会社の口座から使途の分からない出金が続いている、役員が会社のお金を私的に使っているのではないか——こうした疑いを持ったとき、会社側がまず行うべきことは、本人を問いただすことでも、社内に公表することでもありません。証拠となる資料を保全し、事実関係を整理したうえで、民事・刑事・税務のどの対応を、どの順番で検討するかを冷静に切り分けることが出発点になります。
本記事では、会社資金の私的流用や使途不明金が疑われる場合に、代表取締役・取締役・監査役・経理責任者といった会社側の立場の方が、(1)初動でどの資料を確認・保全すべきか、(2)社内調査をどう進めるか、(3)役員にどのような責任を追及できる可能性があるか、(4)返還請求・損害賠償請求・仮差押えをどう整理するか、(5)刑事告訴を検討する前に何を確認すべきか、(6)税務・会計上どのようなリスクがあるか、を実務の順序に沿って整理します。
なお、結論は事案により異なります。同じ「使途不明金」でも、経理処理の誤り、精算漏れ、正当な立替経費、貸付金、利益相反取引、私的流用、横領と評価され得るものまで幅があり、資料を確認したうえで個別に判断する必要があります。
本人への確認や社内公表の前に、まず資料を保全し、事実関係を整理することが重要です。神戸みらい法律会計事務所では、会社側の資料を確認したうえで、社内調査、返還請求、役員責任の追及、税務・刑事対応の切り分けを検討します。
Contents
会社資金の私的流用が疑われるときの結論
最初に、対応の全体像を整理します。会社資金の私的流用や使途不明金が疑われる場合、検討の順序はおおむね次のようになります。
- 証拠保全と事実整理を最優先する。本人への確認や社内外への公表よりも前に、帳簿・通帳・証憑・システムログなどを確保する。
- 出金の性質を切り分ける。経理ミス、精算漏れ、立替経費、仮払金、貸付金、役員報酬、利益相反取引、私的流用のいずれに当たるかを資料で確認する。
- 民事上の責任追及の可能性を検討する。会社法上の役員責任、不法行為に基づく損害賠償請求、不当利得返還請求、貸付金返還請求などを整理する。
- 刑事対応は慎重に検討する。業務上横領・横領・背任が問題となる場合があるが、成立要件は個別事情による。告訴を急ぐ前に証拠と経緯を確認する。
- 税務・会計上の影響を確認する。役員給与認定、使途不明金、重加算税、損害賠償請求権の益金計上などが問題になり得るため、税理士・公認会計士と連携する。
- 役員の地位・再発防止を検討する。辞任・解任・報酬・退職慰労金の扱いや、再発防止のための社内体制整備を併せて検討する。
ポイントは、これらを切り分けずに進めると、証拠を失ったり、本人に弁明や証拠隠滅の機会を与えたり、税務上不利な処理をしたりするおそれがあることです。資料を確認したうえで、会社の状況に応じた方針を組み立てる必要があります。
会社資金の私的流用・使途不明金とは
私的流用が問題となる典型例
会社資金の私的流用とは、会社の財産である資金を、会社の業務と関係のない個人的な目的に使うことを指します。実務上、次のような出金が問題として持ち込まれることがあります。
- 会社名義のクレジットカードを私的な買い物・飲食・旅行に使う
- 会社口座から個人の支払(家賃、ローン、私的な借入返済など)に充てる
- 領収書や請求書のない出金、内容を説明できない現金引き出しがある
- 取引の実体が確認できない請求(架空請求・水増し請求)に基づく支払がある
- 親族や関係会社への合理的な理由のない送金がある
- 仮払金・立替金が長期間精算されないまま残っている
- ETC・電子マネー・各種サブスクリプションが私的に使われている
ただし、これらに該当しそうな出金があるからといって、直ちに違法・不正と決めつけることはできません。会社の業務に関係する支出であった可能性、承認を得ていた可能性、経理処理が誤っていただけの可能性もあり、資料を確認したうえで評価する必要があります。
「使途不明金」と「横領」は同じではない
重要なのは、「使途不明金があること」と「横領が成立すること」は別だということです。
- 使途不明金は、帳簿や証憑から資金の使い道を説明できない状態を指す、いわば会計・事実認定上の問題です。
- 横領(私的領得)は、本人が会社の財産を不法に自分のものにしたと法的に評価される状態を指します。
