認知症に備える家族信託|農地・賃貸不動産・事業の管理 |淡路島(淡路・洲本・南あわじ)の弁護士|初回相談無料|弁護士法人ひょうご あわじみらい法律会計事務所

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認知症に備える家族信託|農地・賃貸不動産・事業の管理

「親が元気なうちに、農地や賃貸不動産、空き家、家業の管理を子ども世代へ引き継いでおきたい」「もし親が認知症になったら、不動産の売却や賃貸借契約、修繕、農地の管理、事業の引き継ぎが止まってしまうのではないか」——こうした不安から、家族信託(民事信託)という言葉を耳にされた方は少なくありません。

家族信託は、判断能力があるうちに、財産の管理や承継の仕組みをあらかじめ設計しておく方法のひとつです。ただし万能の制度ではなく、農地・事業・賃貸不動産が関係する場合には、確認しておくべき点が数多くあります。この記事では、認知症に備える家族信託の基本的な考え方と、農地・賃貸不動産・空き家・会社株式・個人事業用資産が関係する場合の注意点を整理し、相談前にそろえておきたい資料と、検討を始めるタイミングを分かりやすくまとめます。なお、個別の事情によって適切な方法は変わりますので、最終的には資料を確認したうえで判断する必要があります。

農地・賃貸不動産・空き家・会社株式・個人事業など、複数の財産が関係する場合は、家族信託が向いているのか、ほかの制度の方が適しているのか、早めに整理しておくと安心です。

当事務所では、相続・成年後見・家族信託・事業承継に対応する弁護士が、資料を確認したうえで選択肢を整理するお手伝いをしています。

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Contents

結論|認知症対策の家族信託は「判断能力があるうち」に設計する

はじめに要点を整理します。認知症対策として家族信託を検討する場合、最も重要なのは「本人に判断能力があるうちに契約内容を設計しておく」という点です。判断能力が低下した後では、新たに家族信託の契約を結ぶことは難しく、成年後見など別の制度を検討する場面になります。

この記事の結論(先に押さえておきたい点)

  • 家族信託は、判断能力があるうちに、財産管理を家族(受託者)に託しておく仕組みです。判断能力が低下した後では契約は難しくなります。
  • 家族信託は財産管理の仕組みであり、医療・介護・施設入所などの身上保護そのものを当然にカバーする制度ではありません。
  • 農地は宅地や建物と同じようには扱えず、農地法・農業委員会の確認が必要です。農地のまま家族を受託者として信託することは、原則として難しいと考えられています。
  • 会社株式や事業用資産を含める場合は、会社法・定款・役員選任手続なども併せて確認する必要があります。代表取締役の地位そのものは信託財産ではありません。
  • 税務(贈与税・相続税・所得税・固定資産税など)の扱いは設計により変わり得るため、税理士の確認が必要です。家族信託は相続税対策そのものではありません。
  • 成年後見・任意後見・遺言・生前贈与と比較したうえで、どの方法が適しているかは個別事情により異なります。

家族信託(民事信託)とは何か

家族信託とは、自分の財産の管理や承継を、信頼できる家族などに託しておく仕組みの呼び名です。法律上は「民事信託」として説明されることが多く、信託法という法律をもとに設計します。営業として行う信託(信託銀行などが扱う商事信託)とは異なり、家族間で財産管理を行う場面を指して「家族信託」と呼ばれています。

委託者・受託者・受益者・信託財産という4つの役割

家族信託を理解するうえで、次の4つの言葉を押さえておくと整理しやすくなります。

用語 意味 認知症対策での典型例
委託者(いたくしゃ) 財産を託す人。もともとの財産の持ち主 財産を持つ親
受託者(じゅたくしゃ) 託された財産を管理・処分する人 管理を任される子
受益者(じゅえきしゃ) 信託財産から生じる利益を受け取る人 多くの場合は親本人(自益信託)
信託財産 信託の対象として託す財産 賃貸不動産、自宅、金銭など

