会社や事業の譲渡、あるいは同業・隣接事業の買収を検討し始めると、最初に「何から手を付ければよいのか」「提示された条件や契約書に署名してよいのか」という疑問に直面します。M&Aは、買い手探しや価格交渉だけの手続ではありません。秘密保持契約(NDA)、基本合意、デューデリジェンス(DD)、最終契約、クロージング、さらに経営者保証や借入金、従業員・取引先・許認可への影響まで、法務と財務の両面が関わります。
この記事では、後継者不在の事業承継や第三者への譲渡、買収を検討する中小企業の経営者に向けて、M&Aの全体の流れと、各段階で確認すべき資料・契約条項、そして弁護士に相談するタイミングを整理します。結論を急がず、まずは「基本合意書に署名する前」「DD資料を開示する前」「最終契約に署名する前」に確認したい点を押さえることが、後のトラブルを避ける近道です。なお、M&Aの結論は会社の実態や契約条件によって変わるため、本記事は一般的な整理であり、個別事情により結論は異なります。
「提示された条件で進めてよいか」「どの段階で相談すべきか」を整理したい段階でのご相談も承っています。資料を拝見したうえで、進め方や契約書の確認の観点を一緒に整理します。
Contents
- ■M&Aの全体像と進め方
- ■M&Aとは|中小企業で使われる手法と「誰の・何の」承継か
- ■M&Aの準備段階|目的の整理と資料の棚卸し
- ■秘密保持契約(NDA)|情報を開示する前に確認すること
- ■企業価値評価と買収価格|3つのアプローチと中小企業特有の調整
- ■基本合意(LOI・MOU)|署名前に確認すべき条項
- ■デューデリジェンス(DD)|種類・流れと見つかりやすい問題
- ■最終契約とクロージング|表明保証・補償・経営者保証
- ■売り手が特に確認したいこと|仲介契約・手取り・経営者保証
- ■買い手が特に確認したいこと|実態収益・簿外債務・PMI
- ■弁護士に相談するタイミング
- ■相談前に準備しておきたい資料(チェックリスト)
- ■よくあるご質問(FAQ)
- ■まとめ
■M&Aの全体像と進め方
中小企業のM&Aは、おおむね次の流れで進みます。各段階で「確認すべき資料」「注意点」「弁護士に相談するとよい場面」をあわせて整理しました。なお、案件によって順序や呼称、必要な手続は前後・増減します。
| 段階 | 主な内容 | 確認・注意点/相談の目安 |
|---|---|---|
| 1 検討・準備 | 目的・譲れない条件の整理、資料の棚卸し | 株主・許認可・借入・保証の確認。早期に方針を整理したい場面。 |
| 2 候補探索・打診 | ノンネーム情報での打診、相手方の選定 | 仲介・FA契約の手数料体系・業務範囲の確認。 |
| 3 秘密保持契約(NDA) | 実名・資料開示の前提となる契約 | 開示範囲・目的・期間・違反時の責任を確認してから開示。 |
| 4 企業価値評価・条件交渉 | 価格レンジ・スキームの検討 | 評価の前提資料を確認。税務上の株価評価とは目的が異なる場合あり。 |
| 5 基本合意(LOI・MOU) | 主要条件の確認、独占交渉権等 | 拘束力のある条項・ない条項の切り分け。署名前に確認したい場面。 |
| 6 DD(デューデリジェンス) | 法務・財務・税務等の調査 | 必要資料の準備、発見事項の価格・契約への反映。 |
| 7 最終契約 | 株式譲渡契約書・事業譲渡契約書等 | 表明保証・補償・前提条件・経営者保証の取扱い。署名前に確認したい場面。 |
| 8 クロージング | 代金決済、株式・資料・印鑑等の受渡し | 前提条件の充足、許認可・取引先同意、資料の受渡し確認。 |
| 9 PMI(統合) | 承継後の経営・業務統合 | 従業員・取引先・契約・許認可の移行と定着。 |
ポイントは、価格が固まる前の段階(3〜5)と、契約に署名する段階(7)で、確認の密度を上げることです。これらの段階での確認が、後のクロージングや承継後のトラブルを大きく左右します。
■M&Aとは|中小企業で使われる手法と「誰の・何の」承継か
M&Aは「合併と買収(Mergers and Acquisitions)」の総称で、会社や事業の経営権・資産を移転する手法の総称です。中小企業では、株式譲渡、事業譲渡、会社分割、合併などが用いられ、後継者不在の事業承継の手段としても活用されています。売り手は承継・引退・資金化、買い手は事業拡大・シナジーなど、目的が異なる点を最初に意識すると、交渉の論点が整理しやすくなります。
