「もう離婚して1年以上たつが、退職金や自宅のことを整理しないまま別れてしまった」「令和8年4月から財産分与の期限が延びたと聞いたが、自分の場合は2年なのか5年なのか分からない」。長年連れ添った夫婦の離婚(いわゆる熟年離婚)では、こうした不安を抱えたままのご相談が少なくありません。
令和8年4月1日に施行された民法改正により、離婚後に家庭裁判所へ財産分与を請求することができる期間は、原則として離婚の翌日から起算して2年から5年に伸長されました。ただし、この扱いは離婚した時期によって異なります。まず確認していただきたいのは、ご自身が「いつ離婚したか」という点です。
この記事では、改正で何がどう変わったのか、施行日の前後で結論がどう異なるのか、そして熟年離婚で特に問題になりやすい退職金・不動産・年金分割について、公的資料に基づいて整理します。「5年になったから急がなくてよい」と考えてよいのかどうかも含めて説明します。なお、個別の事情により結論は変わりますので、具体的な見通しは資料を確認したうえで検討する必要があります。
財産分与の期限や対象財産に不安がある場合は、離婚した日と手元の資料を確認したうえで相談することで、今後の進め方を検討しやすくなります。
Contents
■結論|まず「離婚した日」を確認する
結論として、家庭裁判所へ財産分与を請求できる期間は、令和8年4月1日以降に離婚した場合は原則5年、令和8年3月31日以前に離婚した場合は原則2年です。数える起算点は「離婚した日の翌日」です。まだ離婚していない場合は、離婚の際に協議や調停の中で財産分与を取り決めることができます。
◆適用関係の早見表
| 離婚した時期 | 家庭裁判所に財産分与を請求できる期間 | 起算点・補足 |
|---|---|---|
| 令和8年4月1日以降に離婚 | 原則5年 | 離婚した日の翌日から起算 |
| 令和8年3月31日以前に離婚 | 原則2年(従前どおり) | 離婚した日の翌日から起算。改正法附則により従前の例による |
| まだ離婚していない(離婚前) | 期間は離婚後に進行する | 離婚協議・離婚調停の中で財産分与を取り決めることができる |
あわせて注意したいのが年金分割です。年金分割の請求期限も令和8年4月から原則5年に変わりましたが、これは財産分与とは別の制度・別の法律に基づくものです。詳しくは後述します。
◆まず確認すべき3点
- ・離婚した日(協議離婚は離婚届が受理された日、調停・裁判離婚は成立・確定した日)。これにより期間が2年か5年かが決まります。
- ・財産に関する資料(預貯金、不動産、退職金、保険、株式など)が手元にそろっているか。
- ・年金分割の請求期限も同時に近づいていないか。年金分割は別途、年金事務所での手続が必要です。
■財産分与の基本|何を分け、「2分の1」とは何か
財産分与とは、夫婦が婚姻中に協力して取得・維持した財産を、離婚する際または離婚後に清算する制度です(民法第768条)。対象は共有名義の財産に限られず、一方の名義になっている財産も対象になり得ます。
◆対象になり得る財産
- ・預貯金、現金、株式・投資信託などの金融資産
- ・自宅などの不動産(住宅ローンが残っている場合はその債務も考慮されます)
- ・退職金、企業年金・個人年金、生命保険の解約返戻金
- ・自動車、家財、その他婚姻中に形成された財産
◆対象になりにくい財産(特有財産)
婚姻前から一方が持っていた財産や、婚姻中であっても相続・贈与によって取得した財産は、原則として「特有財産」として財産分与の対象になりにくいと考えられています。もっとも、特有財産かどうか、どこまでが対象かは、資料や経緯によって判断が分かれることがあり、個別事情により結論は異なります。財産分与の対象財産・特有財産の一般的な考え方は、次の記事もあわせてご覧ください。
◆「原則2分の1」の考え方
改正後の民法第768条第3項は、婚姻中の財産の取得・維持に対する各当事者の寄与の程度について、「その程度が異なることが明らかでないときは、相等しいものとする」と定めています。実務上は、共働きか専業主婦(主夫)かにかかわらず、原則として2分の1を基礎に検討されることが多い一方、事業への貢献度など個別事情によって割合が調整される場合もあります。「必ず2分の1になる」というものではなく、資料を確認したうえで判断する必要があります。
◆熟年離婚で特に問題になりやすい財産
婚姻期間が長い熟年離婚では、次のような財産が問題になりやすく、評価や資料収集に時間がかかる傾向があります。