典型的な認知症対策では、親が委託者かつ受益者となり、子を受託者とする設計(自益信託)がよく検討されます。この場合、財産から生じる利益(家賃など)は引き続き親が受け取りつつ、管理や契約手続きは子が行えるようにしておく、というイメージです。受託者には、信託の目的に従って財産を適切に管理する義務(善良な管理者としての注意義務、受益者のために忠実に行動する義務、自分の財産と分けて管理する義務、帳簿を作成し報告する義務など)が課されます。

「家族信託」と「民事信託」という呼び方

「家族信託」は一般向けの呼び名で、法的な文書や専門家の説明では「民事信託」という言葉が使われることがあります。どちらも基本的に同じ仕組みを指していますが、契約書や登記、税務の場面では正確な用語が用いられます。記事や広告で見かける「家族信託」と、実際に作成する契約書の表現は必ずしも同じではない、という点を知っておくと、相談時に話がかみ合いやすくなります。

何を家族に託し、何を本人に残すのか

家族信託では、すべての財産を託す必要はありません。管理を任せたい財産(例えば賃貸不動産や預貯金の一部)だけを信託財産とし、それ以外は本人の手元に残す、という設計も可能です。何を信託財産に含めるか、受託者にどこまでの権限を与えるか(売却・賃貸・修繕・借入などをどう扱うか)は、家族の状況や財産の性質によって変わります。ここは個別事情により結論が異なる部分であり、資料を確認したうえで検討する必要があります。

認知症対策としての位置づけ|判断能力が低下した後にできることは限られる

判断能力があるうちに契約を設計する必要がある

家族信託は契約によって成立します。契約を結ぶには、本人が契約内容を理解し判断できる状態であることが前提です。そのため、認知症が進行し判断能力が低下した後では、新たに家族信託の契約を結ぶことは難しくなります。「認知症になってから家族信託をすればよい」という考え方は、実際には成り立たない場面が多い、という点に注意が必要です。

判断能力が低下した後に財産管理の必要が生じた場合は、家庭裁判所が関与する成年後見(法定後見)を検討することになります。つまり、家族信託は「判断能力があるうちに備えておく」制度であり、タイミングが結論を大きく左右します。

財産管理と身上保護(医療・介護・施設入所)は別の問題

家族信託は、あくまで財産の管理・承継を扱う仕組みです。医療や介護の方針決定、施設への入所契約といった、本人の生活や身上に関する保護(身上保護)そのものを当然にカバーする制度ではありません。身上保護も重視したい場合は、任意後見や成年後見など、財産管理と身上保護の両方を視野に入れた制度との組み合わせを検討する必要があります。家族信託だけですべてが解決するわけではない、という点を押さえておくことが大切です。

成年後見・任意後見・遺言・生前贈与との違い

認知症対策や財産の承継には、家族信託以外にも複数の方法があります。それぞれ目的・始められる時期・できることが異なり、どれが適しているかは個別事情によって変わります。まずは違いを整理しておきましょう。

制度 主な目的・できること 始められる時期 身上保護 主な関与機関
法定後見
(後見・保佐・補助)
判断能力が低下した本人の財産管理・身上保護を、家庭裁判所が選任した後見人等が行う 判断能力が低下した後に申立て 含まれる 家庭裁判所
任意後見 判断能力低下に備え、あらかじめ本人が選んだ任意後見人に委任事務を任せる 契約は判断能力があるうちに公正証書で締結。効力発生は判断能力低下後、家庭裁判所が任意後見監督人を選任したとき 契約内容により対応可能 公証人・家庭裁判所
遺言 死亡後の財産の承継先を定める 効力は死亡時。生前の財産管理は対象外 対象外 (公正証書遺言の場合)公証人
生前贈与 生前に財産を移転する 贈与の時点 対象外 (税務)税務署
家族信託
(民事信託)
判断能力低下後も財産管理が止まらないよう、あらかじめ受託者に管理を託す。承継先の設計も可能な場合がある 契約は判断能力があるうちに締結。低下後も受託者が管理を継続できる 当然には含まれない (必要に応じ)公証人・法務局・金融機関・税理士

