「経営方針をめぐる対立が解消できない」「役員に使途不明金や不正の疑いがある」「長年名前だけ残っている役員に退いてもらいたい」――役員(取締役・監査役など)の退任を検討する理由はさまざまですが、役員は従業員と異なり、解雇ではなく会社法の定める手続によって地位を失わせることになります。どの決議が必要か、解任された役員から損害賠償を請求されないか、登記や取引先への対応はどうするかなど、確認すべき事項は多岐にわたります。
役員の解任は、会社法上の手続を正しく踏めば可能な場合がありますが、招集手続や決議方法に瑕疵があると決議の効力が争われる可能性があり、解任に「正当な理由」がないと判断されると、会社が解任された役員に対する損害賠償義務を負う可能性もあります。また、実務では、解任そのものよりも、辞任の協議や任期満了での不再任といった選択肢が適切な場合も少なくありません。
本記事では、株式会社の役員解任を念頭に、手続の流れと決議要件、会社法339条2項の「正当な理由」の考え方、損害賠償リスクの整理、解任以外の選択肢を、経営者・株主・管理部門の方が実務で確認する順序に沿って解説します。あわせて、解任される役員側の視点にも触れながら、できるだけ中立的に整理します。なお、結論は定款の定めや機関設計、役員の種類、個別事情により異なりますので、最終的には資料を確認したうえで判断する必要があります。
Contents
この記事で分かること
- 解任・解職・辞任・任期満了の違いと、登記簿に記録される退任理由の扱い
- 役員解任の手続の流れ(前提確認、株主総会の招集・決議、議事録、役員変更登記、登記後の実務対応)
- 取締役・監査役など役員の種類ごとの決議要件と、特別利害関係・株主構成に関する注意点
- 会社法339条2項の「正当な理由」の判断枠組みと、損害賠償リスクの整理の仕方
- 役員の任期の長さが損害賠償リスクに与える影響
- 辞任の協議・任期満了での不再任など、解任以外の選択肢とその注意点
- 解任された役員側で確認すべき事項と、弁護士に相談するタイミング
役員解任は、解任理由・定款・株主構成・役員の任期・後任体制・登記までを一連で確認したうえで進めることが重要です。株主総会の招集や本人への通知に進む前に、資料を整理したうえで対応方針を検討することをおすすめします。
役員解任でまず確認したい結論
役員解任を検討する場面で、最初に押さえておきたい点は次のとおりです。
- 取締役・監査役などの役員は、原則として株主総会の決議によりいつでも解任できるとされています(会社法339条1項)。ただし、必要な決議の種類は役員の種類によって異なります。
- 招集手続や決議方法に瑕疵があると、決議の日から3か月以内の株主総会決議取消しの訴え(会社法831条1項)などにより、決議の効力が争われる可能性があります。
- 解任に「正当な理由」がない場合、解任された役員から、会社に対して損害賠償を請求される可能性があります(会社法339条2項)。「解任できるか」と「損害賠償リスクがあるか」は分けて検討します。
- 損害賠償の中心は残りの任期に対応する役員報酬相当額と整理されることが多いため、リスクの大きさは残存任期の長さと報酬額に左右されます。公開会社でない会社で任期を10年に伸長している場合は特に注意が必要です。
- 解任した場合、登記記録には退任の原因として「解任」と記録されるものとされています。辞任の協議や任期満了での不再任といった選択肢と比較したうえで進めることが望ましいといえます。
- 役員の変更は、原則として変更から2週間以内に登記する必要があります(会社法915条1項)。
もっとも、決議要件や損害の範囲は、定款・機関設計・役員の種類・契約・個別事情により異なります。以下、手続、決議要件、正当な理由、損害賠償リスク、解任以外の選択肢の順に整理します。
役員解任の基本(用語の整理)
会社法上の「役員」と日常用語の違い
会社法上、「役員」とは、取締役、会計参与および監査役をいいます(会社法329条1項)。日常用語で使われる「執行役員」は、会社が任意に設けている役職であることが多く、会社法上の役員とは限りません。執行役員が従業員としての地位を持つ場合には、役員の解任ではなく雇用契約の問題として整理すべき場面もあり、取扱いが異なります。なお、指名委員会等設置会社の「執行役」は会社法上の機関であり、ここでいう執行役員とは別の概念です。
取締役・監査役・代表取締役の違い
