「個人再生をすれば借金は必ず5分の1になる」と聞いて手続を検討し始めたものの、持ち家や退職金、生命保険があることで、思ったほど返済額が下がらないのではないかと不安に感じていませんか。個人再生では、借金の総額だけでなく、いま持っている財産の価値(清算価値)も、最終的な返済額を左右します。
この記事では、個人再生の「清算価値」と「清算価値保障原則」の考え方を確認したうえで、持ち家・退職金・生命保険などの財産が弁済額にどう影響するのか、相談前に準備しておきたい資料は何かを、弁護士・公認会計士の視点から整理します。結論の方向性として、財産の内容や評価、家計の状況によって弁済額は変わり、一律に「いくらまで減る」と決まるものではありません。ご自身のケースで見通しを立てるには、資料を確認したうえでの個別の検討が必要です。
「自分の場合はいくら返済することになるのか」を知るには、借金額・財産・家計収支の資料を確認しながら整理することが出発点になります。まずは現状の整理からご相談いただけます。
個人再生の「清算価値」とは?まず結論と全体像
清算価値とは、大まかにいえば「いま自己破産をしたと仮定した場合に、財産を処分して債権者への配当に回せる見込みの金額」です。個人再生では、この清算価値を下回る返済計画は認められないという考え方(清算価値保障原則)がとられています。
そのため、個人再生の最終的な返済額(弁済額)は、借金の総額から機械的に決まるわけではありません。持ち家や退職金、保険などの財産があると清算価値が上がり、その分だけ返済額の下限が引き上げられることがあります。「個人再生なら必ず借金が5分の1になる」とは限らないのは、このためです。
個人再生の弁済額は、①借金の総額に応じた基準、②財産の価値(清算価値)に応じた基準、③(給与所得者等再生の場合)収入に応じた基準を比較し、そのうち最も高い金額が下限になります。財産の内容や評価によって結論が変わるため、資料を確認したうえで検討する必要があります。
| 基準 | 内容 | 主に確認するもの |
|---|---|---|
| 最低弁済基準 | 住宅ローンなどを除いた借金の総額に応じて、法律上定められた返済額の下限 | 債権者一覧、借入残高 |
| 清算価値保障原則 | いま自己破産した場合に配当される見込み額(清算価値)以上を返済する必要があるという考え方 | 不動産・退職金・保険・預貯金などの財産資料 |
| 可処分所得基準 | 給与所得者等再生を選ぶ場合に加わる基準。手取り収入から一定の生活費等を差し引いた額の2年分 | 源泉徴収票、課税証明書、給与明細 |
以下では、それぞれの基準の関係と、持ち家・退職金・保険などの財産が清算価値にどう影響するのかを順に確認します。個人再生の手続全体の概要や最低弁済額の詳しい説明は、別の記事で扱っています。
清算価値保障原則と最低弁済額の関係|弁済額はどう決まるか
個人再生には、大きく分けて「小規模個人再生」と「給与所得者等再生」の2種類があります。いずれも、将来にわたって継続的または反復して収入を得る見込みがあり、住宅ローンなどを除いた借金の総額が原則として5000万円以下であることが利用の前提とされています(民事再生法第221条第1項参照)。
最低弁済基準(借金の総額に応じた下限)
最低弁済基準は、住宅ローンなどを除いた借金の総額に応じて返済額の下限を定めるものです(民事再生法第231条第2項第3号・第4号参照)。おおよその目安は次の表のとおりですが、基準となる債権の範囲や具体的なあてはめは事案により異なり、正確な金額は資料を確認したうえで判断する必要があります。
| 基準となる借金の総額(住宅ローン等を除く) | 最低弁済基準額の目安 |
|---|---|
| 100万円未満 | 借金の総額と同額 |
| 100万円以上500万円以下 | 100万円 |
| 500万円を超え1500万円以下 | 借金の総額の5分の1 |
| 1500万円を超え3000万円以下 | 300万円 |
| 3000万円を超え5000万円以下 | 借金の総額の10分の1 |
清算価値保障原則(財産に応じた下限)
清算価値保障原則とは、再生計画による返済総額が、いま自己破産した場合に債権者へ配当される見込み額(清算価値)を下回ってはならないという考え方です。民事再生法上、「再生計画の決議が再生債権者の一般の利益に反するとき」は再生計画が認可されないと定められており(民事再生法第174条第2項第4号参照)、この規定が清算価値保障の根拠になると説明されています。