- ・自宅不動産と住宅ローン(淡路島内の土地・建物を含む)
- ・退職金、企業年金・個人年金、保険
- ・配偶者名義・家族名義の預貯金、事業用資産
- ・相続・贈与により取得した特有財産の切り分け
- ・長期別居がある場合の、財産を評価する時点(基準時)の考え方
これらのうち、税務・登記・年金・住宅ローンについては、必要に応じて税理士、司法書士、年金事務所、金融機関での確認が必要になることがあります。
■令和8年4月1日施行の民法改正で変わった点
令和6年に成立した「民法等の一部を改正する法律」(令和6年法律第33号)が、令和8年4月1日に施行されました。財産分与に関しては、主に次の点が変わりました。
◆①家庭裁判所に請求できる期間が2年から5年へ(民法第768条第2項)
当事者間で財産分与の協議が調わないとき、または協議ができないときに、家庭裁判所へ協議に代わる処分(財産分与)を請求できる期間が、「離婚の時から2年」から「離婚の時から5年」に伸長されました。裁判所の案内では、起算点は「離婚した日の翌日から起算して」と説明されています。
◆②考慮要素の明確化(民法第768条第3項)
財産分与の額・方法を家庭裁判所が定める際の考慮要素が、条文上、明確に列挙されました。具体的には、婚姻中に取得・維持した財産の額、その取得・維持についての各当事者の寄与の程度、婚姻の期間、婚姻中の生活水準、婚姻中の協力・扶助の状況、各当事者の年齢、心身の状況、職業、収入その他一切の事情、とされています。あわせて、寄与の程度は、異なることが明らかでないときは相等しいものとされる点も明文化されました。
◆③財産の状況に関する情報開示命令の整備
財産分与に関する家庭裁判所の手続(審判・調停)において、家庭裁判所が当事者に対し、財産の状況に関する情報の開示を命じることができる仕組みが整備されました(家事事件手続法第152条の2第2項等)。正当な理由なく開示しなかったり、虚偽の情報を開示したりした場合には、10万円以下の過料の定めがあります。
ただし、これは当事者(相手方)に対して開示を命じる制度であり、裁判所が第三者から情報を取り寄せて隠し財産を必ず発見してくれる、という制度ではありません。相手方の財産が分からない場合でも手続を進める余地はありますが、結果を保証するものではなく、まずはご自身で把握できる資料を整理しておくことが重要です。
◆④経過措置|施行日前後で扱いが異なる
改正法の附則により、施行日(令和8年4月1日)前に離婚した場合の財産分与を請求できる期間の制限については、なお従前の例によるとされています。つまり、令和8年3月31日以前に離婚した方は原則2年のままで、5年に延びるわけではありません。すでに2年を経過している場合の取扱いは、合意の有無やその他の事情によって異なり得るため、断定はできません。離婚した日と手元の資料を確認したうえで検討する必要があります。
ご自身の離婚が施行日の前か後かによって、期限が2年か5年かが変わります。離婚した日がはっきりしない場合や、期限が近い可能性がある場合は、早めに確認することをおすすめします。
■熟年離婚での意味|「5年になったから急がなくてよい」ではない理由
請求できる期間が5年に延びたことで、離婚後に生活が落ち着いてから財産分与を検討できる余地は、確かに広がりました。もっとも、「期間が延びた=急がなくてよい」とはいえない事情があります。
- ・資料は時間とともに散逸します。通帳の記帳や取引履歴の取得可能な期間、保険や退職金の資料、相手方名義財産の把握は、時間が経つほど難しくなりがちです。
- ・財産を評価する時点の問題があります。別居や離婚の時点を基準に評価することが多く、その時点の資料が後から集めにくくなることがあります。
- ・退職金・年金・不動産は確認に時間がかかります。退職金規程の確認、年金分割の情報取得、不動産の評価・ローン残高の確認など、準備に一定の時間を要します。
したがって、期限までに余裕があるとしても、資料の保全と早めの見通しの整理をしておくことに意味があります。
■年金分割との関係|財産分与とは別制度・期限の根拠も別
年金分割は、婚姻期間中の厚生年金の記録(保険料納付記録)を当事者間で分割する制度で、財産分与とは別の制度です。年金分割の請求期限も、令和8年4月から原則2年から5年に変わりましたが、その根拠は民法改正ではなく、年金に関する別の法律(令和7年の年金制度改正法)に基づくものです。経過措置も財産分与と同様に、令和8年4月1日以降に離婚等をした場合に5年が適用され、それより前の離婚等は従前どおり原則2年です。