取締役は業務執行に関する意思決定に関与する役員、監査役は取締役の職務執行を監査する役員です。代表取締役は、取締役の中から選定され、会社を代表する権限を持つ役員です。ここで重要なのは、「取締役の解任」と「代表取締役の解職」は別の問題だという点です。代表取締役を代表者から外しても、取締役の地位は当然には失われません。
辞任・任期満了・解任・解職の違い
辞任は役員自らの意思で地位を退くこと、任期満了は任期の到来により退任することをいいます。これらに対し、解任は、役員の意思にかかわらず、株主総会等の決議により地位を失わせることをいいます。また、代表取締役を代表者の地位から外すことは「解職」と呼ばれ、取締役の「解任」とは区別されます。どの手続を選ぶべきかは、代表者だけ外したいのか、役員からも退いてほしいのかという目的によって変わります。
退任の理由は登記簿に記録される
役員が退任すると変更登記を行いますが、登記記録(履歴事項全部証明書)には、退任の原因(辞任、任期満了による退任、解任など)が記録されます。商業登記の記録例上も、解任の場合には原因を「解任」と記録するものとされています。登記事項証明書は誰でも取得できるため、解任の事実は金融機関や取引先も確認し得る状態になります。この点は、本人との退任協議や、後述する解任以外の選択肢を検討する際の重要な考慮要素になります。
役員解任の手続の流れ
実務では、おおむね次の手順で確認・対応を進めます。役員の種類や機関設計により手続が変わるため、前提事項の確認から始めます。
手順1 前提の確認(定款・登記・株主名簿・任期)
- 定款(決議要件・定足数の定め、代表取締役の定め方、任期の伸長の有無を確認)
- 履歴事項全部証明書(登記簿。役員構成・就任日・機関設計を確認)
- 株主名簿(議決権を行使できる株主と持株比率を確認。解任議案を可決できる議決権を確保できるかの見通しに直結します)
- 対象役員の任期・報酬に関する定めや決議、委任契約書(損害賠償リスクの検討材料になります)
- 後任候補と員数の確認(取締役会設置会社では取締役が3人以上必要です(会社法331条5項)。解任により員数を欠く場合の対応は手順4で説明します)
手順2 株主総会の招集
取締役会設置会社では、取締役会で株主総会の招集と解任議案の提出を決定し、招集通知を発します。取締役会設置会社の株主総会は、原則として招集通知に記載した事項以外は決議できないため(会社法309条5項)、解任議案を招集通知に明記しておく必要があります。招集通知の発送期限の原則は次のとおりです(会社法299条1項)。
| 会社の区分 | 招集通知の発送期限(原則) |
|---|---|
| 公開会社 | 株主総会の日の2週間前まで |
| 公開会社でない会社(取締役会設置会社) | 株主総会の日の1週間前まで |
| 公開会社でない会社(取締役会非設置会社) | 株主総会の日の1週間前まで(定款でさらに短縮できる場合があります) |
書面投票・電子投票を採用する場合は、公開会社でない会社でも2週間前までの通知が必要になるなどの例外があります。定款と併せて確認してください。
取締役側が招集に動かない場合(少数株主による招集請求)
株主の立場で役員解任を求めたいのに、取締役側が株主総会を開こうとしない場合には、総株主の議決権の3%以上(定款で軽減されている場合はその割合)の議決権を6か月前から引き続き有する株主は、株主総会の招集を請求できます(会社法297条1項)。公開会社でない会社では、6か月の保有期間要件はありません(同条2項)。請求後遅滞なく招集の手続がとられない場合などには、裁判所の許可を得て、株主自らが株主総会を招集できる場合があります(同条4項)。
手順3 株主総会での解任決議
株主総会を開催し、役員の種類に応じた決議を行います(決議要件は次章の一覧表を参照してください)。なお、監査役・会計参与は、自らの解任について株主総会で意見を述べることができ(会社法345条1項・4項)、監査等委員である取締役にも同様の意見陳述権があります(会社法342条の2第1項)。これらの役員を解任する場合には、意見陳述の機会に配慮した議事運営が必要です。
株主全員の同意が見込める場合(株主総会を開かない書面決議)
議決権を行使できる株主の全員が、解任の提案に書面または電磁的記録により同意した場合には、株主総会を開催せずに、その提案を可決する株主総会の決議があったものとみなされます(会社法319条1項)。株主構成が単純で全株主の同意が見込める会社では、招集手続の瑕疵をめぐる紛争リスクを避けつつ迅速に進められる方法として、実務上よく検討されます。