使途不明金は、調査の出発点ではあっても、それ自体が直ちに犯罪を意味するわけではありません。経理担当者の処理漏れ、立替経費の精算遅れ、承認済み支出の記録不足など、不正とは評価されないものも含まれます。逆に、形式的には経費として処理されていても、実体を伴わない支出であれば私的流用や横領と評価される余地があります。両者を区別せずに「横領だ」と決めつけることは、後の対応を誤らせるおそれがあります。
一人会社・オーナー社長でも会社資金は自由に使えない
中小企業では、「自分が出資して作った会社だから、会社のお金は自由に使ってよい」という誤解が見られることがあります。しかし、会社の財産は会社という法人に帰属する財産であり、代表取締役や大株主、いわゆる一人会社の社長であっても、当然に自由に使えるわけではありません。
取締役は、会社に対して忠実義務(会社法第355条)および善管注意義務(会社法第330条、民法第644条)を負うとされており、会社の利益を犠牲にして自己の利益を図ることは、これらの義務との関係で問題になり得ます。役員が会社資金を私的に使った場合、たとえオーナー社長であっても、税務上は役員給与(賞与)と認定されたり、他の株主との関係で責任が問われたりする可能性があります。
まず確認すべき初動対応
会社資金の私的流用が疑われる場合、最初の対応を誤ると、後の調査や責任追及が難しくなります。本人に問いただす前に、まず資料の保全と事実の整理を行うことが基本です。
本人へのヒアリング前に保全・確認すべき資料
本人に確認すると、証拠の廃棄、データの削除、関係者との口裏合わせ、出金の正当化のための後付け資料の作成といったリスクが生じ得ます。そのため、本人に気づかれる前に、客観的な資料を確保しておくことが重要です。
| 区分 | 確認・保全する資料の例 |
|---|---|
| 預金・現金 | 預金通帳、入出金明細、現金出納帳、振込依頼書 |
| 会計帳簿 | 総勘定元帳、補助元帳、試算表、決算書、仕訳データ |
| 証憑 | 領収書、請求書、契約書、見積書、納品書 |
| 決済手段 | 会社カード利用明細、ETC利用明細、電子決済・経費精算システムの記録 |
| 承認・権限 | 稟議書、承認記録、職務権限規程、経費精算規程 |
| 機関書類 | 取締役会議事録、株主総会議事録、定款 |
| 通信・記録 | 業務用メール、チャット、スケジュール、会議資料 |
これらは、改ざんや削除のリスクを踏まえ、原本またはその写し・データを早期に確保することが望まれます。会計ソフトやシステムのログは、アクセス権限の変更により取得が難しくなる場合があるため、確保の順序にも注意が必要です。
証拠隠滅を防ぐための権限管理と、避けるべき調査方法
証拠の保全と並行して、対象となる役員のシステム・口座・データへのアクセス権限を見直す必要が生じる場合があります。ただし、権限の変更や調査の方法には注意が必要です。
本人の私物端末を無断で閲覧する、私的なメールやSNSに無断でアクセスする、無断で会話を録音・盗聴するといった方法は、プライバシー侵害や不正アクセス等の問題を生じさせるおそれがあり、避けるべきです。違法・不当な方法で集めた資料は、後の交渉や裁判で使えないだけでなく、かえって会社側が責任を問われる原因にもなりかねません。
会社の業務として正当に管理している範囲のデータ(業務用メール、会社貸与端末、会計システムなど)の確認は、就業規則や社内規程の定めを踏まえて検討します。どこまでの調査が許されるかは、会社の規程、対象者の地位、資料の性質により異なります。判断に迷う場合は、本人確認の前の段階で弁護士に相談することが考えられます。
社内調査で確認する資料と進め方
調査の枠組みを決める
資料を保全したら、社内調査の枠組みを決めます。場当たり的に進めると、調査の公正さや結果の信頼性が損なわれることがあります。少なくとも次の点を整理しておくことが望まれます。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 調査対象 | 対象となる役員・取引・期間・勘定科目 |
| 調査期間 | いつからいつまでの出金を対象とするか |
| 調査体制 | 調査担当者、関与する役員、外部専門家(弁護士・公認会計士)の関与 |
| 調査権限 | どの資料・システムにアクセスできるか、誰の承認を得るか |
| 調査記録 | 確認した資料、ヒアリングメモ、証拠一覧の作成・保管方法 |
| 損害額集計 | 私的流用が疑われる金額の集計、根拠資料との突合 |
ヒアリングの順番と記録
