役員の使途不明金・私的流用|会社側の調査・返還請求・横領告訴まで |神戸市(須磨・垂水・西神・北神)の弁護士|初回相談無料|弁護士法人ひょうご支所神戸みらい法律会計事務所

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役員の使途不明金・私的流用|会社側の調査・返還請求・横領告訴まで

「会社の口座から使途の分からない出金が続いている」「役員が会社の経費を私的な支払に充てているのではないか」――こうした疑いを持ったとき、会社側が最初に行うべきことは、本人を問いただすことでも、社内外に公表することでもありません。先に証拠となる資料を保全し、事実関係を整理したうえで、民事(返還請求・損害賠償請求)、刑事(告訴)、税務(申告の是正)のどの対応を、どの順番で進めるかを冷静に切り分けることが出発点になります。

本記事では、代表取締役・取締役・監査役・経理責任者など会社側の立場の方を念頭に、役員による会社資金の私的流用・使途不明金が疑われる場合の初動対応(証拠保全)、社内調査の進め方、役員に追及できる民事責任と消滅時効、返還請求・仮差押えの進め方、刑事告訴を検討する際の注意点、役員給与認定などの税務リスク、再発防止策までを、実務の順序に沿って解説します。

なお、同じ「使途不明金」でも、経理処理の誤り、精算漏れ、正当な立替経費、貸付金、利益相反取引、私的流用、横領と評価され得るものまで幅があります。結論は資料の確認と個別事情により異なりますので、本記事の整理を出発点に、実際の対応は資料を確認したうえで判断する必要があります。

Contents

この記事で分かること

  • 「使途不明金」と「横領」の違いと、私的流用が問題となる典型例
  • 本人に確認する前に保全すべき資料と、避けるべき調査方法
  • 会社法上の役員責任・不法行為・不当利得など民事上の請求の法的構成と消滅時効(何年前まで請求できるか)
  • 返還合意書・内容証明・訴訟・仮差押えの使い分けと注意点
  • 業務上横領罪・背任罪の法定刑と公訴時効、刑事告訴の前に確認すべきこと
  • 役員給与(賞与)認定や重加算税など、会社側にも生じ得る税務・会計上のリスク
  • 役員の解任・報酬の扱いと、再発防止のための社内体制

本人への確認や社内公表の前に、まず資料を保全し、事実関係を整理することが重要です。神戸みらい法律会計事務所では、弁護士・公認会計士の視点から会社側の資料を確認したうえで、社内調査、返還請求、役員責任の追及、刑事・税務対応の切り分けを検討します。

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結論:私的流用が疑われたときの対応手順と全体像

最初に、対応の全体像を整理します。役員による会社資金の私的流用や使途不明金が疑われる場合、検討の順序はおおむね次のとおりです。

  1. 証拠保全と事実整理を最優先する。本人への確認や社内外への公表よりも前に、通帳・帳簿・証憑・システムログなどの客観的資料を確保する。
  2. 出金の性質を切り分ける。経理処理の誤り、精算漏れ、立替経費、仮払金、貸付金、役員報酬、利益相反取引、私的流用のいずれに当たるかを資料で確認する。
  3. 民事上の責任追及の可能性と消滅時効を確認する。会社法上の役員責任、不法行為に基づく損害賠償請求、不当利得返還請求、貸付金返還請求などの法的構成と、それぞれの時効を整理する。
  4. 刑事対応は証拠が整った段階で慎重に検討する。業務上横領罪・背任罪などが問題となり得るが、成立要件は個別事情によるため、告訴を急ぐ前に証拠と経緯を確認する。
  5. 税務・会計上の影響を確認する。役員給与(賞与)認定、横領損失と損害賠償請求権の計上、重加算税などが問題になり得るため、税理士・公認会計士と連携する。
  6. 役員の地位・報酬と再発防止を検討する。辞任・解任・報酬・退職慰労金の扱いと、承認体制などの社内整備を併せて検討する。

これらを切り分けずに進めると、証拠を失う、本人に弁明や証拠隠滅の機会を与える、時効の管理を誤る、税務上不利な処理をするといった二次的な問題が生じかねません。資料を確認したうえで、会社の状況に応じた順序を組み立てる必要があります。