手順4 議事録の作成と後任の選任
株主総会議事録を作成します(役員変更登記の添付書面になります)。後任役員の選任や代表取締役の選定が必要な場合は、同じ株主総会・取締役会で併せて行うのが通常です。
注意したいのは、解任により役員の員数を欠く場合です。任期満了または辞任により退任した役員は、後任が就任するまで引き続き役員としての権利義務を有するとされていますが(会社法346条1項)、この規定は解任された役員には適用されません。そのため、解任によって法律または定款所定の員数を欠くことになる場合には、後任を同じ総会で選任するか、裁判所に一時役員の職務を行うべき者の選任を申し立てること(同条2項)を検討する必要があります。代表取締役が欠けることになる場合にも、同様の問題があります(会社法351条)。
手順5 役員変更登記(変更から2週間以内)
役員の変更は、原則として変更が生じたときから2週間以内に、本店の所在地において変更登記をする必要があります(会社法915条1項)。登記を怠ると、100万円以下の過料の対象になる可能性があります(会社法976条1号)。
解任による役員変更登記では、株主総会議事録のほか、議決権上位の株主等を記載した株主リスト(商業登記規則61条2項・3項)などの添付書面が必要です。登録免許税は、役員変更に関する区分として、資本金の額が1億円以下の会社で1万円、1億円を超える会社で3万円とされています。必要書類の詳細は、法務局の申請書様式・記載例で確認できます。役員変更登記の基本的な流れは、関連記事「代表取締役が死亡した場合の会社手続と役員変更登記」でも整理しています。
手順6 登記後の実務対応
取引先・金融機関への届出、許認可関係の変更手続、社内規程・決裁権限の整理、届出印や口座の管理者変更、メール・システム権限の停止などの実務対応も確認します。代表者が交代する場合は、契約名義の切替え、金融機関手続、商業登記電子証明書の再取得などが必要になることがあります。これらを怠ると、契約や取引、行政手続で支障が生じる可能性があります。
役員の種類別の決議要件(一覧表)
解任に必要な決議は、役員の種類によって異なります。下表は原則的な整理であり、定款で定足数や可決要件が変更されている場合があるため、まず定款の確認が必要です。
| 解任の対象 | 必要な決議 | 定足数(原則) | 可決要件(原則) | 主な根拠条文 |
|---|---|---|---|---|
| 取締役(下記の類型を除く) | 株主総会の普通決議(役員選解任の特則) | 議決権を行使できる株主の議決権の過半数(定款で3分の1まで軽減可) | 出席株主の議決権の過半数(定款で加重可) | 会社法339条1項・341条 |
| 監査役 | 株主総会の特別決議 | 議決権を行使できる株主の議決権の過半数(定款で3分の1まで軽減可) | 出席株主の議決権の3分の2以上(定款で加重可) | 会社法339条1項・309条2項7号・343条4項 |
| 監査等委員である取締役 | 株主総会の特別決議 | 同上 | 同上 | 会社法339条1項・309条2項7号 |
| 累積投票で選任された取締役 | 株主総会の特別決議 | 同上 | 同上 | 会社法339条1項・309条2項7号・342条6項 |
| 会計参与 | 株主総会の普通決議(役員選解任の特則) | 取締役と同じ | 取締役と同じ | 会社法339条1項・341条 |
| 代表取締役の解職(取締役会設置会社) | 取締役会決議 | 議決に加わることができる取締役の過半数の出席 | 出席取締役の過半数(定款で加重可) | 会社法362条2項3号・369条1項 |
監査役・監査等委員である取締役・累積投票で選任された取締役の解任が特別決議とされているのは、これらの役員の地位や独立性を保護する趣旨と説明されています。なお、取締役会を置かない会社の代表取締役は、定款、定款の定めに基づく取締役の互選または株主総会の決議によって定めるものとされており(会社法349条3項)、その解職の方法は選定の方法に応じて異なります。
代表取締役の解職では本人は取締役会の議決に加われない
