親や祖父母が亡くなった後、不動産の名義を被相続人のままにしていないでしょうか。令和6年4月1日から相続登記の申請が義務化され、施行日より前に発生した相続であっても、相続登記が済んでいない場合は、原則として令和9年3月31日までに相続登記をする必要があります(民法等の一部を改正する法律(令和3年法律第24号)附則第5条第6項)。
この記事では、施行前の相続にかかる申請期限、過料の対象となる要件、期限に間に合わないときに検討できる相続人申告登記、相談前に確認しておきたい資料を整理します。もっとも、期限の起算点や過料の判断は個別事情により異なるため、実際の対応は戸籍や登記事項証明書などの資料を確認したうえで判断する必要があります。
相続した不動産の名義変更が済んでいるか分からない、令和9年3月31日までに何をすればよいか整理したいという場合は、資料を確認しながら手続の優先順位を検討できます。
まず確認したい結論と全体像
相続登記の期限が迫っている場合、まず押さえておきたい要点は次のとおりです。
- 令和6年4月1日より前に発生した相続でも、相続登記が未了であれば義務化の対象となり、原則として令和9年3月31日までに相続登記が必要です。
- 正当な理由がないのに期限内に申請しないと、10万円以下の過料の対象となり得ます(不動産登記法第164条第1項)。ただし、期限を過ぎたら直ちに一律に科されるものではありません。
- 期限内の相続登記が難しい場合は、相続人申告登記により義務を簡易に履行できる余地があります(不動産登記法第76条の3)。ただし、これは不動産の権利関係を確定させる手続ではありません。
- 遺産分割がまとまらない、相続人間で取得者や売却方針をめぐって意見が分かれているといった場合は、登記手続だけでなく、方針を整理するために早めに相談することを検討してください。
| 項目 | 確認ポイント | 次にすること |
|---|---|---|
| 対象かどうか | 被相続人名義の不動産があり、相続登記が未了か | 登記事項証明書で名義を確認する |
| 期限 | 施行前の相続か、取得を知った日はいつか | 令和9年3月31日か、知った日から3年以内かを確認する |
| 間に合わない場合 | 遺産分割や書類収集が期限内に終わらないか | 相続人申告登記の利用を検討する |
| 紛争の有無 | 遺産分割や遺言の効力に争いがあるか | 早めに弁護士に相談する |
相続登記と義務化の基礎知識
相続登記とは
相続登記とは、被相続人(亡くなった方)が所有していた不動産について、相続を原因として名義(所有権の登記名義人)を相続人へ変更する登記です。
相続登記の申請義務化とは
令和6年4月1日から、相続(遺言を含みます)により不動産の所有権を取得した相続人は、自己のために相続の開始があったことを知り、かつ、その不動産の所有権を取得したことを知った日から3年以内に、相続登記の申請をすることが義務付けられました(不動産登記法第76条の2第1項)。
施行前の相続も対象になる理由
この義務は、施行日である令和6年4月1日より前に発生した相続にも及びます。施行日前に相続が開始し、相続登記が済んでいない不動産については、原則として令和9年3月31日まで(不動産を相続で取得したことを知った日が令和6年4月以降の場合は、その日から3年以内)に相続登記をする必要があります(民法等の一部を改正する法律(令和3年法律第24号)附則第5条第6項)。
「令和9年3月末」と表現されることがありますが、正確な期限は令和9年3月31日です。ただし、いつが起算点になるかは事案により問題となることがあり、資料を確認したうえで判断する必要があります。
期限・過料・正当な理由の整理
期限の考え方
| ケース | 期限 | 注意点 |
|---|---|---|
| 令和6年3月31日以前に発生した相続で相続登記が未了 | 原則として令和9年3月31日まで | 起算点が問題となる場合があり資料確認が必要 |
| 令和6年4月1日以降に不動産の取得を知った | 取得を知った日から3年以内 | 「知った日」の認定は事案により異なる |