初動でやってはいけない対応

実務でよく見られる初動の失敗には、次のようなものがあります。

  • 資料を確保する前に本人を問いただす(データ削除・口裏合わせ・後付け資料の作成を誘発しかねません)
  • 事実関係が固まらないうちに「横領だ」と断定して社内外に公表する(評価を誤っていた場合、名誉毀損などの逆リスクが生じ得ます)
  • 金額の裏付けがないまま、清算条項付きの返還合意書を急いで取り交わす(後に判明した分を請求しにくくなるおそれがあります)
  • 私物端末の無断閲覧や無断録音・盗聴など、違法・不当な方法で証拠を集める
  • 時効・期間制限を確認しないまま、対応を先送りする

会社資金の私的流用・使途不明金とは(横領との違い)

私的流用が問題となる典型例

会社資金の私的流用とは、会社の財産である資金を、会社の業務と関係のない個人的な目的に使うことを指します。実務上、次のような出金が問題として持ち込まれることがあります。

  • 会社名義のクレジットカードを私的な買い物・飲食・旅行に使う
  • 会社口座から個人の支払(家賃、ローン、私的な借入の返済など)に充てる
  • 領収書や請求書のない出金、内容を説明できない現金の引き出しが続いている
  • 取引の実体が確認できない請求(架空請求・水増し請求)に基づく支払がある
  • 親族や関係会社への合理的な理由のない送金がある
  • 仮払金・立替金・役員貸付金が長期間精算されないまま増え続けている
  • ETC・電子マネー・サブスクリプションなどの決済手段が私的に使われている

ただし、これらに該当しそうな出金があるからといって、直ちに違法・不正と決めつけることはできません。業務に関係する支出であった可能性、承認を得ていた可能性、経理処理が誤っていただけの可能性もあり、資料を確認したうえで評価する必要があります。

「使途不明金」と「横領」は同じではない

重要なのは、「使途不明金があること」と「横領が成立すること」は別だということです。

  • 使途不明金は、帳簿や証憑から資金の使い道を説明できない状態を指す、会計・事実認定上の問題です。
  • 横領(私的領得)は、会社の財産を不法に自分のものにしたと法的に評価される状態です。

使途不明金は調査の出発点ではあっても、それ自体が直ちに犯罪を意味するわけではありません。経理担当者の処理漏れ、立替経費の精算遅れ、承認済み支出の記録不足など、不正とは評価されないものも含まれます。逆に、形式的には経費として処理されていても、実体を伴わない支出であれば私的流用や横領と評価される余地があります。両者を区別せずに「横領だ」と決めつけることは、その後の民事・刑事・税務の対応をいずれも誤らせるおそれがあります。

オーナー社長・一人会社でも会社資金は自由に使えない

中小企業では、「自分が出資して作った会社だから、会社のお金は自由に使ってよい」という誤解が見られることがあります。しかし、会社の財産は会社という法人に帰属する財産であり、代表取締役や大株主、いわゆる一人会社の社長であっても、当然に自由に使えるわけではありません。

取締役は、会社に対して善管注意義務(会社法330条、民法644条)および忠実義務(会社法355条)を負っており、会社の利益を犠牲にして自己の利益を図ることは、これらの義務との関係で問題になり得ます。役員が会社資金を私的に使った場合、オーナー社長であっても、税務上は役員給与(賞与)と認定されて会社側に追徴課税が生じたり、他の株主や債権者との関係で責任を問われたりする可能性があります。

役員による流用と従業員による横領では対応の枠組みが異なる

本記事は、役員(取締役・監査役など)による私的流用を念頭に整理しています。従業員(使用人)による横領・経費不正の場合、会社との関係は雇用契約であるため、懲戒処分や解雇には就業規則・労働契約法上の規律が別途適用され、検討の枠組みが異なります。これに対し、役員と会社の関係は委任(会社法330条)であり、解雇規制ではなく、辞任・解任の手続や会社法上の責任追及が中心になります。対象者がどちらの地位にあるか(従業員兼務役員かどうかを含む)を、最初に確認してください。

初動対応:本人への確認前に行う証拠保全

会社資金の私的流用が疑われる場合、最初の対応を誤ると、後の調査や責任追及が難しくなります。本人に問いただす前に、まず資料の保全と事実の整理を行うことが基本です。

本人へのヒアリング前に保全・確認すべき資料

先に本人に確認すると、証拠の廃棄、データの削除、関係者との口裏合わせ、出金を正当化するための後付け資料の作成といったリスクが生じ得ます。そのため、本人に気づかれる前に、次のような客観的資料を確保しておくことが重要です。