取締役会設置会社で代表取締役を解職する場合、解職の対象となる代表取締役は、その決議について「特別の利害関係を有する取締役」にあたり、議決に加わることができません(会社法369条2項)。判例も、代表取締役の解職に関する取締役会決議について、当該代表取締役は特別の利害関係を有する者にあたると判断しています(最高裁昭和44年3月28日判決・民集23巻3号645頁)。定足数や賛成数は本人を除いた取締役を基準に計算することになるため、決議が成立するかどうかを事前に確認しておく必要があります。
解任対象の役員が株主でもある場合
これに対し、株主総会での解任決議では、解任の対象となる役員が株主であっても、株主としての議決権行使は原則として妨げられません。そのため、対象役員やその同調株主が議決権の過半数を握っている場合、解任議案の可決は事実上困難になります。なお、特別の利害関係を有する株主の議決権行使によって著しく不当な決議がされたときは、決議取消しの事由になり得ます(会社法831条1項3号)が、これは例外的な場面の規律です。株主構成の確認が役員解任の検討の出発点になるのは、このためです。
種類株式を発行している場合の特則
取締役・監査役の選任について内容の異なる種類株式(いわゆる選解任権付種類株式)を発行している会社では、種類株主総会で選任された取締役の解任はその種類株主総会の決議によることが原則になるなど、特則があります(会社法347条1項)。合弁会社や投資を受けている会社では、登記と定款で種類株式の有無を確認してください。
役員の種類や定款の定め、株主構成によって、必要な決議や進め方は変わります。誤った手続で進めると、決議の効力が争われたり、想定外の損害賠償リスクが生じたりする可能性があります。株主総会の招集前に、定款・株主構成・任期・解任理由・証拠を確認したうえで対応方針を整理することをおすすめします。
「正当な理由」とは何か(会社法339条2項)
解任の自由と損害賠償責任の関係
会社法は、役員および会計監査人を「いつでも」株主総会の決議によって解任できるとする一方(会社法339条1項)、解任された者は、その解任について「正当な理由」がある場合を除き、会社に対し、解任によって生じた損害の賠償を請求できると定めています(同条2項)。株主に解任の自由を保障しつつ、役員の任期に対する期待を保護し、双方の利益の調和を図る趣旨と説明されています。
ここで重要なのは、「正当な理由」は解任決議そのものの効力要件ではないという点です。正当な理由がなくても解任決議自体は有効に成立し得ますが、その場合に会社が損害賠償義務を負い得るという関係にあります。つまり、「解任できるか」は決議要件と手続の問題として、「正当な理由」は主に解任後の損害賠償の問題として、分けて整理する必要があります。
「正当な理由」の判断枠組み
最高裁は、持病が悪化し、療養に専念するために代表取締役を退いた取締役をその後解任した事案において、解任に正当な理由がないとはいえないと判断したとされています(最高裁昭和57年1月21日判決・判例時報1037号129頁)。心身の故障により職務の遂行が客観的に困難になった事情は、正当な理由を基礎づける方向で考慮され得るということです。
裁判実務では、正当な理由が問題になる典型的な類型として、職務執行上の法令・定款違反行為、心身の故障、職務への著しい不適任などが挙げられ、これらを基礎づける具体的事実と裏付け資料の有無が争点になります。東京地方裁判所の商事部も、会社法339条2項の「正当な理由」に関する主張整理の記載例を公表しており、実際の訴訟では、会社側の主張、役員側の反論、会社側の再反論という形で事実関係が段階的に整理されます。単なる感情的対立や経営方針の相違だけでは正当な理由として十分でないと判断される可能性があり、客観的な事情とそれを裏付ける証拠が重要になります。何が正当な理由にあたるかは法的評価を伴う問題であり、最終的には個別の事情により結論が異なります。
主張・立証の構造
実務上、解任に正当な理由があることは、損害賠償義務を免れようとする会社側が主張・立証すべきものと整理されることが多いとされています。そのため、解任を検討する段階から、正当な理由を基礎づける事情(いつ、誰が、何をしたか)とその裏付け資料を整理しておくことが望ましいといえます。証拠が不十分なまま解任を先行させると、後に損害賠償請求を受けた際に正当な理由を立証できないリスクが高まります。
正当な理由として問題になりやすい事情
正当な理由として検討されやすい事情
裁判例や学説で、正当な理由として検討されやすいとされる事情には、例えば次のようなものがあります。ただし、いずれも個別事情により評価が分かれ得ます。
