件・立退料などについて借主と交渉する
5 合意 条件が整えば、明渡しに関する合意書を取り交わす
6 法的手続(必要な場合) 民事調停、訴え提起前の和解、建物明渡請求訴訟などを検討する
7 判決・和解 判決または裁判上の和解により、明渡しの内容が確定する
8 明渡し・強制執行(必要な場合) 任意に明け渡されない場合には、強制執行を検討する

通知の方法と内容

更新拒絶や解約申入れの通知について、法律上、特定の書式が定められているわけではありません。もっとも、いつ・どのような内容の通知を・誰に対してしたのか、そしてそれがいつ相手方に到達したのかが後日の争点になり得るため、実務では内容証明郵便(配達証明付き)を利用して証拠化することが多くあります。内容証明郵便が法律上常に必須というわけではありませんが、通知の内容と到達を証明する手段として有用です。

通知には、契約を終了させる意思、対象物件、契約終了(明渡し)を求める時期、必要に応じて立退料の申出などを、事案に応じて記載します。通知の時点で正当事由を裏付ける資料を準備しておくことにも意味があります。なお、通知を出した後になって事情や立退料の申出を追加する場合、その追加が正当事由の判断にどのように評価されるかは、事案により異なります。

合意ができた場合(合意書の確認事項)

交渉により明渡しの合意ができた場合は、後日の紛争を防ぐため、合意書で条件を明確にしておくことが重要です。確認しておきたい主な項目は、明渡日、立退料の額・支払時期・支払方法、敷金・保証金の清算、原状回復の範囲、残置物の取扱い、鍵の返還、清算条項(相互に債権債務がないことの確認)などです。

賃貸人が行ってはいけない対応(自力救済の禁止)

借主が退去に応じないと、貸主として強い対応を取りたくなることがあります。しかし、裁判所の手続を経ずに、実力で借主の占有を排除する行為(自力救済)は、原則として認められていません。次のような対応は、避けてください。

  • 鍵を交換して借主が室内に入れないようにする
  • 電気・ガス・水道などのライフラインを止める
  • 借主の荷物を勝手に運び出す、処分する
  • 借主の承諾なく室内に立ち入る
  • 執拗な訪問や、威圧的・強迫的な退去要求をする
  • 裁判所の手続を経ずに、実力で占有を排除する

これらの行為は、状況によっては損害賠償責任や刑事責任の問題を生じさせるおそれがあり、かえって貸主に不利に働くことがあります。明渡しを実現するには、任意の交渉か、裁判所の手続(判決を得たうえでの強制執行など)によることが原則です。

通知前・相談前のチェックリスト

通知や交渉を始める前に、次の資料が手元にあるかを確認しておくと、契約類型の判定や正当事由の検討がスムーズになります。すべてがそろっていなくても検討は可能ですが、あるものはそのままお持ちいただくと、具体的な助言につながりやすくなります。

  • 賃貸借契約書、重要事項説明書
  • (定期建物賃貸借の場合)契約前の事前説明に関する書面
  • 更新契約書、更新通知、更新料に関する資料
  • これまでの解約申入れ・更新拒絶・催告などの通知、その配達記録
  • 賃料の入金履歴、敷金・保証金・更新料に関する資料
  • 貸主と借主のやり取り(手紙、メール、メッセージなど)、管理会社・仲介会社とのやり取り
  • 建物登記事項証明書、建物の図面・写真
  • 修繕履歴、建物調査報告書、耐震診断書
  • 建替えを検討している場合は、建替計画・設計図・見積書・工程表
  • 行政からの通知など(安全性・建替えに関するもの)
  • 貸主や家族の使用計画を裏付ける資料
  • 借主の利用状況が分かる資料、転借人の有無が分かる資料
  • 移転候補物件や移転費用に関する資料、立退料の提示履歴

これらの資料が見当たらない場合でも、契約の相手方・管理会社への確認、登記事項証明書の取得、過去のやり取りの再確認などにより、状況を把握できることがあります。資料がそろっていないことを理由に検討を止める必要はありません。

弁護士に相談するタイミング

貸主都合の明渡しは、通知の内容や順序を誤ると、解決が長引くことがあります。次のようなタイミングでの相談が考えられます。

  • 解約申入れや更新拒絶を通知する前(契約類型の確認、正当事由の見通し、通知の時期・内容の検討)
  • 立退料を提示する前(考慮要素の整理、提示のしかた・時期の検討)
  • 借主から回答書や反論を受けたとき
  • 合意書へ署名する前(明渡条件・清算条項などの確認)
  • 借主が退去を拒否したとき
  • 鍵交換や荷物の処分など、実力行使を検討してしまいそうなとき(自力救済を避けるため)
  • 訴訟や強制執行が必要になりそうなとき

弁護士への相談は、退去や明渡しの結果を保証するものではありません。もっとも、相談により、契約類型と法的な構成、主張できる事情と必要な証拠、通知の内容、交渉の方針、手続の順序を整理することができます。後戻りしにくい対応(通知の送付、立退料の提示、合意書への署名など)をする前に、一度確認しておくことをおすすめします。

よくあるご質問(FAQ)

Q1.貸主は、借主に6か月前に通知すれば賃貸借契約を終了できますか。

普通建物賃貸借では、それだけでは終了しません。期間の定めのない契約では、解約申入れの日から6か月の経過で終了し得ますが(借地借家法第27条)、その解約申入れには正当事由が必要です(第28条)。期間の定めがある契約では、期間満了の1年前から6か月前までの間の更新拒絶通知と正当事由が必要です(第26条・第28条)。いずれも、6か月の経過だけで当然に終了するわけではありません。