区分 確認・保全する資料の例
預金・現金 預金通帳、入出金明細、現金出納帳、振込依頼書
会計帳簿 総勘定元帳、補助元帳、試算表、決算書、仕訳データ
証憑 領収書、請求書、契約書、見積書、納品書
決済手段 会社カード利用明細、ETC利用明細、電子決済・経費精算システムの記録
承認・権限 稟議書、承認記録、職務権限規程、経費精算規程
機関書類 取締役会議事録、株主総会議事録、定款
通信・記録 業務用メール、チャット、スケジュール、会議資料、会計ソフトの操作ログ

改ざんや削除のリスクを踏まえ、原本またはその写し・データを早期に確保することが望まれます。会計ソフトやシステムのログは、アクセス権限の変更により取得が難しくなる場合があるため、確保の順序にも注意が必要です。また、資料がいつ・誰により・どこから取得されたかの記録(取得経緯のメモ)を残しておくと、後の交渉や訴訟で証拠として使いやすくなります。

証拠隠滅を防ぐための権限管理と、避けるべき調査方法

証拠の保全と並行して、対象となる役員の口座・システム・データへのアクセス権限や、会社カードの利用停止を検討する場面があります。ただし、権限の変更は本人に調査を察知させる契機にもなるため、資料確保の進み具合と合わせて、実施の順序とタイミングを設計する必要があります。

本人の私物端末を無断で閲覧する、私的なメールやSNSに無断でアクセスする、無断で会話を録音・盗聴するといった方法は、プライバシー侵害や不正アクセス等の問題を生じさせるおそれがあり、避けるべきです。違法・不当な方法で集めた資料は、後の交渉や裁判での利用に支障が生じ得るだけでなく、かえって会社側が責任を問われる原因にもなりかねません。

会社が業務として正当に管理している範囲のデータ(業務用メール、会社貸与端末、会計システムなど)の確認は、社内規程の定めを踏まえて検討します。どこまでの調査が許されるかは、規程の内容、対象者の地位、資料の性質により異なります。判断に迷う場合は、本人への確認より前の段階で弁護士に相談することが考えられます。

社内調査の進め方と調査体制

調査の枠組みと調査主体を決める

資料を保全したら、社内調査の枠組みを決めます。場当たり的に進めると、調査の公正さや結果の信頼性が損なわれることがあります。少なくとも次の点を整理しておくことが望まれます。

項目 内容
調査対象 対象となる役員・取引・期間・勘定科目
調査期間 いつからいつまでの出金を対象とするか(時効も踏まえて設定)
調査体制 調査担当者、関与する役員・監査役、外部の弁護士・公認会計士の関与
調査権限 どの資料・システムにアクセスできるか、誰の承認を得るか
調査記録 確認した資料、ヒアリングメモ、証拠一覧の作成・保管方法
損害額集計 私的流用が疑われる金額の集計と、根拠資料との突合

調査主体は、対象者の地位によって変わります。監査役設置会社では、監査役に事業の報告を求め、業務・財産の状況を調査する権限があります(会社法381条2項)。対象が代表取締役である場合には、他の取締役・監査役が主導せざるを得ず、社内だけでは調査の独立性を確保しにくいことも多いため、外部の弁護士・公認会計士に調査や証拠評価を依頼することも選択肢になります。役員の違法行為により会社に著しい損害が生じるおそれがあるときの差止め(会社法360条、監査役による差止めは会社法385条)が問題となる場面もあります。

ヒアリングの順番と記録

ヒアリングは、客観的な資料を確保し、事実関係を整理したうえで行うのが基本です。順番としては、経理担当者など周辺の事実関係を確認できる立場の人から話を聞き、本人へのヒアリングは資料がそろった段階で行うことが多くなります。

本人へのヒアリングでは、誘導や威圧を避け、出金ごとの説明(使途・承認の有無・資料の所在)を具体的に確認し、正確に記録することが重要です。その場で返還金額について断定的な合意を求めるよりも、まず事実関係と本人の認識を確認し、対応方針は資料と突き合わせて改めて検討する方が安全な場合が多いといえます。ヒアリングメモには、日時・場所・出席者・発言内容を客観的に残しておきます。

社内調査の進め方や証拠の整理に迷う場合は、本人への確認前の早い段階でご相談ください。資料を確認したうえで、調査範囲、証拠の確保方法、責任追及の見通しを整理することができます。

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役員に追及できる民事責任と消滅時効

役員による会社資金の私的流用が資料により裏付けられた場合、会社が検討し得る民事上の請求には、いくつかの法的構成があります。どの構成をとり得るかは、出金の形式、承認の有無、証拠の状況により異なります。