- 横領、背任、利益相反取引、競業など、会社の利益を害する行為
- 法令、定款、社内規程に違反する重大な行為
- 会社の財産や信用を害する行為
- 重要な職務の懈怠(果たすべき職務を著しく怠ったこと)
- 心身の故障により、職務の遂行が客観的に困難になった事情
- 職務への著しい不適任や経営能力の著しい欠如が、客観的な資料で示せる事情
慎重に判断すべき事情
これに対し、それだけでは正当な理由として認められるか慎重に判断すべき事情として、例えば次のようなものが挙げられます。
- 代表者や大株主との折り合いが悪い、人間関係が悪化している
- 経営方針が合わない
- 業績が悪いが、その原因が市場環境や会社全体の事情にもある
- 退任を求めたが本人が応じない
- 内部通報や公益通報をした役員を、それを理由に解任しようとする場合
- 従業員としての地位を併せ持つ役員(従業員兼務役員)の取扱い
これらの事情がある場合でも、他の客観的事情と併せて評価される結果、正当な理由が認められることも、認められないこともあります。特に、公益通報をした役員をそれを理由に解任した場合には、会社法上の問題に加えて、公益通報者保護法上の損害賠償の問題が生じ得るため(同法6条。詳細は後述します)、慎重な検討が必要です。
解任に伴う損害賠償リスクの整理
損害に含まれ得るもの
正当な理由がない解任の場合、解任された役員から、解任によって生じた損害の賠償を請求される可能性があります。裁判例では、損害の範囲について、解任されなければ残存任期中および任期満了時に得られたであろう利益(主に役員報酬相当額)の喪失による損害と整理する考え方が多くみられます。役員賞与や退職慰労金については、定款の定めや支給に関する基準・慣行などにより、損害として認められる場合と認められない場合があり、裁判例の判断も分かれています。慰謝料や弁護士費用は、原則として認められにくいものの、解任について別途不法行為が成立するような場合には認められる余地があると整理されることがあります。このほか、解任後に他から得た収入をどのように考慮するかなど、事案によって争点になり得る事項があります。
任期の長さがリスクの大きさを左右する
損害の中心が残存任期に対応する報酬相当額と整理されることが多い結果、損害賠償リスクの大きさは、残りの任期の長さと報酬額に大きく左右されます。取締役の任期は、原則として選任後2年以内に終了する事業年度のうち最終のものに関する定時株主総会の終結の時までですが、公開会社でない会社(監査等委員会設置会社・指名委員会等設置会社を除く)では、定款により選任後10年まで伸長できます(会社法332条1項・2項)。監査役の任期(原則4年)も、公開会社でない会社では同様に10年まで伸長できます(会社法336条1項・2項)。
役員変更登記の手間や費用を減らす目的で任期を10年に伸長している中小企業は少なくありませんが、任期が長いほど、任期途中で解任した場合に問題になり得る報酬相当額は大きくなりやすいという関係にあります。役員解任を検討する場面は、定款の任期設計を見直す契機にもなります。
金額を断定できない理由
損害として何がどこまで認められるかは、役員の任期、報酬の定め、退職慰労金や賞与に関する規程・決議・支給慣行、委任契約の内容、個別の事情、そして裁判例の判断により異なります。そのため、損害賠償額をあらかじめ断定することはできません。具体的な見通しを検討する際は、報酬・退職慰労金に関する資料を確認したうえで、個別に検討する必要があります。
会計・税務の視点も併せて確認する
解任・退任に伴って会社が金銭を支払う場合、その法的性質(損害賠償金、退職慰労金、和解金など)によって、会計処理や税務上の取扱い(損金算入の可否・時期、源泉徴収の要否など)が変わり得ます。また、退職慰労金を支給する場合には、定款の定めがなければ株主総会の決議が必要です(会社法361条1項)。紛争の解決方法を検討する際には、法律面と併せて会計・税務面の整理もしておくと、その後の処理が円滑になります。
解任以外の選択肢も検討する
実務では、株主総会での解任決議に進む前に、次のような選択肢を比較検討することが一般的です。どれが適切かは、緊急性、証拠の状況、株主構成、本人との関係により異なります。
辞任の協議(合意による退任)