Q2.正当事由とは、どのような事情ですか。

借地借家法第28条は、貸主・借主それぞれが建物の使用を必要とする事情を中心に、賃貸借の従前の経過、建物の利用状況、建物の現況、立退料(財産上の給付)の申出などを総合して判断する、と定めています。一つの事情だけで決まるものではなく、事案により結論は異なります。

Q3.建物の老朽化や建替えの必要は、正当事由になりますか。

正当事由を基礎づけ得る事情の一つですが、それだけで当然に認められるわけではありません。危険性の程度、修繕・補強で対応できないか、建替えの必要性や計画の具体性、借主側の事情、立退料による調整の可否などを総合して判断されます。建替えを理由とする場合は、計画の具体性を資料で示せるかが重要です。

Q4.建物を売却したいという理由で、退去を求められますか。

売却の希望や、賃料が相場より低いといった経済的な事情だけで、当然に正当事由が認められるわけではありません。借主側の使用の必要性との比較や、立退料による調整の余地などを含めて総合的に判断されます。事情の具体化と資料の準備が重要になります。

Q5.立退料を支払えば、必ず退去してもらえますか。

そうとは限りません。立退料の申出は正当事由を補う一要素ですが、貸主側の使用の必要性など他の事情が乏しい場合には、立退料を積んでも正当事由が認められないことがあります。逆に、事案によっては立退料なしで認められることもあります。金額を一律に決める法定の計算式はありません。

Q6.契約書に「貸主はいつでも解約できる」という条項があれば、有効ですか。

借地借家法の規定に反して借主に不利な特約は無効とされています(第30条)。そのため、契約書に貸主側の解約条項があっても、正当事由の要件を免れることは基本的にできません。契約書の文言だけで判断せず、条文に照らした確認が必要です。

Q7.定期建物賃貸借でも、正当事由が必要ですか。

定期建物賃貸借は、更新がなく、期間満了により終了する契約で、正当事由は原則として不要です。ただし、書面(電磁的記録を含む)による契約であることや、契約前に「更新がなく期間満了で終了する」旨を記載した書面を交付して説明していることなどの成立要件を満たしている必要があります(第38条)。要件に不備があると、普通建物賃貸借として扱われ、正当事由が問題になることがあります。また、期間が1年以上の場合は、期間満了の1年前から6か月前までの間の終了通知が必要です。

Q8.借主が退去を拒否したら、貸主が鍵を交換してもよいですか。

できません。裁判所の手続を経ずに、鍵の交換やライフラインの停止、荷物の撤去などで実力で退去させる行為(自力救済)は、原則として認められておらず、損害賠償責任や刑事責任の問題を生じさせるおそれがあります。借主が退去に応じない場合は、交渉のうえ、必要に応じて建物明渡請求訴訟などの法的手続を検討することになります。

まとめ

  • 普通建物賃貸借では、賃貸人(貸主)からの更新拒絶・解約申入れに正当事由が必要で(借地借家法第26条〜第28条)、6か月の経過だけでは終了しません。
  • まず、自分の契約が普通か定期か、期間の定めがあるか、法定更新後かを確認することが出発点です。
  • 正当事由は、貸主・借主双方の使用の必要性を中心に、従前の経過・利用状況・現況・立退料の申出を総合して判断されます。
  • 老朽化・耐震性・建替え・売却などは考慮要素の一つにすぎず、その事情だけで結論は決まりません。立退料にも一律の相場・計算式はありません。
  • 賃料不払・用法違反は、正当事由とは別に、債務不履行解除(信頼関係破壊の法理)が問題になります。
  • 鍵交換・荷物撤去・ライフライン停止などの自力救済は避け、通知の前に契約書と資料を確認してください。

「契約書の解約条項をそのまま使ってよいか」「どの資料を準備すべきか」といった点から迷われることも多いと思います。貸主都合の明渡しは、個別事情により結論や進め方が変わります。通知の送付、立退料の提示、合意書への署名といった後戻りしにくい対応をする前に、一度、建物の明渡しを取り扱う弁護士に確認されることをおすすめします。

建物の明渡し・立退きをご検討の貸主の方へ。弁護士法人ひょうご あわじみらい法律会計事務所では、初回無料の法律相談(予約制・一部対象外の分野があります)により、契約類型の確認、正当事由に関する主張と資料の整理、通知の時期・内容、交渉の方針、手続の順序を検討いただけます。通知を送る前、立退料を提示する前、合意書に署名する前のご相談も可能です。

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執筆者・監修者

藤井 貴之(ふじい たかゆき)
弁護士法人ひょうご あわじみらい法律会計事務所 代表弁護士・公認会計士
兵庫県弁護士会所属・日本公認会計士協会兵庫会所属

不動産の賃貸借トラブルをはじめ、相続・交通事故・債務整理・労働問題などの個人のご相談から、企業法務・事業承継まで幅広く対応しています。賃貸借に関する紛争では、契約書や資料を確認したうえで、法的な構成と手続の見通しを整理します。淡路島(南あわじ市)を拠点に、洲本市・淡路市のほか、徳島県・兵庫県・香川県などの周辺地域にも対応しています。

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