会社法上の役員責任(任務懈怠責任)

取締役・監査役などの役員は、その任務を怠ったことにより会社に損害を生じさせた場合、会社に対して損害賠償責任を負います(会社法423条1項)。会社資金の私的流用は、善管注意義務・忠実義務に違反する任務懈怠と評価される余地があります。

また、役員が会社の資金・財産を自己のために利用する行為が利益相反取引(会社法356条1項)と構成される場合、必要な承認の有無にかかわらず、その取引によって会社に損害が生じたときは、当該取引をした取締役等の任務懈怠が推定されます(会社法423条3項)。さらに、自己のために会社と直接取引をした取締役は、任務を怠ったことが自らの責めに帰することができない事由によるものであっても責任を免れず(会社法428条1項)、責任の一部免除(会社法425条〜427条)の対象にもなりません(会社法428条2項)。役員の会社に対する責任の免除には、原則として総株主の同意が必要です(会社法424条)。

不法行為に基づく損害賠償請求

会社資金を不法に領得する行為は、会社に対する不法行為(民法709条)を構成し得ます。この場合、会社は、私的流用によって被った損害の賠償を請求できる可能性があります。任務懈怠責任と不法行為責任は、事案に応じて選択し、または併せて主張することが検討されます。

不当利得返還請求

法律上の原因なく会社の財産によって利益を受け、会社に損失を及ぼした場合には、不当利得の返還を請求できる場合があります(民法703条)。悪意の受益者に対しては、受けた利益に利息を付して返還させ、なお損害があればその賠償も請求できるとされています(民法704条)。

貸付金・仮払金として整理される場合

出金が、形式的には会社から役員への貸付けや仮払いとして処理されている場合には、貸付金返還請求・仮払金の精算という形で整理されることがあります。もっとも、貸付けの実体や返済の合意があるか、取締役会の承認など利益相反取引に必要な手続(会社法356条1項・365条)を経ているかを確認する必要があります。また、無利息・低利の役員貸付けは、税務上、通常収受すべき利息との差額が問題となる場合があります(認定利息)。

法的構成 主な根拠 概要
会社法上の役員責任(任務懈怠) 会社法423条 任務懈怠により会社に生じた損害の賠償。利益相反取引では任務懈怠の推定(同条3項)や無過失責任(会社法428条)が問題になる
不法行為 民法709条 不法な領得行為により会社に生じた損害の賠償
不当利得 民法703条・704条 法律上の原因なく得た利益の返還(悪意の受益者は利息付)
貸付金・仮払金の返還 契約・社内処理 貸付金の返還請求・仮払金の精算として整理される場合

何年前の流用まで請求できるか(消滅時効)

これらの請求権には消滅時効があります。決算書を遡って調査した結果、数年前からの流用が判明することも珍しくないため、どの構成で、いつの分まで請求できるかを早期に確認する必要があります。原則的な整理は次のとおりです。

法的構成 消滅時効(原則) 主な根拠
任務懈怠責任(会社法423条) 権利を行使できることを知った時から5年、権利を行使できる時から10年 民法166条1項
不法行為に基づく損害賠償 損害および加害者を知った時から3年、不法行為の時から20年 民法724条
不当利得返還請求 権利を行使できることを知った時から5年、権利を行使できる時から10年 民法166条1項

なお、2020年4月1日の改正民法施行より前に生じた責任・債権については、経過措置により旧法が適用され、任務懈怠責任の消滅時効は10年と整理されています(最高裁平成20年1月28日判決参照。経過措置の適用関係は行為や契約の時期により異なる場合があります)。また、「知った時」(起算点)をいつと見るかは、流用した役員自身が代表者であった場合など、個別事情により判断が分かれます。時効の完成が近い場合には、催告(民法150条)や協議を行う旨の合意(民法151条)による完成猶予、訴えの提起などの措置を検討します。時効の判断は結論を左右するため、請求の前に個別に確認が必要な事項です。

返還請求・損害賠償請求・仮差押えの進め方

任意交渉と返還合意書

まずは、本人との間で返還の合意を目指す任意交渉が考えられます。合意できる場合には、返還合意書を作成します。返還合意書では、対象となる出金の範囲、返還金額、支払時期、分割払いとする場合の条件、期限の利益喪失条項、遅延損害金、必要に応じて保証人・担保、秘密保持、退任に関する条件などを定めることが考えられます。役員報酬や退職慰労金との調整(減額・相殺・支給留保)を組み合わせる場合には、報酬の定め方や必要な手続との関係を確認したうえで設計する必要があります。