年金分割について、特に押さえておきたい点は次のとおりです。
- ・当事者間で分割について合意しただけでは足りず、年金事務所等での請求手続が必要です。
- ・分割の対象は厚生年金の記録であり、すべての年金が単純に半分になるわけではありません。
- ・分割の割合や見込みなどの詳細は、日本年金機構または年金事務所で確認する必要があります。
年金分割の手続や請求期限の詳細は、日本年金機構の案内(離婚時の年金分割の請求期限が改正されました)をご確認ください。
■離婚後に財産分与を求める手続の流れ
◆離婚前|協議・離婚協議書・公正証書・離婚調停の中で決める
まだ離婚していない場合は、離婚に伴って財産分与についても話し合い、離婚協議書や公正証書にまとめることができます。話合いがまとまらない場合は、家庭裁判所の夫婦関係調整調停(離婚)の中で財産分与についても話し合うことができます。合意内容を書面化しておくことは、後日の紛争を防ぐうえで重要です。
◆離婚後|財産分与請求調停・審判
離婚後に話合いがまとまらない場合や話合いができない場合は、家庭裁判所に財産分与請求調停を申し立てることができます。調停が不成立になった場合には審判手続に移行し、裁判官が、婚姻中に取得・維持した財産の額や各当事者の寄与の程度などの事情を考慮して、分与の可否・額・方法を判断します。ただし、前述の請求できる期間(原則5年、施行日前の離婚は原則2年)を過ぎると、この申立てはできなくなります。
◆申立先・費用・必要書類(裁判所公式)
財産分与請求調停の申立先・費用・必要書類は、裁判所の案内では次のとおりです。費用のうち郵便料(連絡用郵便切手)は裁判所ごとに異なり、金額は変わる可能性があるため、申立先の家庭裁判所で確認してください。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 申立てができる人 | 離婚した元夫・元妻 |
| 申立先 | 相手方の住所地の家庭裁判所、または当事者が合意で定める家庭裁判所 |
| 費用 | 収入印紙1200円分+連絡用の郵便切手(郵便料は裁判所ごとに異なる) |
| 主な必要書類 | 申立書及びその写し1通/離婚時の夫婦の戸籍謄本(全部事項証明書。離婚により一方が除籍された記載のあるもの)/夫婦の財産に関する資料(不動産登記事項証明書、固定資産評価証明書、預貯金通帳の写し又は残高証明書等)/事情説明書(財産分与)/進行に関する照会回答書/送達場所等届出書 |
審理のために必要な場合は、追加の書類を求められることがあります。最新の書式・費用は、裁判所の案内(財産分与請求調停)でご確認ください。
■手続前チェックリスト|示談・署名・申立ての前に
離婚協議書や公正証書に署名する前、相手方から財産分与案を提示されたとき、家庭裁判所への申立てを検討するときには、次の資料・情報を整理しておくと、見通しを立てやすくなります。
- ・離婚した日(または離婚予定日)、婚姻期間、別居を開始した日
- ・預貯金通帳の写し、残高証明書
- ・不動産登記事項証明書、固定資産評価証明書
- ・住宅ローンの残高が分かる資料
- ・生命保険・個人年金などの保険証券
- ・退職金規程、退職金見込額が分かる資料
- ・源泉徴収票、給与明細(直近分)
- ・年金分割のための情報通知書(年金事務所で取得)
- ・相続・贈与により取得した財産に関する資料
- ・離婚協議書、公正証書、調停調書、判決など既にある書面
■弁護士に相談するタイミング
次のような場面では、早めに弁護士に相談することで、資料の整理、期限の確認、進め方の見通しを立てやすくなります。相談は「依頼すれば必ず有利になる」というものではなく、資料を確認したうえで、対応方針と選択肢を整理するためのものです。
- ・離婚届を提出する前、離婚協議書や公正証書に署名する前
- ・相手方から財産分与案を提示されたとき
- ・相手方の財産の内容が分からないとき
- ・自宅などの不動産や退職金が絡むとき
- ・離婚後、請求できる期間が近づいているとき
- ・淡路島内の不動産や地元金融機関の資料確認が必要なとき
すでに離婚している場合も、離婚した日と資料の有無を確認することで、家庭裁判所への申立てを検討できる場合があります。まずは状況を整理するところから始められます。