| 遺産分割が成立した | 遺産分割成立日から3年以内 | 基本的義務とは別の追加的義務(不動産登記法第76条の2第2項) |
過料の要件と流れ
正当な理由がないのに相続登記の申請義務を怠ったときは、10万円以下の過料の対象となります(不動産登記法第164条第1項)。過料は刑罰ではなく、前科がつくものではありません。金額は裁判所が判断します。もっとも、期限を過ぎたら自動的に過料が科されるわけではありません。手続の流れは概ね次のとおりです。
- 登記官が申請義務の違反を把握します。
- 登記官が相当の期間を定めて相続登記を申請すべき旨を催告します。
- 催告にもかかわらず、正当な理由なくその期間内に申請がされないときに、管轄の地方裁判所に事件が通知されます(不動産登記規則第187条第1号)。
- 過料の額は裁判所が判断します。
| 状況 | 過料の可能性 | 確認すべき資料 |
|---|---|---|
| 期限後も相続登記・相続人申告登記のいずれもしていない | 正当な理由がなければ対象となり得る | 登記事項証明書、相続開始を知った時期が分かる資料 |
| 書類収集や相続人調査に時間がかかっている | 事情により正当な理由が認められる余地 | 戸籍収集の進捗、相続人の人数が分かる資料 |
| 相続人間で争いがあり帰属主体が決まらない | 事情により正当な理由が認められる余地 | 争いの経緯が分かる資料 |
正当な理由の考え方
一定の事情がある場合には、一般に「正当な理由」があると認められ、過料通知は行われないとされています。法務省が示している例は次のとおりです。
| 事情 | 具体例 | 注意点 |
|---|---|---|
| 相続人が極めて多数 | 戸籍関係書類の収集や他の相続人の把握に多くの時間を要する | 進捗を説明できる資料の整理が望ましい |
| 遺産の範囲や遺言の有効性に争い | 相続不動産の帰属主体が明らかにならない | 争いの状況が分かる資料 |
| 義務者本人の重病その他これに準ずる事情 | 入院・療養等で手続ができない | 事情を示す資料 |
| DV被害等で避難を余儀なくされている | 生命・心身に危害が及ぶおそれがある | プライバシーに配慮した相談 |
| 経済的困窮 | 申請費用を負担する能力がない | 事情を示す資料 |
これらに当たらない場合でも、個別の事案の具体的な事情により正当な理由が認められることがあります。正当な理由に当たるかは個別事情により異なるため、資料を確認したうえで判断する必要があります。
期限を過ぎても放置しない方が良い理由
過料の点を措いても、相続登記をしないまま放置すると、相続人がさらに亡くなって関係者が増える、必要な書類の収集が難しくなる、不動産の売却や担保設定ができないといった問題が生じやすくなります。期限が過ぎている場合でも、まずは現状を確認して対応を検討することをおすすめします。
相続人申告登記の使いどころと限界
制度の目的
相続人申告登記は、相続登記の申請義務化に伴い、相続人が申請義務を簡易に履行できるようにする観点から設けられた登記です(不動産登記法第76条の3)。期限内(3年以内)に相続登記の申請をすることが難しい場合に、義務を果たすための仕組みとして利用することが想定されています。
何ができて、何ができないのか
| 項目 | 通常の相続登記 | 相続人申告登記 |
|---|---|---|
| 目的 | 権利関係(所有権)の公示 | 申請義務の簡易な履行 |
| 権利の確定 | 名義が確定する | 権利関係を確定・公示するものではない |
| 申出・申請できる人 | 権利を取得した相続人 | 特定の相続人が単独で可(他の相続人分の代理申出も可) |
| 登録免許税 | 原則としてかかる | かからない |
| 押印・電子署名 | 必要な場合がある | 申出手続では不要 |
| 売却・抵当権設定 | 前提として可能 | 別途、相続登記が必要 |
| 遺産分割後の義務 | 内容に応じて登記が必要 | 遺産分割に基づく相続登記の義務は履行できない |