注意したいのは、金額の前提となる事実関係が固まっていない段階で合意を急ぐと、後に判明した流用分を請求しにくくなるおそれがあることです。清算条項を設けるかどうか、合意の対象を「判明済みの出金」に限定するか、調査継続中である旨を明記するかといった設計は、調査の進み具合と合わせて検討します。

内容証明郵便・訴訟

任意交渉が難しい場合や、相手方の対応が不誠実な場合には、内容証明郵便により請求の意思と範囲を明確にしたうえで、訴訟を提起することが考えられます。訴訟では、個々の出金について、私的流用の事実(業務関連性がないこと)と損害額を、保全した資料によって立証していくことになります。なお、損害が生じたことは認められるものの、その性質上、損害額の立証が極めて困難な場合には、裁判所が口頭弁論の全趣旨と証拠調べの結果に基づいて相当な損害額を認定できるとする規定(民事訴訟法248条)が適用される場面もあります。もっとも、出金ごとの資料整理が立証の基本であることに変わりはありません。

仮差押え等の財産保全

相手方が財産を処分・隠匿するおそれがある場合には、訴訟の前または並行して、仮差押えなどの民事保全を検討することがあります。仮差押えは、金銭債権について、将来の強制執行ができなくなるおそれ等があるときに、判決を得る前に相手方の財産(預金・不動産など)を仮に押さえておく手続であり、回収の実効性を高める手段となり得ます(民事保全法20条)。

もっとも、仮差押えには、被保全権利と保全の必要性の疎明(民事保全法13条)や、裁判所が定める担保金の供託が必要となるのが一般的であり、要件・担保額は事案により異なります。手続の概要は裁判所の案内で確認できますが、申立ての可否・時期は資料の状況を踏まえて検討する必要があります。

回収可能性と費用対効果

責任追及や訴訟を検討する際には、相手方の資力(回収可能性)と、手続にかかる費用・時間との見合いも重要な判断要素です。相手方に見るべき資産がなければ、判決を得ても回収できないことがあります。流用額の全体像、判明している相手方の資産、時効までの残り期間を踏まえ、どの手続をどこまで進めるかを段階的に判断することが現実的です。

返還交渉や債権回収の進め方、仮差押えの可否、費用の見通しについては、資料を確認したうえでご説明します。

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刑事告訴(業務上横領・背任)を検討する場合の注意点

役員による会社資金の私的流用は、事案によっては刑事責任が問題となることがあります。もっとも、刑事手続には民事とは別の要件・時間軸があり、特に慎重な準備が必要です。

問題となり得る犯罪と公訴時効

問題となり得る主な犯罪は次のとおりです(成立するかどうかは個別事情によります)。

罪名 主な条文 法定刑(現行) 公訴時効(原則)
業務上横領罪 刑法253条 10年以下の拘禁刑 7年
横領罪 刑法252条 5年以下の拘禁刑 5年
背任罪 刑法247条 5年以下の拘禁刑又は50万円以下の罰金 5年

令和7年(2025年)6月1日施行の改正刑法により、従来の「懲役」は「拘禁刑」に一本化されています。公訴時効(刑事訴訟法250条2項)は犯罪行為が終わった時から進行し(同法253条)、繰り返し型の流用では出金ごとに検討が必要です。法定刑・時効の年数は、対応の前に最新の条文でご確認ください。

業務として会社の金銭を預かり管理する立場にある役員がその金銭を自分のものにした場合には業務上横領罪が、自己の利益を図る目的などで任務に背く行為をして会社に損害を加えた場合には背任罪が、それぞれ問題となり得ます。もっとも、これらの犯罪が成立するかどうかは、金銭の管理権限(占有)の有無、承認の状況、本人の認識、出金の経緯により異なり、「使途不明金がある=犯罪」と当然にいえるものではありません。なお、横領罪・背任罪は告訴がなければ起訴できない犯罪(親告罪)ではありませんが、実務上は、被害会社による告訴状・被害資料の提出と整理が、捜査の端緒として重要な意味を持ちます。