ヒアリングは、客観的な資料を確保し、事実関係を整理したうえで行うのが基本です。順番としては、周辺の関係者や事実関係を確認できる立場の人から話を聞き、本人へのヒアリングは資料がそろった段階で行うことが多くなります。
ヒアリングでは、誘導や威圧を避け、本人の説明を正確に記録することが重要です。返還の有無や金額について、その場で断定的な合意を求めるよりも、まずは事実関係と本人の認識を確認し、対応方針を改めて検討することが安全です。ヒアリングメモは、日時・出席者・発言内容を客観的に残しておきます。
社内調査の進め方や証拠の整理に迷う場合は、早い段階でご相談ください。資料を確認したうえで、調査範囲や責任追及の見通しを整理することができます。
役員に対して追及できる可能性がある責任
役員による会社資金の私的流用が確認された場合、会社が検討し得る民事上の請求には、いくつかの法的構成があります。どの構成が適切かは、出金の性質や証拠により異なります。
会社法上の役員責任(任務懈怠責任)
取締役・監査役などの役員は、その任務を怠ったことによって会社に損害を生じさせた場合、会社に対して損害賠償責任を負うとされています(会社法第423条第1項)。会社資金の私的流用は、忠実義務・善管注意義務に反する任務懈怠と評価される余地があります。
会社資金の使用が利益相反取引(会社法第356条第1項)に当たる場合には、任務懈怠が推定されるなど、立証の負担が変わる場合があります(会社法第423条第3項等)。また、役員の責任の免除には原則として総株主の同意が必要とされる(会社法第424条)など、機関や手続に関するルールがあります。具体的な要件・効果は条文と裁判例に即して確認する必要があります。
不法行為に基づく損害賠償請求
会社資金を不法に領得する行為は、会社に対する不法行為(民法第709条)を構成し得ます。この場合、会社は、私的流用によって被った損害の賠償を請求できる可能性があります。
不当利得返還請求
法律上の原因なく会社の財産によって利益を受け、会社に損失を及ぼした場合には、不当利得の返還を請求できる場合があります(民法第703条、第704条)。悪意の受益者に対しては、受けた利益に利息を付して返還を請求できるとされています(民法第704条)。
貸付金・仮払金として整理される場合
出金が、形式的には会社から役員への貸付けや仮払いとして処理されている場合には、貸付金返還請求・仮払金の精算という形で整理されることがあります。もっとも、貸付けの実体や返済の合意があるか、取締役会の承認など必要な手続を経ているか(利益相反取引に該当しないか)といった点を確認する必要があります。
| 法的構成 | 主な根拠 | 概要 |
|---|---|---|
| 会社法上の役員責任 | 会社法第423条 | 任務懈怠により会社に生じた損害の賠償 |
| 不法行為 | 民法第709条 | 不法な領得行為による損害の賠償 |
| 不当利得 | 民法第703条・第704条 | 法律上の原因なく得た利益の返還(悪意なら利息付) |
| 貸付金・仮払金 | 契約・社内処理 | 貸付金返還請求・仮払金精算として整理される場合 |
なお、これらの請求権には消滅時効があります。不法行為に基づく損害賠償請求権は、損害および加害者を知った時から3年、不法行為の時から20年で時効により消滅するとされています(民法第724条)。時効期間の起算点や中断・完成猶予の有無は事案により異なるため、早期に確認する必要があります。
返還請求・損害賠償請求の進め方
任意交渉と返還合意書
まずは、本人との間で返還の合意を目指す任意交渉が考えられます。合意できる場合には、返還合意書を作成します。返還合意書では、返還金額、支払時期、分割払いとする場合の条件、期限の利益喪失条項、遅延損害金、(必要に応じて)保証人・担保、秘密保持、退任に関する条件などを定めることが考えられます。
ただし、金額の前提となる事実関係が固まっていない段階で合意を急ぐと、後に判明した私的流用分を請求しにくくなるおそれがあります。合意の範囲(清算条項の有無)や、判明していない分の取扱いには注意が必要です。
内容証明郵便・訴訟
任意交渉が難しい場合や、相手方の対応が不誠実な場合には、内容証明郵便により請求の意思を明確にしたうえで、訴訟を提起することが考えられます。訴訟では、私的流用の事実と損害額を、保全した資料によって立証していくことになります。
仮差押え等の財産保全