相続人申告登記の申出をしても、その申出をした相続人について義務を履行したものとみなされるにとどまります。相続人全員について義務を果たすには、全員が申出をする必要があります。また、相続した不動産を売却したり抵当権を設定したりする場合や、遺産分割が成立した場合には、別途、相続登記の申請が必要です。
必要書類の例
一般的な必要書類は次のとおりです。ただし、申出人と被相続人との関係により、必要な戸籍の範囲は異なります。
- 申出書
- 申出人が登記記録上の所有者の相続人であることが分かる戸籍の証明書(戸除籍謄本等)
- 申出人の住所を証する情報
- 委任状(代理人が手続を行う場合。複数の相続人が連名で申出書を作成・提出する場合は不要)
なお、申出手続はオンライン(WEBブラウザ)でも行うことができ、法定相続人の範囲や法定相続分の割合の確定は不要とされています。
申出後に必要となる対応
相続人申告登記は権利関係を確定させるものではないため、その後に遺産分割が成立した場合には、成立日から3年以内に、内容を踏まえた相続登記を申請する必要があります(不動産登記法第76条の2第2項)。この追加的義務は、相続人申告登記では履行できません。
よく問題になるケース
相続登記に関しては、次のような場面で判断に迷うことが多く見られます。いずれも個別事情により結論は異なります。
- 遺産分割協議がまとまらない:相続人申告登記による義務履行と、遺産分割の進め方を並行して整理する余地があります。
- 相続人が多数で戸籍が集まらない:収集に時間を要する場合、正当な理由が認められる余地がありますが、資料の整理が望ましいです。
- 相続人の一部と連絡が取れない:遺産分割の進め方や必要な手続を検討する必要があります。
- 被相続人名義の不動産が複数ある:不動産ごとに登記の要否や期限を確認する必要があります。
- 不動産を売却したい:相続人申告登記だけでは売却できず、相続登記が必要です。
- 共有名義にしてよいか迷っている:共有には将来の管理・処分に難しさが伴う場合があり、方針の検討が必要です。
- 過去の相続が何世代も放置されている:関係者が多数となり、権利関係の調査に時間を要することがあります。
- 固定資産税は払っているが登記はしていない:固定資産税の納付は、相続登記をしたことにはなりません。
- 相続放棄・遺留分・遺産分割調停が関係する:期限や手続選択に影響するため、早めの整理が望ましいです。
どの手続を優先すべきか、相続人申告登記で足りるのか、遺産分割を先に進めるべきかは、資料を確認することで見通しを検討できます。
手続前に確認したい資料(チェックリスト)
相談や手続の前に、次の資料が手元にあるかを確認しておくと、方針を整理しやすくなります。
- 登記事項証明書(不動産の名義・地番・家屋番号の確認)
- 固定資産税納税通知書、名寄帳、課税明細書(対象不動産の把握)
- 被相続人の戸籍・除籍・改製原戸籍
- 相続人の戸籍
- 住民票、戸籍の附票、住民票の除票
- 遺言書(ある場合)
- 遺産分割協議書の案(作成中の場合)
- 相続人間の連絡状況が分かる資料
- 不動産の評価に関する資料
- 法務局・司法書士・弁護士から届いた書類
- 過去の相続関係が分かる家系図やメモ
- 相続開始や取得を知った時期など、申請期限に関係する日付が分かる資料
弁護士に相談するタイミング
相続登記の申請手続そのものは、司法書士に依頼する方法や、法務局の登記相談・手続案内を利用する方法があります。一方で、次のように法的な調整や紛争解決が関係する場面では、弁護士に相談することで対応方針を整理しやすくなります。
| 状況 | 問題になりやすい点 | 相談時に持参したい資料 |
|---|---|---|
| 遺産分割がまとまらない | 取得者・代償金・売却方針の調整 | 登記事項証明書、遺産の一覧、相続人関係が分かる資料 |
| 相続人間で対立している | 交渉・調停の要否、方針の選択 | これまでの経緯が分かる資料 |
| 遺言の有効性や遺産の範囲に争い | 帰属主体の確定、証拠の整理 | 遺言書、関係資料 |
| 期限が迫っている | 相続人申告登記と遺産分割の進め方の整理 | 相続開始・取得を知った時期が分かる資料 |
| 相続放棄・遺留分・特別受益等も関係 | 手続選択と期間制限 | 関係資料 |