法定後見・任意後見との違い

法定後見は、判断能力が低下した後に家庭裁判所へ申し立てて利用する制度で、後見人等には家庭裁判所の監督が及びます。本人の財産を守ることが基本となるため、自宅の売却や積極的な資産活用には家庭裁判所の関与が必要になる場面があります。

任意後見は、判断能力があるうちに「誰に・何を任せるか」を公正証書で契約しておき、判断能力が低下した後、家庭裁判所が任意後見監督人を選任して初めて効力が生じる制度です。家族信託と任意後見は、いずれも「元気なうちに備える」点で共通しますが、家族信託は財産の管理・処分・承継の設計に向き、任意後見は身上保護を含む幅広い委任に対応しやすい、という違いがあります。両者を組み合わせて備えるケースもあります。どちらが適しているかは個別事情により異なります。

遺言・生前贈与との違い

遺言は、亡くなった後に財産を「誰に承継させるか」を定めるもので、生前の財産管理には使えません。生前贈与は、生きているうちに財産そのものを移転する方法ですが、所有権が完全に移るため、贈与税などの課税に注意が必要です。家族信託は、所有権の管理権限を受託者に移しつつ、利益は本人に残し、さらに承継先まで設計できる場合がある点で、これらとは性質が異なります。ただし、税務上の扱いは設計によって変わるため、必ず税理士に確認する必要があります。

「家族信託・任意後見・遺言・生前贈与のどれを選べばよいか分からない」という段階でこそ、制度の違いを整理しておくことが役立ちます。

家族の方針が分かれる前に、選択肢を比較検討しておくことをおすすめします。

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島の不動産・空き家・賃貸物件で家族信託が検討される場面

親名義の不動産が複数あり、しかも空き家や賃貸物件、共有名義の土地が含まれている——こうした場合、親の判断能力が低下すると、売却・賃貸・修繕・契約更新などの手続きが止まってしまうおそれがあります。家族信託は、こうした管理権限をあらかじめ受託者に整理しておく方法として検討されます。

空き家・古い建物・共有不動産・島外在住の相続人

使われていない実家や古い建物は、放置すると老朽化や管理コストの問題が生じます。所有者である親の判断能力が低下すると、売却や解体、賃貸への切り替えといった判断が難しくなります。また、相続人の一部が島外に住んでいる場合、いざ相続が起きた後に全員の足並みをそろえることが難しく、手続きが長期化しやすくなります。家族信託では、受託者を定めて管理・処分の窓口を一本化しておくことで、判断能力低下後の停滞を避けやすくなる場合があります。共有不動産の場合は、共有者全員の関係整理も必要になるため、設計はより慎重な検討を要します。

賃貸不動産(家賃管理・修繕・売却権限・信託登記)

賃貸アパートや貸地などの収益不動産を信託財産とする場合、次のような点を契約で整理しておく必要があります。

  • 家賃の入金口座(信託財産専用の口座をどう用意するか)
  • 既存の賃貸借契約・更新・新規募集の取扱い
  • 修繕・原状回復・管理会社との契約
  • 固定資産税の負担と納付
  • 不動産所得の申告(税務の扱い)
  • 売却や建替えの権限を受託者に与えるかどうか
  • 信託の登記(不動産の名義と信託である旨をどう登記するか)
  • 金融機関への説明(借入や口座開設の対応)

特に、信託財産から生じる家賃などの不動産所得や、固定資産税の扱いは、設計によって変わり得ます。これらは税理士の確認が必要な事項です。また、不動産を信託する場合には、所有権の移転と信託である旨を登記する手続きが関係し、登記の専門家(司法書士)との連携が必要になります。