本人と協議し、辞任届の提出と引継ぎの条件を合意する方法です。合意により退任する場合、登記記録上の退任原因も「辞任」となり、解任決議や損害賠償をめぐる紛争を避けやすくなります。退職慰労金の取扱い、秘密保持、引継ぎ、貸付金・経費精算などの条件は退任合意書として書面化し、辞任届の日付と受領の記録を残しておくことが望ましいといえます。
任期満了を待って再任しない
任期満了が近い場合には、任期満了時に再任しない(後任を選任する)という方法が考えられます。解任ではないため、会社法339条2項の損害賠償は基本的に問題になりにくいと整理されています。まず、対象役員の任期がいつ満了するか(選任時期、定款の任期の定め、事業年度)を正確に確認することが出発点になります。
定款変更による任期短縮には損害賠償リスクがある
任期の途中で定款を変更して任期を短縮し、任期満了として退任させる方法には注意が必要です。裁判例には、任期を10年から1年に短縮する定款変更により取締役を退任させた事案で、会社法339条2項の類推適用により会社の損害賠償責任を認めたとされるものがあります(東京地方裁判所平成27年6月29日判決・判例時報2274号113頁)。形式上は解任でなくても、実質的に解任と同様に扱われる可能性があるため、この方法をとる場合には事前に慎重な検討が必要です。
代表取締役の解職や担当の変更にとどめる
役員の地位は残したまま、代表権や担当業務を変更することで目的を達成できる場合もあります。ただし、役員報酬を一方的に減額することには別途の法的問題が生じ得るため、報酬の変更を伴う場合には、本人の同意の取得を含めた検討が必要です。
手続前に確認したい資料・証拠
解任やその他の選択肢を検討する段階で、次のような資料・証拠を確認・整理しておくことが望ましいといえます。何が必要かは事案により異なります。
- 定款(決議要件、任期、代表取締役の定め方)
- 履歴事項全部証明書(登記簿)
- 株主名簿(議決権の分布)
- 株主総会議事録、取締役会議事録(対象役員の選任時のものを含む)
- 役員報酬に関する決議、規程、委任契約書
- 退職慰労金に関する規程・支給実績
- 問題となる行為に関するメール、チャット、議事録、報告書
- 会計資料、入出金記録、契約書、請求書
- 内部調査の報告書
- 就業規則、雇用契約書(従業員兼務の場合)
- 内部通報・公益通報に関する資料
- 金融機関、取引先、許認可に関する資料
よく問題になるケース
解任議案が株主総会で否決された場合(役員解任の訴え)
役員の職務執行に関し不正の行為または法令・定款に違反する重大な事実があったにもかかわらず、解任議案が株主総会で否決された場合などには、総株主の議決権の3%以上または発行済株式の3%以上を6か月前から引き続き有する株主(公開会社でない会社では保有期間の要件はありません)は、当該株主総会の日から30日以内に、訴えをもって役員の解任を請求できる場合があります(会社法854条1項・2項)。不正の行為等の要件、持株要件、提訴期間のいずれも確認が必要です。
対象役員側が議決権の過半数を握っている場合
解任は株主総会の決議事項であるため、対象役員やその同調株主が議決権の過半数を握っている場合には、決議による解任は事実上困難です。この場合、上記の役員解任の訴えの検討(不正の行為等の要件を満たすか)、株式の取得や株主間契約の見直しなど、株主構成そのものへの対応を含めた検討が必要になり、方針は個別事情により大きく異なります。
役員が従業員を兼ねている場合(従業員兼務役員)
役員としての地位と従業員としての地位は別に評価されることがあり、役員を解任しても従業員としての地位は当然には失われない場合があります。従業員としての地位を終了させるには労働法上の規律(解雇規制など)が別途適用されるため、労務の問題と併せて検討する必要があります。
不正の疑いはあるが証拠が十分でない場合
証拠が不十分なまま解任に進むと、後に正当な理由を立証できず、損害賠償リスクが高まる可能性があります。社内調査や証拠の確保を先行させるか、調査の間は担当変更などで対応するかを含めて検討します。役員の使途不明金・私的流用が疑われる場合の調査の進め方は、関連記事「役員の使途不明金・私的流用に関する会社側の調査と責任追及の進め方」で解説しています。
解任後の登記や金融機関対応を失念した場合
役員変更登記を怠ると100万円以下の過料の対象になる可能性があり(会社法976条1号)、金融機関や取引先との手続にも支障が生じ得ます。登記後の実務対応まで一連で確認することが重要です。
解任された役員から損害賠償請求を受けた場合