◆株式譲渡・事業譲渡・会社分割・合併の違い
どの手法を選ぶかで、許認可・契約・雇用・税務の扱いが変わります。代表的な手法の承継範囲を整理します(実際の適否は個別事情によります)。
| 手法 | 移転の対象 | 許認可・契約・雇用の扱い(概略) |
|---|---|---|
| 株式譲渡 | 会社の株式(法人格は存続) | 会社が当事者の許認可・契約・雇用は原則そのまま継続。重要契約のチェンジ・オブ・コントロール条項に注意。 |
| 事業譲渡 | 事業に属する資産・負債・契約を個別に移転 | 許認可は原則として承継できず再取得が必要なことが多い。契約・雇用は個別の同意が必要(労働契約承継法の適用なし)。 |
| 会社分割 | 事業に関する権利義務を包括的に承継 | 労働契約は労働契約承継法に基づく手続が必要。許認可は法令により承継可否が異なる。 |
| 合併 | 会社の権利義務を包括承継(消滅会社の権利義務が存続会社へ) | 労働契約は存続会社へ包括承継。許認可は法令により扱いが異なる。 |
とくに重要なのが、株式譲渡では会社の許認可や契約・雇用が原則そのまま引き継がれるのに対し、事業譲渡では許認可の再取得や契約・雇用の個別同意が必要になりやすいという違いです。許認可業種や、特定の取引先・賃貸借契約に依存する事業では、この差が手続負担や実現可能性に直結します。どの手法が適切かは、許認可、税務、株主構成、簿外リスクなどを踏まえた個別判断になります。
◆親族内・従業員・第三者承継と廃業の違い
事業承継には、親族内承継、従業員(役員・社員)承継、第三者への承継(M&A)があり、後継者が見つからない場合の選択肢として廃業もあります。第三者承継は、後継者不在でも従業員の雇用や取引先との関係、許認可や技術を残せる可能性がある一方、相手探し・条件交渉・契約・DDといった手続が必要です。廃業とM&Aでは、手取り(売却代金から税金・借入返済・廃業費用・専門家費用等を差し引いた金額)の見え方が大きく異なるため、早い段階で双方を比較検討することをおすすめします。
■M&Aの準備段階|目的の整理と資料の棚卸し
準備段階では、まず目的(承継・引退・資金化・事業拡大など)と、譲れない条件(雇用維持、屋号、地域、価格の下限など)を整理します。あわせて、株主・役員・後継者・従業員・取引先・金融機関・保証人の状況を確認し、会社の実態を「見える化」しておくことが、後の評価やDDをスムーズにします。
準備しておきたい主な資料には、定款、登記事項証明書、株主名簿、株主総会・取締役会の議事録、決算書、税務申告書、勘定科目内訳明細書、主要な契約書、許認可関係資料、借入・担保・保証の資料、就業規則・賃金台帳・勤怠資料などの労務関係資料、不動産・知的財産の資料、訴訟・クレームの資料などがあります。売り手側でも事前に自社を点検する「セルサイドDD」や課題の整理(磨き上げ)を行っておくと、交渉や価格の説明力が高まり、DDでの指摘も最小化しやすくなります。
「どの資料から整えればよいか分からない」という段階でも構いません。会社の状況に合わせて、準備すべき資料と確認の順序を整理できます。
■秘密保持契約(NDA)|情報を開示する前に確認すること
M&Aの初期は、会社名を伏せた概要情報(ノンネーム)でのやり取りから始まり、関心が一致した段階で実名開示・資料開示へ進みます。資料開示の前提となるのが秘密保持契約(NDA)です。M&Aの検討が外部に漏れると、従業員の動揺、取引先・金融機関の不安、信用不安などにつながりかねないため、開示前に契約内容を確認することが重要です。
NDAでは、秘密情報の範囲、利用目的、開示できる範囲(役職員・専門家など)、返還・廃棄、有効期間、違反時の責任などを確認します。契約内容を確認しないまま資料を開示しないこと、開示する情報の段階(初期は限定的に)をコントロールすることが、実務上の基本です。
■企業価値評価と買収価格|3つのアプローチと中小企業特有の調整
買収価格は、企業価値評価を一つの目安に、当事者間の交渉で決まります。評価は機械的に一つの金額が定まるものではなく、用いる手法・前提条件・資料によって幅が出ます。
◆企業価値・株主価値・有利子負債の関係
日本公認会計士協会の整理では、企業価値は事業価値に非事業用資産の価値を加えた全体の価値とされ、株主価値は企業価値から有利子負債等の他人資本を差し引いた、株主に帰属する価値とされています。株式の売買価格は、最終的にこの株主価値の考え方を基礎に検討されます。純有利子負債(ネットデット)などの調整も論点になります。