告訴を急ぐ前に確認すべきこと

刑事告訴や警察への相談を検討する場合でも、いきなり告訴に進むのではなく、まず次の点を整理することが重要です。

  • 出金の経緯と、その時点での本人の権限・職責(金銭の管理をどの範囲で任されていたか)
  • 取締役会や代表者の承認の有無、社内手続との整合性
  • 帳簿・証憑との突合結果(実体のない支出かどうか、金額の集計)
  • 本人の説明(弁明)の内容と、それを裏付ける資料・否定する資料
  • 会社として、どの範囲を刑事上の不正と評価して告訴するか
  • 民事の回収・税務の是正との順序(告訴が交渉・回収に与える影響を含む)

これらが整理されないまま告訴に進むと、事実関係が固まらず、対応が長期化することがあります。刑事告訴をしても、それによって被害額が当然に回収できるわけではなく、回収は基本的に民事の問題です。他方、刑事手続の存在が返還交渉に影響する場合もあり、民事・刑事・税務をどの順序で進めるかは、事案ごとの設計が必要です。

役員の辞任・解任・報酬への対応

私的流用が確認された役員について、地位や報酬の扱いを検討することがあります。これらは、会社の機関設計・定款・報酬の定め方・議事録の有無により手続が異なります。

  • 取締役など役員の解任は、原則として株主総会の決議によりいつでも行うことができます(会社法339条1項)。解任に正当な理由がない場合には損害賠償の問題が生じ得ますが(同条2項)、私的流用の事実が資料により裏付けられる場合には、正当な理由の有無の判断に影響し得ます(個別判断です)。
  • 代表取締役の解職(代表権を外すこと)は、取締役会設置会社かどうかにより手続が異なります。
  • 役員報酬の減額・不支給は、報酬の定め方(定款・株主総会決議・契約)により制約があり得ます。
  • 退職慰労金の不支給・減額は、定款・内規・支給慣行により扱いが異なります。
  • 株式の取扱い(譲渡・買取り)や競業避止・秘密保持は、定款・契約・株主間の合意の有無を確認する必要があります。

辞任勧告に応じて本人が辞任する場合と、会社が解任する場合とでは、手続も登記の記載も異なります。解任の決議要件、手続の流れ、損害賠償リスクの詳細は、関連記事「役員解任の手続と正当な理由・損害賠償リスク」で解説しています。

なお、会社(他の取締役・監査役)が流用役員の責任を追及しない場合には、一定の要件を満たす株主が、会社のために責任追及の訴えを提起する株主代表訴訟(会社法847条)が問題となることがあります。放置すれば、責任を追及しない側の役員の任務懈怠が問われる可能性もあるため、会社として調査と対応の記録を残しておくことが重要です。

税務・会計上の確認(役員給与認定・重加算税など)

役員による会社資金の私的流用は、民事・刑事の問題にとどまらず、法人税・源泉所得税などの税務上の問題を伴うことが少なくありません。会社が被害者であっても、税務上は厳しい取扱いを受けることがあるため、税理士・公認会計士と連携して確認する必要があります。

役員給与(賞与)と認定される場合

役員(特にオーナー社長など)が会社財産を私的に費消した場合、その経済的利益が役員に対する給与(いわゆる認定賞与)と扱われることがあります。役員給与と認定されると、定期同額給与などの要件(法人税法34条)を満たさないため損金不算入となるうえ、会社には源泉所得税の徴収・納付義務が生じ、不納付加算税や延滞税が問題となり得ます。

横領損失と損害賠償請求権の計上(同時両建て)

役員・使用人による横領があった場合、税務上は、横領による損失(損金)と、これに対応する損害賠償請求権(益金)の計上時期が問題となります。課税実務では、原則として両者を同一事業年度に計上する考え方(いわゆる同時両建て。最高裁昭和43年10月17日判決参照)が採られる傾向にあります。「他の者」から受ける損害賠償金について実際の支払を受けた日での益金計上を認める取扱い(法人税基本通達2-1-43)は、その法人の役員・使用人による横領には適用されないと解されており、流用が過年度に及ぶ場合には、過年度に遡った修正申告が必要になることがあります。回収が見込めない場合の貸倒れの処理は、別途の要件により検討します。

使途不明金・使途秘匿金と重加算税

使途を説明できない支出は、損金算入が認められないことがあります(費途不明の交際費等につき法人税基本通達9-7-20)。さらに、相手方の氏名等を帳簿書類に記載していない支出は、使途秘匿金として、通常の法人税に加えて支出額の40%相当の追加課税の対象となる場合があります(租税特別措置法62条)。また、事実の隠蔽・仮装があると評価されると重加算税(過少申告の場合35%、無申告の場合40%。国税通則法68条)の対象となり、「偽りその他不正の行為」がある場合には更正等の期間制限が7年に延長されます(国税通則法70条)。