請求を受けた場合は、正当な理由の有無、損害の範囲、報酬・退職慰労金の定めなどを踏まえた対応が必要です。早い段階で資料を整理し、反論の可否と和解の余地を含めた対応方針を検討することが望まれます。
解任される役員側で確認したいこと
本記事は会社側・株主側の手続を中心に整理していますが、解任されそうな役員、解任された役員の側でも、次の点の確認が出発点になります。
- 決議の効力:招集手続や決議方法に瑕疵がある場合、株主総会決議取消しの訴え(決議の日から3か月以内。会社法831条1項)や、決議の不存在・無効確認の訴え(会社法830条)による争いが考えられます。取消しの訴えには期間制限があるため、早期の検討が必要です。
- 損害賠償:解任に正当な理由がないと考える場合、会社に対する損害賠償請求(会社法339条2項)を検討します。任期・報酬額・退職慰労金の定めなど、損害の立証に必要な資料(選任時の議事録、報酬に関する決議、委任契約書など)を早めに確保しておくことが重要です。
- 公益通報との関係:公益通報をしたことを理由として解任された役員は、法律の定める要件を満たす場合、事業者に対して解任によって生じた損害の賠償を請求できるとされています(公益通報者保護法6条)。なお、同法については令和7年改正法(令和7年法律第62号)が成立しており、通報者保護を強化する改正規定は令和8年12月1日に施行される予定です(2026年7月時点)。最新の制度内容は消費者庁の公表資料をご確認ください。
- 従業員としての地位:従業員兼務役員の場合、役員の解任と従業員としての地位は別の問題です。給与・社会保険・業務の取扱いを確認してください。
弁護士に相談するタイミング
役員解任は、手続の前後で確認すべき事項が多く、後戻りが難しい場面もあります。次のようなタイミングで相談を検討すると、判断材料を整理しやすくなります。
- 解任理由を社内で整理し始めた段階(辞任の協議など解任以外の選択肢の比較を含む)
- 株主総会の招集通知を出す前、本人に退任を求める前
- 役員報酬、退職慰労金、退任合意書の内容を検討する前
- 公益通報、ハラスメント、労務問題、不正調査が絡む場合
- 後任の代表者や員数、登記に不安がある場合
- 解任議案の否決が見込まれる場合(役員解任の訴えの検討)
- 解任後に損害賠償請求を受けた場合、解任されて対応を検討している場合
相談により、解任の可否だけでなく、手続の瑕疵を避ける進め方、損害賠償リスクの整理の仕方、解任以外の選択肢との比較について、資料を確認したうえで対応方針を検討できます。顧問弁護士の活用を検討している場合は、関連記事「顧問弁護士の必要性と費用対効果の考え方」も参考にしてください。
よくある質問(FAQ)
取締役はいつでも解任できますか?
取締役は、原則として株主総会の決議によりいつでも解任できるとされています(会社法339条1項)。もっとも、定款で決議要件が変更されている場合があるほか、招集手続や決議方法に瑕疵があると決議の効力が争われる可能性があります。まず定款と株主構成(解任議案を可決できる議決権を確保できるか)の確認が必要です。
解任に「正当な理由」がないと解任できないのですか?
「正当な理由」は、解任決議そのものの効力要件ではありません。正当な理由がなくても解任決議自体は有効に成立し得ますが、その場合には、解任された役員から解任によって生じた損害の賠償を請求される可能性があります(会社法339条2項)。「解任できるか」と「損害賠償リスクがあるか」は分けて考える必要があります。
正当な理由がない場合、どの範囲の損害賠償が問題になりますか?
裁判例では、解任されなければ残存任期中および任期満了時に得られたであろう利益(主に役員報酬相当額)の喪失による損害と整理されることが多くみられます。役員賞与や退職慰労金が含まれるかは、定款・規程・支給慣行・個別事情により判断が分かれます。残りの任期が長いほど問題になり得る金額は大きくなる傾向があるため、任期と報酬の定めの確認が出発点になります。
株主総会を開かずに役員を解任することはできますか?
議決権を行使できる株主の全員が解任の提案に書面または電磁的記録で同意した場合には、株主総会を開催せず、その提案を可決する決議があったものとみなす方法があります(会社法319条1項)。株主が少数で全員の同意が見込める会社では実務上よく利用されます。全員の同意が見込めない場合は、通常どおり株主総会の招集が必要です。
代表取締役だけを外すことはできますか?