◆3アプローチと代表的な手法
評価手法は、大きく3つのアプローチに整理されます。それぞれに長所・短所があり、対象会社の特性に応じて使い分け、複数手法で幅を検討するのが一般的です。
| アプローチ | 代表的な手法 | 特徴(概略) |
|---|---|---|
| インカム・アプローチ | DCF法、配当還元法 | 将来の収益力を反映できる一方、前提次第で結果が動きやすい。 |
| マーケット・アプローチ | 市場株価法、類似会社比較法(株価倍率法)、類似取引比準法 | 市場の取引環境を反映し客観性に優れる一方、類似が乏しいと適用が難しい。 |
| ネットアセット・アプローチ(コスト・アプローチ) | 簿価純資産法、時価純資産法(修正純資産法) | 純資産を基礎とし客観性に優れる一方、将来収益を反映しにくい。 |
中小企業のM&Aでは、時価純資産(修正純資産)に数年分の利益を加味する方法(いわゆる年買法)が用いられることもあります。いずれの手法でも、決算書上の利益だけでなく、役員報酬やオーナーへの貸付、借入・保証、遊休資産、実態収益、特定の人(キーマン)への依存、許認可、従業員、取引先への依存などを見直す必要があり、前提条件と資料の確認が結論を左右します。
◆税務上の株価評価との違い
M&Aの企業価値評価と、相続税・贈与税などの税務上の株価評価は、目的・前提が異なる場合があります。M&Aの交渉価格をそのまま税務の評価額として用いられるとは限らず、逆もまた同様です。税務上の取扱いは税理士の確認事項となりますが、価格を検討する際は両者の目的の違いを意識しておくことが大切です。
■基本合意(LOI・MOU)|署名前に確認すべき条項
基本合意書(LOI・MOU、意向表明書)は、主要条件について当事者の認識を確認し、その後のDD・最終契約に進むための文書です。注意したいのは、基本合意書には法的拘束力のある条項とない条項が混在することです。価格やスキームは「現時点の目安」として拘束力を持たせない一方、独占交渉権(排他的交渉権)、DD協力義務、秘密保持義務、善管注意義務、有効期限、違約金、解除などは拘束力を持たせることがあります。
「基本合意だからまだ大丈夫」と安易に考えると、独占交渉期間中は他の候補と交渉できない、違約金条項が効いてくる、といった想定外の拘束を受けることがあります。価格レンジ、スキーム、クロージングの前提条件、最終契約日・クロージング日の目途、独占交渉権の範囲・期間、違約金・損害賠償の有無などを、署名前に確認することをおすすめします。どの条項に拘束力があるのかの切り分けは、弁護士による確認が有用な場面です。
■デューデリジェンス(DD)|種類・流れと見つかりやすい問題
DDは、対象会社の実態とリスクを把握するための調査です。買い手にとっては、価格や契約条件に反映すべき問題を見つける手続であり、売り手にとっても、事前に自社を点検しておく(セルサイドDD)ことで、交渉を円滑にし、不意の指摘を避ける意味があります。
◆DDの種類と進め方
| 種類 | 主な確認対象 |
|---|---|
| 法務DD | 株主・株式、機関決定、許認可、重要契約、訴訟・クレーム、知的財産、労務に関する法的リスク等 |
| 財務DD | 実態純資産、実態収益力、簿外債務、偶発債務、運転資金等 |
| 税務DD | 申告内容、税務リスク、繰越欠損金、移転価格等 |
| ビジネス(事業)DD | 事業の収益構造、取引先依存、市場・競合等 |
| 労務・人事DD | 未払残業代、社会保険、就業規則、人員構成等 |
| その他 | IT、知財、人権など必要に応じて実施 |
進め方は、DD実施計画の策定、必要資料の請求、質疑応答(Q&A)、経営陣へのインタビュー、中間報告、追加調査、最終報告という流れが一般的です。発見されたリスクは、許容するのか、価格に反映するのか、契約で手当てするのかを判断していきます。
◆中小企業で見つかりやすい問題と反映先
中小企業のDDでは、次のような問題が見つかることがあります。株主が不明確、株式譲渡制限の承認手続が未整備、株主総会・取締役会の議事録が不足、重要契約にチェンジ・オブ・コントロール条項がある、許認可が承継できない、未払残業代のリスク、社会保険・労務管理の不備、簿外債務、保証債務、訴訟・クレーム、個人情報・知的財産の管理不備、借入金・経営者保証などです。
これらは、価格調整、クロージングの前提条件、表明保証、補償(補償条項)、解除条件、場合によっては買収の中止といった形で、最終契約に反映していきます。発見事項をどの条項にどう落とし込むかが、契約交渉の中心になります。