つまり、最低弁済基準で計算した金額よりも清算価値のほうが高い場合には、清算価値以上の金額を返済する内容にしなければなりません。財産が多いほど返済額の下限が上がり、場合によっては借金の減額効果が小さくなることもあります。
可処分所得基準(給与所得者等再生で加わる基準)
給与所得者等再生を選ぶ場合には、上記の2つに加えて「可処分所得基準」を満たす必要があります。これは、手取り収入から所得税・住民税・社会保険料や、本人と扶養家族の最低限度の生活を維持するために必要な費用を差し引いた金額(可処分所得)の2年分以上を返済しなければならないというものです(民事再生法第241条第2項第7号参照)。可処分所得の2年分は、最低弁済基準や清算価値よりも高くなることが少なくありません。
小規模個人再生と給与所得者等再生で確認する基準の違い
小規模個人再生では「最低弁済基準」と「清算価値」を比較し、高いほうが弁済額の下限になります。給与所得者等再生では、これに「可処分所得の2年分」が加わり、3つのうち最も高い金額が下限になります。どちらの手続を選ぶかで返済額が変わるため、収入や家族構成、財産の状況をふまえて比較検討することが必要です。なお、返済期間は原則として3年(特別の事情がある場合は最長5年)とされています。
清算価値に影響しやすい財産と確認資料
清算価値は、預貯金や現金だけでなく、退職金の見込額、保険の解約返戻金、不動産など、さまざまな財産をもとに算定されます。どの財産をいくらで評価するかは、裁判所の運用や個別の事情によって異なることがあります。主な財産と、評価のために確認する資料は次のとおりです。
| 財産の種類 | 清算価値で問題になりやすい点 | 主な確認資料 |
|---|---|---|
| 不動産(持ち家・土地) | 時価が住宅ローン残高を上回る場合、その差額が計上されやすい | 登記事項証明書、住宅ローン残高証明書、不動産査定書、固定資産税納税通知書 |
| 退職金 | 受け取る見込みがある場合、一定割合が計上されることがある | 退職金規程、退職金見込額証明書 |
| 生命保険・個人年金・共済 | 解約返戻金がある場合、その見込額が計上されやすい | 保険証券、解約返戻金証明書 |
| 預貯金・現金 | 一定額を超える部分が計上されることがある | 預貯金通帳、残高証明書 |
| 自動車 | 処分見込額が一定額を超える場合に計上されやすい | 車検証、査定資料、ローン残高資料 |
| その他の財産 | 有価証券、暗号資産、敷金、貸付金、売掛金、過払金、事業用資産、相続財産、財産分与請求権なども対象になり得る | 各種明細、契約書、取引資料 |
財産を家族名義に移す行為や、一部の債権者だけに返済する行為(偏頗弁済)は、かえって手続の妨げになったり、清算価値に上乗せされたりするおそれがあります。財産の名義変更や返済の順序に不安がある場合は、手続を進める前に確認することをおすすめします。
持ち家・退職金・保険など、財産の種類によって清算価値の考え方は異なります。ご自身のケースで弁済額の見通しを整理したい方は、資料を確認しながら検討できます。
持ち家がある場合の清算価値の考え方
自宅の時価・住宅ローン残高・担保権を確認する
持ち家がある場合、清算価値の計算では、自宅の時価から住宅ローン残高(抵当権などの担保によって回収が見込まれる額)を差し引いた金額が、基本的な考え方になります。時価が住宅ローン残高を上回っていれば、その差額が清算価値に計上され得ます。
注意したいのは、不動産の評価は固定資産税評価額だけで機械的に決まるものではないという点です。実際には、不動産会社の査定、登記事項証明書、住宅ローン残高証明書などの資料を確認したうえで、時価やローン残高を把握する必要があります。
オーバーローンとアンダーローン
住宅ローン残高が自宅の時価を上回っている状態を「オーバーローン」、下回っている状態を「アンダーローン」と呼ぶことがあります。オーバーローンの場合、差額としての価値が出ないため、自宅の清算価値は低く評価されやすい傾向があります。一方、アンダーローンの場合は、時価とローン残高の差額が清算価値に計上され、返済額の下限が上がることがあります。ただし、実際の評価は資料と個別事情によって異なります。
共有名義・ペアローン・連帯債務・連帯保証がある場合