当事務所は、相続に関する法的な検討に加えて、会計・税務の視点も踏まえた整理を行うことができます。登記申請そのものや税務申告など、他の専門家の対応が必要な場面では、必要に応じて連携しながら進めます。相談により、資料の整理や今後の見通しを検討しやすくなります。ただし、結論は個別事情により異なります。
よくある質問(FAQ)
- 令和6年4月1日より前の相続も相続登記が必要ですか。
- 施行日前に発生した相続でも、相続登記が済んでいない場合は義務化の対象となり、原則として令和9年3月31日までに相続登記をする必要があります。ただし、起算点は事案により異なることがあります。
- 令和9年3月31日を過ぎると必ず過料になりますか。
- 必ず科されるわけではありません。正当な理由がないのに申請を怠り、登記官の催告にも応じない場合に、地方裁判所に通知され、裁判所が過料の額を判断します。過料は刑罰ではありません。
- 過料は誰に科されますか。
- 相続により不動産を取得し、相続登記の申請義務を負う相続人が対象です。正当な理由の有無を含め、個別事情により結論は異なります。
- 遺産分割協議がまとまらない場合はどうすればよいですか。
- 期限内の相続登記が難しい場合、相続人申告登記により義務を簡易に履行できる余地があります。あわせて遺産分割の進め方を整理することが考えられます。対応は事案により異なります。
- 相続人申告登記をすれば相続登記は不要になりますか。
- いいえ。相続人申告登記は権利関係を公示するものではなく、売却や抵当権設定、遺産分割後の登記には別途、相続登記が必要です。
- 相続人のうち1人だけで相続人申告登記はできますか。
- 特定の相続人が単独で申出することができます。ただし、申出をした相続人についてのみ義務を履行したものとみなされます。全員の義務を果たすには全員の申出が必要です。
- 固定資産税を払っていれば相続登記をしたことになりますか。
- なりません。固定資産税の納付と相続登記は別の手続です。
- 弁護士に相談すべきなのはどのような場合ですか。
- 遺産分割がまとまらない、相続人間で対立がある、遺言の効力や遺産の範囲に争いがある、期限が迫っており方針を整理したいといった場合に、相談を検討する意義があります。
まとめ
- 令和6年4月1日より前の相続でも、相続登記が未了なら原則として令和9年3月31日までに相続登記が必要です。
- 正当な理由なく期限内に申請しないと、10万円以下の過料の対象となり得ますが、直ちに一律に科されるものではありません。
- 期限内の相続登記が難しい場合は、相続人申告登記による義務の履行を検討できます。ただし権利関係を確定させる手続ではありません。
- 遺産分割や相続人間の対立がある場合は、登記手続だけでなく、早めに方針を整理することが重要です。
- まずは登記事項証明書や戸籍などの資料を確認し、必要に応じて相談することを検討してください。
相続登記の期限が近づいている、相続人申告登記で足りるのか判断したい、遺産分割の進め方を整理したいという場合は、資料を確認しながら見通しを検討できます。
監修者
この記事は、神戸みらい法律会計事務所(弁護士法人ひょうご支所)の弁護士が内容を確認しています。
弁護士 藤井 貴之(ふじい たかゆき)
所属:兵庫県弁護士会(登録番号48566)
取扱分野:相続・遺産分割、企業法務、M&A・事業承継、交通事故、債務整理 ほか
参考資料
- 法務省「相続登記の申請義務化について」https://www.moj.go.jp/MINJI/minji05_00599.html
- 法務省「相続登記の申請義務化に関するQ&A」https://www.moj.go.jp/MINJI/minji05_00565.html
- 法務省「相続人申告登記について」https://www.moj.go.jp/MINJI/minji05_00602.html
- e-Gov法令検索「不動産登記法」https://laws.e-gov.go.jp/law/416AC0000000123/

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