相手方が財産を処分・隠匿するおそれがある場合には、訴訟の前または並行して、仮差押えなどの民事保全を検討することがあります。仮差押えは、判決を得る前に相手方の財産を仮に押さえておく手続であり、回収の実効性を高める手段となり得ます。
もっとも、仮差押えには、被保全権利と保全の必要性の疎明、担保金の供託などが必要となるのが一般的であり、要件や手続は事案により異なります。手続の詳細は裁判所の案内等で確認するとともに、弁護士に相談して検討する必要があります。
回収可能性と費用対効果
責任追及や訴訟を検討する際には、相手方の資力(回収可能性)と、手続にかかる費用・時間との見合い(費用対効果)も重要な判断要素です。相手方に資産がなければ、判決を得ても回収できないことがあります。どの手続をどこまで進めるかは、回収見込みと負担を踏まえて検討する必要があります。
返還交渉や債権回収の進め方、費用の見通しについては、資料を確認したうえでご説明します。
刑事告訴を検討する場合の注意点
会社資金の私的流用は、事案によっては刑事責任が問題となることがあります。もっとも、刑事手続を検討する場合には、特に慎重な準備が必要です。
問題となり得る犯罪
役員による会社資金の私的流用に関して問題となり得る主な犯罪として、次のものがあります(成立要件は個別事情により異なります)。
| 罪名 | 主な条文 | 法定刑(現行) |
|---|---|---|
| 業務上横領罪 | 刑法第253条 | 10年以下の拘禁刑 |
| (単純)横領罪 | 刑法第252条 | 5年以下の拘禁刑 |
| 背任罪 | 刑法第247条 | 5年以下の拘禁刑又は50万円以下の罰金 |
令和7年(2025年)6月1日施行の改正刑法により、従来の「懲役」は「拘禁刑」に一本化されています。法定刑・公訴時効の年数は、公開前に最新の条文で確認してください。
業務上、会社の金銭を預かり管理する立場にある役員が、その金銭を自分のものにした場合には業務上横領罪が、会社のために誠実に職務を行うべき任務に背いて会社に損害を加えた場合には背任罪が、それぞれ問題となり得ます。もっとも、これらの犯罪が成立するかどうかは、権限の有無、承認の状況、本人の認識、出金の経緯などにより異なり、「使途不明金がある=犯罪」と当然にいえるものではありません。
告訴を急ぐ前に確認すべきこと
刑事告訴や警察への相談を検討する場合でも、いきなり告訴に進むのではなく、まず次の点を整理することが重要です。
- 出金の経緯と、その時点での本人の権限・職責
- 取締役会や代表者の承認の有無
- 帳簿・証憑との整合性(実体のない支出かどうか)
- 本人の説明(弁明)の内容と、それを裏付ける/否定する資料
- 会社として、どこまでを不正と評価しているか
これらが整理されないまま告訴に進むと、事実関係が固まらず、かえって対応が長期化することがあります。また、民事の回収や税務対応との関係で、刑事手続をどう位置づけるか(同時に進めるのか、順序を付けるのか)も検討する必要があります。刑事告訴をしても、それによって被害額が当然に回収できるわけではない点にも留意が必要です。
役員の辞任・解任・代表権・報酬への対応
私的流用が確認された役員について、地位や報酬の扱いを検討することがあります。これらは、会社の機関設計・定款・契約・議事録の有無により手続が異なります。
- 取締役の解任は、原則として株主総会の決議によることとされており(会社法第339条)、要件や手続を確認する必要があります。
- 代表取締役の解職(代表権を外すこと)は、取締役会設置会社かどうかなどにより手続が異なります。
- 役員報酬の減額・不支給は、報酬の定め方(定款・株主総会決議・契約)により制約があり得ます。
- 退職慰労金の不支給は、その法的性質や内規・先例により扱いが異なります。
- 競業避止・秘密保持・株式の取扱い(譲渡・買取りなど)は、定款・契約・株主間の合意の有無を確認する必要があります。
辞任勧告に応じて本人が辞任する場合と、会社が解任する場合とでは、手続も影響も異なります。いずれも、定款・規程・議事録を確認したうえで進める必要があり、判断に迷う場合は弁護士に相談することが考えられます。
なお、会社が役員の責任を追及しない場合に、株主が会社に代わって責任を追及する株主代表訴訟(会社法第847条)が問題となることがあります。その要件(株式の保有期間、会社への提訴請求など)は個別に確認する必要があります。
税務・会計上の確認