借入・抵当権・保証関係がある場合

対象の不動産に住宅ローンや事業性の借入があり、抵当権が設定されている場合や、保証関係がある場合は、信託の設計が複雑になります。借入のある不動産を信託財産とできるか、信託後の返済をどう扱うか、金融機関の承諾が得られるかなどは、金融機関ごとの対応によって異なります。安易に「信託すれば問題ない」と考えず、事前に金融機関へ確認することが必要です。この点も個別事情により結論が異なります。

農地が含まれる場合の注意点

農地は、宅地や建物と同じようには扱えません。農地を信託財産に含められるかどうか、どのような方法によるかは、農地法・農業委員会の判断や、その土地の区域・状況によって大きく変わります。以下は一般的な考え方の整理であり、実際の可否は必ず個別に確認する必要があります。

農地は宅地・建物と同じようには扱えない

農地かどうかは、登記上の地目(田・畑)だけでなく、現在実際に耕作のために使われているか(現況)で判断されます。地目が畑でも宅地化されていれば農地として扱われないことがあり、逆に地目が違っても現況が農地であれば農地法の適用を受けることがあります。農地は、その権利を移したり、農地以外の用途に変えたり(転用)する際に、農業委員会の許可や届出が必要とされています。

農地のまま家族を受託者とする信託は原則として難しい

家族信託では、信託財産の管理権限が委託者から受託者へ移ります。しかし農地については、農地のまま、子などの家族(個人)を受託者として信託することは、原則として難しいと考えられています。農地の権利移転には農業委員会の許可が必要であり、信託の引受けによって権利を取得する場合は許可が認められないとされているためです。例外的に、一定の農業協同組合や農地中間管理機構などが受託者となる信託の枠組みは制度上想定されていますが、これは通常の家族信託とは異なります。

なお、この論点については専門家の間でも解釈が一様ではなく、取扱いが分かれる部分があります。そのため、「農地も家族信託できます」「農地は信託できません」といった単純な断定は避けるべき領域です。実際にどう扱えるかは、土地の現況・区域・耕作の状況などにより異なり、資料を確認したうえで個別に検討する必要があります。

転用を前提とする場合・別の財産で設計する場合

農地を将来的に宅地などへ転用する前提であれば、農地法に基づく転用の許可・届出を条件として信託の設計を検討できる場合があります。市街化区域内の農地は届出で足りることが多い一方、市街化を抑える区域(市街化調整区域)の農地は転用が認められないことも多く、難易度が大きく異なります。転用が認められなかった場合に備えて、任意後見や遺言など別の方法を併用しておく、という設計も考えられます。

また、農地そのものではなく、農地以外の財産(賃料、預貯金、事業用資産、会社株式など)を中心に信託を設計し、農地は別の制度(遺言・任意後見・農地中間管理機構の活用など)で対応する、という整理が適切な場合もあります。どの方法が適しているかは、農業を続けるのか・誰が耕作するのか・転用の見込みがあるのかといった事情によって変わり、個別事情により結論が異なります。農地が関係する場合は、弁護士・税理士・司法書士に加え、農業委員会など関係機関への事前確認が欠かせません。

事業・会社株式が含まれる場合の注意点

店舗や事業所、会社を経営している場合、その承継も視野に入れて検討することになります。事業に関係する財産は、性質ごとに分けて整理する必要があります。

個人事業用資産・店舗不動産

個人事業の場合、事業用の不動産(店舗・倉庫・作業場など)、設備、事業用の口座などが管理の対象になります。これらを信託財産に含めることで、判断能力低下後も事業の運営や資産管理を継続しやすくする設計が検討されます。ただし、許認可が必要な事業では、許認可の名義や要件が信託によってどう扱われるかを個別に確認する必要があります。