これらの税務上の取扱いは、出金の性質、会社(法人)としての関与の有無、帳簿・証憑の整備状況により結論が大きく変わります。税務判断は本記事だけでは断定できないため、修正申告の要否・範囲を含め、税理士・公認会計士と連携して個別に確認してください。

弁護士に相談する前に準備したい資料

相談を円滑に進めるため、可能な範囲で次の資料を準備しておくと、事実関係の整理や見通しの検討が進みやすくなります。すべてがそろっていなくても、相談を始めることはできます。

区分 資料の例
会計帳簿 総勘定元帳、補助元帳、試算表、決算書
現金・預金 現金出納帳、預金通帳、入出金明細
証憑 請求書、領収書、契約書、見積書
経費・決済 経費精算資料、会社カード利用明細、ETC・電子決済の記録
仮払・貸付・報酬 仮払金・貸付金の資料、役員報酬・退職慰労金の定めに関する資料
機関書類 定款、取締役会議事録、株主総会議事録、株主名簿
規程 職務権限規程、経費精算規程
通信・記録 業務用メール、チャット、稟議記録
本人説明 本人へのヒアリングメモ(作成している場合)
税務 法人税申告書、勘定科目内訳明細書、税務調査関係資料

弁護士に相談するタイミング

次のような場面では、早めに弁護士に相談することで、対応方針を整理しやすくなります。結果を保証するものではありませんが、資料を確認したうえで、調査・請求・刑事・税務の切り分けと順序を検討することができます。

  • 本人に問いただす前(証拠保全や調査の進め方を確認したいとき)
  • 証拠隠滅やデータ削除のおそれがあるとき
  • 私的流用が疑われる金額が大きいとき、流用が数年前に遡るとき(時効の確認が必要なとき)
  • 対象が代表取締役であるなど、社内だけでは調査の独立性を確保しにくいとき
  • 役員・株主・親族・関係会社が関係しているとき
  • 返還の交渉が進まないとき、財産隠しのおそれがあるとき(仮差押えの検討)
  • 刑事告訴を検討するとき
  • 税務調査や過年度の会計処理への影響が見込まれるとき
  • 株主・金融機関への説明が必要なとき

再発防止策

私的流用や使途不明金への対応と並行して、再発を防ぐための社内体制を整えることが重要です。次のような取組みが考えられます。

  • 職務権限規程を整備し、出金・契約の承認権限と上限を明確にする
  • 一定額以上の支出に複数名の承認(ダブルチェック)を導入する
  • 会社カード・ETC・電子決済の利用ルールと利用明細の定期確認を定める
  • 仮払金・立替金・役員貸付金の精算ルール(期限・必要書類・上限)を定める
  • 月次・四半期で会計レビューを行い、不自然な出金を早期に把握する
  • 取締役会・株主への定期的な報告体制を整える
  • 内部通報窓口を設け、早期発見の仕組みを作る
  • 顧問弁護士・顧問税理士と連携し、規程・契約・会計のチェック体制を継続する

これらは、会社の規模や体制に応じて優先順位を付けて導入することが現実的です。継続的なチェック体制の考え方は、関連記事「顧問弁護士は必要か|メリットと費用対効果の考え方」でも解説しています。その他企業法務の取扱業務もあわせてご確認ください。

よくある質問(FAQ)

役員が会社のお金を私的に使った場合、すぐに横領といえますか?

直ちに横領と決めつけることはできません。経理処理の誤り、精算漏れ、正当な立替経費、承認を得た支出など、横領とは評価されないものも含まれます。まずは通帳・帳簿・証憑などの資料を確認し、出金の性質を切り分ける必要があります。結論は事案により異なります。

何年前の私的流用まで返還請求できますか?

法的構成により消滅時効が異なります。任務懈怠責任(会社法423条)や不当利得は、権利を行使できることを知った時から5年(権利を行使できる時から10年)、不法行為は損害・加害者を知った時から3年(行為時から20年)が原則です。2020年4月の改正民法施行前に生じた分には旧法(10年)が適用される場合があり、起算点の判断も個別事情によるため、早めの確認が必要です。

代表取締役や大株主でも、会社資金を自由に使うことはできないのですか?