役員による会社資金の私的流用は、民事・刑事の問題にとどまらず、法人税・源泉所得税などの税務上の問題を伴うことが少なくありません。会社側が被害者であっても、税務上は厳しい取扱いを受けることがあるため、税理士・公認会計士と連携して確認する必要があります。
役員給与(賞与)と認定される場合
役員(特にオーナー社長など)が会社財産を私的に使った場合、その経済的利益が役員に対する給与(賞与)と認定されることがあります。役員給与と認定されると、定期同額給与等の要件を満たさないため損金不算入とされるうえ、源泉所得税の徴収義務や不納付加算税が問題となり得ます。
横領損失と損害賠償請求権の計上
役員・使用人による横領があった場合、税務上は、横領による損失(損金)と、これに対応する損害賠償請求権(益金)の計上時期が問題となります。裁判例・課税実務では、原則として両者を同一事業年度に計上する「同時両建説」(最高裁昭和43年10月17日判決)が採られる傾向にあります。役員・使用人による横領については、「他の者」からの損害賠償金の益金計上時期を緩和する取扱い(法人税基本通達2-1-43)は適用されないと解されており、過年度に遡って修正申告が必要になる場合があります。回収が見込めない場合の貸倒れの取扱いは別途検討します。
使途不明金・使途秘匿金、重加算税
使途を説明できない支出は、税務上、損金に算入できない(使途不明金)扱いとなることがあります。さらに、相手方の氏名等を帳簿に記載しない支出については、使途秘匿金として通常の法人税に加えた追加課税が問題となる場合があります。また、帳簿の隠蔽・仮装があると評価されると、重加算税の対象となり、更正の期間制限が延長されることもあります。
これらの税務処理は、出金の性質、会社の関与、資料の整備状況により結論が大きく変わります。税務判断は断定できず、税理士・公認会計士と連携して、過年度修正の要否を含めて確認する必要があります。
弁護士に相談する前に準備したい資料
相談をスムーズに進めるため、可能な範囲で次の資料を準備しておくと、事実関係の整理や見通しの検討が進みやすくなります。すべてがそろっていなくても、相談を始めることはできます。
| 区分 | 資料の例 |
|---|---|
| 会計帳簿 | 総勘定元帳、補助元帳、試算表、決算書 |
| 現金・預金 | 現金出納帳、預金通帳、入出金明細 |
| 証憑 | 請求書、領収書、契約書、見積書 |
| 経費・決済 | 経費精算資料、会社カード利用明細、ETC・電子決済の記録 |
| 仮払・貸付・報酬 | 仮払金・貸付金の資料、役員報酬の定めに関する資料 |
| 機関書類 | 取締役会議事録、株主総会議事録、定款 |
| 規程 | 職務権限規程、経費精算規程 |
| 通信・記録 | 業務用メール、チャット、稟議記録 |
| 本人説明 | 本人へのヒアリングメモ(作成している場合) |
| 税務 | 税務申告書、決算書、試算表 |
弁護士に相談するタイミング
次のような場面では、早めに弁護士に相談することで、対応方針を整理しやすくなります。結果を保証するものではありませんが、資料を確認したうえで、調査・請求・刑事・税務の切り分けを検討することができます。
- 本人に問いただす前(証拠保全や調査の進め方を確認したいとき)
- 証拠隠滅やデータ削除のおそれがあるとき
- 私的流用が疑われる金額が大きいとき
- 役員、株主、親族、関係会社が関係しているとき
- 返還の交渉が進まないとき
- 仮差押えや刑事告訴を検討するとき
- 税務調査や過年度の会計処理への影響が見込まれるとき
- 株主や金融機関への説明が必要なとき
再発防止策
私的流用や使途不明金への対応と並行して、再発を防ぐための社内体制を整えることが重要です。次のような取組みが考えられます。
- 職務権限規程を整備し、出金・契約の承認権限と上限を明確にする
- 一定額以上の支出に二重承認(複数名のチェック)を導入する
- 会社カード・ETC・電子決済の利用ルールと利用明細の定期確認を定める
- 仮払金・立替金の精算ルール(期限・必要書類)を定める
- 月次・四半期で会計レビューを行い、不自然な出金を早期に把握する
- 取締役会・株主への定期的な報告体制を整える
- 内部通報窓口を設け、早期発見の仕組みを作る
- 顧問弁護士・顧問税理士と連携し、契約・規程・会計のチェック体制を継続する
これらは、会社の規模や体制に応じて優先順位を付けて導入することが現実的です。その他企業法務の取扱業務もあわせてご確認ください。
よくある質問
- 役員が会社のお金を私的に使った場合、すぐに横領といえますか?