■よくある質問(FAQ)
財産分与の請求期間はいつから5年になりましたか。
令和8年4月1日施行の民法改正により、家庭裁判所へ請求できる期間が原則2年から5年に伸長されました。起算点は離婚した日の翌日からとされています。
令和8年3月31日以前に離婚した場合も5年になりますか。
いいえ。改正法の経過措置により、施行日前に離婚した場合の期間は従前どおり原則2年です。5年に延びるのは、原則として令和8年4月1日以降に離婚した場合です。
離婚後2年を過ぎた場合、もう財産分与は請求できませんか。
施行日前に離婚し、すでに2年を経過している場合の取扱いは、合意の有無やその他の事情によって異なり得るため、一律には判断できません。離婚した日と資料を確認したうえで検討する必要があります。
5年に延びたなら、急いで相談しなくてもよいですか。
期間には余裕ができましたが、通帳・保険・退職金・相手方名義財産などの資料は時間とともに集めにくくなります。財産を評価する時点の問題もあるため、早めに資料を保全しておくことをおすすめします。
熟年離婚ではどの財産を確認すべきですか。
自宅不動産と住宅ローン、退職金、企業年金・個人年金、保険、預貯金、配偶者名義・家族名義の財産、相続・贈与による特有財産などが問題になりやすい財産です。個別事情により対象や評価は変わります。
退職金は財産分与の対象になりますか。
婚姻期間中の勤務に対応する退職金は、対象になり得ると考えられています。ただし、支給の確実性や評価の方法は事案によって異なり、資料を確認したうえで判断する必要があります。
年金分割も5年になったのですか。
はい。年金分割の請求期限も令和8年4月から原則5年に変わりました。ただし、これは財産分与とは別の制度・別の法律に基づくもので、年金事務所等での請求手続が必要です。詳細は年金事務所でご確認ください。
相手の財産が分からない場合でも手続できますか。
改正により、家庭裁判所が当事者に財産の状況の開示を命じることができる仕組みが整備されました。もっとも、これは相手方への開示命令であり、隠し財産を必ず発見できるものではありません。まずは把握できる資料を整理することが有効です。
■まとめ|次にすべきこと
- ・家庭裁判所へ財産分与を請求できる期間は、令和8年4月1日以降の離婚は原則5年、施行日前の離婚は原則2年。
- ・まず確認すべきは「離婚した日」。起算点は離婚した日の翌日から。
- ・期間が延びても、通帳・退職金・不動産・保険などの資料は早めに保全する。
- ・年金分割は財産分与とは別制度・別の法律。年金事務所での手続が必要で、期限も確認する。
- ・離婚前、署名前、期限が近いとき、相手方の財産が分からないときは、早めに相談して見通しを整理する。
財産分与や年金分割の期限、対象財産の整理についてお困りの場合は、離婚した日と手元の資料を確認したうえでご相談いただくことで、今後の進め方を検討しやすくなります。淡路島(南あわじ市・洲本市・淡路市)周辺で離婚・財産分与を検討されている方は、お気軽にお問い合わせください。
監修者・執筆者情報
弁護士法人ひょうごあわじみらい法律会計事務所
監修弁護士:藤井貴之
所属:兵庫県弁護士会
資格:弁護士・公認会計士
取扱分野:離婚・財産分与、相続、交通事故ほか
参考資料(公的機関・公式資料)
- ・法務省「民法等の一部を改正する法律(父母の離婚後等の子の養育に関する見直し)について〔令和8年4月1日施行〕」(https://www.moj.go.jp/MINJI/minji07_00357.html)
- ・裁判所「財産分与請求調停」(https://www.courts.go.jp/saiban/syurui/syurui_kazi/kazi_07_04/index.html)
- ・日本年金機構「離婚時の年金分割の請求期限が改正されました」(https://www.nenkin.go.jp/tokusetsu/rikonbunkatsukaisei.html)
- ・日本年金機構「離婚時の年金分割」(https://www.nenkin.go.jp/service/jukyu/seido/kyotsu/rikon/20140421-04.html)
- ・e-Gov法令検索「民法」(https://laws.e-gov.go.jp/law/129AC0000000089)

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