代表取締役を代表者の地位から外すこと(解職)と、取締役の地位を失わせること(解任)は別の手続です。取締役会設置会社では、取締役会決議により代表取締役を解職できる場合があります(会社法362条2項3号)。この場合、取締役の地位は当然には失われません。なお、解職の対象となる代表取締役は特別の利害関係を有するため、その取締役会決議に加わることができません(会社法369条2項)。
監査役の解任は取締役と同じ手続ですか?
同じではありません。監査役の解任には、株主総会の特別決議が必要とされています(会社法309条2項7号)。監査役の独立性を保護する趣旨と説明されています。また、監査役は解任について株主総会で意見を述べることができます(会社法345条1項・4項)。監査等委員である取締役や累積投票で選任された取締役の解任も特別決議によります。
解任した場合、登記はどのようになりますか?
役員の変更は、原則として変更から2週間以内に変更登記をする必要があり(会社法915条1項)、登記を怠ると100万円以下の過料の対象になる可能性があります(会社法976条1号)。登記記録には、退任の原因として「解任」と記録されるものとされています。添付書面(株主総会議事録・株主リストなど)や登録免許税は、法務局の申請書様式・記載例で確認できます。
解任されそうな場合・解任された場合、役員側では何を確認すべきですか?
決議の効力を争う場合の期間制限(株主総会決議取消しの訴えは決議の日から3か月以内。会社法831条1項)、損害賠償請求(会社法339条2項)の検討材料になる任期・報酬・退職慰労金の資料、未払報酬の有無、従業員としての地位の有無などを確認します。対応は個別事情により異なるため、早めに資料を揃えて相談することをおすすめします。
まとめ
- 役員は原則として株主総会の決議によりいつでも解任できるとされていますが、役員の種類により決議要件が異なり、監査役などの解任には特別決議が必要です。
- 招集手続・決議方法の瑕疵は決議取消しの訴えなどの原因になり得るため、招集通知への議案の記載から議事運営、議事録まで一連で確認します。
- 「正当な理由」は解任決議の効力要件ではなく、主に解任後の損害賠償(会社法339条2項)の場面で問題になります。証拠の整理は解任の前に行うことが重要です。
- 損害賠償リスクは残存任期と報酬額に左右されます。任期を10年に伸長している公開会社でない会社では、特に慎重な検討が必要です。
- 解任は登記記録に「解任」と記録されるため、辞任の協議や任期満了での不再任など、解任以外の選択肢との比較が実務では重要です。
- 取締役の解任と代表取締役の解職は別の手続であり、解職の取締役会決議では本人は議決に加われません。
- 役員の変更は原則として2週間以内の登記が必要です。登記後の金融機関・取引先・許認可への対応まで一連で確認します。
役員解任は、手続の瑕疵や損害賠償リスクを避けるため、事前の資料確認と選択肢の比較が重要です。会社側・株主側・解任される役員側のいずれの立場でも、定款・株主構成・任期・解任理由・証拠・報酬の定めなどを整理したうえで、対応方針を検討することをおすすめします。神戸みらい法律会計事務所では、会社法・株主総会・役員変更に関するご相談に、法律と会計・税務の双方の視点から対応しています。
監修者・執筆者
藤井 貴之(ふじい たかゆき)
弁護士・公認会計士/兵庫県弁護士会所属
神戸みらい法律会計事務所
会社法・株主総会・役員変更に関するご相談を含む企業法務を取り扱っています。法律と会計・税務の双方の視点から、損害賠償リスクの整理や資料の確認を踏まえた対応方針の検討をお手伝いします。
所在地:兵庫県神戸市須磨区中落合2丁目2-5 名谷センタービル7階
電話:078-797-5227(受付時間 9:00〜20:00)
参考資料
本記事は、一般的な情報提供を目的としたものであり、個別の事案に対する法的助言を行うものではありません。役員解任の可否、決議要件、「正当な理由」の有無、損害賠償の範囲などは、定款の定め、機関設計、役員の種類、契約内容、個別の事情により結論が異なります。実際のご対応にあたっては、最新の法令・公式情報をご確認のうえ、弁護士にご相談ください。記載の内容は作成時点(2026年7月)の情報に基づくものであり、その後の法改正等により変更される場合があります。

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