会社株式と議決権

会社(法人)の場合、経営の意思決定は株式に基づく議決権の行使によって行われます。オーナー社長が認知症などで判断能力を失うと、株主総会での議決権行使ができなくなり、役員の選任や重要な決定が滞るおそれがあります。会社株式を信託財産とし、受託者が議決権を行使できるよう設計しておくことで、こうした停滞を避けやすくする方法が検討されます。ただし、株主名簿の書換え、定款の定め、種類株式の有無など、会社法上の確認事項が多く、設計には慎重な検討が必要です。

代表取締役の地位は信託財産ではない

注意が必要なのは、「会社の代表者としての地位」そのものは、相続財産でも信託財産でもない、という点です。代表取締役は、定款や会社法のルールに従った役員選任の手続きによって決まります。したがって、株式を信託しても、それだけで後継者が自動的に代表取締役になるわけではありません。誰を代表者にするかは、定款・株主総会・取締役会などの手続きを通じて別途整える必要があります。後継者が決まっている場合と決まっていない場合、相続人の中に経営に関与する人としない人がいる場合とで、設計の考え方は変わります。会社法・定款・株主名簿・役員選任手続・許認可・金融機関対応を併せて確認することが重要です。

農地・賃貸不動産・会社株式・個人事業など、複数の財産や事業が絡む場合は、家族信託だけで対応できる部分と、ほかの手続き(会社法上の手続き、農業委員会・税務の確認など)が必要な部分を切り分けて整理することが大切です。

当事務所は弁護士・公認会計士として、法務と会計の両面から検討をお手伝いできる体制があります。早めに資料を確認しておくことで、検討の手順を整理できます。

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家族信託で決めておくべき事項

家族信託を設計する際には、次のような事項を具体的に決めておく必要があります。設計を誤ると将来の紛争の原因になりかねないため、ひとつずつ丁寧に検討します。

  • 何を信託財産にするか(不動産・金銭・株式など)
  • 誰を受託者にするか
  • 受託者ができる行為の範囲(売却・賃貸・借入・建替え・修繕など)
  • 受益者を誰にするか
  • 受託者が死亡・病気になった場合の後継受託者をどうするか
  • 受益者が死亡した場合の取扱い
  • 信託が終了したときの財産の帰属先(帰属権利者)
  • 受託者への報酬の有無
  • 帳簿・報告の方法
  • 監督役(信託監督人)や受益者代理人を置くかどうか
  • 税務申告・登記・金融機関対応の段取り

これらは家族の状況や財産の性質によって最適な内容が変わります。とくに受託者の権限の範囲と、信託終了時の帰属先は、後のトラブルに直結しやすい部分です。個別事情により結論が異なるため、資料を確認したうえで検討する必要があります。

家族信託のメリット

家族信託には、ほかの制度では対応しにくい場面を補える可能性があります。主に次のような点が挙げられます。

  • 判断能力が低下した後も、財産管理が止まらないように設計できる可能性がある
  • 不動産の管理・処分の権限を、あらかじめ明確にしておきやすい
  • 受託者・後継受託者・信託終了時の帰属先を、あらかじめ定めておける
  • 場合によっては、複数世代にわたる承継を設計できることがある
  • 成年後見や遺言だけでは対応しにくい場面を補える可能性がある

もっとも、これらはあくまで「適切に設計できた場合に期待できる可能性」であり、すべてのケースで実現できるわけではありません。財産の内容や家族の状況によっては、別の制度の方が適していることもあります。

家族信託の注意点・デメリット

家族信託は万能の制度ではありません。検討にあたっては、次のような注意点も理解しておく必要があります。

  • 家族間の合意形成が必要で、関係者の理解が得られないと進めにくい
  • 受託者の負担(管理・帳簿・報告など)が重くなりやすい
  • 税務上の扱いを事前に確認する必要がある(贈与税・相続税・所得税・固定資産税など)
  • 信託専用の口座(信託口口座)を開設できるか、金融機関への確認が必要
  • 不動産の登記費用、公正証書を作成する場合の費用、専門職への報酬などが発生し得る
  • 農地や許認可が関係する事業では、利用しにくい場合がある
  • 設計を誤ると、かえって将来の紛争の原因になり得る