会社の財産は法人に帰属する財産であり、オーナー社長や一人会社の社長であっても当然に自由に使えるわけではありません。善管注意義務・忠実義務との関係で責任が問題になり得るほか、税務上は役員給与(賞与)と認定されて、会社側に損金不算入・源泉徴収などの負担が生じる可能性があります。

本人に問いただす前に弁護士へ相談した方がよいですか?

証拠隠滅や口裏合わせのおそれがある事案では、本人への確認より前に資料を保全し、調査の進め方とヒアリングの順序を設計しておく方が安全な場合が多いといえます。どの段階で本人に確認するかを含め、個別事情により対応は異なります。

返還合意書を作れば十分ですか?

返還合意書は有効な手段ですが、事実関係が固まらないまま清算条項付きの合意を急ぐと、後に判明した流用分を請求しにくくなるおそれがあります。合意の対象範囲、分割条件、期限の利益喪失、担保・保証の要否、退任条件との関係を含めて設計する必要があります。

刑事告訴をすれば、流用されたお金は戻ってきますか?

刑事告訴は処罰を求める手続であり、被害額の回収を保証するものではありません。回収は基本的に、返還合意・訴訟・保全などの民事の問題です。もっとも、刑事手続の進行が示談・返還の交渉に影響する場合はあり、民事・刑事・税務の順序は事案ごとに設計する必要があります。

流用した役員が親族でも、刑事告訴はできますか?

親族間の犯罪に関する特例(刑法244条・255条)は横領罪にも準用されますが、会社の財産は法人に帰属するため、被害者が会社である場合には適用されないと解されています。親族である役員についても告訴の検討は可能です。もっとも、同族会社では株主構成や親族関係が方針全体に影響するため、進め方は個別に検討する必要があります。

会社が被害者なのに、税務調査で問題になることがあるのですか?

あり得ます。役員給与(認定賞与)としての損金不算入・源泉徴収漏れ、横領損失と損害賠償請求権の計上時期、使途不明金・使途秘匿金、重加算税などが問題になり得ます。過年度の申告に影響する場合もあるため、税理士・公認会計士と連携した確認が必要です。

まとめ

役員による会社資金の私的流用・使途不明金が疑われる場合の要点を整理します。

  • 本人への確認や社内公表より前に、まず証拠を保全し、事実関係を整理する。
  • 「使途不明金」と「横領」は別概念であり、経理ミス・立替・貸付・私的流用などを資料で切り分ける。
  • 民事は、任務懈怠責任(利益相反の場合の推定・無過失責任を含む)・不法行為・不当利得・貸付金返還の構成を検討する。
  • 請求には消滅時効(5年・10年・3年・20年など)があるため、流用の判明時期と起算点を早期に確認する。
  • 刑事(業務上横領・背任)は成立要件と公訴時効を踏まえ、証拠と経緯を整理してから検討する。
  • 税務は、役員給与認定・同時両建て・使途秘匿金・重加算税などのリスクがあり、税理士・公認会計士と連携する。
  • 役員の地位・報酬の扱いと、承認体制・精算ルールなどの再発防止を併せて検討する。
  • 次の行動として、手元の資料を整理したうえで、本人への確認前の相談を検討する。

神戸市・兵庫県周辺で、役員による会社資金の私的流用や使途不明金にお悩みの会社の方へ。神戸みらい法律会計事務所では、弁護士・公認会計士の視点から会社側の資料を確認したうえで、社内調査、返還請求、役員責任の追及、刑事・税務対応の切り分けについて、対応方針を整理します。示談・告訴・申告是正などの手続に進む前に、一度ご相談ください。

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監修者・執筆者

藤井 貴之(ふじい たかゆき)
弁護士・公認会計士/兵庫県弁護士会所属
神戸みらい法律会計事務所

企業法務、役員責任、社内不正調査、債権回収に関するご相談を取り扱っています。弁護士と公認会計士の双方の視点から、帳簿・証憑の確認を踏まえた調査、返還請求、税務・会計面の整理まで、一連の対応方針の検討をお手伝いします。

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参考資料

本記事は、一般的な情報提供を目的としたものであり、個別の事案に対する法的助言・税務助言を行うものではありません。私的流用・使途不明金の評価、責任追及の可否、時効、刑事責任の成否、税務上の取扱いは、資料の内容と個別の事情により結論が異なります。実際のご対応にあたっては、最新の法令・公式情報をご確認のうえ、弁護士にご相談ください。記載の内容は作成時点(2026年7月)の情報に基づくものであり、その後の法改正等により変更される場合があります。

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