自宅が夫婦の共有名義になっている場合や、ペアローン・連帯債務・連帯保証がある場合は、持分の評価や他の名義人・保証人への影響も含めて検討が必要になります。共有だからといって当然に低く評価されるとは限らず、事案により扱いが異なります。ご家族の関係する資料もあわせて確認しておくとよいでしょう。
住宅ローンを支払いながら自宅を残す仕組み(住宅資金特別条項)の詳しい要件や利用のポイントは、別の記事で解説しています。
住宅ローンを支払いながら自宅を残す仕組み(住宅資金特別条項)を確認する
退職金がある場合の清算価値の考え方
なぜ退職金見込額が財産として問題になるのか
退職金は、将来受け取る見込みのある財産として、清算価値の計算で問題になることがあります。まだ退職していない場合でも、勤務先の退職金規程などから算定される「いま退職したと仮定した場合の退職金見込額」の一定割合が、清算価値に計上されることがあります。
すでに受け取った退職金と将来の見込みの違い
すでに退職金を受け取っている場合は、その使途や残っている金額が問題になります。他方、まだ受け取っていない場合は、退職が間近かどうか、勤続の状況などによって、評価上の扱いが変わることがあります。
退職金見込額のうちどの程度を清算価値に計上するか(評価割合)は、裁判所の運用や退職の確実性などの事情によって異なります。一律に「必ず何分の何」と決まるものではないため、勤務先の退職金規程や退職金見込額証明書を確認したうえで検討する必要があります。退職金があるからといって、個人再生ができなくなるわけではありません。
生命保険・個人年金・共済がある場合の考え方
解約返戻金の有無と保険の種類
生命保険や個人年金、共済については、「解約したらいくら戻ってくるか」(解約返戻金)が清算価値に影響します。いわゆる掛け捨て型の保険は解約返戻金がないか、あってもごくわずかなことが多い一方、積立型(貯蓄型)の保険は解約返戻金が大きくなることがあり、その見込額が清算価値に計上され得ます。
保険を必ず解約しなければならないわけではない
解約返戻金が清算価値に含まれることと、保険自体を解約しなければならないこととは、別の問題です。清算価値に相当する金額を返済計画に反映できれば、保険を解約せずに手続を進められる場合もあります。ただし、契約者貸付を利用している場合など、個別の事情によって扱いが変わることがあるため、保険証券や解約返戻金証明書を確認したうえで判断する必要があります。
その他に清算価値で問題になりやすい財産
上記のほかにも、預貯金、現金、自動車、株式・投資信託・暗号資産などの有価証券等、敷金、貸付金、売掛金、過払金、事業用資産、相続によって取得した財産、離婚に伴う財産分与請求権など、さまざまな財産が清算価値の対象になり得ます。何が、いくらで評価されるかは、資料と個別事情によって異なります。手続を検討する段階で、思い当たる財産をひととおり洗い出しておくと、見通しを立てやすくなります。
弁護士・公認会計士の視点で確認すること
個人再生では、法律上の要件を満たすかどうかだけでなく、財産の評価、家計収支、将来のキャッシュフロー、そして再生計画をきちんと履行できるかどうかまでを、あわせて確認することが大切です。清算価値の計算は、不動産・退職金・保険・事業用資産など、数字の評価が関わる場面が多く、法律と会計・家計の両面から検討することで、より現実的な見通しを立てやすくなります。当事務所では、弁護士・公認会計士として確認できる範囲で、これらを整理しながら対応方針を検討します。
相談前に準備しておきたい資料
個人再生の見通しを立てるには、借金の状況と財産の状況の両方がわかる資料が必要です。次のような資料が手元にあると、清算価値や弁済額の検討がスムーズになります。すべてが揃っていなくても構いませんので、準備できるものから確認していきましょう。
- 債権者一覧、督促状・請求書・返済予定表
- 給与明細、源泉徴収票、課税証明書、確定申告書
- 預貯金通帳、残高証明書
- 生命保険証券、解約返戻金証明書
- 退職金規程、退職金見込額証明書
- 不動産の登記事項証明書、固定資産税納税通知書、固定資産評価証明書、不動産査定書
- 住宅ローン契約書、返済予定表、残高証明書
- 自動車の車検証、査定資料、ローン資料
- 家計収支の状況がわかる資料
- 税金・社会保険料・養育費・保証債務などに関する資料
- 家族・共有者・保証人・連帯債務者に関する資料
弁護士に相談するタイミング