■最終契約とクロージング|表明保証・補償・経営者保証
最終契約は、株式譲渡契約書、事業譲渡契約書、合併契約書、会社分割契約書など、選択したスキームに応じて作成します。中心的な条項には、表明保証(一定の事実が真実であることの保証)、誓約事項、前提条件、補償条項、価格調整、解除、競業避止、役員・従業員の引継ぎなどがあります。
あわせて、経営者保証、借入金、金融機関対応、許認可の承継、取引先の同意、クロージング前後の資料・印鑑・通帳・契約書・株主名簿・議事録等の受渡しといった、実務的な事項も詰めていきます。経営者保証については、M&Aに伴って当然に外れるわけではなく、金融機関との調整が必要です。中小企業向けには「経営者保証に関するガイドライン」やその特則があり、M&Aの成立前に金融機関や支援機関へ相談し、最終契約での位置づけを検討しておくことが重要とされています。最終契約後・クロージング後に問題化しやすい事項(前提条件の未充足、表明保証違反、許認可・取引先同意の遅れなど)を見据えて、条項を設計することが求められます。
なお、一定の売上規模を超えるM&Aでは、独占禁止法に基づく企業結合の事前届出が必要となり、届出後一定の期間は実行できないことがあります。多くの中小企業のM&Aでは届出基準に達しないことが多いものの、規模や業種によっては該当する可能性があるため、心当たりがある場合は確認が必要です。
■売り手が特に確認したいこと|仲介契約・手取り・経営者保証
売り手側では、まず仲介会社・FAとの契約内容を確認します。専任(専属専任)契約か、テール条項(契約終了後一定期間内の成約にも手数料が発生する条項)の有無・期間・対象、成功報酬や最低手数料の水準、業務範囲、利益相反の取扱い、ネームクリア(打診先の事前承認)の運用などは、安易に同意せず内容を確認することが大切です。中小M&Aガイドライン(第3版)でも、手数料や提供業務の内容を確認することの重要性が示されています。
また、経営者保証の解除・移行を契約上どう扱うか、従業員・取引先・金融機関への説明のタイミング、そして売却代金だけでなく税金・借入返済・廃業費用・専門家費用・退職金まで含めた「手取り」を早めに試算しておくことが、後悔のない判断につながります。
■買い手が特に確認したいこと|実態収益・簿外債務・PMI
買い手側では、事業シナジー、対象会社の実態収益、簿外債務、キーマン依存、許認可の承継可否、従業員承継、重要契約(チェンジ・オブ・コントロール条項を含む)、個人保証・担保の状況などを確認します。DDで見つかったリスクは、価格や契約条件(表明保証・補償・前提条件等)に反映させ、クロージング後の統合(PMI)まで見据えて計画することが、買収後のトラブルを抑えるうえで重要です。
■弁護士に相談するタイミング
M&Aでは、契約に署名したり資料を開示したりした後では、条件の見直しが難しくなる場面があります。次のようなタイミングでの相談を検討すると、判断材料や対応方針を整理しやすくなります。
- 仲介会社・金融機関からM&Aの提案を受けた段階
- NDA(秘密保持契約)を締結する前、実名・資料を開示する前
- 基本合意書に署名する前
- DDを受ける、または実施する前
- 買収価格や評価方法に疑問があるとき
- 株式譲渡契約書・事業譲渡契約書・最終契約書を提示されたとき
- 経営者保証・借入・許認可・従業員・取引先への影響が心配なとき
- クロージング前、またはM& A後にトラブルが生じたとき
弁護士への相談は、結果を保証するものではありませんが、資料を確認したうえで、進め方、契約書、DD対応、企業価値評価の前提、経営者保証や従業員対応などの観点を整理する助けになります。
「この契約書に署名してよいか」「価格の前提は妥当か」を、署名前・開示前に確認したい方へ。資料を拝見し、法務・財務の観点から論点を整理します。
■相談前に準備しておきたい資料(チェックリスト)
ご相談時に次の資料があると、より具体的な検討ができます。すべてが揃っていなくても構いません。お手元にあるものからご準備ください。
- 定款/登記事項証明書/株主名簿
- 株主総会議事録/取締役会議事録
- 決算書/税務申告書/勘定科目内訳明細書
- 借入・担保・保証に関する資料
- 主要な契約書/許認可に関する資料
- 就業規則/賃金台帳/勤怠資料/社会保険関係資料
- 不動産・知的財産に関する資料
- 訴訟・クレームに関する資料
- M&A仲介契約書/NDA/基本合意書/最終契約書案