- 直ちに横領と決めつけることはできません。経理処理の誤り、精算漏れ、正当な立替経費、承認を得た支出など、横領とは評価されないものも含まれます。まずは資料を確認し、出金の性質を切り分ける必要があります。結論は事案により異なります。
- 使途不明金がある場合、最初に何を確認すべきですか?
- 本人に問いただす前に、通帳・入出金明細、総勘定元帳、現金出納帳、領収書・請求書、会社カード明細、議事録・規程などの客観的資料を確保することが基本です。証拠の保全を先に検討する場面があります。
- 代表取締役や大株主でも、会社資金を自由に使うことはできないのですか?
- 会社の財産は法人に帰属する財産であり、オーナー社長や一人会社の社長であっても当然に自由に使えるわけではありません。取締役の忠実義務・善管注意義務との関係や、税務上の役員給与認定などが問題になり得ます。
- 本人に問いただす前に弁護士へ相談した方がよいですか?
- 証拠隠滅や口裏合わせのおそれがある場合、本人への確認前に資料を保全し、調査の進め方を整理しておくことが安全な場合があります。個別事情により対応は異なります。
- 返還合意書を作れば十分ですか?
- 返還合意書は有効な手段ですが、事実関係が固まらないまま合意を急ぐと、後に判明した分を請求しにくくなるおそれがあります。合意の範囲(清算条項)や担保・分割条件の設計には注意が必要です。
- 刑事告訴をすれば必ずお金は戻りますか?
- 刑事告訴は被害額の回収を保証するものではありません。回収は基本的に民事の問題であり、刑事と民事・税務の切り分けを検討する必要があります。告訴の前に証拠と出金経緯を整理することが重要です。
- 仮差押えはどのような場合に検討しますか?
- 相手方が財産を処分・隠匿するおそれがあり、回収の実効性を確保したい場合に検討することがあります。被保全権利や保全の必要性の疎明、担保金の供託などが必要となるのが一般的で、要件は事案により異なります。
- 税務調査で問題になることはありますか?
- 役員給与(賞与)の認定、横領損失と損害賠償請求権の計上時期、使途不明金・使途秘匿金、重加算税などが問題になり得ます。会社が被害者でも厳しい取扱いを受けることがあるため、税理士・公認会計士との連携が必要です。
まとめ
会社資金の私的流用や使途不明金が疑われる場合の要点と、次の行動を整理します。
- 本人への確認や社内公表より前に、まず証拠を保全し、事実関係を整理する。
- 「使途不明金」と「横領」は別概念であり、経理ミス・立替・貸付・私的流用などを資料で切り分ける。
- 民事は、会社法上の役員責任・不法行為・不当利得・貸付金返還などの構成を検討する。
- 刑事(業務上横領・横領・背任)は成立要件が個別事情によるため、告訴前に証拠と経緯を整理する。
- 税務は、役員給与認定・損害賠償請求権の益金計上・重加算税などのリスクがあり、税理士・公認会計士と連携する。
- 役員の地位・報酬の扱いと、再発防止のための規程・承認体制の整備を併せて検討する。
- 次の行動として、手元の資料を整理したうえで、弁護士への相談を検討する。
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監修・執筆
弁護士法人ひょうご支所 神戸みらい法律会計事務所
代表弁護士 藤井貴之(弁護士・公認会計士・通知税理士)
所属:兵庫県弁護士会/日本公認会計士協会兵庫会
当事務所は、弁護士と公認会計士の知見を踏まえ、会社側の立場から、社内調査、返還請求、役員責任の追及、税務・会計面の確認の切り分けに関するご相談を取り扱っています。
参考資料
- e-Gov法令検索「会社法」(第330条・第339条・第355条・第356条・第423条・第424条・第847条 ほか)
- e-Gov法令検索「民法」(第644条・第703条・第704条・第709条・第724条 ほか)
- e-Gov法令検索「刑法」(第247条・第252条・第253条)
- 裁判所「民事保全手続(仮差押え等)」の案内
- 国税庁(役員に対する給与・経済的利益、不法行為に係る損害賠償金等の帰属の時期、重加算税の取扱い に関する各資料)
- 法務省「拘禁刑の創設について(令和7年6月1日施行)」

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