個人再生を利用できるか、利用した場合に弁済額がどの程度になりそうかは、借金の総額と財産の評価、家計の状況を確認して初めて見通しが立ちます。弁護士に相談することで結果が保証されるわけではありませんが、資料をもとに現状を整理し、個人再生・任意整理・自己破産などの選択肢や、それぞれの見通しを検討しやすくなります。
特に、持ち家・退職金・保険があり、清算価値が弁済額に影響しそうな場合や、財産の名義変更・一部の債権者への返済を考えている場合は、手続を進める前の段階で一度確認しておくことをおすすめします。弁護士費用の目安は、次のページでご確認いただけます。
よくある質問(FAQ)
個人再生の「清算価値」とは何ですか。
大まかにいえば、いま自己破産をしたと仮定した場合に、財産を処分して債権者への配当に回せる見込みの金額です。個人再生では、この清算価値を下回る返済計画は認められないという考え方(清算価値保障原則)がとられています。
清算価値が高いと、個人再生の返済額は増えますか。
増える可能性があります。清算価値が最低弁済基準による金額を上回る場合は、清算価値以上を返済する内容にする必要があります。実際の金額は財産の評価や個別事情により異なります。
持ち家があると個人再生はできませんか。
持ち家があること自体で個人再生ができなくなるわけではありません。ただし、自宅の時価がローン残高を上回る場合は、その差額が清算価値に影響することがあります。住宅ローンを支払いながら自宅を残す仕組みもありますので、資料を確認したうえで検討します。
住宅ローンが残っている家は、どのように評価されますか。
基本的には、自宅の時価から住宅ローン残高を差し引いた金額が考え方の出発点になります。固定資産税評価額だけで決まるものではなく、査定書や残高証明書などの資料を確認して判断する必要があります。
退職金の見込額は清算価値に入りますか。
受け取る見込みがある場合、退職金見込額の一定割合が計上されることがあります。どの程度計上されるかは、退職の確実性や裁判所の運用などにより異なります。退職金があるからといって個人再生ができなくなるわけではありません。
生命保険の解約返戻金があると、保険を解約しなければなりませんか。
必ず解約しなければならないわけではありません。解約返戻金の見込額が清算価値に影響することはありますが、その金額を返済計画に反映できれば、保険を解約せずに進められる場合もあります。契約内容により異なるため、資料を確認して判断します。
財産を家族名義に移せば、清算価値を下げられますか。
おすすめできません。財産を家族名義に移す行為や、一部の債権者だけに返済する行為は、かえって手続の妨げになったり、清算価値に上乗せされたりするおそれがあります。名義変更や返済を検討している場合は、事前に確認することをおすすめします。
弁護士に相談する前に、どの資料を準備すればよいですか。
債権者一覧や借入の資料に加え、給与明細・源泉徴収票、預貯金通帳、保険証券・解約返戻金証明書、退職金規程・見込額証明書、不動産の登記事項証明書・査定書・住宅ローン残高証明書などがあると検討しやすくなります。すべて揃っていなくても、準備できるものからで構いません。
まとめ
- 個人再生の弁済額は、借金の総額だけでなく、財産の価値(清算価値)によっても左右されます。
- 清算価値保障原則により、いま自己破産した場合の配当見込み額を下回る返済計画は認められません。
- 持ち家・退職金・生命保険などがあると清算価値が上がり、返済額の下限が引き上げられることがあります。
- 不動産や退職金、保険の評価は、資料と個別事情、裁判所の運用によって異なり、一律には決まりません。
- 財産の名義変更や一部の債権者への返済は、手続前に確認しておくことが大切です。
- まずは借金・財産・家計の資料を確認し、個人再生を利用できるか、弁済額の見通しはどの程度かを整理することが出発点になります。
借金額・財産・家計収支の資料を確認しながら、個人再生を利用できるか、弁済額の見通しはどの程度かを整理できます。初めての方の初回相談は無料でお受けしており、借金問題(債務整理)については無料電話相談にも対応しています(いずれも事前のご予約をお願いします)。
監修者
藤井貴之(ふじい たかゆき)
弁護士・公認会計士(通知税理士)
所属:兵庫県弁護士会/日本公認会計士協会兵庫会
弁護士法人ひょうご支所 神戸みらい法律会計事務所(神戸市須磨区中落合2丁目2-5 名谷センタービル7階)
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