淡路島(南あわじ市・洲本市・淡路市)や兵庫県周辺で、事業承継やM&Aをご検討中の経営者の方へ。法務と財務の両面から、進め方や契約書、企業価値評価の前提、経営者保証や従業員対応などを整理します。
■よくあるご質問(FAQ)
M&Aは何から始めればよいですか。
まずは目的と譲れない条件の整理、株主・許認可・借入・保証の確認、決算書などの資料の棚卸しから始めるのが一般的です。早い段階で全体像と注意点を整理しておくと、その後の交渉がスムーズになります。
基本合意書に署名した後でも条件変更できますか。
基本合意書には拘束力のある条項とない条項が混在します。価格などは目安として変更の余地があることが多い一方、独占交渉権や違約金などは拘束力を持つことがあります。署名前に、どの条項に拘束力があるかを確認することをおすすめします。
DDではどのような資料を求められますか。
定款、登記事項証明書、株主名簿、議事録、決算書、税務申告書、契約書、許認可資料、労務資料などが代表的です。範囲は手法や案件により異なります。事前に整理しておくとDDが円滑に進みます。
企業価値評価と税務上の株価評価は同じですか。
目的・前提が異なる場合があります。M&Aの交渉価格と、相続税・贈与税などの税務上の評価額は必ずしも一致しません。税務上の取扱いは税理士の確認事項となります。
仲介会社から契約書を渡されたら弁護士に相談すべきですか。
手数料体系、業務範囲、専任・テール条項、利益相反、ネームクリアの取扱いなどは、署名前に確認することをおすすめします。資料を拝見したうえで、確認すべき点を整理できます。
売り手側でもDDをした方がよいですか。
セルサイドDDや事前の課題整理(磨き上げ)を行っておくと、交渉や価格の説明力が高まり、買い手側DDでの指摘も最小化しやすくなります。個別事情により有用性は異なります。
経営者保証はM&Aで外れますか。
当然に外れるわけではなく、金融機関との調整が必要です。中小企業向けの「経営者保証に関するガイドライン」やその特則があり、成立前に金融機関・支援機関へ相談し、最終契約での位置づけを検討しておくことが重要とされています。結論は個別事情によります。
従業員や取引先にはいつ説明すべきですか。
情報管理の観点から、説明のタイミングは慎重な検討を要します。秘密保持契約や交渉段階との関係を踏まえ、混乱を避けられる時期・方法を個別に検討することをおすすめします。
■まとめ
- M&Aは、準備・秘密保持・基本合意・DD・最終契約・クロージング・統合まで、法務と財務が関わる一連の手続です。
- 株式譲渡・事業譲渡・会社分割・合併で、許認可・契約・雇用・税務の扱いが変わります。
- 企業価値評価は前提条件と資料で幅が出ます。税務上の株価評価とは目的が異なる場合があります。
- 基本合意書は拘束力のある条項に注意。DDの発見事項は価格・契約に反映します。
- 経営者保証・借入・許認可・従業員・取引先への影響は、成立前から確認しておくことが重要です。
- 署名前・資料開示前・クロージング前に確認することが、後のトラブルを避ける近道です。個別事情により結論は変わるため、早めの相談が有用です。
監修者・執筆者
弁護士法人ひょうごあわじみらい法律会計事務所
代表弁護士・公認会計士 藤井 貴之【肩書・資格表記は要確認】
所属:兵庫県弁護士会/日本公認会計士協会【所属表記は要確認】
取扱分野:企業法務、M&A、事業承継、法律顧問、債権回収、労働法務ほか
当事務所では、法務に加えて、決算書・財務資料・株式・契約・労務・許認可・経営者保証などを横断的に確認しながら、M&A・事業承継のご相談に対応できる場合があります。
参考資料(公的機関・公式資料)
- 中小企業庁「中小M&Aガイドライン(第3版)」
- 経済産業省「『中小M&Aガイドライン』を改訂しました」
- 中小企業庁「M&A支援機関登録制度」
- 中小企業庁「事業承継・M&A補助金」
- 中小企業庁「事業承継ガイドライン(第3版)」
- 中小企業庁「経営者保証に関するガイドライン」「事業承継時に焦点を当てた特則」
- 事業承継・引継ぎ支援センター
- e−Gov法令検索「会社法」
- e−Gov法令検索「会社分割に伴う労働契約の承継等に関する法律(労働契約承継法)」
- 公正取引委員会「企業結合審査に関する独占禁止法の運用指針」
- 日本公認会計士協会「企業価値評価ガイドライン」

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