なお、家族信託は「相続税対策そのもの」ではありません。主な目的は財産管理・承継の設計であり、税負担が当然に軽くなるわけではない、という点に注意が必要です。税務上の影響は設計によって変わるため、税理士の確認が欠かせません。

相談前に準備しておきたい資料

家族信託を含めた選択肢を検討する際は、財産と家族関係の全体像が分かる資料があると、相談がスムーズに進みます。すべてをそろえてからでなくても構いませんが、可能な範囲で次の資料を準備しておくことをおすすめします。

区分 主な資料 確認の観点
不動産関係 固定資産税納税通知書、登記事項証明書、公図・地積測量図など 所在・名義・地目・評価額の把握
農地関係 農地の利用状況が分かる資料、農地台帳、耕作者・賃貸借や利用権設定の有無が分かる資料 現況・区域・耕作実態・転用の見込み
賃貸関係 賃貸借契約書、家賃の入金状況が分かる資料、管理会社との契約書 収益・契約内容・管理体制
借入・担保関係 借入残高・抵当権・保証関係が分かる資料 担保の有無・金融機関対応の要否
事業・会社関係 会社の定款、株主名簿、法人登記事項証明書、決算書・申告書、許認可関係の資料 株式構成・議決権・許認可・財務状況
家族・相続関係 親族関係図、推定相続人の一覧、遺言書の有無、任意後見契約・委任契約の有無 承継先・既存の備えの有無
本人の意思 本人の希望を示すメモ 本人が何を望んでいるか

弁護士に相談するタイミング

家族信託をはじめとする備えは、早すぎて困ることは基本的にありません。むしろ、判断能力が低下してからでは選べる選択肢が限られてしまいます。次のような段階が、検討を始める目安になります。

  • 親が元気で、判断能力に問題がないうち
  • 物忘れが気になり始めた段階
  • 不動産の売却や賃貸管理を考え始めた段階
  • 農地や事業の承継で、家族の意見が分かれそうな段階
  • 相続人の一部が島外にいて、将来の手続きに不安がある段階
  • 家族信託・任意後見・遺言・生前贈与のどれを選ぶべきか迷っている段階

弁護士に相談することで、結果を保証してもらえるわけではありませんが、資料を確認したうえで、どのような選択肢があり、それぞれ何を確認すべきかという判断材料や対応の方針を整理することができます。とくに農地・事業・税務が関係する場合は、関係機関や税理士・司法書士との連携も含めて、早めに検討手順を整理しておくことが役立ちます。

よくある質問

Q.認知症になった後でも家族信託はできますか。

A.家族信託は契約によって成立するため、本人が契約内容を理解し判断できることが前提です。判断能力が低下した後に新たに契約を結ぶことは難しく、その場合は成年後見など別の制度を検討することになります。判断能力の程度は個別に確認する必要があります。

Q.農地を家族信託に入れることはできますか。

A.農地は宅地や建物と同じようには扱えません。農地のまま家族(個人)を受託者として信託することは原則として難しいと考えられており、転用の許可・届出を条件とする設計や、別の財産での設計を検討する場合があります。可否や方法は土地の現況・区域・耕作状況により異なり、農業委員会などへの確認が必要です。

Q.賃貸不動産を家族信託にすると何が変わりますか。

A.受託者が、契約で定めた範囲で家賃管理・修繕・契約手続き・場合によっては売却などを行えるようになります。一方で、信託専用口座の開設、信託の登記、不動産所得や固定資産税の扱い、金融機関への説明など、確認すべき点が増えます。税務面は税理士の確認が必要です。

Q.家族信託と成年後見はどちらを選べばよいですか。

A.家族信託は判断能力があるうちに財産管理・承継を設計する仕組み、成年後見は判断能力が低下した後に本人を保護する制度で、目的も始められる時期も異なります。身上保護を重視するか、柔軟な財産管理を重視するかなどによって適した方法は変わり、組み合わせて備える場合もあります。個別事情により結論は異なります。

Q.家族信託と遺言はどう違いますか。

A.遺言は、亡くなった後の財産の承継先を定めるもので、生前の財産管理には使えません。家族信託は、生前の財産管理を受託者に託しつつ、承継先まで設計できる場合がある点で異なります。両者を併用することもあります。どちらが適しているかは状況によります。

Q.受託者は長男でなければいけませんか。

A.受託者を長男にしなければならない決まりはありません。財産を適切に管理でき、家族の理解が得られる方を選ぶことが大切です。受託者の負担や報告義務、家族間の公平性、後継受託者の定めなども併せて検討する必要があります。誰が適任かは個別事情により異なります。

Q.家族信託にすると相続税対策になりますか。

A.家族信託は相続税対策そのものではなく、主な目的は財産管理・承継の設計です。税負担が当然に軽くなるわけではありません。むしろ設計によって贈与税・相続税・所得税などの扱いが変わり得るため、税理士に確認することが必要です。

Q.相談前に何を準備すればよいですか。

A.固定資産税納税通知書、登記事項証明書、賃貸借契約書、借入・担保関係の資料、会社の定款・株主名簿・決算書、親族関係図、遺言や任意後見契約の有無が分かる資料などがあると検討が進みやすくなります。すべてそろわなくても、可能な範囲でお持ちいただければ整理のお手伝いができます。

まとめ|判断能力があるうちに、選択肢を比較しておく

最後に、要点を整理します。

  • 家族信託(民事信託)は、判断能力があるうちに財産管理・承継を設計しておく方法のひとつであり、判断能力が低下した後では契約は難しくなります。
  • 財産管理の仕組みであり、身上保護そのものは当然には含まれません。成年後見・任意後見・遺言・生前贈与との比較が大切です。
  • 農地は宅地・建物と同じようには扱えず、農地のまま家族を受託者とする信託は原則として難しいと考えられています。可否は個別に確認が必要です。
  • 会社株式や事業を含める場合は、会社法・定款・役員選任手続なども併せて確認する必要があります。代表取締役の地位は信託財産ではありません。
  • 税務の扱いは設計により変わるため、税理士の確認が欠かせません。家族信託は相続税対策そのものではありません。
  • どの方法が適しているかは個別事情により異なります。まずは資料をそろえ、早めに選択肢を整理しておくことをおすすめします。

農地・賃貸不動産・空き家・会社株式・個人事業が関係する財産管理や承継は、家族信託が向いている場合もあれば、ほかの制度の方が適している場合もあります。判断能力があるうちに、選択肢を比較検討しておくことが、ご家族の安心につながります。

当事務所では、相続・成年後見・家族信託・事業承継に対応する弁護士・公認会計士が、資料を確認したうえで方針を整理するお手伝いをしています。農地・事業・税務が絡む場合も、関係機関や税理士・司法書士との連携を含めてご相談いただけます。

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監修者・執筆者情報

【要確認:以下は事務所サイトの最新表記に一致させてください】

弁護士法人ひょうごあわじみらい法律会計事務所
弁護士・公認会計士 藤井 貴之
所属弁護士会:【要確認】 弁護士登録番号:【要確認】
公認会計士の表記(登録/試験合格者の別):【要確認】
取扱分野:相続、遺言、成年後見、家族信託、事業承継 ほか【要確認】

当事務所は、弁護士業務と会計の知見をいかし、相続・事業承継に関するご相談に対応しています。記事の内容は一般的な情報の整理であり、個別の事案については、resourcesを確認したうえでの検討が必要です。

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